335杯目「食材の用途」
メジャー店舗の1つ、葉月創製の著しい成長は伊織に大きな刺激を与えた。
伊織は陰口に屈するように顔を下に向け、日が沈んだように黙った。
すぐ後ろまで迫っている無限の可能性たちを前に手がプルプルと震えている。注文したドリンクを半分も飲んでいないことからも、緊張感の強さが見て取れる。
「皐月ちゃんは来年以降どうするの?」
「まずはJBCとJLACの制覇だ。世界大会で結果を出して、私の名前を世界に轟かせるところからスタートだな」
「じゃあ私はJBrCとJCTCに挑戦しようかな。皐月ちゃんはどんなシグネチャーを考えてるの?」
「ふんわりしてるけど、今までに見たことがない味を目指してる。ただ食材を使うだけじゃなくて、食材そのものを加工して、コーヒーと組み合わせても違和感のないものに仕上げる予定だ。ハニーシロップをバニラビーンズを浸けたバニラウォーターで薄めて、熟成させたものを考えてる。ただ混ぜ合わせるだけがシグネチャーじゃないし、食材と食材を結びつける媒体も必要だし、食材に対する知識も必要だから、実験を繰り返すだけで骨が折れるかもな」
伊織が何かに気づいたようにハッと目を見開いた。
皐月がさりげなく言った言葉に耳を傾けた。シグネチャーはコーヒーに補強を施した創作ドリンクだ。食材を選ぶことも大事だが、何より食材に対する知識欲と本人の発想力が最も重要な武器である。
伊織にも実績はある。既に世界大会を二度も制し、多くのバリスタから尊敬を集める存在となった。
だがシグネチャーの開発やラテアートに難があり、ドリップコーヒーの大会以外ではあまり振るわない印象を与えてしまっている。基礎はしっかりしているが、基礎止まりと言っていい状態が続いている。
「……あず君、私は本当に才能があるんでしょうか?」
「自分に才能があるかどうかは、自分で見定めるもんだぜ」
カウンター席の後ろ側では多くの客がシグネチャーを飲み、観光客に至っては自らの手で新たなシグネチャーの開発に勤しんでいる。葉月創製最大の魅力がここにある。
一定料金を支払えば、シグネチャーの開発を客自らができてしまい、店内の食材を使い、レシピ通りに作ったものに至っては通常料金の半額となっている。将来のバリスタオリンピックチャンピオンを目指す者たちが挙って全国から集まり、大会前は作製部屋が貸し切りになることもある。
葉月創製のスタッフは、ここで好きなだけシグネチャーの開発をしてもいいことになっている。
それだけでもここに所属することを目指す十分な理由になるが、それはあくまでも実力次第だ。千尋も一度ここに顔を出してからシグネチャーの開発に没頭している。負けられない相手が見つかった時から顔つきが変わったのだ。葉月珈琲にライバル店舗ができた成果が徐々に表れている。
「……先に帰ってもいいですか?」
「好きにしろ。僕が払っておく」
「ご馳走様でした」
力なく言うと、伊織は黙って席を立ち、店の外へと出ていってしまった。
彼女の背中はまだ諦めたくないと言っている。顔を拭うような素振りを見せ、可愛らしい姿が段々と小さくなっていく。伊織が残したシグネチャーを飲み干した。味のバランスが良い。しかもコーヒーの味を最大限に引き立てているし、とても飲みやすい。
実験で作製したローヤルシロップコーヒーとは対照的な味だ。
伊織が帰宅したところで、弥生と皐月が呆れた顔で戻ってくる。
「ナイス演技だ。名女優になれるかもな」
「全く、あず君も趣味が悪いな」
「そうですよぉ~。伊織さん泣いてましたよぉ~」
「いいんだ。僕はあいつに出世のチャンスをやった。伊織は逆境をエネルギーに変える力を持っている。これくらいしないと、あいつが持っている力を引き出せないと思った」
僕は弥生と皐月に伊織のトレーニングを命じた。
新しいコーヒーの開発においては、葉月創製のスタッフの方がずっと適任だ。
