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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第13章 群雄割拠編
324/500

324杯目「立ち込める暗雲」

 喜びを顔で爆発させている千尋とハイタッチを交わした。


 明日香が歩み寄ってくると、自慢の我が子に黄金のドリッパーが煌めくトロフィーを見せつけた。


 トロフィーを明日香に持たせると、今度は子供を持ち上げ、笑顔であやしている。こんな可愛い見た目でも父親なんだな。あっ……僕も父親だった。子供を見る度に、時の流れは早いものよと心の中で呟いてしまう。こうやって自覚もないまま、若者という立ち位置から離れていくのか。


「ちーちゃん、優勝おめでとう」

「ありがとう。明日香が応援してくれたお陰だよ」

「こういう時だけ調子良いんだから。あの、うちのちーちゃんが迷惑かけてませんか?」

「もちろん。迷惑かけ放題だ」


 生まれてからこの方、迷惑をかけない人間というものを見たことがない。


 最も利益を稼いでくれる主力(エース)だが、最も経費がかかる燃費の悪さも併せ持つ。それは千尋が持つ、失敗を恐れない経営者気質の性格故だ。貧困に困ったことが一度もないのか、買いたい物には遠慮なく経費を使う。さながら、歩く帝王学だ。村瀬グループの株を全部手放したかと思えば、今度は別のグループ企業の株を買っては売るの繰り返しで、あっという間に億を稼いでしまった。しかもその資金で村瀬グループ傘下企業の株を買っている。目的は村瀬酒造を村瀬グループから引き離すことだ。


 千尋は村瀬グループを見限っているが、それはあくまでもグループ全体の事業に対してだ。千尋は事業方針の転換を何度も訴えてきたが、保守的な老人たちをいくら追い出しても改革には至らず、遂に手遅れという段階にまで達している。せめて千尋の親父が始めた村瀬酒造だけでも助けたいのだ。


「ちーちゃん、後で反省会やろうね」


 さっきから殺気をメラメラと燃やしながら、明日香が千尋の肩に手を置き、冷たく低い声で言った。


「……はい」


 明日香が笑顔の裏側に怒りを押し留める中、悲しそうな顔で僕を睨みつける千尋。駄目だ、笑いを堪えるので精一杯だ。そういや、唯に怒られることなんて全然なかったな。


 千尋の唯一の弱点は明日香だ。調子に乗って色々とやらかしてくれた時は、明日香に叱ってもらおう。どんなに本性を隠そうとも、明日香や小夜子を通して僕の耳に入ってくる。


「あっ、そうだ。伊織ちゃんを見に行こうよ」

「他の競技も終わってると思うぞ。どこも結果発表やってるし」

「伊織ちゃんの競技見なかったの?」

「あいつには桜子がついてる。優勝しててくれるといいけど」


 そう言ったのも束の間、各ブースで結果発表が終わった。表彰も集合写真も終えている。


 売り場には世界中から集まったコーヒー、コーヒー関連のグッズが売られ、スタッフは宣伝するのに必死だ。売れなければ首が飛ぶような人もいるだろう。


 凄く華やかなイベントに見えるが、水面下では熾烈な競争が蔓延っている。


「あっ、伊織ちゃんと桜子ちゃんじゃないですか?」

「向こうも終わったみたい――!」

「どうかした?」

「あず君、伊織ちゃんの手を見て」

「伊織の手? ……!」


 下を向きながらため息を吐く伊織の手には、階段状の土台の上に銀色のタンパーが乗った2位のトロフィーが力なく握られていた。わざわざ言ってもらうまでもなく、優勝できなかったことが分かった。


 桜子の表情が全てを物語っていた。千尋もこれ以上は喜べなくなっている。


「伊織」

「あの……私――」

「よくやった」


 必要最低限の言葉だけを告げて抱擁する。伊織がどれほど頑張ってきたのかはよく知っている。


 アイデアを煮詰められなかった伊織は、バリスタオリンピックで僕が使ったアイデアに色をつけた作品で準決勝と決勝に挑んだ。それでも準優勝できたあたり、作品の完成度が高かったということだ。驚いたのは伊織があのアイデアを自分のものにできていたことだ。新作は世界大会までに作ればいいと考えていたが、甘い見積もりだったようだ。面白くなってきたと考えたが、伊織にはそうは映らなかったらしい。


