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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第9章 次世代バリスタ育成編
203/500

203杯目「落ち目の部署」

 3月上旬、JHDC(ジェイハドック)福岡予選が開催された。


 200人のバリスタが参加する中、決勝へと駒を進められるのは僅か18人、伊織はかなり気合が入っている様子だ。それもそのはず、伊織が決勝進出するのが、僕の東京行きの条件だ。


 育成部が改善されなければ、コーヒー業界の未来に関わる。伊織はその話を僕と美月の会話を通して知っていた。結論から言えば、あれは僕が伊織に与えた試練だ。文字通りコーヒー業界の未来を懸けた戦いとなれば、本気を出さざるを得なくなる。どの道この年の間に行く予定ではあったけど、ここで伊織がどこまで伸びているかも見ておきたかったし、タイミングとしては丁度良かった。


 伊織とタクシーで福岡市まで赴くと、会場近くに降り立つ。バリスタ競技会の予選会場は製菓専門学校などが多く採用されており、決勝にもなると更にスペースが広めの貿易センターなどが採用される。


 会場に着いて最終登録を済ませると、しばらくは控え室で待つことに。


「決勝までいけば、穂岐山珈琲の皆さんを助けてくれるんですよね?」

「そうだけど、伊織は穂岐山珈琲から恩恵を受けてないのに何で僕に助けてほしいって思ったわけ?」


 コーヒー業界の未来のためとはいえ、現在進行形で競合している相手に、何の理由もなく塩を送るようなマネをするのはあまり好きじゃない。もっと合理的な理由が欲しい。


「穂岐山珈琲の皆さんには、私もお世話になりましたし、コーヒーのことも色々教えてもらいました。バリスタオリンピックの時も、あず君がリハーサルするための場所を提供してくれたじゃないですか。恩を返すなら、今が丁度良いタイミングだと思いますけど」

「なるほど、伊織はそう思ってるわけだ」

「受けた恩を返すのは当然だと思いますけど」

「僕は思わない。与えられたものを恩と感じるか、余計なお世話と感じるかは本人の自由だし、恩返しは受けた側の厚意でやるものだ。相手が見返りを求めているようであれば、その時点で恩じゃなく貸し借りだ。借りを返すのはお返し、恩恵として受け取ったものを厚意で返すことを恩返しって言うんだ」

「なんか理屈っぽいです」

「穂岐山珈琲が僕を援助したのは見返りを求めてるからじゃない。日本生まれの世界チャンピオンを輩出したかったからだ。それで日本国内におけるコーヒー業界の地位が高まれば、結果的に自分たちのためにもなるって思ったんだろうな」


 僕はコーヒーにまつわる全てのデータを開放している。結果、世界中にある多くのコーヒー会社が僕のデータを参考に新しいコーヒーやカフェを作り続けている。情報と引き換えにお金を要求することもできた。だがそれだと、回り回って自分たちの首を絞めることになりかねない。


 既に自分の悩みに対する回答を握っている人がいるのに、ビジネス上の理由で公開されていなかったために解決できなかったなんて、それほど勿体ないものはない。


 情報が公開されていれば、もっと早く解決できた問題はいくらでもある。だが同業他社への援助はもっと長い目で見る必要がある。下手に甘やかせば顧客の奪い合いになった時に足元をすくわれることだってある。穂岐山珈琲は葉月珈琲の勢力圏にも店を構えている競争相手だし、助けるのはあくまでも会社自体ではなく、部署のみに留めるのが丁度良い塩梅だろう。


「きっとみんな、会社という枠組みとか、気にしてなかったと思いますよ。穂岐山珈琲の人たちは最初から松野さんだけじゃなくて、あず君のことも応援していましたし、あず君が優勝した時も、まるで自分たちのことのように喜んでました」


