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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第14章 コーヒー業界転換期編
331/500

331杯目「強豪転換期」

 年が明け、初日の出の朝を迎える。僕らは2022年を迎えた。


 まさか小夜子たちに誘われて初日の出を見に行くことになるとは思わなかった。


 眠っている伊織に留守を任せ、僕は唯を連れて小夜子たちと合流し、金華山を登った。防寒服を着てからしばらくの時間が経つが、寒気に体が震えながらも耐え続けた甲斐はあった。


「あっ、初日の出だよ」


 香織が指差した水平線から太陽が頭を見せると、僕らは一斉に立ち上がり、光を一身に浴びた。


「「「「「うわぁ~!」」」」」


 小夜子、美咲、紗綾、香織、唯の5人が同時に歓喜の大合唱を始める。


 初日の出なんて始めて見たけど、一瞬で過ぎ行く夜とは思えないほど長い時間だった。


 今年は僕にとっても、伊織たちにとっても、今後を決める年になるのは間違いない。


「今年こそ結婚できますように」

「イケメンの彼氏ができますように」

「相性の良い人に出会えますように」

「面白い人に出会えますように」

「何でみんなお祈りしてるわけ?」

「いやー、こういうのを見るとついねー」


 香織が笑顔で誤魔化しながら答えた。彼女たちは結婚相手を探そうと必死だ。


 統計によると、35歳を迎えた時点で相手がいない人は生涯独身がほぼ確定する。中流層までの人が好きなことをする上で見切りをつける年齢でもある。35歳までに人生を変える出来事の80%が起こると言われており、ここまでに何もなかった人は、ほぼ確実に何もない一生を送る。


 僕はこの部分をドリームデッドラインと呼んでいる。


 夢を叶える人は、大体この年までには叶えてるし、おおよそ間違いはない。


「誰かさんが煽らなかったら、こうはならなかったのに」

「後になって気づく方が辛いと思うけど。ていうかそんなに相手が欲しいわけ?」

「だって相手がいなかったら寂しいじゃん」

「あず君には唯ちゃんと子供たちがいるし、伊織ちゃんまでいるもんねー」

「何で伊織がついてる前提なんだよ?」

「あず君が1人の女の子だけで終わるとは思えないし」

「そうですね。なので1人までは妾を認めてるんです。あのままじゃ浮気しそうですから」

「信用なしかよ」


 この笑い声からして本気にはしていない小夜子たちだが、唯は本気で僕と伊織の仲を認めている。


 どこまで本気なのかは分からないが、小夜子たちは彼氏を探すために必死のようだ。今では岐阜コンの常連として毎回葉月商店街に姿を見せているが、群れているうちはまず無理だろうな。可愛いけど近寄り難いオーラを放っているし、本命が年下になる確率が年々上がってくるのが恐ろしい。


 結婚適齢期は存在しないが、結婚するなら早い方がいいことはよく分かる。


 つまるところ、小夜子たちは恋愛から卒業したいのだ。


 しばらくはゆっくりと昇り続ける太陽に夢中になっているみんなを見守った。唯たちと話しながらピクニックのような気分で下山すると、小夜子たちはそれぞれの家に帰っていく――。


 昼からの親戚の集会が終わり、早くも営業初日を迎えた。


 みんなうちに集まっては、毎回似たような話題で盛り上がっているが、あれは多分一生続くんだろう。次の大会こそは制覇しようと意気込んでいる成美や美月の姿が窺えた。僕らの影響なのか、習い事のようにバリスタを始める人ばかりだ。バリスタが職業としてではなく、日常の一部として根付いていた。


 僕、伊織、千尋、桜子、那月、響の6人が制服姿で向かい合うように集結する。


「やっと精鋭が揃ったな」

「もしかして、あず君が毎年のようにスタッフを入れ替えていたのって……」

「お察しの通り。葉月珈琲に逸材を集めるためだ。メジャー店舗とマイナー店舗を設けていたのは、有望なバリスタをメジャー店舗に集めるためだ。うちのメジャー店舗は4つ。そこに揃った精鋭たちの中で、最も社内貢献度が高かった2人を、バリスタオリンピック選考会に送り込むためだ」

