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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第11章 飛翔編
267/500

267杯目「慢心は捨てるもの」

 11月下旬、僕は真理愛の家まで赴いた。


 彼女はうちでの今年度最後の業務に勤しむと共に、オーガストの後継店舗である、葉月コーヒーカクテルの店作りに没頭していた。ここは彼女の店でもあり、来年の1月、正式にオープンする。


 だがその前に、本当にこれでいいのかを確かめるため、この時期にプレオープンを行うことに。


 期間を設けて一時的に店の経営を行い、赤字にならないだけの売り上げが出せるかどうかを確かめる必要があるのだ。ましてや葉月商店街だ。今やここはバリスタの名所である。全国各地から集まったバリスタが次々とここにカフェを開業しては倒産の繰り返しが行われ、熾烈な生存競争で勝ち残った連中だけがここに居座ることを許されるカフェの激戦区でもある。


 ここに所属すること自体が、立派なバリスタ教育となっているのだ。葉月商店街の中を歩き、まるで隠れ家のように、目立たない場所に位置する木造の扉を開けると、カランコロンとドアベルの音が店内に響き渡った。店内は以前よりも少し広めにリフォームされており、客席も50人程度が入店可能だ。


 コップを拭いている真理愛と俊樹が、同時に入口の方へと首を向けた。


「あっ、あず君、どうしたんですか?」

「ちょっと偵察に来た。真理愛の夢が叶う瞬間を一緒に見届けたい」

「なあ、明日から3日間プレオープンするって聞いたけど、ホントにやんのか?」

「もちろん。真理愛は世界一の『コーヒーカクテラー』だぞ。この言葉をこの店から発信する。大勢の客がここに押し寄せるだろうな。今までコーヒーカクテルを専門に淹れる人が育たなかったのは、それを形容する言葉がなかったからだ。いずれはここを拠点に、コーヒーカクテラーを育てる教育を施していく。方針は真理愛に任せる」

「俺たちはともかく、他の人はそれで食っていけるのか?」

「できるとも。コーヒーカクテル市場はブルーオーシャンだ。アイリッシュコーヒーを満足に淹れられる人は多くても、それを最高に美味いものに改良して仕上げられる人は極めて少数派だ。新しいコーヒーカクテルを開発して動画投稿するだけで、どれだけの商売になると思ってるわけ?」

「……」


 俊樹は顔がタジタジになりながら、両手を上に向けて降参してしまった。


 それを見た真理愛がクスッと笑い、僕は再び店内を見渡した。


「――オープニングスタッフは何人いるの?」

「私たち以外だと、あと2人いますよ。美羽さんと吉樹さんは育児とバリスタスクールのためにもう1年待ってほしいみたいなので、しばらくは代わりを呼ぶことにしました」

「その2人って、どんな奴?」

「1人は莉奈ちゃんです。コーヒーカクテルの魅力にハマってしまったみたいで。もう1人はあず君の知らない人ですけど、今週のプレオープンにも参加しますよ」

「今まではマスターにも人事権がなかったのに、自分で選べるようになってホッとしてるよ。何で認めるようになったわけ?」

「色々あってな……」


 璃子と優子に論破されたからなんて口が裂けても言えない。


 それにしても、莉奈がコーヒーカクテラーに目覚めてくれるとは思わなかった。静乃はエスプレッソを得意とするバリスタに成長したし、見事に得意分野が別れたな。


 ちょっと前までは、味の違いが分からないひよっこだったのに。


「莉奈を雇っても大丈夫な理由は?」

「莉奈ちゃんは4年前のバリスタオリンピックで、あず君にコーヒーの違いが分からないことを指摘されてから、それが悔しかったのか、一生懸命コーヒーの研究をするようになって、以前勤めていたメイドカフェが潰れるまでは、そこのマスターを任されていたんです」

