229杯目「それぞれの目標」
バリスタオリンピック選考会が始まり、真理愛と美月による、大舞台を懸けた競技が始まった。
僕は岐阜から真理愛たちの活躍を見守っている。伊織たちと一緒に生放送中のパソコンと睨めっこをしながらも参加しているバリスタを入念に確認する。
バリスタオリンピック2015東京大会で日本勢が初めてこの大会を制覇したこともあり、選考会では葉月珈琲勢の2連覇を見守ろうと大勢の観客が押し寄せた。
「葉月珈琲からは2人、松野珈琲塾からは4人が選考会に残りましたね」
「書類選考で通過できるのは10人だけだし、全員が国内予選、もしくは他の世界大会の覇者だ。油断は微塵もできないな。参加者全員がラスボスみたいなもんだし」
「真理愛さんと美月さんが通過できたのはいいんですけど、あず君意外だと、今の時点で世界大会での経験があるのは、真理愛さんと美月さんだけですもんね」
「一応柚子と桃花と陽向と俊樹も参加登録はしたけど、世界大会自体に出たことがないのが響いたのか書類選考で落選しちゃったからなー」
「悪かったね」
柚子が拗ねた顔で言った。だが婚活イベント会社にいた時のブランクがありながらJCTCで優勝を決めてしまうあたり、これからまだまだ伸びしろがある。
真理愛は村瀬グループの日本酒の宣伝も兼ねて日本酒を使ったコーヒーカクテルを選考会で披露し、コーヒーカクテル部門では堂々の1位を獲得した。
しかし、意外にも選考会を制したのは、松野の愛弟子、根本であった。総合スコアで真理愛を大きく引き離しての優勝を決めると、23歳という史上最年少の若さで日本代表の座を勝ち取った。
翌日、選考会から帰ってきた真理愛が僕の元へと駆け寄ってくる。
納得はしていないようだった。うちに来てからは向上心が更に育っている。
「はぁ~、負けちゃいました」
「ご苦労さん。真理愛は2位通過でラストチャレンジがあるし、それに向けて練習を重ねることだな」
「それはそうですけど、やるからには1番を取りたかったです」
「だったらその気持ちを来年以降の大会にぶつければいい。他のバリスタの世界大会にも、バリスタオリンピック部門賞の価値はあるんだからさ」
「分かりました。やってみます。あず君の言葉を借りるなら落ち込んでいる暇なんてないですもんね」
1位 根本拓海 476.8
2位 加藤真理愛 462.9
3位 石原沙織 450.1
4位 本多健介 443.6
5位 石谷雄一 436.0
6位 山本友香 433.7
7位 杉浦一花 422.2
8位 長嶋栄太郎 413.6
9位 小谷翔馬 412.3
10位 鈴木美紀子 401.4
真理愛は2位通過でどうにか首の皮1枚繋がった。ここにきて早くも葉月珈琲唯一の希望となった。奇しくも選考会通過により、うちの店からの卒業が遅れることとなった。
バリスタオリンピック2019ウィーン大会には、59の国と地域から、合計118人のバリスタが参加する。参加国が少なくなった分、ラストチャレンジの合格率が上がっているが、昔のバリスタオリンピックでは、3位通過者がラストチャレンジに参加していたため、昔よりもレベルが上がっている。
「一応ラストチャレンジからの通過者で、本戦で優勝した人も何人かいるから、まだ真理愛にもチャンスはある。特にアジア勢が苦手としているコーヒーカクテル部門を得意としているのが大きい」
「何でアジア勢って、コーヒーカクテル部門が苦手なんですか?」
「アジアだとコーヒーカクテルの需要自体が比較的少ないし、コーヒーカクテラーの人口がヨーロッパに集中してるから、アジアのバリスタにとっては不慣れなアルコールに対応しきれない分不利になりやすいってわけだ。根本もアルコールはまだ初心者みたいだし」
「優勝するためには、苦手な部門を絶対になくさないといけませんよね。私はラテアートが少しばかり苦手なので、当分は璃子さんに協力してもらいますね」
