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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第9章 次世代バリスタ育成編
224/500

224杯目「焙煎対決」

 あの村瀬グループの一人息子だったか。


 こんな可愛い見た目してんのに、とんでもねえもん背負ってんだな。


 千尋が言うには、将来的にグループを継ぐことを親父から期待されるも、それがプレッシャーになりすぎて逃げ出してしまった。まだ酒も飲めねえのに、そんな期待されたら逃げちまうよな。


 ていうか前にもこんなことあったような気がする……デジャブ?


 何でも、学生の時から酒造や居酒屋を手伝っていたこともあり、アルコール以外のあらゆるドリンクを飲んでいたという。その中でも特に気に入ったのが、葉月ローストで購入したゲイシャの豆だった。


 しかも僕が段々と有名になってきている時期であることも手伝い、将来は僕のようなバリスタになることを目指すも、親からは断固反対された。コーヒーと酒は客数を争うライバルであり、コーヒー業界が前進するにつれ、相対的に酒の消費量は減少傾向にあった。


 そうか、だからドリンクの扱いに慣れてるわけか。


 英才教育の影響からか、知識量だけなら東大卒にも引けを取らない。多分、僕がいなかったら有名大学を卒業してグループを背負う典型的な御曹司になっていたのだと容易に想像できる。つまり、彼が家出した原因は僕というわけだ。自分の影響力がこれほどまでに拡大しているのだと、改めて自覚した。千尋ほど賢い人がバリスタの道を選んでくれた。


 これはバリスタの人口が増えていることを暗示しているものであると感じた。


「分かった。留学の件、考えとく」

「じゃあ、約束だよぉ~、あず君。コーヒー飲んでくるねー」


 天真爛漫な笑顔のまま、言い残して去っていく千尋。


 伊織は内心複雑そうな顔でため息を吐いた。理由を聞いてみれば、自分以上に志の高いライバルを見つけてしまったからだった。千尋は今、僕が伊織に言おうとしていたことを自ら懇願した。本気でバリスタオリンピックチャンピオンを目指しているバリスタの目だ。


 あの豊富な発想力は僕も頭が下がる思いだ。


 喫茶葉月のメニューを雑に見た時、オリジナルを再現しながらもちゃんと整った分量と味を実現し、見事に結果を叩き出している。あの盛況ぶりは千尋によるところが大きいと確信する。


「あず君、留学ってどういうことですか?」

「ヨーロッパは基本的に18歳から酒が飲める。つまりコーヒーカクテルを18歳から味見できるようになるから成人する頃には他の人よりも経験を積んでいるってわけだ。日本にいると20歳(はたち)になるまで酒が飲めない。だから葉月珈琲以外からWCIGSC(ワシグス)チャンピオンが1人も出てこなかった。僕も真理愛も18の時にはヨーロッパでコーヒーカクテルを嗜んでいたし、その分経験で優位に立っていたわけだ」

「分かりやすい勝因ですね。でも20歳になってからじゃ駄目なんですか?」

「それだと若い内にバリスタオリンピックを制覇するのが困難になる。やるんだったら若い内が1番優勝確率が高い。ファイナリストも若年化してきてるし、東京大会だと20代のファイナリストが3人いたからな。如何に早い内から経験を積んでいるかが物を言う大会だと、みんなが理解し始めたわけだ」

「なるほど……」


 伊織は不安そうな顔を崩さない。悩んでいたことはすぐに分かった。JBrC(ジェイブルク)が終わった後のことだ。彼女は回答を焦っているようだった。既に競技を終えた後だったのが幸いだ。


 競技に迷いを持ち込むことは許されない。


「伊織、今はJBrC(ジェイブルク)に集中しろ。優勝すれば、決断を先送りにできるぞ」

「言われてみればそうですね」

「分かりやすいなぁ~」

「あず君に言われたくないです。ほら、早く帰りますよ。決勝までいったら必修サービスがあるんですから、今の内に練習したいです」

「流石は伊織、行動が早いな。あっ、そうだ。千尋も誘ってくる」


 僕、伊織、千尋は会場を後にして帰宅する。


 千尋も昨日から新幹線で来たらしく、東京の町を堪能していた。


 さて、伊織も留学するかどうかだが、問題はどこに留学するかだな。一応唯の実家で自習させることもできる。コーヒーカクテルを自習で習得する方法でも動画に載せるか。それならインターネットさえ繋がれば、どこでも疑似的に教えられる。生配信してからアーカイブに残してもいいかもしれない。