「世渡り自体はうまい方だから、組織の中で出世していくタイプだな」

「そうなんです。しかも大学に通いながらですからねー」

「あいつ大学行ってたの?」

「はい。今年卒業したって言ってましたよ」

「だからバイトで入りたがってたのか」


 しれっと大学まで卒業するとは、人を出し抜く術まで体得しているな。


 あの狡猾さはどこに行っても通用するだろう。でもうちじゃほとんど役には立たない。人に勝つこと以上に、まず自分自身に勝てる人間である必要があるからだ。


 ここは一度確認しておく必要があるな。


「あのー、美羽さんと喧嘩でもしたんですか?」

「えっ、してないけど」

「この前美羽さんがうちに来て、自分の教育方針は間違ってるのかなって言いながら、凄く落ち込んでたんですよ。事情は美羽さんから聞きました。ちょっと言い過ぎじゃないですか?」

「むしろ言い足りないくらいだ」

「俺も聞いたけどさー、結局どんな育て方だろうとさ、最終的に子供の人生がうまくいけば、それでいいんじゃねえの? 子供を信じて見守るくらいしか親にできることって多分ないと思うぞ。まあでも、俺は結構参考になったけどな」


 まとめようとしてんじゃねえよ。自分だって他人事じゃなくなる日が来るかもしれねえってのによ。


 そんなことを考えながら俊樹を睨みつけた。みんな当たり前のように通学させるが、それが唯一無二の正解であると叩き込まれている以上、悪魔の洗脳に抗うのは難しい。


 不登校児の中から結果を出す人が出てくるのを待つしかないのか?


 いや、そんなことはない。今はどこにいても学習から仕事までできる。あいつらの頭がどうしようもなく固いだけだ。それが回り回って世の中を悪くしていることに気づけない無能な働き者がっ!


 信じて見守るか――僕は見返りを求めないスポンサーでありたい。


「あと20年経てば、ハッキリするだろうな。登校組と不登校組、どっちが時代に合っているのかが」

「既にあず君が先駆者になってる気もしますけどね」

「僕は中学まで行かされたせいで、持たなくてもいいトラウマを抱えることになった。子供にはそうなってほしくない。雅は黒髪だけど、紫は茶髪で、巻は金髪だ。こいつらが入学した後の周囲の反応が容易に想像がつく。必ずいじめを受ける。しかもやり返したところで、世間はいじめっ子が悪いとは言わない。茶髪と金髪が癇癪を起こしたと騒ぐ。黒髪じゃないから騒ぎを起こすような人間になったと噂するんだ。それを分かってて通学させるのは、もはや虐待に等しい」

「あず君がやり返したってことはよく分かった。自分の子供だろ。好きにしろよ」

「教育に正解はありません。まずはそれぞれのやり方で育ててみればいいんですよ。家でも育てられるのでしたら、それもありだと思いますよ」

「まあ、伸び伸びと育つのを願うしかないよなー」


 翌日――。


 午後5時、プレオープン1時間前。


 外には既にプレオープンの知らせを受けた連中の長蛇の列があり、隣の店にまで及んでいた。中には熱烈な真理愛ファンもいる。バリスタオリンピックで日本勢が連続でファイナリストに入った影響は本当に大きい。バリスタマガジンにも真理愛の顔と名前が載っている。バリスタとしてではなく、コーヒーカクテラーという、全く新しいカテゴリーで。


 長蛇の列を尻目に店内へと入っていく。


 天井近くの壁には、数多くの商品名がズラリと書かれており、中にはバリスタオリンピックでコーヒーカクテル部門賞のトロフィーや、バリスタオリンピックで使われた作品もあった。


「真理愛、メニューはどれくらいある?」

「今は30種類くらいです。来年にはもっと増えると思います」

「錚々たる面々だな。どれもバリスタ競技会で結果を残してきたメニューばかりだ」

「マンハッタンコーヒーも、ここで販売しようと思ってるんです」

「その方がいいかもな。うちは風土的にコーヒーカクテルには向いてないし」


 カウンター席の回転椅子にのっそりと腰掛けた。


 しばらくの間、真理愛と俊樹と話を続けた。真理愛のやりたいこと、それはコーヒーカクテル市場の拡大に貢献し、コーヒーカクテルの魅力を世の中に広めることだ。


 それがちゃんと言えるようになってからの真理愛は本当に変わった。


 研究熱心で勉強もできる優秀な子だ。それ故考えすぎてしまう時もあったけど、正直に言えば、僕の想定を超える成果だった。準決勝までいってくれたらそれでいい感覚だったけど、自分の得意分野だけは死守するところが実に彼女らしい。落ち着いた雰囲気でピアノのBGMが流れる中、莉奈と一緒に、1人の同い年くらいの可愛らしい短髪の女性が颯爽と入ってくる。


