24杯目「弁当事件」
中1の2学期の文化祭や運動会が終わり、やっと秋を迎えた。
運動会は見学だったが、クラスメイトからは度々嫉妬の的になる。
この時も組体操があり、僕はピラミッドの頂上役に任命されるが、組体操の練習や本番で怪我した人を多数見てきたこともあって断固拒否する。僕が出なかった場合の勝率は割と高い。至極当然である。運動能力の偏りはもちろんだが、足を使う競技が多いため、基本的には足が遅い人が少ない方が勝つ。僕は足が遅い方だし、僕が抜けることで平均戦力が上がる。
しかし、いくら説明しても理解されることはなかった。
運動会が終わり、僕は教室に椅子を持って帰り一安心する。運動会は競技している時以外は座る必要があるため、教室から椅子を持ってくる必要があるのだ。
すると、クラスメイトの1人、筑間凛季が僕に話しかけた。勉強は普通だが、運動神経は抜群でサッカー部所属。生真面目な性格で、不真面目な人を嫌う社畜の卵だ。僕がくだらない学校行事をことごとくサボるのが気に入らないらしい。
こういう奴に限って、本当は自分もサボりたい奴なのは明白だ。
「お前、行事サボりすぎだぞ。ちゃんと参加しろ!」
「僕がサボったところで、君には関係ないと思うけど」
「いくら体が弱いからって、甘えてたら駄目だぞ」
「それ障害持ってる人の前でも言えるの?」
「お前調子乗んなよ!」
「これが素の僕なんだけど」
目線を合わせることなく、この脳筋野郎をテキトーにいなした。だが筑間はそれだけじゃ引き下がらなかった。次の週、僕はいつものように自分で作った弁当を食べようとしていた。中学は給食じゃなく弁当持参だ。昼休みになると、弁当を先に食べ終えた人から運動場に遊びに行ったりしていた。
遊びに行ったりはせず、家から持ってきた本を読んでいた。
いつも通りに弁当を食べようとすると、筑間が僕の目の前に立った。
「お前次は参加しろよ」
筑間がギラギラした目で強く要求する。
「嫌だ――」
当然の如く真顔で断る。言い返した瞬間、筑間が僕の弁当を取り上げる。
「悪いことは言わん。返せ」
「次の行事に参加するなら返す」
「そういう文句は担任に言ってくれ。決定権を持ってるのは担任だ――」
淡々と言った次の瞬間、こいつは信じられないことをした。僕の弁当箱を思いっきり地面に叩きつけたのだ。床には弁当が散乱している。しかも筑間は殴る蹴るの暴行を加えた。
ぶちぎれたのか、筑間を思いっきり殴り飛ばした。
仕返しをしてくるが、膠着状態になりながらも、お互いに殴り合いを続ける。他のクラスメイトが担任を呼び行くと、筑間の友人がずかずかと歩み寄ってくる。喧嘩を止めてくれるものだと思っていた。だが筑間の友人が僕の体を押さえつけると、そこに筑間が思いっきり蹴りを入れた。
担任が駆けつけるまでの間、僕は筑間と他のクラスメイトたちから終始殴られ続けた。またしても集団リンチを受けるが、担任が来て脳筋共を制止させたところでようやく収まる。
「大丈夫?」
担任は筑間たちに心配そうな表情で言った。
「何でこんなことになってるの?」
僕に対しては疑いの目で聞いてくる。一応事情を説明したが、行事に参加しない僕が悪いということになり、筑間たちは咎められなかった。弁当箱だけを片づけると、教室から出て帰ろうとした。弁当を散らかしたのは筑間だし、筑間が片づけるべきと考えた。
しかし、担任の濱口先生は、僕に対して散乱した弁当を片づけるように言ってくる。僕は担任の要求を突っぱねると担任の顔面を殴り、学校から脱走する。最低限の荷物としてバッグだけは持っていた。僕は親父のバイト先である葉月商店街まで走って逃げた。
満身創痍で葉月商店街のカフェ、金華珈琲のドアを開ける。
カランコロンと音が鳴り、親父やマスターが僕に気づいた。
「えっ……あず君学校は? その顔誰にやられた?」
「クラスメイトにやられた。担任もそいつらに味方したから、ぶん殴って脱走してやった」
「ちょっと事情を聞かせてもらってもいいかな?」
