251杯目「音楽の都」
コーヒーイベントが終わり、僕らは勝利の美酒に酔い痴れていた。
葉月珈琲から国内予選チャンピオンを3人も輩出できたのは誇りだ。
だが同時に1人の力では限界があることを思い知った。僕がコーチングした人ほど優勝に導きやすい傾向があるのは事実だが、裏を返せば僕の手の届かないバリスタを導いていくのは難しいことでもあるのだ。美月や優子のように、僕がコーチをしなくても優勝できた例もある。
ただ、僕に言わせれば、元からバリスタとしての才能に秀でた者をトップレベルに育てるのは得意ではあっても、元々並以下の者を育てるのは不得手だ。それはむしろ穂岐山珈琲の十八番である。
「ちょっといいですか?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
声がする方向へと目を向けると、そこには杉山が佇んでいる。
どういうことだっ!? 何故こいつがここにいるっ!? 何かの間違いだろっ!?
「なんか用?」
「今日の件で報告に来ました。葉月社長、私と千尋君を解放していただいてありがとうございました」
杉山がこの前とは打って変わって、丁寧に頭を下げた。
「やっぱりあんたも困ってたんだな」
「はい。どうして分かったんですか?」
「うちの妹が言ってただろ。本当に好きなんじゃなく、支配する気だったって。璃子は相手の表情の些細な変化を見ただけで、人の気持ちが手に取るように分かる」
「私は父の駒にされるのが心底嫌でした。いつも私のそばにいるあの専属運転手は、父が私に送った目付け役です。父がいない時ですら、本音が言えなかったのです。でもあなたのお陰で、やっと父に今まで言えなかった本音を話せました。私はお父さんの駒じゃないって」
「それで? 杉山社長は諦めてくれたのか?」
「はい。明日にも婚約は勘違いだったと世間に公表するそうです。村瀬グループとの取引は全て中止になりますが、あなたなら村瀬グループを立て直せると信じています」
「……そうか」
「では、私はこれで」
杉山は言い残したことを告げると、穂岐山社長に挨拶を済ませてから一足先にエレベーターに乗り、去っていった。エレベーターの扉が閉まる時、彼女の魂が開放されたような笑顔が垣間見えた。
根はとても良い人だと気づかされた。俊樹は何のことだかさっぱりな反応だったが、酒に酔っているようだし、すぐに忘れるだろう。伊織たちの祝勝会が終盤に差し掛かった頃、僕は美羽に話しかけた。
「美羽、穂岐山バリスタスクールの期間を延長するって聞いたけど、本当か?」
「あー、聞いてたんだ。本当だよ。真理愛さんと同じお店で働きながら、同時進行で続けようと思ったんだけど、多分無理。副業OKだったよね?」
「それはそうだけど、できないなら仕方ねえな」
「多分無理だと思う。バリスタスクール自体は夕方までに終わるし、真理愛さんのお店は午後6時からで時間は噛み合ってるんだけどねー。体力に自信があるとは言っても、来年には赤ちゃんが生まれるからしばらくは育休になると思う。本当はすぐに伝えるつもりだったんだけど、色々と仕事が立て込んじゃっててごめんねー。でもリモートワークだし、すぐに復帰するから大丈夫だよ」
「まっ、そういうことなら別にいいけど、しばらくは子育てのためにアルコール禁止になるだろうし、当分は育休ってことでいいんだな?」
「うん。まさかあたしが葉月珈琲系列のお店で働くことになるなんて夢みたいって思ってたけど残念。じゃあ、あたし先に帰るから、後はよろしくね」
「お、おう」
美羽は満足そうな顔で去っていった。そういや妊娠中なのを忘れていた。
ということは、あと1年程度はお預けか。身内だから転職を認めたというわけではない。美羽のマネジメント能力は以前から評価している。穂岐山バリスタスクールで彼女の経営手腕を見た時、葉月コーヒーカクテルのオープニングスタッフの1人を彼女と決めた。
真理愛はマスター兼コーヒーカクテラーと開発担当として活躍してもらい、店の経営を美羽にサポートさせる予定だったが、またスタッフを探す必要があるようだ。
まあでも、俊樹を葉月コーヒーカクテルで勤務させることも報告済みだし、俊樹にやってもらうか。
