308杯目「敗者復活枠」
松野がヒントとも言える言葉を残し、僕らの元を去っていった。
「松野さんは何が言いたかったんでしょうか?」
「単なる脅しとは思えなかったけど、やっぱあれかな」
千尋が片手で顎を掴み、頭の片隅にある言葉を引き出した。
「あれって何ですか?」
「チームワークだよ。僕と伊織ちゃんの時は一致率が低かったから」
「そう言われても、どの位置にどんな絵を描けばいいかなんて相手依存ですし、せめて目安だけでも分かれば、もっとうまく描けると思うんですけど」
2人は気を沈ませながら、少しでも一致率を上げようと考えた。
だが特にこれといった案は浮かばず、時間だけが過ぎていった――。
風に当たろうと会場を出た。シアトルの街並みは大都会そのものだ。コーヒー三大聖地の1つなだけあってか、天にまで届きそうなビル群に圧倒された。10年前にも同じ光景を見たが、以前と変わりなかった。この舞台で結果を残すことを夢見ていたが、きっと最後のチャンスかもしれない。
しばらく歩いていると、1件のカフェが目に入った。バリスタとしての性なのか、他の建物を押し退けるかのように目立つカフェに、4人共体が吸い寄せられていった。
「いらっしゃい」
「エスプレッソ4つください」
店員が気さくに声をかけてくる。僕が反射的に注文をすると、近くのカウンター席に腰かけた。誰1人として店に入ることを躊躇わなかった。カフェ巡りをするにはまだ早いが、休憩時間はまだ長い。僕らの出番がくるまではここでゆっくりすることに決めたが、それにしても良い雰囲気だ。
都会の中にあるとは思えないほど落ち着いていて、他の客も優雅な時を過ごしている。
これほど落ち着けるカフェは初めてかもしれない。10年前のシアトルにはなかった店だ。つまりここはオープンしたばかり。1人の客が決済を済ませて店を出た。
「偉大なバリスタをもてなせることを光栄に思うよ」
「ありがとう。ここの店って、最近できたの?」
「ああ、ここはバリスタ競技者を育てるカフェとしてできたんだ。あのマイケルが全米にバリスタ教育を充実させることを目的としたカフェを建てる活動をしてる。いつかアズサに勝てるようなバリスタをアメリカから輩出するためにね」
「なるほどな。今近くで大会が行われてるのは知ってる?」
「ああ、もちろんだよ。アズサも参加してるんだろ。応援してるよ。じゃあちょっとエスプレッソを淹れてくるから待っててくれ」
笑顔で静かに頷くと、スタッフがエスプレッソマシンで作業を始めた。
エスプレッソマシンは最新式のものが導入されており、オートタンパーまで置かれている。スムーズな動きでエスプレッソを淹れると、トレイに乗せて持って来てくれた。
「はいよ。エスプレッソだ。楽しんでいってくれ」
「ああ、ありがとう」
スタッフが再びキッチンの奥へと離れていく。僕らに配慮しながら、次の客の注文を受け付けるまでのスピードが速い。プロの接客だ。キャリアこそ浅いことが分かるが、彼らから学べることは多い。
「あず君って、やっぱり人気なんですね」
「なんか神様みたいな扱いだったね」
「羨ましいです。私にはなれそうもないですけど」
「桜子なら大丈夫だ。僕でもできたんだ。桜子だったらもっと簡単にできる。僕と違って接客がうまい。バリスタになる環境にも恵まれてる。それだけでも十分僕より良いものを持ってる」
「なんか馬鹿にしてません?」
「僕がバリスタになろうとした頃は、乗り越えないといけない障害が多すぎた。それじゃ安定して食っていけないって散々言われたし、何度もサラリーマンの道に誘導されてきた」
「サラリーマンって、あず君の適性と対極に位置する職業じゃん」
「バリスタの仕事がうまくいかなかったら、どこかの企業に入社させられるとか……ですか?」
「自営業がうまくいかなかったら、穂岐山珈琲に入ることになってた」
「「「!」」」