まずは動機づけとして、諦めかけていた伊織をその気にする必要があった。
2人には悪役を演じてもらった。伊織を連れてきたら、クローズキッチンから聞こえるように、伊織の問題点を指摘するよう以前ここに来た時に伝えておいたのだ。いつ連れてくるかは伝えていなかったが、思った以上によくやってくれた。2人には伊織の経歴を話し、競技も動画で見てもらっていた。
開発中のローヤルシロップコーヒーも味見してもらった。
2人は何か光るものを感じつつも、フレーバーに決め手がないと評価した。
僕がここまでしている理由は他でもない、伊織の弱点を見つけてもらうためだ。
弥生と皐月の指摘は的を射ていた。課題発見能力の高さに、伊織は驚きを隠せなかったのだ。コーヒーの開発能力だけで言えば、普段から事実上の開発部となっている葉月創製のスタッフには及ばない。
「信じてるんだな。伊織さんの才能を」
腕を組みながら扉に目を向けている皐月が言った。
「愛弟子を信じられない師匠がいるか?」
「あず君が教えた方が話が早いと思うが」
「今の僕はただのバリスタ兼社長だ。シグネチャーから離れて5年は経ってるし、開発を委託してからは感覚が鈍ってきてる。こういうのはずっとやっていないと駄目らしい。だからシグネチャーの開発を現在進行形でやっている人の意見が最も先進的と考えた。僕が言うよりも、ずっと冷静で的確だったぞ」
「朝日奈珈琲先代マスターが考案したローヤルシロップですけど、明らかに未完成ですね。コーヒーと全然合ってないし、分けて食べた方がいいくらいでした。シロップ自体は、コーヒーと相性の良い組み合わせですから、合わせるコーヒーと他の食材との組み合わせ次第で……化けるかと」
弥生が不敵な笑みを浮かべつつも、カウンター席の向かい側の椅子に腰かけた。
彼女が化けると言うくらいだ。相当な代物を手にしていることは間違いない。
うまく使えれば強いが、そもそも使い方が確立されていない。こればかりは伊織自身が考え抜いて実験を繰り返すしかないが、一度閃いてしまえばこっちのものだ。
多くの人間が100回目の実験で諦めてしまう。101回目に成功するかもしれない可能性を捨てて。伊織もその1人になりかけていたことを肌で感じていた僕はバリスタの世界大会でメキメキと頭角を表している葉月創製にヒントがあるのではと思い、頼ることにしたのだ。マイナー競技会ではあるが、WSCとWCIの両方で優勝実績を持つバリスタがここにいるという。
店の外から見覚えのある顔が入ってくる。
「おかえりなさい。マスター」
「ただいまー。いやー、どこも食材が売り切れでねー。あれっ……あず君っ!?」
「久しぶり。あんたが相談に乗ってくれたお陰で、どうにかなりそうだ」
葉月創製のマスターを務めていたのは結城だった。
かつて穂岐山珈琲に所属し、松野と共にバリスタオリンピックに参加した経験を持ち、現役を引退してからは、全国各地のカフェを転々としながら務めていた。だが結城は令和恐慌の影響で失業し、美羽に拾ってもらう形で、うちに就職を果たしていたのだ。
バリスタオリンピックで培った知識や技術は、ここで大いに役立っている。
「ただいま戻りましたー。あれっ、あず君じゃないですか」
「えっ、何で陽菜子がここに?」
信じられないことに、真由の恋人であるはずの陽菜子がしれっと現れたのだ。
「私、去年までの実績が認められて、今年からここで働かせてもらってるんです」
「真由はどうしたの?」
「ご心配なく。真由さんなら、ここに住むことになりましたから」
「マジでっ?」
「はい。今はテーマパーク評論家として活動していて、普段は家にいるので、岐阜への移住にも快く応じてくれたんです。実家の方はお兄さんが後を継いでくれているみたいなので」
