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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第9章 次世代バリスタ育成編
222/500

222杯目「塾を開いた理由」

 どんな勝利も敗北も、全ては過ぎた話だ。


 今できることを精一杯やれ。過去はやがて、未来で輝く大きな力となる。


 桃花はそれを学べる良い機会に恵まれた。勇気を振り絞って挑戦した人は、誰かがちゃんと見ていてくれるものだ。彼女の場合はそれが僕だったというだけだ。


「桃花、次はJBC(ジェイビーシー)だろ。しっかり落ち込んだ後は、ちゃんと切り替えろよ」

「はい。あず君って、結構手取り足取り具体的に教えてくれますよね。穂岐山珈琲にいた時は見て覚えろとしか言われなかったので、とてもやりやすいです」

「見て覚えろって言う人は、言語能力が低いからうまく言えないんだ。要は教えるのが下手なだけで、それ以外だと自分を超えられたくないから、あえて教えないのかもしれんな」

「あず君は自分を超える人が出てきてもいいんですか?」

「むしろ超えてほしいと思ってる。僕という存在をバリスタの限界値にはしたくないし、これからコーヒー業界を背負っていくバリスタには、僕よりもずっと先にある無限の可能性を証明してほしいって思う自分がいる。当分は譲る気ないけど」

「自分に自信があるから教えられるんですね」

「というより、育成するのがコーヒー業界発展の近道だと思ってるからやってるだけ。コーヒー業界に売れっ子芸能人クラスのバリスタが継続的に出てくるようになれば、世界大会の参加者が増える。参加者が増えれば競争が激化して、バリスタという職業が今より注目されるようになるわけだ」


 やがて小学生がなりたい職業ランキングの上位に君臨するようになればしめたもの。


 アスリートやアイドルと肩を並べるくらいになれば、コーヒー業界は大きく前進するだろう。


 コーヒーに人生を救われた身としては、まだまだこんなもんじゃ足りないくらいだと思ってる。一生をかけてバリスタライフを送っていくつもりだ。ずっと彼女に寄り添っていたい。喉を何度も通るほど好きになっていくこの快感、忘れられるはずがない。


「あたし、今から帰ってJBC(ジェイビーシー)のプレゼンの練習をします。じゃっ!」


 桃花が覇気を取り戻し、元気良く手を上げた。


「ああ、お疲れ」

「はい。じゃあまた今度」


 上機嫌のまま、桃花も去っていく。生き残るのは難しいけど、何度も挑戦し続けるだけの情熱があればそれでいい。情熱は生きていく上で最大の武器だ。誰でも持つことができる。


 可能性を捨てちまうなんて勿体ねえよ。


 ――東京予選2日目――


 この日もやることは1日目と同じだ。違うのは参加者のみ。この日は伊織と美月が参加し、僕は2人の結果を固唾を飲んで見守ることに。同じ大会に出ているわけだから、ライバルではあるが、同時に彼女らの監督をしているような感覚だ。成長したその姿を見せておくれ。


 伊織はずっとホテルの自室でエアロプレスの練習をしていた。


 何度やっても同じリズムでコーヒーを淹れられるくらいに動きが洗練されており、いつ如何なる時も動じない心を持っている。コーヒーを何度も淹れ続けていると集中力が育つ。油断すればすぐ嫌な苦味になってしまう。だからこそより美味いコーヒーを淹れようと集中するようになる。


 肝心な時に集中力を発揮できるかどうかはかなり大きい。


 集中が分散している者は何1つ成し遂げられない。


 伊織は1回戦から好調だった。考え抜いたレシピを元に洗練されたエアロプレスコーヒーを淹れた。センサリージャッジの舌を唸らせていく。明らかに伊織のコーヒーを飲んだ時は驚きを隠せずにいる。やっぱ分かる人には分かるんだな。味覚の境地へと辿り着いた者だけが味わえる違いだ。


