235杯目「悩みの種」
千尋と一緒に2階へと上がった。部屋はそこそこ散らかっている。
原因は間違いなく、生活の乱れであると確信したからだ。発想においては天才的な千尋も、部屋の整理はまともにできないようだ。いつも部屋が整っていないと気が済まない僕とは対照的だ。
こういう奴には、面倒見の良いパートナーが必要である。
千尋と明日香の2人をくっつけてやりたい理由がまた1つ増えてしまった。
「千尋、何があったか説明してみろ」
「あず君にはバレてたかぁ~」
「君がメールを返さないなんて、余程のことがあったに違いないと思った。返信なしも、ある種の返信だからな。既読ですらなかったし」
「実は僕、明日香に別れようって言われて、それで何度もメールのやり取りをしてて、仕事中も明日香のことばっかり考えてて……それで明日香のことを忘れようと必死に仕事をしていたらオーバーワークしちゃってさー。倒れたと思ったら熱まで出しちゃって、この有り様だよ」
「泣きっ面に鉢か。病は気からって言うし」
スマホを取り出し、器用に指を動かした。
「何してるの?」
「小夜子にメールしてる。今すぐ明日香を連れてくるように言った」
「ええっ!?」
千尋は大きく目を見開き口を開けた。こいつにとっては想定外の行動だったようだ。
とにもかくにも、千尋には今すぐ仲直りしてもらわないと困る。
真理愛とディアナがバリスタオリンピックで結果を残すには、アイデアマンである千尋の協力が必要不可避だ。彼本人が出るにせよ、出ないにせよ。あの創造性は葉月珈琲の最終兵器だ。
「念のために聞くけど、なんか悪いことした?」
「してないよ。ただ……心当たりはある」
「杉山グループか?」
「うん。明日香のこともきっちり調べていたし、明日香に対して何かしらの嫌がらせをしていた可能性が高い。でも元々の原因は僕だから、小夜子さんに会うのも億劫で、それでずっとキッチンに引き籠って料理番をしてたけど、時計も見ないで仕事してたから、こうなっちゃったわけ」
「恋は盲目だな」
「あず君にはこういう経験ないわけ?」
「ないな。恋人はいるけど、別れ話になったことも喧嘩になったこともない」
人としてのレベルが違いすぎて喧嘩にもならない。唯は僕より上手だ。喧嘩にならない立ち回りを心得ている。触れたら怒るような物には一切手をつけないし、人の機嫌を取る術に長けている。
いや、日本でもイギリスでも居場所がなかった彼女だからこそ、習得せざるを得なかったのだ。
献身的で面倒なことにも嫌な顔1つせず引き受けてくれる。
僕は大会で結果を残していく内に、権力さえ跳ね返せるほどの権威を得た。何があっても唯を守れるだけの自信はあるし、彼女を守ってやれるだけの力はある。今では誰も唯を貶めることがない。
無敵とは、敵がいないことではない。敵が戦いを避けたくなることである。
戦いを挑まれる時点で弱いわけだ。流石の杉山グループでも僕にまでは手を出せない。もし僕が誰かによって不当な不利益を被ろうものなら、世界中に1億人を超えるファンからの大バッシングを受け、大損害を被ることになる。これこそが権威を持つことの意義である。
権力はいらない。権威があれば一声で大勢の人を自動操縦できる。
オレクサンドルグループは葉月珈琲に損害をもたらしたとして、世界中のコーヒーファンから大バッシングを受け、事業規模を大幅に縮小し、オレクサンドル自身も病気に倒れたことが重なり、引退へと追い込まれた。あの人が病気で倒れたのは大バッシングによる精神疲労だった。
結局、あの件はオレクサンドルグループが葉月珈琲に和解金を支払うことで鎮静化した。
千尋にそんな力はない。弱き者はそれだけで罪だ。
これ以上杉山グループに邪魔されないようにするためにも、今後は村瀬グループを強力な後ろ盾で守る必要ありとみた。ならば僕が後ろ盾になってやろうじゃねえの。
「明日香を呼び出してどうすんのさー?」
「千尋、杉山グループの相手は僕が引き受ける。だから君は一刻も早く明日香と仲直りしろ」
「何でそんなに急いでるわけ?」
「真理愛はコーヒーカクテルはずば抜けて得意だけど、それ以外のシグネチャーを作るのは全くと言っていいほど慣れてないし、ディアナは真理愛とは対照的で、全体的に小さく収まってるというか、得意も苦手もないが故に、どれもパッとしない」
