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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第1章 学生編
26/500

26杯目「静かに壊れゆく心」

 林間学舎が終わった後で熱が出てしまい、しばらくは学校を休んだ。


 うちの親が僕の額に貼ってある冷却シートを張り替える。


 うっひゃあ……やっぱり冷たいなぁ。でも慣れてくると気持ちいい。義務教育が終わるまではずっと家で寝ていたい。来年までずっと熱だったらいいのにと思っていた。それくらい学校が嫌になっていた。無表情でぼんやりした顔のまま、時間だけが過ぎていく。


「うーん……頭痛い」

「あず君大丈夫!?」

「今日はパートじゃないの?」

「あず君だけ放っておけないでしょ!」


 お袋はそこまでパート先が遠くないにもかかわらず、僕や璃子が病気の時は看病のため休んでいる。だがそれは家事育児が女の役割であるという風潮が強いためだろう。ただでさえ休んだ分世帯年収が下がっているというのに、治療のために更にお金がかかる。親父は相変わらず家の向かい側にあるカフェに勤めている。場所が近い上に、いつでも呼びに行けるし、休むことはない。


 これで度々うちの貧困化に拍車が掛かっていた。


 学校に行くのも嫌だし、行くも地獄、戻るも地獄だ。


「学校に行くとね、何故か腹が痛くなって気分が悪くなるんだ」

「何でも学校のせいにしないの。あず君は昔っから病弱なんだから、無理はしないこと」

「その最たる例が学校なんだけど」


 璃子の方はどうなっているかを聞いてみた。


「璃子はさ、いじめとか受けたことないの?」

「ないけど」

「マジで?」

「うん。私は結構周りに合わせられる方だし、何かあってもいいように、立場の強いグループに入ってるから何の問題もないよ」


 璃子が勝ち誇った笑みを浮かべる。ドヤ顔も可愛いな。


「周りに合わせるって苦痛じゃねえのか?」

「お兄ちゃんにとってはそうかもだけど、私はもう慣れたから平気だよ。それに学校を卒業すれば一生会わないような人たちだし、意識するだけ無駄だと思うよ」


 ――何だ? この適応力は? そこまで割り切れるものなのか? 璃子は飛び抜けた才能こそ見当たらないが、世渡りする能力は化け物級だ。璃子の学校生活は順調そのものだった。


 全くいじめを受けたことがないってすげえな。万が一何かあっても守ってもらえるよう、カースト上位のグループに属しているとは言うが、その手があったか。僕には誰かに取り入るような能力はない。璃子は僕とは対照的に世渡りが上手い。手がつけられないレベルのいじめっ子がいる話は以前から知っていた。そこで僕は駄目元で対処法を聞くことに。


「というわけなんだけどさ、もうどうすればいいのやら」

「お兄ちゃんはそんなまともに戦おうとする人だっけ?」

「えっ、どういうこと?」


 璃子は僕の後ろから抱きつきながら尋ねた。


「お兄ちゃん、昔ドヤ顔で言ってたでしょ? まともに戦って勝てないなら、まともに戦わなければいいって。その時の気持ちを思い出して」

「確かに言ってたけど、一体どうやって戦えと?」

「お兄ちゃんはいじめっ子本体ばかりを狙いすぎなの。私だったら、いじめっ子が大事にしている物を人質にするけどねぇ~」


 なるほど、的確に弱点を突けばいいのか。


 ――ん? 今さりげなく冷酷なことを言っていた気が……。


「人質……それだっ!」

「やっといつものお兄ちゃんに戻ったね」


 璃子が安心したように笑った。璃子は僕にいじめの抑止として良いヒントを与えてくれた。ナチ野郎本人は格闘技を習得している。本体には手も足も出ない。以前使っていた持久戦略も通用しない。しかも虎沢グループの御曹司。怪我なんてさせたら、どんな社会的制裁を受けるか分かったもんじゃない。ならあいつが大事にしている物を攻撃すればいい。物理攻撃が効かないなら精神攻撃だ。確かに僕はまともに戦おうとしていた。こんなの僕らしくないよな。今に見てろ。


