228杯目「独立大作戦」
10月上旬、僕は早速行動を開始した。
千尋からバリスタの仕事を取り上げられないようにするには、取り引きが中止になっても村瀬グループが利益を損ねないようにする必要がある。まずはお見合いを乗り切ってもらおう。
お見合い相手に彼女がいることを告げる必要はない。誠意を込めて詫びることを千尋に進言し、取引中止の場合は次の手を打つ。千尋にはお見合いを受ける代わりに場所を指定する権利を貰うよう交渉させることに。お見合い場所は葉月珈琲岐阜市本店、つまりうちでのお見合いになるわけだが、村瀬グループの状況を把握しやすい。特別に日曜日を貸し切りの状態する。この時営業をするのは僕と璃子のみだが、真理愛は以前から千尋と話している内に村瀬グループの酒を気に入り、この酒を使ったコーヒーカクテルをバリスタオリンピック選考会で使うことに。
ある計画を考えた。千尋独立大作戦だ。真理愛を駆け引きに使うのもどうかと思うが、こればかりは苦肉の策だ。千尋の将来が懸かっているのだから尚更だ。これさえ乗り切れば何とかなる。
お見合い当日、正装を着た千尋がうちにやってくる。
髪を後ろにまとめ、男らしい姿で現れたが、髪を切っていないことからも信念が窺える。
ていうかめっちゃ可愛い。千尋ってやっぱイケメンだな。
「ねえ、ホントに大丈夫なの?」
「ああ、心配すんな。まずは自己紹介をし合って、お見合いが終わって落ち着いたところで、しっかりとお見合い相手に詫びることだ」
「本当は親父が謝るべきだと思うけどね」
「千尋が詫びるのは、交際を断る部分であって、既に彼女がいることを知りながらお見合いを強行した件は千尋の親父が詫びるべきだ」
「まあそれはそうなんだけどね。相手は杉山景子っていう人で、うちのお得意様でもある杉山グループの社長令嬢だよ。何年か前に会ったけど、なんか可愛いからってだけの理由で凄く気に入られたんだよねー」
「タイプじゃないの?」
「それがさー、僕より年上のくせに言動が小学生なんだよねー。滅茶苦茶我が儘だし、嫁ぎ先が絶対苦労するだろうなって思ったわけ」
「明日香の方がずっと良い女ってわけか」
「あんなのと比べたら失礼だよ。明日香は美容師なだけあって凄く気遣いができるし、今日も明日香のいる美濃羽美容室に行って、髪を整えてもらったんだよねー。お見合い相手には、丁寧に断っておくって言ったら、安心してくれたよ」
「やっと覚悟ができたか」
僕はホッと胸を撫で下ろした。千尋にもそれなりの度胸があって安心した。
しかし、現実はそう甘くはなかった。早い内にお見合い相手らしき人物が入ってくる。
「あっ、ちーちゃん。久しぶりー」
馴れ馴れしい声が聞こえると、たった1人で待ち合わせ場所である葉月珈琲に意気揚々と入店する。どうやらこの人で間違いなさそうだ。お見合いの時間まではまだ余裕がある。
親と一緒でないということは、恐らく1人暮らしである可能性が高い。
「えっ、まだ早くないですか?」
予想外の登場に千尋が目を大きく見開いた。背は低めでおかっぱ頭、可もなく不可もなくって感じのルックスで痩せ型だ。年よりもずっと幼い印象であり、一目見ただけで、何故千尋が拒否したのかが分かってしまった。彼の好きなタイプは明日香のような大人の女性だ。千尋と同様お見合いに相応しい格好で登場し、綺麗なお嬢様っぽい衣装から肩を出している。寒くないのだろうか。
「そっちだってここにいるじゃーん。あっ、あず君ですよねー。私、杉山景子と申します」
「お、おう」
何だこいつ。やけに馴れ馴れしいな。人との距離感がまるで分かっていないようだ。
「ちーちゃん、今日はよろしくね」
「その呼び方、やめてくれませんか?」
「えー、どうしてー」
「馴れ馴れしいです」