 どうせなら千尋も同じ場所で修行させるか。今から連絡しておこう。


 伊織と千尋はタクシーの中で意気投合した。伊織の方が1学年上だが、半年しか差がなく、うちの基準だと同い年ということもあり、すぐに打ち解けていった。


 うとうとしながら後部座席の端で寝ぼけている時だった。


「へぇ~、伊織ちゃんって、結構あず君に気に入られてるんだ」

「あず君は私のためというより、コーヒー業界のために動いてる気がしますけど」

「でも羨ましいよ。早い内から業界のトップに手解きしてもらえるなんてさ」

「じゃあ千尋君もうちに来たらどうです?」

「この前あず君にメールで言われたんだけどさ、栄転の条件が、真理愛さんが独立する時点で結果を出していることなんだよね。だから今年のJBC(ジェイビーシー)で優勝しないといけないわけ。分かるんだよ。試されてるって。サポーターはいらないって言われるくらいには買われてるのかな」

「じゃあ必ず勝ってうちに来てください。待ってますから」

「ふふっ、何そのラスボスみたいな台詞。ウケるんだけど」


 真っ直ぐなのかひん曲がってるのか、よく分からない性格だ。だが気に入った。こいつは自力で困難を克服する術を持っている。グループ企業相手に頭脳戦を仕掛ける度胸があるくらいだ。でも迷った時や困った時は、遠慮なく誰かに頼ることもできる。さっき僕に留学を打診したように。


 この2人こそ、切磋琢磨すべきライバルと言って差し支えないだろう。


 8月下旬、JCRC(ジェイクロック)決勝の日がやってくる。


 決勝は東京で3日かけて行われ、この3日間の『総合スコア』で優勝が決まる。


 1日目は提供された生豆のサンプル焙煎、この競技で使用する焙煎機のテスト焙煎、生豆の品質試験として『グリーングレーディング』が行われる。競技会で使用する生豆は4種類、1つはシングル焙煎用のコーヒー、他の3種はブレンド用のコーヒーが決められた数量が配布される。サンプル焙煎でコーヒーの特徴を捉えて焙煎方法とブレンドの比率を考える日だ。


 2日目は本釜焙煎。前日の内にシングル焙煎とブレンド比率やブレンド焙煎方法を考え、コーヒーの風味特性がどのように引き出されカップへと繋がるかを詳細な『焙煎レポート』を記載して提出する。この焙煎レポートに書いた最高の焙煎を実現するべく、ロースターたちが課題に挑むことになる。


 3日目は前日に本釜焙煎で焙煎した豆でシングルコーヒーとブレンドコーヒーを淹れた後、認定審査員による『カッピング審査』で評価される。カッピング審査の後にそれぞれの競技者が書いた焙煎レポートと実際に焙煎されたコーヒーの風味特性が一致しているかどうかを認定審査員により評価される。この慣れない環境の中で最大限の力を出し、全ての項目の合計得点が高い競技者が優勝となる。


 JAC(ジャック)が終わってからは、この日のために焙煎ばかりしてきた。伊織がカフェ巡りをせずにすぐ帰ろうと言ったのは、僕の焙煎練習の時間を少しでも伸ばしたかったためである。数あるバリスタ競技会の中でもかなり異色であり、焙煎したコーヒーとレポートの提出だけでプレゼンはない。


 ある意味1番楽だが、優勝の難易度は歴代トップクラスだ。


 ――決勝1日目――


 前日に東京まで来ていた僕は、この日になって久々に親父と合流した。


 サポーターはいない。この日から3日間は自分の直感と技術だけが武器だ。サンプル焙煎とグリーングレーディングを終えた後、カフェでエスプレッソを飲みながら休憩中の僕に親父が話しかけてくる。