「陽菜子ちゃんは実家がカフェなんです。WSCとWCIで優勝した実績を買われて、美羽さんからの誘いを受けたんです」
「へぇ~」
噂をすればなんとやら。陽菜子は穂岐山珈琲勢の1人として、コーヒーイベントで達成した全大会制覇の一員として貢献していたのだ。その後も陽菜子からの説明を聞いた。
ここにはかなりの曲者が揃っていることが分かった。
陽菜子は通信制の大学に通いながら、より高いレベルの場所でトップバリスタを目指したいのか、美羽に葉月珈琲への就職を懇願したんだとか。だがメジャー店舗に勤めるには実績が必要であるため、穂岐山珈琲東京都内の支店に勤めながら実績を重ねていき、美羽の勧めで入れたという。
世界大会経験者であるならば、穂岐山珈琲にいても何の支障もないはずだが、葉月珈琲以外のコーヒー会社にはメジャー店舗がない。普段は育成部に所属しながら店舗で仕事をするが、うちとは異なり、大会前でなければ自由になることが難しい。そもそもうち以外のコーヒー会社は、コーヒー事業で稼ぐことを目的としている。利益よりもトップバリスタの輩出を優先しているうちとは対照的だ。プロ契約制度自体が始まったばかりということもあり、大会前に休むことができない企業の方が多いのだ。
「葉月グループだったら、いつでも大会に向けた練習ができると聞いたので、こっちの方がトップバリスタに近づけると感じたんです。穂岐山珈琲はコーヒーイベントで総なめにしたことはありますけど、メジャー競技会の世界大会では優勝してません。葉月珈琲は世界大会で優勝している人が何人もいます。葉月グループに入れば、理由が分かると思ったんです。お姉ちゃんに会いたいのもありましたけど」
「穂岐山珈琲のバリスタが国内予選に強くて世界大会に弱いのは、日本人向けの味しか作れないからだ。葉月グループが作ってるのは、特定の集団が好む味じゃなくて、誰が飲んでも極上の一品として印象に残る味だ。国内予選の勝率は穂岐山珈琲よりも低いけど、世界大会の決勝進出率はどこよりも高いわけだ。国内予選向けの作品を作るのは簡単だけど、世界相手に通用する味に切り替えるくらいだったら、最初っから一貫して同じものを作った方が、プレゼンも味も練度が上がるし、より洗練された内容になるから、そこの差だな。日本でも世界でも、極力同じものを一貫して作ることで、競技の一貫性も上がるわけだ」
「そこまで考えてプレゼンを組み立ててるんですね。やっぱり凄いです」
関心の眼差しを向けてくる陽菜子。勤務中であることも忘れ、僕の話に耳を傾けている。
僕が特別話のうまい人間になったわけじゃない。
どちらかと言えば、この人の話なら聞きたいと思われる立場になった部分が大きい。以前は僕がどれだけ忠告しても、みんなは全然話を聞いてくれなかった。企業のオンライン化をしなければ不況で淘汰される話、自由に放っておかれた子供が伸び伸び育つ話、どれを話しても耳を傾けてもらえず、みんな令和恐慌の露と消えた。穂岐山珈琲も令和恐慌の影響を受け、事業規模を縮小している。
プロ契約制度をいち早く取り入れているが、やはりバリスタたちのことを考えるところにまでは気が回らなかったようで、主要都市からの地方進出を断念したと聞いた。
穂岐山珈琲は影響力こそあれど、去年までにいくつかの支店を閉店している。
コーヒー業界が拡大を続ける中でライバル店舗が現れ、競争が激化した影響だ。
結城と陽菜子がバックヤードに戻ったところで、皐月がツカツカと僕の前まで歩み寄ってくる。
「あず君、さっきのは演技だが、葉月珈琲に行きたいと言ったのは本当の話だ。だって当然だろ。バリスタなら、唯一グランドスラムを達成したレジェンドに学びたいと思うのは、みんな同じだ」
「私もです。メジャー店舗での実績でトップになった場合、次の異動機会で、最優先で希望した店舗に異動できる権利を得られると聞きました。私たちが結果を出した時は、葉月珈琲に異動させてください」
