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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第10章 バリスタコーチ編
258/500

258杯目「逆境を乗り越えて」

 ――大会5日目――


 予選最後の日である。この日はアリスとマチューの競技だが、アリスだけじゃなく、あのマイケルが参考にするほどの競技ができる、マチューの競技も見ようと思った。


 この日も20人のバリスタが、それぞれのブースで5人ずつ競技を行い、全員が終わったら結果発表が行われ、参加者100人中、準決勝進出を決められるのはたったの15人。


 生き残りを賭けた戦いは、既に始まっていた。


 僕、伊織、千尋、真理愛、ディアナが見守る中、早朝から早速アリスの競技が開始された。会場にはそこそこ人が集まっており、それぞれのファンが各国のバリスタを静かに見つめている。


「今回使うコーヒーの品種は、パナマ、『グリーンティップゲイシャ』、プロセスはカーボニックマセレーション。グリーンティップは『緑の葉』です。茶色の葉のブラウンティップから収穫されたものよりグリーンの方がカップクオリティが良かったことから、選択的に緑の葉になったコーヒーチェリーを集めたロットです。是非ともお楽しみください」


 ゲイシャは葉の色によってグリーンティップとブラウンティップで区別されることがある。


 グリーンティップは交配していない純粋なゲイシャ種に近く、ピュアゲイシャとも呼ばれている。


 ブラウンティップは自然交配などによって、純粋なゲイシャ種とは若干の違いがあり、グリーンティップの方がブラウンティップよりも品質が高い。この違いはカッピングによって発見され、区別をするようになったとのこと。このグリーンティップゲイシャは素晴らしくクリーンな味わい、花を思わせる香り、様々なフルーツの風味がとても印象的である。


「エスプレッソは味のバランスが取れていて生き生きとした酸があり、透明感のあるカップであるべきです。この目標に向けた発酵プロセスが行われました。コーヒーチェリーをパルピング後10%のミューシレージを残すことで、より良いタクタイルをもたらします。次に従来のカーボニックマセレーションを行うことで、コーヒーに生き生きとした酸をもたらします。しかし、この方法ではタンク内に甘みが少し不足するため、コーヒーも甘みが少し足りない状態となります。そこで、次のステップのドライングプロセスを工夫。農園は3層構造のベッドを開発したのです」


 アリスはうちの傘下のコーヒー農園に目をつけ、最新鋭のゲイシャ種を使用した。これを主体的に使うようだが、彼女が使うコーヒーは、どれもブレンドよりもシングル向けのコーヒーと言える。1つ1つが個人主義のように独立した味わいであり、彼女らしさを表していた。


 まずはエスプレッソ部門からだが、シンプルであるが故に、スコアにも反映されやすい。


「そのお陰でゆっくりとした乾燥と発酵緩やかに進行させることが可能になり、最上段のコーヒー豆は直射日光が当たります。下の2段目と2段目はより日陰になる部分が多くなり、よりゆっくりとした乾燥となり、ミューシレージの分解もよりゆっくり進むのです。その結果、複雑な甘みを発達させ、カーボニックマセレーションがもたらす、生き生きとした酸とバランス良くマッチします」


 1つ1つの作業工程からここまで運ばれていく経緯を丁寧に説明する。


 コーヒーの種類が多い分説明が面倒だが、最近はWBC(ダブリュービーシー)でも、なるべく多くの種類のコーヒーを使用するのがトレンドとなっている。


「焙煎はこのコーヒーのポテンシャルを引き出すため、20%のデベロップメントを設け、9分でハゼに至るゆっくりな焙煎を行いました。この複雑な工程によって、薔薇のアロマ、オレンジの酸、キャンディのような甘さ、ミディアムボディ、シルキーな質感、アールグレイティーの後味を感じます」


 アリスが説明をしながら、エスプレッソとエスプレッソシグネチャーを提供した。うちで練習を積んでいる時、アリスは僕が持つバリスタオリンピックチャンピオンの最年少記録を更新することを目標にここまで頑張ってきた。その成果を存分に発揮できている。間違いなく上位には入っているだろう。


