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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第8章 バリスタ社長編
200/500

200杯目「悩めど時は過ぎ行く」

 柚子は今年会社を畳んでからというもの、元同級生たちが散り散りになったと聞いている。


 しかも身内である僕がバリスタとして成功を収めたことで更に落ち込んでいるらしい。


 比較なんてする必要なんてないのに。僕は僕、柚子は柚子だ。そこに優劣なんてものはない。柚子だって一度は婚活イベントで、葉月商店街を人で埋め尽くすことに貢献してくれたじゃねえか。


「あず君、私、今何がしたいのか分からないの」

「奇遇だな、僕もだ」

「こっちは真剣なんだけど」

「本当のことだ」


 僕だって、今の自分がどうあるべきなのか、皆目見当もつかないくらいだ。


 結局、人生とは壮大な暇潰しであり、自己満足できるかどうかが全てだ。


「あず君が私の立場だったらどうする?」

「のんびりニートとかやってるんじゃねえか。今の仕事だって別にやりたくて始めたわけじゃないし、進学も就職もしたくなかったから、一生懸命別のことを我武者羅にやっていたら、いつの間にか今の仕事に辿り着いてたってだけで、行き当たりばったりだ」

「確か唯ちゃんが子育て大変で、全然お店に出られないんでしょ?」

「そうだな。唯はうちの看板娘で、特に人気があったけど、もう限界かもしれない」

「どういうこと?」


 9月が終わりかけの頃、唯はJBC(ジェイビーシー)に、優子はJCTC(ジェイクトック)に準決勝から出場した。唯は決勝まで進出し、過去最高の4位、優子は初出場ながら、いきなり決勝進出して3位、2人共トロフィーを持ち帰ってきた。やはり優子は凄い。僕よりもずっとバリスタ経験が浅いはずなのに、それでも優勝を視野に入れるあたり流石だ。もっと若い内から大会に出ていればと思うとやるせない気持ちになる。どちらも今まで以上に真剣で申し分のない活躍だった。


 やっぱり大会は難しいと優子は言ったが、とても難しそうな感じはしない。唯は出産と子育てが重なったせいか、入念な準備ができなかったこともあり、決勝で準備不足が露呈する形となってしまった。


 来年は大丈夫とは言うものの、内心では自らの限界を感じているようだった。


 なかなかうまくいかないもんだな。妊娠によるブランクの差はそう簡単に埋められるものではなく、こういうところで女が不利になってるんだと思う。唯は迷っていた。バリスタか子育てかで。


「唯ちゃんはあず君の期待に応えたかったんだと思う」

「唯にとって、バリスタは本当にやりたいことだったのかな。今でも時々考えてしまうというか、唯が本当にやりたいことって何なのかな?」

「もう叶えてると思うよ。あず君と一緒にいるだけで、とっても幸せそうだし」

「なあ柚子、もう一度バリスタ、やり直してみるか?」

「あず君のお店って、スタッフ足りてるんじゃないの?」

「さっきも言ったけど、唯が育休で休みがちになったからさ、そろそろ募集しようと思ってたところ。今後は瑞浪と一緒に子育てに専念したいように見えるし」

「――じゃあ、お願いしようかな」


 こうして、11月からは柚子がうちで働くことに。


 柚子は一度、自営業時代の葉月珈琲で働いた経験こそあるが、今とは全く異なる環境だ。


 自営業時代の終わりと共に柚子は社会人として旅立っていった。再びここに戻ってきてくれたことを僕は心底嬉しく思っている。そろそろ親から独立したいということもあり、うちに転職するついでに、うちで一緒に住んでくれることになったのだ。


 吉樹と美羽の結婚式は無事にお開きとなり、葉月珈琲で2次会が行われた。


 柚子はすっかり悩みが解消された。しばらくは何も気にせず、うちで働いてくれるらしい。柚子は穂岐山バリスタスクールの非常勤講師を辞めることを伝えた。うちが奪い取った格好になったが、それもそのはず、今の楠木家は財政がピンチらしい。親が仕事を辞めて年金生活に入ったのだ。子供が2人とも経済的に自立していることに安心した矢先だし、早く親を安心させたいってのもあるわな。


