201杯目「妥協のない風味」
第9章の始まりです。
是非読んでやってください。
ここからのあず君はどちらかと言えば教える立場になっていきます。
バリスタ競技会にも出場し続けますが内容は割愛する場合があります。
年が明けると2017年がやってくる。
今年はWCIもあるし、何かと忙しい年になりそうだ。
正月恒例の親戚の集会に初めて美羽が出席する。吉樹は結婚して子供ができたことで、晴れて一人前の男と認められた。2人は他でもない岐阜コンで出会ったカップルだ。柚子の会社経営は無駄でなかったと言える証明になる。柚子の方が早く結婚すると思っていたけど、今は特別不思議とも思わない。
「じゃあ、美羽さんは穂岐山社長の娘さんで、穂岐山社長の友人が和人さんなんだ」
「はい。岐阜コンの時に彼をあず君から紹介してもらって以来のつき合いです」
「へぇ~、子供はいつ生まれるの?」
「今年の春くらいです」
「できちゃった結婚なんだよねー」
「あらまー」
吉樹と美羽を中心に話が進んでいく。かなり久しぶりに話題の主役から降ろしてもらったような気がして内心ホッとしている。いつかは同居届だけで結婚と同等の権利が貰えることを願うばかりだ。
「後は柚子だけだねー」
吉子おばちゃんが柚子を見ながら言った。
「お母さん、私当分は結婚しそうにないから」
柚子はきっぱりと断りながらも、おせち料理をもぐもぐと食べている。
全員が着席して料理の数が減っていく中、璃子は食欲がないのか、ほとんど食べていない。
璃子の付近で余っているおせち料理を他の親戚たちが構わず食べていく。
昼食と夕食が終われば、親戚の集会は終わりだ。
「まだ気にしてんの?」
僕が璃子に小さく声をかけた。周りには聞こえないように。
璃子にとってはまだ触れられたくない話だ。
「……別に」
「決断は早い方がいい。璃子には悩んでる暇なんてないぞ。今月はまだデザイナーズチョコレートを考えてないようだな。余程深刻と見える」
「後でちゃんと考えるから……」
「璃子、葉月珈琲での璃子は、悩める乙女である前にショコラティエだ。今の気分とは別に、物作りをし続けられるだけの気力が求められる。先月のデザイナーズチョコレートだって、作品に悲しみと悩みが反映されていたぞ。分かりやすいな」
あえて璃子に寄り添わなかった。何か悩んでいる暇があるなら、作品の1つでも作っている方がずっと有意義だ。その感覚を取り戻してもらいたかった。悩んでる時間が無駄というか、それだったらいっそのこと、自分の作品を蓮の親にでも食わせに行きゃいいのに。
「璃子のチョコレートを蓮の親に食べさせてみたらどう?」
「食べさせたら解決するの?」
「一度も会ったことがない上に、どんな奴か分からないから警戒されてるんだ。どんな奴かも分からない相手から、いきなり息子との事実婚を要求されたって、反発するのは当然だ。僕は唯の親に何度も会ってそれなりに打ち解けたから、事実婚を受け入れてもらえたんだ」
「そうだけど……」
「今度蓮の親をうちに連れてきてもらうように言っておいた」
「ええっ!?」
璃子が思わず大声で不意打ちを食らったような声を上げた。
周囲の親戚が一斉に璃子の方を向いた。
「あっ、いや……何でもないから」
璃子が慌てて片手をバタバタ振って訂正する。
「お兄ちゃん、どういうことなの?」
「蓮に連絡しておいた。二つ返事でOKしてくれたぞ」
「もうっ! すぐ勝手なことするんだから!」
璃子は逃げるようにクローズキッチンへと引き籠ってしまった。しばらくして美羽が僕の隣に座ってくる。妊娠中なのか、酒を飲んで酔っ払っている様子はないし、着物姿がよく似合っている。
「ふふっ、前々から思ってたけど、あず君の着物姿、どっから見ても女の子みたいで可愛いっ。26歳の男性には見えないなー。見た目だけなら女子中学生なのに」