 マイケルを除けば、今大会で最も優勝に近いバリスタだ。


「アリスさん、凄く頑張ってますね」

「他人事みたいに言ってるけど、4年後は伊織の番だぞ」

「私、日本代表になれますかね?」

「できると思えばできるし、できないと思えばできない」

「大会にかける想い次第ってことですか?」

「優勝はともかく、日本代表になるくらいだったら確実にできる。伊織は僕より体力あるし、この長丁場を耐えられるだけの力は4年もあれば身につくはずだ」


 伊織の課題はコーヒーカクテル。次の3年で日本代表になれるだけの力を持てるかどうかだ。4年前にアリスが21歳で出場できたくらいだし、あれで確信が持てた。若さには力がある。最年少記録更新であれば比較的簡単かもしれない。むしろ最年長記録の方が難しい。アリスは僕よりも誕生日が遅い。彼女が優勝すれば最年少記録を僅かに更新できるわけだが、今回がラストチャンスでもある。


「あず君は最年少記録を更新されたら悔しくないんですか?」

「むしろ更新してほしい。前にも言ったけど、僕をバリスタの限界値にはしたくない。次世代を担うバリスタたちに記録を塗り替えてもらうことで、バリスタという職業には無限の可能性があることを証明してほしい。だから僕は彼女をサポートすると決めた」

「ふふっ、あず君ってホントに面白いです。普通は記録を塗り替えないで欲しいと願ったりしますよ」

「記録を塗り替えられたとしても、更新された人の価値が損なわれることはない。元世界記録保持者だってさ、今でもずっと有名だろ?」

「そうですね」


 伊織がにっこりとした笑顔で言った。限界値は更新されてしかるべきだ。真理愛か根本が優勝なら、史上初の同一国2連覇だし、僕と同い年のディアナが優勝なら、僕の世代が葉月世代と呼ばれるようになるだろう。既に僕の世代はマイスター世代と呼ばれてるけどな。アリスが優勝なら最年少記録更新。マイケルが優勝なら史上初の複数回優勝だ。誰が優勝してもおめでたい。


 最後にラテアート部門の作業工程へと移った。


 フリーポアでアリス、デザインカプチーノでマッドハッターを描いた。同じ名前を冠する分、親近感が強いのだろうか。コントラストもミルクピッチャーのコントロールも完璧だ。


「私はコーヒーをどこまでも追求し、より多くのお客さんに喜んでいただくために、これからも多くのコーヒー豆の研究もしていきます。私の将来の夢はコーヒーを研究する大学教授になり、コーヒーの謎を全て解き明かしていくことです。タイム」


 拍手と声援が惜しみなく送られ、アリスがホッとした顔で笑みを浮かべた。


 これで身内全員の競技が終了した――後注目しているのはマチューだけだな。


「私が使うのは、生産国、インドネシア、品種、『ロングベリー』、プロセスはカーボニック・マセレーションです。WBC(ダブリュービーシー)で知り合った友人から、インドネシアで初のカーボニック・マセレーションのコーヒーが生産されたことを教えてもらい、このコーヒーが持つチョコレートとダークチェリーのフレーバーを活かしつつ、生き生きとした酸甘さ、タクタイルを引き上げるドリンクを作成しました。薔薇のアロマ、ダークチェリー、ダークチョコレートトリュフを感じます」


 気がつけば午後からマチューの競技が始まっていた。


 彼は今までに知り合った色んなバリスタの競技を参考にしているようだ。


 所々に彼が知り合ったバリスタたちの良いとこ取りをしたような競技だ。そうか。彼はそれぞれの部門を最も得意としているバリスタの競技をそれぞれの部門に取り込むことで総合力を上げているんだ。自分のアイデアだけじゃない。今までのアイデアの集大成を彼は作り上げようとしているんだ。