 ――枠組みに囚われていたのは、僕の方かもしれないな。


 伊織がここまでやる気になってくれてるんだ。あいつらのためじゃなく、伊織のために育成部を変えてやるか。この大会の予選は夕方を迎える頃に判明するのが幸いだ。


 伊織は負ければ終わりのトーナメントでひたすら奮闘している。


 その間に僕は家族のため、福岡土産を買い漁っていた。


「えっ、もしかしてあず君?」


 いきなり見知らぬ女子グループから声をかけられた。


 所謂ギャル系と呼ばれる女子高生らしき者たちが4人ほどいる。てことはこの辺の学校かな。昔の小夜子たちによく似ている。みんな高校の時は、こんな姿でうちに来てくれていたな。


「うん……そうだけど」


 一応返事はするものの、初対面の相手との会話は本当に慣れない。


「うわー、可愛い。本当に男なの?」

「あっ、ズルい、私にも抱かせてよー」


 おいおい、僕はマスコットじゃないぞ。


 いきなり抱きつかれたんだが。ていうかめっちゃ化粧の匂いするし、人懐っこいのか馴れ馴れしいのかも分からないまま、人形のようにもふもふと触られている。


 何故そんなにも抱きつきたくなるんだろうか。


「私たちね、今日学校サボってみんなで遊びに来てるの」

「そーそー、授業が退屈すぎるっつーか。週5はきついってー」

「じゃあやめればいいじゃん」

「えー、やめたらどうやって生きてきゃいいのー?」

「今の君たちは無敵なんだぞ。親に養ってもらえて、好きなものを買ってもらえて、悪いことをしても少年法で保護される。何でもできる立場だ」


 本当に……羨ましい限りだ。


 なかなか気づきにくいけど、学生ってのは管理されている反面、実はほとんどのことをやりたい放題だったりする。学生でいる内は好きなことを学べる機会だが、多くの生徒は退屈な勉強に時間を費やす方向へと誘導されてしまうのだ。こいつらもその犠牲者である。


 膨大な時間をサボりたくなるほど退屈な授業に費やすのはどうなのかねぇ~。僕よりもずっと若い世代なのに、不完全燃焼のまま人生を終えるところまでが見えてしまった。


 未来予知ではない。現時点で最も辿り着きやすいルートだ。


「そう言われてもねぇ~」

「じゃあ何でサボってるわけ?」

「「「「……」」」」

「中途半端にサボるんだったら、今すぐ退学することをお勧めする。君らが20代30代を迎える頃には学歴の価値なんて地の底まで落ちてるし、就職だって実力がないとできないようになってる。中途半端に生きてたら、死ぬ時絶対後悔するぞ」

「あず君ってなんかかた~い。めっちゃ現実的~」

「ああ。夢よりも楽しい現実を目指してる」

「ふふっ、何それ、ちょ~ウケるんだけど~」


 ギャルの1人が笑いながら言った。


 すると、他のギャルたちもそれに同調するように笑い出した。


 そこ、本当に笑おうと思って笑ってんのか?


「それってあず君だから~できるんじゃないの~?」

「僕は中卒で何もないところからここまで這い上がってきた。君たちだってできる。何でもいいから、好きなことに没頭してみろよ。今は何だってビジネスになるから」

「ふーん、じゃあ考えてみよっかなー。だからさ~、もうちょっとだけぇ~、この体をもふもふさせてくれるかなぁ~。うふふふふっ!」

「ええっ!?」


 やっぱこいつら、ちょっと話し方が違うだけで、小夜子たちにそっくりだぁ~!


 彼女たちにたっぷりと体をもふもふされた後は、ゆっくりと観光を楽しんだ。会場に入れないのだから仕方がない。ついでに博多ラーメンまで堪能してしまった。行く先々で出会った人たちから驚かれ、いきなり写真を撮られたり、抱きつかれたりしながらツーショット写真を撮られたりと、マスコットのような扱いを受けている。でも、昔のように迫害されていた時とは全然違う。


 サインは書かないけど、ツーショットくらいなら別に構わない。忙しい時は拒否るけど。


 ずっと人を見てきた影響なのか、純粋に僕が好きで近づいてきている人なのか、利益が目当てで近づいてくる人がすぐに分かるようになっていた。これが経験効果ってやつなのかな。