「しばらくお世話になるけど、よろしくね」

「柚子なら大歓迎だ。代わりにと言っちゃあれだけど、子供の面倒も見てくれないか?」

「赤ちゃんよりずっと面倒な人の世話をしてきたから、お安い御用だよ」

「ふふっ、何だよそれ。でも助かるよ」


 柚子に笑顔を見せると、柚子も僕に笑顔で返してくれた。もう一度一緒に働く機会が来るとは思わなかった。あっ、そうだ。瑞浪にもちゃんと伝えておかないと。


「まあそういうわけだから、ハウスキーパー契約を継続することが決まった。今後もよろしくな」

「こちらこそ、最高の生活をさせてもらっているし、また日常に戻る時が怖いけど、世界一のバリスタの家に住んでいた経験はきっと無駄にならないと思う。私はハウスキーパーである前にあず君のファンでもあるから。応援してるね」

「あず君、それだったら私、来年から瑞浪さんと一緒に家のお手伝いするね。ハウスキーパーが2人もいれば、唯ちゃんの負担も減るでしょ」

「分かった。じゃあ来年から一緒だな」

「ふふっ、本当に仲が良いんだね」


 瑞浪が微笑みながら言った。これが大人の余裕というやつなのか。


 以前と比べると、すっかり落ち着いた人になってるけど、やっぱ人生経験の差かな。


「そんなに仲良いように見えるか?」

「うん、とっても。だっていとこで一緒に住むことをすんなり決められるって、なかなかあり得ないことだよ。余程好かれてるんだねー。羨ましいなー」

「そっ、そんなんじゃありませんからね!」


 柚子が顔を赤らめながら言った。かっ、可愛い。もじもじとしながら目を逸らす姿……いい、いいぞ。普段の柚子はクールビューティーなイメージだし、可愛いところを見せた時の可愛さはピカイチだ。


 柚子が僕に好意を持っていることは瑞浪にはバレている。何だろう。今まで当たり前のように離れていた人と一緒に住むのが分かると、やっぱ嬉しいもんだな。慣れ親しんだ日常がガラリと変わるのが、嬉しさや寂しさの正体なのかもしれない。唯には当分の間、育児に専念してもらうことに。


 唯は夢を叶えて満足していた。若くして余生を楽しむ感覚で生きていたのは唯も同じだった。


 ふふっ、何だか笑えてくる。やっぱり僕らは似た者同士なのかもな。特に柚子と仲が良かったのは真理愛だ。歳が近い上に親切で優しくて、おっとりした性格を柚子も気に入ったらしい。彼女は性別とか関係なくモテるタイプだ。清楚系でコーヒー好きという共通点もある。


 しばらくは真理愛に柚子の教育係を任せた。


「自営業時代の話は聞いてましたけど、柚子さんがその頃からいたってことは、私が後輩ですね」

「いえ、この場所は初めてですから私の方が後輩です。オレンジの制服はあず君が作ったものですね」

「はい。制服に何か思い出があるんですか?」

「昔、ライトグリーンの制服をあず君が私のために作ってくれたんです。一度辞めた後、親戚が引き継いだんですけど、今でもずっと大事に着てくれてるんです」

「そうだったんですかー。良い思い出ですね」


 そういえば、柚子用の制服をまだ決めてなかったな。


 僕はピンク、唯はライトピンク、璃子はライトブルー、優子はラベンダー、真理愛はオレンジ、伊織はアクアブルー、リサはレモン、ルイはライトグリーン、レオはグレー、エマはライトパープルだ。


「柚子、ミントグリーンとオリーブが余ってるけど、どっちがいい?」

「……やっぱりこっちかな」


 柚子が受け取ったのはミントグリーンの制服だった。


 やっぱりそっちを選ぶよな。柚子は昔から緑系の色が好きだ。


 2次会では多くの参加者がうちのメニューを注文してくれた。こうなると思い、今週だけはみんなにシフトをズラしてもらった甲斐があった。日曜日が潰れたのに、全然苦痛になっていない様子だ。


