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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第10章 バリスタコーチ編
259/500

259杯目「生存者が背負うもの」

 ――大会6日目――


 バリスタオリンピック準決勝の日を迎えた。


 だが悲しいかな。僕が個人的に優勝を願っている人たちの半数はここで消えるだろう。


 まあ、単純に優勝してほしい人が5人を超えれば、必然的にここで落ちる人が出てくる。競争の悲しいところだ。誰が生き残るのかは不明だし、意外な人ばかりが残る可能性もあるのが、この大会の醍醐味とも言える。この日の僕は持ってきたパソコンを使い、鈴鹿の家から大会の中継を見ることに。


 理由は簡単だ。真理愛たちの競技が午後からの競技に集中したためである。


 午前中はここでゆっくりと休めるわけだが、明日の決勝も残り5人であることもあって午後から行われるため、連日続けて午前中に休めるのは朗報と言えるな。


「あず君は誰が優勝すると思ってるの?」

「誰が優勝してもおかしくはないけど、マイケルが1番の優勝候補かな。5大会連続で出場し続けていることもあって、この大会を知り尽くしてる」

「何回も出ることに意味ってあるのかな?」

「暇潰しだろ。アスリートは生活が懸かってるから何度も同じ大会に出るのは分かるけど、バリスタは基本みんな店の営業だし、別に大会に出なくても生きていけるんだよな。宣伝という点では同じかもしれないけど、バリスタの場合は個人の宣伝よりも、会社とか店の宣伝のために出ることが多い。僕は店が潰れたら就職レールに乗せられる予定だったから、必要に迫られて参加してたわけだ」

「今は会社の宣伝のため?」

「それもあるけど、ここ数年でバリスタ競技会に出る意義そのものが変わった。単に宣伝のためだけじゃなくて、自分がどこまで上に行けるのかを知るためだ。少なくとも、僕はスポーツと同列に見てる」


 カウンター席で鈴鹿と対面しながらの会話は本当に楽しい。鈴鹿がカフェの要素を残しながら、今のライブハウスにリフォームしたのは僕の影響らしい。自分の知らないところで鈴鹿に大きな影響を与えていた。彼女自身がコーヒー好きだったのもあるが、ライブハウスにカフェの要素を残すのは珍しい。


 通常ならバーのような雰囲気になるが、ここはどちらかと言えばカフェだ。


 見覚えのあるコーヒー農園の名前が並んでいることからも、うちの農園からコーヒーを輸入してくれていることが分かる。うちのコーヒー農園を通して、鈴鹿の店でうちの味を再現できる。


 これだけ距離が離れているのに――本当に凄いことだな。


「ふふっ、うちが仕入れているコーヒーを気にしてるの?」

「うん。いつも買い上げてくれてるんだ」

「すっかりお得意様だよ。あず君のコーヒーは笑顔になる味だから」

「だからここのみんなも、笑顔が絶えないんだろうな」


 少し遠くから伊織の欠伸が聞こえた。


 着替えたばかりで髪はボサボサ、だがそれがいい。それに可愛い。今は競技に参加していないから心底気楽だろうが、これは帰ったらすぐにWSC(ワスク)が始まることを忘れているな。


「伊織、11月からWSC(ワスク)だろ。練習はいいのか?」

「帰ったらやります。今はここでコーヒーカクテルを淹れてからテイスティングしています。あんまり飲みすぎないようにはしてるんですけどね」

「伊織ちゃんって、凄く勉強熱心だよね」

「ちょっと前までただの劣等生だったけどな」

「それは言わない約束ですよ。私はあず君のお陰で生まれ変わったんです。今はこうして、ご飯を食べられる大人になりましたから」

「ご飯を食べられる大人?」


 鈴鹿が顎に人差し指を当てながら首を傾げた。そういや全然話してなかったな。


 一応鈴鹿にも飯を食えない大人の問題を話した。


 こういう人間を減らす意味でも、積極的に不登校を推奨し、どこにいても教育を受けながら仕事ができる社会に生まれ変わらせようと考えているが、未だに保守的な意見も多いことを話した。