「話すと長くなるけど……」
親父とマスターの治療を受けながら事情を説明する。親父はすぐに携帯で学校に連絡しに裏へと引っ込んだ。僕が説明をし続けると、マスターの表情が曇り出す。
説明を中断するかのように、僕の腹が鳴ってしまった。
「お腹空いてるでしょ。ちょっと待ってて」
しばらく席に座っていると、マスターが嬉しそうに料理を持ってくる。
「はいこれ。あっ、お金はいらないからね」
「いいの?」
「うん。今日は酷い目に遭ったみたいだし」
マスターは僕に食べ損ねたはずの昼食をご馳走してくれた。
「……ありがとう」
力なくマスターに礼を言った。
「困った時はお互い様だよ」
腹が減っていたのか、黙ったまま無我夢中でムシャムシャと食べる。
……うん、美味い。マスターが奢ってくれたのは、デミグラスオムライスとコーヒーのセットだった。本来であればお金を取れただろうに。カフェの飯ってこんなに美味かったんだな。僕は常連だが、カフェの飯は高いために食べたことがなかったのだ。しばらくの間、マスターと話していた。おじいちゃん時代からの伝統なのか、店内は禁煙で喫煙者がいない。
「君のお父さんはね、会社が潰れてから一生懸命だったんだよ」
マスターが丁寧に親父の過去を話し始める。
「ずっと正社員の仕事を探してたな」
「そうだね。最初は正社員に拘ってたよ。35歳過ぎて資格なし。そんな人を雇ってくれるとこなんかないって伝えたんだよ。そしたらようやく納得して、正社員の仕事が見つかるまでの間、うちで働くことになったわけ。うちも厳しいんだけどねー」
マスターが言うには、うちの親父は僕の心配をしていたとのこと。天然茶髪で女子っぽくて、学校にも全然馴染めないこともあり、就職できるか心配だと口癖のように言っていた。
「僕の心配より、自分の心配をすればいいのに」
「それが親というものだよ」
「親にしか分からないんだろうな」
後ろからカランコロンとドアベルの音が鳴り、1人の女性が入ってくる。
意外にも入ってきたのは鈴鹿だった。
「あら偶然ね。葉月君もここに来るんだ」
「あず君でいいよ。鈴鹿もここにはよく来るの?」
「うん。ここはね、コーヒーだけじゃなくて、ご飯も美味しいの」
「僕も今それを知ったところ」
「鈴鹿ちゃん、あず君と知り合いなの?」
鈴鹿が僕の隣の席に着くと、マスターが親しげに鈴鹿に話しかける。
どうやら鈴鹿もここの常連らしい。
「ええ、楽器店で目を瞑りながらアニソンを弾いてたの」
「へぇ~、そうなんだー。それは興味深いねー」
「まだ学生なのに、一度も音程を間違えなかったの。あず君ならきっと一流のピアニストになれると思うのだけど、断られちゃった。才能が勿体ない」
鈴鹿が落胆の表情でマスターに訴えかける。
だが意外なことに、マスターが話を合わせることはなかった。
「彼はピアニストよりもバリスタの方が向いてるんだよ」
「そうなの?」
「うん。だからさ、鈴鹿ちゃんも背中を押してやってくれない? 向いているかどうかも大事だけど、目標に向かって真っ直ぐ取り組める姿勢はもっと大事だと思うよ」
マスターは僕の夢を尊重しているためか、バリスタの夢を持ち出した。
「あず君がどうしてもって言うなら、無理強いはしないけど……私……諦めだけは悪いの。もしバリスタの道を諦めたくなったら、いつでも言ってね」
「……気持ちは嬉しいけど、その時は永久に来ないと思うぞ」
鈴鹿の笑顔が急に疑問を持った表情に変わる。
「――ん? あず君、その顔どうしたの!?」
「あー、これか。同級生に殴られた」
「同級生と喧嘩したの?」
「うん。弁当を床にぶちまけられたから、同級生と担任をぶん殴って脱走してきた。今頃うちの親父と担任がぶつかり合ってるだろうな」
「ふふっ、あはははは!」
「こーら、人の不幸を笑っちゃ駄目だよ」
「ごめんなさい。あず君って結構大人しそうな子だと思ってたの。思ってたより行動力あるんだ。私はそこまでできない……」