「練習はしてきたか?」

「誰よりもな。親父には聞く必要ないか」

「俺はずっと前からロースターを目指してきた。お前のお陰で夢が叶った。多分、先代も向こうで喜んでるだろうな。でも手加減はなしだ。俺の人生で……最初で最後の勝負だ」

「お袋も同じことを言ってた」

「俺も陽子もバリスタ競技会を始めるには年を取りすぎた。もう還暦だしな。あず君みたいに、できたばっかの大会に飛び込む勇気も体力もなかった」

「でも今できたじゃん」

「やっと俺の得意分野で勝負してくれたからな」


 親父はうちに転職してからというもの、ずっとロースターとしてやってきた。僕みたいにバリスタを続ける過程でついでのようにロースターをやってきた人間とは違う。決勝の6人に残った中でバリスタの色が強いのは僕だけだ。僕はコーヒーの声を誰よりも敏感に感じ取れるよう、毎日焙煎をし続けた。


 この大会に出ると決めた日からずっと――。


「じゃあお袋はエアロプレスが得意なわけ?」

「いや、陽子は抽出自体がうまいんだよ。お前は抽出器具によってコーヒー豆の種類を変えたり、抽出に工夫をしたりするけど、あいつは難しいことは何も考えないで、ただ感じるままにコーヒーの抽出をしてきた。秘訣なんて何もない。純粋な気持ちでコーヒーと向き合ってきた」


 親父は東京都内を見渡した。親父の言葉には考えさせられるものがあった。


 知識や技術も重要だが、最も重要なのはコーヒーを愛する気持ちだ。この国の連中は目先のことに囚われすぎだと思ってはいるが、僕もまた、目先の勝ち負けに囚われていたのではなかろうか。勝ち負けよりも大事なものはある。だがそれを言っていいのは勝者のみの社会だ。


「俺の友人たちがみんなお前の話ばっかりしてて、耳に胼胝ができそうだった。あず君は何度も大会で優勝してるのに、一向に手を緩めないって感心してたぞ」

「むしろ手を緩める方が難しいだろ。僕にはこれしかなかったからさ」

「普通は胡坐をかいて、自慢して回ったりするのに、お前は全然自慢とかしないからな」

「生憎だけど、僕は普通じゃないんでね」


 のっそりと立ち上がり、ホテルへと戻っていく。


 普通なんてまやかしだ。普通のことが普通にできるのも1つの偏りだし、才能だと思う。


 結局は1番無難そうな奴を普通の基準にしてるだけで、無難に生きてる奴の方が少ない。普通になるってのは、ある意味世界一を究めるより難しい。出る杭は打たれる。だが突き抜ければ何も言われなくなるもので、あーだこーだ言われている内は、まだまだ突き抜けていない証拠なのだ。


 ――決勝2日目――


 焙煎レポートの提出後、シングル焙煎とブレンド焙煎に臨んだ。条件は全員同じである。会場にある焙煎機から前日に選んだ好きなものを使い、2種類のコーヒーを焙煎する。この時の僕はゾーンに入ったかの如く、周囲の雑音が全く聞こえないくらいに集中した。


 コーヒーが最も美味しくなるタイミングを見逃してはならない。コーヒーの声に耳を傾け、感じるままに焙煎を終えた。いつものように焙煎機から茶色に染まったコーヒー豆が出てくると、鼻の中に入ってくるこの香しさを感じた。焙煎レポートの通り、真っ先にフローラルな香りだ。


 コーヒーの声を忠実に再現していると確信できた。しかも今までに扱ったことのある豆だったことも扱いやすかったポイントだ。多種多様な豆を注意深く観察してきた僕だからこそ、コーヒーの風味特性を最も発揮できる焙煎に辿り着くことができたのだ。