 難しい問題としながらも、結局は他人の人生とバッサリだった。


「そこまで他人の人生に構ってられないかな」

「それはその通りだけどさ、せめて僕の周りだけでも何とかしたい」

「周りって、葉月商店街とか?」

「それもあるけど、才能があるのに不才にするような親にはなりたくないからさ」

「じゃあさ、学校に行くかどうかは、子供に毎日決めさせるっていうのはどう? 保育園だと思って預けるくらいは問題ないと思うけど」

「うーん、あそこでこうやって社畜が作られるんだよって紹介しながら、社会科見学で見に行く分には良いかもしれんな。でも一応釘は刺しておく。真面目な人ほどいいように社畜化されるし」

「まるで人間動物園みたいな言い方だね。先生とか嫌いなの?」

「ああ、大嫌いだ。ただでさえ教育者ってのは押しつけがましいし、教師なんて中途半端な知識と変な常識を植えつけて、子供のやりたいことを分からないようにして不才にする仕事だと思ってる。この世で最も愚かで……無価値な……人の仕事だ」


 アイリッシュコーヒーを飲んで酔っていたのか、今までの本音がつい飛び出てしまった。


 ちょっと飲みすぎたか。僕が酒を飲むと、何を言うか分からない。良い教師に出会ったことがないのは事実だし、強いて言えば、保健の先生くらいだろうか。


「あず君のお父さんが言っていた通り、木を見て森を見ずだね」

「親父に会ったのか?」

「何度か会ってるよ。あず君の系列のお店にも何度か立ち寄ったし、どこのお店にも、それぞれの個性が表れていたけど、チェーン店にはしないんだ」

「チェーン店にしたら、わざわざ本店に行く理由がなくなるだろ。本場の味は本場でしか味わえないようにして、本店の味は本店でしか味わえない。そこに希少価値があるってわけだ。チェーン店は葉月珈琲塾とセルフカフェだけで十分だ」

「ふーん」


 不思議そうなジト目でこっちを見た。余裕の目だ。風格が違う。


「あず君は他人と差別化を図れないことを恐れているように見えるなー」

「そうしないと生きていけなかったからな」

「普通の人が許せない?」

「――そうかもしれない」


 世間からはよく普通になれと言われた。だが社会に出てみれば、うまくいっている人はいずれも普通の人じゃなかった。危うく不才になるところだったんだ。あんな奴らには二度と従わない。


 僕にとって公教育は放射能みたいなもんだ。だからなるべく公教育の影響を受けないように立ち回るべきだと思っている。現にあれを真に受けた連中の多くが、才能を発揮できないまま、社畜かニートになってしまっている。通学すればするほど、替えの利くポンコツと化していくのだ。


 他人はともかく、身内にはあいつらと同じ道を辿ってほしくはない。


 午後を迎え、真理愛たちの競技が始まった。


 全く違うブースで、ほぼ同時刻に行われるため、全員の競技を見ることはできない。他のバリスタたちの競技の成功を祈りつつも、僕、伊織、千尋は真理愛のブースまで行った。


「根本さんともほとんど同じ時間にやるんだね」

「まあいいじゃん。あいつはもうこの大会での目的を達成した」

「……? 達成した?」


 自分らしい生き方を貫く力を得るという、大きな目的をな。


 あいつはもう、穂岐山珈琲に頼らずとも、自力で飯を食っていけるだろう。


 バリスタオリンピックにおける最大の敵は自分自身。長丁場の競技、膨大なアイデアの必要性、数多くのライバル、どれも自分を鍛え抜く上では重大な要素だ。あいつは遂に自分自身に打ち克った。結果はどうあれ、あいつ自身の成長を確かめられただけでも、根本にとっては十分な報酬だろう。


「予選の時とそこまで競技が変わってませんね」

「レパートリーポイントは不利な部門でスコアを伸ばすために導入された救済処置だ。元からスコアが高い部門であれば、無理に変える必要はない。準決勝以降の戦力差を少しでも埋めるためのものだし」