祝勝会はお開きとなり、僕らはタクシーで岐阜まで帰るのだった――。
9月下旬、バリスタオリンピック1週間前。
2019年大会はウィーンでの開催であるため、僕、伊織、真理愛、千尋、ディアナ、アリスの6人がウィーン国際空港へと集まることに。既に各国代表のバリスタたちも何人か来ており、会場近くのホテルに拠点を構えている。アリスは地元アイルランドで準備を進め、僕らと合流することに。
葉月珈琲では、またしてもリサとルイが代役を担当することに。
空港に着いた頃、僕はバリスタオリンピック前回チャンピオンとして、多くのウィーン市民から歓迎されていた。何人かのウィーン市民とスマホでツーショット写真を撮っていた。
「あず君、人気ですね」
「向こうじゃコーヒー業界のレジェンドって呼ばれてますからね」
「真理愛さん、優子さんに手伝ってもらわなくてもいいんですか?」
「大丈夫です。優子さんから、予選から決勝までに使うフードとスイーツのレシピを頂きました。作るのにかなりの時間と手間がかかりましたからねー」
「じゃあ優子さんは、カッピングの練習をする暇なんて、ほとんどなかったはず……」
伊織が片手の上に顎を置いたまま、天井に目を向けた。
あいつが努力してるところを他人に見せるわけねえだろ。
優子と一緒に住んでいる愛梨が食事の時に1階まで食べに降りると、優子のそばには必ず3つのコーヒーカップが置いてあったという。愛梨が何で3つも置いてあるのかと聞いても、優子は最近色んなコーヒーにハマっているとしか言わない。仕事の合間にいつでも練習ができるからこそJCTCを選び、普段は真理愛のバリスタオリンピック用のメニューを考えていたわけだ。
愛梨からのメールで知った時は、スマホ画面を見ながらクスッと笑ってしまった。
「あれだけ忙しいのに優勝できるって、ホントに凄い人なんですね。そういえば、伊織ちゃんはどうしてここまで来たんですか?」
「真理愛さんのサポーターです。私も次のバリスタオリンピックに参加したいので、大会の雰囲気を掴むためにやってきたわけです」
「あの、競技の練習場所はあるんでしょうか?」
「あるぞ。東京大会の時もそうだけど、大会中は開催都市が丸ごと選手村みたいな状態になって、可能な限りバリスタを受け入れるようになってる。穂岐山珈琲も練習場所を持ってたし、それに僕は昔っからの知り合いの別荘を借りてるから」
「別荘ですか?」
「行けば分かる」
僕らはウィーンの郊外にある別荘へと向かった。
――あいつ、元気にしてるかな。また会えるのが楽しみだ。
煌びやかで大きい豪邸のようなライブハウスに入ると、近世のカフェをイメージした木造建築のオシャレな内装に加え、奥の方にはピアノ、ギター、バイオリンが置かれており、使い古され、ボロボロになった姿が時代の流れを感じさせる。何人かの常連らしき人が、時間が止まったように居座っていた。
「あっ、あず君いらっしゃい!」
いきなり赤と黒を基調としたドレス衣装の女性に抱きつかれた。
「鈴鹿、元気してたか?」
抱きついてきたのは鈴鹿だった。彼女は世界中を飛び回るピアニストとなり、仕事中に知り合ったオーストリア人男性と結婚し、2人の子供を儲けている。今はウィーン在住であり、ライブハウスを夫婦で営みながら近くの音大の講師を務めている。30代後半の鈴鹿だが、20代の時よりずっと美人だ。
外見も中身も大器晩成型の女性ってわけか。
「うん、もちろん。あず君が私に翼を授けてくれたお陰でね。あら可愛い」
伊織と目が合った途端、鈴鹿が目線を斜め下に向けながら反射的に呟いた。
「うちのスタッフたちだ」
「随分若いけど、あず君ってロリコンだっけ?」
「子供じゃないです」
少しばかりムスッとしている伊織が言った。お互いに自己紹介を済ませ、鈴鹿が僕との関係を一通り話してくれた。その間に注文を済ませてから腹ごしらえをすることに。
オーナーであるオットーが裏から出てくると、僕らがいるカウンターテーブルの席と対面する位置から笑顔で出迎えてくれた。オットーは鈴鹿の夫である。オットーだけに。茶色の短髪に碧眼のナイスガイだ。背が高くガタイも良い。黒を基調としたチョッキの制服を着用しており、印象は良かった。
