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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第13章 群雄割拠編
316/500

316杯目「バリスタ人生の分岐点」

 拓也の状況が思ったより深刻なのは分かった。


 ニートの親は時代に合わない人間を育てた報いを受けている。


 そう考えると、妙に説明がついてしまうのが恐ろしい。


 かつての拓也はニートでありながら、心底ではニートを見下していた。こんなはずじゃなかったと目が言っていたのが手に取るように分かった。ニートから脱した今も、そこは変わらない。近所の人からは冷たい目で見られていたことを知っていたのか、なかなか表に出られない日々が続いた。


 引き籠りを引き籠りに至らしめているのは、他でもない世間であることを世間自身は知らない。恥ずかしい思いをしてまで表に出たくないと思う人は多いだろうに。このことからも、日本人が相手の立場で物事を考える能力が全面的に低いことが見て取れる。世間とは幼児性の怨念集合体である。


「本当に行かないんですか?」


 目をうるうるとさせ、両腕の拳を握りながら拓也を見つめる伊織。


「俺から生きる力を奪ったんやで。世話をされる理由はあっても、世話をする理由はない」


 昔と違ってドライになった拓也は実質無敵の人だ。稼げなくなれば何をするのやら。


「うちのお母さんも、あず君がいなかったら、私から生きる力を奪うところでした……時代に合わない教育で……でもそれは私を陥れるためのものではないんです。お母さんも世間に従わざるを得なかった被害者なんです。ですから……そのことでお母さんを責めたことはありません」


 伊織は全てを見抜いていた。教育を施す側も被害者であることに。


 共感能力の高い伊織には、拓也の気持ちが胸に突き刺さるほどよく分かる。


 かつては同じ経験をした者同士だが、その解釈には大きな開きがあった。物事を他人事のように見つめる余裕があるのは、他に夢中になれることがあるからだ。家庭問題よりもトップバリスタになることに専念している。故に他の問題が大して気にならないのだ。


「……あず君、コラボ企画やけど――」

「1週間延期してやる。来週までに家庭問題にけりをつけろ。多分だけど、独立して見捨てるか、同居しながら支えるかを選ぶ時期が来たんだと思う。拓也が独立した後、みんな失業状態にでもなれば、生活保護を受けられるようになる。弁護士と一緒に生活保護課に行け。そうすれば簡単には断れない」

「弁護士はどないするん?」

「葉月グループには専属の優秀な弁護士がいる。連絡先は葉月グループのホームページに載ってるから、葉月梓の紹介って言えば引き受けるようにしておく」

「ありがとな。恩に着るで」


 満足した拓也が会計を済ませると、大阪へと戻っていった。


 メールで美羽のことを聞かれたが、美羽が既に吉樹と結ばれたことを返信すると、その後は肩を落としたように一切返事が来なくなった。拓也から返事が返ってきたのは1週間後のことであった。


 確実に落ち込んでるな。拓也は美羽にぞっこんだったからなー。だがこの状況では、仮に美羽と結ばれたとしても、彼女を幸せにすることはできないだろう。そもそもの問題として、拓也は就職も結婚も向いてないのだ。人間自体が向いてない人間っているんだよなー。僕も人のこと言えないけど。


「伊織ちゃんも言う時は言うんだね」

「拓也さんだけじゃないです。もやもやした悩みを持ってる人って、結構多いと思います。お世話になってる保護者にして、人生を狂わせた元凶をどう扱えばいいのかも分からずに、ただ行き場のない怒りをぶつけることしかできなかったのかもしれません」

「それって、昔の伊織ちゃんのこと?」

「はい。コーヒーの趣味を最初にやめるように言ってきたのはお母さんです。それから当時の担任からも同じことを言われて、好きなものを好きって言えなくなっていました。自分の好き嫌いを分からないようにして、やりたいことを言えなくした親と学校に失望したこともありましたけど、今は感謝してます」