千尋が呆れ顔で言った。あからさまに嫌々オーラが顔に出てしまっている。最初からお見合いに向き合う気がないと言わんばかりだ。すぐ顔に出やすい性格が仇になる前にどうにかしないと。
「そっかー。やっぱり駄目なんだ」
杉山が半ば落ち込み顔で言った。その暗いトーンからは悍ましいものを感じた。
「えっ、どういうことですか?」
「千尋君、彼女いるでしょ?」
「「!」」
おいおい、何でバレてんだ!? 事前に話したのか? いや、千尋の性格から考えてそれはない。
恐らく杉山グループによるリサーチだ。グループ企業の令嬢というくらいだし、事前にお見合い相手の様子を探っていても何ら不思議ではない。
「あの時から全然変わってないね。ホントに分かりやすい」
「もしかして、探偵を雇ってたんですか?」
「どうしてそう思うわけ?」
「僕が東京まで行った時、全く同じ車がいつもさりげなく後ろにいたので」
「ばれてたんだ。流石は天才君」
「探偵を雇うなら、もっとうまい人を雇うべきでしたね」
やっぱりそうか、千尋も気づいていた。グループの子息が相手のリサーチをするのがごく当たり前ってことは、村瀬グループも当然同じことをしていたんだろう。
同じ手口を使う者同士だからこそ、自らへの偵察には敏感だ。
「千尋君の彼女、結構美人だね。とても性格の良い美容師さんだった。私もこの前明日香さんに髪を切ってもらったの。今あそこ、赤字なんだってね」
杉山が何やら意味深な笑みを浮かべ、ゲスい顔で千尋に呟いた。
千尋はハッと我に返った顔で冷や汗をかいている。
「――何でそれを分かって、お見合いを引き受けたんですか?」
「千尋君の答えを聞きたかったから」
「答えはもう決まってます。だから僕のことは……」
「あの美容室、潰しちゃおっかなー」
あっ……これまずいやつだ。こいつ、小夜子と明日香が開いた美容室を天秤にかける気だ。この言葉に彼女の諦めの悪さが現れていた。悪女の策略に頭で対抗するのは至難の業……どうする?
千尋は明らかに戸惑っていた。彼の心の枝が今にも折れかかっているのが僕には分かる。
「何でそんなことするんですか?」
「私はねー、気に入ったものは何でも手に入れないと気が済まないの。ましてやお店を支えるので精一杯なところの貧乏な娘さんに相手を取られたなんて、私の面目丸潰れになるの分かんないかなー?」
「あなたはそもそも土俵にすら上がってないんですから、取ったも取られたもないですよ」
「いずれにせよ、このお見合いで千尋君がOKの返事をしなかった時は、私たちは村瀬グループとの取引を全部中止にして、彼女さんのお店も潰すから」
こいつの目、かつてのナチ野郎と同じ目をしている。
一応調べてみたが、杉山グループは名古屋を拠点とするホテル事業グループであり、同郷の村瀬グループを得意先としている。関西では居酒屋チェーンも営んでいる。
名古屋市を拠点にホテル事業に携わっていた虎沢グループが崩壊したことで、ライバルがいなくなったことを皮切りに、全国的に勢力を伸ばし続けている企業版織田信長である。当然、それだけ事業が大きくなっているのであれば、取り引き先には困らない。村瀬グループを切り捨てたところで、何のダメージもない。それを分かり切った上で今後の取引を悪魔の天秤が千尋に重く伸し掛かっている。
「どうしろって言うんですか?」
「明日香さんにお別れのメールを出した後で彼女のメアドを破棄して。それからお見合いの後で、私との交際を宣言をしてくれたら、ここまでのこと全部に目を瞑ってあげる」
「……明日香には……手を出すな」
「うん、約束する」
憎しみに満ちた千尋の目から出た涙が頬を伝う。ポケットのスマホに手をかけたその時だった。
「あの、そういうの良くないと思います」
「「「!」」」
悲しそうな顔で杉山に声をかけたのは璃子だった。
前にもこんな光景を見たことがあるような気がする。デジャブ?