3人が同時に黙った。無理もない。これから対決することになる企業に入っていたかもしれなかったなんて聞いたら、嫌でも因果を感じざるを得ないものだ。
「穂岐山珈琲だったら、凄腕のバリスタを目指せていたと思いますけど」
「昔の穂岐山珈琲はそうじゃなかった。社員が固定観念の塊で、使うコーヒーも全部穂岐山社長が決めていた。あれじゃどんなに頑張っても二流止まりだし、あんなやり方で世界一を取れるとは到底思えなかった。絶対に店を潰したくない一心で、店を宣伝する目的で、色んな大会に出るようになったってわけだ」
「穂岐山珈琲に入りたくないのがモチベーションになっていたわけね」
「ある意味あず君に貢献していますね」
伊織がクスッと笑いながら、穂岐山珈琲の怪我の功名を称えた。何だかんだでずっと背中を押してくれていたのは確かだ。穂岐山珈琲もある意味凄いが、すぐそこに気づいた伊織と千尋も凄い。
ここのスタッフはシアトルのバリスタ事情を色々と話してくれた。この店はマイケルの援助で開店が決まった店であるとのこと。かつてマイケルがバリスタオリンピックで披露したステージ設計がここに活かされている。親父が建築を学んでいたのはこのためだったか。
親父がおじいちゃんの子供だってことを改めて理解した。僕は生き方を示すので精一杯だ。マイケルは僕よりもずっと偉大な行いをしている。流石はあの大舞台に3大会連続で出ただけのことはある。世代交代の波に飲まれたことを悟り、競技者としては引退したが、僕以上のキャパシティなのは確かだ。
世代交代の波に逆らい続けているのが僕だ。一体いつまで出続けるのか、僕自身も分からぬまま。
――まっ、後で決めればいいか。いつか限界は来る。
「あのスタッフさん、凄く楽しそうにしていましたね」
「他のスタッフもみんなそうだ。あんなに楽しそうにラテアートを描いてる。なんか勝負にばっかり拘っているせいで、本当に大事なものを見失っていた気がする」
「……そうかもしれませんね」
「あれっ、あの人、別の人のラテアートを見ながら描いてる」
「でも大会ではできないでしょ」
「――いや、そうでもないよ。伊織ちゃん、1つ良い方法を思いついた」
「えっ、どんな方法?」
千尋が伊織を呼び寄せ、彼女の耳に手をあてがいながらゴニョゴニョと話した。
まっ、ルール違反じゃなきゃ何でもいい。とりあえず千尋に任せてみるか。
会場に戻ると、試合が始まるまでの間、伊織と千尋が頻繁に会話をしている。この2人の一致率の低さがチーム葉月珈琲の課題となっている。でも何でこの2人の一致率が低いんだ?
「次の対戦はチーム葉月珈琲とチーム穂岐山珈琲、何と日本勢同士の対決です」
ここまで無敗を誇る双璧が遂に激突した。
僕、伊織、千尋の前には、根本、芽衣、沙織の3人が立ちはだかるように立っている。
負けられない。何故かそんな気がした。試合が始まると、順番にフリーポアラテアートを作っていき、順繰りでスチームミルクを作る番を入れ替わりながら3種類の課題をこなし、合計6杯分のフリーポアラテアートを描いた。だが僕が想像していた者とは違う出来栄えだ。伊織と千尋が同時に描いたフリーポアラテアートには、横顔のコアラが気にぶら下がっている様子が描かれている。当初は顔の正面だけを描く予定だったが、まるで伊織に追随するように千尋のラテアートが描かれているのがすぐに分かった。
「――そういうことか」
「あず君も気づいたみたいだね」
「伊織のマネをして描いたな」
「それだけじゃないよ。色々と話している内に、伊織ちゃんは正面の絵よりも、全体的な絵の方が得意だってことが分かってさ。だから左向きの全体像を描きながら、端っこには植物を描いて、それを伊織ちゃんが事前のリハーサルで描いたものを覚えたわけ。予選の課題はランダムだったけど、今回は自分で選べるから、伊織ちゃんは自由に描いて、それを僕がマネする方法を取った。これならモチーフに合わせる必要もないし、スムーズに複雑な絵を描ける」
