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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第11章 飛翔編
268/500

268杯目「内に秘めた疲労」

 12月上旬、僕と璃子は店の営業が終わり、璃子の新居へと赴いた。


 この頃には店内もすっかりと整備されており、いつでもオープンできる状態になっていた。ここで世界最高峰のチョコレートが作られることになるわけだ。


 今年の営業が全て終われば、璃子は葉月ショコラに移り住むことになる。


 かなり近いけど、凄く遠い場所に離れていくような気がしてならない。


 璃子自身という、チョコレート市場においては最高の看板を掲げているし、大盛況になることは間違いないのだ……愛梨が問題を起こさなければだが――。


「今のところは?」

「特に問題はないけど、プレオープンの時が心配かな」

「店に商品を並べる時は、客と顔を合わせる必要があるからな」

「クローズキッチンにずっと引きこもらせるという手もあるんじゃないの?」

「何言ってんだ。それだと璃子が休めないだろ。ここはバリスタ2人、ショコラティエ2人、ユーティリティー2人の6人体制だからな」

「ユーティリティーって何?」

「一言で言えば、何でもする人。来年からは『ユーティリティー制度』が本格導入されて、守備範囲の広い人ほど給料が上がる仕組みになる。どの店舗にも1人は採用することを義務付けて、店舗スタッフとして社会経験を積ませたり、そいつがやりたいことの修業をするための枠だ」

「要するに、育成枠ってこと?」

「そゆこと。今すぐには無理でも、次世代のショコラティエを担う人が見つかれば、ここに配属して育てることになる。だから、しっかりと面倒を見てやってくれ」

「ただ店を経営するだけじゃなくて、次世代の職人を育てる修業の場にしたいんだ」


 まだ何も説明していないのに、物事の本質を掴むのが本当に早いな。


 流石は学校を人間動物園と思っているだけのことはある。璃子こそ、まさに日本社会が求めた理想の人間像そのものってわけだ。だが璃子自身はその役を演じ続けることに疲労と苦痛を感じていた。僕と一緒に過ごすにつれてシンパシーを大きく感じるようになってきたのが露骨に表れている。


 シンパシーを感じるとは共に苦しむことだ。


 かつての僕と日本社会との軋轢が、璃子のシンパシーを引き出した。璃子が僕と一緒に住まなかったらどうなっていただろうか。OLにでもなって、日々の苦痛に耐え、内に秘めた疲労をずっと見て見ぬふりしながら生きていたのだろうか。だとしたら、僕は璃子の運命さえも変えてしまったことになる。


 ただの思い込みかもしれない。どの道誰かにそのセンスを見抜かれ、ショコラティエになっていた気がしないでもないが、あの道連れ不登校がなければOLコースだった可能性は高い。毎日のように異性から声をかけられ、やりたくもない仕事をさせられ、心が死んでいくところまでが容易に想像できる。


「なあ璃子」

「どうしたの?」

「僕が店を開くって決めた時、何で僕についてこようと思ったの?」

「お兄ちゃんが心配だったから」

「心配がついてくる理由になるんだったら親父もお袋もついてきただろ。それ以外の理由が聞きたい」


 真意を聞いたその時、璃子が後ろめたそうな顔のまま、床に視線を向けた。


 ほとんどの場合、心配とは隠れ蓑である。どうしても心配してしまう理由に本心がある。それを教えてくれたのは、他の誰でもない璃子だった。


 綺麗な天井を見上げながら、璃子はカウンター席に腰かけて語り始めた。


 僕も璃子の隣に座り、ずっと上を向きながら、思い出に浸る妹の顔を見つめていた。


「――私が小学生の時、クラスに金髪の子がいたのは知ってるよね?」

「静乃のことだろ。どんな扱いを受けていたかは容易に想像がつく」

「静乃とは小4の時に出会って、蓮とも知り合って、私たち3人はとても仲良しだったの……でもそれは学校の外での話。静乃は金髪が理由で、何度も担任から地毛証明書を出すように言われて、提出した後も黒に染めてくれないかって、何度も打診されてたの」

「どっかで聞いたことある話だな」

「静乃は外見を理由にいじめに遭って、ストレスを抱え込んで不登校になっちゃったの……でも私は何もしてやれなかった。もし静乃を庇ったら……私までいじめを受けるのが分かってたから。下手に目立っていじめを受けるのが怖くて体が動かなかった。ずっと社会の理不尽を無視し続けながら普通の人を演じてきた。今の仕組みに文句1つ言わない普通の人を。でも道連れ不登校になった時、もう普通には戻れないんだって気づいて、開き直って静乃に会いに行って、それでやっと本当の友達になれたの」