 僕の胸中で啜り泣く伊織。身内を失ったばかりで、ずっとスランプが続いた中で、よくやったと思う。


 努力は報われると言うが、優勝した人以外は、みんな努力をしなかったわけではない。


 ここまで悔しがる伊織は初めて見た。誰よりもバリスタという職業に向き合ってきた結果だ。世界への道は閉ざされたが、ここで泣くのはあまりにも早すぎるぞ。


「伊織」

「はい」

「実は用事ができちゃってさ、すぐ岐阜に戻らないといけなくなった。伊織が僕の代わりに、桜子の競技を見守ってくれないか?」

「えっ、でも私は優勝できなかったんですよ」

「それは僕に用事がなかったらの話だ。社長ってのは忙しいんだ。まっ、そういうわけだからさ、誰かにサポーターも兼ねて、桜子の競技を見守ってもらう必要がある」

「伊織ちゃんが拒否するなら、僕が代わりにサポーターやろうかなー」

「やってくれるか?」

「もちろんです! それなら私がやります! やらせてください!」


 伊織の目の色が変わった。さっきまでの悲しみはどこへやら。


「桜子、僕と千尋は先に戻る。後は頼むぞ」

「はい、任せてください」


 大人の余裕を見せる桜子。あがり症を持つ彼女には信頼できるサポーターが必要だ。


 以前よりも症状は改善しているし、大会に何度も出場すれば、次第に慣れていくだろう。


 帰りの車に乗り、明日香に運転手を務めてもらった。後ろの席では窓の外を見る千尋には目もくれず、千尋の子供が僕にべったりとくっついてくる。ハイハイで僕の太ももに攀じ登ってくると、ふんわりと赤ちゃんっぽい匂いがした。何故僕は子供や動物に甘えられるんだろうか。


「ねえあず君」

「どした?」

「用事があるなんて嘘でしょ」

「ばれたか」

「本当にそんな予定があるなら、僕に伝言だけ伝えて帰ってたでしょ。社長は忙しいんじゃなくて、その気になればいつでも忙しくなれるってだけだよ」

「あのまま伊織を帰らせたところで、自信を失うだけだぞ。桜子だって、伊織がいなかったら、競技に集中できないだろうし」


 伊織と一緒に帰ったら、心配すぎて色々と干渉してしまいそうで怖い。


 何度か伊織のことを思い出してしまうことがあった。その度に唯の体を借りて誤魔化した。ずっと伊織を気にしたままになれば、過干渉の親みたいになってしまうと感じたのだ。


 育てる側になってよく分かった。過干渉は猛毒と知りながらやってしまう親の心理も、つい助けてあげたくなってしまう人の行動原理も。干渉しすぎると、伊織の才能を潰してしまう可能性がある。今回の手助けだって、本当はするべきじゃなかった。このコーヒーイベントを通じて、僕自身が伊織を甘やかしてしまっていることに気づいてしまった。指導者の本質は指導にあらず。見守ることの方が大変なのだ。