鈴鹿は僕の出来事に同情するどころか前向きな感想を述べた。
アーティストは変人が多いとはよく聞くが、それは本当のようだ。
「さっきの話だけど、バリスタになる場合は就職じゃなくて起業がいいと思ってるからさ、起業するために業務を教えてくれないかな?」
「あー、それなら別にいいよ」
マスターに自分のやりたいことを伝えた。
「親父には悪いけど、就職して生きていくのはまず無理だ。どこに行っても組織の免疫細胞みてえな奴と絶対喧嘩しちゃうからさ、集団生活は合わない気がする」
困った顔で言うと、マスターはすぐに納得する。
「私も就職は無理かな。音楽の何たるかも分からない凡人と一緒に過ごすのは苦痛だし、音痴な人に限って急に歌い出したりするの止めてほしいなー」
「どんなに良い曲も、音痴が歌うとただのノイズか」
「そうそう。あれは絶対音感の天敵」
「すっかり意気投合してるね。バリスタになりたいなら、これ、目指してみたら?」
マスターが言うと、目の前にバリスタマガジンと書かれた雑誌を置いた。バリスタオリンピックで優勝を果たし、インタビューを受けているバリスタが本の見出しに載っている。
トップバリスタたちは当時の僕にとってのヒーローで、カッコ良い存在の最たる例だ。
僕もいつかはこの舞台に立ってみたいと思ったが、開催時点で20歳になっていないと出場できないとマスターが言っていたため、参加するとしても当分先の話になると感じた。
「僕もこれに応募したんだけど、なかなか書類選考を抜けられないんだよねー」
「マスターくらいの人でも厳しいんだ」
「そうだね。一貫性のある動きができるだけじゃ駄目なんだよ。バリスタ自身が持つ創造性や好奇心、それからホスピタリティの精神がないとね」
以前から毎日のように、インターネットでコーヒーにまつわる情報を調べていた。ワールドバリスタチャンピオンシップのことは知っていたが、バリスタマガジンは初めて見た。
親父の方は僕と担任の言い分が食い違い、担任が相手の生徒を庇う始末で収拾がつかなかった。僕は担任が変わるまで、何があっても絶対に学校に行かないことを伝えた。お袋を通して担任の交代を学校に要求した。明らかにいじめている側を庇う担任など安心できない。そのため担任と筑間たちに対する抵抗として、僕は3学期が終わるまで学校を休むことになる。結局、担任が交代することはなかった。
中1の時の日記はここで途絶えている。残りは全部学校以外の思い出だ。
2学期の途中から3学期が終わった後の春休みまでだ。
ざっくり言えば、半年近くは休んだことになる。この間、僕はカフェの経営をマスターに教えてもらっていた。起業にばかり夢中になっていたのか、うちの親は困惑していた。おじいちゃんの家にも遊びに行き、色んなコーヒーの抽出方法や、エスプレッソマシンの手入れも習得した。これで定期的なメンテナンスもできるようになった。分解して掃除する作業も全く苦にならなかった。
季節は流れ、中2の1学期がやってくる。
飛騨野とは同じクラスになり、粥川とは違うクラスになった。
しかし、とんでもない爆弾までついてきた。筑間とも同じクラスであることを知り絶望する。しかも性格の悪そうな友人もいた。筑間は鬼の首でも取ったかのように僕が不登校だったことを話した。殴り合いをせずに解決する方法はないろうか。せめて不可侵条約でも結んで守らせればいいのだが。以前よりも同級生に対して心理的抵抗を覚えるようになっていた。性別を問わず中年の人にも安心して近づけなくなったし、家族以外とはほとんど接していなかったし、担任の采配も最悪だった。
中2の担任ガチャは8年連続クソカード。
担任は上野先生という事なかれ主義の中年教師だ。理科の教師で、眠たくなるような授業ばかりをする催眠術師でもある。もちろんいじめが起きてもその場を宥めるだけで、いじめっ子を指導したりするようなスキルはない。しかも筑間とつるんでいる友人たちは史上最悪の生徒だった。
