227杯目「迷いは作らず持ち込ませず」
JBrCが無事に閉幕し、参加者や運営関係者たちが集合写真を撮っていた。
真ん中には土台に黄金のドリッパーが乗った優勝トロフィーを持った伊織がいる。
千尋はそんな伊織を羨ましそうな目で見つめていた。葉月珈琲から2人の国内予選チャンピオンが出たこともあり、うちの名前は世界中に轟いている。
「伊織、おめでとう」
僕は励ますように伊織を抱きしめた。
「ありがとうございます」
伊織が笑顔で礼を言った。特別何かをしたわけではないのだが。
「千尋君、まだ元気出ないんですか?」
「ああ、あれは重傷だ。恋人と別れるかどうかの瀬戸際だし、グループの後を継ぐ場合は、バリスタの仕事だって辞めないといけなくなる。あいつは親の都合で2つの希望を同時に奪われようとしてる」
「お金持ちって、案外辛いんですね」
「まあ人によっては辛いかもな。家を継がないといけなかったり、周囲から嫉妬を買ったり、庶民感覚が欠如したまま、大人になって痛い目見たりするし、決して良いことばかりじゃないな」
「私は貧困から脱出しようとしていたので、なんか複雑です」
「だったら気楽な金持ちを目指せばいいじゃん。そんな奴いくらでもいるし」
「ふふっ、そうですね」
「千尋は僕がどうにかする。だから伊織は何も気にせずに練習してくれ」
「はい、今日の勢いのままJACも勝ってみせます」
伊織がドヤ顔でJACへの意気込みを語った。この顔の伊織も可愛いな。
僕らはホテルでエアロプレスの練習に励み、早めに就寝するのだった。
翌日、JAC決勝の日がやってくる。
この日の参加者は18人であるため、割とすぐに終わるのが幸いである。ホテルから会場へ向かい、そこで対戦の組み合わせが張り出されるのを待った。
早速1回戦の組み合わせが発表され、僕と千尋ともう1人のバリスタ3人が公表された。
「げっ! いきなりあず君と当たるってありぃ~! はぁ~、ついてない」
「何言ってんの。うちの一員だったら、僕を超えるくらいのつもりでやってもらわないと」
「バリスタ競技会でずっと無敗だった人に言われてもねー」
「僕だって予選とかだったら、ギリギリ通過とかよくあったぞ。そのたんびにこのままじゃ駄目だと思って創意工夫を繰り返してきた。油断なんて微塵もなかった。たとえ自分以外の全員が、お祭り気分で参加していたとしてもな」
「全力を出すことに慣れてる人は違うね」
「手加減する方が難しいっての。だから君が困っているからと言っても、一切手は抜かない」
「願ってもないことだよ」
しばらくして運営スタッフに呼ばれ、僕らは観客を前にして試合を行うことに。
1回戦が始まると、昨日までと変わらぬ動きでエアロプレスを使いこなし、レシピ通りの動きを忠実に再現した。8分以内に1杯のコーヒーを淹れると、ジャッジのいるテーブルまで丁寧に運んだ。
「なんか緊張してきた」
審査の途中で隣にいる千尋が話しかけてくる。
「僕も緊張してるぞ」
相手が千尋なら負けてもおかしくはない。
「身内同士の潰し合いがあるとは思ってたけど、こんなことを考えちゃう内は駄目なんだろうなー」
「千尋、後でお見合いの件、もうちょっと詳しく話してくれ」
「それはいいけど、何で?」
「お見合いをうまくやり過ごす方法を考える」
「それは僕の問題だよ」
「何言ってんだ。うちの一員である以上、うちの問題でもある。それに僕としても、トップバリスタ候補生をそう簡単に手放したくはない」
「……」
審査が終わり、最も美味しいコーヒーが指差された。
3人のセンサリージャッジが指差したのは、僕の淹れたエアロプレスコーヒーだった。
観客から一斉に歓声が沸き起こると、準決勝進出にホッとする僕とは対照的に、ぽかーんとした顔で千尋が下を向いている。彼のコーヒー抽出には迷いがあった。コーヒーを淹れる時は迷いを持ち込んではいけない。一心不乱に無心となって淹れなければ、本当に美味しいコーヒーは淹れられない。