「えっ、何で私なんですか?」
「璃子さんはJLACで4年連続のファイナリストじゃないですか」
「まだ一度も制覇してませんけどね……あはは」
愛想笑いをしながら璃子が言った。璃子は優勝できない悔しさを内に秘めていた。
本業はショコラティエだが、ラテアートも制覇したいと顔が言っている。バリスタオリンピックに出場する気はないが、ラテアートの腕は年々上がっている。手先の細かさだけなら既にトップレベルだ。
璃子がなかなかJLACを制覇できないのは決定打に欠けるからだ。どのラテアートも無難さが前面に出されており、失敗しない方向へとフォーカスされたものだった。璃子ほどの実力であれば、もっと難度の高いラテアートにも挑戦するべきだと思うが、そこが気にかかるところだ。
「璃子、次のJLACは僕にコーチをやらせてくれ」
「えっ、お兄ちゃんがコーチ?」
「うん。来年の上半期はほぼ予定なしだからさ」
「伊織ちゃんのコーチも一緒にやるわけ?」
「そうだな。遠征するだけなら問題ない」
「――分かった。じゃあ頼もうかな」
璃子は笑顔で快諾してくれた。自力で決勝進出するだけの力はある。
国内には1人も敵はいないと思っていたが、敵は璃子の中に潜んでいた。
それは油断でもなければ実力不足でもなく、璃子自身が持つ謙遜そのものだった。
結果的にそれが璃子の可能性を狭めてしまい、より高度な技に挑戦できない理由となっていた。変な謙遜を取り除いてやれば、本来の実力を発揮できるはずだ。
11月上旬、僕はWACに出場するべく、本戦で使われるコーヒーが届くと共にコーヒーに最も合った抽出方法を探そうと、エアロプレスでコーヒーを抽出しまくった。
テイスティングは伊織と柚子に任せ、2人の納得を得られるまで練習を続けた。
夜になると、いつものように唯と一緒に風呂に入った。
3人の子供の面倒を見ていた唯は、育児がすっかりと板についている。
「あず君は段々コーチとしての色が強くなってきましたね」
「唯もハウスキーパーみたいになってきたな」
「みたいにじゃなくて、なってるんです……時々心配になっちゃうんです。私たちみたいに、学校に行かなくても成長するのかなって」
「手をかけるから駄目になるんだ。子供ってのはな、何もしなくても勝手に育つようにできてんだよ。学校がなかった時代でも人類は力強く生きてきた。証拠なんていくらでもある。自力で稼げる程度の知識だけ身につけておけば、後は勝手に好きなことを始めるから心配すんな」
「何で親が子供の心配をするのか、親になってみて、初めて分かった気がします」
「唯は考えすぎ。子供は見守るのが最善の教育だ。親が子供に干渉してもいいのは、子供の力ではどうにもならない事態になった時、子供が悪いことをしている時のツーパターンだけだ」
「それは分かってます。干渉しすぎて駄目になったパターンは何度も見てますから」
心配しながら子供を潰す親の何と多いことか。
しかも多くの親は、それを愛情か育児と履き違えている。
干渉しすぎると、自力で困難を突破する力を身につけにくくなり、生命力を失った状態で社会に放り出されることになる。成れの果てが飯を食えないニートだ。それで生きていけるなら問題ないが、経済的に自立できなかった時点で、親と学校の責任と言える。何かあればすぐに親を頼ってしまう時点で子育て方針を疑った方がいい。親を頼るのはあくまで最終手段だ。子育ては子供の自立訓練なのだから。
生真面目に育児をすると、意気地なしになる。
何ならこれを全国模試の問題にしてほしいくらいだ。
「唯の家庭はかなり自由だったと思うけど」
「私じゃなくて、その周囲ですよ。あず君も身に覚えがあると思いますよ。あれだけ目立っていた人たちが社会に出た途端、ドミノ倒しのように淘汰されていったんですから」
「なんかあったの?」
「この前あず君が出かけている時、子供たちを柚子さんと瑞浪さんに預けて同窓会に行ったんです」
