319杯目「悲壮の谷底」
地方予選が終わり、帰宅してから1時間ほど経過する。
2人きりの静かなカフェで土産話をしながら、僕は唯とキスをし続けた。
この時の唯は完全に雌の顔だ。情熱的な瞳を一向に逸らそうとしない。子供たちは既に寝た後だ。このまま唯を脱がせてしまいたい。もう我慢できないと思った時だった――。
「あず君っ! 大変ですっ!」
唯を脱がせようと彼女の服に手を伸ばし、上に引っ張った瞬間、何者かが不意に勢い良く扉を開けた。そこには息を切らしている桜子の姿があった。
「……ごめんなさいっ!」
恥ずかしい光景を見てしまったことが申し訳ないのか、すぐに扉を閉めてしまった。
「……ちょっと行ってくる」
「は、はい」
乱れた服装を元に戻し、扉をゆっくり開けると、落ち着きを取り戻していた桜子が佇んでいる。
そばには僕が乗っていた車があり、中には誰も入っていない。
「どうかしたの?」
「実は……そのっ……伊織さんの家が強盗に襲われて、大きな騒ぎになっているんです」
「ええっ! 伊織の家がっ!? 伊織は無事かっ!?」
「伊織さんは無事です……でも、伊織さんのお母さんが意識不明の重体で、病院に緊急搬送されたところなんです。伊織さんは今病院にいます」
「分かった。すぐに行く」
「私が送ります。乗ってください」
唯に事情を伝えると、急いで桜子の車に乗り、病院へと向かった。その道中、伊織の家を通過すると、警察や鑑識の人が大勢詰めかけている。周囲には騒ぎを聞きつけた近隣住民が足を止めていた。
桜子が言うには、全員を送り届けたところで伊織からの電話に出たんだとか。
慌てている様子の伊織を落ち着かせ、状況を知った桜子はすぐ病院と警察に連絡するよう伊織に告げ、急いで伊織の家に向かった。家の外観はいつもと変わらないが、恐らくは強盗であることが見て取れる。桜子が家に入ると、部屋の中は荒らされており、金目のものは全てなくなっていたらしい。
伊織が泣き叫びながらぐったりしている伊織の母親に寄り添っていた。その後で救急車が到着すると、タンカーで運ばれていく伊織の母親に同伴し、警察の事情聴取を受けてから僕の家に向かったんだとか。
「強盗はどうなった?」
「まだ捕まっていないようです。しばらくは警戒が必要です」
「状況は理解した。でも何で僕の所に?」
「伊織さんにあず君を呼んで欲しいって言われました。迷惑だと思ってるかもしれませんが、伊織さんにとって1番頼りになるのはあず君なんです」
「迷惑なもんか。直接連絡すればいいものを」
「あず君に何度も電話したみたいですけど、全然出なかったそうですよ」
「あっ……そういやマナーモードにしてた」
僕の言葉に反応するかのように、桜子はアクセルを押し込み、段々と車の速度が上がっていく。
「ちょっ! ちょっと! うわっ! やめろって!」
しかもプロ並みのハンドル捌きで誰もいないカーブでドリフトを決めた。これには流石にビビった。
車は揺れに揺れた。シートベルトをしていない僕が大きく揺さ振られてもお構いなしだ。後ろ姿で何かを訴えるように乱暴な運転をしばらく続けると、ようやく安全運転に戻る。
「何なんだよ。いつもはこんな運転しねえだろ」
「……真っ先に私に連絡を寄こしてくれたら、もっと早く駆けつけたのに……ちょっと妬きました」
「はぁ!?」
訳も分からず反射的に返事をすると、予定よりも早く病院に着いた。
夜の岐阜はゴーストタウンのように人通りが少ない。
車もほとんど通ってないし、周辺にいるのは僕と桜子が乗っているこの紺色のワゴン車だけだ。
急いで病室に向かうと、魂が抜けたかのような状態で涙が頬を伝っている伊織と、既に変わり果てた姿の伊織の母親が眠るように息を引き取っていた。胸部には刃物で刺した痕跡があり、病院に搬送された時点で死後硬直が始まっていた。手遅れだった。
「! あず君……」
「伊織、一体何があったのか――」
「あずくぅ~~~~~ん! あああああぁぁぁぁぁ~!」
話も聞かないまま、子供のようにいきなり僕の胸に飛び込んでくる伊織。
ダムが決壊するかのように、ぼろぼろと惜しみのない悔しさで顔を濡らした。
――何故伊織がこんな目に遭わなければならないのだろうか。
あまりにも理不尽すぎる。犯人は絶対に許さない。
「辛かったな」
苦難を過去形にして、卵を持つように優しく抱擁するくらいしか、僕にできることはなかった。
ニュースになっているかどうかをスマホで調べた。すると、既に岐阜県岐阜市で強盗殺人事件発生というタイトルで大々的に報道されていた。逃走中の犯人は警察に逮捕され、名前と顔が公表された。見事なまでに世間を騒がせたこの顔は絶対に忘れない。
――地の果てまで追い詰めて、必ず死刑に導いてやるから覚悟しておけ!