 親父もまたコーヒーの声に忠実だ。豆は同じだが焙煎機もブレンドに使った豆も違った。いつもと変わらぬ集中力でコーヒーの風味の変化を敏感に感じ取り焙煎を終えた。ここで明暗が分かれたか。全く同じ焙煎であれば、ビビっていたかもしれない。それこそ、どっちが勝っても全くおかしくない。


 人の数だけ最適解がある。後は審査員の採点で全てが決まる。


 ――決勝3日目――


 遂にカッピング審査だ。この日忙しいのは審査員を含む運営側だ。参加者たちは審査を見守り、結果発表を待つのみ。何もしなくていいのが1番緊張する。シングルとブレンドのコーヒーがドリップコーヒーとして淹れられていくと、あっという間に机の上がコーヒーの入ったカップでいっぱいになる。


 昨日は会場が公開されていたが、今日は観客が1人もいない。観客がいない分、大会としては閉鎖的である。感覚の敏感なロースターたちの邪魔にならないよう、最大限に配慮されたものだと思われる。


 審査が終わると、すぐに結果発表が行われた。


 順位の低い順に1人ずつ名前が呼ばれていき、僕と親父の2人だけが残った。


 葉月珈琲初のワンツーフィニッシュが確定した。


 優勝しなかった方が、チャンピオンの世界大会のサポーターをする約束だが、果たして――。


「今年のジャパンコーヒーロースティングチャンピオンシップ優勝は、株式会社葉月珈琲、葉月珈琲岐阜市本店、葉月梓バリスタです。おめでとうございます!」


 両腕でガッツポーズを決めると同時に、周囲からたくさんの拍手を貰った。


 僕は2019年11月に台湾で開催されるWCRC(ワックロック)に日本代表として出場することとなり、親父は僕のサポーターとなった。この時をもって、ジャパンスペシャルティコーヒー協会主催のメジャー競技会国内予選を全て制覇した最初のバリスタとしてバリスタ史にその名を刻んだ。このことは新聞やニュースで号外記事となり、葉月珈琲の名は更に広がった。


 今までコーヒーに興味を示さなかった人たちまでもが、客として来てくれるようになったのだ。


 コーヒー人気も上がり、カフェの数も大幅に増えていったが、ほとんどの店は3年持たずに消えてしまうだろう。だがコーヒー業界が押し上げられるほどに競争が激化している。ただ時代に追従すればいいというものではない。僕らは今を生きる者として、時代を創る側でなければならない。


 翌日、葉月珈琲で祝勝会が行われた。


 通常の客に加え、身内が何人か参加している。


「あず君、おめでとうございます。ニュース見ましたよ」

「あず君なら、『グランドスラム』を達成できるかもしれませんね」

「グランドスラムって何ですか?」

「メジャー競技会を全て制覇することです。バリスタ競技会は、ワールドコーヒーイベント主催のメジャー競技会が全部で8つあるんですけど、あず君はここまでに6大会を制覇してるんです。残り2つの世界大会で優勝すれば、バリスタ競技会史上初めての偉業なんです」


 真理愛が丁寧な口調で嬉しそうに説明する。伊織は呆気に取られた顔で聞いている。


「そのためにも、ちゃんと指導してやるつもりだ」

「教えられることはもうないと思うけど」

「お前は先代の焙煎技術を継承してないだろ」

「おじいちゃんの焙煎技術?」

「いつか教えてやろうと思ってたけど、お前はずっと別の大会に没頭してたからな。ようやく教えられる時がきた。先代の焙煎技術なら世界が相手でも通用する」

「あー、それなんだけどさ、別の大会が終わるまで控えさせてくれ」

「まだ先は長いけど、来年には始めるぞ」

「分かってるって」


 2つの大会に同時期に出たのは初めてだけど、やってみて分かったのは、面倒であることだ。


 だが不思議とそこまでの苦痛はない。今はようやく大会の1つが終わったわけだし、終わりが見えるまでは、エアロプレスに専念することを決意する。


 9月上旬、最初の日曜日に親戚の集会が行われた。


 今じゃすっかり遅いお盆としてみんな受け入れている。僕は真っ先に美羽の所まで移動する。子供たちはいつもと変わらない様子だ。紫、雅、巻の3人は唯に甘えながら親戚たちに囲まれている。


