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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第9章 次世代バリスタ育成編
215/500

215杯目「雪辱を果たして」

 5月中旬、JHDC(ジェイハドック)決勝の日がやってくる。


 二人三脚で参加することになったこの大会だが、既に3回目である。


 僕はひたすらに焙煎を繰り返し、伊織はひたすらに抽出を繰り返した。


 それぞれの競技会の種目とうまく噛み合い、2人揃って手が動かなくなるまで練習を続けた。辛さを通り越して楽しいという感覚しかなかった。それくらいに没頭していると言える確信がある。うちの仕事はホワイトだけど、練習量はブラック企業でさえ真っ青になるほどだ。


 生きていくための仕事と思い、こなしている人もいるが、うちのスタッフの多くはどこまで高みを目指せるかという次元にいる。あまり知られていないが、うちにはプロ契約制度がある。バリスタ競技会に出場すれば、大会規模に応じたボーナスが発生する。


 2011年以降、うちに入ってくるバリスタは、全員プロ契約で入社する形となっている。


 僕と璃子もファイトマネーを受け取る権利を持っているが、自分で自分にボーナスをあげたところで意味がないこともあり、役員にはファイトマネーの権利がない。


 結局、璃子はこの年のJLAC(ジェイラック)は4年連続決勝進出を果たすも敗退となった。


 2016年から始めた教育部の葉月珈琲塾に入塾する子供も増えた。将来的にうちに入る場合は高待遇でのプロ契約制度の下、入社することになる。教育部にはエドガールのおっちゃんと京子おばちゃんを就職させた。楠木紅茶店は倒産してしまい、このことが後押しとなってでできた部署であった。


 今のところ、最もファイトマネーが多いのは真理愛だ。


 うちではバリスタ競技会のレベルや結果に応じてファイトマネーが決まっている。


 地方規模の大会ファイナリストが5万円、優勝なら10万円、全国規模の大会ファイナリストが10万円、優勝なら50万円、世界規模の大会ファイナリストが100万円、優勝なら200万円である。バリスタオリンピックの場合は事情が異なり、セミファイナリストで100万円、ファイナリストで500万円、優勝なら1000万円となる。これは社員全員に適用されており、親戚たちもファイトマネーの存在を知ってからは積極的に参加するようになっているあたり、年金には期待していないようだ。


 社内予選の機会が増え、バリスタオリンピックが終わってからの葉月珈琲は、年明けと共に会社の規模が大きくなっていった。うちが世界中に持っているコーヒー農園も10種類に増え、葉月珈琲は太陽の沈まない企業と呼ばれるようになった。高級な豆が採れるコーヒー農園を通して国内外の会社と契約を交わすことで、莫大な利益を上げるようになり、経営者としても成功を収めることができた。


 無論、これは璃子の経営手腕によるところが大きい。引き取ってくれと言われて傘下に収めたコーヒー農園が、今やうちの重要な収入源となっている。お陰でこっちは嬉しい悲鳴が続いている。


「松野さんたちも来てますね」

「ということは、まだ教え子の誰かが決勝に残ってるってことだ」

「200人いた参加者も、今は18人ですけど、それでも残ってるんですね」

「多分あの2人だな」

「何で分かるんですか?」

「松野に胡麻をすってるから」

「あぁ~」


 伊織が口を開いたまま頷いた。遠くから見ていても分かる。ああいうのを見る度に、仕事ができる人よりもおべんちゃらを言える人の方が出世するのだと思ってしまう自分がいる。


 今日の伊織はポニテだ。大会の時は決まってこの髪型で準備をする。150センチくらいで皺1つない肌に思わず見とれてしまった。伊織はもう立派な大人の女性なのだ。見た目は幼いままだけど、心はしっかり大人へと成長している。胸は全然成長していない。故に目のやり場に困ることはない。