伊織を握りしめる腕の力が強くなった。
「あず君……くっ、苦しいです」
泣き疲れた伊織が訴えたが、抵抗は全くしなかった。
「伊織、しばらく休養しろ。葬式が終わったら、手厚く埋葬してやれ」
「葬式はしますけど、休養はしません。もう大丈夫です」
「強がらなくていい。無理すんな」
「強がってません。私はお母さんに恩返しがしたいだけです」
「恩返し? 何でそうなるわけ?」
「私、最初は通過人数の多い東京予選に出るつもりでした。その方が地方予選を通過する確率が高いと思ってたんですけど、それを知ったお母さんが、弱気になるなんて伊織らしくない。名古屋予選に参加して1位通過を決めてきなさい。そんなんじゃできることもできない。あんたはうちの誇りなんだからって、私の背中を押してくれたんです……もし私が……今日の名古屋予選に参加しなかったら、皆さんと一緒に出かけることもなく、お店の営業が終わったら、いつもの時間に帰宅するはずでした」
「だから締め切り前に東京予選から名古屋予選に変えることを希望したわけか」
「はい。私が今日、いつもの時間に帰宅していたら……お母さんと一緒に殺されていました。お母さんが私を守ってくれたんです」
伊織の母親は、最期に愛娘の夢に大きく貢献した。
これはきっと、弱気になりかけた自分への罰だと伊織は言った。
桜子は片手で口を塞ぎながら、耐えきれずに涙をボロボロ流し、伊織の母親の冥福を祈った。シングルマザーとして、ずっと伊織の成長を見守り続け、愛娘の収入でようやく安定した生活を手に入れた矢先の悲劇だった。伊織は新しい家を購入し、伊織の母親にプレゼントする予定だったが、帰る家すらなくなってしまった。もっと早く買っていればと悔いるが、伊織は何も悪くない。
目の色が変わり、瞳の奥には一片の迷いすらなかった。
一呼吸置いてから僕に歩み寄り、真っ直ぐの視線を正面から向けた。
「あず君、私、もう二度と弱気になりません。葬式が終わったら、いつも通り通勤させてください」
「ふっ……分かった。そこまで言うなら好きにしろ」
「今鼻で笑いませんでした?」
「だってさー、なんか今までにない面構えだし、やっと面白くなってきたと思った」
「今までの私は面白くなかったんですか?」
「そうだな。伊織なら優勝できるって思ってたし。でも今までの伊織はどこか遠慮がちだったというか、小さく収まってる感じがした。バリスタとしての才能は飛び抜けてる。ポテンシャルだけなら僕以上のはずだけど、完全には引き出せていない。前回大会の準決勝敗退が証拠だ。伊織には味を描く才能がある。素材の味を最も活かすにはどうすればいいのか、もっと素材と向き合ってみろ」
「はい。準決勝には間に合わせます」
可愛いのにカッコ良い。バリスタのあるべき姿のようにさえ思える。
「あの、それはいいんですけど、今日どこに泊まるんですか?」
「「あっ……」」
考えてなかった。伊織の家は現場保存のために泊まれない状況だろうし、患者でもないのに病院に泊まるわけにもいかない。これは由々しき事態だ。色んな意味でな。
「伊織、うちに来るか?」
「えっ、いいんですか?」
「しばらくは余ってる部屋を貸してやる。去年まで璃子がいた部屋だけどな」
「ありがとうございます」
「あの、私にもできることがあったら、何でも言ってください」
「はい。桜子さん、あず君の家まで送ってもらってもいいですか?」
「もちろんです。じゃあ行きましょうか。もう遅いですし」
僕と伊織は桜子のレンタカーで家まで送ってもらうことに。