「考えたな。一致率も80%を超えた。これなら勝てるかも」
「いえ、多分僕らの勝ちですよ」
「えっ……」
チーム穂岐山珈琲の一致率分析が終わると、伊織と千尋の顔が石のように固まり、肩を落とした。伊織と千尋の一致率が改善したものの、平均一致率が90%を超えていたチーム穂岐山珈琲には一歩及ばなかった。ラテアートのうまさでは勝ったが、チームワークで負けた。
葉月珈琲に対する初勝利を飾った穂岐山珈琲の連中が抱き合って喜んだ。
これでもう後がなくなった。しかもチーム穂岐山珈琲が全勝となった場合、チーム葉月珈琲はたった2つしかない敗者復活枠に入ることを祈る立場となった。
敗者復活枠の2つは、各ブロックで2位になったチームの中で、平均一致率が高い上位2チームのみ。つまりここからはより平均一致率に気をつけて描かないといけないわけだ。
「負けちゃいました」
「何言ってんの。落ち込んでる暇はないぞ。今までで1番の平均一致率だ。僕がフリーポアラテアートを描いた時は一致率90%以上だし、何の問題もない」
「どうしてあず君と一緒の時は一致率が良いんでしょうね」
「そんなの決まってるよ。あず君は僕らの癖を見抜いて、それに合わせていたんだよね?」
「よく分かったな」
「だから、僕も伊織ちゃんの描き方に合わせてみたってわけ。伊織ちゃんは球落としを習得していないわけだから、あえて僕も使わないことで、より一致率を高める作戦にしたわけ。つまり、伊織ちゃんはいつも通り、伸び伸び描けばいいってことだよ」
「分かった。じゃあ全体像を右向きに描くようにするね」
弱点を発見したチーム葉月珈琲に怖いものはなかった。
千尋が最も早く気づき、僕らに教えてくれた作戦だ。僕は無意識の内に2人に合わせていたために一致率が高いことも見抜いていた。丁寧に描いたから一致したものとばかり思っていた。手本通りに描くことには自信があったが、手本通りに描きながら、隣に合わせる荒業まで使っていた。
2人のポテンシャルや発想には驚かされるが、僕自身が持つ無意識な才覚にも驚かされる。あくまでも推測だが、長年大会に出続けてきたことで、本能的に大会のコツを理解する能力が目覚めていたようだ。こんなことは前にもあった。何もアイデアが思いつかず、ピンチになった時、些細な出来事から突破口を見出した……花音のヨーグルト入りカレーを思い出す――。
いかん、また食欲が湧いてしまった。今は三度の飯より大会だ。
チーム葉月珈琲は破竹の快進撃を見せた。
伊織と千尋の一致率が上がったことでチームの穴がなくなり、圧勝する試合が多く見られた。平均一致率は徐々に上がり、遂に全員の一致率が95%を超えた。
「なっ、なんと! チーム葉月珈琲、アズサとイオリのフリーポアラテアートの一致率が98.5%を記録したぞぉ! 信じられない! 流石のAIでもこじつけ程度の違いしか見つけられなかったー!」
司会者が舌を巻きながら大きく口を開けた。
パッと見では違いが分からないほどの一致率、紛れもなく大会記録だ。最早シンクロと言っていい領域だった。モチーフに伊織が合わせ、伊織に僕と千尋が合わせ、千尋には僕が合わせる。これがシンプルにやりやすい。よりうまい人が隣の作風に合わせる作戦がここまでうまくいくとは。
松野たちも驚異の一致率に目を見開いている。眠れる虎を起こしてしまったような顔だ。
起こしたのは僕じゃなく、さっきの店舗スタッフである。
「ここまでで7勝1敗ですか。最後の相手も同じ成績みたいですね」
「まっ、他のチームはとっくに2敗して強制ドロップしたからねー。ほとんどはチーム葉月珈琲とチーム穂岐山珈琲が淘汰したようなものだけど」
「久しぶりだな、アズサ」
聞き覚えのある低い声が後ろから聞こえ、思わず振り返った。
