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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第11章 飛翔編
279/500

279杯目「変化を恐れず」

 3月を迎えると、以前から続いていた寒さは少しばかりマシになった。


 忘れた頃に相川がうちに遊びに来てくれた。出会ってから度々店に来てくれるようになったが、これほどハマってくれるのはバリスタ冥利に尽きる。


 彼の次男も一緒のようで、うちの紫と凄く仲が良い。どうやら2歳年上のようだ。


「プロのバリスタって、今どれくらいいるの?」

「全国だと100人は超えてるかな。うちだけでも30人はいるし、そいつらの中から誰か1人でも世界一に輝いてくれたら、うちにとっては立派な宣伝になるし、世界一を取った奴も飯を食っていけるようになるし、ギブアンドテイクが成り立つわけよ。個人への投資が会社への投資にもなるってわけだ。世界一のバリスタを輩出する会社なら世間も認めざるを得ない。うちはそうやって成長してきた」

「実力で認めさせるのが1番カッコ良いよな。俺が住んでるシンガポールでもあず君が話題で、どこでも見過ごせない存在になってるかもな」

「1番見過ごしたくないのは君じゃないのか?」

「バレたか。あず君は誰もやったことのない偉業に挑戦してるからさ、なんか応援したくなる」


 相川は以前からずっと僕を見守ってくれていた。何かしらやってくれるだろうと思っていたようで、僕がアジア人初のバリスタオリンピックチャンピオンになった時も涼しい顔をしていたという。


「あの時は負けたと思ってたなー。予選は8位で準決勝は4位だったし」

「全部門でレパートリーポイントを稼ぐのは、僕以外誰もやってなかったのを見てできると確信した。ただ、あの時はホスピタリティが足りなかった。それに気づかせてくれたのが元同級生の連中だった」

「学校行ってなかったら、そこで詰んでいたとか思わなかったの?」

「それはない。歴史には修正力がある。僕が最初から不登校であったとしても、どっかで出会った奴が気づかせてくれたと思ってる。僕にとって学校は大きな遠回りだった」

「でもさ、俺は遠回りしたお陰で、視野が広くなったと思ってる。駄目なものが分かるようになったからこそ、ちゃんと良いものが分かるようになった。何事も経験だと思えば無駄なことはねえよ。良いことがあったら励みにすればいいし、嫌な目に遭ったら糧にすればいい」


 軽い口調で相川が言った。こんなことを言われると、物事を重く捉えすぎていた自分が馬鹿馬鹿しく思えてしまう。人間としての格は完全に僕の負けだ。


 相川のように全てから学ぼうとする姿勢がある人は必ず成功する。しかも俳優のような顔、長身で細身の筋肉質。欠点を探す方が難しい領域だ。英才教育ってすげえな。


 ここまでの男に注目されてるってことは、僕もそれなりの人間にはなれているのかもしれん。


「IT業界の第一人者は言うことが違うな」

「それを言うなら、あず君だってコーヒー業界の第一人者だろ」

「まだそこまでじゃねえよ。やるべきことがある」

「グランドスラムだろ。応援してる」

「ありがとう。マイスターがそこまで言ってくれるんだったら、優勝するしかねえな」

「ほとんどの人はみんな初めての参加なんだろ?」

「それはそうだけど、僕には今までの積み重ねがある。どの部門も一度攻略したものばっかりだ。今までの多様な大会にどれだけ参加してきたかが問われる大会だと思った。バリスタオリンピックと違うところは、プレゼンとシグネチャーがいらなくて、ロースティングとカッピングが必要なところだけど、どれもバリスタとしての基本を問うものばかりだった。シンプルだけど難しい」

「やっぱりあず君は、今まで見てきたどの人間よりも面白いな」


 相川が笑いながら言うと、近くでドリップコーヒーを淹れる作業をしていた伊織に声をかけ、ゲイシャのおかわりを注文する。今や完全にサブとなってしまったフードメニューだが、味は落ちていない。


