27杯目「抉られる傷」
飛騨野の家まで行くと、恐る恐るインターホンを押した。
扉が開くと、出てきたのは短い黒髪の女性だった。どうやら飛騨野の母親らしい。
「どうしたの?」
飛騨野の母親は驚きながら僕を見た。
会ったのは去年の文化祭以来で、いつもと変わらない様子だった。
「飛騨野が引っ越したって聞いたから、居ても立っても居られなくなって」
「そうだったのー。葉月君ずっと休んでたって、美咲も言ってたからねー」
「飛騨野は今どこにいるの?」
「美咲なら今学校だけど、会いたいなら、しばらくうちで待つ?」
「うん、待たせてほしい」
飛騨野の家に上がり、ソファーに座りながら待つことに。
飛騨野のお袋がオレンジジュースを持ってくると、机の上にコトッと置いた。
「――美咲ね、葉月君が休むようになってから、急に同じクラスの子にいじめられるようになったの。この前美咲が泣きながら帰ってきて、髪が酷いことになってたの」
「髪が酷いことになってた?」
「うん。美咲は同級生の子に鋏で髪を切られちゃって、それで見ていられなくなって、仕方なく美咲を転校させることになったの」
「担任には言ったの?」
「言ったけど、言い訳ばかりで全然対処してくれないの」
「ナチ野郎の仕業だ……」
夕方になると飛騨野が帰ってくる。
彼女は帽子をかぶっており、話で聞いた通り、ショートヘアーになっていた。
断髪式の直後は、見るに堪えないほど髪型のバランスが悪かったらしいが、床屋に行って左右のバランスを整え、自然に見えるよう調髪してもらったとのこと。
「あっ、梓君、どうしてうちに?」
「いや、ちょっと心配になってさ。まさかとは思ったけど、やっぱりあいつの仕業か」
「うん、梓君が休んでる時に虎沢が私の席までやってきて、梓君と一緒にいたことを理由にいちゃもんをつけられて、断髪式だって言いながら私の髪を切ってきたの」
飛騨野は僕を見て驚いている様子だった。今までサインに気づかなかったことを詫びた。
「僕、自分が迫害から逃れることばかり考えてたせいで、君のサインに気づけなかった。僕の責任だ」
「梓君は何も悪くないよ」
飛騨野は僕がいない間に何があったかを全部話してくれた。
虎沢だけじゃなく、女子グループからもいじめられ、徐々にエスカレートしていった。
彼女が僕のそばにいたのは、僕を守るためだけじゃなく、他の人にとって僕が近寄りがたい存在でもあったからで、僕は飛騨野を最後の砦だと思っていたけど、彼女にとっては僕が最後の砦だったのだ。いじめや迫害に終わりはない。ターゲットがいなくなると、今度は繰り下がりで最下層になった人が次のターゲットになってしまう。これがボトムサクリファイスの法則だ。
10月の大半を休んでいた。彼女はその間ノーガードだった。最終的に虎沢から断髪式と称して髪を切られ、親と姉に泣きついてしばらく不登校になった後、比較的平和な中学へと転校した。どちらかと言えば容姿も良くて人気もあった彼女が、まさかいじめを受けていたなんて思ってもみなかった。
ルイから転校を誘われたことがあったが、どうせ行かされるんなら応じておけばよかった。僕は飛騨野とずっと話していた。しばらくの時間が経過すると、高校から帰ってきた成美に会った。
飛騨野は自分の部屋で宿題をしていたため、成美と2人で話すことに。
「そっか。美咲のために来てくれたんだ」
「僕にもっと力があれば、彼女はあんな目に遭わずに済んだ。僕の無力さが招いた事態でもある」
「ふふっ、そんな風に考えられる人って全然いないよ。美咲は良い同級生に恵まれたね」
「逆だよ。いじめっ子か無力な奴しかいなかったから転校を余儀なくされた。あんなクソ茶番みたいな教育からは早く抜け出すに限る」
何やってんだよ僕は――こんなことを言ったって……問題が解決するわけじゃないのに。
でもそう言わずにはいられなかった。