 伊織がエスプレッソマシンの隣に置かれているドリッパーを見た。


 ドリッパーを優しく手に取ると、昔を思い出そうとするかのように目を離さない。


 コーヒーは伊織の全てだ。普通になるということは、本来自分にとっての全てを、掛け替えのない希望を奪われることだ。普通のために全てを犠牲にする風潮を僕らはずっと批判し続けてきた。僕らは普通を目指さざるを得なかった者たちの末路を目撃している。


 普通という名の鎖にしがみつき、自ら不自由となったことにも気づかない。定職に就くことを強制する風潮は、大勢の人間が一生普通になれない不幸を味わうことを意味する。巻き込まれた方の身にもなれってんだ。だが伊織は……そんな愚か者たちを許す選択をした。


「矛盾しているかもしれませんけど、親って、子供に活躍してほしいという気持ちがある一方で、無難に穏やかな人生を歩んで欲しい気持ちもあるんだと思います」


 桜子は親というものに対する所感を赤裸々に話し始めた。


「無難に生きることができるなら、それに越したことはありません。でもそれじゃつまらないと思っている自分もいます……私は()()()人生の方が好きです」


 その言い回しを伊織が理解できる確率は低いぞ。


 きょとんとしながら首を傾げている。学校はいらないけど、学習は必要不可欠だな。


 千尋は桜子に一目置いているかのような表情を見せた。僕は桜子の言葉からトップバリスタとしての才能を見た。自ら苦難困難災難に立ち向かい、ひたすら好きなことに没頭する姿。これこそがトップを目指す上で最も必要な適性なのだ。桜子は来年以降もここに残そう。


 成人するまでに良いバリスタになることを祈っている。


 7月上旬、メジャー競技会の予選が始まった。


 バリスタ競技会自体が人気となり、参加者は昔の10倍に増えた。だがJCIGSC(ジェイシグス)JCRC(ジェイクロック)といった幅広い専門知識を学ぶ必要がある競技は参加者が少ない。


 葉月珈琲岐阜市本店から伊織と千尋が参加する。岐阜から名古屋までレンタカーを飛ばした。紺色のワゴン車の運転は桜子が務めてくれた。運転席には桜子、助手席には椿、中央座席には伊織と僕が、後部座席には花音と千尋が座って話している。花音は別の時期に行われるJAC(ジャック)に出場予定だ。椿は家庭を支えるためにプロ契約制度を利用して大会に参加しているが、もう昔ほどの腕はない。


 伊織は桜子をサポーターにしてJBC(ジェイビーシー)に、千尋は僕をサポーターにしてJBrC(ジェイブルク)に、椿は花音をサポーターにしてJLAC(ジェイラック)に挑む。


 とは言っても、予選まではただの観客だし、僕の仕事は静かに見守ることだ。


 シグネチャーが課題でないため、全員が決まったエスプレッソマシンを使うことになる。


 プロ契約制度が普及している影響なのか、競技に人生を捧げる者も増えてきた。大会は大手のサポートがなければ参加すらままならない人もいる。だから大手に就職せずに大会に出場できるように導入したのもある。全ては参加のハードルを下げるためだが、プロという言葉に足が竦んでいる人もいる。


 店は唯にマスター代理を任せ、他のスタッフはユーティリティーに任せている。


 それは1つの店舗で働く時代が終わったことを告げたかのようだった。


「桜子さんって、運転できるんですね」

「はい。去年は高校を卒業してから教習所に通っていたんです。大都会に住むわけではないので、車で生活することになってもいいように、運転免許を取っていたんです」

「桜子ちゃんって要領良いよねー。仕事もすぐに覚えるし、バリスタとしての才能だけなら、私や花音ちゃんを凌駕してると思う。もっと自信を持ってもいいと思うけどなー」


 助手席から話しかけたのは椿だった。桜子はハンドルを握りながら余裕の笑みを浮かべる。


 桜子の学習能力は非常に高く、何度も同じことを教える必要がないほどであった。就職してから僅か1ヵ月で、伊織たちと変わらないほど仕事をこなせるようになっている。ルーチンワーカーとしての能力はずば抜けている。大卒でOLになっていたとしても、それなりにうまくやっていただろう。だがこの前の彼女の言葉からも、安定した生活のためではなく、面白い人生を送りたがっていることが見て取れる。