「真理愛さーん、おはようございまーす」

「おはようございまーす。あれっ、もしかしてあず君?」

「久しぶり。まさかここに来るとは思ってなかった」

「あれからいっぱいコーヒーを勉強したんだよー。でもそうしていたら、今度はお酒の魅力にハマっちゃってねー。それで気がついたら、両方共やろうと思ってたの。でもコーヒーカクテルをやってるお店って全然なかったから、丁度良かった」

「……その子は誰?」

「あー、この子は私の友達の、岐南若菜(ぎなんわかな)ちゃん」

「岐南若菜です。若菜って呼んでください」

「お、おう。よろしく」


 若菜は肩に髪が届くくらいのショートヘアーでとても気さくな子だ。


 彼女の自己紹介によると、僕より9歳年下で、莉奈より2歳年下だ。今年成人したばかりで、コーヒーカクテルに関して言えば、完璧な初心者であるという。


 伊織と同じ学年で、誕生日も近いらしい。バリスタらしい格好というよりは、バーテンダー寄りの格好であることからも、カフェではなく、バーと認識していることが窺える。コーヒーカクテルバーだから、両方兼ねてるんだけどな。料理まで出せば、もう立派なバールだ。


「実は私、穂岐山バリスタスクールを卒業したばかりなんです。しかもトップの成績だったので、特別待遇でここに配属されることになったんですぅ~」


 自慢げに、しかも上機嫌に両腕の拳を握りながらトップクラスの成績であったことを語り、スマホ画面に映っている卒業証書まで見せつけてきた。ちゃんと釘を刺しておく必要があるな。このままだと上の立場になった時、誰かにマウントを取るような嫌な性格になりかねない。


「ということは、美羽からの紹介だな」

「はい。美羽さんがとても丁寧に教えてくれたお陰です」

「でも穂岐山バリスタスクールって、来年度が終わったら、もう閉校しちゃうんだよねー。美羽さんはその後の天下り先として、葉月珈琲を選んだみたいだけど、まだ諦めきれないみたいだよ」

「へぇ~、じゃあ私って、結構運が良かったのかも」

「天下りじゃない。適性がなければ、うちでは絶対に雇わない。あそこは赤字で予算が足りない上に生徒が来ない。今は動画で学習ができる時代だ。わざわざ学校に通ってまで我慢大会をする意味がない」


 初っ端から出鼻を挫く発言をしてしまった。


 どうも学校とかスクールって単語が苦手だ。彼女の発言内容や有頂天な態度は、人知れず僕の心に火をつけるには十分だった。結果も出してねえ奴が、偉そうな口叩くんじゃねえよ!


 それにしても、大手と呼ばれた穂岐山珈琲もここまで衰えたか。


 穂岐山バリスタスクールは倒産の危機を迎えている。穂岐山珈琲を頼れば助かるとは思うが、美羽は穂岐山社長を頼る気はない。今は楠木家の人間であると同時に、穂岐山珈琲には実の娘を助ける余裕もなくなっている。根本が穂岐山珈琲勢から初のセミファイナリストとなったが、それ以上に真理愛の活躍の方がフォーカスされていたために、彼女の陰に隠れる結果となってしまった。


 これを聞いた若菜が頬を膨らませながら、ジト目で僕を見つめた。


「せっかく卒業証書まで貰ったのに、そんな言い方ないと思いますけど」

「その卒業証書をどうすればいいか教えよう。ケツでも拭くんだな」

「何がそんなに気に入らないんですか?」

「いいか、君は穂岐山バリスタスクールを卒業していった数多くのバリスタの1人にすぎない。今はまだ事業拡大が始まったばかりだから、誰も気づいてないけど、うちとプロ契約を結んだ葉月珈琲のバリスタは成功するという神話が出回っている。それをみんなが真に受けたらどうなると思う?」