 僕が作ることになる場合もあるが、こっちも好評のようで、リサたちが作ってくれた新メニューのリストの通りに作るのみで本当に楽だ。審査に合格した料理だけがうちのメニューとなり、会社の動画でも公開されるため、採用されるだけで大きな宣伝となるが、コーヒーの開発を頑張らないと、フードメニューに人気を独占されてしまうという構図だ。油断なんて微塵もない。


 あまりにも好評すぎて、コーヒーより人気になってしまわないか心配になるほどだ。ラーメンから作ったカルボナーラもカフェには合わないと思ったが、日本人客には好評だった。


「あず君以外にも、骨のある人がまだいたんだね」


 裏でコーヒーの開発をしていた千尋がひょっこりと顔を出した。


 クローズキッチンは事実上の千尋研究室となっている。


 コーヒーやシグネチャー用の材料でいっぱいだ。定期的に掃除しないと、荷物だらけになりそうで怖いんだが、こういう奴には掃除をしてくれる伴侶がいて正解だな。


「一応言っておくと、マイスターもこっち側だ」

「そんな気はしてた。オーラが全然違うもん」

「あれっ、もしかして村瀬千尋君?」

「うん。今はここで修業中の身だけどね」

「会社を継いでいれば、もっと楽な人生だったのに、自分からそれを降りるなんてなかなかできることじゃねえよ。あず君といい、千尋君といい、葉月珈琲は面白い奴ばっかりだ」

「マイスターさんだって、自分で事業立ち上げてるじゃん」

「バレたか」


 2人は共に周囲が馬鹿ばっかりに見えるくらいの天才だ。


 お互いのことを暗に認め合っていることがもう分かった。すぐ意気投合したかと思えば、まるでつき合いの長い旧友であるかのように、これからのことを語り合っている。自分のためじゃなく、あくまでも世の中をより良いものにしようと奮闘してきた2人だ。曲がったことが嫌いなところも一緒だ。だからこそ世間に逆らい、自ら組織から抜け出し、道を切り開いてきた。


 相川はITの仕事を通じて世の中の仕事をリモート化しようと奔走していた。効率良く利益を稼ぐだけじゃなく、無駄な仕事を減らすことで世の労働者たちの負担を減らす努力まで行っていたのだ。社員がみんな先進的で保守的な社員はいないらしい。まさにうちが求めていた要素を全て揃えている。


 だがそのまま導入すればいいというものではない。飲食業界とIT業界はニーズが全く違う。全てにおいて効率化すべきなのはインターネットによる仕事の仕組みだ。飲食の本質は客を呼び込み、のんびりと飲食する時間と空間を提供することにある。


 効率という観点で見れば、のんびり飲み食いするのは無駄でしかない。


 人は無駄を楽しむ時間と余裕がなければ、人生を楽しむことができない。


 真理愛がタブレット注文を導入しつつも、口頭での注文も可能にしているのは、客と話す時間を楽しむためだし、ここは飲食業界の難しいところだな。


 葉月珈琲は不要不急の無駄を楽しむ店にしよう。


「あっ、注文いいかな?」

「あの、うちではタブレット注文になっているんですが」

「伊織、口頭でもいいぞ」

「いいんですか?」

「うん。タブレットでも口頭でもいい」

「分かりました」


 しばらくは様子を見守った。伊織がいつものようにタブレット注文を促していたが、口頭での注文を可能にすることで、ただ注文を受け付けるばかりか、客との世間話を楽しむことさえできていた。


 無駄を楽しむ感情は効率化できない。いや、効率化なんてする必要もなければ省略する必要もない。僕は肝心なことを忘れてしまっていた。この客もタブレット注文に慣れていないんじゃなく、どうやらうちのスタッフと話したかっただけみたいだ。こういう客もいるんだってことを改めて思い知った。