 ――ん? あれっ、伊織が松野の所まで歩いている。敵情視察とは随分余裕だな。


 しばらくして伊織が戻ってくる。僕は何人かの人に話しかけられていた。


 質問されては答える計算ドリルのような作業を繰り返す。


「何で松野の所まで行ってたわけ?」

「教え子が何人参加してるか聞いてきたんです。そしたら4人いたそうです」

「18人中4人か。世界大会がないとはいえ、松野の教え子もそこそこやるみたいだな」

「でもなんかズルい気がします」

「何でズルいって思うわけ?」

「誰が優勝しても、自分が育てたって言えちゃいますよね」

「いいんじゃねえの。それで松野珈琲塾が有名になれば、将来有望なバリスタの卵が参加しやすくなるんだからさ。でも今のままじゃ、世界はキツイかもな」

「日本一止まりになるってことですか?」

「あのままだったらな」


 大会日に余裕を持って参加できるよう、伊織と共に松野珈琲塾へと赴いた。


 行ってみれば、早速松野の教え子たちに出会い、彼らはトップアスリートに憧れの眼差しを向ける小学生のような目で僕に釘づけだった。本来であれば塾長が最も憧れを買う存在でなければ示しがつかないのだが、案の定早くも松野の面目は潰れていた。


 伊織の発案で行ってみたはいいけど、1番忙しかったのは僕だった。


 次の日が僕の大会日だったら、間違いなく体力切れで負けていただろう。


 松野の教え子たちは仕事が終わってから集合する。休日は1日中塾の中で練習をしている。それぞれのバリスタが出場する予定の大会を想定した練習サポートが松野を始めとしたスタッフの仕事となっている。塾の名の通り、通って修行するタイプか。なら参加者は全員東京かその周辺の人だ。


 ここにいるバリスタの仕事をしている人のほとんどは非正規雇用で働いているアルバイトだ。労働時間が少ない上に、練習もできないバリスタたちに練習場所を提供しているんだとか。練習メニューは僕が投稿した動画を参考に自分たちで組み立てる形式だ。穂岐山バリスタスクールよりも遥かに効率の良い方法で鍛え上げた結果、僅か数年で教え子たちの腕はメキメキと上達していったわけだ。


「どうして日本一止まりなんですか?」

「昨日見ただろ。同じ大会に出場する人に関しては、全員全く同じ練習メニューだった。あれじゃその他大勢から抜きん出るのは難しいな。バリスタによって得手不得手が異なるという前提が頭から抜け落ちてたし、あれじゃ工場製品のような、量産型のバリスタが生まれるだけだ」

「トップバリスタとの違いは何なんですか?」

「まず練習量が少ない。あの人たちって、閉まる時間になったら帰っちゃうじゃん。でもうちは必要があれば四六時中練習ができるし、昨日までの伊織みたいに、うちに泊まりながら時間を気にせず、没頭するくらいの好奇心を保ち続けないと、トップにはなれない」


 伊織は自分のしてきた練習が間違っていないことを悟ったようだ。伊織にも心当たりはある。初参加の時でさえ、予選に全く手応えを感じていなかったのだ。手加減は絶対しないように伝えておいたが。


 四六時中練習したことで、息を吸うようにフレーバーの調整ができる。それが伊織の武器だ。


 大会の時間になると、いきなり伊織の競技が始まった。


 先陣を切る第1競技者だが練習通りにやれば問題ない。いつもうちで着ている制服姿で登場すると、店にいる時と変わらない様子で右手を上げた。


「始めます。私たちバリスタはコーヒーの声であり、それぞれのコーヒーが持つ個性を引き出し、お客様の元へ届ける責務があります。このコーヒーを活かす上で最も効果的な淹れ方をご紹介します」


 伊織はコーヒーの話をしながら、ケトルに入った熱湯をドリッパーの上から注いでいく。


 サーバーへと落ちていくコーヒーを見つめる暇もなく、すぐ2杯目と3杯目にも同様の作業を繰り返すのだが、まるで精密機械のようにコーヒーの量をコントロールしながら嫌な苦味や渋味をカットし、花が咲くような甘味と酸味を抽出していく――。


