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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第12章 グランドスラム編
284/500

284杯目「伝染するバリスタ魂」

 ――大会3日目――


 この日の僕は寒さで体が縮こまっていた。


 ようやく夏場に向けて、体が無防備になり始めた頃に、真冬のような寒さが襲ってきたんだ。そりゃそうなるだろう。幸いにもこの日の千尋の競技は昼からだ。それまでは休んでいよう。


「あず君、いつまで寝てるんですか? もうお昼になっちゃいますよ」


 寝ぼけながらそんなことを考えていると、誰かに呼び掛けるような声が聞こえた。全身を覆っていた掛け布団から顔を出してベッドから起き上がると、何かを探すように声の正体へと目を向けた。


「何だ伊織か。お袋みたいなこと言うなよ……ええっ!?」

「!? びっ、ビックリさせないでくださいよ!」

「あっ、ごめん。ていうか何で伊織がいるの?」

「全然起きてこないから優子さんに言われて呼びに来たんです。体が弱いのは知ってましたけど、あと30分後に千尋君の競技が始まっちゃいますよ」

「30分後!?」


 おいおい、もうそんな時間かよ。なんか昔よりも時間の流れが速い気がするぞぉ~。


 急いで身支度を済ませようと、自分の両頬をバチンと両手で叩いた。


 眠気覚ましの気つけなんてあんまりやりたくはないが、千尋の競技が始まるんだ。昨日は見られなかったし、明日の決勝に残ってもWCC(ダブリューシーシー)があるため、見ることはできない。


 僕が千尋の競技をちゃんと見届けてやれるのは準決勝だけだ。伊織はそれを知って僕を起こしに来てくれた。あの距離を往復するのは寒かろう。飯を食う暇もないのは頂けない。会場でホットドッグとコーヒーでも買って観戦しに行こう。映画でも見に行くような気分だ。味が強すぎないといいけど。


「ふふっ、あず君はお寝坊さんですね」

「昔からそうだ。元から朝は得意じゃない。午前中の授業の内容とか全然覚えてない」

「確実に寝てましたよね。私もそうだったので分かります」

「全ての子供が朝に強いわけじゃないのに、毎朝起こされるのが地獄だったなー」

「下校時刻からが1日の始まりでしたね」

「それめっちゃ分かる。結局夜中まで目が冴えてたよな」

「時々お小遣いでカフェに行ってました」

「僕ぐらいになるとな、ただカフェで飲むだけじゃなくて、そこにいるバリスタのコーヒーの淹れ方を見て盗むところまでやる。確か高山市にお手本になった店があったはずだけど、そこのマスターの淹れ方が原点になってる。また行ってみようかな」

「そこ、私も連れていってくれませんか?」


 伊織が大きく目を見開きながら話に食いついた。


 場所は今でも覚えている。高山市にある小さな店でグランドピアノが置かれているのが特徴だった。今の葉月珈琲の祖先と言ってもいい。あそこのマスター、今でも元気してるかな。


 ――プロのレベルで何かをこなせる人は少数派だ。あの人もその1人だった。


「あっ、千尋君が出てきましたよ」

「競技中のバリスタの隣で準備か、あれ地味に緊張するんだよな」

「あず君って、隣の人を気にするんだ?」

「……優子、不意に隣にいるのやめてくれよ。心臓に悪いからさ」

「もう、照れちゃって」


 優子が人差し指で僕の頬をツンツンとつついてくる。


 小学生の時から変わってないな。こういう無邪気なところは。


 千尋がグラインダーやエスプレッソマシンをテストし、特に何の問題もないことを確認する。入念に確認を行うところが実に千尋らしい。敗因を1つずつ確実に消していくところは堅実とも言えるが慎重すぎるとも言える。石橋を叩く性格なのは知っている。こういうところは本当に僕と似ている。


