25杯目「抵抗の根拠」
林間学舎が徐々に近づき、クラスでも話題になり始める。
毎回恒例の班作り。一緒に過ごす相手を選ぶことの重要性は、恐らく誰でも分かると思う。嫌な人とずっと一緒に居続けると、僕みたいにストレスを感じてしまう。
班を決める時に飛騨野と国枝が、僕と同じ班になることを希望してくる。残りの1人は1番無害な人から選んだ。男子も僕を入れて3人だが、前回と同様に大人しい人を選んだ。
「おい、ちょっと面貸せよ」
ここまで無事になってホッとしたのも束の間、僕は下校時間に虎沢から声をかけられる。
ていうかそれが人に物を頼む態度かよ。
虎沢が威圧感を発しながら僕の隣に並ぶ。
「お前、友達は?」
「いない……いたこともない」
「寂しくないのか?」
「うん。僕は1人が好きだからさ」
お前とは違うんだぞと言わんばかりに質問に答える。
こんなことを聞くってことは、こいつ自身は寂しがりってことか?
「お前、担任に俺たちから離すように言ったらしいな」
「それどこ情報?」
「担任が教えてくれたよ。俺から逃げようったって無駄だぞ」
――げっ! マジかよ? 担任がそんなんでいいのか? 個人情報だだ漏れなんだが。
まさか……担任はこいつとグルなのか?
「それは脅しか?」
「お前、色んな特技持ってるんだってな」
「ただの趣味だ」
――いかん、粥川の感染力が完全に裏目ってる。
だから不用意に他人の情報を漏らすなとあれほど言ったのに。
虎沢は僕の情報をそこそこ知っているようだ。僕が特技を持っているのが気に入らないらしく、人気のない場所で殴る蹴るの暴行を始めた。抵抗したが、こいつは格闘技を習得しているのか、まるで歯が立たなかった。この時、こいつこそが歴代最強のいじめっ子であると確信した。まだ岩畑の方が可愛く思える。時間の使い方も知らねえ暇人がっ! 身の程ってもんを教えてやろうか? これくらい言えたらまだマシだったかもしれない。しかし、目の前の相手に恐怖する僕に、そこまで啖呵を切る度胸があるはずもなく、大人しく誰かに報告することしかできなかった。
翌日、このことを担任に報告してやった。
「彼がそんなことをするはずがない」
担任は何故か虎沢を庇うが、何らかの圧力をかけられている可能性が高い。
「身の安全が保障できないなら、学校には行かない」
揺さ振るように言うと、担任は流石にまずいと思ったのか、放課後の職員室に呼ばれた。
この学校の理をまざまざと告げられた。
「私は虎沢君のお父さんから目をつけられているから、下手に叱ることはできないんだ」
「何で叱れないの?」
「虎沢君のお父さんがこの学校に投資をしてるから、みんな虎沢君に太刀打ちできないんだよ」
やれやれ、それでよく教師が務まるな。
いや、むしろ事なかれ主義な人ほど、教師に向いているのだろう。
虎沢グループをまとめる虎沢社長はこの学校のPTA会長でもあり、その気になれば教師すら飛ばすこともできるらしく、地域の全権の事実上握っている。
――権力ってやつか……気に入らねえな。
しかも何事もなかった場合、担任は主任になれるらしい。
「頼む。この1年だけ耐えてほしい」
担任は権力欲しさから頭を下げて懇願する。
虎沢は担任を左遷の話で脅し、僕とのやり取りの守秘義務を破らせた。本来担任と生徒の話は他の人には言ってはならないことだ。生徒の個人情報の保護は教師として最低限の義務だ。
義務よりも自分の将来を優先する小心者を担任にしたんだ。
これで担任に報告する手は封じられた。このことを親に伝え、不登校を訴えた。
「不登校になったら負けだよ」
しかし、うちの親は不登校を認めてはくれなかった。言ってる意味がまるで分からない。勝ち負けの問題じゃない。迫害から逃れられるかどうかの問題だ。
「男の子なんだから、それくらい我慢しないと」
「そうだぞ。就職したらそれくらいの理不尽はあるんだからな」
無意味な言葉をたくさん言われ、不登校の道も閉ざされることに。
「何でそこまでして学校に行かせるの?」
「不登校になると、人生のやり直しが利かなくなるの」
呆れ果てるしかなかった。
――何だよ? やり直しって。学校にさえ行っていれば国が守ってくれんのか? 心が壊れたらスタートラインにも立てなくなるだろうがっ!
