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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第11章 飛翔編
280/500

280杯目「告白の決意」

 4月がやってくると、ようやく寒さが落ち着き、温かくなってくる。


 春を象徴するように花が咲き誇り、名脇役のように緑が花を囲っている。


 一般企業では、新社会人や新入生といった恒例行事の象徴が集合するが、うちには新卒という概念自体がなく、季節を問わず入ってくる即戦力や実力ある若手ばかりだ。


 WCC(ダブリューシーシー)への準備も進んでいる中、千尋はWBC(ダブリュービーシー)優勝のために新しい豆を試しているところだ。それを邪魔しないようじっくり見守っていると、久しぶりに唯が木造の階段を踏み鳴らしながら下へと降りてくる。


「あれっ、唯ちゃんどうしたの?」

「柚子さん、あず君いませんか?」

「あず君だったら、そこでぐったりしてるけど」

「あぁ~。やっぱり」


 唯が右手を額に当てながらがっくりと肩を落とした。僕は開店してから間もないというのに体力が尽きている。理由は簡単だ。唯と夜通しフィーバーしていた僕が悪い。日中は唯と瑞浪の2人体制で子供の面倒を見てもらっている。この時が2人にとって最も忙しい時間帯に違いない。体がいくつあっても足りないことがよく分かる。子育てに参加したいが、唯には日中の子育てを断られてしまった。


 夜だけでも唯を癒してあげたくなり、ついつい唯と濃厚接触してしまうのだが、唯はともかく、体力のなかった僕は、こうして真っ昼間からぐったりしているわけで。


 さながら、序盤でスタミナを使い果たしたマラソンランナーのようだ。


「あず君、今日は休んだらどうですか?」

「……そうする。伊織、後は頼む」

「はい。大丈夫ですか?」

「あず君なら大丈夫だよ。唯ちゃんと夜遊びするくらい元気だもん」

「柚子……なんか怖いんだけど」

「あず君、お願いだからこれ以上私たちの負担を増やさないでくれるかな?」


 柚子がメラメラと怒りのオーラを放ちながら笑顔で言った。


 この笑顔が逆に怖い。両腕の握り拳はプルプルと震え、今にも僕を殴りそうだ。


 無理もない。仕事が終わった後は、瑞浪と入れ替わる形で柚子が面倒を見てくれているが、4人目が生まれたあたりからは夜も眠れない日々が続いた。彼女に化粧なんてしている暇はない。そんなことをしなくても十分美人だが、本人は気にしているらしい。


 柚子はこれ以上子供が増えれば、更なる負担を強いられることを知っていた。


 でもそれだけじゃない気がする。ここは唯に聞いてみるか。


 一度2階の自室に退避すると、ベッドに座った途端、隣に唯が音もなく座ると、そんな彼女に甘えるように仰向けになり、唯の膝枕に横たわった。


「あず君なら、今の時間帯くらいにバテると思いました」

「やっぱ仕事と家庭を兼任するのはきついかも」

「ですからあず君は仕事に専念してくださいって言ったんです。大会1ヵ月前なんですから、ちゃんと体調管理しないと駄目ですよ」

「分かってるって。でも昨日の唯はめっちゃ気持ち良さそうだったなー」

「……忘れてください」


 顔を赤らめながらそっぽを向いた。そしてまた僕と視線を合わせた。


 唯は陰から僕の健康を支え続けてくれていた。最近は僕がずっと勝ち続けること以上に、常にコンディションを保ち続けられることに評価がフォーカスされている。何だかんだ言っても、ただ実力がある人よりも健康に長くプレイし続けられる人の方が評価が高い。