ここぞの集中力、それが彼の課題であることが浮き彫りとなった。
JBCの時と同様、まだ舞台慣れしてない様子だった。
ポテンシャルはあるが、経験が足りないと感じた。
「千尋、二度とバリスタ競技会に私情を持ち込むな。それで良い結果を出した奴は1人もいない」
千尋には警告とも注意喚起とも言える言葉を放った。
「――バレてたんだ」
「昨日までの千尋はもっと楽しそうにコーヒーを淹れていた。でも昨日の練習中はずっと落ち込み顔だったし、前々から思ってたけど、思ったことが顔に出るタイプだな」
「だってさ、もう21世紀なのに……好きな人と別れさせられて、親が決めた人と結婚させられるなんておかしいよ。JBCで優勝すれば……お見合いがなくなるって思ってたのに」
千尋は僕に聞こえるくらいの小さな声で言いながら涙を流した。
思いっきり目を瞑る顔にかつての自分を重ねた。僕もかつては親に人生を決められ、危うく僕に最も合わない道を歩かされるところだったし、彼の思いも多少は理解できる。
「多分JBCで優勝したとしても、どの道お見合いはさせられていたと思うぞ」
「何でそう思うわけ?」
「それが昭和の親だからだ。子供の都合なんて微塵も考えちゃいない。それに優勝したところで、取引先に迷惑になるような展開を考えるとは思わない」
「じゃあどうすればいいの?」
「僕だったら今の彼女とつき合ったまま、お見合いをしてから徐々にフェードアウトする」
「取引中止になったらどうすんの?」
「そんなの知るか。自分の人生と親の会社、どっちが大事なわけ?」
「……」
この質問は千尋を悩ませた。恐らく千尋自身が最も自問自答しようとしながらも、答えられなかった質問であると思われる。行く行くは後を継ぐ御曹司に裏切るようなマネをされたら、多分うちにも火の手が回るだろう。だが彼は倫理観も併せ持った良心的な男だ。うちに迷惑をかけまいと自己犠牲をしないとも限らない。そんなものは余計なお世話と言いたいところだが、そういうわけにもいかない。
一見自分勝手に見えて、本当は凄く優しい。
給料が変わらないのを分かって新メニューの開発を引き受けたと小夜子から連絡が来た時点で、将来出世する器だとすぐに分かった。自ら負担の重い仕事を引き受ける責任能力と度胸の背景には、他の人の負担を和らげたい気持ちや、人の上に立つべき人間としての心構えがあった。ただ仕事ができるだけでは駄目であることを知っている。だからこそ、僕は彼を輝かせてやりたいと思ったのだ。
「バリスタとはどうあるべきか、そこでちゃんと見とけ」
彼を観客席に座らせ、準決勝へと駒を進めた僕はそこでも同様の手順で1票も渡すことなく勝利し、決勝進出を早々と決めた。準決勝に残ったのは6人であったため、決勝進出者2人が決まった後、残りの4人が敗者復活戦に望みを託す。敗者復活戦で勝った1人が3人目のファイナリストだ。
1組目で僕が勝利し、2組目で伊織、お袋、美月の3人が当たった。
この時点で葉月珈琲勢から2人のファイナリスト入りが確定した。だが意外にも、この戦いはお袋が制した。伊織と美月は敗者復活戦へと進んだ。しばらくして伊織たち4人の敗者復活戦が終わり、無事に勝利した伊織が決勝進出を決めた。この時点で伊織の入賞が確定した。
既に優勝を決めているJBrCと合わせ、連日続けて2つのバリスタ競技会で入賞したのは伊織が史上初である。同じ年に2つのバリスタ競技会で入賞した最初の記録は僕が2009年にJLACとJCTCで優勝した時である。
伊織は同じ年の複数大会入賞の最年少記録まで更新し、同じ年に3つのバリスタ競技会で入賞してしまった。これも史上初の記録である。明らかに僕の予想以上の早さで成長している。まるで大型恐竜の成長を見守っているようで、恐怖が全身を駆け巡り震えが走る。
