246杯目「難所の克服」
9月上旬、バリスタオリンピック2019ウィーン大会1ヵ月前。
各大会に向けた忙しさが更に増していく中、ジャパンスペシャルティコーヒー協会から、再び新たなバリスタ競技会の創設が発表されることとなった。
ジャパンコーヒーカップ、略してJCCが来年の1月に開催される。優勝すれば5月にメルボルンで開催される予定のワールドコーヒーカップ、略してWCCに出場できる。バリスタオリンピックが選考会の段階から正式に開催されて25年が経過した。これを記念して、2015年から新たに創設されたものである。
ルールもバリスタオリンピックと似ているが、少し違っている。
僕らは8種類目のメジャー競技会に挑戦する権利を与えられたのだ。
ここにきてまた新しいバリスタ競技会か。
WCRCが終わったら参加を考えてみるか。
葉月珈琲内でも早速JCCが話題に上がっていた。
僕、伊織、千尋の3人が休憩をしている時にも、この話で持ち切りだ。
「じゃあ、WCRCで優勝してもグランドスラムにはならないってこと?」
「そういうことになるな。ワールドコーヒーイベント主催のメジャー競技会は全部で8種類だ。WCCも既に50ヵ国以上がエントリーしてるし、大規模な大会なのは間違いない」
「WCIとかWSCとかはどうなんですか?」
「WCIは中東スペシャルティコーヒー協会主催の大会で、WSCはジャパンスペシャルティコーヒー協会主催の大会だからグランドスラムの対象外だ。抽出器具の世界大会ならWBrCがあるわけだし」
「まあその2つがグランドスラムの対象でも、あず君には関係ないけどね」
「あず君はともかく、千尋君は出るの?」
「うーん、その時になってから決めるよ」
真理愛が名づけ親となったこのグランドスラムだが、リサたちが動画で発信したことで世界中のバリスタたちの通称となっていた。8種類のメジャー競技会を全部制覇したバリスタは1人もいない。達成できる可能性のあるバリスタがたった1人だけ存在する。
それが僕だ。現時点で6大会を制覇しているが、果たして達成できるのだろうか。
――心配してもしょうがねえか。出るからには優勝あるのみ。
まずは目の前の課題に集中しないとな。
「うん。これなら大会に出しても恥ずかしくないかな」
「美味しいです。コーヒーの味もしっかりしますし、他の食材の味も引き立っています。どうやったらこんなアイデアが出てくるんですか?」
「えっ、コーヒーが教えてくれるもんじゃないの?」
「あはは……聞き取るのって、難しいと思うんですけど」
真理愛が思わずぽかーんと口を開いたまま苦笑いをする。
千尋にとってフレーバーに合った食材を当てはめるのは造作もない。真理愛がシグネチャーで苦戦している理由がここにある。コーヒーカクテル自体が既にアルコール込みのシグネチャーだ。慣れていなければ真理愛でも難しいと思うあたり、アルコール込みとなしとではまた別の感覚が必要なんだろう。
「ところで、コーヒーイベント中は、お店どうするんですか?」
「僕と伊織と柚子と優子がいなくなるから、数日は店を休むことになるかな」
「それなんだけど、期間中はリサとルイにユーティリティーとして業務を委託することになったから、店自体を休む必要はなくなったぞ」
「えっ、そうなの?」
「前回のバリスタオリンピックの時は、みんな店を休んじゃったせいでたくさんのお客さんが無駄足を運ぶことになっちゃったでしょ。あの時は葉月ローストがあったからまだ良かったけど、その時の反省を踏まえて、2016年からはユーティリティー制度を導入するって言ったでしょ」
そういやすっかり忘れてた。今回はユーティリティー制度があるんだった。
あの時のような事態を考え、極力店を休まないよう、璃子の発案で始めたのだ。
「済まん、忘れてた」
「ユーティリティー制度って何ですか?」