「梓君、さっきから目が憂鬱だけど、大丈夫?」
「僕はいつでも満身創痍だよ」
「じゃあさ、中学卒業したら、うちの顧問をコーチにつけてピアニストデビューしたら? そうすればもう学校に行かずに済むよ」
「遠慮しとく。僕の人生にコーチは必要ない」
成美はピアニストの件をまだ諦めていなかった。
何事もなく日が沈むと、ため息を吐きながら帰宅する。
「お兄ちゃん、この頃ずっと笑ってないね」
「……そうかな?」
「昔は感情がそのまま顔に出てたのに」
「……そう見えるか」
最初に異変に気づいたのは璃子だった。しかし当の僕は学校で疲弊しすぎただけで、しばらく休めばその内治るだろうと思っていたが、今思えばこの認識が甘かったのかもしれない。こんな時でもコーヒーを飲めば一発で症状が改善する。この時はコーヒーが一時的な鎮痛剤のような役割を果たしていたために璃子以外は気づかず、ただの暗い子としてしか見なかった。その後は飛騨野が僕の家に遊びに来るようになった。彼女が立ち直ったのは幸いだが、下手をすれば最悪の事態になっていたかもしれない。
学校のいじめは基本的に揉み消される。組織全体が事なかれ主義だ。
――だったら学校が無視できない状態にすれば、それがいじめの抑止力になるんじゃないか?
熟考を重ねた。いじめを受ける度に、学校にも被害が及ぶようにし、簡単に揉み消せない状況にしようと企んだ。どう転ぶかは運次第だが、ある作戦に賭けることに。
次の登校日、僕は虎沢たちの攻撃を待つ。僕の席は基本的に窓際の1番後ろの席だ。
虎沢達がやってくると、茶髪であることを理由に殴る蹴るの暴行を加えてくる。教科書やノートは他の人にガードされていたため、以前の作戦はもう使えない。
筆箱からコンパスを取り出して強く握りしめると、窓ガラスに思いっきりコンパスを打ちつけた。
コンパスの先端が窓ガラスを貫通し、パリーンと耳を刺すような音が鳴り、窓ガラスの一部が粉々に砕け散った。虎沢たちは呆気に取られていた。
勢いそのまま虎沢を睨みつけた。
「今度殴ってきたら、こうなると思え!」
虎沢たちはびびって大人しく席に戻った。こういう奴は命の危険でも感じさせなければ、決して迫害を止めないと確信した。しかも学校の公共物を壊したことで、クラスだけの問題ではなく、学校の問題になってしまうため、流石に担任も対処せざるを得なくなった。
「お前何考えてるんだ!? 家に請求するぞ!」
「弁償ならあいつらに請求してくれ。迫害を免れるための必要経費だ」
担任に対しても淡々と弁償を断ることを告げた。こうでもしないと攻撃を止めないのだから、喧嘩で勝てない以上正当防衛だ。まともに戦って勝てないのなら、まともに戦わなければいい。この言葉通りに手段を選ばないやり方で虎沢からの迫害に対抗していた。無論、後で親から滅茶苦茶怒られた。
「何考えてるの? こんなことをしてただで済むと思ってるの?」
「だったら学校に行かせるのをやめろよ。やらない保証はない」
嫌々弁解はしたが、幸いにも弁償させられることはなかった。
次の登校日から迫害はなくなった。すると、虎沢たちは他のクラスメイトを迫害し始めた。本当に懲りない連中だな。見て見ぬふりをするのは嫌だった。ただ通報するだけではなく、いじめを止めないなら教育委員会に通報するように言って対処させるようにした。中間テストは学校自体行ってない。自動的にオール0点だ。12月の期末テストもオール0点。どうせ受けないのであれば、テストの日は行かなくてもいいことを親から告げられていた。ここにきてようやくペーパーテストから解放された。
中2の2学期の中間テスト以降は全く登校しなくなったために、ペーパーテストに対して遂に名前すら書かなくなった。テストの日が休みになったのは幸いだが、うちの親はとても残念そうにしていた。
「育て方間違えたのかな」