 千尋といい桜子といい、本当に面白いメンバーが揃いつつある。


「桜子ちゃんは、きっと良いお嫁さんになると思うよー」

「勘弁してくださいよー。ただでさえ男性には滅入ってるんですからー」

「名古屋に着いたら、岐阜にいた時とは比べ物にならないほど人がいるから、ナンパされないよう注意することだね。桜子ちゃんはサポーターだけど、凄く可愛いし、みんな桜子ちゃんがあがり症だってことを知らないだろうから、男たちが次々に寄ってくるかもね」

「……」


 辛いことを忘れたいと言わんばかりに、無言で運転に集中する桜子。


 その顔は真剣そのものだが、同時に恐怖が見えるくらいに真っ青だ。


 横を振り向く様子もなくハンドルを捌き、レンタカーは高速道路を颯爽と走っている。椿は結婚の話をするが、桜子はのらりくらりとかわし続けている。恋愛したくないのはよく分かったが、桜子がここまで避けたがる理由が気になって仕方がない。ただのあがり症にはない避け方だ。


「あの、拓也さんはどうなったんですか?」

「あいつなら実家を出た。他の家族はみんな生活保護を受けることになったからな。収入のある奴が実家にいたら面倒を見ないといけない。だから生活保護を受けさせるために独立した。拓也1人じゃ家族全員を養えないし、賢明な判断だ。皮肉なもんだな。ニートしてた奴を散々責めていたせいで、肝心な時に見捨てられるんだからさ。普通に向いてない奴に、普通を押しつけるという虐待の成果が出たわけだ」

「定職に就けって言われたくないのもあるんだろうね。見るからに就職向いてないし」

「就職自体が向いてない人って、どんな人なんですか?」

「曲がったことが嫌いな人は就職向いてないよ。就職自体が自分の利益を会社に捧げる行為だし、拓也さんのエピソードを聞いた限りだと、理不尽を許せない性格みたいだし、すぐ挑発に乗って問題を起こすような人を雇いたいって思う?」

「……思わないです」


 苦笑いをしながら答える伊織。これが拓也の全てを物語っていた。


 伊織のように、親のことを客観的に見つめることができる者は少ない。いつも周りに感謝できる人は、本当に幸せ者だと思う。飯を食える大人は、感謝の気持ちを忘れない人だ。


 真由も拓也も何度かうちに泊まりに来ては、コラボ動画を作っている。もしこれがお金の動く仕事であれば、ここまで仲良くなることはなかったかもしれない。


 無論、これは僕にも言える話だ。就職に向かないことが分かっているためにしなかった。拓也は施設にぶち込まれるべくしてぶち込まれていたことがよく分かった。就職に向いている人は、一緒に働きたいと思われる人だ。その適性を見抜こうとしないまま、型にはめる教育の成果がまた1つ証明された。