 顔を斜め右に向け、真理愛の目を見つめた。


 僕の意図を察した真理愛が少し間を取ってからゆっくりと口を開いた。


「腕の良いバリスタであれば、きっとうちに転職するでしょうね」


 再び獲物を狙う獣のような目で、若菜の顔を見つめた。


「そうだ。君はここに雇われた店舗スタッフの……最初の1人にすぎない。もうしばらく時間が経てば、後から才能もやる気もあるような連中が葉月珈琲のトップバリスタ候補生として次から次へと押し寄せてくる。誰もがうちとのプロ契約のために死に物狂いで向かってくるぞ。だから、僕なら卒業証書の自慢なんかより、まず仕事の心配をする。そりゃそうだろ。もっと自分の仕事に身を入れなきゃ、そいつらに店舗から蹴り出されるんだ!」

「「「「……」」」」


 まるで誰もいないかのような殺風景だ。さっきから彼女たちは爆発音でも聞こえたかのように目を大きく見開き、怒りに満ちた僕を眺め続けている。


 僕は一体何を怒っているんだ? ――こんなことで怒るタマじゃないだろ。


 冷静になれ。莉奈も若菜も、そう簡単に潰されるような腕じゃない。


 おっと、プレオープンまで時間がない。


「嫌がらせで言ってるわけじゃない。1日でも長くこの世界いたいなら今すぐ慢心を捨てることだな。それができなければ、もっと才能ある連中に踏み潰されると思え」

「……分かりました」


 午後6時、葉月コーヒーカクテルがプレオープンとなった。


 客が次々と船に空いた穴から入ってくる荒波の如く、店内へと押し寄せてくる。


 席があっという間に埋まっていく。僕はオープンキッチンの椅子に座りながら真理愛たちの様子を見守った。若菜は改心したのか、さっきまでの傲慢な態度は全く見せなくなった。トレイを持ちながらキビキビと無駄のない動きで真理愛や俊樹が作った商品を席まで届けている。


 ここでもタブレット注文が主流だが、真理愛の発案で口頭での注文もありになっている。


 ただ飲むだけではなく、うちのスタッフと話すことも客にとっては楽しみの1つであることが通常のカフェとの違いだ。バーは人々の交流を推進する場でもあるため、タブレット注文のみにしてしまえばスタッフと客が仲良く話す機会がなくなってしまうとのこと。


「真理愛ちゃん、後ろにあるのはトロフィーかな?」

「はい。大会に何度か参加していたので」

「バリスタオリンピック見てたよー。コーヒーカクテル部門賞だよね?」

「そうです。ある意味1番取るのが難しかったですねー。長丁場だったので」


 真理愛はカウンター席に腰かけたうちの常連から積極的に話しかけられ、昔と変わらぬ笑顔の接客で応えている。今後この客たちはここを根城にするだろう。つまりうちの常連が減る。元々うちは客が多すぎるくらいだし、それなら系列の店をオープンして客足を分散させた方がいい。


 オープンキッチンの高い場所には、真理愛と俊樹が今までに取ったトロフィーが飾られており、そのどれもが燦々と輝いている。うちは黄金一色だが、こっちもこっちで後々見た時に良い思い出のトロフィーとして残るだろう。常連から真理愛にとって最も自信がついたトロフィーはどれかと聞かれ、WCIGSC(ワシグス)優勝トロフィーを挙げた。これで人生が花開いたと言っても過言ではない。


 彼女にとっては独立と栄光の象徴でもある。やっぱり1番が好きなんだな。


「へぇ~。今後は出ないって聞いたけど、本当に出ないの?」

「はい。今後はここでのんびりとコーヒーカクテルを入れて過ごしたいと思っています。今までが忙しすぎたといいますか、ここまで腕を伸ばすのに、かなりの時間を要しました。次世代のコーヒーカクテラーを育成するのも、私の仕事ですから」

「そうかい。もう大会で見れなくなっちゃうのかー。何だか寂しいな」

「葉月珈琲には、他にもたくさんのバリスタがいらっしゃいますよ」

「俺は真理愛ちゃんの応援のために現地まで行ってたのになー。えっと、島塚君だっけ? 真理愛ちゃんのこと、必ず幸せにしてやれよ。こんなに良いべっぴんさんを貰ってぇ~。憎いねぇ~」