「「「せーのっ!」」」


 一斉に伊織のコーヒーが指差された。もはやヘッドジャッジの出る幕はなさそうだ。


 美月も順調に1回戦を突破し、奇跡的に両者共ぶつかることなく2回戦を迎えた。伊織はゾーンに入っている。観客が何人いようと関係なかった。彼女の耳には観客の声など微塵も届いてはいない。そんな伊織を勝利へと導くのはこの集中力、もはや心配する必要はなかった。


「「「せーのっ!」」」


 またしても伊織のコーヒーが一斉に指差され、彼女の決勝進出が決定した。


 ホッと胸を撫で下ろした。さて、問題は美月だ。しかも対戦相手はいずれも松野の教え子だ。昔の美月ならここで緊張の糸が切れていたが、葉月ローストでの業務経験がようやく功を奏したのか、エアロプレスを押し込む手がしなやかに見える。松野の教え子たちは本番のプレッシャーに根負けし、予定よりも時間がかかってしまった。時間に余裕がなくなると更に焦り、熱湯を入れた後のコーヒーが温まるまでの待ち時間を数えることさえ忘れてしまっている。美月も決勝進出を決めた。


 葉月珈琲から4人のバリスタが決勝進出を決めたか。思った以上に身内との優勝争いが激しくなりそうだが、そうでなくては面白くない。元々は僕を超えるくらいのトップバリスタを輩出するために育成を始めた。その成果が表れて何よりだ。戦いを終えた2人が僕の元に集まってくる。


「ふぅ、何とか決勝進出を決められて良かったです」

「でもたった6人の決勝進出枠に、葉月珈琲から4人も入るなんて凄いです」

「練習してきたことを練習通りにこなせればそんなもんだ。みんなが寝食を忘れるくらいに没頭してきたからこそ、ここまでの結果を出せたわけだ」

「あず君は満足してませんね」

「決勝進出くらいで満足する人じゃないです。あず君はいつだって世界の頂点しか見ないんですから、私も世界の頂点しか見つめません」


 伊織は僕に負けじと、世界の頂点に君臨することを宣言する。優勝以外は負けだ。勝負の鉄則をちゃんと分かっていて何より。やっぱやると決めたからには、とことん究めるくらいじゃないと。


「でも勝ちに拘るあまり、楽しむことを忘れたら駄目ですよ」

「私やあず君くらいになると、楽しむこと=勝つことなんですよ。ナンバーワンを目指すこと自体が凄く楽しいんです。その分負けた時の悔しさは尋常じゃないですけど、負けた時に悔しさを感じるのは、全力で挑んだ証拠です。負けても死ぬわけじゃないとか言って全力を出すことを恥ずかしがる人がいますけど、そういう人は不完全燃焼のまま悔いを残して死んでいきます。私はそうなりたくないんです」

「……」


 僕の受け売りご苦労さん。でも完全に自分の言葉にできているな。


 美月は思わず苦笑いだが、その通りだから咎めることもできない。東京予選はこれで終わりだ。とりあえず岐阜に戻るか。東京には何度も訪れている。カフェ巡りを何度やっても、新しい店舗が続々と表れるお陰か飽きることがない。それだけ競争の激しい場所なのだ。


「カフェ巡りするか?」

「それは昨日やったので、今日は葉月珈琲塾に行きたいです」

「私はもう少しここに残ります。穂岐山珈琲のバリスタたちと情報交換したいので」

「分かった。じゃあな」


 美月は穂岐山珈琲本社がある方向へと歩いていった――。


 彼女は今でも穂岐山珈琲と交流があり、葉月珈琲との架け橋となっている。穂岐山珈琲は松野珈琲塾と連携し、規模を縮小しながらも結果を残すようになってきた。昔こそ練習量を重視するバリスタが多かったが、今の育成部のバリスタはデータに基づいた競技を行うようになってしまっている。