「あず君の競技を見ながら学習したって言ってたのは本当みたいだね」

「確かにあず君の立ち振る舞いと似ていますね」

「基本さえ押さえておけば、国内予選の決勝まではいけるし、動画だけでも学ぶことはできる。でもあそこまで忠実に再現できるほど行動できる人は少ない」

「千尋君は思い立ったらすぐ行動がモットーですから」

「そういうところはあず君に似てるかもね」

「あっ、始まるみたいですよ」


 千尋が定位置についた。司会者から不足がないかを尋ねられ、何もないと返事をすると、小型マイクのテストを行い、センサリージャッジに声をかけ、準備ができたかを確認する。


 司会者から国名と名前を紹介されて会場が盛り上がると、千尋は両手を上げて声援に応えた。


 全ての準備と確認を終えたところで、千尋が大きく息を吸い、静かに吐き出した。


 観客席はシーンと静まり返り、見守るように全員の視線が彼に集中する。


「タイム。僕はコーヒーをもっとたくさん知ろうと中米を回りました。そこには今までに見たことのないコーヒーの可能性が僕を待ち構えていました。ただ甘味や酸味があるだけではなく、複雑な味わいを兼ねながらも、とても美味しい究極のコーヒーがそこにはあったのです」


 予め用意した焙煎済みのコーヒー豆をグラインダーの上から通して粉にすると、手早い動きでポルタフィルターに乗せ、オートタンパーでタンピングしてからエスプレッソマシンの接合部に装着し、エスプレッソを抽出する。この間にプレゼンの内容が説明され、センサリージャッジがメモを残した。


 千尋の説明を聞く時は顔を上げて、手を休めている。


「僕が使うのは2種類のコーヒーです。1種類目はグアドループ島の品種とされるグアドループ・ティピカ・ロングベリー。ウォッシュドプロセス。ジャマイカブルーマウンテンの祖先にあたり、1721年にジャマイカにコーヒーが伝わる7年前、グアドループ島に持ち込まれたティピカで、コーヒー栽培は標高の高いバステール島で行なわれています。18世紀末には本土フランスに年間6000トンものコーヒーを出荷していた時期もありましたが、病害虫とハリケーンによる被害、労働力不足、バナナ生産の拡大によって次第にコーヒー生産は減少し、1965年には統計上のデータから消えてしまったのです。しかし葉月珈琲が投資をしたことで持ち直し、今では販売できるほどにまで回復しました」


 千尋はうちの傘下となった農園まで赴き、そこで珍しい味と出会った。


 そこで出会った彼女たちを携え、うちまで持って帰ってくると、彼女たちから感じた初めての味わいに驚いた。コーヒーのことは全て知り尽くしたと思っていたが、まだ知らない世界がそこにはあった。


 千尋もまた、そんな想いを持ちながら、現地でコーヒーと触れ合っていたことが容易に想像できる。彼の好奇心は僕の想像を遥かに超えている。これからの葉月珈琲を引っ張っていくには十分すぎる逸材である。これほど規格外のバリスタに出会えるとは思っていなかった。


 特にシグネチャーのポテンシャルは僕以上と言っていい。


「このエスプレッソからはキャラメルのようなアロマをお楽しみいただけます。フレーバーは、ブラックハニー、フルボディ。アフターにはメイプルシロップ、レモンティーのような滑らかな酸味からは滑らかで余韻のある酸味を感じます。プリーズエンジョイ」


 次にミルクビバレッジだ。基本的にはカプチーノを淹れることになるが、千尋は他のバリスタのようにラテアートを描くことはせず、牛乳を完全に混ぜ合わせ、カフェオレのような味わいにするのが狙いである。コーヒーと牛乳の相性を最大限突き詰めることが求められる課題だ。コーヒーにとって砂糖と牛乳は最も身近なシグネチャーの食材と言える。千尋は牛乳をスチームノズルに入れてスチームミルクを作り、ミルクビバレッジ用のエスプレッソを淹れている間に話を続けた。