「何度も聞いたぞ」
「璃子ちゃんと何かあったの?」
「大したことじゃねえよ」
璃子の事情を美羽に話した。名前を変えるのが嫌で事実婚なんて、美羽にとってはしょうもないことだと思っていたが、意外にも美羽は理解を示してくれた。
美羽もまた、穂岐山家最後の子供だった。
だが子供は美羽1人だけであったため、穂岐山家は別の親戚が引き継ぐことになったんだとか。最初は穂岐山社長も吉樹を婿養子として迎え、穂岐山姓にしようと考えていたが、吉樹がそれを断り、不成立となった。何だかんだで吉樹も楠木家の人間としての自覚がある。
とはいえ、こんな事実上の家制度は廃止した方がいい。
「うちのお父さんはあっさり諦めてくれたけど、璃子ちゃんはそうもいかないみたいだな」
「だろうな。あっちは一人息子で服装もそれなりに高いものばかりだったし、とても大事に育てられてきたのが分かる。蓮の話を聞く限りだと、あれは何度も会って好感度を上げないと陥落しそうしない。親に逆らえないのは一人っ子あるあるかもな」
「それ、遠回しにあたしのこと貶してない?」
「んなわけねえだろ。美羽は独立できたじゃん」
「あず君がいなかったら、あたし、穂岐山珈琲を継いでたかも」
満更嘘でもない説を唱えながら話が進んでいく。美羽だけじゃない。伊織も真理愛も放っておいたら親の言いなりになって、自分の人生を生きられないままになっていたかもしれない。あくまでも傾向の話ではあるが、一人っ子が社会的に不利なのは明白だ。
そんな話をしていると、親戚一同が一斉に外へと飛び出した。昼食と夕食の間に近くの神社まで初詣に行くのだが、クリスマスを過ごした後すぐ神社に行くのは傍から見ていても不思議な光景だ。理由は諸説あるが、一説によると、神道の考え方が浸透しているからであると言われている。
八百万の神々という言葉にもあるように、この国にとっては、西洋の神も東洋の仏も数ある神々の内の1体にすぎない。そのため順番に神々を巡るような行為に対して抵抗がないものと思われる。だが宗教の種類に関係なく何かを祝うのは、やはり違和感しかない。
「うわぁ! あず君だ! あず君がいる!」
「えっ、どこどこ!? ホントだぁ、めっちゃ可愛い~!」
早速見つかってしまった。有名になってからはいつもこうだ。
1人に見つかると芋蔓式に全員が騒ぎ出し、光に群がる虫の如く僕の周囲に集まってくる。僕の周囲を上から見ると、大きく穴が開いているように見えることだろう。
璃子は珍しく初詣を欠席した。親戚の内の何人かは留守番を担当する。うちにとって初詣はそこまで神聖なものではない。唯も育児のため同行しなかった。
璃子はクローズキッチンに引き籠ってから出てこない。
「あず君、明けましておめでとうございます」
「伊織……めっちゃ綺麗じゃん」
伊織が後ろから話しかけてくる。すぐそばには静乃と莉奈も一緒にいる。
伊織は去年のクリスマスに僕がプレゼントした着物を見事に着こなしている。青色を基調とした立派な着物にお団子ヘアーが見事に決まっている。見ているだけで惚れ惚れしそうだ。
1つ気になるのは莉奈の私服だ。静乃も立派な着物姿だが、莉奈だけはいつもの私服のままだ。
莉奈の着物姿も見たかったな。
「ありがとうございます」
伊織がもじもじとしながら顔を赤くして言った。
「伊織はいいよねー。こんなに立派な着物をプレゼントしてもらってさー」
「莉奈もいつかプレゼントしてもらえばいいじゃん。あの、これっていくらだったんですか?」
「200万くらいかな」
「「「「「200万っ!」」」」」
「京都産の最高級品だからな」
「私の着物でも50万円したのに。いいなー」
「こっ、こんなの頂けません!」
伊織が慌てて受け取り拒否をしてくるが、既に伊織のものだ。似合っていて可愛いし、これを見られただけでも200万円払った価値はある。課金しているような感覚だが、見返りは一切求めない。