「伊織ちゃんの作品って、あず君の作品を改良したものだよね?」

「そうだな。あの作品で優勝して、世界大会でローヤルシロップを使ったコーヒーを作ればいいって思ってたけど、計算通りにはいかないもんだな。優勝したのは芽衣だったか」

「根本さんは4位だったよ。やっぱ複数の大会で結果を残し続けるのは難しいね」

「それよりも大変なことをやろうとしている人がいる」

「那月さんでしょ。親にばれないように、バリスタもパティシエも続けるって……ん?」


 千尋が何かに気づいたように目を大きく見開いた。


「どうかした?」

「確かコーヒーイベントって、今年から全国で生中継されるんだよね?」

「うん。テレビで公開されるってことは、コーヒー業界の地位が上がったってことだ。今の若者は動画サイトで見るだろうけど、親世代は相変わらずテレビを見続けて――」


 しまった。那月は親にバレないようにバリスタを続けている。


 コーヒーイベントに出席したバリスタは名前も所属する店も全て公開される。


「そうだよ。那月ちゃんの親世代はテレビを見慣れてる。だからテレビ以外の情報はほとんど知りようがない。那月ちゃんもJLAC(ジェイラック)決勝まで勝ち進んだし、動画にも公開されてる。これと同じ映像がテレビでも公開されてるってことだよ。特に視聴者の多いチャンネルで」

「――そりゃまずいな」

「視聴率は10%を超えてるし、見ている可能性はかなり高いよ」

「コーヒー好きだったらな」


 その時、僕のスマホが振動を始めた。


 優子からのメールだった。すぐに嫌な予感が背中を走った。


「千尋……どうやら見ていたらしい」

「はぁ~、やれやれ、前途多難だね」


 メールには思った通り、那月の親に那月がバリスタをしていることがばれたという内容だった。


 優子が言うには、那月がテレビに映っている姿を見た那月の親父が激怒し、すぐに優子がマスターを務める珈琲菓子葉月宛にクレームが送られてきたのだ。


 コーヒー業界の発展にはこんな代償もあるのだと、僕は思い知った。那月は実家に帰るのが怖いのか、ばれてからは珈琲菓子葉月に居座ることが決まった。昨日の別れ際に心配そうな顔が見えた。すぐに笑顔に戻ったが、あれは作り笑顔だった。スマホを気にしていたし、あの時にはもうばれていた。優子がすぐにメールを送らなかったのは、僕の仕事を邪魔したくなかったからだろう。コーヒーイベントが終わってからメールを送ったということは、業務に支障をきたしているということだ。


 普段は忙しくてメールなんてしている暇はない。


 ――明日行ってみるか。那月が心配だし。


「あず君、祝勝会はなしでいいよ。ああいうのは世界を制覇してからじゃないと」

「すまんな」

「謝らないでよ。僕が痩せ我慢してるみたいじゃん」

「本当は2人が優勝したら、祝ってやりたかったんだけどな。優子には明日行くって伝えておいた」

「大変だねぇ~」


 千尋が両手を頭の後ろに持ってくると、他人事のようにリラックスしている。


「那月さんの話、ちーちゃんから聞きました。大変そうですね」

「兼業するだけでも一苦労なのに、親ブロックまで相手にしなきゃいかんとはな」

「僕も親ブロックされてたからねー。よく分かるよ」

「後を継げって言われてたんじゃなかったっけ?」

「それもあるけど、コーヒーは日本酒を売る上でライバルと言える存在だから、父さんは葉月珈琲が名古屋に迫ってこないかって、ずっと心配してたんだよ。だから国内の市場が縮小しきる前に海外進出しろってあれほど言ったのに、僕の忠告を全然聞かないからこうなるんだよ」

「ちーちゃん、村瀬グループの日本酒って、売り上げ下がってるの?」

「今のところは全国に多くのリピーターがいるからどうにかなってるけど、人口が減ってきているのと、国内外にたくさんのライバルができたこともあって、国内市場での売り上げが下がってる。これを打開するために海外進出を訴えてたわけ。日本のマーケットは縮小しているし、将来的には海外進出して、外国を相手に商売しないと生き残れない。他の国は当たり前のようにやってるけど、日本もそうなるよ」


 千尋は段々と縮小していく日本の市場を憂いていた。こうなることは最初から読めていた。なのにその対策を怠り、動かない保守派たちによって、グループを衰退させられたことが悔しくてたまらないのだ。


