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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第9章 次世代バリスタ育成編
208/500

208杯目「在宅勤務」

 9月上旬、葉月珈琲と中津川珈琲の取引が再開する。


 国で言えば講和が成立し、国交が再び正常化した状態だ。


 うちは中津川グループとではなく、その本家である中津川珈琲と取引を行うことに。しかもこの前裏切る格好となってしまったお詫びに、中津川社長から僕宛にジェズヴェが届いた。


 中津川グループ自体はともかく、中津川珈琲とならつき合える。うちとの取引や業務提携を行う際は決定権を静乃に握らせることを条件とした。裏切らない人に決定権を持たせたい。中津川社長に悪気がないのはよく分かったが、権力に屈しているようでは、まだまだ信用を回復するには程遠い。


 僕が午前中に中津川珈琲へと赴いた時だった。


 ジェズヴェコーヒーを注文し、カウンター席へと静かに座った。


「中津川社長」

「どうしたんだい?」

「去年からJCI(ジェイシーアイ)を始めたのはオレクサンドルからの指令か?」

「いや、静乃の思いつきで始めたよ。静乃がジェズヴェに興味を持ってくれるとは思ったけど、ジェズヴェを世に広めるなら、大会を開催する方が遥かに宣伝になると思ったからね」

「世界大会に向けた国内予選としてジェズヴェの大会を開催すれば、あず君が食いついてきて、必ず勝ち上がってくるって思ったの。あず君が大会に参加してくれたお陰で、予想以上にジェズヴェを宣伝することができた。実を言うとね、私たちはおじいちゃんのグループから独立したかったの」


 静乃が苦笑いしながら言った。オレクサンドルグループの非情な経営方針が気に入らず、中津川グループだけで利益を上げ、傘下から脱出しようとしていたのだ。元々はオレクサンドルグループからの外資で始まった中津川グループだったが、日本の風土には合わなかった模様。


 どうりで必死になって、JCI(ジェイシーアイ)の参加者を集めようとしていたわけか。


「僕はまんまと釣られたわけだ」

「ふふっ、バリスタ競技会を餌にすれば絶対釣れるって思ってた。優勝できなくても、最悪参加さえしてくれれば、あず君を通して大きな宣伝になる。でも傍から見ていても、あず君が優勝するって分かっちゃった。プレゼンもアイデアも洗練されてるし、今まで積み上げてきたものが全然違う」

「やることはそんなに変わらないからな」


 なるほど、みんな僕の知名度を利用して利益を出そうとしていたわけか。


 何のリターンもなしにそうしているなら、今すぐにでも縁を切っているが、静乃は僕を利用して利益を得る代わりに新たなバリスタ競技会に参加する機会をくれた。ギブ&テイクが成立しているからこそ信用できたのだ。ちゃんとビジネスを理解していて何よりだ。ただ得るだけではなく、相手に与えることで初めて商売が成立することを分かっている。静乃には経営者としての才能がある。


 優秀で良心的な後継者がいて、羨ましい限りだ。


 帰宅すると、今までに参加して勝ち取ってきたバリスタ競技会のトロフィーを見渡した。


 うちの店にはWCI(ダブリューシーアイ)で勝ち取った優勝トロフィーが追加されており、文字が書かれた土台の上に黄金のジェズヴェが輝いている。こんなにたくさん優勝トロフィーを飾っている店なんてうちくらいだろうな。この圧巻の光景を見るためだけでも、うちに来る価値があると評価されているくらいだし、葉月珈琲で飲んでから死ねという誘い文句は、年を追う毎に現実味を帯びてきた。


 この日は年に3回ある親戚の集会だ。


 午後を迎える頃には、葉月珈琲に大勢の親戚が集まっていた。


 美羽もすっかりうちの親戚として打ち解けている。6月に吉樹と美羽との間に男子が生まれ、大樹のおっちゃんや吉子おばちゃんに抱っこされながら、元気そうに小さな手足をバタバタと動かしている。かなりやんちゃな子になるだろう。まるで自分たちの欲望が叶ったかのように親戚たちが喜んでいる。