僕の気持ちとは裏腹に、伊織にはこれが重苦しく感じるようだ。
「僕はいつも伊織から希望を貰ってる。君は次世代トップバリスタ最有力候補なんだから、むしろこれだけじゃ足りないくらいだと思ってる。別にお返しはいらないけど、もし何かお返しがしたいって思うんだったらさ、葉月珈琲の柱になってくれ」
「……はい」
伊織は遠慮がちな笑顔で返してくれた。重苦しく感じる必要はない。僕はいつもそれ以上の恩恵を受けている。今後どこまで伸びるか分からない期待の星を育てていく贅沢につき合わせてもらっている。うちの店では僕より人気になっちゃってるし、ポテンシャルだけなら僕よりも上と確信している。
「あず君、ちょっといいかな?」
「どうかした?」
吉樹とべったりくっついていた美羽が僕に話しかけてくる。それもかなり深刻そうな顔で。僕はその表情からは何も読み取れなかった。少し離れて2人きりになる。
「あず君、ちょっとは莉奈ちゃんの気持ち考えたら」
「気持ちって?」
冷たく忠告してくる美羽に、僕は軽くあしらうように反応する。
「莉奈ちゃん1人だけいつもの私服姿だよ。莉奈ちゃんはきっと、何で自分だけ着物が着れないんだろうって思ってるはずだよ」
「着物が着たいならレンタルすればいいじゃん」
「あのねー、去年中津川社長から聞いたけど、莉奈ちゃんの家だけ貧乏のままで、静乃ちゃんや伊織ちゃんがどんどん生活水準が上がっていることに劣等感を持ってるの。何で気づかないかなー」
「他人と比較するような教育を施した親と学校の責任だ」
「それはそうだけど、今更そんなこと言ってもしょうがないでしょ」
「だったら2人にいつもの私服を着ろって言えるか?」
「そうじゃなくて、莉奈ちゃんにも着物をプレゼントしてほしいの」
「だったら美羽がプレゼントすればいいだろ」
「……」
美羽が一歩下がって押し黙った。格差は別にあっていい。1番稼げない人が飯を食えればな。
他人を見て劣等感を持つのは完全に本人の生き方の問題だ。
擁護する気にはなれない。自分は自分、他人は他人と思ってきた僕だから尚更だ。
「金持ちを貧乏にしても、貧乏人が金持ちになるわけじゃない。無理矢理格差を解消したら、今度は頑張った人が報われなくなる。行き過ぎた社会主義に対するサッチャーの警告とも受け取れる」
「でもあのままじゃ、莉奈ちゃんが可哀想だよ」
「その考え方こそ莉奈に対して失礼だ。貧乏が嫌なら這い上がるか最低限の生活で満足できるように価値観を根本から変えるしかない。伊織は着物をやるだけじゃ足りないくらいうちの売り上げに貢献してくれてる。今じゃうちの店で1番の人気者だ。君は貧乏な状態を可愛そうって言ってるんだろうけど、僕に言わせりゃあねぇ、努力した人が報われない社会の方がずっと可哀想だ」
「……」
落ち込む美羽を置いてその場から去っていった。吉樹は気が気でない様子で美羽に歩み寄っている。
美羽は元々上流階級の人間だ。それ故に貧困の本質がうまく掴めていない。貧乏な人に寄り添いたい気持ちは分かるが、いかんせん発想が上から目線すぎる。
――貧乏だから可哀想だと? 馬鹿言うんじゃねえ。
経済的先進国に限って言えば、誰でも金持ちになれるチャンスが与えられている。無論、全員分の席は用意されてないし、ほとんどの人は自分で席を作るしかないのだ。僕はただ、頑張って営業利益の向上に貢献してくれた人に報酬を与えた。莉奈に恥をかかせるために着物を伊織にあげたわけじゃない。今の伊織だったら、あげなくても自分で勝手に着物をレンタルしていただろうし、どの道莉奈が劣等感を持つことに変わりはない。何でそんな簡単なことも分からねえんだよ。
吉樹と美羽がうちに戻ってくることはなかった。