道中、僕はずっと夜空を見上げながら、今日のことを考えていた。
まずは強盗犯から調べた。伊織の家を襲撃した犯人は40代半ばの男だった。犯行の動機は、親が死んだことで生活が立ち行かなくなり、生活保護を申請するも却下され、途方に暮れた末に強盗を思いつき、家にあった刃物を持って外出すると、真っ先に目に入った伊織の家に宅急便を装って襲ったことが事の真相であった。またしても起こってしまった無敵の人事件は世間に衝撃を与えた。
犯人の家は伊織の家のすぐ近くにあり、人通りの少なくなった夜8時頃に決行された。
伊織の言った通り、東京予選に参加予定であれば、いつも通りの時間に帰宅しているはずだった。伊織を救ったのは伊織の母親だけではない。優子が僕らを夕食に誘ってくれなかったら、遅くとも7時頃には帰宅していただけに、伊織が犯行時刻を過ぎても留守であったことは、奇跡としか言いようがなかった。
共依存なのか、伊織はいつも親子で一緒に過ごす習慣があった。静乃が伊織を紹介するために彼女を家から引っ張り出し、僕がバリスタとしての才能を発掘しなければ、ここで終わっていた命だった。
類稀な人徳とコーヒーに対する愛情が奇跡を起こした。
帰宅すると、運転席から笑顔を覗かせる桜子に手を振って見送った。
唯に事情を説明し、しばらくは伊織をうちで保護することに。
伊織を2階に上がらせてから風呂に入らせると、1階では再び僕と唯の2人きりになる。さっきまでの発情はすっかり冷めており、伊織に対する心配をするのが精一杯であった。
「辛いですよね。ずっと心の支えだったお母さんを急に失って」
「そうだな。でも伊織のやつ、僕と会った途端、泣き叫びながら飛びついてきたかと思えば、それっきり一切泣かなくなった。こんな時でも感情のコントロールができるようになっていたとはな」
「強い子になりましたね。再教育の成果ですか?」
「さあな。僕の想像以上だ。非常事態の時こそ、冷静に対処しないといけない。普段から大会のつもりでバリスタの仕事をこなしていたのが、こういうところにも表れたのかもしれん。バリスタの仕事を必須級の習い事にしてもいいくらいだ。あいつはもう1人で生きていける」
「前々から思ってましたけど、伊織ちゃんのことをかなり買ってますよね」
「これが正当な評価だ。社内貢献度も2018年は8位、2019年は1位、2020年は6位だ。入社4年目からは驚異的な活躍をしてるし、3年連続で最終1桁を記録してるのは伊織と千尋だけだ。流石はうちの主力ってとこだな。今は期待の新生である桜子もいるし、面白くなってきた」
「ていうか葉月グループの社内貢献度って、大会の配点多すぎないですか?」
「大会に出るのが1番の宣伝手段だし、葉月グループはバリスタのプロ契約制度を採用している数少ないグループ企業だから、当然と言えば当然かな。他の企業だったら、もっと基準が変わるんだろうけど」
唯の指摘はごもっともだ。社内貢献度は企業が求める能力にフォーカスして作られてる。
葉月珈琲飲食部なら、必然的にプロバリスタが優勢になる。代替可能社員の定義が最も難しかったが、全社員の内、成績の順位がど真ん中の人を基準とすることで、レベルを向上させることには成功した。
身内の何人かは社内貢献度でマイナスを記録した。追い出したくはない。適正給与まで月給を引き下げることに同意させるのが限界だ。世界一のグループ企業を目指しているわけではないが、無理に全員を競争に参加させるという社会構造自体が既に限界を迎えている。