優れた感受性により、相手の気持ちが手に取るように分かる璃子にとって、あからさまに悪意を現わした彼女の心底を理解するのは造作もないことだ。
「千尋君が嫌がってることすら分からないあなたが彼と結婚しても、まず幸せにはできません。あなたは千尋君を好きなんじゃなく、単に支配したいだけのように見えます」
「じゃあどうやったら千尋君とつき合えるわけ?」
「もう勝負はついてます。探偵を雇っているなら気づいているはずです。千尋君は明日香ちゃんと駆け落ちしようとして、一緒にホテルに来ていたんだと思います」
「えっ、何で知ってるの?」
「お兄ちゃんが同じ部屋に明日香ちゃんがいるって言ってたから。たとえ恋人であっても、サポーターをするだけだったら、関係を疑われないよう別室にするはずだけど、それをしなかったということは、別の目的があったから。ホテルが満員だったからわけじゃないなら、多分駆け落ちかなって」
「……何で私じゃ駄目なの?」
「だって子供っぽいし、馴れ馴れしいし、人としての温かみが感じられない」
「だとよ。村瀬グループとの取引を中止するのはそっちの自由だけど、明日香は千尋の正式な恋人であると同時に、僕のお得意先でもある。もし彼女に何かあれば、僕は世界中のファンに呼びかけて、君がいる杉山グループを全力で粉砕する」
剣には剣を、脅しには脅しだ。今や僕のファンは世界中に1億人以上もいるんだ。この影響力をもってすれば、グループ企業を潰すまではいかなくても、揺さ振りをかけるくらい造作もないことだ。できればこんなことには使いたくはなかったが、千尋と明日香の未来を守るためだ。相手を貶めるためじゃなく、何の罪もない仲間を助けるためだ。これは正当防衛の範疇だ。
だが人としての温かみがないという台詞が、千尋の口から出てきたことには驚いた。
こんなことが言えるあたり、単に頭が良いだけじゃない。スーパーコンピューターではなく、あくまでも人間であることに感心すら覚えた。計算だけの人間には……まず言えない理由だ。彼は自らのグループ企業が心を失いつつあることを察知し、見限るようにうちへとやってきたのだから。
「――分かりました」
呆れたように言いながら、ポケットから赤いスマホを取り出す杉山。
「あー、お父さん。私さっきまで千尋君と会ってたんだけど、お見合いやめにするね。無自覚に失礼なことばっかりしてくるし、あんなのが跡継ぎじゃ先が知れてる。だからお見合いは中止、村瀬グループとの取引だけど、もうそろそろ潮時だと思う……うん、じゃあね」
杉山は親父と思われる相手と電話を済ませると、スマホをポケットに入れた。
「もうこれで村瀬グループとの取引はおしまい。さようなら、千尋君」
「だからあなたは愛されなかったんですよ」
千尋が言うと、杉山がピタッとその足を止めた。
「何が言いたいの?」
「あなたは何度も見合い話を断られてるそうですね」
「私もリサーチされてたんだ」
「丁度今の彼女と出会った頃、あなたの詳細な情報を知りました。どっちとつき合うかを決めるのに時間はかかりませんでした。決め手になったのは人間性です。あなたが人としての情がある人だったら、真剣に交際を考えてました。でもあなたは父親と同様に、強引な手段を使って事業を拡大していると聞きました。事業は単なるビジネスじゃなく、血の通った人間同士で行うべきもののはずです」
「ふっ、本当に甘い。甘すぎる」
「その甘い人間を好きになった理由は何ですか?」
千尋が確信を突く質問をすると共に、杉山の勢いが止まった。
杉山は己の中にある自己矛盾に気づいてしまったのだ。本当に厳しい人間は甘さを持つ人間を好きにならない。だがさっきまでの彼女は明らかに千尋にべた惚れだった。
人の隙を突くのがうまいな。相手の油断を一瞬たりとも見逃さない。
「仕事とプライベートは別でしょ」
「だったら仕事に私情を持ち込むのもなしにするべきだと思いますけど」