「ふぅ~、何とか予選を突破できて良かった……どっ、どうしたんですかぁ~!?」


 顔を真っ青にしながら、死んだ目で控え室の席に座っていた僕を伊織が心配する。


 観光に疲れたというより、ファンサービスに疲れた。何しに来たんだろ。


「女子高生たちに滅茶苦茶にされた」

「そ、それって……襲われたんですか?」

「体をもふもふされて、写真撮られて」

「それかなりやばいやつじゃ……ん? ……もふもふ? ……あぁ~、そういうことですか。もう、誤解するような言い方しないでください。あず君は26歳男性ですけど、見た目は女子中学生なんですから、蹂躙されることも考えて気をつけるべきですよ」

「心配すんなって。それよりほらっ、お土産買ってきたぞ」

「ここのコーヒー豆を買いたかっただけですよね?」

「そうそう。良い機会だから、保護者としてついてきたついでに買っておこうと思った」


 両手には福岡市で買ってきたお土産の入った買い物袋がある。ここはバリスタの宝庫、バリスタ競技会の日本代表を何人も輩出している。やっぱコーヒーに触れる機会が多い分、日本チャンピオンも多いのかもしれない。岐阜市も僕の影響で、ここに負けないくらいのバリスタの聖地になろうとしている。


「そういえば、葉月珈琲から他に出場した人はいるんですか?」

「一応桃花と陽向も出てる。トーナメントで同士討ちにならないよう全員別々の日に予約した。余程の強豪が出ていなければ、全員通過してるだろうな」

「同士討ちになったら、私が負けるって思ったんですか?」

「むしろ逆だ。伊織が全員無双しちゃったら、自信を喪失するのはあいつらの方だし、わざわざ予選の段階で同士討ちさせる理由もない」

「本当の勝負は決勝からなんですね」

「たとえ100人参加だろうが200人参加だろうが、本気で取り組んでいる人が10人しかいなかったら、それは最初っから参加者10人の大会だ。予選を突破してからがチュートリアルだからな」


 大会はファイナリストレベルの実力者の数=参加者の数と考えていい。


 予選よりも決勝の方が価値が高いのは、単に強い人ばかりが残ったからではない。


 本気でやる気のある人だけが残り、ようやく本番を迎えたからだ。予選というのは、本気で勝ち抜く気のある人を炙り出すために行うものだ。勝つ気のある人がいないのであればただの遊びだ。輪投げや金魚すくいも、基本的に遊びだが、本気で勝つ気のある人が2人以上いれば、それはもう大会なのだ。


「チュートリアル……ですか?」


 きょとんと首を傾げながら伊織が言った。


「他の参加者たちはどんな感じだったか言ってみろ」

「凄く気が楽そうでした」

「……それだけ?」

「他にどんな特徴があるんですか?」

「例えば服装とか」

「服装なら私と一部を除いてみんな私服……あっ!」

「気づいたか?」

「はい。つまり心構えが服装に現れてるってことですね?」

「当たらずとも遠からずだ。本気で勝ちにきてる奴は身嗜みを見れば分かる。僕の知る限り、シワシワの服装とか、ボサボサの髪で来ている人で決勝まで残った人、見たことないんだよな」


 流石は伊織だ。僕の意図をここまで早く理解できる人は少ない。答え合わせのように言うと、伊織は自分の身嗜みをキョロキョロと見た。そして満足そうな顔でゆっくりと頷きながら納得する。


 身嗜みは全ての接客業共通の心遣いだ。当たり前のように身嗜みが整っている人は、集中力や注意力がずば抜けて高く、本番でも実力を発揮しやすい。無論、身嗜みが整っていれば、ジャッジからの印象も良くなり、清潔感や衛生管理を審査している場合はスコアに反映される場合もある。