「同窓会ってことは……学校の?」
「はい。仲の良かった同級生から誘われたんです。最初は30人くらい集まる予定だったんですけど、来たのは6人だけだったんです」
「みんな忙しいんじゃねえの?」
「それがですね、来ていない人たちは、みんな就職失敗とか、失業とか、ニートになった人とか、四六時中職を求めて彷徨っている人ばかりで、同窓会どころじゃなかったみたいなんです。ここ最近の岐阜は虎沢グループの崩壊とか、中津川グループの縮小とか、色々ありましたから」
唯が言いたいのは、グループ企業が消滅したり縮小したりしたことで、雇われていた大勢の労働者が一斉に失業し、飯を食えない大人になってしまったことだ。僕は虎沢グループという、ある種の必要悪を潰してしまったことで大勢の失業者を出す格好となっていた。
――栄光の裏側には多くの犠牲がある。
ドラマや映画みたいに、悪役に復讐を成し遂げてざまあみろでハッピーエンドになればそれで良かったのに、非情にも現実には続きがある。それで彼らの生活が終わるわけではない。
果たしてあれは――必要な復讐だったのだろうか。
成功することが最善の復讐方法であるとは言ったものだ。もうそれ以上に追い打ちをかける必要なんてなかったかもしれない。失業したくらいで飯を食えなくなるのは親と学校のせいだが、彼らが唯一過ごせたぬるま湯を奪ったのは僕の責任かもしれない。いかんせん影響力が強すぎた。その代償を彼らが支払っているのだとしたら、補填をどこかで行う必要がある。
だが彼らの多くが現実を知り、目覚めるきっかけを与えたことも事実だ。
もし彼らが現代に合った教育を受けていたならば、ここまでの不況にはならなかったはずだ。
あと数年後には、通学の準備を促す通知が届く。だが僕は登録だけ行った後、通学を拒否するよう子供に仕向けるだろう。今の学校に子供を行かせる気なんて1ミリもない。
失業したくらいで飯を食えない大人になるような雑魚を世間が量産しまくったくせに、そいつらが最低限の生活を求めれば自己責任扱いして見捨てる。そんな育成能力も責任能力も失った社会に価値はないのだ。生きる力を奪うような教育をしておいて、生きる力がないのは自己責任と言い続けるのであれば何ら自浄作用をもたらさない義務教育なんかやめちまえ!
生きる力がないのが自己責任なら、別のやり方で生きていくのも自己責任だ。
義務だからと強制される筋合いはどこにもないはずだ。
あんな腐りきった洗脳につき合わされるのは――僕の代で最後にしてもらう。
子育てをする時は、無職にならないようにするんじゃなく、無職になっても大丈夫な人間に育てるべきと心底思った。公教育を頼るのは、どこにも行き場所のない子供だけになるだろう。
「うちの子も例外じゃない。学校なんか行かせたら、あいつらの二の舞だ」
「――そうですね。子供たちにはご飯を食べられる大人になってほしいです」
「来週シドニーに行ってくるから、また留守番頼む」
「分かりました。でも気をつけてくださいよ。私が1番心配なのはあず君なんですから」
「ふふっ、子供より僕の方が心配か」
つい笑ってしまった。頼りにされているかと思いきや、何だかんだ心配されてる。
即答で分かりましたなんて言えるくらいには信頼してくれているのも分かるし、そんな唯の優しさが僕の中にある歪みを修正してくれたことは言うまでもない。
11月中旬、僕と伊織はWACの舞台、シドニーまで飛んだ。
オセアニアを代表する国際的な観光都市。海に臨むオペラハウスなどが著名であり、南半球の中で最大級の都市でもある。少し離れた場所にはコーヒーの聖地であるメルボルンがあり、ここから多くのトップバリスタが輩出されている。61ヵ国から61人のナショナルチャンピオンが参加し、この中からワールドエアロプレスチャンピオンが決まる。大会日までまだ余裕があった。荷物をホテルの部屋に預けた後、時差に慣れつつもエアロプレスの練習に励んだ。11年前のCFLアトランタ大会決勝を戦ったジョージが僕らを案内してくれた。