「あなたは私に恥をかかせた。取引中止には十分な理由だと思うけど」
「取引中止ならそれでも構いません。相手ならもういるんで」
「ふんっ、勝手にすれば」
杉山は逃げ帰るように店から出ていってしまった。
千尋はすぐ親にメールを送った。お見合い相手に嫌われてしまい、見合い話が既に破談になったことを伝えると、即行で返ってきたメールにより衝撃の知らせを受けた。
「親父は何て言ってた?」
「破門にするってさ」
「良かったじゃん」
「良くないよ。お見合いが破談になったのはいいけど、うちは大きな取引先を失ったんだよ。どう責任取ってくれるわけ?」
「千尋、あんな連中と手を組んだところで、いずれ向こうの方から切り捨ててくるのが目に見えてる。君もそれくらい分かるだろ?」
「村瀬グループは海外に売り出していく必要があるんだよ。足掛かりを失ってしまえば、後は国内で売っている日本酒の事業が縮小しきるのを待つしかなくなるってのに」
「それなら心配ない」
千尋にこれからの事業プランを説明した。お見合いが無条件破談になるパターン、取引中止になるパターンを見越して次の手を打っていたのだ。無条件破談の場合はしばらく会社から解放され、千尋は無事に明日香との交際を続けられる。取引中止の場合、葉月珈琲の活動を通じて村瀬グループの日本酒を国内外に宣伝し、市場の縮小を回避すると共に海外進出の足掛かりとする。
僕は村瀬グループの日本酒をコーヒーカクテルに使うことを決めている真理愛に目をつけ、事情を話した上で快諾してもらった。これが隙を生じぬ二段構えってやつだ。
「じゃあ、しばらくは宣伝に手を貸してくれるってこと?」
「そうだ。取引先を失った分の埋め合わせだ。ていうかさー、さっきの杉山って奴……ホントに千尋のためだけに来たのかな?」
「他に目的はなさそうだけど」
「まるで振られるのが分かってるような素振りだった。普通振られたらもっと悲しむだろ。でもあいつは顔にも出さなかった」
「最初から契約を打ち切る気でいたってこと?」
「可能性は高い。お見合いが成功したらしたで、目当ての相手と結婚できるし、失敗しても取引中止の理由になる。あの様子だと、遅かれ早かれ、打ち切りにされてたな」
「じゃあ結婚しなくて正解だね」
「千尋、もう安心して明日香とつき合え。でも、必ず明日香のことを守ってやれよ」
「分かってるよ」
千尋がそっぽを向きながら言った。
それにしても、自分の子供を将棋の駒みたいに扱う親なんて信じられねえな。
なんかますます結婚制度がめんどくさいものに思えてきた。まっ、元々は政略結婚なんて言葉もあったくらいだし、同盟の証としての意味もあった。
――ん? 同盟? ……そうか、そういうことかっ!
「千尋、あいつの目的が分かったかもしれん」
少しばかり呼吸を浅くして言った……これは最悪のシナリオに向かっている可能性が高い。
「ホントに?」
「ああ。杉山グループが全国に進出したのって、いつ頃だっけ?」
「確か2015年くらいからだったと思うけど」
「2015年は虎沢グループが消滅した年だ」
「確かそこの御曹司が色々やらかして、最終的にあず君にトラウマを植えつけたことが決め手になって世界中から大バッシングを受けるようになって、不買運動が起きて倒産したって聞いたよ」
「杉山グループが政略結婚という形で、村瀬グループに取り入ろうとした理由は吸収合併だ」
「吸収合併!?」
今や杉山グループは銀行をも超えかねない財力を誇り、世界中に支社を持つ大手ITグループ企業の相川グループに迫る勢いだ。杉山グループが相川グループを超えるには、他のグループ企業を取り込むくらいしか方法はなく、売り上げが下降気味の村瀬グループが標的に選ばれた。千尋と杉山が夫婦となれば共同経営を行う理由ができ、隙を見てから吸収合併をするつもりだった。
「何で吸収合併って分かるの?」
「璃子が言った通り、杉山は千尋を支配したかった。あいつらは政略結婚がしたかったんだ」