 できて当たり前のことをしているだけでスコアを稼げる。学校で言うノート点みたいなもので。実行さえしていれば簡単に取れるスコアさえ取れない人が勝ち抜けるはずがない。僕は伊織の修業期間中、身嗜みに気を使うよう、口を酸っぱくして言い続けた。伊織も最初こそ雑な服装だったが、清潔で皺1つない服装で来たら客が増えると言った次の日からは皺1つない服装で来るようになった。今度はショートヘアーでさっぱりするのと、先端まで手入れが行き届いたロングヘアーだったらどっちが良いかと聞くと、即答で後者を選び、次の日からは乱れ1つないロングヘアーで来るようになったのだ。


 うまい具合に躾けながら、一歩ずつ確実に成長していく伊織を見るのが楽しかった。


 今では外見だけでなく、コーヒーの知識やバリスタとしての現場力まで洗練されている。バリスタの仕事を覚え、コーヒー豆の選別からエスプレッソマシンのメンテナンスまでを主体的にこなせるようになっている。この時点で伊織に勝てるバリスタは、全国的に見ても限られていることが見て取れる。


 たとえうちが潰れたとしても、伊織は1人で生きていけるだろう。


 日本よ、これが教育だ。


 洗脳するにしたって、せめてちゃんと飯を食える大人にくらいにはしてやるのが最低限の責務ってもんだ。それすらできない奴らに教育を施す資格はない。


 ふと、横を見ると、僕はいつも通りの笑顔に満ちた伊織に癒されていた。


 僕らはタクシーに乗り、岐阜へと戻るのだった。


 4月中旬、JHDC(ジェイハドック)決勝が東京で行われた。


 育成部に訪問する日でもある。決勝に進出した18人の内、6位以上で入賞、3位以上でトロフィーである。午前9時過ぎに開会式が行われ、午後10時には第1競技者から競技が始まる予定だ。


 伊織の競技が始まるのは3時頃か、かなり後の方だな。それまでしばらく時間が空いている。こういう時って、コーチはマジで暇だからな。先に用事を済ませた方が良さそうだ。


「伊織、これから穂岐山珈琲に行くけど、競技時間が来るまでに戻る」

「分かりました。じゃあ私も一緒に行きます」

「競技者なのに抜け出して大丈夫なのか?」

「リハーサルは昨日までみっちりやりましたし、2時半には戻りますから大丈夫です。時間管理なら任せてください。それに私も気になりますし」

「まあいっか。気になったまま競技を疎かにされても困るしな」

「じゃあ行きましょうか」


 大会よりこっちの方に夢中になってる気がする。


 でもやりたいことを邪魔しないのがうちの方針だからなー。しょうがないか。


 午前10時、主催者側に外出することを伝えた伊織と共に穂岐山珈琲へと赴いた。


 オフィスビル1階だし、エレベーターに乗らずに済むのが幸いだ。ここに来たのは1年ぶりくらいだろうか、何度か助言をしたくらいだけど、結城を始めとしたメンバーたちはとても喜んでくれていた。


「えっ、結城さん辞めちゃったの?」


 育成部に着くや否や、全く違う顔触れになっていたことに気づき、度肝を抜かれた。


 広めに設計された調理場は以前と全く変わらないが、穂岐山社長以外は面々がガラリと変わっていたのだ。バリスタ競技の訓練にも以前ほどの活力がない。


「ああ、今年の3月に転職したよ。自己都合退職でね」


 嘘だ。日本の会社に限って言えば、自己都合退職のほとんどは裏に会社都合が隠れている。


 いじめが原因であっても、いじめが理由であると書いたら、就職や転職の時不利になるのではないかという事なかれ主義に基づいた懸念が罷り通っているのだ。


 うちは会社都合とは無縁だけど、そんな問題は起こらないようにしたいな。


「何でこんなにメンバーが入れ替わってんの?」

「松野君と美羽が辞めてから、育成部が急に活力をなくしてしまってね。しかもそれからは誰も結果を出さなくなった。それもあって次々と会社を辞めていったんだよ」

「原因は降格処分になった前の部長だろ?」

「えっ! 何で知ってるの!?」


 さっきまで窓の外を見ていた穂岐山社長が驚いた様子で首を振り向けた。人は予想外のことを言われるとつい相手の顔を見てしまう癖がある。これは僕が事情を知らないと思っていたクチだ。