 悪人のような笑みを浮かべ、じっくりと計画を練った。


 次の登校日を迎え、朝の会を迎える前に虎沢たちがやってくると、出合い頭に僕を殴った。理由は茶髪であることに加えて、髪がかなり伸びていたからとのこと。


 確かこの辺りからずっと変わらない髪型になった。茶髪は背中の真ん中あたりまで伸びている。黙っていれば女子と間違われるくらいの長さだった――。


 休み時間、虎沢がいない隙に虎沢の席まで赴き、授業用ノートを手に取った。虎沢が戻ってくると、僕はみんなが見てる前でノートをビリビリに破いてやった。


 虎沢は物凄い剣幕で急に距離と詰め、僕の胸ぐらを掴む。


「お前何すんだよ!?」


 虎沢が威嚇するように尋ねてくる。


「よく聞け。今後君が僕を攻撃する度に、君の所有物を1個ずつ容赦なくぶっ壊す」


 怯むことなく睨み返して言い返す。


「お前、自分が何言ってるか分かってんのか? 犯罪だぞ」

「お前がやってることは違うのかよ?」

「あん?」


 ブーメラン頂いちゃったよ。全然人のこと言えてないからな。


 しかも僕の返しに答えるのが精一杯なのか、言葉で押し負けている様子だ。


「いいか、お前がノートを提出できなかったら、お前のノート点はなしだ。しかも他の生徒と喧嘩したとなれば、内申にも響くだろうなー」


 小悪魔のような表情でおちょくるように言った。


「てめえ脅してんのか?」

「お互い様だろ。分かったらもう攻撃はやめろ」


 怒った表情に切り替えて言い残すと、虎沢の破いたノートを床にバシッと叩きつけ、何事もなかったかのように席に戻る。虎沢は夏休みに入るまで、これ以上の攻撃はしてこなかった。あいつ本体には攻撃が通じない。ならあいつが大事にしている物を攻撃すればいい。所有物であれば抵抗すらされずに壊せる。こっちは追い詰められてるんだから、手段なんて考えてられっか。


 こっちは教科書もノートも全然大事じゃないから破られても平気だ。だがあいつは良い高校に進学するために内申を上げないといけない。ならあいつの内申を下げかねないところを攻めればいい。寝たふりをしてこいつらの話を盗み聞きしていたのが役に立った。


 この戦いは僕の戦略的勝利だった。僕は虎沢の内申を人質に取った。


 期末テストの時期がやってくる。虎沢は破れたノートの補填をクラスメイトにやらせていた。やっぱりノート点が大事なんだな。もちろん僕はオール0点を取った。親には相変わらず怒られたが、テストすらやる気ないことを示せば高校に行かずに済むと思っていた。当初からの信念を曲げなかった。他のみんなは何のために進学させられているか、全く気づいてないんじゃなかろうか。


 自分が進学からの就職をすることで、誰が1番得をするのかを考えれば、ある程度世の中の仕組みに気づけるはずだが、それを考えさせないようさせるために、執拗なまでに勉強させる。大した手口だ。