 バリスタ競技会におけるデータとは何か。それは世界大会ファイナリストたちの傾向である。


 毎年行われる中では最大規模のメジャー競技会、WBC(ダブリュービーシー)に出場する前提で活動を行うものが多いのだが、ここ最近のWBC(ダブリュービーシー)はホスピタリティに優れたバリスタがファイナリストになる傾向が強く、サイエンスに優れたバリスタは準決勝止まりになっている。


 つまり、僕みたいに理科の実験のような競技を行う者が減ってきており、育成部の連中はそのデータを鵜呑みにしたせいか、研究を簡略化するようになり、プレゼン重視の競技を行うようになっている。


 どのバリスタ競技会にも共通するのは、探求心が求められている部分だ。なのにデータ通りに立ち回ろうとして、コーヒーのフレーバーに対する探求心を捨てる構えでいる者が後を絶たない。


 常に新しいコーヒーが求められている中でそれはどうなんだ?


 帰りのタクシーの中でスマホの動画を通して彼らの競技を確認したが、以前よりもコーヒー豆が作られていくプロセスに対する研究の部分が削られており、如何にして客を喜ばせるかというところにフォーカスされていた。新しいコーヒーはもちろん出てきてはいるが、あっと驚くコーヒーではなく、世界大会で結果を残したコーヒーの模倣ばかりだ。


 しかもここ最近のJBC(ジェイビーシー)ではファイナリスト全員がゲイシャを使用し、最高級コーヒー豆の威力が証明される結果となっている。コーヒーの品質がスコアに反映されるため、みんな挙って最高の豆を使っている。それ自体は別に構わないが、そうなってしまえば、当然最高の豆を用意できる大手コーヒー会社に所属するバリスタばかりが、優勢になることは言うまでもない。


 JBC(ジェイビーシー)ファイナリストが毎回同じ人ばかりで、ほぼ全員が大手のバリスタだ。


 大手の後ろ盾なくして結果は出せない。ましてや最高級の豆でシグネチャーを作るとなれば、相当な費用がかかることは言うまでもない。これはつまり、いくらトップバリスタを志したところで、大手に入れなかった時点で、バリスタ競技会で上位に名を連ねることが、ほぼ望めないことを意味している。


 才能があっても新卒で大手に入れなければ、トップバリスタになることは難しい。


 それこそ僕が葉月珈琲塾を開いた理由である。僕がいなければ、恐らく伊織も才能を発揮することはなかった。他にも伊織のようなコーヒー好きの子供を採掘していく意味でも有効だ。10年後や20年後に世界のトップで活躍できるような、第2第3の僕になりうるトップバリスタの卵を探している。


「つまり、葉月珈琲塾の卒業生なら、バリスタ競技会に出たくなった時に本社に声をかけることで可能な限り援助をするという仕組みにするんですね」

「そゆこと。うちの生徒は不登校児限定にしてるから、学校の価値観に染まらないことで、好きなだけ没頭する力を手にすることができる。他の会社のバリスタは、時間割のシステムに慣れすぎた影響で、没頭する力を発揮できずにいる」

「何かに没頭してる時くらい、時計を見ないようにしてもいいですもんね。私はそれでよくお母さんに怒られちゃいますけど、最近は全く気にならなくなりましたね」

「その調子だ。みんなが店の営業をしてる間に、没頭できるかが勝負どころだ」

「生徒の保護者にも没頭するのを邪魔しないように言ってるんですよね?」

「うん。特に上の子は親から干渉されやすいから没頭させてやれって言ってんの。もし親から没頭することを邪魔をされたっていう苦情を生徒から聞いた場合は違約金を請求するって契約書にも書いてる」

「徹底してますね」


 無論、生徒はこのことを知らないため、生徒が親に邪魔をされたと訴えようものなら、それはおおよそ本当のことだ。学校に復帰した場合も同様に違約金を請求する。いくら教育したところで、親と学校がそれを遮ってしまえば何の意味もない。今の学校ほど子供の没頭や生きる力を踏み躙る場所はない。