いいぞ、もっと僕を怖がらせてくれ。ここんとこ張り合いがなくて、ずっと退屈してたんだ。
「あず君のお母さん、結構強いですね。でも何だか凄く楽しそうです」
「お袋は結果なんて微塵も気にしてないよ。コーヒーを心底楽しんでる」
「まるでいつもお店にいる時のあず君みたいです。真剣に楽しんでます」
「真剣に楽しむのは本当に難しいぞ。真剣にやるとストレスたまるし、プレッシャーもかかる。だから最初は真反対の意味だと思ってた。でも優勝を決めた時は心底から笑えた」
「私もそんな風になりたいです」
彼女の志は無尽蔵と言えるところにまで到達していた。
アーティストというよりはアルチザンと言えるタイプだ。感覚に頼る僕とは異なり、精密さをどこまでも追及する。ドリップコーヒーの技術では僕を上回るくらいの勢いだ。
お袋はこの2つのタイプを併せ持つ複合タイプと言っていい。
僕、伊織、お袋という、全く違うタイプの3人が決勝に残った。誰が勝ってもおかしくない。
試合開始の合図を行うと共に僕らは一斉に動く。決勝の舞台に立つ全員が今まで以上に集中し、観客から見ても時間が緩やかに進んでいるようだった。
8分以内に全員が全く違う淹れ方で、エアロプレスコーヒーを淹れ終わった。
「第3位から発表します。第3位は株式会社葉月珈琲、葉月珈琲岐阜市本店、本巣伊織バリスタです」
伊織が頭を下げ、拍手喝采に包まれた。平静を装った顔には悔しさが滲み出ていた。準優勝が確定した僕ら2人に間に司会者が入り、僕とお袋の手を握った。司会者が手を挙げたバリスタが優勝となる。
そして――。
僕の手が司会者に上げられ、会場の歓声が大きく湧いた。お袋は僕を見ながら拍手を送り、僕は嬉しさのあまり、司会者に手を握られたまま、もう片方の手でガッツポーズを決めた。
「ジャパンエアロプレスチャンピオンシップ優勝は……株式会社葉月珈琲、葉月珈琲岐阜市本店、葉月梓バリスタです。おめでとうございます!」
会場の熱狂ぶりが最高潮に達した。まるでみんな自分のことのように喜んでいる。
この暑苦しい空間のせいで溶けてしまいそうなくらいに。
JACはこれでお開きとなり、少し遠くにある別の会場ではJBrCを始めとした競技が行われているところだった。僕は1位と書かれた黄金のエアロプレスを、お袋は2位と書かれた銀色のエアロプレスを、伊織は3位と書かれた銅色のエアロプレスを持っている。どれも筆記体で順位が書かれているトロフィーだ。この優勝により、僕は11月にシドニーで行われるWACに出場することに。世界大会までの間隔が短いのは本当にありがたい。
伊織は来年の4月にボストンで行われるWBrCに出場することが決まった。
心配だし、サポーターとしてついて行こうかな。
伊織の留学はしばらくお預けとなった。まるでモラトリアムを欲するかのような形での優勝となったわけだが、それは彼女自身が迷っていることの暗喩かもしれない。
「はぁ~、負けちゃいました。でもあず君と初めて一緒に参加できたのは嬉しかったです」
「僕も伊織と参加できて嬉しかったぞ」
「あず君、優勝おめでとうございます」
「ありがとう。またこれで忙しくなっちゃったけど」
「もうあず君に超えられちゃったか」
納得したような笑みでお袋が話しかけてくる。
初出場でここまでやるとは、やはり葉月家の人間は曲者ばかりだ。
何故うちの家が凄腕揃いなのか。それは諸説あるが、個人的には周りと違うことをする分、周囲からの圧力が強いため、圧力を力強く跳ね返す能力が必然的に育ちやすい土壌があるのではないかという説がある。まあ、だからといって学校に行くのが正しいとは思わないが。
「あず君のお母さんは練習してたんですか?」
「練習も何も、毎日コーヒーを淹れてたから、抽出器具が変わったところでやることは変わらねえよ」