 璃子はあの時から、まるで鎖が外れたかのように、理不尽を無視できなくなった。


 普通という道から外れた瞬間から、その誰かにとっての世界は変化ばかりの毎日で、いつも同じ景色を見ているばかりの単純な世界ではなくなっているのだ。


 今までの常識がまるで通用しないことを、外の世界に出てからようやく璃子は知った。璃子は通学を繰り返す内に、段々とOLを目指すようになっていった。


 しかし、あの道連れ不登校によって就職レールの方程式が崩れた。


 レールを降りた後の世界で、璃子はどうすればいいのかが分からなかった――。


「でも私にできるのはそこまでだった。他人のことばっかり気にして、自分がどうあるべきかを全く考えてなかった自分に気がついたの。漠然とした夢を見るばかりで、本当にやりたいことが言えなかったの。お兄ちゃんはバリスタになりたいって、ちゃんと言えていたのが羨ましかった。だからお兄ちゃんについていけば、私もやりたいことをちゃんと言えるようになるのかなって思ったの」

「その結果がショコラティエか」

「チョコが好きなのは昔っからの事実だけど、最初は全然やる気なかった。食べる方はできても、作る方は苦手だったし、見様見真似で作ったことはあっても、プロみたいに何を作ってもちゃんと美味しい味に仕上げて、お客さんに提供したりすることを全く想像できなかった」

「もしかして、修業したくなかったとか?」

「それはないよ。何もしないよりはマシってだけで、最悪手に職つけておけば、どこかの店で雇ってもらえると思ってた。だからお兄ちゃんみたいに世界一を目指して大会に出る発想はなかったの」

「……お互い様だ」


 大会はあくまでも宣伝の手段にすぎない。


 それを理解した璃子は、当時の全然売れなかった葉月珈琲を少しでもアピールするために優子から必死にショコラティエとしての技能を習得したんだとか。周りが見えないほどチョコ作りに没頭し、チョコの魅力を知っていく内に、いつしかそれが本当にやりたいことに変わっていったと璃子は言った。


 優子、やっと分かったよ。何故自営業時代の修行で璃子が成功できたのかが。


 あの修行自体が、かつて失った没頭力を取り戻す()()()だったんだ。


「不登校のまま中学卒業した後、お兄ちゃんが店の営業をしていない時、色んな店でバイトしてたの。ちょっとでもお兄ちゃんの助けになると思って」

「ふふっ、知ってる」

「……知ってたの?」

「うん。日曜日とか年末年始とか全然家にいなかったし、璃子の性格を考えれば、バイトじゃないかと思って優子に聞いたら、商店街の周辺でバイトしてるって、あっさり白状してくれた」

「優子さんは優しいからねぇ~」

「どんなバイトしてたの?」

「商店街の色んなお店に駆り出されて、主に販売員とかやってたかな。お兄ちゃんが法人化して、商売が軌道に乗り始めるまで……ずっとね」


 璃子はうちが法人化するまでの出来事を一通り話してくれた。


 葉月商店街では様々な出会いがあった。だがそれは平穏を好んだ妹をより一層苦しめた。出会った男から度々告白される日々を送ったり、近所の人たちから結婚の話を持ちかけられたりと、平穏とは程遠い人生を歩んできたが、うちの赤字経営を支えるため、璃子は耐え続けた。


 それで受けたストレスは、きっといじめを受けるよりも凄まじいものだっただろう。


「でもそのお陰で、客商売を学ぶことができたし、失うばかりじゃなかったよ。ナンパばっかりされるのが本当にきつかったけどね。何度か家でお茶しようって言われたし」

「何か問題あるの?」

「家でお茶しようっていうのは、一夜を共に過ごそうって意味なの。特に夕方以降にその誘い文句を受けた場合は確実にそっちの意味だから」

「……知らなかった」

「お兄ちゃんは男で良かったかもね」


 思わず顔がぽかーんとしている僕に、璃子は呆れながら言葉を返した。


 璃子はカウンター席から立ち上がり、自分の両胸を持ち上げてため息を吐いた。グラマラスだが余分な肉がないスレンダー巨乳で、黄金比と言っていいほどのスタイルの良さだ。


 身長が高かったら、モデルになってたかもな。


「これが無駄に男を惹きつけるせいで、胸なんてなくなっちゃえばいいって何度思ったか。だから私、自分の体が嫌いだったの。しかもショコラティエって力仕事だから、体が引き締まってからは余計に男が寄ってくるようになって……大変だった」

「スタイル良いもんな。芸能事務所のスカウトにまで声かけられてたし」

「これからは家に引き籠って、食べる時以外は極力出かけないようにしたいの」

「なるほど、今まで違う意味で虐げられてきた反動ってわけだ」

「お兄ちゃんも人のこと言えないでしょ。多分、私たちみたいに、物事に疑問を持たずにはいられない人ほど引き籠りになっていくんだと思う。日本社会に就職して仕事をこなすには、理不尽を無視する鈍感さが必要だから。私には鈍感さがなかった。普通の人に徹しきろうと思ったけど、結局どこかのタイミングで折れていたかもね。お兄ちゃんの妹だし」