「主に統合したばっかりの投稿部が人材過多だから、人材の余っている部署や店舗から人材の不足している部署や店舗に一定期間中雑務担当で勤務できる制度なの。一応みんなはうちの系列の店舗で勤務した経験があるし、雑務のマニュアルは、どこの部署や店舗もある程度一緒だから、大丈夫だと思うよ。特に問題があった例も報告されてないし」
「「「「「……」」」」」
僕らは璃子の経営手腕に思わず息を飲んだ。
璃子にも経営権を渡してはいたが、ここまで有能とは思わなかった。しかも人材過多になった部署や店舗の人を無駄なく補充に使っているあたり賢い。投稿部に至ってはどこにいても仕事ができる。
他の店舗への体験を動画に乗せながら宣伝までできるし、派遣された人自身の経験値も上がる。
――璃子はここまで考えて発案していたのか。
投稿部は全てにおいてパソコンの仕事だが、それ故余った人が暇になりやすい欠陥があった。それだけじゃない。身内だからと無条件に何人も受け入れてきた僕の不手際までカバーしている。
「それって投稿部の人は絶対に行かないと駄目なの?」
千尋が手を上げながら尋ねた。
「そういうわけじゃないけど、どこかの部署や店舗に大幅な欠員が出る時に、人が余っている部署や店舗が任意で投稿部にメールを送って、本来とは全く違う雑務を手伝った日数分の給料を底上げするっていう制度だから、やってくれた人は小遣い稼ぎができる制度でもあるの。誰も派遣できない場合は店自体が休みになるけど、これを導入してからは、どこの店も休まずに済むようになったの」
「どうりでここ数年は、うちの売り上げが勢いを伸ばしてたわけか」
「お兄ちゃん……知らなかったの?」
「えへへ、大会に夢中で知らなかったなぁ~」
「やれやれ、やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだね」
璃子がジト目で僕を見つめながら言った。
やはり僕が思った通り、僕よりも璃子の方がずっと経営者に向いている。これには千尋も思わず耳を疑っている様子だ。伊織には僕らの話が全く聞こえていない。それほどにまで集中している。これだけの雑音があっても集中できているところからも、修業の成果が見て取れる。
情報はちゃんと共有しておこうと、肝に銘じるのであった――。
9月中旬、既に東京に着いていた葉月珈琲の一行が会場へと闊歩する。
参加しない人たちは、他の同僚の応援に回ることに。
ホテルでは僕と伊織2人で同部屋となり、その隣の部屋は優子と柚子、そのまた隣の部屋では千尋と明日香が同部屋となった。うちの店は予定通り、璃子、真理愛、リサ、ルイに任せた。店を回すだけなら経験者を1人置いておけばどうにでもなる。今は店に残った連中を信じるしかあるまい。
――コーヒーイベント1日目――
この日はJSC決勝とJBC準決勝の日だ。
「伊織、千尋、今日勝って明日以降を戦う同僚に勢いを与えてくれよ」
「分かってるよ。僕は絶対に負けられないし、それにあず君が提供してくれた豆だったら、きっと大丈夫だよ。まさか僕のアイデアにピッタリとハマったコーヒー豆を焙煎してくれるとは思わなかったし」
「どんなコーヒーを焙煎したんですか?」
「それは競技を見てのお楽しみだ。JSCは6人、JBCは16人もいる。千尋の出番はかなり後だから伊織も見に来れるはずだよ」
「分かりました。先に競技してきます」
意気込みを語る伊織が、関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉の向こう側へと消えていく。
すると、千尋が突然絶望を目撃したかのように、全身に震えが走る。
彼と同じ方向に顔を向けると、杉山社長と杉山景子の2人が立ち尽くしている。
「ごきげんよう。千尋君、あなたが優勝できなかった時は、分かってるよね?」
「分かってますよ。でも僕が優勝した時は、婚約自体を無効にしてもらいます」
「随分と強気だね。そんなに娘との結婚が嫌かね?」