次の対戦相手はチームガストーネ。ガストーネとは15年ぶりの再会だ。ちょっとばかりベテランのような貫禄が出てきたようで、もう50代くらいの見た目だ。
「あれっ、もしかしてガストーネか?」
「ああ、まさか歴代最強のバリスタオリンピックチャンピオンになるとは驚いた」
「まあな。あれからどうしてたの?」
「アズサが言った通り、またバリスタをゼロから始めて、今じゃ自分の店を持つまでになった。アズサがバリスタとして成功する方法を研究して、片っ端から試した。アズサほどじゃねえけど、フランチェスカの店と張り合えるくらいにはなったよ」
「フランチェスカはどうしてるの?」
「相変わらずだ。アズサが大会で優勝する度に、まるで自分のことのように喜ぶんだ。しかもチーム戦にも出るから、店員総出で様子を見に行ってほしいって言われたんだが、まさかここで再会するとは思わなかったな。お望み通り、バリスタに復帰してやったんだ。手加減はしねえぞ」
「望むところだ」
僕とガストーネは当たり前のようにイタリア語で話しているが、他の3人は頭を傾げながらチンプンカンプンな様子だった。チームガストーネの3人が準備を始めた。かつて引退に追いやられたはずのバリスタだ。もし僕がいなかったら落ちぶれていたと思うと、少しは貢献できたのかもしれないが、ライバルとして戦うことになるとは露知らず。流れるように試合は始まった。ここでたった1枚の決勝への切符を奪い合う。僕ら3人はいつも以上に集中し、観客の声すら聞こえなかった。
お馴染みのフリーポアラテアートを選び、今回は特に自信のあった薔薇を描いた。準決勝を締めくくるかのように、CFLで優勝を決めたバラを千尋と共に描き、一致率と絵の複雑さの両方で点を取りにいった。これが決め手となり、僕らは見事に競り勝った。
「負けたよ。相変わらず強いな」
「あんたもな。15年前より腕上げたんじゃねえか」
「まあな。決勝までいけるといいな。応援してるぜ」
「ああ、任せとけ」
チームガストーネの準決勝敗退が決定した。
僕らも1敗しているが、これで望みは繋いだ。後は残った1敗チームのみだ。
全ての対戦が終了し、チーム穂岐山珈琲が決勝進出を決めた。
松野たちはハグをしながら喜びを露わにしている。穂岐山珈琲は世界規模の大会でも通用するレベルに到達していた。彼らを全ての呪縛から解放したのは僕だ。
――僕はきっと、最強のライバルが欲しかったのかもしれない。
「穂岐山珈琲、強くなりましたね」
「5年前とは大違いだ。もう僕らが知っている穂岐山珈琲じゃない」
「世界大会を目指す前に、まずは穂岐山珈琲を倒さないといけなくなったわけだ」
「あの、ガストーネさんとは知り合いなんですか?」
「ああ。15年前に大会で出会った。ヴェネツィアを拠点にしているバリスタで、バリスタオリンピックファイナリストになった経験がある。まだ衰えてはいないみたいだ」
「ばっ、バリスタオリンピックのファイナリストって……かなりの凄腕じゃないですか」
「15年前ってことは、もう人生の半分もバリスタ競技会に費やしてるんだね」
まるで物好きでも見るような顔で千尋が言った。
どうせ僕は物好きだよ。それも世界最高峰の物好きだけど。少なくとも、2人のバリスタを競技会の道へと導くことができた。それだけでもバリスタ競技会を続けてきた意味がある。そして今度は誰かがこいつらを目指して、バリスタ競技会に出てくるんだ。この連鎖をずっと続けていきたい。
「正直ここまでハマるとは思わなかった。チーム戦は初めてだけど、結構良いもんだな」
「何終わった気になってるわけ。あず君らしくもない」
「えっ、そうなんですか?」
「そんなわけねえだろ。負けが確定するまでは諦めない。まだ2つ枠があるんだから、何の問題もない」
「いつ発表されるんでしょうね」
「発表があったからもうすぐだ。平均一致率が高い2チームが決勝進出だけど、これじゃ厳しいかもな」
「えっ?」