「ハッキリ言うね」
「言わなきゃ解決しないだろ。課題は指摘してなんぼだ」
「……ホントに何とかしてくれるの?」
「うん。約束する。千尋は僕が守るから」
千尋が赤面しながら乙女のような瞳で僕と目線を合わせた。また熱が出てきたようだ。休ませた方がいいとは思うが、今のこいつにとって1番の薬は、明日香と仲直りすること。それ以外はない。
「まっ、そういうわけだから、千尋は安心して明日香とよりを戻せ。それと明日香に何があったのかを聞き出せ。小夜子と一緒なら、幾分かは言いやすいと思うし」
「――分かった。明日香のことは僕に任せて」
千尋は初めて僕に笑顔を見せてくれた。元気が眠気に勝ったらしい。
安心した僕は、小夜子たちが来る前に帰宅した。
千尋は今までに出会った人の中でも特に扱いやすい部類だった。
無駄なものが無駄だって分かる人はそれだけで教養があることが分かる。
うちが導入しているタブレット注文のシステムにも逸早く順応したって聞いたし、何なら他のスタッフに使い方を教えていたくらいだ。これだけ若者が今の時代に対して順応になっているのだから、大卒まで何もさせず、職に困らせながら、あくせくさせている場合じゃない。
しばらくすると、ベッドの上に置いてあった僕のスマホが振動した。
千尋からメールがきたのだ。僕はそれを注意深く黙読した。
やはり僕らが思った通り、明日香は杉山グループから圧力をかけられていた。
杉山グループの手先と思われる者が明日香の美容室に現れ、店を大きくする代わりに千尋と別れるように言ったり、小夜子と明日香の両親が務めている会社を潰すことをチラつかせたりとタチの悪い圧力をかけてきたのだ。最初の要求こそ断ったが、両親を路頭に迷わせたくないという想いが勝り、なくなく千尋に別れの連絡を入れたのだ。証拠さえあれば晒してやるところだが、流石に相手もかなり賢い。証言だけで有罪判決が出るほど甘くはない。そうまでして千尋との結婚を成立させたいのか?
杉山グループは、まだ戦いを諦めてはいない。
この状況を打開する唯一の方法は――やっぱあれしかないか。
「じゃあ、千尋君を助けるために、村瀬グループと業務提携を結ぶんですか?」
この日も唯と2人で風呂に入り、家族会議をしながら今後の予定を模索していた。
僕が悩みを述べ、唯が解決策を提示し、僕が作戦をまとめる。
シンプルだが、この家族会議には何度も助けられてきた。
「ああ。千尋を助けられなかったら、恐らく真理愛とディアナに手を貸すどころじゃなくなる。一刻も早くあの修羅場から千尋を解放して、思う存分コーヒーに集中させてやりたい。まだ18歳で結婚なんて考えてる余裕はないはずなのに、何であんな強引なマネをするのか、僕にはよく分からない。せめて相手の意図が分かれば、どうにかなると思うけど」
「千尋君は明日香ちゃんと仲直りできたんですか?」
「小夜子が仲立ちしたこともあって、どうにか仲直りはできたけど、当分はデートすらできない状態になっちまった。この問題が解決するまでは別れたふりをしないといけない」
「杉山さんは6人姉妹の末っ子で、千尋君より4歳年上の大学生なんですよね?」
「そうだけど、それがどうかした?」
「今のグループ企業の令嬢は、みんな大学を卒業するまでに婚約を決めるのがトレンドになっているみたいですね。変わったトレンドだとは思いますけど、ずっと家族経営がしたいんでしょうね」
大卒までに婚約だと……杉山は大学4年生……なるほど、謎は全て解けた。
杉山の大学卒業まであと1ヵ月足らず。だからこそ焦っている。
上流階級の登竜門とも呼ぶべきトレンドに乗っかろうと必死なんだ。
「このままだと、あいつだけ婚約が決まらないまま卒業ってわけだ」
「千尋君、グループ企業の一人息子に生まれてしまったために、こんな巻き込まれる形になってしまったんですね。私としては、どちらにも幸せになってほしいです」
「唯は優しいな」
「景子さんも上流階級に生まれてしまったために、婚約を急かされているんですから、彼女もどちらかと言えば被害者ですよ。身代わりでもいればいいんですけどね」
「――今、何と言った?」
「身代わりでもいればいいんですけどねって言いましたけど」
「それだっ!」
僕は勢い良く湯船から立ち上がった。
こうしちゃいられない。早速行動開始だっ!