鈴鹿はそんなオットーの太い腕に細い両腕を巻きつけた。
「オットーとはパリ公演の時に知り合ったの。ライブハウスを経営しながらバイオリニストとしても活躍している、とっても凄い人なの」
「アズサ、君の活躍は聞いているよ。昔っから君のファンでね。まさかここで本物に会えるとは思わなかったよ。大会が終わるまではうちにいるんだろ。好きなだけ寛いでくれ」
「ありがとう。しばらくはここを練習場所として使わせてもらう」
「……君、ドイツ語を話せるのかい?」
「ドイツ人の客と何度も話してたからな」
「鈴鹿、君の初恋の相手は本当に凄いな。5ヵ国語を話せるのは本当みたいだね」
「だから言ったでしょ。今はバリスタコーチみたいだけど」
鈴鹿がオットーと仲良しそうに話している。
今の僕がみんなからバリスタコーチと見なされているのはよく分かった。
広く世間を見渡してきた鈴鹿の言葉は世間の見解そのものだ。僕自身もまだ競技者として活躍し続けたい気持ちはあるが、同時に事業を展開していきたい気持ちもある。僕は一体……どこまでバリスタ競技者としての模範を……示すべきなのだろうか。
――まっ、そこは成り行きで決めることにするか。
少なくとも……今は競技者で居続けたい。
「じゃあ鈴鹿さんがピアニストとして羽搏いたのは、全部あず君のお陰なんですね」
「うん。あず君は弟の仇を取ってくれたの。それまでは権力に阻まれて訴訟すら起こせなかったけど、あず君が声を上げてくれたことがきっかけで、犯人逮捕に繋がったの」
「ニュースは私も見ました。あず君は多くの人を失業に追いやったことに罪悪感を持ってましたけど」
「そうなの?」
「……まあな」
「そんなことで悩むなんてあず君らしくないなー。遅かれ早かれ、あのグループの人たちは、どの道失業する運命だったの。自然の摂理だったと思えばいいの。誰のせいでもない。強いて言うなら、あの人たちの身から出た錆なんだから、自然淘汰ってやつ」
違う……そうじゃない。僕が気にしているのはそこじゃない。就職レール以外の道で食べていけない人たちからレールを取り上げてしまったことで、社会全体の不安が高まることを懸念していた。
そんなしょうもない理由で治安が悪化することだけは避けたかった。
実のところ、僕は昔の僕のような人間を作りたくないのだ。うちの親父が就職レール以外で食べていけない人間だった身としては、何のケアもなしに大量失業が起こることは避けたい。
そんな僕の意図を察してか、鈴鹿は僕の迷いを取り払おうと言葉を投げかけた。
「グループまで潰す必要あったのかな」
「必要悪って言いたいの?」
「いや、社長が変わるだけじゃ、駄目だったのかなって」
「あのグループ自体が大きな問題を抱えてたみたいだし、雇用で人々の生活を支えるやり方自体に限界が来てるんだからしょうがないじゃない。あず君は成すべきことを成せばいいの。それが多くの人の希望になるんだから。今日はもう休んだらどう?」
「……そうだな」
天井を見ながら息を吐いた。旅の疲れで不安になっていることを見透かされている。
ライブハウスにはいくつかの部屋があり、バリスタオリンピックが終了するまでは、ここで泊まらせてもらい、ライブハウスのキッチンも、しばらくは競技の練習場所として開放される。店の営業自体は続けるものの、競技用のコーヒーを期間限定のメニューとさせてもらうことに。
僕は千尋と、伊織は真理愛と、ディアナはアリスと同じ部屋で泊まった。店の営業が終わると、真理愛が早速本戦で使う競技用のコーヒーを淹れ、鈴鹿もオットーも真理愛のコーヒーを口に含んだ。
「これ、あなたが淹れたの?」
「はい。どうでしょうか?」
「味は悪くないけど、このコーヒーに入ってる葡萄のフレーバーを他の食材が邪魔している気がする。これだと準決勝進出は厳しいかも」
鈴鹿が冷めきった声で言った途端、周囲の空気が凍りついた。
何を隠そう、鈴鹿もまた、こっち側の人間だ。忖度なんてできない変人……というかそうでなければ、アーティストなんてまずなれないんだろうな。就職しなかった人たちには相応の訳があるのだ。