「抽出作業自体に慣れてるから、すぐに順応したんですね」
「そゆこと。じゃあ私はもう帰るね。あー、疲れた。帰って寝よ」
お袋が欠伸をしながら立ち去っていく。
僕、伊織、千尋、明日香の4人だけが、この場にポツンと残された。
とりあえず岐阜に戻ろう。とてもカフェ巡りをするような精神状態ではない。何よりずっと迷いを残したままの千尋のことが心配だし、明日香を連れてホテルの同じ部屋で泊めるくらいだ。相当彼女のことが好きなんだろう。明日香も千尋の気持ちに応えようとしている。
タクシーを呼び、4人で岐阜へと戻った。道中は誰1人として一言も喋らなかった。葉月珈琲から3人もの国内予選チャンピオンがいながら、とても祝う気分にはなれなかった。
翌日、店の営業のために1階まで降りると、そこには璃子を始めとした葉月珈琲の面々の他、千尋、美羽、吉樹、美月、俊樹、愛梨までもがその場に揃っていた。
「それじゃー、あず君と伊織ちゃんと柚子ちゃんの優勝を祝って、カンパーイ!」
「「「「「カンパーイ!」」」」」
日曜日で客がいないのにどんちゃん騒ぎだ。うちの1階で美羽主催の祝勝会が行われ、この時の優子たちは、今の僕らを明るく照らす光のようだった。大規模なコーヒーイベントが終わったこともあり、僕らはホッと一息吐いた。カウンター席に座っている千尋と対面した。相変わらずの落ち込み顔、これはまた親との間に確執ができたな。本当に分かりやすい。
「親父は何て言ってた?」
「予定通りお見合いはするって。彼女がいるって言ったけど、さっさと別れろって言われたよ。こっちの気も知らないで、勝手なことばっかり」
「じゃあもう取引中止にしちゃえば?」
「そうなったら、葉月珈琲にも迷惑がかかるよ」
「うちをなめてもらっちゃ困る。それにもしうちが陥れられるようなことがあったら、社長が息子の意思に反して政略結婚を企んでるって暴露すればいいし、昔ならともかく、今はどんな相手でもそれなりに戦えるようになったんだから大丈夫だ」
「何でそこまで自信が持てるわけ?」
「今の僕には世間という味方がいる。敵だった時は本当に恐ろしい相手だったけど、味方の時は実に頼もしい。どんなに大きなグループだろうと、世間にはまず勝てない」
「昨日の敵は今日の友ってわけっすね」
愛梨がエスプレッソを片手に話しかけてくる。
自分の居場所を見つけたことで、性格が少しばかり丸くなったようだった。白っぽいブロンドが原因で将来の就職が危ぶまれていたが、今ではASMR配信者としてそこそこ人気を博している。チャンネル登録者数は10万人を超えており、これならもう食いっぱぐれることはないだろう。
視聴回数だけじゃなく、生放送でのスパチャでも稼いでいるようだ。僕は彼女を引き籠りでも生きていける典型例として度々話題にしていた。僕も少しベクトルが違っていれば、愛梨のような生き方になっていたかもしれない。今後はこういう人が間違いなく増えてくる。愛梨はその先駆者となるだろう。
「そゆこと。誰も僕から希望を奪うことはできない」
「世間に勝った男は言うことが違うねー」
「親にお見合いを迫られるなんて嫌っすね」
「ええっ!? な、なっ、何で知ってるの!?」
「伊織ちゃんに教えてもらったんすよ」
「あの……私、居ても立っても居られなくなって、それで優子さんにメールを送ろうとしたら、間違えて全員宛に送ってしまいました……すみません」
「あはは……そうだったんだ。まあいいや、明日香も覚悟はできてるみたいだし、僕はこのまま結婚させられて……人生終わるんだ」
千尋は諦めかけていた。自分らしい自由な生き方を。
彼が言うには、千尋の親父が近い内に村瀬グループを引退するらしく、急遽千尋を呼び戻して結婚させた上で役員として雇い、中継ぎで代表取締役となった人の後を継ぐプランだ。