 千尋が言うには、千尋の親父が改革案をいくら出しても保守派たちに邪魔され、それが元で心労が溜まり病気がちになったという。千尋にとって役員たちは親父の仇でもある。そりゃ後継者を断るのも無理ないわな。千尋は自らの意思で衰退していくグループを見限り、対照的に拡大していくコーヒー市場に乗り換えたのだ。有能な企業には優秀な人ほど集まるが、無能な企業からは優秀な人ほど出ていってしまう。


「千尋は村瀬グループをどうしたいのかな?」

「親父が創業した村瀬酒造を独立させたい。あそこには世話になった人たちがいっぱいいる。本社で世話になった人たちは、既に葉月グループに転職させたよ。優秀な人たちだから存分に活用してね」

「まるで復讐しようとしているみたいだな」

「当たり前だよ。父さんはあの保守的で無能な役員たちに殺されたようなものだよ。あいつらに思い知らせてやるんだ。無節操に逸ると……どんなことになるのかを」


 怖っ! こいつ怖っ! 怖いって!


 反射的に鳥肌が立った。千尋の本性は車内にいる僕らを硬直させるには十分だった。


 役員たちの前でこそ腰が低いが、その裏でネジを外すように優秀な社員を引き抜き、村瀬グループを内側から壊滅させることを目論んでいたのだ。一方で恩恵を受けた人たちには、救済処置を与えようとしている。良くも悪くも人間らしい性格と戦略家の性格を持ち合わせている。


 こいつが敵じゃなくて良かったと、僕は心底感じるのであった。


 帰宅すると、いつものように唯が出迎えてくれた。


 一緒に風呂に入ると、風船の空気を抜くように、この3日間の思い出を話した。


「じゃあ、千尋君だけが優勝したんですね」

「そうだな。でも運が良かった」

「どうしてですか?」

「伊織がWBC(ダブリュービーシー)に行けないということは、まだ大舞台に出すのは早いとコーヒーが裁断を下したということだ。新作のローヤルシロップコーヒーは選考会で披露するべきというお告げかもな。選考会までに1年も猶予ができた。これでできなかったらそこまでの才能だったということだ」

「それはそうかもですけど、そーゆーあず君は選考会をたった()()で戦ったんですか?」

「……それを言われると弱いな」


 唯がゆっくりと僕のそばに温もりを寄せてくる。


 選考会を1人で戦い抜くことの難しさは一度参加した者であれば誰もが知る理だ。


 無論、それは僕もだが、ここまでのスランプは僕の不手際でもあると思う自分がいる。


「伊織ちゃんなら大丈夫ですよ。コーヒーからのお告げ通りなら、あず君もあと1年我慢しないといけないってことですよ。伊織ちゃんが正念場なのは分かりますけど、伊織ちゃんの限界は、あず君の指導力の限界でもあるんですよ。あず君がみっちり修業していた時は結果も出していましたし」

「指導を受けてできるようになるのは当たり前だ。でも飯を食える大人になるんだったら、指導がなくても結果を残せるようにならないとな。バリスタに必要なのは、ホスピタリティとインスピレーションだ。最終的には参加する本人の発想が物を言う世界だ。誰かに手を貸してもらうだけじゃ限界がある」

「桜子ちゃんはどう評価してますか?」

「去年まではずっとバリスタだったけど、あいつとんでもない才能を隠し持ってやがった」

「ロースターとしての才能ですか?」

「1番はコーヒーの声を聞く才能だ。去年は穂岐山珈琲に全冠取られたけど、今年のコーヒーイベントは千尋がJBrC(ジェイブルク)を制覇したお陰で全冠制覇は阻止したけど、これじゃ駄目だ」

「穂岐山珈琲は7大会で三冠取ったんですよね。あの強さはどこから湧いてくるんでしょうね」


 唯がゆっくりと湯船から立ち上がった。


 追いかけることはせず、唯は後姿のまま頭だけ振り返った。


「敵を知り、己を知れば、百戦危うからずですよ」


 ニコッと笑いながら先に上がってしまった。


 いつもなら体を激しく求めてくるが、今回は違った。後は自分で考えろってことか。


 穂岐山珈琲がここまで勝てるのは、マーケティング能力の高さだ。以前から世界中のコーヒー会社に顔が利く穂岐山珈琲だからこそなせる業だ。プロ契約制度を始めてからというもの、日本だけでなく海外からも将来有望なバリスタを募り、日本国籍を含む二重国籍のバリスタを集めてきたのだ。