「ミルクビバレッジでは2種類目のコーヒーを使います。このコーヒーはパープラセンス。ウォッシュドプロセス。ブルボンの突然変異種です。根系が発達しているため干ばつに強く、若葉が赤紫色で樹高が高く、側枝の間隔が広いのが特徴です。生豆は細長い形状で2つのタイプがあり、ひとつはブルボンと同じようなサイズと形のもの、別のタイプはロングベリー。非常にレアな品種で商業ベースでのプランテーションはほとんどなく、ベネズエラとホンジュラスで小規模に栽培されています。ハワイの農園では300本程度栽培され、土産用として自家消費されています」


 丁寧に説明をしながら、さも当たり前のように牛乳をコーヒーに混ぜ合わせていく。


 飲む前にスプーンで5回掻き混ぜるように伝えながら提供する。


 ラテアートを描いて提供するバリスタが多い中で珍しい提供の仕方だ。型に嵌りつつも、細かいところで自分流を貫いていく。ただ従うだけでも、自分流であるだけでも、本当の意味でのオリジナルは再現できないのだ。一度も型に嵌らないものを型破りとは言わない。全て形なしだ。


 どこまで嵌るべきか。将又どこから破るべきか。それを見極めることが重要なのだ。


「このコーヒーと牛乳が混ざることで、アーモンドのようなアロマがヘーゼルナッツへと変わり、フレーバーは、ドライフルーツ、フルボディを感じます。アフターにはレモンのような明るい酸味、ロングスイートフィニッシュです。プリーズエンジョイ」


 残るはシグネチャーだが、予め2種類のエスプレッソを2ショット分ずつ淹れると、それを混ぜ合わせてから冷やしておいたものにようやく手をつけた。3つのポルタフィルターを使うことで競技をこなしながらシグネチャー用のエスプレッソを用意することができ、時間の短縮にも繋がっている。


 これでどうするかと思えば、今度はパナマゲイシャから抽出したコーヒーオイル、レモンティーから作ったレモンティーシロップを投入した。基本に忠実ではあるが、そこに個性が表れている。


 シグネチャーを4つのクープグラスに移すと、さっきよりも明るい茶色を帯びた興味深いドリンクとなり、それぞれのセンサリージャッジに提供されていった。


「これらの食材を混ぜ合わせ、新たにシトラスとレモンマートルのフレーバーが生まれます。アフターにはオレンジキャラメル、クリーミーなテクスチャーをもたらします。プリーズエンジョイ。タイム」


 最後にステージ上の掃除をしながらコーヒーの深みを語り、このドリンクを作り上げるまでの熱意を観客に訴えるように話すと、段々と歓声が大きくなっていく。


 ここまでの仕掛けを考えられるあたり、千尋は本当に策士だと感心させられる。


「僕はコーヒーに魅了され、コーヒーに人生を救われました。今後も僕はここまで支えてくださった皆さんと共にコーヒー業界に貢献していきたいと思います」


 拍手と歓声が沸き起こると、僕らは思わず拍手に加勢するように両手を動かした。


 千尋もこれに両手を振って応えた。最後には僕と目が合い、僕に呼び掛けるように手を振った。彼が無事に競技を終えられたことが自分のことのように嬉しいと感じた。


 ――こんな想い、昔の僕だったら感じられなかったな。


 インタビューに答え、明日の競技に期待を含ませる言葉まで貰っていた。


 出番を終えて片づけている最中に隣のステージで別のバリスタの競技が始まった。静かに片づけているところに伊織が駆けつけ、彼の片づけを手伝った。僕も優子も彼の元へと足を運んだ。