「そういえば、メジャー店舗って4つありましたね」

「前回の反省点として、他の国の代表は全国のカフェからトップバリスタを集めて隙のないチームを作っていたけど、うちは葉月珈琲1店舗だけで勝負した。それに負けないように、うちも全国から精鋭を集めてチームを作ることにした。代表になった2人を、それぞれの部門のプロにサポートをさせて、総合スコアの向上を図るというわけだ。葉月珈琲、葉月ロースト、葉月創製、葉月コーヒーカクテルの4大メジャー店舗は、代表候補を輩出する以外に、部門別の指導係、ステージの設計係、遠征の予定表係、食材の調達係を任せた。葉月珈琲は部門別の指導係を担当することになってる。代表として参加できなかったとしても、サポーターとして参加することで、バリスタオリンピックがどんなものかを学ぶ機会になる」


 説明を終えると、伊織たちは引き締まった顔へと変わっていった。


 誰でもチャンスが与えられるが、ライバルを手伝うことは、ある意味屈辱でもある。


 開店時間が迫るにつれて外が騒がしくなる。今にもうちに入ってきそうな勢いだ。誰が代表になってもおかしくないこの状勢で生き残るのは至難の業だ。これくらいやらないと、本戦どころか選考会ですら勝ち残ることはまず不可能だろう。僕が参加していた頃とは事情が違う。


「理想的な計画だ。サポーターでも参加経験があれば、次に代表として参加する時に活きてくるわけだ」

「最終的にどんなメニューを使うかは、代表になった本人が決める」

「根本さんという前例がありますもんね」

「根本さんって、確か去年のコーヒーイベントにいた人だよね?」

「はい。バリスタオリンピック日本代表だったんですけど、色々あったんです」

「一体何があったの?」


 素朴な疑問を伊織にぶつける那月。伊織は根本が陥った状況を丁寧に説明する。


 誰かが決めたメニューでは限界がある。代表として参加する本人が最も得意とする作品でなければうまく作れないし、スコアも伸びない。自分自身で考えた作品じゃないから熱意も沸かない。


 僕らはそんな相手に、選考会1位通過を許してしまった過去がある。


 同じ手は二度も食わない。あれは葉月珈琲が持つ隠れた汚点だ。


「ライバルは穂岐山珈琲か」

「穂岐山珈琲だけじゃねえぞ。ここ数年で全国各地の大手コーヒー会社が挙ってプロ契約制度を始めた。全国から才能もやる気もある奴ばかりがバリスタを目指すようになったお陰で、どこの店に行っても質の高いコーヒーを味わえるようになった。昔のカフェは生き延びるために質の低いコーヒー堂々と売っていたけど、今はそんなことをしても、インスタントコーヒーくらいしか売れなくなったし、安値で売ろうとすれば、スーパーやコンビニのコーヒーと競合することになって、購買力の差で負ける」

「厳しくなったということは、バリスタ全体のレベルが上がったということですね」

「そゆこと。選考会に参加できるのは10人だから、プロ契約制度を結んでいる人でも、書類選考で落ちる可能性があるってわけだ」


 バリスタの地位は確実に上がっている。そのことを改めて思い知り、震えが止まらない伊織たち。


 武者震いなのか、それとも怖気づいているのかは知らん。確実に武者震いだと分かるのは那月と響の2人だ。去年までのうちなら、伊織と千尋が確実にバリスタオリンピック選考会に出場しているだろうが、ライバルが増えた今、油断は微塵も許されない。


 贔屓にしているわけじゃないが、伊織には選考会まで行ってもらいたい。


 ここじゃ僕を除いて1番の古株だ。伊織は僕のバリスタオリンピックでの活躍を間近で見てきた数少ない存在である。璃子や優子と一緒にサポーターをしてきた。璃子も伊織を第一に応援している。