日本人が何故精神病に理解がないのかが分かった。どんなに理不尽を訴えたとしても、緊急を要する時以外は全部根性論で抑え込まれるからだ。
死んでからじゃないと、助けるべき人であることが分からないんだ。
うちの親は僕が学校をサボるのを防ぐため、余裕がある時は出勤前に必ず僕を学校まで送った。中学の時も同じだ。テストを全然受けなかったため、ちゃんと勉強するようにも言われた。もう中2ということもあり、中3の時にもオール0点を出した場合が心配だったんだろう。しかもクラスメイトとも仲良くするように言ってきたのだ。やる気を出せと言ってやる気が出た人はそうそういない。
人は自ら夢中になった時のみ、やる気を出す生き物だからだ。
こいつらは生物の本質を何も分かっちゃいない。鳥は空を飛べるが海は泳げない。魚は海を泳げるが空は飛べない。人間だってできることとできないことに個人差がある。それを認めずに矯正するのは生物の根幹を否定するに等しい。生物学者でもないくせに、何でそんなことが言えるんだ?
下校の度に虎沢につきまとわれ、殴る蹴るの暴行を受けながら下校する日々を送る。仕返しをしようにも、全く隙を見せないのだから困ったもんだ。
林間学校の前日、僕は家の向かい側にある金華珈琲へと赴いた。すると、そこにはエスプレッソを飲む美濃羽の姿があった。しかももう1人連れている。美濃羽にそっくりな顔立ちで若干ロリ顔だ。
「あっ、梓君。久しぶりー」
「すっかりここに慣れたな」
「ねえねえ、この人がお姉ちゃんの好きな人なの?」
「ちょ、ちょっと、恥ずかしいからやめてよ」
美濃羽が年下っぽい女子に自分の好意を指摘されて顔を赤らめた。
彼女は慌てて制止するが否定はしなかった。
美濃羽明日香は清楚な姉、美濃羽小夜子対するお転婆娘という印象だ。明朗快活な性格であり、僕より4歳年下の小5である。
「私、美濃羽明日香って言います。お姉ちゃんがお世話になってます」
「世話になった覚えはないぞ」
「えーと、この人が前々から噂になってる葉月梓君」
「へー、凄く綺麗で可愛いけど、男子なんだよね?」
「そうだよ。でも梓君は梓君だから」
まるで僕をすっかり受け入れたように美濃羽が言った。
「私のことは明日香って呼んでください」
「うん、分かった」
「あの……素朴な疑問なんですけど、何でお姉ちゃんを振ったんですか?」
「明日香、そういうことは聞いちゃ駄目」
「えー、気にならないの?」
「気にはなるけど、梓君にも事情があるから」
美濃羽が明日香を制止するように言うが、別に恥ずかしいことでもないため、詳細を説明した。振った理由は単純にコーヒー以外に興味が持てないからというだけで、今こうしている間にも、世界中にいるバリスタが腕を磨いているのだから、僕には寄り道などしている暇はないのだ。
「つまり葉月さんは、自分のカフェの開くことを目指していて、一流のバリスタになるまでは一切恋愛をしないってことですか?」
「あず君でいいぞ。ざっくり言えばそうだな。今のところはさ、ライクまでは行っても、ラブまでは行かないんだよな。どうしても」
焦り顔で答えた。何かを選ぶためには、何かを捨てなきゃいけない。
一度に時間を割ける分野が限られているからこそ、断捨離はしっかりしたい。
「今は時々うちの業務を見るために来てくれてるんだよ」
「そうなんですねー。私はラブもライクも同じものに思えるんですけど、違いってあるんですか?」
「確かに言われてみれば全然分からないよねー。梓君、どうなの?」
――えっ? 何? 唐突だなー。やっぱそういうのを知りたい年頃なんだろうか。僕が言い出しっぺな上に、3人共僕の回答に注目してるし、下手な回答はできない。
だがここは普段から密かに培っている読解力を証明する時だから答えてやるか。
「全然違うだろ。ライクはまだ自分の気持ちが強いんだよ。自分の思い通りにいかなかった時に、もどかしいって思ったりする内はまだ自分の気持ちが強いんだ。ラブは自分の気持ちとか関係なく、自分を犠牲にしてでも相手の幸せを願える気持ちのことを言うんだ」