親戚の集会では、昼食の時にはいても、夕食の時点で帰宅する親戚もいる。逆もまた然り。夕食の時間には入れ替わりで大輔と優太がやってくる。正月に仕事を振った覚えはないが、それでも優先すべき案件だったらしい。だがそれよりも気になるのは璃子だ。
しばらくして璃子の様子を見に行くと、そこには真剣な眼差しで、機械によって粉々に潰されていくカカオと睨めっこをしている璃子の姿があった。クローズキッチンに引きこもってからずっとチョコレートを作り続けていたのか。何という集中力だ。何だかんだ言っても、璃子も葉月家なんだな。
「蓮の一家が来るのは次の月曜日だ」
「うん、分かってる。さっき蓮にメールで聞いたから」
どうやら蓮の親をチョコレートで陥落させる気らしい。
璃子はチョコを作ることにおいて一切妥協してこなかった。今までのチョコで満足するのではなく、次は昨日までに作ったチョコを上回る味を試行錯誤する作業を毎日繰り返してきた。チョコ以外の部分においては妥協しまくりだけど、そんな人でも譲れないものがあるのだ。
優子が相手でも意見するくらいだし。
何かで世界一になる人って、得意分野だけは妥協成分がないんだよなー。
多くの人は教育によって妥協を教わるが、妥協は人生の雑味でしかない。それを取り除いていくことで純度や質が高くなり、必然的に知識や技能も身についてくるのだ。
月曜日を迎え、蓮の両親がうちにやってくる。
1人は髪の所々に白髪のある眼鏡をかけた中年おじさん、もう1人は比較的若く見える中年おばちゃんだが、いずれも50代くらいだろうか。今でもカード決済を知らないためか、カードを持っている蓮の支払いだ。どうやら蓮は一般的な家庭の生まれらしい。
もうすぐ親が定年を迎えるのか、息子の仕事ぶりを聞くことも兼ねて来たようだ。予約されていたカウンター席に2人が座ると、僕と璃子はカウンターテーブル越しに対面する。嵐の前の静けさのような緊張感が葉月珈琲の店内を漂っている。今にもマルチバトルが始まりそうだ。
挨拶を済ませた後、いきなり本題に入ろうと、蓮の親父が口を開いた。
「璃子さん、あなたのことは息子から聞いています。結婚を考えてはいても名字を変えたくないとは、一体どういうことなんでしょうか?」
低い声で静かに威嚇するように言った。本人はそんなつもりじゃないんだろうけど。
「私は生まれて以来、ずっと葉月の姓を名乗り続けてきました。最初は名前にそこまでの拘りはありませんでしたけど、私や兄が有名になるにつれて、次第に葉月の姓に誇りを持つようになりました。苦心の末に確かな実績を残したことで、自分に自信が出てきたと言いますか、これだけ誇りある自分の名前を今更変えたいとは思いません。それが答えです」
「でもね、結婚するには女性が名字を変える必要があるんですよ。それ分かってます?」
「ちょっと待て。厳密に言えば片方が変える必要がある。女限定じゃない」
「そ、そうですか……」
古い制度の言いなりになっている割に法律を知らねえんだな。
ここまでは昭和人間あるあるだ。結婚自体は当人の問題と思うが、頭の固い人を親戚に持てば何かと苦労がありそうだ。親戚とのつき合いが単純計算で倍に増える。それでも結婚したいのかな。
もっとも、結婚したくない時代に結婚を考える人の想いは本物なのかもしれない。
「それよりさ、一度璃子のチョコを食べてみてくれよ」
蓮が張り詰めた空気を一変させようと、話題を変える一手に出た。
「あー、そうだね。何も注文せずに話だけしても悪いもんね。お父さん、早速注文しましょ」
「そうだな。璃子さんは確か、パティシエとして勤めていらっしゃるとか」
「ショコラティエです」
「ショコラティエ?」
「チョコレート専門の菓子職人で、璃子はワールドチョコレートマスターズっていうショコラティエの世界大会で優勝した世界一のショコラティエだ」
何で蓮がそんなに誇らしげなのかな。ていうか完全に僕の台詞取られたし。