1人目が虎沢龍。地元では大富豪として名高い虎沢グループの御曹司。スクールカースト最上位。イケメンで金持ちで勉強も運動もできる奴だ。
某少女漫画に出てくるキザなクソ野郎とよく似ている。元々は私立の中学にいたらしいのだが、不祥事で転校を余儀なくされてここへやってきたらしい。今までに複数人の生徒を不登校に追いやってきた要注意人物。生徒会に所属しているが、基本的に不在らしい。しかも親父がこの中学のPTA会長だ。どこにでもこういう奴っているんだな。
2人目は長良隆治。筑間と同様に虎沢の腰巾着。運動は普通でガリ勉タイプのいじめっ子で、筑間とは対照的だ。いじめを思いつかせたらこいつの右に出る奴はいない。書道部の部員で入賞経験もある。しかし厄介さは筑間と同じくらいで、虎沢の凶悪さには及ばない。中1の時こそこの2人と違うクラスだったが、虎沢、筑間、長良の3人が組んだ時の鬱陶しさは、泥沼化した戦場より恐ろしいことを、後々思い知らされることになる。
何故この強烈クリーンナップを同じクラスにしたんだ?
落ち込みながら、邪魔だけはするなよと思い、祈りを捧げる。幸い授業中に邪魔してくることはなかった。問題児3人のことは全部下校中に飛騨野から聞いた。飛騨野は各クラスに複数のコミュニティを持っており、この学校の同級生同士の人間関係に関しては情報屋と言っていいほど何でも知っていた。
それほど周囲に敏感な女子なんだろう。
当分はこの3人を警戒しながら過ごすことになりそうだ。担任からは相も変わらず茶髪を指摘され、毎年の如く地毛証明書を提出させられる。毎回思うが、これは立派なマイクロアグレッションだ。奴らは自らが加害者という自覚もなしに迫ってくる。しかも筑間が噂しまくったせいで、虎沢たちが僕に絡んでくるようになる。どうやら次のターゲットは僕に決まったらしい。
日本人は予め自分たちを基準とした普通という枠を規定し、枠からはみ出た者をいじめのターゲットにするという傍迷惑な習性がある。余程暇なのだろうか。またいついじめられるだろうかと苦痛を感じる日々が続く。登校させられる度に腹痛に襲われ、下校すると治るという奇妙な日々を過ごした。
ストレスは胃にくるものらしい。中2の時は時々熱を出して休むことになる。
こんなことは前からあったが、この頃が1番熱を出していた気がする。
虎沢からは休み時間になる度、悪口を言われた。
「女みたいで気持ちわりいな! もしかしてオカマか?」
色々と嫌みを言われた。昼休みに弁当を食べている時だけは何もしてこなかった。以前の弁当事件でぶちぎれたことを筑間を通して知っていたからだろう。悪口を言われるのには慣れている。でも弱点じゃないだけでダメージは受けていた。当時の僕は小1の頃から受けていた迫害のダメージが蓄積していることに全く気づいていなかった。中2の1学期中間テストはいつも通りオール0点を取って終わる。
虎沢たちから馬鹿にされたが、テストを受けているのに、テストのない国に学力も労働生産性も負けてる時点で馬鹿にする資格はない。学校生活の中で唯一の癒し要素は飛騨野だった。虎沢は僕が1人になったところを狙ってくるのだが、飛騨野もそれを察していたのか、僕を1人にはしないようにしてくれた。飛騨野は最後の砦だった。彼女には本当に感謝している。
「最近ずっと虎沢に狙われてるね」
「あいつも茶髪は異常だって教えられてるんだよ」
「梓君は冷静だね」
「騒いだら問題が解決するのか?」
意外な返答だったのか、飛騨野の表情が曇った。
「虎沢君はね、以前いた小学校でクラスメイトに大怪我を負わせて病院送りにしたの。その相手の親が訴訟を起こして、虎沢君を転校させることを条件に、裁判沙汰にはしないことになって、ここに転校してきたって聞いたの。なんかここが刑務所みたいに思えてきた」
彼女の言葉には絶句するしかなかった。僕に何度もちょっかいをかけてきたあたり、あれはまるで反省していない。まさかとは思うが、サイコパスじゃないのか?