司会者の発表と共にフリーポアラテアートの平均一致率が発表された。各ブロックで全勝した6チームに加え、決勝進出を果たしたチームを除いた中で、平均一致率の上位2チームが発表された。
敗者復活を果たしたのは、チーム葉月珈琲とチームマイケルの2チームだった。
後半戦で平均一致率を大幅に上げ、無敗のチームを除いて1番の成績だ。総合では3位を記録し、滑り込みセーフだったが、どうにか首の皮1枚で繋がった。
決勝進出を知り、目を輝かせる桜子。
「やりましたね、伊織さん」
「はい、皆さんの力添えのお陰です」
伊織と桜子がお互いをハグしながら喜びを分かち合っている。
あぁ……尊い。この場面だけずっと見ていたい。
「何をニヤケてんの?」
「あの尊さが分からないとは、まだまだだな」
「あぁ~、ああいうのがいいんだ」
「べっ、別にいいだろ」
「でもあの2人、女の子には興味ないみたいだよ」
「分かってる」
「あず君はそういうところ、ホントに鈍感だね」
千尋がさっきから目を半開きにさせながら、冷めた顔で僕を見つめている。でも本当に良かった。伊織と千尋が見事に息を合わせたお陰だし、これも3人で勝ち取った勝利だ。チーム戦の神髄を見せられた気がする。1人では勝てないが、個人の力も重要であるところは、チームスポーツに通じるものがある。
結果発表が終わると、僕らはホテルへと戻った。その道中、伊織と千尋は何人かのコーヒーファンからサインを求められ、ハリウッドスターのような立ち振る舞いだ。腕が疲れてしまうため、サインはほどほどにしておくように言ったが、サイン色紙を渡している時の2人は顔が生き生きしている。
「はぁ~、疲れたぁ~」
「もう腕が動かないです」
「だからファンサービスはほどほどにしとけって言っただろ。僕はそういうことがないように、ファンサービスをしてこなかったんだ」
「それを聞いた時は冷たい人だと思いましたけど、ちゃんと理由があったんですね」
「ただの人嫌いじゃないの?」
「そうでもないと思いますよ。グランドスラムという史上初の偉業を可能にしたのは、長年の努力、徹底した体調管理、バリスタ競技会に取り組む真剣な姿勢です」
桜子が珍しく僕のフォローをしてくれた。
以前から僕のグランドスラム達成を知っていたらしい。
できることなら、桜子にも間近で見せてやりたかった。これから同僚として、共に過ごすことになる連中は、いずれも僕の勇姿を近くで見てこなかった人だけになっていくんだろうが、何かのきっかけを示すことができれば幸いである。それが簡単にできれば、苦労はしないんだが。
シアトルの町を歩いていると、僕らを見つけた松野が再び歩み寄ってくる。
何やら嬉しそうな様子だ。再び戦えることを喜んでいる顔だ。
「葉月、このままいけば、俺たちは決勝で当たる。次も勝たせてもらうぞ」
「松野も自信家になってきたな」
「あの、決勝で当たるって、どういうことなんですか?」
「あれっ、聞いてなかったか? 敗者復活枠の2チームは、明日の決勝トーナメントで、1位通過と2位通過のチームと当たることになってる。あくまでも敗者復活枠だから、それくらいのハンデはないとな。俺たちは1位通過だから、明日の決勝トーナメント1回戦でチームマイケルと当たることになるわけだ。お前らは2位通過のチームフリオと当たる」
「ええっ!?」
伊織が目と口を大きく開けた。決勝トーナメントは準決勝の通過順位に応じた位置に配置されることになっているらしい。上位通過のチームほど、最初の相手は楽に通過できるチームと当たるということだろうか。話を終えた松野は、少し遠くに見えるチーム穂岐山珈琲の連中に合流する。
松野が言うには、僕らと同様にカフェ巡りを始めたらしい。
良くも悪くも、僕は他のバリスタたちの手本となっていたのだ。
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