 家制度に縛られている親戚たちにとっては、子供が増えることが第一なのだ。


 リサと柚子がとても羨ましそうな目で見つめている――。


「「はぁ~」」

「2人共どうしたの?」

「璃子はいいよねー、まだ若いんだから」

「ひゃんっ!」


 柚子が璃子の豊満な胸を後ろから掴んだ。


 リサは隣から悪そうな顔で2人を見つめている。


 あっ、これ完全に嫉妬してるやつだ。リサも柚子もこの年で29歳。結婚願望がある上に婚活市場を知り尽くしている2人にとっては正念場の年と言える。30歳を過ぎれば、異性とつき合える機会が激減することを知っているのであれば尚更だ。焦るのも無理はない。


 そう思っていたが――。


「あたし、今彼氏がいるんだけど、その子がもうあず君にそっくりでさー、やっぱあたしにはああいう可愛い男子が合ってるのかもねー」

「えっ……リサ、彼氏いるの?」

「うん」


 柚子がリサの方を見て先越されたと言わんばかりの表情だ。


 彼女の脳裏には、まるで時間が止まっているかのような静寂が訪れている。


「そんな……リサは私の仲間だって信じてたのに……」


 柚子が死んだような目で肩を落としながら言った。


「あたしは柚子の仲間ではあっても、恋人がいない人の仲間じゃないよぉ~」


 相手をからかうような目でリサが言った。


 やめろ。その攻撃は柚子に効く。ていうか仲間ってそういう意味かよ。いるよなー、全然相手のいない同性同士で固まって、いつの間にか自分だけ置いていかれてるパターンの奴。てっきりドラマだけだと思ってたけどここにもいたよ。結局、柚子は自分と同じ境遇の仲間が欲しいだけなのかもしれない。


 確か柚子と一緒に婚活パーティに参加させられた時にも、そうやって同性同士で固まって全然異性に話しかけようとしない集団がいた気がする。ああはなりたくないと言いながらも、あの集団を見ていた柚子がそれと同じ立場になっているなんて、皮肉なもんだよなー。


 ニートにはなりたくないと豪語してる学生が、大卒と同時にニートになってたみたいな。


 夕食が終わってみんなが帰っていくと、柚子がため息を吐きながら僕の肩に頭を預けてくる。


 僕はそんな柚子の髪をそっと優しく撫でた。


「はぁ~」

「さっきからずっとため息ばっかりだな」

「だってリサに彼氏がいるなんて思わなかったんだもん。これでもう葉月家と楠木家で恋人がいないの、私とエマだけになっちゃった」

「余程周囲に人を見る目がなかったんだな」


 柚子が顔を赤らめながら僕を見た。リサたち4人は葉月珈琲の公式チャンネルに主体的に出演している影響ですっかり有名人になっているお陰か、かなり条件の良い恋人と巡り会っている。


 柚子は顔も美人だし、スタイルも悪くない。


 どこか完璧主義なところがあり、無意識の内に異性を遠ざけてしまう。


 仕事はできるし、何事にも一生懸命なところがある。この国では仕事のできない男と仕事のできる女はモテにくい傾向にあるのも原因の1つだ。ドジな男は嫌われるが、ドジっ子は好かれやすい。


 仕事のできる男はモテるが仕事のできる女は生意気と見なされる。こればかりは男に成熟さを求め、女に未熟さを求めている社会が悪いとしか言いようがない。


 有名人は例外だが、生憎柚子は有名人ではない。


「柚子、心配すんな。懸命に生きていれば、いつか相性の良い人に出会えると思うぞ」

「だといいけど、婚活イベント会社を経営していた私が行き遅れるなんて、皮肉な話よね」

「経営者時代は無駄になってない。大輔も優太も吉樹もみんな岐阜コンでカップリングしたし、柚子は自分が思ってる以上に社会貢献してるぞ。柚子が報われないままでいいはずがないだろ。そうじゃなかったら、神様の顔をぶん殴ってるところだ」