「「「おおーっ!」」」
質問に答えると、3人から驚嘆の声と拍手が届く。
「勉強になります」
明日香がこっちを向いたままペコリと頭を下げる。そこまで凄いことは言ってないぞ。
「何でお姉ちゃんが梓君を好きになったのか、ちょっと分かった気がします」
陽気な顔をしながら明日香が言った。
久しぶりにデミグラスオムライスとコーヒーのセットを注文する。今度はちゃんとお代を払ったが、この日は親父がいなかったこともあり、マスターとは親父の話をした。
親父がいたら僕を紹介されていただろう。とても学生がするような話じゃないのだが、当の明日香は興味津々だった。ピアニストの道に度々誘われた話もした。
「私だったら、流されていたかもしれません」
明日香が笑いながら言った。そういうところで流されるから、将来の夢とか分からないままなのに。頑固って言われるくらいの信念を持たなければ、この国では簡単に流されてしまう。そしていつの間にか社畜になってましたみたいなことになる。望まぬ社畜は過去に流された結果である。
美濃羽たちがお勘定を済ませて帰宅しようとする。明日香は帰り際に僕を見つめる。
「あの……また……色々教えてください」
ううっ! かっ、可愛い、なんて可愛いんだ! ハッ……いかんいかん、今は恋愛なんてしてる場合じゃない。今は中学を出た後のことを考えなければ……。
明日香は赤面しながら笑顔で言葉を残すと、商店街のカフェから立ち去る。飲んでいたのがオレンジジュースであることからも、美濃羽の付き添いであることが窺える。
璃子と学校の話を共有しながら一緒に寝ることに。
パジャマ姿で仰向けになりながら布団に入り、天井を見上げながら話した。
「また林間学舎とか勘弁してくれよぉー」
「お風呂の時とか大変そうだね」
「何度も女風呂に案内されたし、そのたんびに僕の息子を見せないといけない」
「私ならショートヘアーにして行くけどね」
「みんながそういうことするから、男=短髪って思う奴が多いんだよ」
「お兄ちゃんはさ、何でそこまで頑なに茶髪のロングヘアーに拘るの?」
璃子が素朴な疑問を投げかけてくる。
そういやこの手の質問には答えたことはなかった。
「生まれ持った髪色だからな。男子はみんな黒髪のショートヘアーだけどさ、他にも黒髪のショートヘアー以外の髪形が好きな男子だっているはずだ。僕がその前例になることで、後に続く生徒が少しでも黒髪のショートヘアー以外の自己表現ができるようにしたいんだよ。それに生まれ持ったこの色を否定されるのも癪に障るし、染めろと言われて周りと同じ色にカラーリングされるのってさ、なんか工場の製品みたいで嫌なんだよ。そこまでして合わせないといけない社会って何なんだって思うし、僕は工場の製品じゃない。生きてる人間なんだ。だから……抵抗することで……それを主張したかったのかも」
隠し持っていた憤りを璃子に晒すように語る。璃子じゃなかったら聞いてもくれないだろう。
「……多分だけど、みんなその真っ直ぐなところに惹かれていくんだろうね」
「美少女系イケメンだからじゃねえの?」
「自分で言うんだ。あーあ、さっきまでカッコ良かったのに……もう寝よ」
呆れ果てながら床に就く璃子。ずっと僕に味方してくれているし、話も信じてくれた。
これだけで物凄く勇気づけられたことは今でも覚えている。
「私は応援することしかできないけど、きっと誰かがちゃんと見てるから」
あの言葉があったからこそ、僕は中学校生活を耐えることができた。
僕が重度のシスコンになった理由でもある。持つべきものは妹だ。守るものが多い分、人生が重たくなるのが唯一引っ掛かる点だが、悪くない。
――林間学舎当日――