お袋が残念そうに呟いた。学校が合わないのに行かせ続けたという意味では間違っていた。結果論だからこれ以上何も言えないけど。クラスメイトは誰1人僕に近づかないようになっていた。命の危険を感じたのだから当然だろう。これくらいしないと動かない学校もどうかと思うけど。
時は流れ、冬休みに入る。終業式の後、国枝が僕に声をかけた。
「あのさ、美咲がどうなったか知らない?」
「仮に知っていたとしても教えない」
「何で?」
「友達が目の前でいじめられてるのに、君は何をしてた?」
「だっ、だって虎沢が怖かったんだもん」
「止めたら自分も断髪式の餌食になると思ったんだろ?」
「……うん」
「お前も、この国の連中と変わりない」
国枝は落ち込んでいたが、僕は肝心な時に見捨てる奴を信用できなかった。傍観者が止めに入らない時点で、加害者に加勢しているのと同じだからだ。
正月に行われた親戚の集会では、主にリサたちと話していた。お袋は親戚のおっちゃんやおばちゃんたちにも進路相談をしていた。とは言っても、僕を進学させたがってる時点で一方通行だ。
「あず君が全然テスト受けないから困ってるんだけど、どこか良い高校ないかなー?」
「高校ねぇ、面接だけで受かるようなところはいくつか知ってるよ」
「じゃあそこ紹介してよ。あず君に受けさせるから」
――は? 何で僕が高校へ行く前提で話が進んでんの? はぁ~、これ以上学校に通わされ続けたら病気になりそうだ。あんな地獄が更に3年も延長するのかと思うと……泣けるぜ。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「うん……大丈夫」
静かに答えるが、璃子の心配は尽きなかった。
「あず君の人生だ。好きにさせたらどうだ?」
「そうは言っても、就職できなかったらどうやって生きていくの?」
「あいつはそのために起業のスキルを磨いてるんだよ」
「でもまずは高校や大学に行って、色んなものを見てから進路を決めても遅くないと思うの」
いや、十分遅いよ。学年が進むにつれて目標を見失った人を山ほど見てきた。
何かに没頭しようとしても、親と学校から勉強しろと言われ、大学を卒業する頃になって、あれっ、僕の取り柄って何だっけと言わんばかりの状態になるんだ。
親戚がそんな状態だったし、僕にはよく分かる。進学なんてすれば、きっと僕もあんな状態になると分かっていたからこそ、進学するのが心底辛かった。うちの親は性懲りもなくおじいちゃんにも進路相談をしていた。余計なお世話だ。しかもリサたちにまで知れ渡ってしまった。
「それ結構やばいんじゃない!?」
「やばいのはあの学校だ」
「何かあったの?」
「クラスメイトの1人が髪を鋏で切られて、それで転校しちゃってさ、あいつはきっと僕の身代わりになったんだと思った。多分、休んでなかったら、今頃は僕がそうなってたかも」
そんな話をしていると、別の親戚が僕の隣に座った。
葉月優太。親父の兄の子供で、僕よりも6歳年上だ。
優太の兄、葉月大輔が隣に腰かけている。僕より10歳年上で、氷河期世代の象徴的存在である。氷河期世代は悲惨な待遇の人が多い。特に大輔の世代は正規雇用の数が非常に少なかったと聞く。2人は仕事であまり顔を出さないが、今日は休みらしい。
うちの親の話を聞くと、2人は僕に忠告の目を向ける。
「あず君にはまだ分からないと思うけど、高校くらいは出とけ」
「そうそう。中卒だと後で苦労するし、どこも雇ってくれないよ」
「今も苦労してるけどな。学校はうんざりだ!」
「起業なんかしても、ずっと生き残れる保証はないんだよ」
起業もしたことないくせに、何でこんなにも起業アレルギーがあるんだ? 2人はまるで起業家に親を殺されたみたいな言い方だ。大輔に至っては就職を目指しても非正規雇用だったってのに。