「あず君は全部門自信なかったんだ」

「そうだ。だから全部門でレパートリーポイントを狙った」

「それで世界一になるんですから、やっぱり只者じゃないです」


 レパートリーポイントがなかった予選では8位、準決勝でも4位だったし、決勝でようやく自分らしい競技ができたあたり、僕はスロースターターなのかもしれない。


「真理愛さんはずっとマンハッタンコーヒーを使い続けるみたいですね」

「あいつの自信作だからな」

「自信作ですか。私には自信作がないので、羨ましいです」

「ドリップコーヒー得意じゃなかったっけ?」

「それは多分、あまりエスプレッソを淹れたことがないからだと思います」

「じゃあWSC(ワスク)が終わったら特訓だな」

「ですね」


 僕と伊織も1ヵ月後には世界を相手に戦う時がくる。


 今年はまだ1回も大会に出ていないのに、何度も色んな大会に出ていたような気がする。それだけ他のバリスタたちと感覚を一致させていたということだろうか。その時夢中になっている経験は現場にいた全ての人に共有される。それだけ充実していたとも言えるな。


 夕刻を迎え、15人のセミファイナリスト全員の競技が終わった。後は結果発表を残すのみとなったわけだが、決勝進出を決めるのはたった5人。日本勢の真理愛、根本、優勝候補のマイケル、ベネディクト、アリス、ディアナ、マチュー。これだけいれば必ず誰かが落ちる。


 真理愛、松野、根本が僕らの元に歩み寄ってくる。


「あっ、根本さん、準決勝はどうだったんですか?」

「うまくいきましたよ。後は決勝進出を願うだけです」

「レパートリーポイントならきっちり稼いだから問題ない」


 松野が根本の代わりに答えてくれた。彼は1年かけて、僕と同様に全部門でレパートリーポイントを稼ごうと、合計で30通りのコーヒーを製作してきた。


「無茶なことをしたな」

「人のこと言えないですよね」

「僕は大会5年前からアイデアを考えてた。それを1年でこなすあたり才能があるのはよく分かった」

「葉月さんにそう言われるのは光栄ですね」

「あず君が人を褒めるなんて珍しいですね」


 伊織が不機嫌そうな顔で言った。このムスッとした顔も可愛い。


 大きい目に色白でプニプニしてそうな頬が子供っぽくてほっこりする。


「そろそろ結果発表ですね」

「日本勢2連覇ができる数少ないチャンスだからな」

「なんか緊張してきました」

「真理愛は色々準備不足だったけど、それでも準決勝までいけたってことは、今まで積み上げてきたものの大きさだ。もっと自分に自信持って。僕に今大会のトロフィーを見せてくれ」

「はい。明日も戦いたいですね」


 生き残ってほしい。明日は僕が運営サイドでスペシャルゲストとして解説する。


 日本勢には是非とも生き残ってもらいたい。


 司会者が現れると、結果発表が始まった。15人ものバリスタが勢揃いだ。予選落ちしたバリスタも多くが会場に残っていた。生き残ったバリスタを見て次に活かそうとする者、最後の出場と決めて既に帰国した者、様々なタイプのバリスタが今回も参加したが、生き残りも個性派揃いだ。


 アジア勢が4人もいることから、僕がアジア勢に対してコーヒーカクテル部門の穴を指摘してきた部分が本当に大きい。あれからアジア勢もコーヒーカクテル部門の重要性に気づいたようだ。


 アジア各国でコーヒーカクテル専門店がオープンするに至った。


「皆さんお待ちかね、準決勝結果発表の時間がやってまいりました。集まった15人の内、5人が栄えあるファイナリストとなり、バリスタの歴史にその名を刻みます」


 順不同で次々とバリスタの名前と国名が発表されていった。


「4人目のファイナリストは……日本代表、マリアーカトー!」


 真理愛が両手で顔を隠しながら、信じられないと言わんばかりに白い舞台へと上った。


 マイケル、真理愛、ディアナ、ジョゼ、マチューの5人が選ばれた。


 ここに、それぞれのバリスタたちの明暗がハッキリ分かれた。アリスが準決勝敗退なのは予想外だ。皮肉にも身内勢で1番の優勝候補がここで消える結果となってしまった。根本はやや落ち込み気味だったが、その顔に後悔はなく、呼ばれたバリスタたちに惜しみない拍手を送り続けていた。