「……はい」
恐る恐る千尋が答えた。恐怖を捩じ伏せながらではなく、恐怖を支配しながら。
一片の迷いもない鋭い目には、杉山社長も敵ながら感心しているようだった。杉山は面白くないと言わんばかりの顰めっ面で千尋を睨みつけた後、僕にまで眼光を飛ばした。
千尋を唆したわけではない。ただ背中を押しただけだ。
そんな言い訳をしたところで、この親子はまず信じないだろうが、この国でやりたいことを言うのが難しいとされる理由が、この場に凝縮されているように感じた。
「既に婚姻届を用意させてもらった。楽しみに待っているよ」
「もう勝った気でいるみたいだけど、そんな大胆な山張りをしていると、後になって大恥をかくぞ」
「千尋君が負けるのは、もう見えているからね」
「言っとくけど、もしそっちの不正が発覚した場合は、この取引自体を無効にした上で、千尋の言い分だけ通させてもらう。覚悟しておけ」
「はははははっ! 私に限ってそんなことをするわけがないだろう」
「どーだか。あんたらは勝つために何でもしてきた。今までの強引な手口を見れば明らかだ」
「それ、どういう意味ですか? お父さんがそんなことをするわけないでしょ」
「協会は一度外部からの圧力に屈して不正を行ったことがある。二度もそんなことがあれば、協会の信用は地に落ちる。もしそんなことがあれば容赦はしない。行くぞ」
「……う、うん」
釘は刺しておいたが、あの余裕の顔からは不穏な空気が漂っていた。
まるで自分たちの勝利を確信しているかのように婚姻届の話まで。
今年の千尋は百味も違う。前年とは打って変わって無難さがない。間違いなくバリスタオリンピックで部門賞を取れる出来栄えだった。それこそ、あれで負けなら不正を疑ってもいいくらいには。
どうやら杉山親子も観戦するようだ。会場のブースの中には穂岐山社長もいる。協会の信用を回復するのに一役買ったことが評価され、穂岐山珈琲は辛うじてこれ以上の縮小化を免れている。ここでまた不正があれば、穂岐山社長もただでは済まない。
杉山親子がこのコーヒーイベントに来たのが、不正を通すためだとすれば……。
まずはJSC決勝で伊織の競技が始まった。伊織は6人中2番目の競技者であり、午前中に競技が行われることに。千尋の出番が終わるまでには結果発表が終わることだろう。
小型マイクを装着し、マイクテストを行う姿が可愛らしい。
サポーターには柚子がついている。今の伊織なら僕がいなくても大丈夫だ。
「タイム。私は少し前からサイフォンが持つ魅力に囚われてしまいました。誰でも使いやすく、日本では長く使われ続けている抽出器具として知られています。まずブレンド用とシグネチャー用のコーヒーを抽出しますので少々お待ちください。今回使うコーヒーはケニアゲイシャとモカコーヒーを6:4の割合で混ぜて焙煎したゲイシャモカブレンドです。コスタリカゲイシャが持つフローラルなアロマとフルーティなフレーバーに、モカが持つボディの強さが加わったコーヒーです」
伊織は説明をしながらグラインダーでコーヒー豆を砕き、6つのサイフォンを使い、撫でるように優しく撹拌し、コーヒーを抽出して3杯分をコーヒークーラーで冷やし、カップに注ぎ提供する。この時の伊織の天真爛漫な笑顔は、ジャッジですら鼻の舌が伸びそうな可愛さだった。
「6:4の割合で淹れたゲイシャモカブレンドのフレーバーは、メロン、パイナップル、アフターにはルビーチョコレート、生キャラメルを感じます」
提供が終わると共に、観客席から小さな拍手が伊織の元に届いた。
残り3杯となったブレンドコーヒーも同様に冷やし、アイスコーヒーに2種類のメロンシロップを混ぜたミックスメロンシロップを以前より控えめに投入し、液体にしたラズベリーのスプレーをワイングラスに吹きかけ、フレーバーの印象を変える作戦に打って出た。
ワイングラスにブレンドコーヒーを注ぐ伊織。