「いや、璃子は理不尽に反抗する勇気を持ってる。引き籠りになろうと思ったのは、日本社会に対する抗議と考えれば説明がつく。好きな人がいるのに結婚しようとしないのも同様の理由だろ?」

「……うん」

「私も同感っすよ」

「「!」」


 突然、横から上機嫌の笑みを浮かべた愛梨がちょっこりと顔を見せた。


 この不意打ちに、僕と璃子は目が飛び出そうになってしまった。


「愛梨ちゃん、いつからいたの?」

「さっきからずっといたんすけど」

「あっ、そういえば、ここの鍵渡してた」

「おいおい、じゃあずっとほったらかしにしてたのかよ」

「私は元々景色に溶け込むのがうまい方なので、別に気にならないっすよ」

「その場に留まってると等身大のお人形さんみたいに見えちゃうから全然気づかなかった。ごめんね、気づかなくて。じゃあ今日もチョコ作りやろっか」

「はい。よろしくっす」

「あれからチョコ作りはうまくなったか?」

「まだお店に出せるほどではないけど、以前よりも格段に成長してる。テンパリングで味を均一にするところまではできるようになったよ」


 それは楽しみだ。流石は優子が教えていただけあって習得が早い。


 来年までに簡単なメニューくらいは出せるようになっているといいが。


 でも外に出る仕事をここまでこなせるとは、慣れればそれなりの適応力を発揮できそうだ。やってみないと分からないことって案外多いんだな。


 すると、蓮と静乃の2人がドアベルの音が響くと共に店に入ってくる。


 いつも通りのカジュアルな格好で、とても元気そうな顔色だ。


「愛梨は店に馴染めそうか?」

「分からん。あともう1人ユーティリティーが来るけど、そいつ次第かな。客とはあんまり会わないように配慮するつもりだけど、璃子が休みの時は、愛梨がチョコを店頭のショーケースに並べないといけないからさ、その時に問題が起きなければOKだ」

「心配しすぎじゃない?」

「あいつらを舐めちゃ駄目だ。日本人の多くは黒髪以外NGという偏見とも呼べる価値観を義務教育時代に刷り込まれてる。大人になれば茶髪にする奴もいるけど少数派だ。文句を言う奴は絶対いる。そういう奴らが来たら、容赦なく追い返せ。いいな?」

「それはいいけど、愛梨ちゃんもショコラティエを目指すの?」


 静乃が一歩前に出て腰を前に曲げ、僕に素朴な疑問を尋ねた。


「ああ。少なくとも、うちにいる時はな。でもあいつ1人で店を営業することにはまず向いていないだろうから、後継者を育てる役回りになるだろうな」


 クローズキッチンで見たあの食材捌き、優子にとても似ている。


「あず君が愛梨を雇うなんて意外だね」


 静乃が僕の隣に座ってくると共に、花の香りが僕の鼻に漂ってくる。


「なあ静乃、参考までに聞きたいんだけどさ、何で不登校の状態から進学しようって思ったわけ?」

「えっ……あず君に不登校の話したっけ?」


 目が点になりながら、表情が固まっている静乃。


「さっき璃子が、静乃を助けられなくて困ってた話をしてた」

「あぁ~、そういうことかぁ~。確かにあの時は本当に辛かったよ。日本育ちなのに、この見た目で外国人呼ばわりされて、中学に上がるまではずっとホームスクーリングだったの。お父さんの会社を継ごうと思ったけど、お父さんの会社がずっと続く保証はないって思ったから、それで何とか自分で生きていく術を身につけようと思って、大学までは行こうと思ったの」

「璃子が急に登校しなくなった時はショックだったか?」

「うん。何で璃子が不登校にならないといけなかったのかなって……」

「璃子はいじめを受けたことがなかった。それはいじめを受ける恐怖やいじめを受けた時のダメージが誰よりも大きいということでもある。僕の妹だと分かればクラスメイトは璃子をいじめるようになると想像した。でも誰かに止めてもらおうという考えもなかった。静乃がいじめを受けている時に傍観していたからな。璃子は頭を使った。自分をか弱い女の子と見なしている周囲の認識を最大限に利用した」

「俺は璃子と同じクラスだったから分かるんだけどさ、クラスのみんなは璃子に同情してたぞ」

「同情だろうと愛情だろうと一緒だ。あいつにとっては、変に目立つこと自体が1番の苦痛だからな」


 自分でも不思議に思う。まるで他人事とは思えない。


 何でここまで璃子のことが分かるようになったんだろうか。


 ずっと対極に位置する存在だと思ってたけど、実はかなり近い存在だったことに今更ながら気づいてしまった。僕と璃子は表面上は全く違う人間だったはずだけど、中身はほとんど僕と変わらない。僕と璃子の違いは、面倒なことを面倒と言えるか言えないか、ただそれだけだった。