「よう、久しぶりだな」

「お久しぶりです」


 伊織はカウンターテーブルを挟み、正面に立っている松野と挨拶を交わした。


 2人は以前から出会っていたが、松野が彼女をライバルとして認識するのは初めてだ。伊織はそんなことは全く意識していないだろうが、あえてそのことを伝えていない。


 ライバル意識なんて、いらないのかもしれない。かつての僕には自分自身という最大のライバルを超えることしか頭になかったし、大会では自分以外全員が自動的にライバルになる。ライバルがいようがいなかろうが、結局は優勝を目指すところに落ち着く。


「俺、今はバリスタトレーナーをやってる。うちの教え子が君と同じ大会に出るかもしれないからさ、是非とも仲良くしてやってくれ」

「それは相手次第です。気が合わなかったら距離を置きます」

「ふふっ、まるであず君だな」

「みんな口に出さないだけで、大半の人は同じ考えだと思いますよ。全員と仲良くしようとしたら疲れちゃいますから、無理なく仲良くできる人とだけつき合うのが自然だと思います」

「やっぱり君は……あず君の愛弟子なんだな」

「……ずっと一緒に働いてきた師匠です」


 伊織が微笑みかけるように答えた。言ってることが僕に段々似てきたのは確かだが、人当たりの良さでは僕よりも饒舌だ。臆病だった昔と違って肝が据わってきた。


 ここまで言えるようになったなら、悪魔の洗脳は抜けきったと言っていいだろう。


 12月を迎えると、柚子は早くもうちの面々と仲良しになっていた。


 柚子はすぐに技能を習得していく。うちで働いていたから作業には慣れている様子だし、穂岐山バリスタスクールでも非常勤講師として勤めているだけあって、とてもテキパキとしている。まずは与えられた仕事を100%以上こなせるようになれ。目の前の仕事を全力でやっていれば、きっと今やっている仕事から、自分のやりたいことを見つけられるはずだ。


「柚子、バリスタの基本動作を覚えたら、次は料理な」

「複数のスキルを持った方が、独立する時に有利とか言うんでしょ?」

「何だ、分かってるじゃん」

「そう言うと思って、家で料理してたの。レギュラーメニューだったら、全部作れるから問題ないよ」

「用意周到だな」

「昔よりもここのレベルが上がっていることは、美羽さんに聞いてるから」

「美羽は何て言ってた?」

「辞めるのはいいけど、あず君の元で働くなら全力でやらないと、たとえ身内であっても追い出されちゃうよって言われちゃった。ここにいると、みんな有能に見えてくるから、家で修業でもしないとまずいなって思ったの。私、ここんとこあず君の元で働いていて分かった。労働者の方が楽だなって」


 柚子が笑いながら言った。経営者経験のある柚子ならではの言葉だ。経営者は創造性が求められる。だが労働者は言われた仕事をこなせればそれでいい。楠木マリッジを経営していた5年間で、柚子は自分に経営者としての才はないと気づいた。大きなイベントの時に毎回僕を頼らないといけなかったし、失業すれば飯を食えないからという理由で、無能ばかりを優先的に雇ってしまい、無能な上層部の私腹を肥やしていたことに気づかなかったあたり、才能がないのは誰の目にも明らかだ。


 指示されることが嫌でもなければ労働者という生き方も悪くはないが、それはそれで工夫が必要だ。ただ従うだけでなく、スキルを身につけ、行く行くは自力で食っていけるようにならなければ、生きているとは言えない。労働者の価値は年々下がっているのだから。


「うちは有能以外は働くながモットーだからな」

「ここにいるだけでコーヒーを淹れるのがうまくなりますし、料理も作れるようになります。それに英語も話せるようになりました」

「この国では1つ何かができるだけで有能と見なされるのに、何故かみんなやらないからな。この国で成功するのは楽勝ってことだ」

「それ、倒産経験がある人の前で言うんだ」


 柚子がジト目でこっちを見ながら言った。


 自分は楽勝なゲームさえクリアできないとでも思ったのか?