 唯は料理にも気を使ってくれた。大会前にはスタミナがつく料理を作ってくれるし、味覚を使う大会の時には味が薄めの料理に徹してくれた。唯は栄光の裏側を象徴している。


「唯、明日休みだからさ、子供も連れて一緒にデートするか」

「えっ、でも来月には大会ですよね?」

「休めって言ったのは唯だろ。それにホームスクーリングをやるって決めたんだしさ、もっと色んな所に連れていきたい。子供たちの知見を広げる上では重要だと思うぞ」

「それなんですけど、子供たちを入学式だけ登校させて、それで様子を見ようと思ってるんですけど」

「まあ、入学式くらいなら別にいいか」

「――今何て言いました?」

「様子見くらいなら別にいいって言ったんだよ。学校ごときで潰れるようなら、早めに潰した方が楽になれるってもんよ。それで早期不登校にでもなってくれればこっちのもんだ。それに教師とか同級生の言うことなんか聞かなくていいって釘打ってるしな」

「意外な返答ですね」


 唯が戸惑うのも無理はない。これも子供たちのことを考えて決めたこと文句は言わない。それに子供たちが集団生活に向かないって決まったわけじゃないし、順応できるならそれに越したことはないとは思うが、生きる力が育っていないなら、その時点で引き上げさせればいい。


 通学させるのも実験、不登校にさせるのも実験。


 だったらより良い結果になる道を模索するしかない。


「別に大成しなくてもいいけど、飯を食える大人にはなってほしい。僕らがいなくなっても生きていけるだけの力を持ってほしい。社会の役になんか立たなくてもいいからさ、人生を謳歌できる人間になってほしいんだよ。そこまで育てるのが親の責任だと思うしさ」

「子供がニートになったら、家を手伝わせてるんですよね?」

「あくまでも最終手段だけどな。今だったらゲームの配信を垂れ流しにしているだけで、稼ぎながら自分のコミュニティを作れるんだからさ、別に焦る必要はない。集団生活ができないくらいで餓死するほど世の中は単純じゃない。昔だったら外に出て人に会いに行くような仕事しかなかったけど、今は家で仕事ができる。無理に嫌な連中と合わせる必要もない」

「あず君の二の舞になってほしくはないと」

「そゆこと。世界の広さを知らなくても生きていける。子供の将来については特に心配してない。合わなかったら自分から行きたくないって言うだろうし、親に必要なのはな、子供に好きなことをさせる覚悟だ。子供の決断を馬鹿にしちゃ駄目だ」

「親になったばかりなのに、まるでベテランのように知り尽くしてますね」

「むしろ知らないことだらけだ。でも1つ確かなことがある。どうせ何かを強制したところで、大人になる頃には忘れているということだ。苦手の克服とか、誰でもできることを覚えさせたりする必要はないと思った。紫が生まれた時、僕はその覚悟をした。君にその覚悟はあるか?」


 本来であれば5年以上も前に聞くべきことを今聞いた。あの時は子供のことを考える余裕なんてなかった。自分のことで精一杯で他の人のことなんて考えられなかったけど、今なら十分に構ってやれる。


 そんな気持ちが……自然と言葉に表れていた。


 唯はクスッと笑いながら僕の肩に寄り添った。


「とっくにできてます」

「なら良かった。分かってたけど」

「だったらどうして聞いたんですか?」

「万が一口先だけだった場合でも覚悟をさせられるから」

「仮にも4人の子供がいて、覚悟がない人なんていたらやばいですよ」

「ふふっ、唯は逞しいな」

「そりゃ逞しくもなりますよ。出産してもすぐに痩せちゃうんですから」

「唯は頑張り過ぎな。子供はほっといても育つもんだ」

「あず君はそうだったんでしょうけど、子供たちはどうか分かりません。たとえ血が繋がっていても、必ずどこかで親の性格と分岐しますから」

「その時になって良い方向に分岐させる手伝いをするのが親の役割だと思ってる。どうにもならないことくらい分かってるけど、親になると、ついそんなことを考えちゃうわけよ」