「へぇ~、それは凄い」
ずっと無表情のままだった蓮の親父が初めて顔色を変えた。これは味を気に入るかどうか次第だな。
「どうぞ。今月のデザイナーズチョコレートです」
璃子が蓮の一家に出したのはボンボンショコラだった。
チョコレートの中では基本中の基本と言えるものだ。茶色を基調とした球体に砂糖で雪化粧が施されており、中にはピスタチオやアプリコットといった食材が丁度良い分量で入っている。
3人はそれと一緒にうちの名物、パナマゲイシャを注文した。
「……とてもまろやかで美味しいですね。少しばかりしょっぱさを感じますが、これは何ですか?」
「塩です。他の食材だけだと甘すぎるので、甘さを抑えつつ、アクセントを追加しようと思って塩を使いました。糖分と一緒に塩分の補給もできます」
「かなり考えられているな」
「これだけお菓子作りがうまいんだったら、良いお嫁さんになるんじゃない?」
「腕は申し分ない。でも名字変更の件は、ちゃんと2人で話し合ってくださいね」
さっきよりも状況が改善したな。
名字変更を拒むこと自体を反対しているところから、2人で話し合うところにまで持っていけた。
璃子のチョコレートには人を和解させる不思議な力がある。過去にも何度か璃子の作品を通して仲直りしたり、今まで以上に仲良くなった人たちを何組も見てきた。
璃子が僕の方に目をやると、僕は他の人には見えない位置から璃子にグッドサインを出した。
グッドサインを見ると、僕と同様の行為を返した。
「それにしても、凄く仲の良い姉妹ですね」
「そう見えますか?」
「ええ。今時ここまで仲の良い姉妹は見たことがありません」
「僕、男なんだけど」
「「……」」
まあこうなるわな。僕を初見で男と見抜けた者はいない。
可愛いと褒めてもらえるのは嬉しいけど、男として複雑だ。
ゲイシャのコーヒーも味に深みがあると、悪くない評価を貰うことができた。世界一のコーヒーに世界一のチョコレートを組み合わせると、こんなにも神秘的なマリアージュを実現できるのだ。
僕のコーヒーに対する璃子のチョコレートのような理想的な関係だったら、文字通り結婚も悪くないとは思うけど、それはあくまでもフレーバーの世界での話だ。人間同士だとなかなかこうはいかない。
「伊織ちゃん、会計頼む」
「はい。デザイナーズボンボンショコラ3つと、パナマゲイシャ3つで、1万2960円です」
「えっ……そんなにするの?」
「全部高級食材を使っているので、値は張りますけど、それなりの品質と価値は保証します」
「この値段でも、こんなにお客さんが来るってことは、相当人気なんだねぇ~」
「ほとんど兄のネームバリューですけど」
「あなたがこの家に誇りを持っていることはよく分かりました。あなたが名字を変えずに、うちの蓮と一緒になりたいなら好きにしてください。ただ、自由には責任が伴うことを忘れないでくださいね」
「……はい」
結局、璃子と蓮の結婚の話は話し合いで決めることになり、当初の予定であった事実婚にすることであっさり決着がついた。チョコレートがなかったら、もっと拗れていたんだろうか。
でも、璃子の職人としてプライドは、それなりに伝わったようだ。
――自由には責任が伴うか……厳密に言えば、自由にも責任が伴うが正解なんだけどな。
世間に束縛されて不自由になっていた連中が、揃いも揃って無責任であることの裏返しとも受け取れる言葉に聞こえた。どんな道だろうと、自分の人生は自分で責任を取ることになる。この言葉はただの脅しでしかない。人は元から自由であり、それに早く気づけるかどうかの差でしかないのだ。
こうして、璃子の恋の悩みは、無事に解消されたのであった。
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