「話は美羽から聞いた。松野が辞めたのは問題児を放置した責任を取るためだ」

「そうなんですか?」

「……君たちには話しておいた方が良さそうだね」


 穂岐山社長が言うには、育成部には巨額の資金を必要とするためにスポンサーがいて、前の部長がスポンサーと仲が良かったのだ。だが前の部長の問題が発覚して降格処分が決まると、突然スポンサーが降板を申し出てきた。理由はスポンサーが前の部長の父親だったからだ。


 あぁ~、そういうことかぁ~。


「スポンサーを降りるって言われた時は心底怒りが湧いたよ。あの男を育成部の部長に就任することがスポンサーがついてくれる条件だった。他のスポンサー候補全員からは既に断られていたから受け入れるしかなかった。昔の俺だったら……見ないふりをして、処分しなかっただろうね」

「降格処分ができなかったのは、バリスタオリンピック終了前のスポンサー降板を恐れたからだろ?」

「ああ、そうだ。バリスタオリンピックで日本代表を優勝させるには莫大なコストがかかる。スポンサーが欠かせないし、バリスタオリンピックが終わるまでは見過ごすしかなかった。我ながら情けない」


 確かに社内で全員にシグネチャーの実験をさせるには相当な経費がかかる。


 食材の種類も半端ないし、当時のうちはほとんど僕しかシグネチャーの実験をしなかった。


 そこまで経費はかからなかったけど、今なら分かる気がする。


 たとえ大手であっても、これだけ大きな事業を行うのであればスポンサーが必要になる場合もある。ましてや全国にトップバリスタを育てるための施設を置くのであれば尚更だ。


「あの性格だったら、父親の力を借りないと、就職自体難しかっただろうな」

「資産家を父親に持つおぼっちゃまということもあって、好き嫌いが激しくてね、そのくせコーヒーを全く分かっちゃいなかった。美羽から聞いたとは思うけど、今そっちにいる元社員が作ったコーヒーが採用されていたら、きっと松野君は準決勝まではいけていただろうね。結城君は自分を贔屓にされたために、自分の作った未完成のコーヒーが採用されたことを悔やんでいたよ」

「結城も知ってたんだな」

「そもそもどうしてコーヒーが分からない人を採用したんですか?」

「コネ採用だ。うちもほとんどコネ採用だし」

「スポンサーがいなくなったことで、育成部は去年から予算を大幅に削減した。その影響で施設の半分以上を閉鎖することになって、200人所属していたバリスタも、今じゃ50人まで減ってしまった」

「スポンサーは探してるの?」

「探してはいるけど、落ち目の部署についてくれるスポンサーはいないよ」


 あーあ、社長が諦め気味なんじゃ、社員もついてこないわけだ。


 結城が辞めたのは、穂岐山社長や育成部から活力がなくなったからだ。数多くのトップバリスタ候補生から選ばれるくらいだし、人を見る目もある。そりゃこんな場所から離れていくのも無理ないわな。


「伊織ちゃんはうちの部署を見てどう思ったかな?」

「うーん、なんか学校の授業みたいでした。指導も悪くないと思いますけど、必要以上に教えすぎてしまうと、バリスタの創造性を殺してしまうので、もっと好きにさせた方がいいと思いました」

「ふふっ、まるであず君みたいだね」


 穂岐山社長が笑いながら言った。


 学校嫌いの伊織が授業みたいと述べるってことは、欠伸が出るくらいにつまんなかったってことだ。僕だったらつまんないって言ってるところだけど、伊織は優しいし、かなりオブラートに包んだ言い方になっている。無論、穂岐山社長も気づいている。


 正直に言えば、もう手の施しようがないと思った。

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