 その光景には松野たちも思わず静止してしまい、会場の誰もが固唾を飲んで見守っている。伊織のプレゼンは洗練されていた。ただプレゼンをするだけでなく、流れるようにマルチタスクをこなしながらずっと見ていて飽きない作業だったのだ。ここは僕にはなかなか難しいプレゼンだ。


 伊織はマルチタスクが苦手だ。最初こそ苦手意識があったものの、思い込みの部分も大きく、慣れてしまえばもう手がつけられない。ずっと鍛え続けていたスキル。それはマルチスキルであった。才能にさえ溢れていれば、後はこれを鍛えるだけで制限時間内に多彩な技の実践を行えるし、1人で2人分以上の行動力を確保できるのは大きい。時間管理も完璧だし、この時点で伊織の優勝を確信した。


 去年までの伊織はもういないのだ――。


 みんなが魅了されている間に3杯のコーヒーをセンサリージャッジに提供する。


「私はコーヒーが持つ可能性を引き出し、それを多くの人々に伝えていくことを誇りに思っています。それが私たちバリスタの意義であると考えています。終わります」


 終わりの合図と共に右手を上げると、会場からは惜しみない拍手と声援が彼女に降り注いだ。


 伊織という名の蛹は、ここにきてようやく成虫と化した。どれほどの完成度かと言えば、今の伊織と同じ大会に出場するのが嫌になるほどだ。他のバリスタたちにとっても、彼女は大きな壁として立ちはだかることになるだろう。伊織のインタビューが始まるが、司会者は伊織にメロメロだ。


「いやー、あまりに洗練されていたので、しばらくは余韻に浸ってましたよ」

「ありがとうございます」

「コーヒーの抽出に正解はないと仰っていましたが、毎回コーヒーの種類やコンディションに応じて抽出方法を細かく変えるということですか?」

「はい。まずはコーヒーのフレグランスや見た目から状態を判断して、抽出する時間や熱湯を注ぐ量を調整することで、状態の良いコーヒーを淹れることができます。でもこのやり方はかなり訓練しないといけないので、誰でもできる抽出メソッドを開発中なんです」


 誰でも最高のコーヒーが淹れやすくなる抽出メソッドか。


 僕でも未だにできていない。コーヒーと水の質を変えることで可能な限り純度の高いコーヒーを淹れるというならともかく、高級な豆や超軟水を使わずに最高のドリップコーヒーの再現に挑戦しようとしているのだから驚きだ。歴代チャンピオンたちの抽出メソッドを参考にしていることからも、伊織がいかに研究熱心であるかが分かる。彼女はまだ誰も発見していない未知の領域を目指している。


 正解のない問題を解く能力ばかりか、問いを作る能力まで磨かれていた。伊織の競技のクオリティに恐れ慄いたのか、伊織の後で競技を行っているバリスタたちはどこかぎこちない様子だ。


 インタビューを終え、片づけを済ませた伊織が僕の元へと戻ってくる。


「お疲れ。もうコーチとかいらないんじゃねえのか?」

「そんなことないですよ。私にはあず君が必要なんです」

「この競技に限って言えば、文句のつけようがなかったけどな」

「大会で実際に競技をこなすよりも、練習の方がずっと辛かったんですけど」

「本番より辛い練習は基本だ。想定外の事態にも対応できるし、余裕を持って競技に臨める」

「じゃああの練習は、本番で緊張しないための練習なんですね」

「緊張しないのは無理だ。だから緊張を楽しむ訓練をする。メンタルを鍛えるだけでもだいぶ違うぞ」


 松野と根本が合流する。教え子たちはすっかり委縮してしまい、あまり大したことのない競技になってしまっている。松野はまだまだだなと言いながら放心状態だ。まだまだなのはあんたの教育方針だ。