 うちのスタッフにメロメロなのがすぐに分かった。


 伊織は史上初めて1年に複数種類のバリスタ競技会で優勝した。僕も成し遂げたことのない実績に、伊織は早くも葉月梓2世というあだ名まで貰い、その重圧を一身に受けた。後の話ではあるが、この時点で気づいていれば、伊織をあそこまで苦悩させることはなかったかもしれない。


 接客を終えた伊織が、疑問を浮かべた顔のまま戻ってくる。


「あず君、一体どうしたんですか?」

「どうしたって、何が?」

「タブレットですよ。口頭でもいいなんて、何だかいつものあず君じゃないと思ったんです。スタッフの負担を減らすためにタブレットを始めたんじゃないんですか?」

「それはそうなんだけどさ、うちは飲食店でもあるけど、ファンからすれば、スタッフとの交流を図れる場所でもある。注文だけを受け付けていればそれでいい店ではなくなった。今後はタブレット注文と口頭注文のどっちでもいいようにする」

「さっすがあず君、行動が早いねぇ~」

「なんか去年までのあず君と全然違う気がします」

「何言ってんの。去年と全く価値観が一緒だったら、それは思考停止を疑った方がいい。時代の変化に柔軟な対応をするには、価値観も多種多様にならねえとな」


 たった1つの思考で凝り固まってしまえば、そこから先への成長は望めない。変化を恐れない気持ちが今の時代には求められている。伊織は年々変わりゆく僕に戸惑いを感じている。そんな伊織も途轍もなく可愛い。相川は伊織を見ながらコーヒーを口に含んだ。


 並々ならぬ期待はすれど、それを表に出すことはなかった。プレッシャーに弱いことを見抜いていたようにすら思えた。競技中はまるで無観客であるかのように集中できるというのに。


「別に構いませんけど、方針を変える時は事前に言ってください」

「分かった。そうする」


 いっちょまえに意見は申せるものの、まだ主体性を持つには至らないか。


「あっ、そうだ。伊織、今年は大会出るの?」

JBC(ジェイビーシー)に出ようかと思ってます」

「ということは根本とぶつかるわけだ。千尋、2ヵ月後のWBC(ダブリュービーシー)には必ず優勝しろよ。じゃないと次のJBC(ジェイビーシー)は伊織と根本と競うことになるぞ」

「分かってるよ。伊織ちゃんに根本さんまでいるJBC(ジェイビーシー)とか魔境だからね。ライバルがいない内に優勝させてもらうね」

「千尋君は今年の国内予選に出るんですか?」

WBC(ダブリュービーシー)が終わってから考えるよ」


 千尋は解答を先送りにした。まずは目の前の大会に集中したいと言わんばかりだ。言うべきことを言い残してからクローズキッチンへと戻っていく。伊織も仕事に戻るかのようにモニターを見上げた。


「ふふっ、見ていて全然飽きないな」

「君と対等に会話ができる奴もいれば誰にでも合わせられる奴もいる。企業には多様な人材が必要だ」

「それは俺も同感だな。部署が変われば適性も変わるし」

「同じバリスタでも、大会向けと動画向けの人がいる。伊織とか千尋みたいに、倒せるもんなら倒してみろよと言わんばかりの闘志を持っている人とか、自分の限界を知りたくてしょうがない人は大会向けだし、投稿部の連中みたいに、実績よりもプロセスを重視する人とか、黙々と作業をこなせる陰キャは動画向けってわけだ。やっぱ人事はパズルだな」