「あの競技って、あず君もやってましたよね?」

「最後の乾杯はジャッジに競技であることを忘れてもらうためにやった」

「観客にもカフェにいるかのような雰囲気を与える目的もあるよね」

「千尋ってあの場にいたっけ?」

「動画で見たよ。あれは傍から見ていても分かる」

「やっぱ研究されてたか」

「あず君を研究しない手はないでしょ」


 笑いながら千尋が言った。


 今や世界中から研究対象にされているのに、未だ攻略されていない僕って、一体何者なんだろうか。


 この競技にはマチューの長所が全てが表れていた。1人1人のジャッジの名前を呼びかけたこのパフォーマンスは彼のずば抜けたホスピタリティを象徴していた。


 他の部門のコーヒー用にいくつものエスプレッソやドリップコーヒーを作成するこの手際の良さ。


 おいおい、これマイケルとめっちゃ良い勝負するんじゃねえか?


「『ハワナエステート』のコーヒーはクリーミーなマウスフィールであり、スパイシーチョコレートの風味です。しかし、まだ改善の余地があるため、カーボニック・マセレーションを実施しました。伝統的なカーボニック・マセレーションを適用した結果、インドネシアでは発酵の結果が全く違うものとなりました。インドネシアは気候が温かく、より湿気があるためと考え、従来のカーボニックマセレーションに変更を加えました。発酵のためのステンレス製タンクをアイスバスの中にいれることで、タンク内温度を30度で維持できるようにしました。その結果、タンク内の発酵を100時間まで延長することができ、これが興味深いフレーバー変化をもたらしました」


 チョコレートの風味をより感じるようになり、ダークチェリーという新たなフレーバーをもたらしたわけだが、その反面、長いコンタクトタイムの影響で生き生きとした酸が少し欠いているように感じたと彼は説明する。そのコーヒーから作るシグネチャーの目標は、コーヒーの持つチョコレートとダークチェリーのフレーバーを維持しつつ、生き生きとした酸、甘さ、タクタイルを引き上げることだ。


 様々な食材を混ぜたウォーターケフィアをエスプレッソと混ぜると、それらをバースプーンで混ぜてからコールドドリンクにするようだ。かつてバリスタオリンピックや、WBC(ダブリュービーシー)で頂点を争ったバリスタたちをコーチに迎え、全ての部門で1番を取りに行こうとしている。


 やっぱ出るんだったら、それくらいの気持ちで出てほしいと切に思う。


 ラテアート部門を4番目に持ってくると、マチューはフリーポアで鹿を、デザインカプチーノで狐を描いた。あれはWLAC(ワラック)のチャンピオンが描いていたラテアートだ。ただマネをするだけじゃなく、まるで生きているかのようなラテアートをきっちりと現出している。


「伊織、よーく見ておけ。あれが世界だ」

「はい。他のバリスタを参考にするだけじゃなく、完全に自分のものとして昇華させています……私もいつか……あの舞台に立ちたいです」


 伊織が目をキラキラと輝かせながら呟いた。バリスタオリンピックは伊織をより一層その気にさせていたのだ。その目はまるで、メジャーリーガーに憧れる野球少年のような目だった。


 最後のコーヒーカクテル部門は圧巻だった。


 冷蔵庫から取り出したスコッチウイスキー、ボンベイサファイアを使用し、ゲーリックコーヒーをホットの状態で淹れると、今度はかつての僕が世界を制覇したマンハッタンコーヒーを淹れた。


「どうして最後にコーヒーカクテル部門なんでしょうか?」

「アルコールを冷やしておきたかったからだ。冷蔵庫に入れている時間が長いほど、キンキンに冷えたアルコールが飲める。時間稼ぎをするためにコーヒーカクテル部門を最後に回した。ちゃんと考えてやってるなら、あえてセオリーを無視するのも1つの戦略だ」