「政略結婚?」
「昔、自分の娘を次々と他国に嫁がせた貴族がいて、それで色んな国の皇帝と国王を兼ねることになった大帝国があっただろ」
「ハプスブルク帝国?」
「そうだ。さっき調べたけど、杉山グループの社長には6人の娘がいる。しかも令嬢たちが次々と色んなグループ企業に嫁いでる。肝心の相川グループには嫁げなかったみたいだけど」
「じゃあ、杉山グループはうちを乗っ取ろうとしてるってこと?」
「強引な手段で他社ブランドを取り込んでたし、十分あり得るかもな」
相手にとっては嫁がせてから確実に吸収合併するか、力づくで乗っ取るかの二者択一を迫るためのお見合いだったとしたら、ちょっとまずいことをしたかもしれん。千尋の親父は気づいていたんだ。いずれ吸収合併されるにしても、自分の社名を残すことはできる。
村瀬グループにとって、今日のお見合いが苦肉の策だとすれば――。
隙を生じぬ二段構えをしていたのは、相手も同じってわけか。
「じゃあ、これからも邪魔してくる可能性があるってこと?」
「可能性がないとは言い切れない。でもこれで千尋が村瀬グループから解放されたのは事実だ。もう何も思い残すことはない。どうしても親父の会社が気になるんだったら、バリスタの仕事を究めてから後を継ぐという道もあるし、どうにでもなる」
「本当に何とかしてくれるの?」
「当たり前だろ。君の迷いは全部僕が断ち切ってやる。その代わり、うちを代表するくらいのトップバリスタになってみせろ。君はそれくらいの逸材だ。せめて明日香を守れるくらいの力を身につけてみせろ。僕もバリスタの世界で1番になったからこそ、こうして彼女と子供たちに毎日快適な生活を提供してやれるわけだし、千尋にはどの道、バリスタで1番を目指すしか道はない」
「他の道を全部潰したのはお兄ちゃんだけどね」
「迷いを断ち切ったと言ってほしいな」
「分かった。バリスタの世界大会を制覇するくらいに腕を磨いてみせるよ。メールを見た限りだと親戚も怒ってるみたいで、帰る家もなくなっちゃったよ」
さっきまで下を向いていた千尋が覚悟の顔に変わり、その首をゆっくりと上げた。
「だから……これからは自分の足で歩く」
「住所がないんだったら、喫茶葉月に住み込みで働け。哲人のおっちゃんと恵梨香おばちゃんには僕から言っておく。店の近くに家があるなら荷物をまとめて店に移れ。これから忙しくなるぞ」
千尋が持っている迷いは全て断ち切ってやる。半ばバリスタの道へ誘導する形となってしまったが、千尋の心は迷いながらもバリスタをやりたいと叫んでいた。僕は背中を押しただけだ。
賽は……投げられた。
経営者になったところで、まともに会社を引っ張っていけるとは思えない。
あんなところにいれば政略結婚に利用されるのがオチだ。千尋も組織には向かない人間だとつくづく思うし、引き籠らせて新しいコーヒーの開発をさせてあげたいくらいだ。
「……うんっ!」
千尋が僕の提案に笑顔で答えた。これからが正念場だ。
その後、千尋は喫茶葉月へと引っ越し、シグネチャーの開発に没頭するのだった。
10月中旬、バリスタオリンピック選考会が行われた。
優勝さえできれば、バリスタオリンピック日本代表が確定する。2位の場合はラストチャレンジへと進出し、数少ない代表枠を他の国の2位通過者と争うことになる。葉月珈琲からは真理愛たちが書類選考に応募し、真理愛と美月の2人が無事に書類選考を通過している。
WCIGSCチャンピオンなら落とす理由がない。
問題は本戦を通過できるかどうかだ。あの長丁場の大舞台に出るのは初めてだろうが、僕よりもずっと体力があるんだから、きっと大丈夫だろう。
ここに、葉月珈琲勢の2連覇を懸けた戦いが、遂に始まったのであった。
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杉山景子(CV:西明日香)