「あっ、そうだ。確か美羽さんから渡すように言われていたんだ」


 響がバックヤードに戻り、1枚のポスターを持って戻ってくる。


 ポスターには今年開催予定となる世界大会の名称が大々的に描かれている。


 ワールドバリスタバーテンダーズパティスリー、略してWBB(ダブリュービービー)である。


 バリスタ担当、バーテンダー担当、パティシエ担当の3人1組で戦うチーム戦だ。3月の書類選考を通過した3組が日本代表となり、4月に開催されるWBB(ダブリュービービー)に出場する。


 書類選考の決め手になるのは、それぞれの担当に対して求められる実績だ。


 バリスタ担当なら、バリスタとしての実績が必要になる。


「へぇ~、こんな大会があるんだー」

「2016年から毎年開催されている。今回でもう7回目だ。歴史は浅いけど、毎年かなり熱狂してる。社内貢献度を上げる1番の方法は大会に出て優勝することなんだろう? なら話は簡単だ。私はあず君と那月と組んでこの大会に出場したいんだ」

「事情は分かったけど、何で僕?」

「優勝に最も近いバリスタだからだ。他のスタッフの実力は大体分かった。伊織に千尋に那月までいるんじゃ、こうでもしないと、社内貢献度を上げられそうにないからな」


 何の恥ずかしげもなく響が言った。こいつの言うことにも一理ある。


 合理的に物事を考えるところはヨーロッパ人らしいが、時に感情的な焦りを見せるところは日本人らしさがある。この特徴は唯や真理愛にも備わっていた。


 生まれつきの部分もあるだろうが、やはり色んな場所に赴いて経験を重ねることが大事なんだろうか。


「あず君と一緒に出て優勝なんてずるいなー」

「千尋は人のこと言えるのか?」

「あはは……ばれてたか」

「葉月グループのホームページに載っていたんだが、伊織と千尋の社内貢献度がトップ10に入ってた。伊織は8位、千尋はJBrC(ジェイブルク)で優勝していることもあって1位だったが、あず君と一緒に出て優勝を決めたWBTC(ワブトック)がなかったら、君たちは何位になっていたのかな?」

「言われてみればそうですね。あず君と一緒に出て優勝すれば、一応世界大会優勝ということで、社内貢献度もかなり上がるでしょうし」

「チーム戦の場合は、個人戦で優勝した場合よりも、貢献度に下降補正がかかるようになってるはずだ」

「それはそうかもしれんが、優勝候補筆頭のバリスタと一緒に出たというだけで、他の人の社内貢献度が上がるというのは不公平だと思うぞ。それが罷り通るなら贔屓と言われても仕方ないし、私にだってあず君と一緒に大会に出る権利はあると思うが」


 響が僕のすぐ近くまで歩み寄り、僕の首に柔らかく白い両手を優しく置いた。


 近い近い近い……何だこの情熱的な目はっ!


 上目遣いのつり目が僕の心を揺さ振るように語りかける。


「……僕としては、バリスタ競技会はそろそろ引退したいところなんだけどなー」


 そう言った途端、氷が解けるように響の涙が両頬を伝う。


「何故私にはチャンスをくれないんだ?」

「チャンスならやってるだろ。何なら自分で掴み取ってるし」

「伊織と千尋とは一緒にチーム戦をしただろ。私は観客席から見ていたぞ。伊織とも千尋とも、凄く楽しそうに競技をしていた。私もあず君と世界を相手に戦いたい。本気で世界一を目指したいんだ」

「あず君、便乗するみたいで悪いんだけど、あたしも響に賛成かな。まだどっちの世界大会でも結果を出してないわけだし、一度くらいあず君と一緒に出て、バリスタとしてのお手本を示してほしいの」