「大手の会社だって、いつ潰れるか分からないし、潰れなくてもリストラされる危険性があるし、安定なんてどこにもねえよ。いい加減目を覚ませ」
起業反対論に対して正社員不安定論で返す。
「それはそうだけど、確率で言えばサラリーマンの方が安心だよ」
「俺は時代が悪くてなれなかったけど、あず君にはチャンスがある」
「嫌な同僚とか上司に当たったらどうすんの?」
「それくらい我慢しないと駄目だ」
――ええっ!? ……問題児ばかりのとこに放り込まれても我慢しろと? そんなんだから上司がつけ上がるんじゃねえの? あんなクソッタレな連中のために就職なんて誰がするか。
「今のお兄ちゃんを進学とか就職とかさせたところで、問題を起こすだけだと思うよ」
璃子は僕の対応を見かねてフォローを始めた。僕がバリスタを目指していることも話した。しかし就職氷河期を経験している大輔にはやはり安定の道を勧められた。
優太も氷河期世代ほどではないけど、就活の時に相当苦労したらしい。
中2の3学期がやってくる。ここさえ乗り切れば、虎沢たちとはおさらばできる。
また同じクラスにならなければだが――。
3学期は主に女子との戦いだった。
国枝に言ってしまった一言が原因で、女子たちの間に僕へのヘイトが生まれてしまう。この隙を虎沢が見逃すはずもなく、女子グループを中心に僕の悪口大会が始まった。対策として耳栓を持ってきたのは正解だったようだ。全く効かないことが分かると、今度は技術家庭の時間に攻撃を仕掛けてくる。
技術家庭の時間は珍しく物作りに励む。基本的にみんな技能を身につけてない。早く終わらせ、後は寝て待つことに。何のための技術家庭なんだろうか。ところが、僕の作品を虎沢が踏み壊してしまい、提出不可能な状態に。技術家庭もまた、いつも最終的には最低点になってしまうし、点数も気にならないために放置した。しかし、そこに女子たちが文句を言ってくる。
「梓君、これ作り直さないと駄目なんじゃないの?」
「文句なら壊した虎沢に言え」
「はあ? 元はと言えば意味不明な文句を言った梓君が悪いんでしょ」
「そうだよ。謝ったら?」
女子たちが一斉に感情論を押しつけてくる。言ってることが滅茶苦茶だし、1つ1つの論点を見ていくと全く説得力がない上に、何を言いたいのかが全く分からない。
非常識とか言われてた気がするが、人の作品を壊すのは非常識じゃないのだろうか。
特に率先して感情論をぶつけてきたのが、野倉涼子だった。彼女は一言で言えば議論ができない女子だ。すぐ感情的になって勢いだけで押し切ろうとする。
議論と喧嘩を同じと思っている輩があまりにも多すぎる。ディベートの訓練を積まなかったからこうなるんだ。従うか従わせるかの一方通行しかない社会で議論ができる人は、理屈っぽい人でしかない。
男子のように物理攻撃はしてこないのが良心的だ。言い合いなら負けたことがない……そう思っていたのが僕の間違いだった。物理攻撃をしてくる女子がここにもいると知る。
「みんなから嫌われて恥ずかしいと思わないわけ?」
「思わない。何故そう思わないといけないの?」
「ズレてるからだよ。あんたズレてるのが分からないの?」
「それは君視点の話だ。僕視点だとみんなの方がズレてるよ」
多角的なものの見方ができない人ほど相手をズレた人扱いする。この国ではもはやお約束の光景と言っていい。どいつもこいつも、ブーメランが頭に刺さるようなことばかり言っている。
「そんなんだから自己中って言われるんだよ」
「じゃあ僕を思い通りにしようとしている君は自己中じゃないの?」
「はぁ? わけ分かんない。理屈っぽいし、キモいんだけど」
「理屈っぽい人がキモいなら、自分の頭で考えられる人はみんなキモいことになるけど」
そう言って立ち去ろうとした。いつも通りいなしたと思っていた。そう思った時、何かに押されるような痛みが腰に走った。野倉が後ろから思いっきり蹴りをかましてきたのだ。立ち上がろうとしたが、腰に痛みが走った。彼女は立ち去ろうとしたが、痛みをこらえながら彼女の背中に殴りかかった。