「ふふっ、神様なんて信じてないくせに」


 柚子が笑いながら言った。やっぱバレてたか。いつだって自分を信じて前へと突き進んできた僕にとっては神様なんていてもいなくても関係ないのだ。それは何より、自分が1番頼りになると思っている証でもある。自分の力ではどうにもならないことは、社会的責任の範疇とも言える。


 柚子は明日からも健気に婚活を続けるのだろう。応援してるからな。


 10月中旬、この日は優子が久々の在宅勤務であり、彼女が家で作った新作メニューが完成したというメールが来たため、久しぶりに彼女の家へと赴くことに。


 葉月珈琲は2016年から在宅勤務を導入しており、家でもできる仕事は在宅勤務にしている。お陰で広告部用に借りた施設があまり意味を成しておらず、共通の集合場所としての機能を果たしているだけだ。新しい商品開発もキッチンさえあれば、どこでもできるわけだし、必要があれば撮影してもらったものを送ってもらうこともできる。葉月商店街にある実家のすぐ近くにヤナセスイーツと書かれた看板が自動扉の真上にあり、僕の脳裏に昔の洋菓子店時代を思い起こさせた。


 閉店してからも、まるで時間が止まったかのように、ずっと残ったままだ。


 ここのスイーツが僕のバリスタオリンピック優勝に大きく貢献したなんて、ほとんどの人は知らないんだろうな。これは僕らの間だけで共有しておこう。


「あっ、あず君いらっしゃい。うちに来るの久しぶりだねー」

「7年ぶりくらいか。あの時と全く変わってない」

「1階部分はね。今は愛梨ちゃんと入れ替わる形でお母さんが実家に戻っちゃったの。今は愛梨ちゃんと2人暮らし。あず君の言った通り自分の部屋とパソコンを与えておくだけで大人しくなっちゃった」

「やっぱ愛梨もこっち側だったってことだ。だって社会が受け入れてくれないのに、引き籠るスペースすらなかったら、そりゃグレるよねって話だ」


 優子の家の中を見渡した。洋菓子店だった時の名残はある。


 ケーキをたくさん作るためのオーブンもまだ残っていた。今でもここでスイーツを作ることはあるんだとか。何だかんだ言っても忘れられないんだろう。だからこそ、僕は優子に在宅勤務を勧めた。


「……これ美味いじゃん」


 思わず笑みを浮かべてしまった。この笑顔になる味、昔のヤナセスイーツを思い出す。


「ふふっ、ありがとねー」

「先代の味にそっくりだ。僕が子供の時にさ、時々ここまで親父とお袋と一緒にチーズケーキを買いに来てたこと、覚えてるか?」

「もちろん。だってあず君、いつもチーズケーキばっかり注文するんだもん」

「他のケーキは持って帰った後、ちょっとだけ味見させてもらったりしてたし、それだったら1番好きなメニューを買おうと思った。一度に1つまでしか買えなかったからさ」

「今だったら全部買い占めとかできちゃうもんね」

「店ごと買い取って傘下に置いてたかも」


 昔だったら想像できないことを言ってみせる。


「ふふっ、それ言いたいだけでしょ」


 優子が笑いながら言った。いつもは淡々としている優子も僕と一緒にいる時は笑顔だ。


 もしかしたら優子と相性良いのかもしれない。


「優子お姉ちゃん、お昼ご飯まだっすか? ……あず君? 何でここにいるんすか?」


 2階にいた愛梨が欠伸をしながら下りてくると、ようやく僕に気づいた。


 髪はボサボサで、ヨレヨレのパジャマ姿だ。


 いつもはどんなに着飾っている女でも、朝起きたばっかの時はこういう姿なんだろうか。璃子も唯も例に漏れず、朝起きた時だけは身も心も素の状態だ。個人的にはこっちの方が下手に着飾っている時よりもずっと可愛く思える。何ですっぴんの方が可愛い人に限ってメイクをするんだろうか。


 愛梨はメイクには一切興味がない様子。傍から見れば男装にも見える服装であることが多いが、この時は優子が小さかった時のパジャマを着ているためか、凄く女子っぽく見えてしまう。