 ファイナリストの結果はこんな感じだ。


 1位 マイケル・フェリックス アメリカ 913.4

 2位 マチュー・コンスタン スイス 902.3

 3位 ディアナ・キールストラ オランダ 893.6

 4位 ジョゼ・モリエール フランス 889.7

 5位 加藤真理愛 日本 887.0


 根本は最終14位、アリスは最終6位、ベネディクトは最終7位だった。


 根本は予選で力尽きたのがハッキリ分かる順位なのに対し、アリスやベネディクトはファイナリストに残っていてもおかしくない順位だった。運命の悪戯だろうか。今大会でマイケルに並んで1番の優勝候補と言われたベネディクトもここで消えた。僕の予想の斜め上を行く結果となったが、マイケルは相変わらず安定したスコアを残している。マチューは予選こそ通常のエスプレッソ、ドリップコーヒー、ラテアートでの雑さが若干目立っていたものの、今回は見事に修正してきたようだ。


「真理愛さん、おめでとうございます」


 結果発表が終わると、僕らは真理愛の元へと駆け寄った。


 観客が段々少なくなっていくが、決勝はもっと人が来るだろう。


「ありがとうございます。決勝も頑張ります」

「松野さん、すみませんでした。最後まで気力が持ちませんでした」

「いいんだ。お前はよくやった。穂岐山珈琲から初めてのセミファイナリストになれたんだ。もっと自分に誇りを持て。次は優勝を目指そうな」

「はい、次はきっと――」


 根本が真理愛と話している伊織の横顔を見つめた。


 次は僕の愛弟子と松野の愛弟子による愛弟子対決だな。それまでに伊織をもっと鍛えておく必要があるな。前回大会の経験者は、次回でもっと順位の高い結果を残す可能性が高い。きっと次はファイナリストレベルに到達しているはずだ。経験が浅い分、伊織の方が不利ではあるが、どうにでもなる。


 鈴鹿のライブハウスに戻ると、準決勝敗退となったアリスが、魂の抜けたような顔でテーブル席に突っ伏しており、アイリッシュコーヒーを口に含んでいる。


「アリス、また次があるだろ」

「最年少記録、更新したかったなぁ~」

「最終6位で決勝の一歩手前だし、相手が強すぎたと思うしかないだろ」

「スティーブンおじさんの愛弟子が決勝までいったから、後はジョゼに希望を託すしかないね」

「ジョゼって、スティーブンの愛弟子だったの?」

「うん。知らなかったの?」

「知らなかった」


 ふと、ファイナリストの名前を1人1人思い出した。


 ジョゼって確かフランス代表で、4位通過で決勝進出を果たしたバリスタだ。


 あの人、スティーブンの愛弟子だったのかよ。結果的にファイナリスト全員が猛者ってことか。


 決勝は会場中央に大きなブースが設けられ、1人ずつ丁寧に行われるため、会場中の注目を独り占めできる。アリスも決勝の舞台に立ちたかっただろう。真理愛もディアナも緊張気味だが、ここで今までのプレッシャーが大きく伸し掛かる。長旅の疲れが出るだけじゃなく、1番大事なところで負けられないというプレッシャーに押し潰されそうになっている。1位通過できるに越したことはないが、決勝で1位を取れなければ意味がない。1位以外は全員敗者。その先はない。マイケルも前回大会で思い知っただろう。それでもやめないあたり、無尽蔵なまでの勝利に対する執念は本物だ。


 彼はかつての栄光を取り戻したい。そして有終の美を飾りたい。バリスタ競技会そのものからの引退により、世界最高峰のバリスタがまた1人いなくなる。マイケルがバリスタ教室のチェーン店を展開するのは、ここで自分が引退することでバリスタ人気を落とさないようにするためとすら感じる。