いつも通り親に連れて行かれ、担任に引き渡された。登校させられたことはあっても、自分の意思で登校したことは一度もない。ここがアメリカだったら、誰かが一定確率で乱射事件を起こしていたかもしれない。犯行を擁護するわけじゃないが、いじめの仕返しを理由とした事件は、何も加害者だけの責任じゃない。あの3人とはなるべく関わらず、地獄の3日間を耐えるのが僕のミッションだ。
行き先は長野県にある高原だった。地元岐阜県の隣で、そこまで遠くは感じなかった。
1日目から色々と班行動をさせられた。飯盒炊爨は相変わらず性別役割分業だし、僕は当然のように薪割りをサボった。暇そうに座っていると、待ってましたと言わんばかりに虎沢がやってくる。
「お前何もしてないんだから何も食うなよ」
「そういうことは担任に言ってくれ」
「言ってる意味が分からねえな。もっとちゃんと言えよ」
「理解力のなさを他人のせいにするな」
僕が減らず口を叩いたのが気に食わなかったのか、虎沢が僕の胸ぐらを掴む。
目をギラギラさせながら威嚇するように僕の顔を睨みつける。
「お前調子乗んなよ」
「今1番調子に乗ってるのは間違いなくお前だ」
「10秒やるから薪割りをやれ」
「……5秒やるからその汚い手をどけろ」
言い返すと、虎沢が投げるように手を離した。どうやら諦めたらしい。
なんか同じことを以前も言われたような気がする。
働かざる者食うべからずという言葉は食糧生産が今ほど安定していなかった大昔に生まれた言葉で、あの頃は労働者階級の人全員が働かないと全員餓死する危険のある極限の時代だった。だから食っていくためには働くしかなかった。だが今は違う。食糧生産の大半は機械がやるようになったし、毎年大量に廃棄処分されるほどに食料品が有り余る時代だ。無論、そんな時代にはそぐわない言葉である。馬鹿には分からないだろうが、今は全員が働く必要がない。
結局、担任の配慮もあって飯は食えた。迂闊に餓死とかさせたら殺人罪に問われかねない。料理の方が得意だからという理由で、女子と一緒に料理したいことを伝えても却下された。この時点で働かなくてもいいと言われているようなものだから、何も後ろめたさを感じる必要はないのだ。
しかし、これで虎沢が僕を攻撃するための口実を与えてしまうことになる。
虎沢は僕がただ食いをしたというネガティブキャンペーンを行った。虎沢はスクールカースト最上位でカリスマ性もあるが故に、誰も虎沢の作った空気に逆らえず、孤立状態を深めることになる。
孤立すること自体は問題ないが、攻撃を受けた時に通報する人がいないのは問題だ。
虎沢たちはみんなの前でも公然と僕を殴るようになった。行ことをサボった悪い奴を懲らしめるという大義名分を得たからだ。もちろん担任も見て見ぬふりだ。僕は宿泊先の人に助けを求めた。1人で耐え忍ぶなんてアホらしい。日本の子供は他人に迷惑をかけるなと教えられている。それもあっていじめがあっても通報しない人が多い。通報すれば迷惑をかけることになる。
じゃあ何のために警察や弁護士がいるんだ? 多少の迷惑ならかけあってなんぼだろう。こういう時は利害関係のない人が1番助けてくれやすい。宿泊先の人は僕が移動する時だけは付き添ってくれるようになった。しかし、これはただの牽制に過ぎない。林間学舎が終われば元通りだ。
食事の時は僕だけ端まで行って、全員同時のいただきますを無視して早食いをする。他のみんなが食べている隙に担任と同じ部屋に戻る。部屋には内側から鍵を閉められる扉があり、担任が来た時だけ開けるようにし、風呂は予定通り順番を最後にしてもらった。クラスメイトと一緒に風呂に入る事態は免れたのだが、他の客に何度か女湯に案内されたりして、その度に恥ずかしい方法で、男であることを証明しなければならなかった。女顔の男も楽じゃない。他にもこんな経験をした人はいるのだろうか。
まるで捕虜になるのを防ぐための特殊訓練だ。
――林間学舎も修学旅行も絆を深めるためのものだよな? なのに何で僕はこんなくだらないことしているんだ? 明らかに絆とかそれ以前の問題なんだがな。