「学ぶ意欲があるのは結構だけど、僕から学んだら優勝できるようになるってもんじゃねえぞ」
「心得てる。私は尊敬するあず君から本気で学びたい。それだけだ」
豊満な胸に手を当て、己に誓う素振りを見せる皐月。
「それにあず君の教え子は、いずれも世界大会を制覇しています。絶対に優勝するという保証がないにしても、やはりレジェンドの教えの影響は大きいと思いますよ。葉月珈琲以外の店舗にも、実績のあるトップバリスタはいますけど、その人たちもあず君から教えを受けた人です。お願いします」
「……分かった。じゃあ、今度葉月珈琲から卒業する人が出てきたら考える」
「それは本当かっ!?」」
飛びかかるように目を光らせて迫ってくる皐月。
僕は久々に見た好奇心の塊を全く薄めず、原液のまま飲んでいる。
本来こういう人たちを僕は望んでいたはずだ。でもなんか違う気がする。弥生も皐月もバリスタとしては本当に隙がない。去年のバリスタ甲子園に招待された際、優勝トロフィーを皐月に渡した時から2人と知り合い、何度も交流を重ねた。葉月珈琲にも一度来客しているが、伊織はこの時休みだった。
「ただし、それまでに国内予選を1つは制覇すること。世界大会なら、ファイナリストになるくらいの実績が必要だぞ。葉月珈琲のスタッフは、いずれも世界を相手に戦うくらいの逸材であるべきだ」
「分かりました。今年からコーヒーイベントを目指して頑張ります」
「まあ、そういうことなら別にいいぞ。私は去年のように、あず君がサポーターにさえなってくれれば、それだけでも十分嬉しいからな」
「皐月ちゃんって、あず君にサポーターやってもらってたの?」
「あれっ、言ってなかったっけ?」
「それなら私だって、サポーターしてほしかったなー」
羨ましそうに両頬を膨らませる弥生。何て可愛いんだ。
サポーターとは言っても、塾にいた時に指導したというだけなんだが、皐月が僕に意見してくることは全くなかった。伊織なら何故なのかと理由を求めてくるところだ。通常、文句を言わずに従うタイプの人間は、長い目で見れば成長が遅く、後から文句を言うようになってしまう。できれば従順すぎる人には教えたくないのだ。放っておいても自ら学ぼうとする人の方が、本質的にはトップバリスタに向いている。
弥生は実力こそ中堅レベルだが、まだまだ伸び代はあるし、自ら学ぼうという姿勢がある。
皐月にも自主性はあるが、根本的に違うのは学ぶ対象を限定しているところだ。効率良く学ぼうとする優等生タイプにありがちな学び方だが、バリスタは全てから学ぼうとする姿勢を持つべきなのだ。
僕は葉月創製を後にする。たった2杯のシグネチャーで2500円か。
自分で始めたとはいえ、なかなか良い商売してるよ。
「あず君、何かあったんですか?」
唯がただならぬ顔で尋ねた。すぐに伊織のことだと分かった。
「どうかしたの?」
「伊織ちゃんが帰宅してからずっとクローズキッチンに引きこもってるんです」
「それだけじゃないんです。ローヤルシロップそのものを改良し始めたんです。しかもローヤルゼリーのことを調べるようになりましたし」
「すぐ行動に移すところが伊織らしいな」
昔の僕を彷彿とさせる。ヒントを見つけた途端、エンジンがかかったかのようだ。
伊織に教えてきたのは同情からではない。彼女にはコーヒーに対する強い拘り、更にはコーヒー業界に革命を起こそうとする強い意志を感じるからだ。多分、飯を食えるかどうかなんてどうでもいいと思っている。どれだけ稼げるかよりも、コーヒーを研究できる環境を優先したに違いない。ローヤルシロップ自体が未完成なのだとしたら、まだまだ改善の余地があるとを知った伊織に怖いものはなかった。
「葉月創製で何かを掴んだみたいだな」