「会社が潰れたくらいでしょげんなよ。仮にも5年続いたんだ。柚子にしてはよくやった方だ。ほとんどの会社は3年で潰れるからな」

「何その上から目線、ムカつく」

「そう思うなら這い上がってこい。後になって人を見る目なかったなって言い返してみろ」

「……分かった。ならあず君が驚くくらい仕事ができるようになってみせる」

「やれるもんならやってみな」


 柚子はクールだが、挑発されると内心はホットになる。


 一度挫折を味わったんだ。もう怖いものなんてねえだろ。


 12月下旬、クリスマスがやってくる。


 この日はクリスマス会であると同時に、柚子の歓迎会でもある。あと数日も経てば、柚子がうちへと引っ越してくる。柚子なら良いハウスキーパーになれそうだ。


「それじゃー、クリスマスを祝って、カンパーイ!」

「「「「「カンパーイ!」」」」」


 身内が勢揃いしたところで、実質香織が仕切っているクリスマス会兼歓迎会が始まった。


 小夜子たちは結婚したばかりの吉樹と美羽を盛大に言葉で祝っていた。最初こそ、まさかこの2人がという反応だったが、これで美羽も来年から楠木家の一員として、うちに毎回来ることになる。つまり美羽は穂岐山家を出るってわけだ。穂岐山家が寂しくなるな。


 今年も終わりか。去年よりインパクトなかったな。


 去年の今頃はあまりの忙しさにヒーヒー言ってたけど、慣れてくると、案外大したことないって思えてくるんだよなー。バリスタオリンピックの時期が人生で1番濃密だった。


「今年も相変わらずお兄ちゃんしてたね」

「何で僕動詞になってんの?」

「その人特有のことは動詞になるの」

「意味が分からん」

「心配しなくても、お兄ちゃんより意味不明な存在はいないから。一緒に住んでる私でさえ、今でもお兄ちゃんがどんな生物なのか、あんまりよく分かってないし、他人には尚更分からないよね」

「分からなくてもいいだろ」


 むしろ放っておいてくれた方がどれだけ助かったか。愛の反対は無関心とはよく言うが、僕は無関心こそが多様性を認めることだと思っている。いちいち関心を持たれて話が止まってしまうのは多様性どころか対話すら阻害している。眼鏡の人を見ても気しないくらいの寛容さを持ってもらいたいものだ。


 有名になったお陰で自己紹介はしなくて済んでるが、通行人から度々話しかけられるのは勘弁してもらいたい。人に恐怖は感じなくなったが、ただの通行人として扱ってもらいたいのが正直なところだ。


 璃子と共にオープンキッチンから賑やかに今年の出来事を話すみんなの様子を眺めている。


「でも変わったところもあったね。業務提携に完全監修。あれほど人と一緒に仕事をするのが嫌だって言ってたお兄ちゃんが、あそこまでやるなんてね。正直驚いた」

「璃子も蓮との交際、順調そうだな」

「……私も事実婚しようかな」

「だったらまずは親の説得だな」

「知ってたんだ。蓮の親のこと」


 璃子が呟くように言った。名字変更が結婚する上で大きな障害になっている。


 しかも僕が事実婚でうまくいっていることからも、璃子の心は大きく揺れていた。白い目で見られるのも嫌、かといってずっとこのまま発展しないのも嫌。そう言っているように思えた。


「この国じゃ、事実婚に抵抗のある人は少なくないからな。理由は迷信みたいなものだけど。世間の評価を気にしたってしょうがねえよ。既に僕という前例もあるんだ。親が説得できないなら、蓮が実家と縁を切る覚悟をするしかねえな」