 日本中から才能を集めている葉月珈琲に対し、穂岐山珈琲は世界中から才能を集めている。去年はその差が露骨に表れた。まだ不十分ではあるが、他のコーヒー会社もようやく本気を出したようで、今回は各競技会で優勝したバリスタの所属がそれなりにばらけていた。


 アジアを中心にコーヒー市場が拡大している今、このビッグウェーブの旨味に多くの企業が気づいた。


 まずは穂岐山珈琲の主力を調べてみるか。根本は言うまでもなく筆頭だ。JCC(ジェイシーシー)を制覇した松野、JBC(ジェイビーシー)を制覇した芽衣も同様に主力だ。新人から復帰勢までいて多種多様である。この3人目だが、こいつが1番のライバルになるかもしれない。要警戒だな。


 翌日――。


 朝早くからタクシーで珈琲菓子葉月へと赴いた。店を唯に任せる機会が増えてきた気がする。


 伊織と桜子が戻るまでにこの問題をどうにかしないと。今のところ伊織は桜子のサポーターとして東京に残った。桜子はJAC(ジャック)決勝に出場するべく、エアロプレスの練習に没頭している。自分で焙煎した豆を使えないというハンデはあるが、条件がみんな同じであれば純粋な実力勝負となる。


 桜子とはマンツーマンでエアロプレスの練習につき合った。


 僕がやってみせた抽出方法をすぐに習得し、あっという間に自分のものにしてしまった。アイデアを生み出す才能はないが、優れた学習能力とロースターとしての類稀な才能があれば、伊織や千尋が参加するバリスタオリンピックで強力な味方になってくれるだろう。


 今年のコーヒーイベントで葉月珈琲勢が躍進したのは、桜子が焙煎したコーヒーによるところが大きいのだ。コーヒーの個性を引き出すための最適な焙煎を無意識の内に行えるため、他のどのロースターよりも仕上がりの良いコーヒー豆を作ることができる。これはうちにとって大きなアドバンテージだ。


 窓の外には中部地方の山々が映り、僕らが乗り越えるべき目標と重なった。


 唯が昨日言っていた言葉――きっとあれが選考会を制覇するヒントだ。


「お客さん、電車は使わないんですね」

「電車なんて乗りたくないよ。僕には耐えられない」

「以前東京行きのお客さんを乗せていったことがあるんですけどねー、東京駅に着いた時は、本当に度肝を抜かれましたよ。人がうじゃうじゃ湧いてきて、電車通勤の仕事じゃなくて良かったと思いましたよ」


 お喋りな性格なのか、あるいはそういう仕事をしろと言われているのかは知らんが、中年のタクシー運転手が世間話を僕の耳に突き刺してくる。外に出て人に会いに行く仕事って、仕事をする人もつき合わされる人も、両方共お喋りが好きじゃない限り、本当に気まずいんだよなぁ~。


「あっ、そうそう。お客さんの行き先の珈琲菓子葉月って、私もよく行くんですよ。最近バリスタとパティシエを両方やっている人がいて驚きましたねー。私だったらどっちかに絞りますけどねー。両方で1番を究めるなんて言ってましたけど、無茶だと思いますよ」

「まずは見守ってやればいい。反対するのはそれからでも遅くはないぞ」

「そうですかねー。でも最近は全然姿を表してくれないんですよねー。クローズキッチンに引き籠っちゃったのか、あるいはどっちかに絞ったのかもしれませんねー。結構人気のある子なんですけど」

「……」


 那月……何があったっていうんだ?


 最近は全然いないって……どういうことなんだ?


 これは早々に真相を探る必要があるな。

読んでいただきありがとうございます。

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