「誰が陰キャだって?」


 ふと、横を見て見ると、そこには大輔と優太がカウンター席に腰かけていた。


 大輔は不貞腐れてムスッとした顔だったが、優太は苦笑いをしながら僕らに声をかけ、この場の雰囲気をどうにか収めようと、大輔の真横に陣取っていた。


 来てたのかよ。全然目立たない上に、話に没頭してたから全然気づけなかった。


「あれっ、なんかあったの?」

「普通に飲みに来ただけだ。コスタリカゲイシャのエスプレッソを頼む」

「じゃあ僕も同じやつ頼もうかな」

「分かった。伊織、コスタリカゲイシャエスプレッソ2つ」

「あれっ、タブレット注文だけじゃなかったっけ?」

「口頭でもいいことにした。ただ注文するだけならワンオペのチェーン店で十分だ。うちはスタッフを有名にして、アイドル文化のある飲食店としてやっていく方針が合ってると思った。タブレット注文だけにしたら会話の量が減ってしまう。だから人と会話をするのが億劫な人のためのタブレットということにした。これならどっちのニーズにも対応できる」

「へぇ~、あず君も丸くなったねー」


 優太が僕の変わりように感心する。小夜子たちが言っていたように、1周回って元に戻ったのかもしれんな。ずっと頑なだった自分になる前までは、もっと視野の広い子供だった。


 良くも悪くも子供に戻ったんだろう。これぞまさしく原点回帰ってやつだ。


「生活はどう?」

「お陰様でレールに戻れた気分だ」

「お兄ちゃんはずーっとレールに戻りたがってたもんね」

「まだあんな虚構に縋りたいのかよ」

「俺はただ平穏な暮らしがしたいだけだ。そのために自分を捨てて周りに合わせてきた。なのにずっと就職氷河期のせいでうまくいかなかった。あず君の言う通りだ。俺は流されてた。あれは俺みたいに、先のことをちゃんと考えてこなかった連中への罰かもな」

「氷河期世代は犠牲者だ。時代の変わり目に大人になった人は今まで学んできたことと真逆の環境に馴染むことを余儀なくされる。子供の頃は武士になれって言われてきたような連中が、大人になった頃に刀を捨てろなんて言われたら、そりゃたまらんわな」

「確かにねぇ~。お兄ちゃんはそれで苦労してきたし」

「同情すんなよ。惨めに見えるだろ」


 大輔が横目に優太を見ながら言った。プライドと同じくらいアンテナも高くすることだな。大輔のように、僕がいなきゃどうなってたか分からない人が親戚に多いのは本当に笑えない。


 危うく時代の波に飲まれるところだったな。葉月珈琲は親戚たちの失敗を教訓に、時代の変化に合わせた柔軟な対応をしていく方針だ。親戚内には僕に反論できる者は1人もいなかった。


「……同情なんかじゃないよ。僕も雇用が冷え切ってから就活した世代だし」

「具体的にどれだけ酷かったの?」

「就活の時期に正規雇用が一気に落ち込んで派遣社員。その後やっと正規雇用になるかと思ったらリーマンショックでおじゃん。その後も何度か不採用になって、やっと内定を取ったかと思ったら、内定した企業の本社が東日本大震災で津波に流されて、内定取り消しだ」

「うわぁ……」


 千尋があからさまに同情の視線を大輔に向けた。


 思わずクスッと笑ってしまった。千尋はこれでもかというくらい素直な反応をする。大輔からすれば千尋は息子くらいの世代だが、大輔の子供はまだ生まれたばかりである。


 確か優太の子供より丁度1歳分年上だったな。


「だから同情すんな!」

「同情じゃないよ。哀れみだよ」

「一緒じゃねえか!」

「……バレたか」

「「「「「あはははは!」」」」」


 人をからかうのが本当に好きだな。いつか刺されないといいけど。


 こんなジョークを言えるのも、大輔と優太がそれなりに報われていることを見抜いているからだと思いたい。行動力はあるが、こっちまで肝が冷えることもあるんだよなー。


 大輔は今年で40歳、優太は36歳だが、この2人はもう1つ問題を抱えている。


 所謂7040(ななまるよんまる)問題と呼ばれるもので、やっと平穏な生活を手にいれた2人には年を取っていく両親の世話がつきまとうことに。おっちゃんやおばちゃんも老境に差し掛かり、いつ労働者を引退してもおかしくはない。そうなった時に年金だけでは生活できないわけだが、もし子供を頼ることになる場合、生活の負担を強いられることになるかもしれない。親父も最近になって兄である哲人のおっちゃんの様子を見に行っていたし、ホントこの世代は苦労が尽きないな。