葉月グループは他の日本企業とは企業風土が全然違うし、さながら独立国のような感覚だ。競争したくない人には最低限の生活をしてもらい、コーヒーをとことん追求する者には出世のチャンスを与えるグループでいたいものだ。保護の対象となるのは身内だけだ。今はそれが限界である。
――それにしても、無敵の人事件が頻繁に起きているのが気になる。
僕はこの現象を資本主義の敗北と定義している。
資本主義社会とは、言わば全員強制参加のマネーゲームだ。
当然ながら、勝って儲ける人もいれば、負けて落ちぶれる人もいる。だがこの状態を放置すれば、失うものが何もない敗者たちが藻掻き苦しんだ挙句、社会に恨みを抱き、盤面ごとひっくり返してしまう脅威となる。故に敗者に対しても最低限の生活を保障してしかるべきなのだ。ちゃんとケアをしてこなかったのだから、この国の連中は、事実上無敵の人に刺されても文句を言えない立場だ……こんなこと、伊織の前じゃ言えないけどな。今回の無敵の人事件を招いた原因も、世の社会人たちの失政だ。
犯人は氷河期世代。しかも金なし非モテのおっさんという、凶悪犯三大特徴を満たしている。
就職が不安定になっていく時代に、就職レールに乗る以外の生き方を教えてこなかった結果だ。なのにこの方針を推し進めてきた挙句、この仕組みに当てはまらない人々や、稼ぐ才能を持たない者たちに対して生きる力を与えてこなかったせいで、社会保障費が大幅に増えてしまい、少子化にも拍車がかかってしまった。自己責任論という名の責任転嫁をした結果、それが利子付きで戻ってきたのだ。
この国の連中は、これから氷河期世代を始めとした棄民たちのどんでん返しを受けることになる。無敵の人になることを容認するか、最低限の生活を保障するかの択を強いられるだろう。救う気もないくせに救うふりをしながら、人生再設計第一世代などど、吞気なことを抜かしている場合ではないのだ。
外国の治安が悪いのは、盗まないと生きていけない棄民が一定数いるからだ。
日本も他人事ではない。そのことを思い知らされた1日だった。
翌日――。
「目が覚めたか?」
「――! あず君っ!」
サイズの合わないパジャマを着た伊織がベッドに座ったまま大きく目を開いた。
昨日のことがまるで夢のようだ。家に戻るまではここで預かるが、伊織の職場はすぐ下の階である。
通勤時間という概念がないテレワークの世界へようこそ。
時刻は午前11時、開店まであと1時間。千尋たちも既に昨日の事件を説明済みだ。伊織は活躍していたが故にアンチも多くいたものの、無敵の人事件に巻き込まれて以来、多くの人々から同情を買うこととなった。これは活躍の代償ではない。ただ貧乏くじを引いただけだ。
「伊織、さっき中津川社長から連絡があった。今日はお通夜で明日葬式だから、夕方には来てくれって」
「……分かりました」
「実の妹を殺されたんだ。しばらくは葬式と裁判に労力を費やすことになる」
「中津川珈琲にとっては正念場の時期なのに……残念です」
「やっぱり仕事休むか?」
「いえ、仕事はします。最終予選の課題もやらないと」
ベッドから降りると、僕を部屋から追い出してすぐに着替えた。
伊織に婚活させたがってたし、孫の顔見たかっただろうな。だが伊織にその気はない。
8月の最終予選に進出し、今度はミルクビバレッジを作ることに。定番のカプチーノを作らず、あえてカフェオレを作り、フリーポアラテアートは描くが、提供した際にジャッジに混ぜさせるようで、これは今までに見たことがないスタイルだ。みんな無難さを求めてカプチーノにしたがるが、ミルクビバレッジの多様性を追求してこなかった僕の不手際でもある。