「負けた後は生き残った身内に希望を託す。これも大会の醍醐味かもね」


 僕らに割って入るように鈴鹿が言った。


「アリス、次優勝したいなら、しばらくはうちで修業してみろ」

「できればそうさせてもらうけど、葉月珈琲のバリスタって、どの競技会でも誰かしら生き残るよね。何か特別なことでもしているの?」

「変わったことは何もしてない。自由に伸び伸びやらせてるだけ。何か実験したいことがあれば、遠慮なく投資をするってだけだ」

「やってるじゃん。社員が何かをやりたがっている時に何の躊躇いもなく投資をするって、本当に難しいことなんだよ。結果が出る保証もないし、失ったコストを取り戻すのも難しいし、それができる葉月珈琲だからこそ、トップバリスタが輩出されてるんだと思う」

「それだったら、穂岐山珈琲もやってますよね?」

「穂岐山珈琲は1人の競技に全員のアイデアを無理矢理に詰め込もうとするから駄目なんだ。前回大会の松野の競技が全てを物語っていた。テーマもコーヒーもちぐはぐで、プレゼンに一貫性もなければ、自分の信念もなかっただろ」

「そりゃ悪かったな」


 慌てて後ろを振り返ると、そこにはすっかりと興醒めした様子の松野と根本がいた。


「……なんか用?」

「明日は俺たちも真理愛さんの応援をさせてもらうぞ。結構良い店だな」

「あず君がいつもお世話になってます」

「うちの親みたいに言うなよ」

「「「「「ふふふふふっ!」」」」」


 ライブハウスが笑い声に包まれ、さっきまでの気まずい空気がすっかり変わっていた。流石は多くの挫折を乗り越えてきただけあって、物腰が柔らかいな。


「アイスコーヒーください」

「じゃあ僕もお願いします」

「はーい、ちょっと待っててくださいね」


 鈴鹿はのっそりとカウンターの向かい側の席から立つと、オープンキッチンでアイスコーヒーを淹れる作業を始めた。コーヒーやミルクや氷をコップに入れる手際の良さ、マジでスカウトしてえな。


「今日はあず君に礼を言いに来た。ありがとな」

「僕、何かしたっけ?」

「根本の背中を押してくれただろ」

「最終的に決めたのは根本だ。それに背中を押したと言うなら、あんたもその1人だ。事情を知りながら穂岐山社長に報告しなかったのは、自分と同じ過ちを繰り返してほしくなかったからだろ? 同時に根本が自分の信念を貫くことを信じていた。違うか?」

「何でもお見通しだな」

「でもそのお陰で、僕は穂岐山珈琲勢初のセミファイナリストになれました。穂岐山社長からもこの功績を認められてクビは免れました。それと、来年から育成部長に昇進して、育成部に関する全ての方針を好きに決めていいと言われました」


 懐が大きいんだか狭いんだか、本当にあの人はよく分からんな。方針を好きにしていいってことは、競技者の体に合わない方針を採らなくてもいいってことか。今の穂岐山珈琲を立て直せるかどうかは根本次第、これからの会社の成長が期待されるところだ。


「なので今後の育成方針やプレゼンの組み立て方は、葉月珈琲を参考にさせてもらいます。また4年後のバリスタオリンピックに向けて、1人でも多くのトップバリスタを育て上げてみせます」

「あず君みたいに競技者としてもコーチとしても活動するということですか?」

「まあそんなところですよ。楽しみにしていてください」


 これでようやく、同じ土俵に立てたわけだ。


 松野たちは1杯飲んでから、満足そうな顔で帰っていった。


 真理愛はそんな彼らを差し置いて生き残った事実を背負いながら明日に向けた準備に奔走していた。それはディアナも同じようで、後はこの2人に全てを託すのみである。


 応援する側にとっても意義があると、改めて思い知らされた気がする。

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読んでいただきありがとうございます。

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