翌日、杉山グループと釣り合いそうなグループ企業の御曹司をピックアップし、村瀬グループに対しては名古屋にある村瀬グループの本社へと向かい、アポを取ってから村瀬社長と面談した。
まずはコーヒーカクテルの共同開発という名目で、業務提携を持ちかけた。
「うちは日本代表の2連覇を目指すと共に、日本のコーヒーカクテルで世界に挑みたい。以前ここの日本酒を使ったコーヒーカクテルで、うちのバリスタがバリスタオリンピックを2位通過した」
「それは知っていますが、その前に1つお願いがあります」
「お願いって?」
「息子をうちに返してください」
「まだ諦めてなかったのかよ」
「……息子は村瀬グループを救う鍵なんです。村瀬グループが倒産でもすれば、かつての虎沢グループのように大勢の失業者が出てきてしまいます。それを防ぐには杉山グループの令嬢から嫁さんを貰って、最悪合併という形で生き延びる他ありません」
「別に合併なんてしなくても、村瀬グループの存在を国外に広めればいいんだろ?」
「それはそうですけど」
「だったらうちと手を組むべきだ。ここの日本酒には造った人たちの想いがこもってる。ここの日本酒を使ったコーヒーカクテルが国外で評価されれば、間違いなく村瀬グループにも注目が集まるはずだ。そうなれば海外進出をする上で、大きな助けになる」
「言いたいことは分かりますが、それでうまくいくのですか?」
疑り深いな。僕もあまり人のことは言えないけど、こっちが誠意を見せない限り、村瀬グループを説得することはできない。誠意なら自信がある。うちの味は紛れもなく本物だからだ。
「もちろん。今のコーヒー業界はコーヒーカクテルの市場規模が拡大傾向にある。特にアジアの場合はコーヒーカクテルの店が少ないこともあってコーヒーカクテルの魅力を知らない人が大勢いる。そいつらに日本酒を使ったコーヒーカクテルの魅力を広めたら、物凄く良い商売になる」
「うちとしては、日本酒だけを売りたいのですが」
「日本酒の販売がしたいなら、コーヒーカクテルと別売りにすればいい」
「しかし、日本酒にコーヒーを加えるのは少々邪道な気がします。いくらうちの日本酒がコーヒーに合うとは言っても、うちとしては日本酒の味だけを伝えたいんですよ」
「酒には様々な使い道があっていいはずだ。コーヒーカクテルがきっかけで、日本酒にも手を出すようになるかもしれないし、フランベとかで調理する時には食材の調味料にもなる。調理にも使ってみたけどさ、めっちゃ良い味を出してたぞ。多彩な用途に耐えられるのは、あんたの会社が造った日本酒が優れている証拠じゃないのか?」
「……」
目を逸らしながらも、安心の覚えたのか、少しばかり笑みを浮かべた。
村瀬グループの将来を最も案じているのは間違いなくこの人だ。この多様化の波に乗るか飲まれるかの差は非常に大きい。ここで説得に失敗すれば、千尋の親父は無理矢理にでも千尋を連れ戻し、杉山を息子に嫁がせようとするだろう。そうなったら千尋のバリスタ人生が終わってしまう。
――全てはコーヒー業界の未来のために。
その道の才能に長け、その気がある者を1人でも多く残す必要がある。
業務提携くらいどうってことない。
「今はあらゆるものに多様性が求められる変化の時代だ。変化を恐れているばかりじゃ、いずれ時代の波に飲み込まれてしまう。それはあんたも分かってるはずだ。村瀬グループの日本酒は国内での売り上げが減少傾向にある。だからあんたはそれを危惧して外にも売り込もうとしている。社内に派閥があるのは知っている。保守派の連中が海外進出に反対していることもな。でも存続したいなら、その保守的な経営方針を変えるしかない。今がその時だ」