 部屋の前の廊下で燥いでいる子供たちを見つめた。


 何でうちの親が必要以上に僕の心配をしていたのかが、少し分かった気がする。


 不安なことは何もないと言いつつも、ついつい子供の方を見てしまう。危なっかしくて見ちゃいれないんだよなー。見えるもの全てに興味を持ち、片っ端から手を出そうとする。大人になってもあの状態を保てれば飯を食えるのに、何でみんなそれを抑制しようとするんだろうか。良い子になればなるほど自分から動けなくなるのだが、それならやんちゃ坊主でいてくれた方がずっとマシだと思う。


「あず君もようやく分かってきたみたいですね」

「自然に分かるもんだな。とりあえず今日は動画編集に徹するか」

「その方がいいみたいですね。今夜もいっぱい癒してあげますね」

「また子供が増えたら柚子が怒るから、しばらくは辛抱な」

「私はもっと増えても大丈夫ですよ」


 唯が僕の左肩に豊満な胸を押しつけた。僕にはそれがたまらなく嬉しかった。これ以上みんなの負担を増やすわけにもいかない。しばらくは我慢するか。


 翌日、正午を迎える前に僕らは家を留守にした。


 僕、唯、柚子、瑞浪と4人の子供たちと一緒に出かけると、みんな久しぶりの外に大喜びだ。1人につき1人の面倒を見ることになり、僕は雅の面倒を見ることに。


 雅はうちの長男なだけあって冷静な子供だった。アウトラインが丸く見える黒い短髪が可愛らしく思えた。短パンにTシャツがとても似合っている。こうしてみると、子供の頃の僕を思い出す。素直で穏やかなところは唯に似たようだ。至って温厚で優しい性格だ。営業には向かないだろう。外に良い奴はいないし、良い奴はいらないとされる世界だ。それじゃ続かない。


「……親父」

「ん? どした?」

「カフェオレ飲みたい」

「じゃあ帰ってきたら作ってやるよ。お前はホントにコーヒー好きだな」

「親父だって、いつもコーヒー飲んでるでしょ」

「ああ。葉月珈琲の社長だからな」

「じゃあ僕も葉月珈琲に入る。世界一のバリスタになる」

「おー、夢がでかいなー。その気持ちを大人になってもずっと持ち続けろよ」

「うん。僕も親父みたいなバリスタになる」


 息子は僕の後を継ごうと鼻を天狗にしながら意気込んでいる。


 誘導したわけじゃない。普段の僕の姿を見ている内に影響されただけだろう。


 職人の子供が職人になりやすいのは間近で親の仕事ぶりを見ているからだ。サラリーマンみたいに、親の仕事ぶりが見えない状態だと、子供にとって働くことがどんな状態なのかが分かり辛い。親がどんな仕事をしているのかを一度でも子供に見せておくことは大事だ。


「楽しみにしてるぞ」

「うんっ!」


 しばらくは岐阜城を中心に回り、子供たちから目を離さないようにしながら唯と一緒に歩き、岐阜市内を巡礼するように歩いた。青空の真下にあった木造のテーブルで昼食を取った。サンドウィッチや唐揚げなどが入っている弁当を唯が開けると、子供たちは目をキラキラと輝かせ、獲物を狙うように好物を見つめている。子供たちは食欲旺盛で、紫と雅の2人はいくら食べても足りないくらいに平らげた。


 食べ残しが出ずに済むのは子供と一緒に食べるメリットかもしれんが、子供の中には食が細い子もいるから考えものだ。子供だからといってたくさん食べればいいものでもない。


 子供たちの様子を見て決めるしかない。


 席から少しばかり離れ、子供たちを見守っている時だった。


「あれっ、もしかしてあず君ですか?」


 真後ろから昨日聞いたばかりの声が聞こえた。


 振り返ってみると、そこにはフリルのスカートがとてもよく似合う伊織の姿があった。額の真上あたりにある前髪には僕が彼女の誕生日にプレゼントした赤いハートのヘアクリップをつけている。