「私からもお願いします。2人と一緒に大会に出ていただけませんか?」

「何で桜子までっ!?」


 反射的に背中をのけ反らせる。那月も桜子も啜り泣きをする響に同情の顔を向ける。


 なんか僕が悪いみたいじゃねえかよ。前にもこんなことあった気がするけど、このまま引き下がってはくれないようだ。僕とてこの大会に興味がないわけじゃない。


 去年は伊織と千尋くらいしかまともな戦力がいなかったし、チーム戦を通じて2人の士気を高めるのが目的だったんだが、僕と一緒に大会に出るかどうかで、社内貢献度にまで影響することを考慮するべきだった。千尋が去年の社内貢献度1位を記録したことに対して、僕と一緒にWBTC(ワブトック)に出たからという声が上がっていた。某呟きサイトでは身内贔屓と考える者も少なくなかった。


 一応、他の連中もチーム戦に出るという選択肢があったんだけどな。


 でもだからといって、こいつらの士気が下がるのもよろしくない。


 しばらくの沈黙が続く――。


「……分かった分かりましたよ。でも僕と一緒に出たからといって、優勝する保証はない。予選落ちしたら社内貢献度マイナスだからな」

「良しっ、じゃあ業務を始めようか」


 ケロッとした顔に急変した響が外の様子を窺っている。


 ……さっきの涙は演技かよっ!


 すっかり騙された。でも予選落ちによる社内貢献度減点のリスクだってあるのに、ここまで冷静でいられるのもなかなかおかしい。緊張の場面に慣れているのか、180度態度が変わってからは真顔だ。しかもコーヒーカクテルの大会だけじゃなく、バーテンダーの大会にも出ていた。あくまでもバーテンダーとしてバリスタ競技会に挑んでいる。ある意味二刀流だが、接点がある場合はそこまで苦にならない。


 真理愛はコーヒーとアルコールの相性に特化している。響のようにバーテンダーという立場から挑戦する者が現れたということは、コーヒー業界が拡大したことの裏返しなのかもしれない。


「伊織、どうだった?」

「龍でした。那月さんはともかく、響さんは大丈夫なんでしょうか?」

「問題ない……とは言い切れんか」


 正午を迎え、伊織がクローズの看板をオープンに裏返す。


 客が雪崩れ込むように押し寄せ、すぐに満員になってしまった。


 見たことのない顔がたくさんいる。年齢も全体的に若いし、新規のコーヒーファンなのは間違いない。ここで彼らの心を掴むことができるかどうかは僕らの腕に懸かっている。


「はぁ~、疲れたぁ~」


 いつもとは全く異なる光景に押され、無我夢中で注文を通していた那月がぐったりと腰かけた。


 ラッシュがようやく落ち着き、葉月珈琲で働くことの難しさを早くも思い知らされる。


 桜子はもう慣れてしまっているようで、料理担当の那月をバリスタとして駆り出さなければならなかったほどであった。今年からは料理担当にフードメニューとスイーツメニューの両方を任せる方針とした。普段はクローズキッチンで、ショーケースに入れる分のスイーツを作るが、必要があればコーヒーを淹れてからの配膳に加勢してもらうこともできる。


「やっと落ち着いた。普段はこんなに客来ないから焦った」

「響さんのバーって、そんなにお客さん来ないの?」

「ああ。いつも数人くらいだ。恥ずかしい話だが、親父1人で十分足りてしまうくらいにはな」

「響さんが葉月珈琲に来たのって、お金を稼ぐためだったりする?」

「その通りだ。今は何とかプロ契約制度のお陰で実家の店が持ってる状態だが、これは延命治療で、根本的な解決には至っていない。うちのバーは昔から人気がなくて、いつも赤字だ。だから親父が少しでも赤字を埋めるために、昼間は別の仕事をしている。だが8年ほど前、無理が祟って親父が倒れた。夜の仕事以外ができなくなった私たちは窮地に陥った。私はバーテンダーとは別の仕事を探していた時、葉月珈琲がバリスタのプロ契約制度を始めたという情報がバリスタマガジンに乗っていて、それでプロ契約制度を利用することになった。私はバリスタの仕事を始めてから、本格的に転向することも考えたが、コーヒーカクテルというものを知って、これならアルコールの知識を活かせると思った。結果は大成功だった」