「美羽、この前とんでもない逸材を見たぞ」

「千尋君のことでしょ?」

「やっぱり美羽が1枚噛んでたか」


 確信した口ぶりで言いながら、1杯のエスプレッソを飲み干した。


 千尋は誰よりも熱心に授業を受け、実技でも他の生徒に教えながら1番の成績を叩き出した穂岐山バリスタスクールの優等生だ。ここを卒業したことで、通常よりも高待遇でうちに紹介された。


「――あれだけ優秀なのに、身内の穂岐山珈琲に紹介しなかったんだな」

「今のあたしは楠木家の人間だから楠木家と密接な葉月家の方がずっと身内だよ。それにあの子、村瀬社長の反対を押し切ってやってきたみたいだし、穂岐山珈琲に紹介しようものなら村瀬グループの一声で簡単に千尋君を差し出すと思ったの。でもあず君なら屈することはないでしょ」

「あっ、それが理由か。てっきりバリスタとして出来上がってるからだとばかり」

「それもあるけど、丁度あず君が米原市に店舗を広げたから、そこにしようと思ったの」

「あいつは最近の若者にしちゃあ、珍しく生きる力に溢れてた」

「すっごく頭良いんだよ。課題の内容を全部一瞬で覚えちゃうし」

「あいつ、喫茶葉月に入った時から、シグネチャーのメニューを独自に開発して、しかもそれを大ヒットさせて、あっという間に人気店にしちまった。あれは店作りのやり方を知っている」

「気に入ったんだ」


 美羽は目の前に置かれているタンシチューを口に頬張った。


 美味しそうに咀嚼しながらも味わっている。


 美羽は美羽なりに千尋のことを考えてくれていたようだ。そういやこの前、帰りのタクシーの中で伊織に愚痴を言っていたのを思い出した。いとも簡単に満点を連発するその学力から、親からも教師からも地元愛知で1番の高校を受験することを勧められたが、彼には既にやりたいことがあった。前々からバリスタの仕事に憧れを持ち、バリスタオリンピック東京大会を見たことで憧れが目標へと変わった。


 早速親と教師に懇願するも、頭ごなしに反対された。学力があるのに高校に行かないのは勿体ないと言われたらしいが、理由になっていない。学力があることと進学することはまた別の話だ。男なのに軍隊に行かないのは勿体ないって言うのと同じレベルだ。何を言っても、それじゃ安定して食べていけないと言いながら、公務員や正社員といった道に誘導するのは如何なものかと思うがな。


 たとえ夢が叶わなくても、そこまでやり続けた努力は無駄にならない。自分で選んでやったことなら尚更だ。美羽はそんな千尋に、かつての僕と同じものを感じたらしい。


「あいつがバリスタを続けたいなら、僕は全力で背中を押すつもりだ」

「村瀬グループは他の企業を飲み込みながら成長していった企業だよ。もし村瀬グループを敵に回すようなことがあったら、あず君の会社もただでは済まないかもしれないよ」

「心配すんな。誰もうちの店を潰せやしない。それに僕なら大丈夫だと思ったからこそ、千尋をうちに託したんじゃねえのか?」

「うん……それはそうだけど……」

「後悔先に立たず。済んだことは悔やむな」

「分かった。じゃあ任せたよ」

「任された」


 メールで千尋にJBC(ジェイビーシー)予選の結果を聞くと、無事に予選通過したらしい。


 コーヒー業界が拡大する傾向とは対照的にJBC(ジェイビーシー)参加者自体は減っており、今は100人程度しか参加しないんだとか。160人分も枠があるのにこの有様か。


 初出場で準決勝16人枠に入れたのは上出来だ。やはりこいつ只者じゃない。向いてるかどうかも大事ではあるが、やはりやりたいことを自由にやらせた方が人は伸びるのだ。


 今度うちに来るよう千尋に伝え、再び業務に戻るのであった。

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