「考えさせられますね。答えのない問題を解いているみたいです」

「コーヒーは答えのない問題そのものだ」

「だから奥が深いんだよね。ずっと夢中になっていられるし」

「千尋も言うようになったな」

「夢中になったきっかけはあず君だよ」


 千尋が僕の右肩に頭を預けてくる。


 伊織が負けじと左肩に頭を預け、両側から良い香りが漂う可愛らしい髪の毛が迫ってくる。


 2人に挟まれた僕は――考えることをやめた。


「皆さん、ここまでつき合っていただき、ありがとうございます。私はこの舞台に立てることを誇りに思います。私がバリスタ競技会に出続けられるのは、皆さんの応援のお陰です。そんな想いを込めて、これからも世界一のコーヒーを淹れていきたいと思います。タイム」


 まるで最後の競技者であるかのような演説を交えたプレゼンはブースにいた人々を熱狂の渦に巻き込むほどだった。今大会までの挫折が彼を強くしたんだ。本気で優勝したいという気迫が心臓にビンビンと伝わってくる。インタビューの後で彼がいるステージに上がった。


 準決勝の準備をしているあたり、本当にできる人だとすぐに分かった。


「マチュー、良い競技だったな」

「ありがとう。アズサが競技を見てくれているなんて光栄だよ」

「最後に会ったのって、いつ頃だっけ?」

「半年くらい前かな。葉月珈琲で多くを学ばせてもらったよ。他のバリスタがまずやらないことを君の会社は平気でやってのける。シグネチャーの専門店を出したと聞いた時は本当に驚いたよ。最後に会った後も何度か日本に行って、君が出店した店舗全てを覗かせてもらった。何であそこまで色んな種類の店舗にチャレンジできるのかな?」

「僕は出店した店舗全てに生き残ってほしいと思ってるけど、一方でどれか1店舗でもいいから、大当たりを引いてほしいとも思ってる。店を成功させる上で大事なのは、試行回数を多く増やすことだ」

「同感だね。俺もそうしてきた。アズサの言う通りにやったら、いつも予選落ちばかりだったのが決勝の常連にまでなった。君の貢献はとても大きいと思うよ」


 マチューが気さくに感謝の気持ちを述べた。バリスタの道を志す者たちのため、自分の経験則に基づいた練習方法や外国のカフェ巡りをした時にどこを見るべきなのかを動画にして投稿することで、可能な限り葉月珈琲とそれ以外との格差を解消しようと試みたのだ。


 穂岐山社長からは懐疑的に見られた。僕は利益を独占するために会社を経営しているわけではなく、あくまでもコーヒー業界の発展と、社会全体の利益を最大化するためである。


「葉月珈琲に企業秘密はない」

「企業秘密がないのに、他のコーヒー会社よりもずっと成功するところがアズサの凄いところだ。君はコーヒーに愛されてるよ」

「相思相愛だからな」


 マチューは僕に倣い、多くの練習や試行錯誤を重ね、この日のために入念な準備をしてきた。


 ここにきてまた1人優勝候補が飛び出してくるとは、流石はバリスタオリンピックだ。これだからこの大会は毎回見ていたくなる。僕はこの大会に前回チャンピオンとして優勝トロフィーの受け渡し役、決勝のみの運営サイドの実況として呼ばれており、決勝の日は伊織たちと一緒にいてやれない。


 運営側から呼ばれたのは、開催の3ヵ月ほど前だ。


 僕は今大会決勝のみ、スペシャルゲスト実況としてお呼ばれすることとなった。


 歴代チャンピオンでも、スペシャルゲストになることは基本的にないんだとか。それだけの影響力を身につけたということだろうか。本当に光栄なことだ。


 しばらくして、この日最後のバリスタが競技を終え、結果発表が行われた。前回と同様のシチュエーションで参加者全員が集められ、その中から呼ばれた者がセミファイナリストとして白いステージに上がることとなる。今年は何人の日本勢が決勝までいけるのか、非常に楽しみではある。次々とバリスタたちが呼ばれていく。マイケル、アリス、ベネディクトが呼ばれ、実力で勝ち抜いた10人中、9人が揃った。ここまでに真理愛もディアナも根本も呼ばれていない。