「――よくあそこまで育てたな」

「僕はほとんど干渉してない。あんたの教え子だけど、実力以前にまずメンタルから鍛えた方がいいと思うぞ。大会は自分との戦いでもあるんだからさ」

「本巣さんはどれくらい練習してたんですか?」

「寝てる時以外は全部練習に費やしてた。うちには閉店時間はあっても帰宅時間はないからな。帰りたい奴は帰ってもいいけど、時間通りの練習をするようなら、もう伊織には勝てない」


 松野たちにも伊織の圧倒的な練習量を伝えた。目が点になったまま2人はぽかーんとしている。納得がいくまでやり続けることを覚えないと、時間を決めて練習するんだったら学校の授業と変わりない。松野珈琲塾に来たからと言って、その時間帯に必ず練習する気があるとは限らない。


 平日だけどやる気なし、休日だけどやる気あり。そんな状態になるのも人間だ。予め決められた時間を過ごすんじゃなく、今何がしたいかをその場で決断し、納得するまでやり続ける方が伸びるのだ。


 伊織に至っては家でも練習ができるよう抽出器具を提供したわけだし。


「葉月が塾長だったらどうすんだよ?」

「僕だったらいちいち塾まで呼ばない。家で練習できるようにするか、塾を常時開放状態にして、全部の抽出器具を使い放題にする」

「そこに住むようになったらどうすんだよ?」

「いいじゃん別に。むしろ塾に住むくらいの執着がないと」

「はぁ~」


 松野は思わず息を吐いた。何故練習量に差がついているのかに気づいたのだ。


 僕や伊織みたいに、やる気の有無に関係なく練習ができるならともかく、やる気がある時しか練習ができない人の方が多いのだから、やる気が出た時、すぐ練習ができるような環境を整えるべきだ。


 トップバリスタには共通点がある。コーヒーを淹れられる環境が整っている。


 家にエスプレッソマシンを置いている人も少なくない。だがエスプレッソマシンは一般の人には高すぎるため、自由解放された場所に置いておく必要があるのだ。松野珈琲塾は朝9時から夕方9時までなのに対し、うちは社員と塾生限定で1日中店を開放している。


「松野さん、葉月社長の言う通り、このままだと……誰も本巣さんに勝てなくなると思います」

「そうだな。うちも常時開放にするか。でも夜中にまで練習したら生活習慣に支障をきたす恐れもあるからなー、導入は難しいかもな」

「世の中には夜型人間もいるし、バリスタによっては僕みたいに昼から働く人もいるから全然問題ないと思うぞ。バリスタが塾に合わせるんじゃなくて、塾がバリスタに合わせていくスタイルにしないと、いつまで経っても量産型の域を出ないぞ」

「言ってくれる」

「葉月社長って、先輩が相手でもハッキリ物言うんですね」

「僕には年功序列とか、先輩後輩とか、そういうくだらない概念はない。実績が全てだ。歳を重ねただけのキャリアほど無意味なものはない。それだけ」


 松野は終始ムッとしているが、あんまり張り合いがないのも困りものだ。


 バリスタオリンピックでも、強大なライバルがいたからこそ、実力以上の力を発揮することができたのだから、松野珈琲塾からも伊織に匹敵するライバルが出てくれないと困る。


「うちが量産型のバリスタしか作れないって言いたいのか?」

「日本一までのバリスタであれば、どこの会社でも作れる。昨日の様子を見た限りだと、松野珈琲塾は実力が底辺の人を中の上まで底上げする教育ではうちに勝る。でも元から中の上くらいの才能がある人を最の上まで伸ばす教育は……うちが勝る。だから葉月珈琲塾は才能のある人だけを厳選してる」