 中2の1学期終業式が終わる。


「ねえ、一緒に帰ろ」


 クラスメイトの1人、駒月千沙(こまつきちさ)に声をかけられた。


 虎沢率いる最上位グループに属する女子。黒髪のロングヘアーで虎沢のお気に入りだ。国枝とは虎沢のお気に入りの座を争う仲で、時々女子同士で言い争いになる。


「いいけど、何か用?」

「別に用はないよ。ただ一緒に帰りたいだけ。ほーら、いこいこ」


 背中を押しながら言うと、肩に手を回して一緒に歩いた。


「あの虎沢を大人しくさせるなんて、やるじゃん!」

「あんなの一時凌ぎだ」

「一時凌ぎ!?」


 あいつは僕以上に狡猾だ。恐らくすぐに手を打ってくるだろう。


 それまでに何をされても対処できるよう、先手を打っておく必要がある。


「ああ。あいつは一筋縄ではいかない」

「私、虎沢とずっと同じクラスだったんだけど、あいつに逆らったのは梓君が初めてだよ」

「あのさ、何でみんな、他の男子は名字で呼ぶのに、僕だけ下の名前で呼ぶの?」

「だって男子に見えないし、みんなとどこか違うもん。もしかして駄目だった?」


 ――えっ? そんな理由だったの? それは知らなかったなー。


「駄目とは言わないけどさ、僕だってみんなと何ら変わらない血の通った人間だ。もし特別扱いのつもりでそう呼んでるなら、それは僕の本意じゃない」


 自分だけ下の名前で呼ばれるのは、それだけ特別……いや、特異な存在だったってことだ。


 でもだからと言って、それだけでは扱いに差をつけていい理由にはならない。


 人間は皆等しく、個性は違えど、本質は同じなのだから。


 駒月は虎沢がどういうことをしてきたのかを懇切丁寧に説明してくれた。いじめている相手の弁当にチョークの粉を入れたり、トイレの個室にいる時に上からバケツの水を浴びせたりと、邪知暴虐の如くやりたい放題だった。まるで檻のない動物園だ。僕はとんでもない奴を敵に回してしまった。しかも人質の心配がなくなったら、一気に今までの反撃をしてくるだろう。


 そうなる前に手を打つ必要がある。この迫害に対処する時間が本当に無駄だった。不登校を認めてくれていれば、こんな無駄な時間を過ごさずに済んだのに。


 この件で親とも不仲になっていく。迫害は個人のみならず、家庭まで壊しかねないと思い知った。


 ――くだらないクソ茶番に何年もつき合わされることが、あいつらが言う正しい教育だというなら……教育なんか受けたくない……こんな教育……いらない。


 夏休みは金華珈琲でカフェの運営の仕方を教わっていた。


 マスターに無理を言って、どうにか修行をさせてもらうことに。


「何であず君がここで働いてるの?」

「将来バリスタになりたいから、店の手伝いをさせてほしいって言ってきたんだよ」

「えっ、あず君は受験勉強しないと」

「社会に出た後使う知識じゃねえと意味ねえだろ」


 親父を咎めるように反論するが、納得はしていないようだ。マスターは相変わらずの僕の反応に余裕の笑みを浮かべた。僕の扱いにはすっかり慣れたらしい。


「はぁ~、頑固な奴だなー」

「和人さんに似たね」

「「いや、似てないから!」」

「ほら、息ピッタリ」


 親父には反対されたが、マスターは店を手伝わせてくれた。


 昔で言うところの丁稚奉公みたいなものだし、経験値も稼げるため抵抗はないが、あくまでも修行であって労働じゃない。給料は出ないし、僕はまだ14歳で労働はできない。


「そんなことしてる暇があるなら勉強しろよ」

「父さんは学校の勉強を今使ってるの?」

「使ってるぞ。学校に行ったから文字も読める」

「――僕は授業中ずっと寝てたけど文字読めるぞ」

「俺には必要だったし、今も使ってる」

「最後に方程式使ったのいつ?」

「えっ……覚えてねえな」


 親父はきょとんとして答えられなかった。勉強なら家でもできるだろうに。


「やっぱり使ってないじゃん」


 マスターはこのやり取りを見て笑っていた。大人が子供に論破されたのが滑稽だったんだろう。


 ある日のこと、修行のためにカフェに入ると、いつもはダンディーで余裕の表情を見せるマスターが困った顔をしている。マスターが言うには、エスプレッソマシンが急に故障してしまい、そのことで頭を抱えていたのだ。業務用のエスプレッソマシンはこの店に1台しか置いてない。これが直せないとエスプレッソもカプチーノも飲めない。前々からエスプレッソの抽出が悪くなっていたらしく、今日になって業務に支障をきたすレベルでエスプレッソが出なくなった。


「はぁ~、困ったなー」

「じゃあ僕が直すよ」

「えっ、できるの!?」

「エスプレッソマシンのメンテナンスだったら、おじいちゃんに散々教えてもらったからな。ちょっと中を見せてもらうぞ」

「へぇ~、それは頼もしいねぇー。分かった。任せるよ」


 エスプレッソマシンの中を確認すると、パイプが目詰まりを起こしていた。


 ずっと長く使い続けた様子だし、故障の原因はこれか。


「マスター、パイプが目詰まりを起こしてる」

「そっかー。これねー、周吾さんの代からずっと使い続けて、定期的に周吾さんがメンテナンスをしに来てくれてたんだけど、腰が悪くなってからは来てくれなくなったんだよねー。このごろエスプレッソの出が悪くなったと思ったらこれが原因か」