「真由さんとはどうなの?」

「うん。凄く良い人でね、またデートに誘おうかなって思ってるの」

「へぇ~、つき合ってるんだ」

「つき合ってるって程じゃないよ。趣味が一致して、それで話が盛り上がったの」

「なるほどねー。真由さんは千葉の人だし、結婚することになったら、千葉で暮らすことになるのかな」

「――ああーっ! 確かにそうだー! やばい、どうしよう。そこまで考えてなかったぁ~!」


 頭を抱えながら、この場に蹲る花音。


 千尋は歯を見せながらニヤニヤしている。相も変わらず人をからかうのが好きだな。


 花音は物事を真に受けるところがある。まだ結婚が決まったわけでもないというのに、未来に勝手に期待してどうする。その時になって決めればいいのに。


「心配すんな。真由の仕事はどこでもできる仕事だ。つまり花音と一緒に暮らしながら、仕事をすることもできるかもしれん。まだ慌てるような状況じゃねえだろ」

「そうそう。ただの遊び相手だと思ってる可能性もあるし」

「千尋君……酷い~」

「そんなに惚れてんの?」

「うん……ここまで誰かを好きになったの、初めてだから」

「じゃあ真由さんの都合が良ければ、つき合うつもりなんだ」

「こっちはそのつもりだけど、婚活自体を嫌がってたし、ちょっと心配」


 サポーターとしての仕事よりも、真由のことが気になっている様子。


 スマホが振動を起こし、それに反応するように手に取った。真由からのメールだった。


 名古屋で僕と話したいらしい。触りだけでも内容を聞こうと返信を送ると、花音の件で僕に相談したいという返信が来た。真由が僕に相談を持ちかけるとは珍しい。とりあえず会場近くに誘い出すか。花音にはこのことを知らせないで欲しいという希望から察するに、これは花音に困っている。


 時間と場所を指定すると、午前11時頃には名古屋に到着した。


 駐車場を借りて車から降りると、僕らは繁華街に繰り出した。


「うわー、いつ見ても広いなー」


 初めての名古屋に心躍らせる花音。


「とりあえずホテルに行ってチェックインを済ませますか?」

「何言ってんの。ここは岐阜から近い場所だから日帰りだぞ」

「あっ、そうでした。去年までは東京予選に行ってましたから、つい」


 恥ずかしそうに頭の後ろに手を置きながら誤魔化す伊織。可愛い。


「あの、さっきから気になってたんですけど、名古屋からは何人が最終予選に進めるんですか?」

「主要都市8ヵ所の地方予選に出るのは1000人。予選で上位スコアを記録した200人が最終予選進出だ。東京予選と大阪予選は200人、他の会場からは100人が参加して、上位10%が残る。名古屋予選は上位10人が通過で、全国合わせて上位20%しか残れない。最終予選に出場した200人の内、シード権を持ったファイナリスト5人と、最終予選の上位15人を合わせた20人が準決勝進出だ」

「根本さんたちは既にシード権を持っていますから、準決勝から出場できるんですよね」

「羨ましい~」


 花音はJLAC(ジェイラック)前回大会ファイナリストでありながら、最終6位であり、シード権を逃している。椿はJCIGSC(ジェイシグス)の前回大会予選落ちだし、ここ数年は子育ての影響から成績を落としている。本来の実力が発揮できていないのだ。


 失敗を恐れる人間はうちにいらない。集中できる環境を確保できない人間もだ。


 2人にとって今年は最後のチャンスとなるだろう。桜子もJAC(ジャック)に出場するし、良い刺激になってくれればいいのだが、これで桜子のJBC(ジェイビーシー)出場はなくなった。


 伊織のサポーターをどうこなすのかが楽しみだ。


 JBC(ジェイビーシー)の場合、地方予選はエスプレッソ、最終予選はミルクビバレッジ、準決勝はシグネチャードリンク、決勝はエスプレッソ、ミルクビバレッジ、シグネチャードリンクの全てが試される。提供するだけじゃなく、ハイクオリティなプレゼンやホスピタリティが要求される熾烈な争いだ。課題を分けるようにしたのは良い試みだ。


 昔は準決勝と決勝の内容が全く同じだった。準決勝と決勝における上位の決め手がシグネチャーであったことから、準決勝はシグネチャーのみにしてはどうかと交渉した結果、見事にこれが認められた。時間をかけた本番は決勝だけでいい。体力の消費を抑えたいのもある。