 ていうかベネディクトも参加してたのかよ。


 一気に不安が脳裏を過る。準備不足ではなかったと思うが、これが世界最高峰の壁であると傍から見ていて思った。いや、彼女たちと感覚を一体化させているからこそ分かる。


 だがここで、司会者の言葉が僕らの予想を裏切った。


「上位で予選通過となった最後のセミファイナリストを発表したいと思います……今回初出場のバリスタとなりました。日本代表、タクミーネモトー!」


 歓声と拍手が送られ、根本は頭がぽかーんとしたまま白いステージに上がった。


 続いてはワイルドカードで進出を決めた者5人が発表される。既に準決勝進出が確定した5チームの中で最もスコアの高いバリスタがそれぞれ1人ずつ選ばれる。


「チームエスプレッソからのワイルドカードによる進出者を発表します。今回で2回目の出場となる子のバリスタです。オランダ代表、ディアナ・キールストラだー!」


 ディアナの準決勝進出が決まった。とっさの判断で競技の内容を大きく変えたとはいえ、その条件でこの結果は大健闘だ。チームラテアートからは真理愛、チームコーヒーカクテルからはマチューが準決勝進出を決めたわけだが、本当によくやってくれた。


 根本が上位にいてくれたお陰で、日本代表が2人共準決勝進出を決めることができた。


 まさか身内勢全員が準決勝に残るとは思わなかった。


 1人でも進出してくれたらラッキーだったけど。


 1位 マイケル・フェリックス アメリカ 909.4

 2位 ベネディクト・グッドウィン イギリス 898.5

 3位 アリス・リプトン アイルランド 895.6

 4位 ディック・カールシュテイン スウェーデン 887.9

 5位 ヴェロニーカ・ローゴヴァ ロシア 883.7

 6位 リチャード・ディーン オーストラリア 875.0

 7位 アマーリア・シューリヒト デンマーク 867.7

 8位 イ・スヨン 韓国 864.4

 9位 ジョゼ・モリエール フランス 863.2

 10位 根本拓海 日本 862.0


 ワイルドカードによる準決勝進出はこんな感じだ。


 11位 マチュー・コンスタン スイス 861.8

 18位 加藤真理愛 日本 799.6

 22位 ディアナ・キールストラ オランダ 769.5

 23位 リー・チェンミン 台湾 765.7

 28位 パメラ・ゴメス スペイン 754.3


 今大会からのワイルドカードの性質上、総合11位の人はどこのチームになろうと必ず選出される。マチューの場合も事実上の実力抜けであった。


「以上の15人が準決勝進出となります。おめでとうございます」


 こうして、結果発表が終わり、僕はホッと胸を撫で下ろした。


 根本の元に穂岐山珈琲の連中が笑顔で集まってくる。


「根本君凄いじゃん。まさか準決勝進出できるとは思ってなかったなー」

「石原さん」

「昨日まではごめんね。穂岐山珈琲のバリスタからセミファイナリストを出したかった一心だったの」

「いえ、いいんですよ」

「ホントに大した奴だよ。ここまできたら、俺たちも全力でサポートするからな」

「ありがとうございます」


 根本にかつての笑顔が戻った。これが日本の伝家の宝刀、手の平返しだ。


 無論、僕は最初から僕を評価してくれていた人たちにしか心を許していない。


 手の平返しをする人が多いのは、それだけ自分軸で生きていない人が多いってことだ。


 でもこれで……根本のクビは免れた。伊織や千尋までもがあの光景にホッとしながら呆れている。


 人との仲も結果次第ってか。僕はああいう関係はあまり好ましくないと思っている。


 成功者たちが結果を出す前から仲の良い人とだけ親密になっていくのも分かる気がする。つき合うなら常に味方でいてくれる人がいい。明日は準決勝だ。祝っている暇はない。


 僕らは結果発表の後、すぐに鈴鹿の家に帰宅するのだった。

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