もっと色々試しても良かった。シグネチャーが決め手であることを逸早く掴んだからだろうか、ミルクビバレッジはコーヒーとの相性だけで牛乳を選んでいた。
子供たちがわいわい騒ぐ中、急いで1階に下りていく伊織。
「伊織ちゃん、大丈夫なの?」
「はい。今日はお通夜で、明日は葬式なので、今日と明日は早めに上がらせてもらいます」
「分かった。伊織ちゃん、昨日は泣かせちゃってごめんね」
「もういいんです。慣れてますから」
「僕も父さんが死んだ時、今の伊織ちゃんみたいな気分だった。ずっと当たり前のようにいた人が、ある日突然、今までいなかったかのように会えなくなるんだからさ。なんか気が抜けるよね」
「……私には気が抜ける暇なんてないです。今は天国のお母さんに優勝を捧げたいんです」
「やっぱり共依存だったんだ」
「全く依存しないのもどうかと思いますよ」
「人に依存するのはやめにしたよ。下手に依存なんてしちゃったら、いなくなった時が辛いから」
「辛く感じるのは、大切に想っていた証拠だと思います。私はもう迷いません。コーヒーに拾われたこの命をコーヒーのために使いたいんです。大会があったから殺されずに済んだわけですから、やっぱり私にはコーヒーしかないってことがよーく分かりました。だから私、いつも全力で生きることにします。いつ死んでも悔いがないように」
伊織の成長を前に、クスッと笑ってみせる千尋。
その言葉通り、まるで辛さから逃れようとするかのように伊織はコーヒーの実験に没頭した。千尋はそんな伊織に負けまいと、9月のコーヒーイベントに向けた練習を開始する。
大会の時期は店の業務よりも競技の準備を優先するため、しばらくは主力が抜けることとなる。皺寄せがいったかのように僕も桜子も手足を俊敏に動かしていた。仕事をしている時は辛いことを忘れられる。この忙しさはむしろありがたいものだった。
3日後――。
伊織は実家に帰るかと思いきや、事件の影響で大家から借家を追い出されてしまうことに。
大家にとっては事故物件以外の何ものでもない。すぐそばには犯人の家もあるため、伊織の実家周辺には人が寄り付かなくなった。精神的にも物理的にも伊織には帰る家がなくなってしまった。
「というわけなので、次の家が見つかるまでの間は、近くのホテルで泊まることになると思います」
「うちに居ればいいじゃん」
「そんな、悪いですよ。唯さんや子供たちもいますし」
「私は全然構わないよ。家事も手伝ってくれるし、子供たちの面倒も見てくれるし、ずっとここにいてほしいくらいなんだから」
「伊織お姉ちゃん、いなくなっちゃうの?」
「えー、そんなのやだ」
駄々を捏ねる子供たち。困った顔を見つめながら、伊織の罪悪感を煽っている。
「……分かりました。でも次の家が見つかるまでですよ。それと家事も育児も手伝います。ただの居候じゃ悪いですから。実家から荷物があるんですけど、次の家にすぐ持っていきます」
「遠慮すんな。職場にも近いから合理的だ。優勝を捧げたいんだろ?」
「それは……あっ、ちょっと」
話の途中にもかかわらず、子供たちが第2の母親ができたかのように伊織の手を引っ張り、子供部屋へと連れて行ってしまった。ここにいれば大会にも集中しやすい。
いつでも1階に下りてコーヒーの実験に没頭できる。通勤の負担もなくなるのは大きい。
内心もやもやとしながらも、伊織はうちに居座り続けるのだった。
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