「伊織……何でここに?」

「私、ずっと家でこれからのことを考えてたんですけど、考えてばかりじゃしょうがないので、たまには外に出てアイデアを探しに行こうと思ったんです」

「へぇ~、伊織ちゃんも先のことを考えてたんだねー」


 またしても聞き慣れた高い声に反応して再び前を向くと、子供たちに紛れていた千尋がさも当たり前のように椅子に腰かけ、唯の作った唐揚げを一口で食べていた。


 ――こいつ、とことんマイペースだな。行動が自由すぎる。


 しかも気配すら見せずにのうのうと弁当を食ってやがる。


「千尋君……いつの間に」

「唯さんの唐揚げ美味しいねー。丁度良い味つけだと思うよ。脂の味が薄めなのは、あず君に対する配慮かなー。ラブラブだねぇ~」

「明日香とはどうなの?」

「それがさぁ~、あの一件以来ずっと仲が良くてねぇ~。苦楽を共にしてからは、お互いにちゃんと意見を言い合えるようになってね。子育ての方針も決まったよ」

「どんな方針かな?」

「子供の幸せを第一に考えて、極力余計なことはせずに、子供がやりたいことを見つけたら背中を押してやれる親になる。あず君言ってたよね。どんなにIQが高かろうと、相手を不幸にしてしまう人は頭が良い人とは言えないって。だから何があっても子供を幸せにする。まずは明日香を幸せにしないと」


 千尋は僕の言葉をかなり気にしていたようだ。彼は頭が良い人の定義を履き違えていた。


 いや、アップデートできていなかったのだ。ただ暗記ができる人を頭が良いとは言わないのだ。


 頭が良いってんなら、少しは世のため人のために使ってほしいもんだ。それができなければ、世の中的には宝の持ち腐れでしかないし、ましてや社会の害になるようでは馬鹿呼ばわりされても仕方がないと思っている。千尋は曲がったことが嫌いだ。うちにくるまでは会社に馴染めなかった。


「明日香はどうしたの?」

「美濃羽理容店で働いてるよ。子供は日帰りのハウスキーパーに任せてる」

「千尋、子供が成長してきたら、一度は職場でどんな働きをしているか見せてやれ」

「それはいいけど、何で?」

「ニートの親って、みんな子供に自分の働きぶりを見せたことがないんだと思う。だから子供としては働くことがどういうことなのかをイメージしにくい。職人の子供とかは大体職人になってるだろ。労働が身近に感じるようになれば、無気力ニートになることは防げると思う」

「何でそう思うの?」

「うちの子がバリスタになりたいって言い出してさ、理由を聞いたら、僕が毎日コーヒー飲んでるのを見て自分も飲みたくなったんだってさ。だからカフェオレを淹れてやった」

「なるほどねぇ~。流石はあず君の子供だとは思ってたよ。うちの子もコーヒーかお酒を好きになるのかな。あっ、でも酒好きになるのはまだ早いか」


 まだ19歳だってのに、もう酒の話してるし。


 千尋はウィーンに行った時、アイリッシュコーヒーやワインを飲んだ時のことを思い出しているようだった。全然酔わなかったあたり、流石は酒造グループの息子だと思った。


「あず君、子供たちは私たちで見てるから、あんたは唯ちゃんと話してきたら?」

「えっ、何で?」

「一緒にデートするために外に出るって言ってたでしょ」

「ふ~ん」


 千尋が目を半開きにさせながら、顔をニヤニヤさせている。


 かと思えば、行けと言わんばかりに、顎を唯の方向に向けた。


 結局、彼らの厚意に甘えることに。唯と伊織が楽しそうに話している。


 話題の中心にいるのはいつだって僕だ。他のネタを知らないのかと言ってやりたいところだが、コーヒーの話をしようにも、唯は妊娠期間や授乳期間が長くて、コーヒーをロクに飲めていない。