 パイプの目詰まりを掃除し、エスプレッソマシンに装着する。


「良しっ。一応全部のパイプを掃除したからもう大丈夫だ。試しにエスプレッソを淹れてみる」

「梓君凄いねー。エスプレッソのメンテナンスができるなんて」

「いつの間に習得したの?」

「これができないと就職させられるって思ったから、必死に習得したんだよ」


 皮肉を言いながらポルタフィルターにコーヒーの粉を投入し、エスプレッソに装着するまでの作業をテキパキと行った。飛騨に行った時のカフェで出会ったマスターの動きを思い出しながら腕を動かす。


「そのやる気を少しでも受験勉強に向けてくれれば」

「まあまあ、こうして直してくれてるんだからいいじゃないか」


 エスプレッソマシンの抽出ボタンを押すと、いつも以上に勢いのあるエスプレッソが出てくる。


 ポルタフィルターを装着していない時に抽出ボタンを押すと、湯通しの機能としても使える。中学生とは思えない手際の良さにはマスターも驚いている。


「本当に直った」


 親父が呆然としながら驚いた。すぐに原因が分かったのはラッキーだった。


「ありがとう。一時はどうなるかと思ったけど、お陰で助かったよ。お礼と言っては何だけど、ランチをご馳走するよ。いつもよりずっと大盛りでね」

「ほんとぉ?」


 とびっきりにやけた顔でマスターに聞いた。まっ、修理費としては安いくらいだけど、いつも赤字と戦っているこの店に高額な請求をするのも酷だろうし、身内価格ってことで。


「ホントホント。僕もこれを機に、エスプレッソマシンのメンテナンス覚えようかな」

「そうしたら? 業者に頼まなくて済むぞ」

「……梓君なら、本当に世界まで行けるかもね」

「――ん? なんか言った?」

「いやいや、何でもないよ。じゃあ作ってくるね」


 マスターは修理のお礼にランチセットをご馳走してくれた。


 メニューの作成から商品の仕入れまでを夏休みが終わるまでに覚えた。同じ葉月商店街にある店だったこともあり、毎日気軽に行けたのも大きい。煙草禁止の伝統があったのも僕にはプラスだった。


 夏休みが終わり、中2の2学期がやってくる。もう迫害はないだろうと思っていたが、そんなに甘いもんじゃなかった。始業式が終わって落ち着いた頃、虎沢の腰巾着が僕に絡んでくる。しかも2人だけじゃなく、腰巾着の1人である長良が僕に迫ってきたのだ。


「何でお前だけみんなに合わせないんだ?」

「そういう自己中な性格、良くないよ」


 男女問わず責められるようになっていた。虎沢は前々から僕だけ授業中に寝ていたり、髪型を他の生徒に合わせないところを気に食わないと思っている人に責めさせる作戦で僕を苦しめようとしたのだ。虎沢の作戦は見事に刺さり、クラスメイトの9割程度が僕をいじめてくるようになる。


 しかも行事には必ず参加するよう言われた。


 虎沢だけならともかく、こうも寄って集って攻められると、以前の作戦も有効には働かない。運動会も文化祭も絶対に出ないと決めていたし、要求に従うわけにはいかなかった。


 しかも長良とは席替えで隣の席になり、授業中に睡眠している僕を起こすようになる。


「お前起きろよ。教科書開け」

「嫌だ」

「授業中に寝るな」

「眠い」


 断りを入れると、長良は僕を殴ってくる。長良のノートを破いたが、それでも腕を休めない。教師は僕と長良の両方を止めると、僕に対してノート代払うように言ってくる。破られるのが嫌なら攻撃してくるなと言ったが無駄だった。結局支払うことはなかったが、これは虎沢の方が1枚上手だった。


 本人が手を汚さなければ虎沢を止めることができない。しかも腰巾着はノートを破られたところで、公立の高校に進学する場合は進路に影響はない。捨て駒を突撃させる作戦に苦戦を強いられた。このことは担任を通して、うちの親にも伝えられた。かつて治療費を請求できなかった件を引き合いに出し、ノート代を払う必要はないことを伝えた。ここで屈したらあいつらの思う壺だ。