「愛梨ちゃん、おはよう。今あず君に新メニューを食べてもらっていたとこ。ご飯まで待っててねー」

「了解っす」


 優子は愛梨の昼食を作るため、キッチンへと引っ込んだ。


「ハンドルネームで呼べとは言わないんだな」

「もうそんな拘りないっすよ。今じゃ文字通り、ただのハンドルネームっすよ」

「今起きたところか?」

「普段はもっと遅く起きるんすけど、昨日は早めに配信が終わったんで」

「動画は伸びてるか?」

「ボチボチっすよ。あず君のチャンネルには遠く及ばないっすけど」


 今や僕の個人チャンネルはチャンネル登録者数が1000万人を超え、葉月珈琲の法人チャンネルに至っては2000万人を超えている。動画の広告収入だけでも1年でそこらの経営者の一生分以上を稼いでいるが、どうやら僕は資本主義というゲームに勝ったらしい。


 簡単に言えば、収入源をいくつも確保して、億万長者になれば勝ちというゲームだ。


 こんなに簡単なのに、何でほとんどの人は貧乏なんだろうか。


 1つだけ心当たりがある。たまにではあるが、僕に対して嫉妬全開のコメントを送ってくる人たちがちらほらいるのだ。葉月梓は儲かるために高いコーヒーを売り、儲かったお金で贅沢をしているという指摘が飛んでくることがあるが、この指摘はナンセンスだ。


 うちが高いコーヒーを売るのは事業を回すためである。単に事業の流れを円滑にするためにお金を回しているだけだ。仮に経済を人体とするなら、お金は血液といったところだ。お金が回らないと経済が破綻してしまい、回り回って誰もが損をする。お金は使うものではあっても、貯め込むものではない。


 無論、贅沢のために消費活動をするのも立派な社会貢献だ。


 まっ、そういうのが理解できないから貧乏なんだろうな。


 あいつらは負けたんだ。他の誰でもない、自分自身の愚かさに。


「自分と他人を比べるのは、自尊心を傷つけるだけだぞ」

「やっぱ教育の影響なんすかね」

「どうせ比べるんだったらさ、去年の自分とだけ比べりゃいいじゃん。他人に勝てないのは別に恥じゃないぞ。でも去年の自分に勝てないのは立派な恥だ」

「成長してないっていう意味なのは分かるんすけど、どうやって勝てばいいのやら」

「部屋を見せてもらってもらっていいか?」

「別にいいんすけど、何をするつもりなんすか?」

「見るだけ。動画機材とか参考にしたいし」

「あぁ~、そういうことっすね」


 愛梨がゆっくり頷きながら僕を部屋へと案内する。2つある部屋の内、奥にあるのが愛梨の部屋だ。


 優子の部屋が開いているのをチラッと見ると、ベッド、パソコン、スマホ、テレビくらいしか置いていない。スイーツを作る以外のことには興味ないんだな。


 愛梨の部屋は優子の両親の部屋だったこともあり、所々に痕跡が残っている。部屋の奥にはテーブルと椅子があり、テーブルの上にはASMR用の機材が潤沢なまでに揃っているのだが、僕はここまでできそうにない。テレビのそばには何種類かの据え置きゲーム機が置かれている。


 どうやらゲーム実況もやっているようだ。


「いつも飯をここまで運んできてもらってるとか?」

「そうっすね。1階で食べる時もあるんすけど、いつもは私の部屋っすね」

「ちゃんと稼いでるってのに、生活はニートそのものだな」

「家にお金は入れてるんで問題ないっすよ。でも1つ違う問題が発生したんすよ」


 愛梨が言いながら曇った表情でベッドに座り、僕を見つめてくる。


 僕もこの場に座り、愛梨は優子の昼食メニューを待ちながら話した。


「どうかしたの?」

「うちの両親が私の収入を聞くや否や、うちに戻ってほしいって言ってきたんすよ。どう考えても私の稼ぎにぶら下がろうとしか思えないっす」

「何でそう思うわけ?」

「うちの親は私に元カノの名前をつけたことで大喧嘩して別れたんすよ。親権は経済的な事情でお父さんが握ることになったんすけど、その後会社をクビになって、もうすぐ失業保険が切れるんすよ」