「だとすれば、松野珈琲塾で育てたバリスタを葉月珈琲の葉月珈琲塾が引き取ったら世界一のバリスタを量産できるんじゃないですか?」

「それいいかもしれませんね」


 ――あっ、その手があったか。


 確かにその方法なら、効率良く世界レベルのトップバリスタを量産できる可能性はある。


 でもそれじゃなんか違う気がするんだよなー。量産型はみんなと同じって意味だし、みんなと同じでは1番になれない。ましてや松野珈琲塾にいるバリスタは才能が最も伸びる時期である10代のほとんどを将来使うことのない勉強のために溝に捨てている。


 この時点でだいぶ差がついてるんだよなー。


 10年連続200本安打を達成した某日本人メジャーリーガーはみんなが遊んでいる間に練習しまくっていた人だった。そのことからも幼少期から10代にかけての強い興味や練習量が如何に重要であるかが見て取れる。故に幼少期の時点からコーヒーに対する強い興味や拘りを持つ人を探しているのだ。


 人間は植物と同じだ。枯れてからじゃ遅い。


 伊織と初めて会った時も諦めの表情ではあったが、まだ目は死んじゃいなかった。初めて見るゲイシャの豆に強い興味を持っていたからだ。あの目を見た時、こいつは鍛えればいつか化けると思った。


 ここまでやれば練習と思っている内は練習じゃない。故に制限時間の撤廃を進言しているが、労働時間は平気で超過するような連中のくせに、練習時間はちゃんと配分を守るとか意味分からねえよ!


「――断る。うちとは方針が全然違うし、才能が摘み取られていない不登校児の方が、ずっと育て甲斐があるってもんだ。でも、根本だったらまだいいかもな」

「本当ですか!?」


 根本が目を輝かせながら食いついた。


「ああ、本当だ。根本にその気があればの話だけどな」


 彼は10代の内にバリスタになるための訓練をしてきた。故に前回大会では10代で初の優勝を飾ることができたのだ。だがこの最年少記録は僅か1年で伊織に更新されることとなった。


「ジャパンハンドドリップチャンピオンシップ優勝は、株式会社葉月珈琲、葉月珈琲岐阜市本店、本巣伊織バリスタです。おめでとうございます!」


 会場から大きな拍手と歓声が送られ、伊織はトロフィーを受け取り両手で上に掲げた。トロフィーは土台の上に黄金のドリッパーが乗ったものだった。インタビューでも3度目の正直でやっと優勝できたと泣きながら喜びを露わにしていた。18歳での優勝は大会史上最年少記録だ。19歳で前回大会優勝を果たした根本の記録を1歳分更新した。松野の教え子は1人も表彰台に立っていなかったが、いずれも20代を迎えてからバリスタを始めたらしいから無理もない。僕らは本当に運が良かった。


 帰りのタクシーでは大事そうにトロフィーを持っている伊織の横顔を見つめていた。


 伊織は輝いていた。生きる力に溢れていた。認められる経験って本当に大事だと思う。大会を勝ち抜く経験そのものが、自己肯定感を育てる訓練なのだ。


「今日のことは一生忘れません。私にとって初めての経験ですから」

「2年前の雪辱、やっと果たしたな」

「はい。実は2年前に私の陰口を言っていたのは松野さんの教え子だったんです。そんな彼らの前で雪辱を果たせたんですから、嬉しいに決まってるじゃないですか」

「僕は世間を見返すのに10年かかったけど、伊織は2年か」

「ふふっ、私はまだ、世間を見返したとは思ってませんよ」

「まだ見返したい相手がいるのか?」

「元同級生です。いつか元同級生が友達面して近づいてきたら、あなたたちにいじめられたお陰で強くなれたって言ってやりますよ。再会しなかったら、そのままでも構いませんけど」

「その頃には……きっと許してると思うぞ」


 何故かは不明だが、人は本当の意味で成功すると優しくなれる。


 自分を貶めてきた存在を許せるようになっていないのなら、それはまだ成功とは言えない。自分自身に打ち克つことができていない証拠なのだ。


 相手を許せるのは……強さの証なのだから。

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