「――息子も同じことを言っていました」
「いつの時代も親の価値観ってのは今より30年遅れてるもんだ。うちも例外じゃなかった。僕が生まれた頃だったらまだその方針で良かったかもしれないけど、今は人口も国力も縮小しているわけだし、それを保守派の連中が知ってもなお方針を変えようとしないなら、そいつらはこのグループのことなんて微塵も考えてない。定年退職するまで、ずっとぶら下がりながらごね続けると思うぞ」
「……」
会社がグループ規模にもなると、派閥が出てくるのはよくある話だ。
変化を楽しめた者だけが、この時代を生き延びることができる。
それを邪魔する者は、たとえ身内であっても容赦はしない。泣いて馬謖を斬るくらいのつもりで経営しなければ、いつまで経っても方針が決まらない上に、つまらない派閥が出てきたりするからだ。
そう思った僕は社長室の席を立った。
「1週間だけ待つ。うちと業務提携する場合は連絡をくれ。千尋もあんたを待ってる」
「……分かりました。少し考えさせてください」
僕は大した期待はせずに帰宅する。
長く続いてきた企業ほど改革が難しい。ここで動かないようなら次の手を考えないと。
小夜子と明日香の両親が人質に取られたところから問題が起きた。小夜子に連絡し、もし彼女らの両親が会社を追われるようなことがあれば、その時は僕が何とかするとメールを送った。
千尋、僕ができることは全てやったぞ。
3月中旬、千尋が休日になると、当然のようにうちに来てくれた。
彼がここに来たのは、この日がうちとの業務提携に応じるかどうかの期限だからだ。
この日は村瀬グループにとって運命の日になるだろう。
「「「「「!」」」」」
ポケットの中にあるスマホが振動でメールの受信を僕に訴えた。
急いでポケットからスマホを取り出し、村瀬社長からのメールであると確信した。
「あず君……何て言ってるの?」
千尋の言葉にも目をくれず、長い前書きから黙読する。
内定が取れるかどうかの通知メールを恐る恐る確認する就活生にでもなった気分だ。応じてくれるかどうかは相手次第だが、期限ギリギリに通知するとは良い度胸だ。余程迷ったらしいな。
結果を確認した僕は、ショックな顔で千尋と目を合わせた。
これには千尋も表情が暗くなった。
「業務提携……応じてくれるってさ!」
「良しっ! やったじゃん。さっすがあず君だね」
喜びながら千尋とハイタッチをかわした。璃子たちも僕らを見守りながら笑みを浮かべている。
「お兄ちゃん、さっきのショックな顔は何だったわけ?」
「えへへ、ちょっと驚かせてみただけー」
「趣味悪っ!」
「まあでも、父さんに理解力が残ってて助かったよ。でも……父さんも思い切ったな」
「思い切った?」
「だってさ、父さんが改革したってことは保守派を事実上潰したってことだよ。みんな海外進出するんだったら辞めるって言ってたし、今いる幹部の半数はグループから去ったってことだよ」
「千尋が家を出る前からってことは、だいぶ昔っから議論してたわけだ」
「昔も何も、10年以上も前から話し合ってたよ。でもみんな変化が怖くて反対ばかりしてた。新しい発想を無条件で否定する企業が結果なんて残せるはずがないのに、自分たちが定年まで会社が安定しているかどうかの心配ばかりで、グループのことなんて微塵も考えてなかった。あず君が背中を押してくれたお陰だよ。感謝してる」