あまりにも身勝手すぎる。僕が千尋の立場であれば、殴り合いになっていただろう。
「諦めちゃ駄目ですっ!」
伊織が見た目に反して力強い声で喝を入れるように千尋を叱咤激励する。
「千尋君はあず君みたいなトップバリスタになって、コーヒー業界をリードするバリスタになりたいって言ってたじゃないですか。あれは嘘だったんですか?」
怒りと呆れが混ざった表情で尋問のように千尋を問い詰めた。
「……嘘じゃないよ。でもこのまま取引中止になって、会社の規模が縮小したら、大勢の社員をリストラされることになるんだよ」
「だからどうした?」
「えっ?」
「それと千尋が自分の人生を犠牲にしないといけないことと、なんか関係あんのか?」
「……」
少し考えれば分かることだ。いかに雇用で生活を支え続けたところで、いずれ自分の力ではどうにもならない事態がやってくる。千尋はそんなグループの危機を憂いていた。
それだけグループとのつき合いが長かった証拠だ。役員たちとも仲良さそうだし。
「うちのグループって今下降気味で、国内で売っている酒の売り上げが段々下がってきてるんだけど、取引先の娘さんが僕のことを気に入っちゃって、それで取引先も僕と娘さんとつき合うのが取引の条件だって言い始めちゃってさー。二つ返事でOKしちゃったわけ」
「子供のことを将棋の駒としか思ってないな」
「取引先はうちが海外に酒を売るために必要不可欠で、もしこれがうまくいけば、海外にも出店できるかもしれないんだってさ」
「要は千尋が望まない相手とのお見合いを回避した上で、村瀬グループが赤字にならなくて済むようにすればいいってことだろ?」
「言うのは簡単だけど、そんなの現実的じゃないし、とても無理だよー」
「千尋、無理かどうかはやってみてから言うもんだ」
「そうそう。あず君はみんなが無理だと思っていた偉業を成し遂げたんだから。アジア人からバリスタオリンピックチャンピオンを輩出するのは無理だって言われてた。けどあず君は見事にその逆境を跳ね返したじゃん。一度任せてみたら?」
優子が背中を押すように言った。こういう時の優子は本当に頼りになる。
「こうなった時のお兄ちゃんは、本当に何とかしちゃうから」
璃子も太鼓判を押してくれた。璃子の隣には真理愛が並んだ。
「千尋さん、私も親から人生を規定されかけた時、色々助けていただいたんです。私がワールドコーヒーイングッドスピリッツチャンピオンになれたのもあず君のお陰です」
「伊織ちゃんだけじゃなくて、真理愛さんもなの?」
「はい。私が私らしく生きるためにあそこまで背中を押してくれたんですから、そんなあず君に報いるには結果を出すしかないんです。だから物凄く頑張りました。そしたらいつの間にか、魔法にでもかかったように、自分で考えて行動できる人間になっていたんです」
「明日香と一緒に同じ部屋に泊まったくらいだ。まだ諦めてないんだろ?」
「それここで言うことじゃないよね?」
「どうなの? その程度のことで明日香を諦めんのか?」
「分かったよ! 任せればいいんだろ! でもこれで村瀬グループが倒産でもしたら、あず君には責任を取ってもらうからなっ!」
「任された」
「えっ……」
何故怒らないんだと言わんばかりの反応だ。観念した千尋は遂に押し黙った。
世界大会まで時間はある。その間に千尋を取り巻く問題を解決しておく必要がある。千尋はコーヒー業界になくてはならない存在だ。新しいコーヒーを創造していく上で彼のアイデア能力は欠かせない。
後を継ぐなんてまだまだ早いし、経営者としての才能はあるが、精々参謀役が適任ってとこか。責任は僕が取る。僕は責任能力のないこの国の連中とは違う。
1人の御曹司の運命を分けた……戦いの火蓋が静かに切って落とされた。
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