 それでもうちを頼ってくる保護者が後を絶たないのは学校に人を育てる力がないからだ。保護者たちも学校を信用しなくなってきているし、動画を見たり、検索機能を使っている方がずっと勉強になる。


 早く東京を去ったこともあり、夕方を迎える前に岐阜へと帰宅する。


 何だかんだ言っても、やっぱ生まれ故郷が1番落ち着く。


 葉月珈琲塾の前で降ろしてもらうと、早速伊織と共に生徒たちの様子を見に行った。教室ではエドガールのおっちゃんと京子おばちゃんが仲良しそうに子供たちの面倒を見ながら、コーヒーの淹れ方を教えている。教室というよりは理科室のような遊び場といった感じだろうか。


 周囲の広々とした机には様々なコーヒー抽出器具があり、コーヒーの抽出を行い、おやつタイムで多様なお菓子と組み合わせて飲ませることで、コーヒーマリアージュの練習にもなる。


 特に盛り上がりを見せたのはラテアートだ。子供たちはスチームミルクによって描かれていく絵に心を震わせ、満面の笑みを浮かべている。子供の時の僕もこんな感じだった。昔を思い出すってことは、それだけ年を取ったということだ。ここほど年齢を感じさせる場所はないだろうな。


「あっ、あず君だ!」

「えっ、あず君!?」

「あず君だあず君だ」


 子供たちが授業そっちのけで僕と伊織の周囲に集まってくる。最初はお姉ちゃんと呼ばれることもあったが、長髪=女という固定観念を取り払うのにどれだけ時間がかかったことか。親と学校から植えつけられる固定観念は厄介だ。テレビも常識を植えつける箱になっているし、敵があまりにも多すぎる。


 何でもすぐに信じる子供ならではの厄介さだ。


 彼らは物覚えが良く、まるでスポンジのように知識を吸収していく。吉と出るか凶と出るかは教育次第である。この中から1人でも世界の頂点に君臨するバリスタが現れてくれれば、うちの実績を世に知らしめることができる。葉月珈琲塾の誰かが成果を上げれば、不登校児は確実に増えていくだろう。


「久しぶり。ちょっとはできるようになったか?」

「うん。まだ下手だけどハートは描けるようになったよ」

「良しっ、じゃあ見せてみろ」

「うんっ!」


 ここの子供は不登校児の中でも、コーヒーに対して強い興味を持った子供たちが多く所属している。


 中にはコーヒーに全く興味がない子供もいたが、今は全員ラテアートにのめり込んでいる。


 1番前にいた子供にハートを描かせてみた。まだ10歳を過ぎたくらいだろうか。コンパクトな腕と細長い指を駆使してミルクピッチャーを使い、ぎこちない動きでハートを完成させた。


「どう?」

「ちゃんとハートの形になってるじゃん」

「でしょ?」

「ただ、最後一本線を引く時の速さが足りない。もっと早く押し込んだ方が綺麗なハートになる。零しちゃってもいいから最後の一本線を素早く正確に引くよう意識してみて。うまくなるはずだから」

「うん、分かった」


 子供たち1人1人がそれぞれの課題を抱えつつ、実践レベルに届かないながらも、そこそこ良質なラテアートを描けるようになっている。僕や伊織のようにコーヒー自体が好きな子供は少ないが、コーヒーに興味はなくても、ラテアートを好きになるような子供は意外に多い。


 知識や技術よりも完成した後の絵に惹かれるのは、子供なら当然である。難しいことは分からない。だから最初の印象で興味を持たせ、自分の意思でやってみたいと思わせることが大事なのだ。僕も伊織も飛び入り参加という形になり、子供たちに丁寧な指導を心掛けた。


 自分から指導するのではなく、あくまで相手が求めてきた場合に限る。指導して伸ばすより、自発的な成長の方が百兆倍重要だからだ。自分がやりたいと思って習得したことはずっと覚えているものだ。全員を受け身にさせて、やりたくもないことをやらせるのでは、学校の授業と変わりない。