「……厳しいですか?」
「味に決定打がないかな。シグネチャー以外のコーヒーとコーヒーカクテルは申し分ないけど、あなたは何のためにコーヒーを淹れているの?」
「……」
真理愛は口を閉ざしたまま答えない。いや、答えられないんだ。千尋は言われて当然と言わんばかりにこの光景を眺めている。あいつは真理愛が抱えている課題を熟知していたようだ。
伊織、ディアナ、アリスは少し遠くテーブル席に陣取り、本戦に向けて笑いながら話している。ディアナとアリスはとても前向きで、早くもバリスタオリンピック後の話をしていた。練習はうちで積んだわけだが、それでも不安にならない。確かな技術と経験に裏打ちされている。
ディアナとアリスは、既にバリスタオリンピックを経験している。
あの大会特有の雰囲気にも慣れている。経験だけで言えば、真理愛が不利か。
「正直、分かりません。でも、私のコーヒーカクテルを飲んでくれたお客さんが笑顔になってくれた時はとても嬉しいですし、何より私がコーヒーカクテルを好きなのは確かです」
「ちゃんと言えるじゃん」
「えっ……言えてますか?」
「私もピアノを聞いてくれたお客さんが喜んでくれたら嬉しい。何かをやり続ける理由なんて、それで充分なんだから。でも1番好きなのは、あくまでもコーヒーカクテルなんだ」
「はい。元々はソムリエ修行をしながらコーヒーを究める方法を探していて、試しに作ってみたら美味しかったんです。コーヒーとアルコールという、深みのある飲み物同士の交わりが気に入ってしまったんです。ただ、あの時うっかりレシピを度忘れしてしまって、どうにかそれを思い出すために色々と試してはみたんですけど――」
「まだその味には辿り着けてないんだ」
「はい……恥ずかしながら」
なるほど、真理愛も昔の味を探しているんだ。僕の場合はもう見つかったけど、それなら彼女が味わった初めてのコーヒーカクテルも見つけてほしいな。
僕はそんなことを考えながら部屋へと戻った。
部屋は個室のようであり、1人分のベッドだったが、幸いにもサイズは大きかった。これならギリギリ2人で寝られる。ホテルの設計ではあるが、個人的に客人を招いて泊まらせる前提だろうか。
「あず君、これ見て」
嬉しそうな顔の千尋がスマホを持って部屋に入ってくる。画面を見てみると、そこには杉山グループが婚約は令嬢の勘違いであったことが掲載され、杉山がその罪を一身に引き受ける結果となっていた。悪いのは杉山社長の方だろうにと思いながらバッシングを受けている杉山に同情の念を向けた。
保身のために自分の罪を娘に押しつける親もいるんだな。
「ふん、ざまあみろだよ。僕の邪魔をするからだ」
「杉山も立派な被害者だぞ。まあでも、これで婚約騒動からは解放された――あっ、ところでさ、千尋が言ってた切り札って何?」
「あー、切り札ね。まだ内緒にしてるんだけど……明日香が妊娠したんだよ」
「ええっ!?」
脊髄反射で声を上げてしまった途端、声が大きいと注意しながら千尋が僕の口を押さえた。すると、勢い余った千尋が僕に覆い被さってくる。僕は仰向けに倒れ、頭のすぐ真横に千尋の手がつき、彼の顔が目前に迫った。驚嘆に何事かと思った伊織と鈴鹿が慌てて部屋の外から走ってくる。
「どうしたんですかっ!? ――えっ、あっ、あず君も千尋君も何やってるんですかぁ~!?」
「あらあら、そういう仲だったのぉ~」
「「違うっ!」」
妊娠のことは伏せ、慌てて事情を説明する。
本当は妊娠の件で驚いたことを咄嗟に杉山グループの件に差し替えた。これもこれで多少は驚いたから嘘ではない。どうにか説明を終えて帰ってもらうと、僕らはまた話を再開する。
「それで? いつ頃分かったの?」
「明日香が倒れちゃってさー、また疲労かと思って病院で検査したら……できてたの。明日香のお腹に」
「もしかして、最初に倒れた後、一緒に泊まったりした?」
恐る恐る聞いてみると、千尋は僕から恥ずかしそうに目線を横に外し、コクリと頷いた。
19歳で早くも父親か。杉山グループが2人の仲を必死に引き裂こうとした反動なのか、深い仲になってしまったわけだ。確かこういうのって、ロミオとジュリエット効果って言うんだっけ?