 1人きりになる頃には50を過ぎ、下手をすれば何のスキルもないまま死ぬまで齷齪する一生を送らされる。ちゃんとレールに乗ろうとしてこれだもんな。何というか、救いはないのかと言いたくなる。


「でもまあ、あず君のお陰で就職も結婚もできたから今は安心してる。あの時あず君の夢に反対して、レールに誘導しようとした自分が恥ずかしいよ」

「まあ、大輔よりも親父の方が厄介だったけどな」

「親戚はみんなあず君に助けてもらう形になったし、あず君に足を向けて寝られないね」

「何言ってんの。無敵の人にでもなられたら困るから、こうして国の代わりに生活保護を与えているにすぎん。うちは生活保護を断られて、それからコーヒーよりずっと苦い経験をしたことがあるからさ、みんなの苦労を労いたい気持ちもあるわけだ」

「やっぱり同情じゃねえか」

「嫌なら独立したっていいんだぞ。誰も止めやしねえよ。後になって独立するのを止めようとした自分が恥ずかしいなんて、僕は死んでも言いたくねえからな」

「お前なー」


 呆れ顔の大輔がテーブルに突っ伏した。


「ふふっ、冗談だ」

「お前の冗談は冗談に聞こえねえんだよ」

「あず君もからかうの好きなんですね」


 トレイを両手に持っている伊織が目を半開きにさせながら言った。


 伊織の家も貧しかった。それ故この手の冗談には乗りにくいと見える。


「じゃあ俺、そろそろ帰るわ。これから東京で仕事だ」

「またテレビか?」

「ああ。今は色んな仕事をしているからさ」

「僕も一歩踏み出していれば、今頃は移動ばかりの日々になっていただろうな。でも僕は日光も大都会もあんまり好きじゃないからさ、たまーにテレビの取材を受けるくらいに留めてる」

「それでいいと思うぞ。どんな時もマイペースに生きるのが1番だ」

「息子は何て言ってた?」

「葉月珈琲で修業したいって言ってたから、まだやる気があるようだったら、面倒見てやってくれ」

「了解した」


 会計を済ませた相川がカッコつけながら扉を開けて去っていく。扉がバタンと閉まると、僕らは彼の後姿が見えなくなるまで目で追った。まさしく生きる伝説を目に焼きつけるように。


「――なあ、もしかしてあの人、相川秀樹さんか?」

「そうだよ。知らないの?」

「相川秀樹って誰?」

「IT業界の第一人者と呼ばれてる人。色んなアプリやツールを開発したり、大学で講師を務めたり、テレビにも出演したりと、色んなことをしてる人だよ」

「絵に描いたような成功者だな」

「あず君もテレビに出られるんじゃないの?」

「やだよ。テレビに出たところで、視聴者は僕が言っていることの半分も理解できないし、テレビ自体がオワコンだ。みんなインターネットに夢中なのが証拠だ。ていうか50代以上の人にウケるような人じゃないと、テレビに出たところで嫌われにいくようなもんだ」

「あず君には向かない文化かもね。テレビは」


 注文を出し終えた柚子が無表情のまま冷静な顔で割り込むように言った。


 しばらくして、大輔と優太が昼食を済ませて帰っていく。


 カウンター席のデミタスカップの隣にはカルボナーラやジェノベーゼを食べた後の皿が乗っている。うちの客はちゃんと全部食べてくれる。客席に残った食器を伊織がトレイに乗せて回収すると、皿やカップでいっぱいになったオープンキッチンで皿洗いをし始めた。


 この頃まとまった休みがなかったと、心の底で思うのだった。

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読んでいただきありがとうございます。

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