 なるほど、プロ契約制度を利用していたのは、父親に無理をさせたくなかったからか。


 響が言うには、両親はとっくに別れた後で、響のお袋は実家の福岡で再婚したらしい。


 良くも悪くもドライというか、国際結婚は課題が多い分離婚率が高い。響はルーカスの事業を助けるためにバーテンダーになった。この時点でルーカスについていくことを選んだと考えていい。ルーカスの実家はアクアビットの製造を行っている蒸留所で、樽熟成させた自家製アクアビットという珍しい蒸留酒を売っている。だが売り上げは年々下がっており、大手企業に吸収合併される危機を迎えているんだとか。


 そのために自家製アクアビットを使ったコーヒーカクテルを開発し、葉月珈琲での活動を通じて世界中に宣伝することを狙っていると教えてくれた。


「私は1つでも多くの世界大会に出ているのは、親父の実家を助けたいからだ」

「自家製アクアビットがピンチなのか?」

「ああ。もし潰れてしまった場合は、大手のグループ企業に自家製アクアビットの蒸留所を渡して、そこに入社することになってる。ノルウェーは社会保障制度が充実しているが、保障してもらえるのは生活面だけで、税金自体が高いために、企業にとってはかなり厳しい環境だ」

「幸福度ランキングでいつも上位に入ってませんでしたっけ?」

「そもそも何をもって幸福とするかは人それぞれだし、どの指標もヨーロッパが有利になるように作られている時点で、あのランキングは出鱈目と言っていい。どこの国だろうと富裕層は幸せに暮らしてるし、貧しい人は悲惨な暮らしを強いられてる。収入と幸福度がある程度相関することが証明されている以上、後進国は同じ土俵にすら立っていないことが全く考慮されていない」

「真に受けちゃいけないものだったんですね」

「テレビなんて見るもんじゃねえぞ。あれは国民に潜在意識を植えつけるための装置だ」

「だからあず君の家のモニターは、テレビ番組が映らないんですね」


 ようやく事情を理解した伊織が頷いた。伊織は真面目で素直なところがあるが、それは同時に騙されやすいということでもある。彼女とて、僕がいなければ施設送りになっていたはずの存在だ。何の根拠もないデータや的外れなコメンテーターの言うことにはすぐ騙されてしまう。まっ、うちの場合は見てもいない某放送協会の受信料を支払いたくないっていうのが理由だけどな。子供たちの教育にも悪いし。


 響は実家の惨状を語ってくれたが、これは死活問題だ。令和恐慌の影響は日本だけではなかった。


 2019年11月以降、世界中の通貨が次々と暴落し、例年よりも強いインフルエンザの感染者増加と重なってしまったこともあり、リーマンショック以上の被害が出てしまった。


 日本以外では『世界通貨危機』と呼ばれている。


 株の暴落ばかりが取り上げられている日本とは対照的だ。今はどうにか持ち直しているが、失業率が例年とは比べ物にならないほど増加し、年間旅行者数もめっきり減ってしまい、ライバル企業が弱体化したことも葉月グループが躍進するきっかけとなった。


 だからあれほどオンライン化を進めておけと言ったのに……。


 僕の忠告を無視したコーヒー会社は、倒産か吸収合併により消滅していった。10年前に比べ、国内のカフェの数は約1万店舗も減っている。うちとてこれ以上の店舗拡大は難しいと考えており、中部地方と近畿地方以外には拡大しない方針だ。葉月セルフカフェは唯一全国進出を果たしているが、店舗拡大をしない以上、そこから先は人材育成に尽きる。生き延びるならば、社員1人1人の質で勝負するしかない。


「もしかしてさー、僕と一緒に大会に参加することで、実家の店を宣伝したいとか?」

「そうだ。ついでに実家の店と親父の実家、両方を大々的に宣伝させてほしい」

「……しょうがねえな」


 こうして、僕は響の案に乗るように、またしてもチーム戦を始めることに。


 葉月珈琲の営業は今年も騒がしく始まったのであった。

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