2日目はキャンプファイヤーの日だ。最初は登山をさせられ、その後に肝試しもあったが、幽霊よりもいじめっ子トリオの方が怖い。初っ端から肝が冷えていた。肝試しは以前と同じく男女がペアになって1周する。すると、女子が挙って男子の取り合いを始めた。頼むから火種を撒くのは止めてくれよ。
飛騨野に誘われてペアになる。前回は僕の取り合いになったが、今回は虎沢にターゲットにされるのを恐れてか、飛騨野以外は僕を避けていた。肝試しをさせられたが、わざと怖がって僕に抱き着いてくるの何とかしてくれと思いながら彼女に忠告をすることに。
「僕のそばにいたら、あのナチ野郎に狙われるぞ」
「もう狙われてるよ」
「えっ!? どういうこと?」
この時、僕は彼女からのサインを見落としていた。僕は自分を守るので精一杯だった。虎沢は国枝は僕らよりも先に一緒に奥へと入っていく。明らかに仲良しそうだった。何故あんなナチ野郎を好きになるのか意味が分からん。あいつは性格以外は完璧だし、理由があるとすればそこだ。
「虎沢君にはくれぐれも気をつけてね」
「分かってるって。あのナチ野郎に一泡吹かせてやる」
「ずっと気になってたんだけど、何で虎沢君のことをナチ野郎って呼んでるの?」
飛騨野が若干引いた表情で疑問を呈してくる。
「あいつらがしていることは、ナチスの迫害と変わりない。あいつらは僕が少数派であることを理由に平気な顔で差別をして、虐げることを楽しんでるんだ」
僕に対するネガティブキャンペーンも、ナチスが障害者を迫害する時に用いていた手法だ。あんなのがこれからの日本を背負っていくんだと思うと怖気が走る。
肝試しが終わると、キャンプファイヤーが始まる。基本的には前回と変わりなかった。僕は飛騨野と一緒に踊ることになる。ぎこちない踊りだったが、キャンプファイヤーが終わり、疲れ果てた僕は部屋へと戻ろうとした。そこにまたしても虎沢がやってくる。
「お前、飛騨野が好きなのか?」
「別に……」
「じゃあ俺が貰っていいか?」
「飛騨野は物じゃない。そういうのは彼女が決めることだ」
「お前登山の時にずっと飛騨野と話してたんだってな」
「君はその場にいたか?」
「お前の班の奴が教えてくれたよ」
「あっそう」
そっけない態度に虎沢が更にがっついてくる。
「お前さー、いい加減に少しは男らしくなったらどうなんだよ? 俺はお前みたいにどっちつかずな奴が1番虫唾が走るんだよ」
「男に生まれたら男らしく生きないといけない法律でもあんの? 大体それを言うなら、君だって男らしく弱い者いじめをやめたらどうだ?」
男らしくって何だよ? 声が低くて黒のショートヘアーで我慢強くて、屈強な肉体で下ネタ好きな男子にでもなれってか? 虫唾が走るってんなら距離を置けばいいだろうに。距離を置かずに相手を矯正しようとするのは、傲慢以外の何物でもないぞ。
僕は根っからの中性声で、ロリ顔の痩せ型で、屈強ではないが、スタイルの良さには自信がある。
幼少期の頃は健康のために定期的に家で柔軟体操をしていたこともあり、前後左右の開脚もI字バランスもできる。あれっ? ますます女子っぽくなってないか? まあそんなことはどうでもいい。
3日目は昼食を済ませ、とっとと岐阜まで帰ったことしか覚えていない。それほど早く帰りたかったのだろう。言うまでもなく、とても居心地の良いものではなかった。帰宅後、もう二度と行事には参加しないことを親に訴えた。ずっと無表情で迫害に耐え続けた反動なのか、家に帰った後は涙が止まらない日もあったほど。璃子からは本気で心配されるし……僕ってホントに駄目人間だな。
以降、旅行には仲の良い人以外とは絶対行かないことを心に誓った。
この時、僕の心は徐々に壊れ始めていた……。
心労が祟り、しばらくの間、熱で学校を休むのだった。
1000PV達成しました。
励みになります。
美濃羽明日香(CV:鬼頭明里)