千尋が僕に微笑みかけた。どうやらしばらくは大丈夫そうだな。村瀬社長は保守派の役員と社員を転職先を保障した上で一斉にリストラし、ようやく重い腰を上げた。海外進出は楽じゃない。コストがかかる上に、気に入ってもらえなければ今までの苦労が水の泡だ。保守派の連中からは、それ見たことかと言われないくらいの成果を残さなければ、末代まで後ろ指を差されることになるだろう。
3月下旬、千尋から緊急を要するメールがきた。
杉山グループが動いた。末っ子令嬢の杉山景子が千尋との婚約を発表したのだ。
本人の許可がなければ婚約は成立しないはずだが、何と村瀬社長までもが婚約を認める旨を伝えてしまったため、事実上の許嫁となってしまった。しかも下手に拒否すれば、杉山グループへの挑発行為と見なされ、どんな仕打ちを受けるのかも分からない状況となった。だが奴らはこれ以上手を出してくることはなかった。とりあえずの婚約でトレンドに無理矢理乗っかったわけか。
流行に乗り遅れるのが怖くて、親から借金してまで流行の品を買った学生のようだ。
テレビで報道されるほどのニュースにはなっていないが、千尋にとっては釘を刺された格好となってしまった。もし今の状態で千尋が明日香とデートでもしようものなら即スキャンダルだ。このままじゃ身動きが取れないが、うちの仕事に集中するチャンスでもある。
「はぁ~、これじゃ明日香とデートできないよぉ~」
「心配すんな。美容室に行くだけだったら怪しまれないから、時々だったら会える。当分はお互い仕事に集中しろ。これでこっちもあいつらの弱みを握った」
「弱みを握ったって、どういうこと?」
「もしあいつらが何か仕掛けてきたら、婚約なんてしていないことを世間に公表しろ。本人の同意がない時点で婚約は不成立だからな」
「強行策を逆手に取るわけだ。そういうところ、抜け目ないよね」
「伊達に何度も修羅場を乗り越えてねえからな」
苦難を乗り越える術は学生時代に学習済みだ。お互いに握手をしながら銃を突きつけ合う外交には慣れている。今は学生じゃない。大勢の味方がいるのだから、そう簡単にやられることはない。
「千尋、4月になったら、バリスタオリンピックラストチャレンジに真理愛が参加するからさ、コーチとして東京まで一緒に来てくれ」
「うん、分かった。あれっ、真理愛さんは?」
千尋が真理愛を探そうと、キョロキョロとキッチンを見ている。
「今頃は家でディアナと一緒に調整中だと思うぞ。2人目の日本代表とはいえ、このラストチャレンジをクリアしないと、本戦に参加する前に予選落ち扱いになって順位まで決まる」
「裏予選なのは分かるけど、何で東京なわけ?」
「一応本番前の予選ではあるけど、2位通過者全員が集まるわけじゃなくて、公式のジャッジが世界中の会場を回って、代表のバリスタはそれぞれの国から最も近い場所に集まってラストチャレンジを行うわけだ。前回のラストチャレンジも、集まっていたのはアジア勢だけで、他の国の代表はそれぞれの地域でラストチャレンジを終えた後だったから、すぐに最終順位が出たわけだ」
「裏予選も大変だね」
「大変ではあるけど、バリスタにとっては敗者復活のチャンスだし、ジャッジにとっては本戦前の練習にもなるから、お互いにとってメリットがある」
兎にも角にも、まずは真理愛の本戦確定を決めるのが先だ。
選考会で優勝できなかった借りは本戦で返すのが礼儀だ。こうしている間にも、根本は本戦に向け、一心不乱にコーヒーの研究を続けた。松野珈琲塾からも制限時間を取り除き、同じ土俵での戦いだ。
千尋は爆弾を抱えたまま、真理愛のコーチを引き受けるのだった。
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