「それもう犯罪者だよな?」
呆れた表情で分かりきったことを尋ねた。
「うん。だからあいつの前では目立たない方がいいよ」
「忠告ありがとう。でも手遅れみたいだ。ていうかよく知ってたな」
「私は色んなコミュニティにいるから、この地域の事情には詳しいの」
はぁ……凶悪犯と一緒に住んでる気分だ。早く脱出する方法はないのか?
だが奴らは飛騨野にまで手を出してきた。
虎沢は飛騨野の友人である国枝麻衣に目をつけ、力関係を利用して彼女に飛騨野と一緒に遊ぶように言った。飛騨野は虎沢の言いなりになった国枝に度々誘い出され、僕は飛騨野という後ろ盾を無理矢理引き剥がされる格好となる。
そこに虎沢たちがやってくると、またしてもいちゃもんをつけてくる。
「おい、それいつから染めてんだよ?」
「元々だけど」
「本なんか読んでないで、ちゃんと人の顔見ろよ」
長良が僕から本を取り上げて目を合わせようとしてくる。
「お前男なんだから髪切ってこいよ。男のくせにロン毛とか気持ちわりいんだよ」
「僕はこれが好みなの。ロン毛が気持ち悪いと思うなら、自分だけハゲにでもしてれば?」
「お前、俺に逆らってただで済むと思ってんのか?」
「お前こそ、法律違反してただで済むと思うな」
口答えをしてしまっていた。こういうところで意地を張るのが僕の悪い癖だ。
「梓くーん、ちょっと待ってー」
放課後にロッカーから靴を取り出そうとすると、国枝が話しかけてくる。
「なんか用?」
聞き返しながら靴を履き替える。
「あのさ、悪いことは言わないから、虎沢の言う通り、髪を切って黒髪に染めてみたら? そしたらもう何もしてこないと思うからさ。今だけだから、ねっ」
「……独裁者に怯えながら生きるのは楽しいか?」
国枝を睨みつけ、彼女の言い分の本質を突く。
慌てた顔をしている。口答えされるとは微塵も思っていなかったのだろう。
「えっ!?」
「誰かに生き方をコントロールされて、その誰かのために犠牲になるのが楽しいかって聞いてんだよ」
「は? ばっかじゃないの? どうなっても知らないよ」
国枝の声が急に冷たくなる。どうやら僕に対する哀れみが消えたらしい。
「君にとって馬鹿の定義がナチ野郎のちっぽけな自己満足を満たせないことなら否定はしない。だがこれだけは覚えておけ。あんな奴の言いなりになっている内は、いつか自分がナチ野郎に虐げられる立場になった時、一切文句を言えないと思え!」
駄目押しをするように、国枝の忠告を突っぱねた。彼女は虎沢に心惹かれており、事実上の手駒だ。多分、あいつもそれを知った上で利用している。
とんでもねえクズだ。あいつのことを考えただけで殺意が湧いてくる。
このクラスは虎沢の独壇場だった。どの生徒も虎沢には逆らえない……僕を除いては。
5月を迎えると、林間学舎がやってくる――。
一度行けば十分だろうに。何故こうも同じ行事を繰り返すことが好きなのか。
嫌な予感しかしなかったため、先手を打つことに。
担任と同じ部屋に泊まること、風呂に入る順番は僕だけ必ず最後にすること、要注意人物3人とは同じ班にしないという、まるでカルタゴ和平案のような約束を担任に押しつけた。これだけたくさん無茶な要求すれば、流石に行かなくて済むだろうと思っていた。しかし、担任はこの案をあっさり通してしまう。ここで断ってくれていれば、行かなくて済んだというのに。
馬鹿担任のせいで林間学舎に行く破目になるが、何も起きないことを祈るばかりだ。
ガキ大将みたいな奴はどこにでもいる件。
僕がいた場所も例外ではなかったです。
筑間凛季(CV:岡本信彦)
虎沢龍(CV:松本潤)
長良隆治(CV:柿原徹也)
国枝麻衣(CV:長久友紀)