男女平等パンチだ。女子は殴らないと豪語する人は多いが、それは女子=弱いという偏見に基づいた差別だ。女子だからって殴り返さなかったら、僕は女性差別主義者になってしまう。無論、誰にやられても通報するのが1番だが、やり返せば女子を殴るサイテー男子のレッテルを張られてしまう。
だが僕は敵の待つ方向へと進むことを決断する。
賽は……投げられた。
「痛っ、何すんだよ?」
「先に攻撃したのはそっちだろ」
「涼子、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
女子たちが僕を睨みつけてくる。先に喧嘩を売っておいてそれはないだろ。
「ちょっと、いくら梓君でも女子を殴るのはないと思う」
「ホントサイテー、オカマだったら殴り返していいと思ったの?」
案の定、男子からも女子からも罵声を浴びせられた。大人であれば、殴られたら文字通り大人の対応だが、子供の時は相手に関係なく、やられた分だけやり返していた。
集団リンチや格上が相手の時は例外的に反撃の余地もなかったが、今回はこれが凶と出てしまった。
「攻撃されるのが嫌なら攻撃しないことだ」
「今の先生にも虎沢君にも言うから」
「ご自由に」
減らず口を叩き、教室へと戻った。
女子を殴り返したのは今回が初めてじゃない。小学校低学年時代にも殴ってくる女子はいた。だが大半の女子は大人しかったため、基本的には殴ってこないものだと思っていた。
腰の痛みが消えないため、保健室で診察してもらうことに。保健の先生が言うには腰の打撲らしい。
中学の保健室にいる和仁先生に治療してもらった。中1の時から世話になっている。
――それにしても、保険の先生って女ばかりだな。
「本当によく来るよねー」
「来たくて来てるわけじゃないよ。いつもライオンと同じ部屋にいるんでね」
「ふふっ、何それ?」
「あんたは教室にいないから分からないだろうけど、ここは檻のない動物園だ」
「そういうこと言ってるから怪我させられるんじゃないのー?」
「正論言ったら怪我させていいの?」
和仁先生が黙り込んだ。あれ? 最近学校の不満を他の人にぶつけることが多いな。
以前はここまで言わなかったのに……一体どうして。野倉に仕返しもしているし、安易に治療費は請求できない。でもお陰で治療中は学校を休むことができた。
学年末テストも例年通りオール0点だ。この時も欠席してテスト自体受けていない。確かこの後三者面談があり、親からも担任からも受験の重要性を説かれる。しかし、僕に対してそんなことを言ったところで、馬の耳に念仏でしかない。まるで肉食動物に対応する飼育員のような感覚だ。
歴代のクラスでも最悪だった。
春休みに入るが、僕の心はボロボロで笑うことすらできなかった。おばあちゃんからは心配されてしまう始末だ。おばあちゃんはコーヒーを淹れることにあんまり興味を示さなかったこともあり、そこまで関わることはなかったが、この時ばかりは僕を気遣ってくれていた。
「最近のあず君は笑わないねー」
おばあちゃんは僕の特徴を捉えるように言っていた。
「あと1年も耐えないといけないんだ」
弱音を吐いた。この時の僕は涙が勝手に流れてくるようにさえなっていた。
人の顔を見て話すことすら苦痛になっており、この頃には相手の目を見て話さない特徴が更に悪化していた。僕の身に何が起きていたかに気づくことはなかった。
この時の自分の状態に気づいてさえいれば、最悪の事態は免れたかもしれない。
3学期に受けた腰の打撲は治ったが、心の傷は一層深まるばかりであった。
迫害に終わりはないのです。
あともう少しで学生時代編終了です。
葉月優太(CV:代永翼)
葉月大輔(CV:佐藤拓也)
野倉涼子(CV:矢作紗友里)