 一度でも第一線から離れると、それだけに不利になる。特に女性の場合は顕著に表れる。妊娠と出産を終えた後は、どこまで続くかも分からない育児が待っている。唯が僕を育児に参加させてくれない。仕事に支障をきたすことを嫌っている。言ってしまえば、僕みたいな人間が育児に参加するのは全盛期の選手が出兵しにいくようなものだ。唯は僕の人生の邪魔をしたくないのだ。


 唯を呼び寄せ、岐阜市を見渡せる所まで一緒に赴いた。


「あず君、こんなところまで呼び出して、一体どうしたんですか?」

「唯、グランドスラムを達成したら、僕にも育児をやらせてくれ」

「ええっ!?」

「静かに。聞こえるだろ」

「す、すみません。でもそれ本気で言ってるんですか?」

「本気だけど」

「でもあず君がバリスタ競技会に参加していないところなんて想像できないですよ」

「……かもな。僕だって想像できない。でも決めた。だからここで優勝を決める。そしてこれからは僕も育児に参加させてもらう」

「……そうですか」


 シュンとした顔のまま、唯が目線を地面に向けた。


 決して彼女が望んだ結果でないことは分かってる。だがこれ以上バリスタ競技会に挑んだところで、家庭を犠牲にする夫のような構図になってしまいかねない。そんな気がしたのだ。


 正直に言えば、グランドスラムを達成した後のことなんて何も考えていない。また何かしら大会に参加しようと思えばできるのだが、バリスタ競技会を一通り制覇した後もずっと参加し続けるのはどうかと思った。他にもバリスタの大会はあるが、僕が出て実力を示すよりも、大会自体のレベルを上げたい気持ちが勝っている。白紙の1ページにまた新たな予定が刻まれた。


 バリスタトレーナーになって、色んなバリスタを世界へと導きながら育児にも参加する。


 バリスタオリンピックを目指さないのであれば、バリスタ競技者でいる意味が薄い。


 それほどにまでコーヒー業界がハイレベルになったのだ。


 風が空を見上げる僕の長髪を靡かせた。


「でも、バリスタの仕事は死ぬまで続けるぞ。何があっても、これだけは生涯現役だ」

「そうしてくれないと困ります。コーヒーあってのあず君なんですから」

「なあ唯、もし僕が起業してなかったら、こうして一緒にいることはなかったのかな?」

「それでもどこかで出会って、こうして一緒にいたと思いますよ。歴史の修正力です」


 唯がまた豊満な胸を僕の腕に押しつけた。ちゃんと言いたいことを言えて内心ホッとしている。何も思いつかないということは、多分そこがその道のゴールに違いない。それはまた新たな道の始まりだったりする。何かを始めるには、何かを捨てなければならない。


 僕のアイデンティティでもあった……バリスタ競技者というある種の役割は、僕に大いなる希望をもたらしてくれた。今度は僕がバリスタ競技者を育てていく番だ。


 今とは比べ物にならないほどレベルの高いバリスタ競技会を作り上げていく。


 それがコーヒー業界に貢献することであるなら、喜んで退こう。


「そうだといいな。他にやりたいこともいっぱいあるし、葉月珈琲で宣伝活動を続けながらコーヒーに携わっていこうと思う。バリスタにも色んな生き方があっていいはずだ」

「ここ数年で本当に変わりましたね。今年で終わらせるつもりですか?」

「そうだ。だから今回は本気を出す」

JCC(ジェイシーシー)の時も本気だったじゃないですか」

「バリスタオリンピックほどじゃない。あの時は命懸けだった。もう一度だけ……命懸けでやってみる。最後に僕の本気を示して終わらせる。昔っからのんびり暮らすのが夢だった。ようやくそれを叶える時が来たんだ。競争から脱出する時が」

「あず君ならできますよ……きっと」


 唯がにっこりと笑顔を見せると、僕と唯の久しぶりのデートが終わりを告げるように、子供たちが僕の周囲に走りながら集まり、勢いそのままに抱きついてくる。


 後ろには伊織たちもいる。僕らは再び合流してからすぐに下山するのであった。

第11章終了です。

次回から12章です。

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