「そう落ち込まなくても大丈夫。次は結果を残せばいいんだから」

「椿さん……そうですよね……次頑張らないと」

「最終予選までは行き先が、名古屋なのは楽ですね」

「何言ってんの。レベルは昔より上がってんだぞ。参加者が多いってことは、予選で消える可能性も高いってことだ。セミファイナリストも参加するだろうし」

「予選の段階から本気を出せるんですね。楽しみです」


 伊織は怯むどころか楽しそうだ。移動時間が最も体力を奪う時間である。


 疲れを感じなくて済むメリットの方が大きい。


 会場で受付を済ませると、伊織たちは参加者の証として、紐で繋がっているエントリーカードを首から下げた。裏側には出番となる時間が書かれており、時間の10分前までに会場に就けば問題ない。


「予選は12時からだけど、みんなの出番は午後3時くらいからだし、しばらくは自由時間だ。昼飯を食べるなり、観光するなり、好きにしてくれ。でも競技時間には間に合うようにしてくれよ」

「「「「「はーい!」」」」」


 みんな散り散りになっていくが、伊織だけは僕の隣に残った。


「行かねえのか?」

「私はあず君とカフェ巡りがしたいです」

「しょうがねえな。じゃあ行くか」

「はいっ!」


 いつもより張り切っている伊織。バリスタにとってカフェ巡りは最高の癒しなのだ。真由とはこのカフェで合流することになっているが、伊織をどうにかして、真由と2人きりで話せるようにしておくか。


 ほっぺが落ちたような顔でコーヒーを飲む伊織。僕も人のことは言えなかった。名古屋も岐阜と同様、カフェの激戦区である。コーヒーの聖地と呼ばれるなら、せめてここを上回るくらいに、トップバリスタを輩出できる地域にしていきたい。


「このエメラルドマウンテン、とても美味しいですね。このナッツのようなフレーバー、最高です」

「ここのエメラルドマウンテンはな、僕が葉月珈琲で店を始める前に飲んだコーヒーで、この芳醇な香りと味が気に入って、高級なコーヒーだけを売る方針に決めた。言わば葉月珈琲の原点だ」

「葉月珈琲の原点ですか。それは興味深いですね」


 目の前に置かれたカルボナーラをフォークに巻きながら口に運び、伊織はオムライスを食べながらエメラルドマウンテンの香りを嗅いでいる。この不審者のような動き、昔の僕にそっくりだ。


 1杯3000円もするこのコーヒーだが、今更ツッコむ気にもなれないようだ。あの時と変わらない味わいだし、ただ輸入しているだけじゃなく、洗練された焙煎がされているところが気に入っている様子。黒に近い茶色のコーヒーの表面に映る自分自身を見つめながら、僕らはこのコーヒーを飲み干した。


「私たちは常に変化していくんでしょうけど、いつまでも変わらない味も捨て難いですね」

「――そうだな。色褪せることなくずっと残していきたいもの、それが伝統だ」

「あず君の伝統はコーヒーですか?」

「葉月家は明治時代からコーヒーを扱ってた。おじいちゃんのおじいちゃんが最初に始めたらしい」

「まさか孫の孫がバリスタオリンピックチャンピオンになってるなんて、想像もしてないでしょうね」

「だろうな……もしおじいちゃんが生きていたら、色々と積もる話がしたかったな」

「あず君のおじいさんって、あず君のWBC(ダブリュービーシー)優勝まで生きてたんですよね?」

「うん。僕の優勝を誰よりも喜んでくれた。学費を全部起業資金に使ったことを知りながら、起業したことをずっと知らないふりしてくれた。何気ない様子でシグネチャーのヒントを口走った時も、当時はたまたまだと思ってたけど、偶然じゃなかった。僕がこれからしようとしていることを全部知っていたから」

「ふふっ、あず君の抜け目ないところは、おじいさん譲りなんですね」


 僕の顔に目をやると、面白そうに笑った。抜け目ないんなら、ちゃんと見守ってくれているよな。


 いつか僕が死んだら、あの世で好きなだけおじいちゃんと話したい。窓越しに空を見上げながらそんな思いを抱き、封印し続けていた寂しさが込み上げようとする感情を必死に堪えた。


 この思い出のカフェは、あの時の楽しかった日々を思い起こさせた。

読んでいただきありがとうございます。

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