極めつけはフラスコに入ったドライアイスだ。林檎ジュースにドライアイスを投入し、林檎スモークを作ると、林檎スモークをワイングラスに注いで提供する。
「コップを5回ほど回して林檎スモークが消えてからお召し上がりください。シグネチャーのフレーバーは、マスクメロン、ストロベリーチョコレート、アフターにはチャイ、ジャンドゥーヤを感じます」
提供されると同時にまた拍手が送られた。
まるで小さい子供を見守る保護者のように観客が伊織に釘づけだが、本人がそれを知ったら子供じゃないですとツッコミを入れることだろう。ホッと一息ついたような表情に変わると、センサリージャッジの目の前に置いていたシグネチャー用の食材や容器を丁寧に片づけていく。
「私はコーヒーが持つ可能性を引き出すためにずっと悩み続けた末、1つの結論に至りました。試行錯誤している時、いかにコーヒーの弱みを消すかではなく、いかにコーヒーの強みと風味特性を引き出すかにフォーカスしたシグネチャーに辿り着くということです。終わります」
競技が終わった瞬間、大きな拍手と歓声が会場内に響き渡る。
さっきまで販売に夢中になっていたブースにいるスタッフたちも、観客に同調するように拍手を送っている。ここに、伊織の競技が終わりを告げた。
後は結果発表を待つだけだが、そこに至るまでの数時間は緊張で胸が苦しくなる。
あの数ヵ月の間に、ここまで成長するとは恐れ入った。
「ふぅ、何とか終わりました」
インタビューを終え、ステージ上の片づけが終わった伊織が僕に凭れかかってくる。
「お疲れさん。よく耐えたな」
労いの言葉を囁きながら、伊織のサラサラとした触り心地満点な髪を優しく撫でた。
「ちょっと張り切りすぎちゃいました」
「もうすぐ千尋の準決勝が始まるけど、どうする?」
「私は観客席で休んでます。千尋君なら決勝までいけると思いますから」
「さりげなくフラグ立てるのやめてくれない?」
「フラグって何ですか?」
「絶望の前兆ってやつだ」
伊織がとろーんとした目で首を傾げた。
疲れきって判断力が弱まってる。このシグネチャーありきの大会は伊織の体力と気力を著しく奪っていた。正確な抽出技術のみを争う大会だったのが、頭脳をフル回転させ、新しいアイデアまで作った。
やりきったはずなのに……彼女は笑顔が絶えなかった。眠いはずなのに、まだ他の競技会を見ようとしている。好きなことで燃焼できている証とも言える。だが体力がまだ好奇心に追いついていない。また新たな課題が浮き彫りになった。何かを克服したかと思えば、また克服の対象が生まれる。
きっと人生はこの繰り返しなんだろうと、彼女が教えてくれている気がする。
千尋がいるJBC準決勝のブースへと向かう。
千尋は優子のサポートを受けながら、ステージに必要な食材を揃えている。
ふと、横を見てみると、伊織が僕の肩に頭を凭れさせたままスヤスヤと寝てしまった。
今更起こすのもどうかと思うし、JSCの結果発表までは寝させてやろう。
しばらくして千尋の競技が始まった。先にシグネチャー用にエスプレッソを抽出し、氷水で冷やしてからエスプレッソ、カプチーノの順に作成して提供し、複雑な過程を経て、シグネチャーも提供する。僕が今まで見たことのないプレゼンだった。制限時間ギリギリに競技を終え、結果発表を待つ。
あの出来栄えなら通過は間違いないだろう。誰よりも独創的だったし、他のバリスタのシグネチャーはWBCファイナリストの模倣か混ぜただけ融合ばかりであり、ほんの少し見る目がある人であれば、誰が決勝進出を決めるかは明らかだった。
「――ん? あれ……千尋君は?」
「もう終わったぞ。凄く良い競技だった」
「どうして起こしてくれなかったんですか!?」
「伊織があまりにも可愛らしい顔で、肩に凭れかけたまま寝てたからさ、起こすのも悪いし、しばらくそのままにしておこうと思った」
「かっ、肩に凭れかけてた!?」