「あっ……おかえりなさい。結構前から桜子さんにもらったローヤルシロップのレシピに疑問を持っていたんですけど、レシピを変えてしまったら申し訳ないと思って、特に改良とかはしなかったんです。でもそれじゃ駄目だってことに気づきました。このローヤルシロップは、できたコーヒーに合わせるもので、シグネチャー用の食材として作られたものじゃなかったんです」
知ったばかりの知識をひけらかす子供のように語る伊織。一度話し始めたら止まらない。制限時間がいくらあろうと話し足りない。他のみんなはプレゼンの台詞を加筆修正するが、伊織は台詞を思いつきすぎて削減修正する。バリスタに必要な才能は無尽蔵な好奇心だ。伊織は頭が割れそうなくらいの組み合わせを思いつき、味で結果を教えてくれるコーヒーから全てを汲み取ろうとする姿勢を取り戻していた。
「できたコーヒーに合わせるって、どういうことなんですか?」
今度は桜子が首を傾げながら伊織に尋ねた。
「ローヤルシロップをいつも通りに作ったドリップコーヒーに使ってみたら、コーヒーのフレーバーやボディが見事に底上げされていたんです。葉月創製にいた時、皐月さんがコーヒーと組み合わせても違和感がないものに仕上げると言っていたのを聞いて、もしかしたら組み合わせる食材じゃなく、別の目的で作ったものじゃないかと思って、完成したコーヒーに使ってみたら、見事に美味しくなっていたんです」
伊織の言葉を聞いた桜子がローヤルシロップの入ったドリップコーヒーを口に含んだ。
「! ――確かに美味しくなってます! 伊織さん凄いです! 私でも気づかなかったのに。てっきりシグネチャーの食材として遺したものだとばかり」
「朝日奈珈琲の先代マスターはシグネチャーを作っていたんじゃないんです。できたコーヒーに混ぜ合わせる食材を作っていたんです。私たちが予想したものとは違いましたけど、もしこれをシグネチャー向けに改良することができれば、今までにないシグネチャーの食材を作ることができますよ」
「革命を起こしかねないコーヒーか。でもよく思いついたな」
「誰かの言葉がヒントになることもあるんです。でも私は小手先の改良にばかり頼って、肝心なことをずっと忘れていました。あず君言ってましたよね。才能がないと言っていいのは、やるべきことを全部やった人だけだって。私はバリスタとして、まだ……やるべきことを全部やっていません。少なくとも、今は才能がなかったなんて、胸張って言えません。だってあんな言葉を聞いて黙っていられませんよ。諦めかけていましたけど、まだ諦めたくないって心が叫んでます。私、シグネチャーの開発、やります」
メラメラと燃え盛る情熱が伊織の声のトーンを高くする。ここからは放っておいても大丈夫そうだな。
「伊織さん……」
「そこまで言うなら、当分は開発に没頭しろ。店の営業は僕がカバーするから、伊織はとことん選考会に向けたシグネチャーを完成させてくれ」
「はいっ!」
水を得た魚のように生き生きとした顔で開発をし始めた。
僕らは邪魔にならないよう、安心しきった顔でオープンキッチンに出た。
「伊織さん、スランプのはずなのに楽しそうですね」
「解決の糸口を掴んだからな。完成したコーヒーに使う前提の食材をシグネチャーの食材として使おうとしてたんだから、そりゃうまくいかないわけだ。あのレシピはあのレシピで価値があるし、残しておいて損はないと思う。問題は上位互換が開発された時だけど」
「それでも……先代が遺した食材のレシピが伊織さんを動かしたことに変わりはありません。だから好きなだけ改良してもらっても大丈夫です」
形見とも言える遺産の用途が分かり、伊織に感謝の目を向ける桜子。
朝日奈珈琲先代マスターの遺産は……後に伊織の運命を大きく変えるきっかけとなった。
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