 ふと、横を見てみれば、1人落ち込み気味の子供が部屋の隅っこで三角座りをしながら、テンションの低い表情が僕の目に映った。まるでいつも教室の端っこで縮こまっている窓際族を思わせる子供は、肩に届くくらいの茶髪のショートヘアーで、花柄のワンピースを着た大人しそうな女の子だった。


「エドガールのおっちゃん、あの子は?」

「あー、あの子は最近入ってきた子で、水野凜(みずのりん)ちゃん。まだ10歳の子だけど、あず君より18歳ほど離れてるかな。普段はずっとああやって端に座ってるんだよ」

「授業は受けさせてないんですか?」

「無理に授業を受けさせる義務はないし、あず君が言った通り、その気がない子には強制してないよ」

「人間の脳はどうでもいいことから忘れていく機能があるから、その気がないのに授業を受けさせたところで、大人になる頃には忘れてるから意味がない」

「それはよく分かります」


 伊織がクスッと笑いながら言うと、部屋の端に三角座りしている凜に近づいた。


「そこで何してんの?」

「……別に……お父さんが行きなさいって言うから」


 おいおい、強制は駄目だっつってんのに、これじゃただの押しつけじゃねえか。


 子供が不登校であることを恥ずかしく思っている保護者がやってしまいがちな行動パターンだ。


 ここはトップバリスタ養成所ではあっても、保育所じゃねえぞ。


「ここは学校から爪弾きにされた不登校の子供が通うバリスタ養成所だ。君はコーヒーは好き?」

「別に。それと私のことは凜って呼んで。ちゃんと名前があるんだから」


 ムスッとした顔でそっぽを向きながら凜が返事をする。


 心が壊れかけている状態だ。余程酷い目に遭ったのがすぐに分かった。


 僕が身内以外の日本人に対して心を閉ざしていた時と同じ目をしている。察する能力なんて、基本まやかしでしかないけど、こういう時の直感は馬鹿にできない。


「分かった。凜、何か困ってることがあったら言ってくれ」

「じゃあ今すぐここを出ていきたいってお父さんに伝えてよ」

「何でここに連れてこられたか、説明できるか?」

「私が家に1人でいるのが、許せないみたいなの」

「それは何でだと思う?」

「不登校が恥ずかしいんだと思う。お母さんと別れてから家が貧乏になって、給食費を払えなくなったせいで私だけ給食を食べられなくなって。家に私がいたら近所の噂になっちゃうから預けられてるの」


 凜が言うには、給食費を払わないことに怒りを示した担任が凜の席にだけ給食を置かないという行為を行い見せしめにした。凜はクラスメイトからいじめを受けるようになり、不登校になった。


 こんな可愛い子を見せしめにしたのか……許せねえ! 給食費を払えないのは、子供の責任じゃない。子供は悪くない。なのに何故子供がそんな目に遭わないといけねえんだよ!?


 腸が煮えくり返った。今にも血管が爆発しそうだ。


「酷い。そんな学校行かなくていいよ」


 さっきから僕の後ろでこっそり話を聞いていた伊織が言った。


「何で泣いてるの?」

「えっ?」


 伊織が自らの頬を触ると、柔らかい皮膚を伝う涙が指についた。


「伊織は人の痛みが分かるとっても優しい子だ。僕も伊織も学校嫌いの不登校組だ。少なくとも、僕と伊織は凜の味方だから、思ってること、全部話してもらって大丈夫だぞ」

「……本当に?」

「ああ、本当だとも。僕と伊織で良ければ力になるぞ」

「……うん」


 戸惑いを見せながらも、少し心を開いてくれた。


 このケースは学校側の責任だ。親に給食費を払う意思があろうとなかろうと関係ない。給食費も授業料と同様に無償化すべきだと思うが、食の確保さえできない時点で終わっている。


 この国には食べきれないほどの食糧があるはずなのに……おかしな話だ。


 事態は思った以上に深刻であった。

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読んでいただきありがとうございます。

水野凜(CV:高森奈津美)

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