 自分を抑える術を持った世界線の僕だ。しかも僕以上に冷静だ。誰かの失敗を見て、自分が失敗しないように対処する。璃子は失敗しないという経験を繰り返したことで、失敗の恐怖に耐えられなくなっていたのだ。さながら無菌状態で免疫力が下がっている人のように。


 蓮も静乃も、璃子が心配になって来てくれたようだ。


「本当は2人の内の1人を優子にする予定だったけど、優子は他の店で本格的にスイーツを作りたいみたいだし、璃子を独立させてやりたい気持ちもあったけど、その代償はあまりにも大きかった」

「最後の2人は決まったのか?」

「いや、全然決まってない。それはここのマスターである璃子の課題だ」

「今までは全員あず君が雇っていたんじゃなかったの?」

「色々あってな」


 各店舗のマスターが人を雇うべきだと言ったのは璃子だ。


 自分で言った言葉の責任くらい取ってもらわないとな。


 でもこれで僕の仕事が見事に分散された。本来であれば、僕がしなくてもいい仕事だったが、人を雇うことにおいては人一倍心配性だった僕への荒療治だったのかもしれん。


「あれっ、蓮に静乃までどうしたの?」


 クローズキッチンでの修業を終えた璃子と愛梨が出てくると、蓮と静乃とバッタリ出くわした。


 すぐに2人の視線が愛梨に向けられた。


「どうしたのって、璃子のことが心配で来たの」

「結構良い店だな。来年からここのバリスタ担当だし、一度見ておきたかった」

「ふーん。えっと、彼女は柚原愛梨ちゃん」

「柚原愛梨です。愛梨って呼んでほしいっす」

「愛梨ちゃんか。俺は浅尾蓮。蓮と呼んでくれ」

「中津川静乃。静乃って呼んでね」

「了解っす」


 2人はすぐに愛梨と打ち解けたようだ。ちゃんと会うのはこれが初めてだ。


 それまでは引き籠りだったし、人慣れには丁度良い。2人は最初こそ愛梨の外見に目を奪われていたがすぐに慣れてしまったようだ。既に静乃という前例もある。外見の違いには慣れっこのようだ。静乃に関しては言わずもがな。愛梨と相性が良いことを見切ってこの2人を選んだのは正解のようだ。


 蓮の説得には骨が折れた。役割が被っていた投稿部と広告部の合併後、投稿部の人材過多をどうにかしようと、1人ずつ丁寧に異動させたわけだが、最終的に丁度良い人数に落ち着かせることができた。皮肉にも従順性が異動を助ける形となった。元広告部のメンバーは、いずれも就職レールに乗ることを目指して生きてきたタイプだし、元々の給料を下回らないことを条件に異動させることができた。


 大輔と優太はリサたち4人組と投稿部に居座り、マガジンの発刊も本の発売も、投稿部みんなで編集することに。静乃も昔の学友と働ける上に、家から近いという理由で喜んで異動に応じてくれた。


 残りの2人は璃子にお任せしよう。璃子ならきっとうまくやってくれる。


 僕から人事権を奪ったことが功を奏するのか、はたまた裏目に出てしまうのか、それは未来の僕にしか分からない。こういう時に放任できる自分が本当に好きだ。何でも抱え込むよりはいい。


「それで? 俺たちは何をすればいいわけ?」

「基本的にはバリスタとしての業務から、オープンキッチンの管理全般。葉月珈琲とほとんど変わらないけど、違うのはチョコレートが主体であることだ。一応チョコに関する基礎知識を璃子に教えてもらってくれ。もしかしたら作業を手伝うかもしれないし」

「確かにショーケースが滅茶苦茶でかいな」

「完全にコーヒーの方がサブって感じっすね」

「璃子の夢がようやく叶うわけだ。その現場に居合わせるのは光栄だな」

「私も友達が自分のお店を持つことができて嬉しいよ。あっ、でもそれだとさー、これから璃子のことをマスターって呼ばないといけないのかな?」

「璃子でいいよ。ここは日本じゃなくて、お兄ちゃんの会社なんだから」

「ふふっ、やっぱりこの会社って面白い。葉月珈琲帝国って感じで、独立してる感あるよねー」


 最高の誉め言葉に、思わず顔がほっこりしてしまった。来週にはプレオープンだ。基本的には作って販売する作業が中心だから、人数はこれくらいいればそれでいい。どの店も最終的には欠員が出てもいいよう6人にすることが義務付けられているが、義務を各店舗に委任できるようになったのは大きい。


 蓮も静乃も、ここでの立ち回りを一通り確認してから帰宅していった。


 だが僕らは知らなかった。これは序章にすぎないことを。

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