スキンヘッドに髭を蓄え、今では自分のカフェを構えているトップバリスタだ。
今大会で使われるコーヒー豆の特徴は大体掴んだし、伊織にも良い刺激になるだろう。
「あれがオペラハウスですね。テレビで見たことあります」
早速シドニーの探検に意欲的な伊織が目をキラキラと輝かせながら言った。
「伊織、観光するのはいいけど、大会が終わってからな」
「終わったらいいんですか?」
「こんなとこ滅多に来れねえからな。伊織も世界大会に向けて抽出の練習だ」
「今そんな気分じゃないんですけど」
「練習が終わったら、シドニーでカフェ巡りしよう」
「やります!」
分かりやすい。彼女の姿はかつての僕を彷彿とさせる。
どこへ行くにも元気が余っていて、意欲的に学ぼうとするこの好奇心の強さ。この年になってもまだ保っていられるのは、うちでの再教育の成果だろう。
ここにしか売っていないコーヒーもたくさん買って、日本の自宅へ届けよう。
「アズサ、11年ぶりだな」
「ジョージ、元気してたか?」
「ああ。あれからあんたと同様に色んなバリスタの世界大会に出場していた。今はワールドコーヒーイベントのセンサリージャッジをやってるよ」
「大出世じゃん。しばらく世話になる」
「今や世界的バリスタのあんたなら大歓迎さ。実は俺も今回のWACにオーストラリア代表として出場してるんだよ。あんたが参加すると聞いて、私も国内予選でかなり張り切ったよ」
「ジョージも出るのか。競争になるな」
「それでいいんだ。競争すればするほどバリスタのレベルは上がっていく。今やバリスタの意味が変わりつつあるって動画で言ってただろ。ただコーヒーを淹れるだけのバリスタは終わった。これからは新しいコーヒーを創造できる者がバリスタだってな」
「見ていてくれて光栄だ」
ジョージを始めとしたオーストラリアのバリスタも、僕の動画内でのバリスタにまつわる発言を注意深く聞いていた。元々は僕が学ぶ立場だったが、今は彼らが学ぶ対象となっている。
世界を相手にずっと勝ち続けてこられたバリスタが僕以外にいないのだ。
彼らはそんな僕から1番を取れる秘訣を探し続けている。
「前々から思ってたけど、どうやったらそんなに勝てるんだい?」
「常に大会に向けた練習、万全を期すための準備、本番のつもりでいる平常心、これらを保っていれば自ずと結果の方から近づいてくる。うちは店を開いた時から舌の肥えた外国人たちを相手にコーヒーを淹れてきた。だから店を営業している時と本番の時の落差が全然ないんだ」
「アズサは現地に着く時間がいつも早いよね?」
「そうだな。本番で緊張したり疲れないようにするために、遅くても3日前には現地まで行って練習を始める。現場に慣れた人間ほど強いものはない」
「思ってたより現実的だね」
「そりゃそうだ。目標を見つけるには、夢を見ることが大事だけど、目標を実現するには現実を見ることが重要だ。でも世の大人たちはそこまで教えてくれないからさ、みんなそれを知るのに時間がかかっちゃうんだよなー。僕もかなり無駄な遠回りをしたけど、結果的には良かったと思ってる」
いくつか気づいたことがある。昔の外国人たちは僕の言葉を話半分にしか聞かなかった。
しかし、今は僕の話を真剣に聞いてくれている。コーヒー業界における僕の存在感がそれほどにまで大きくなったと自分でも分かるくらいだ。英語圏やヨーロッパ圏でアジア人が差別を受ける光景を目の当たりにする。だが僕はどこへ行っても神様のように扱われていた。特にこれからバリスタを目指す人やコーヒーファンからは敬意をもって接してもらえるようになった。
それこそ、まるでトップアスリートのような感覚である。いつかは僕以外のバリスタもこんな風に接してもらえるよう、バリスタの地位を向上させていきたい想いがより一層強くなった。