 ――うわぁ……何その修羅場。うちだったらまず考えられないな。


 母親からは厄介者扱いされ、既に事実上の縁切り状態だ。父親は再就職する気もなければ起業する気もなく、生活保護申請を出しているんだとか。でも愛梨が稼いでいる以上は生活保護を受けられない。愛梨は自分が稼げるようになったことで爆弾を背負わされようとしているのだ。


 何で稼いでる人が馬鹿を見なきゃいけないんだろう。


「愛梨、どっちを選んでもその判断は正しい。だから好きな方を選べ」

「面倒見た分を返さなくていいんすかね?」

「産んだ以上は面倒を見るのが当たり前だ。昔愛梨が困っていた時、君の親が愛梨にしていたことをそっくりそのまま返してやればいい」

「私が困ってた時と言えば、いつももっと周りに合わせなさいって言われてたっすよ」

「つまり、愛梨の気持ちに寄り添うようなことはしなかった……ということだな?」

「……そうっすね」


 ――なら、決まりじゃねえか。


 子供の想いや適性に反する教育をしてきた親に恩返しをする義理はない。


 生きる力を育ててくれなかった。親の面倒を見るのを拒否する理由なんて、それだけで十分だ。


 僕に至っては、今の時点で親の面倒を見ているようなものだけど、それは親父やお袋にバリスタとしての適性があったから雇っただけで、うちで活かせる取り柄がなかったら見捨てていたかもしれない。


「はーい、カルボナーラだよー」


 優子が3人分のカルボナーラを持ってくる。


 だが何かがおかしい。一口食べてみると、ラーメンを麺を使ったカルボナーラだった。


 しかも厚切りベーコンがいくつも乗っている。


 さっきの開発中だった新メニューと一緒にこっちも採用した方が売れるんじゃないか?


「優子、明日さっきのメニューと一緒にこれの作り方教えて」

「えっ……」


 目が点になり、優子が固まった。まさかこっちに目をつけるとは思わなかったのだろう。


「カルボナーラのラーメン、うちでも期間限定で発売する」

「えっ、でもこれ、パスタを切らしてたから余ってたラーメンの麺を代わりに使っただけなんだけど」

「それだ。限定的な状況でこそアイデアは生まれる。昔あるゲームの開発担当がさー、どうしてもバグの音を消せないっていう問題が発生した時、バグの音を通信音として逆用した話がある」

「そんな大袈裟なもんじゃないよー」

「これから冬がやってくる。ラーメンやってるカフェなんてなかなかないし、賄いかもしれないけど、突き詰めればもっと美味い商品に変わるはず」

「ふふっ、分かった。やってみるね」


 こうして、優子は料理の開発担当も任されることに。


 ひょんなきっかけから、アイデアは生まれてきた。三角ベースで人数が足りない時の透明ランナーみたいに、優子は限定的な状況になると、無意識の内に別の何かで対応しながらも美味い料理を作れる。


 こんなに創意工夫ができる彼女を開発担当にしてこなかったのは勿体ない。


「確かにこれ美味いっすね。カフェでこれが出たら、思わず注文してしまいそうっすね」

「卵とベーコンと黒胡椒ならカルボナーラっぽく見えるし、ベーコンはグアンチャーレにして、麺は少し固いものにして出汁をちょっとだけ入れたら、もっと美味くなるかも。麺だけじゃなくてさ、スープまで全部飲み干したくなるようなものにすれば、立派なラーメンだ」

「あず君のそういう何でも究めようとするところ、嫌いじゃないっすよ」

「愛梨ちゃんもあず君の深みにハマっちゃったんだね」

「そうみたいっすね」


 優子が3人分も昼食を作ってくれたため、僕らは愛梨の部屋で昼食を食べてから3人で時間を忘れ、色んなゲームをして遊んだ。時間を忘れるほど遊んだのは久しぶりだ。


 後日、動画に撮っておけば良かったと後悔する愛梨であった。

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読んでいただきありがとうございます。

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