「調子はどう?」

「まあまあってとこかな。あず君は明日競技だもんね」

「明日の応援席に君がいないことを祈ってるよ」

「僕も同じことを考えてた。今回は本気だよ。伊織ちゃんに負けるわけにはいかないから」

「優勝トロフィーの数で競争でもしてんのか?」

「まあそんなところだよ。僕はまだ、世界大会で勝ってないからさ」


 千尋の目は本気だった。名実共にバリスタとして認められるには、結果を残すしかない。


 彼は今でも村瀬グループの裏切り者として認識されている。見返すには優勝するのが最も手っ取り早い手段だ。今でも何度か村瀬グループの幹部が交渉しにくるが、返事はいつもノーだ。


 説得しようとすればするほど、その決意は頑なになっていくものだ。千尋は最後の最後まで後を継がせようと尽力する親父に抗おうとしているかのようだ。本当に諦めの悪い連中だ。千尋の親父は病院で療養中の身ではあるが、このまま村瀬グループを放っておけるほど、千尋が冷酷とも言い難い。


 今はどうにか業務提携を結ぶことでどうにか持っているが、業績が悪化するようでは、逃げ切る前にどこかのグループ企業に吸収合併されてしまう。


 経営も段々と傾きかけているし、海外進出をもう少し早めた方がいいかもな。


「千尋君がシグネチャーをあそこまで得意としているのが羨ましいですよ」

「伊織だってできただろ。気楽に考えろ。新しいものを作っていくのは難しいけどさ、できた時の爽快感は一生忘れられないくらいの思い出になる。人生は思い出作りだ。僕らはその過程にいる。思い出を作らずに死ぬなんて勿体ない。伊織はバリスタの仕事がしたいのか、それともバリスタ競技者でいたいのかで迷ってるように見える。僕とてバリスタ競技会の大変さは誰よりも知っているつもりだ。無理に勧めるつもりはない。ただバリスタとしてやっていきたいんだったら、それでもいいぞ」

「――今の私にその判断は難しいです」


 伊織が俯きながら言った。まるでトロッコ問題を解いているような顔だ。


 難しく考えなくていい。休みたい時には休んだっていいんだぜ。


「伊織ちゃんはバリスタオリンピックチャンピオンを目指してるんじゃなかったの?」

「最初はそのつもりでした。でも千尋君がどんどん才能を開花させているのを見て、段々自分じゃ通用しないんじゃないかって思えてきたと言いますか」

「確かにバリスタオリンピックもWBC(ダブリュービーシー)も創造性が要求されるけど、それ以上に要求されるのは、コーヒーに対する好奇心や探求心だ。カフェオレの色は白や黒じゃない。白黒つけないのが答えならそれでもいい。でもな、自分がどうあるべきか、今の自分の生き方が楽しいか、そういったことをちゃんと考えられるようにならないと、一生人生の迷子だぞ」

「いっそのことさー、今年のJBC(ジェイビーシー)に出てみたらどう?」


 背中を押すように優子が言った。それは1つの答えを伊織に指し示しているようだった。


 伊織は何でも自分で決めるよりも、指示される方が向いている。だったらとことん指示通りに動かしてやればいいじゃないかと言いたげである。指示待ち族は扱いが楽だ。だが張り合いがない。


JBC(ジェイビーシー)ですか?」

「うん。前に出たいって言ってたじゃん。千尋君が追い上げてくるのが気になるんだったら、追いつかれないように伊織ちゃんも大会に出ればいいと思うよ。自分がどこまで通用するのか、興味ない?」

「あります。どこまでやっていけるか、私はまだ限界を知りません」

「だったら限界が分かるまで大会に出続けたら? どうせ他にやりたいことないでしょ」

「千尋君に言われたくないです」


 意地を張るようにムスッとした顔で千尋を睨みつけた。


 わざと怒らせようとしているのが分かった。怒りは恐怖と迷いを取り払ってくれる良い薬だ。摂取しすぎると感情を抑えられなくなり、人生を最悪なものにしてしまうが、適度な怒りは自分自身の背中を押すことに貢献してくれる。それが良い結果を生むとは限らないが。人の機嫌を取りながら導けるような器用さはないが、千尋は伊織を怒らせながらも、迷える子羊に大きなヒントを与えている。