あの様子だと、村瀬社長はもう長くない。
千尋は子宝に恵まれたわけだが、千尋自身が後を継ぐことはない。もしかして――。
「親父には伝えたか?」
「いや、伝えてないよ。今伝えたら倒れそうだし。それと僕、あの後親父と話し合ってさー、もう村瀬グループに戻らなくてもいいって」
「破門は解かれたわけか」
「うん。だからもう好き勝手にやらせてもらう。葉月珈琲の方が未来のある企業だと思うし、一生ついてくって言ったじゃん」
「それよりもまず、明日香の処遇をどうにかしろよ」
「分かってるよ」
当分はこいつの惚気話を聞くことになりそうだな。
夜中になり、全員が風呂に入ると、鈴鹿たちは2階で就寝し、僕らは3階で寝るわけだが、1階から物音が聞こえるのが気になってしまった。千尋は旅の疲れでぐっすりと眠っている。
このままコーチがうまくいくか心配だが、使うと決めたら、疑うことはならん。
1階へと続く階段を下りると、1人で調理をしている真理愛の姿があった。
「夜にコーヒー飲んだら眠れないぞ」
「! ……あず君ですか。驚かさないでくださいよ」
僕の声に不意を突かれ、後姿の真理愛がビクッと震えた。
「秘密の特訓か?」
「はい。ディアナさんもアリスさんも余裕なのを見て、ちょっと焦っちゃいました」
「ディアナは実家がスイーツショップで、アリスは親戚に大物シェフがいて、いずれも2人のコーヒーに合った競技用のフードとスイーツを共同で開発していた。マリアージュ部門については解決済みだ」
「確かマリアージュ部門は決勝まで変えないそうです」
「無理にレパートリーポイントを取りにいっても、それで味のバランスが崩れていたら、加算されたところで、トータルでマイナスになるリスクがある」
「あず君が全部門を制覇できたのは、全部門で準決勝も決勝も、レパートリーポイントを稼いだ結果だと言われてますけど、私は総合優勝とコーヒーカクテル部門を狙いたいです。なので私は得意な部門を1種類に絞ろうと思っています。3種類作るよりも、1種類だけに絞って、より質の高い作品を作った方が総合スコアを上げやすいって、千尋君が言っていたんです」
「――賢明な判断だな」
レパートリーポイントを狙いにいったパターンで優勝した人もいれば、たった1種類の信条を貫いて優勝した人もいる。ただアイデアが多ければいいってもんじゃない。千尋はそれをよく分かっていた。
真理愛はレパートリーポイント狙いを最小限に留め、引き出しの多い部門でハイスコアを狙うオーソドックスな競技を行うつもりだ。千尋は真理愛とディアナとアリスのコーチも引き受けて大忙しだ。
伊織は真理愛のサポーターで僕は前回チャンピオン。
トロフィーの受け渡し役のためだけにここに来た。できれば真理愛の手に渡してやりたい。
僕らは旅の疲れを癒すように就寝するのだった。
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