「分かってますよ。必ず幸せにします」

「ふふっ、私はもう幸せですよ。俊樹さん」

「あー、もうこうなりゃとことん飲んでやる。ったくバーで店員の惚気話を聞くことになるなんてよ」


 自分から吹っかけておいてそれかよ。あまり酔わせない内に帰らせた方がいいな。


 コーヒーカクテルが主体ってことは、当然酔っぱらう人も出てくるってことだ。


 うちや葉月ローストとはえらい違いだ。すぐそばにある葉月ローストは営業が終わっている。そこと入れ替わりでここがオープンするわけだから、うちの系列同士ではあるものの、営業時間の関係で競合することはない。我ながら実によく考えられている。


 中年ばかりになるかと思えば、案外若者が多かった。


「真理愛、プレオープンが終わったら、純利益と1時間毎の満員率を教えてくれ」

「はい、分かりました」

「この3日間の売り上げが良ければ、来年から問題なくオープンできるはずだ。後はスタッフの育成と店の設備を整えるだけだな。店に小物を飾っておけ。それとサイドメニューのおつまみを増やしておいた方がいいかもな。今年中にこれらの課題をクリアしておいてくれ。今の真理愛ならできる」

「はい、任せてください」

「ちょっと見ただけなのに、よくそこまで分かるよな」

「僕が今まで何のために世界各地のカフェ巡りに行ってたと思う? ただ飲みに行くだけだったら近所のカフェで十分だ。カフェの外観から内装までを全部観察してた。外から内装が見えやすい店ほど客が多かったけど、人気が継続してるのは隠れ家のような店の方が多かった。コアなファンが残りやすい。だからここも隠れ家風の店にした」

「全ては売り上げを伸ばすための研究か」

「そゆこと」


 本当のことを言うと、璃子も優子も真理愛もうちの店に置いておきたい。


 でもそれは彼女たちの可能性を押し留めることでもある。


 得意分野が全く違う以上、それぞれの得意に特化した店をプレゼントしてやった方がずっと彼女たちの利益になるし、より一層やりたいことができるようになる。うちの店の経験者はやがて他の店舗マスターとして、次世代のバリスタ育成に大きく貢献していくことだろう。


 そんな未来を祈り、帰宅するのだった――。


「なるほど、そういうことですか。良いお店になりそうですね」


 食事の時間になると、僕、璃子、唯、柚子、瑞浪がテーブルを囲む。唯がいつものように、僕の仕事内容を上手に聞き出してくれていた。このハンバーグ定食も板についてきたな。以前よりも料理の腕が伸びているし、このまま専業主婦になってしまわないか心配だ。


「真理愛さんも独立かー。寂しくなるなー」

「新しいメンバーなら、もう確保してある」

「あの、それなんですけど……」

「どうかした?」

「ディアナさんもアリスさんも、日本に来れないみたいなんです」

「ええっ!?」


 思わず顔が飛び上がるようにのけ反った。


「2人が来れないって……どういうこと?」

「ディアナさんはバリスタオリンピックファイナリストとして注目されて、実家から戻ってくるよう説得されたことで、バリスタ兼パティシエになるそうです。アリスさんはダブリンの大学から誘われて、コーヒー研究に携わることになったんです」

「……はぁ~。マジか……それなら仕方ないか」


 2人には夢がある。ディアナは実家を支えること、アリスはコーヒー研究が目的だった。それらの夢を叶えるチャンスが訪れたとあっては、こっちとしても止める理由がない。


「2人共、あず君には申し訳ないことをしたって、深く反省しているようでした」

「唯、僕のことはいいから夢を追えって、2人に伝えておいてくれ」

「はい、そうしておきます」

「……はぁ~」


 さっきからため息が止まらない。璃子も柚子も食べる手が止まっている。


 ――2人も欠員が出るとか、冗談じゃねえよ。


 急いで候補を探さないと……千尋だけじゃ足りない。実質4人じゃ、いつか過労で誰か倒れちまうぞ。最悪客席制限か……まさか葉月珈琲と葉月ショコラに、大きなたんこぶを抱えることになろうとは。


 そんなこんなで、僕らは新たな課題を抱えることになるのであった。

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読んでいただきありがとうございます。

岐南若菜(CV:三森すずこ)

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