「伊織、他にやりたいことがあるんだったら、バリスタを辞めてもいいけど、やりたいことが見つかるまでの間は、何か1つでも多くのことに挑戦してみないか?」


 指示されないと動けない隷属的なタイプなら導くしかない。


 人生は自分で考えることが全てだと思っていたが、これはあくまでも1つの回答にすぎないのかもしれない。伊織はただ、幸せな生活がしたいだけだとすら思えてくる。それこそ、僕のように平穏に過ごすことが最終目標の人間は口に出さないだけでたくさんいる。


 だったら変わっていくことを願いつつ、今は隷属的な彼女に目標を与えるしかない。


「辞める気なんてないです。私はあず君と一緒に仕事がしたいんです」

「だったらバリスタ競技会に出続けることだ。うちはバリスタ競技会で通用する人間を育てる会社だ。それができないなら用はない。自分の頭で考えて生きていけ」

「そんなの嫌です。分かりました。色んな大会に出て、自分をとことん試します」

「……期待してるぞ」


 伊織の頭の上に手を置いて言った。そうこうしている内に片づけが終わった。


 伊織の目からは迷いが消えていた。やはり千尋が睨んだ通り、目標を与えられることで頑張れるタイプのようだ。僕にとってはある意味最も厄介なタイプかもしれん。立派に飯を食える大人になれたが、指示してくれる人がいなければ、さっきの伊織のように人生の迷子になる。


 だがうちに就職したのは幸いだった。他の企業に就職していれば、頑張りすぎて潰れてしまっているところだ。指示待ちに役割集中させるのが日本の企業の十八番だ。


 荷物をまとめた千尋が僕にくっつきながら甘えてくる。


「結果発表が楽しみだねっ」

「分かったからとっとと離れろ」

「ちぇっ。そんな照れなくてもいいのに」

「ふふっ、2人共仲良いね」


 既に昼食を食べ終えた後ではあったが、しばらくして小腹が空いてきた。


 結果発表の時間になるまでの間、近くのカフェでのんびり過ごした。


 千尋はこれからのビジョンを伊織に話した。


 千尋もまた、2023年に開催されるバリスタオリンピックでの優勝を目指している。もし伊織も参加するのであれば、千尋は最大のライバルとして君臨するだろう。次の日本代表はこの2人で決まりかもしれない。そんなことを考えている内に結果発表の時間が迫ってくる。


 会場に戻ると、WBC(ダブリュービーシー)準決勝最後の参加者が競技を終え、インタビューを受けているところであった。千尋は急いで控え室へと戻り、観客席から再び顔を出すのを待った。


「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。それではこの16人の中からWBC(ダブリュービーシー)決勝へと駒を進める6人が決まるわけですが、カナダ代表が時間制限超過による減点により失格となってしまいましたので、最終16位となります」


 こういうこともあるのが大会だ。他のバリスタたちは同情の視線を送りながら拍手を送るが、千尋は毅然とした態度のまま小さく笑みを浮かべていた。その程度のことで潰れるんなら、僕は先に行かせてもらうよと思っているに違いない。そんな気持ちを持てる彼は大会向きだ。


 次々と決勝進出者が発表されていき、千尋の名前も呼ばれた。葉月珈琲勢がWBC(ダブリュービーシー)の決勝に残ったのは、2008年の僕以来、12年ぶりの快挙だ。日本代表としても2017年以来3年ぶりだ。僕も伊織も優子も自分のことのように喜んだが、誰よりも喜んでいるのは彼自身だ。


「明日は決勝となります。彼らに今一度大きな拍手をお送りください!」


 会場は熱狂の渦に包まれた。千尋は喜びと明日への覚悟を噛みしめた。


 千尋は真っ直ぐホテルへ戻り、夕食も忘れてリハーサルに没頭するのであった。

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