さっきまで今にも欠伸をしそうなくらい眠気満々なジト目が急にパッチリとした真剣な眼差しへと変わっていく。しかも顔全体が赤く染まり、唇が震えたまま閉ざされている。
一気に目が覚めた伊織が一目散に千尋がいるステージへと向かっていく。
優子は僕のいる方向へと顔を向け、入れ替わるように優子が僕の隣の席に腰かけた。
「伊織ちゃん、恥ずかしそうにしてたけど、何かあったの?」
「世界一可愛い寝顔を見せてくれた。僕の間近でな」
「ふふっ、そりゃ恥ずかしいわけだ。伊織ちゃんの競技はうまくいったの?」
「もちろん、文句なしの出来だった。とてもJSC初参加とは思えなかった」
「伊織ちゃんは既に抽出器具のエキスパートなんだから、当然じゃないの?」
「エキスパートとは言っても、あれは実質ペーパードリップの世界大会だし、他の抽出器具はまだ究めてないけど、僕の予想以上だった」
「でも千尋君に限っては、ちょっとおかしかったんだよねー」
「どこがおかしかったの?」
「千尋君のセンサリージャッジが4人いたでしょ。あの中で1番左に座っていた女性だけ妙に元気がなかったの。競技中も下を向いていることが多かったし、あたしの勘違いだとは思うけど、ジャッジも初心者だと緊張するのかな?」
この時、僕は妙な違和感に襲われた。ジャッジが下を向いていただと? 初心者だとしても、おかしくないか? ジャッジは常に競技者を注意深く観察する義務があるはずだ。
「あず君? どうしたの?」
「いや……何でもない」
「あず君の何でもないは何かあるって意味なの知ってる?」
「それだと、僕には常に何かあるってことになるんだけど」
「もしかして、疑ってる?」
「疑ってるのはあの2人だ」
僕が杉山親子がいる方へと目をやると、優子も同じ方向を向いた。
「あたし、あの親子の考えてること、分かっちゃったかも」
優子が意味深な笑みを浮かべた。こういう時の彼女は勘が鋭い。
「流石に何もないと思いたい」
僕は最悪の事態を免れることを願い、JSCのブースへと戻った。
少しばかりの時間が経ち、JSC決勝の結果発表が行われた。
制限時間超過で失格になった競技者が真っ先に名前を発表された。ファイナリストでも緊張のあまり失敗してしまうこともある。サイフォンは熱を入れ忘れると、温まるまで何もできない。
少しのミスが命取りとなる。順位の低い順に名前が発表されていき、伊織が残り2人の中に入った。
そして――。
「ジャパンサイフォニストチャンピオンシップ優勝は、株式会社葉月珈琲、葉月珈琲岐阜市本店、本巣伊織バリスタです。おめでとうございます!」
伊織が満面の笑みを浮かべ、隣のバリスタとハグをしながら喜びを露わにしている。
表彰式が始まり、3位から順番に協会の会長からトロフィーと景品を貰った。
伊織は土台に黄金のサイフォンが乗ったトロフィーを協会の会長と共に持ちながらツーショット写真を撮ってもらっている。伊織は僕が持っていたJSCチャンピオンの最年少記録である22歳を塗り替え、19歳でチャンピオンとなった。この大会における10代での優勝は史上初だった。
またしても僕が持つ記録を上書きされちゃったな。
伊織は11月に台湾で行われるWSC日本代表として出場することになった。
今年の国内予選チャンピオンの座に1番乗りした伊織は、優勝インタビューで喜びを存分に振り撒いていた。シグネチャーという多くのバリスタを挫折させてきた難所を突破できたことが何より嬉しいことが伝わってくる。今や葉月珈琲看板娘の名を欲しいままにしている。相対的に僕が目立たなくなったわけだが、人に絡まれることを良しとしない僕にとっては嬉しい身代わりなのだ。
バリスタとしてはともかく、人間としては僕以上の人気だ。
伊織ならきっと、日本発の世界一になれるはずと確信している。
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