しばらくの間、エアロプレスの練習に明け暮れた。
「……このコーヒー、凄く美味しいです」
「だろ。こういうコーヒーはゆっくり注いで、ステンレスフィルターで抽出した方が美味くなる」
挽いた豆をエアロプレスにセットし、90度の熱湯を40秒かけて120グラム注いでから撹拌用の竹べらで優しく10回混ぜ、キャップを閉めてから1分待ち、フリップして30秒かけてプレス。
抽出後のコーヒー液に、お好みで少し熱湯を足してもいい。
注ぐところがゆっくりで、ちょっと練習が必要だけど、慣れれば全く問題ないし、優しく混ぜ、優しくプレスという、とことん基本に沿ったレシピだ。少ない粉でいかに成分を出し、雑味を出さない工夫がされており、粉量多めのバイパスを避けているため、家でも気軽に試せるのが利点だ。
ペーパーもいいけど、コーヒーの種類によってはステンレスフィルターの方が良い場合もある。より雑味感が少なく、リッチなテイストが楽しめる種類を選ぶのがベストだ。
伊織のお陰もあって、コーヒーに最適なレシピを大会直前に完成させた。
大会当日、朝早くからWACが開幕する。
日本からも大勢の客が押し寄せてくる。その内の何人かはJACに参加していた人だ。
大会のルールはJACと同じく3人1組のトーナメントだ。61人もいたナショナルチャンピオンも、1回戦が終了すると共に40人も減ってしまった。1人だけシードで2回戦に進出し、これで残るは21人となった。ここで僕とジョージの対決が実現する。結果は僕の勝利だった。
残り7人となり、その内の6人で準決勝が始まった。僕は運良くシード権を手に入れ、戦わずして決勝進出を果たした。決勝の舞台には、僕、アメリカ代表、ベラルーシ代表の3人を残すのみなった。
決勝が始まると、僕は今まで以上に集中した。
辛抱強く、ゆっくりと確実に。これがエアロプレスから得た結論である。まるで時間が止まったかのような状態が続き、観客の声援が聞こえないくらい無心になってエアロプレスコーヒーを淹れた。
そして――。
「今年のワールドエアロプレスチャンピオンシップ優勝は……日本代表、アズサーハーヅーキー!」
最後は司会者に腕を持ち上げられた方が優勝という演出で、見事に腕を挙げてもらい優勝した。
優勝トロフィーは木製の土台に黄金のエアロプレスが乗ったものだった。
大会はかなり進行が速かった。一度に大勢が脱落するトーナメントだから当然だ。まだ夕方すら迎えておらず、しばらくは会場で交流会を行っていた。
「あず君、優勝おめでとうございます」
「ありがとう。このトロフィーのデザインめっちゃ好きだから、欲しかったんだよなー」
「結局、最後まで全部、あず君のコーヒーだけ選ばれ続けましたね」
「安定して同じ美味さを出し続けるのって、そんなに難しいか?」
「難しいですよ。あず君の集中力が化け物なんです。あれだけ緊張感のある舞台で、平然とコーヒーを淹れ続けるなんて、精密機械顔負けですよ」
「僕にはコーヒーしかない。だから必死になるしかなかった」
「今はコーヒーで全てを手に入れてるじゃないですか」
伊織の言うことはもっともだった。1つの分野を究めることであらゆる道が開かれた。
自分とつき合いたい人とだけつき合い、好きなことだけやっていてもいいと気づいた。
日本では僕の生き方に感化され、不登校になる生徒が後を絶たない事態となっているが、そこで何もしないようであれば、惰性で通学しているのと変わりない。何か1つでもいい。夢中になれるものを見つけて没頭してみろ。世界は開かれている。チャンスも飽和している。後はそれに気づくだけだ。
こうして、シドニーでの戦いは、幕を閉じたのであった――。
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