「私1人のために、そんな自分勝手できないよ」

「何をどうやったって、嫌う奴は絶対に出てくるぞ。だから世間なんか無視して、自分が最も悔いのない生き方をするしかねえんだよ。じゃないと死ぬ時になって――」

「後悔する……でしょ?」


 ――何だ、よく分かってるじゃねえか。


 僕なんか結婚せずに子供を2人持ってるくらいだ。


 結婚している家の子供よりは多少不便かもしれないが、規定された生き方を強いられたくなかった。子供ができたから結婚なんて、それこそレールの上に乗せられているみたいで嫌になってくる。


 これは2人の覚悟の問題である。


「唯ちゃん、ちょっといい?」

「はい、何ですか?」

「お兄ちゃんと結婚したいって思ってる?」

「そりゃー、正直に言えばしたいですよ。でも私にはあず君がついてます。世間なんて怖くないです」


 璃子が大きく目を見開き、何かに気づかされたかのような表情になると、オープンキッチンの側にある椅子に座ったまま斜め下を向いた。璃子たちには覚悟がなかった。2人で困難を乗り越える覚悟が。


 世界大会は物怖じせず出場したくせに、たかが結婚ごときにここまで悩むなんて、僕に言わせりゃあほらしい話だ。同居してる時点で結婚しているようなものだってのに、精々紙切れ1枚分の差しかないもののために神経を擦り減らす意味が分からない。


 愛し合うって、こんなに辛いものだっけ?


「私は……蓮がついてるからなんて、思ったことなかったな」

「俺は璃子がついていれば大丈夫だと思ってるぞ」

「……! もう、いるならいるって言ってよ!」

「気づかれないようにこっそり聞いてたんだよ。あのさ、親父とお袋を説得できなかったら、俺と一緒に駆け落ちしてみるか?」

「なっ、何言ってんの!?」


 なるほど、覚悟ができてないのは璃子だけだったか。


 璃子は顔を赤くしたまま黙っている。これがまた僕の心を擽るほどに可愛いのだ。蓮もこれを見て好きになったんだろうか。横から見える膨らみも、思わず触ってしまいたくなる張りと艶を持っている。


 この問題に僕が干渉するべきではなさそうだ。


「みんな聞いてー! 今から重大発表がありまーす!」


 そう思っていると、さっきまでみんなと仲良しそうに喋っていた美羽が大声で注目を集めた。


 もしかして東京に戻るとかかな。


「え~っ! 言っちゃうの~っ!?」

「いいじゃん。どうせすぐばれるんだし」

「美羽さん、どんな発表なんですか?」

「私気になります」

「ほーら、この際だから言っちゃお。ねっ」

「う……うん」


 吉樹が恥ずかしそうにしながら何かを渋々認めた。


「実はあたし、妊娠したの」


 美羽が笑いながら自らの腹を手で擦った。


「「「「「ええ~っ!」」」」」


 みんなが一斉に驚いた。だから恥ずかしそうにしてたのか。草食系に見えてやることはやってたか。どちらかと言えば、美羽がリードしてる姿が容易に想像できる。


 僕に襲いかかるくらいに積極的な肉食系だし。


「えっ! そうなんですかっ!? おめでとー!」

「「「「「おめでとうございます!」」」」」


 最も驚いていたのは璃子だった。こうして悩んでいる間にも、好きな人と一緒になって子供を産む機会が失われていくことを実感している。対照的なカップルだ。璃子にはそのように見えた。今の結婚制度に違和感すら持たない吉樹と美羽は最高に幸せそうにしている。


 璃子もまた、自らが社会不適合者であると思い知るのだ。


 このやるせなさを象徴するように、外には寒い風が吹いている。


 璃子と蓮を尻目に、クリスマス会は盛り上がりが最高潮に到達したところでお開きとなった。みんなが帰っていくと、僕らに付き添うように蓮も残った。


 待ってはくれない時間が川の如く流れ続け、この年も終わりを告げるのだった。

第8章終了です。

次回からは第9章の次世代バリスタ育成編を投稿します。

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読んでいただきありがとうございます。

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[一言] ついに200話かー。おつです。 私は凡人なので、どのキャラクターも100%は好きにはなれそうにありません。 けど、そういう有りかたはとてもいいと思う。だから今でも読み続けています。
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