「おい、起きろっつってんだろ!」

「痛っ! やめろって!」


 長良は授業の度に干渉してくるだけじゃなく、要求を拒否すると殴る蹴るの暴行を加えてくる。痺れを切らした僕は副担任に訴えることに。


「長良が暴力を振るってくるから何とかしてほしい」

「何発殴られたの?」

「少なくとも1発以上はやられてる」

「正確な数を言ってくれないと困るよ」


 何を言ってるんだこいつは? 人が暴行を受けてるってのに。


 あぁ~もぉ~、どうしたらいいんだぁ~? 周りが精神的に幼い奴ばっかで困るんだが。


 暴行を受けた時に何発殴られたかを正確に言わないと取り合ってもらえないクソ仕様とは……何発だろうが1発は確実にやってるんだから、その時点で取り合うべきだろう。


 しかも正確に答えた時も、相手が覚えてないと言えばそれまでだった。取り合う気ないなこれは。


 八方塞がりになった僕は、親に状況を説明して不登校になりたいことを伝えた。結局反対されて行かされる破目に。ここまで追い詰められてるのに、うちの親は僕のことが嫌いなのか? この頃には親に対して強い不信感を持つようになっていた。僕が反撃しないことが分かると、虎沢の腰巾着が猛威を振るうようになった。僕はこれを逆手に取り、怪我をさせられたことを理由に運動会の練習を拒否した。


 実際は軽い内出血だったが、あたかも重症のように見せ、これ以上の追撃は阻止した。


 ――このナチ野郎共がっ! 今に見てろよ!


 日本人への憎しみの感情は日に日に増していった。休日になると、おじいちゃんの家に赴き、内出血した足を見せた。すると、驚愕したおじいちゃんはうちの親に僕の怪我を見せた。


「こんな状態になるまで何で放っておいたんだ!? 子供の健康を第一に管理するのが親の仕事じゃないのか!? 全くお前らときたら……」

「「……ごめんなさい」」


 物凄い剣幕で親父とお袋に怒りの矛先を向けた。おじいちゃんは基本誰に対しても激甘だが、怒った時は誰に対しても怒る。この時には既に10月を迎えていた。


 うちの親はおじいちゃんの助力もあり、やっと僕の言い分を認めてくれた。


 10月の残りの平日は全て欠席し、文化祭も運動会も欠席することに。


 運動会には参加しない時でも見学に行かされていたが、中学からは高校受験に関係のない行事は欠席させてくれるようになった。そもそも高校受験なんて受ける気はない。


 しかし、11月からは再び登校を余儀なくされた。


 病気で休んだことにしていたが、不登校の期間中に何度か熱が出ていたし、嘘は言っていない。


 ふと、教室を見渡すと、飛騨野の姿が見当たらなかった。


 昼休みになると、担任から呼び出しを受けたかと思えば、衝撃の一言を放った。


「葉月君は休んでいたから知らないと思うけど、飛騨野さんは転校したよ」


 動揺を隠せなかった。担任が言うには、僕が復帰させられる少し前に転校していた。この時初めて飛騨野のあの言葉の意味に気づいた。林間学舎で飛騨野は僕に言っていた言葉を思い出す。


 気づくのがあまりにも遅すぎた。言われなくても転校の原因は分かっていた。


 飛騨野は僕の知らないところで、ずっと迫害を受けていたのだ。


「ちょっと用事思い出したから、今日は早退するよ」

「ちょ、ちょっと待って。急に言われても困るよ!」

「どうせ授業中は寝てるんだからいいだろ!」


 急いで学校を脱走すると、すぐに飛騨野の家へと向かった。何度か家まで送ったこともあり、知っていたのがラッキーだった。こんな時に呑気に授業なんか受けてられっか。


 何でもっと早く気づいてあげられなかったんだ――自分の無力さを恥じた。飛騨野は僕が迫害を受けないよう、彼女なりにカバーしてくれていた。僕と関わったばっかりに……なんてこった。


 視野が狭かった僕は、この日から日本人を白い目で見るようになった。


 あんな奴らのために苦しむことが心底解せなかった。

殴った回数を正確に覚えていないと取り合ってすらもらえない部分は、

実際の出来事を元にしています。

駒月千沙(CV:戸松遥)

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