表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第1章 学生編
20/500

20杯目「スイートでビターな日々」

 左手小指骨折の後、冬休みが終わってから登校させられた。


 ここまでに何度か学芸会や学習発表会など色々あったが、面白くないし、授業ですらないという理由でいずれも欠席している。参加させられた行事と参加を免れた行事は基本的に同じだ。文化祭系統のような思い出作りのための行事なんて好きでやるものであって、誰かに強制されるべきものじゃない。


 小6の3学期に初登校をさせられると、教室に入った時、若曽根が僕に話しかけてくる。


「この前はすまん」


 若曽根が謝りながら頭を下げる。僕はもう二度と迫害しないことを約束させた上で、もう僕には近づかないように伝えた。あんな苦しみは僕だけで十分だろう。


「骨折した指、大丈夫?」


 担任からも心配される。


「まだ教師やってたんだ」


 気がつくと、僕は反射的に思っていたことを包み隠さず言ってしまっていた。


 骨折した子供に対して迫害行為を行うのは、教師の器ではない。


「あの時はごめんねー。骨折してるとは思ってなかったから、ついあんなこと言っちゃったの」


 担任からも軽い口調で謝られる。


 だがこいつが教壇に立っている内は、到底許そうとは思えなかった。


「教師を辞めたら許してやるよ」


 冷たい声で言うが、担任は納得していない様子だ。この頃から僕の心に大きな変化が生じた。左手小指骨折事件が悪い意味で効いたのか、嫌いな人間はあからさまに突っ撥ねるようになり、ここにきて人間関係の断捨離を覚えた。それまでは誰に対しても寛容だったはずなのに、どうしてこうなった。


 しかもこの時担任を許さなかったことで、担任からも制裁を受けることになる。


 小1の時から置き勉をしている。宿題なんてやらないし、ランドセルが重くなる。だが担任は僕に置き勉を禁止するように言ってきたのだ。もちろん断っていつも通り置き勉した。すると、次の日に僕の机の中から教科書も筆記用具もなくなっていた。だが僕は気にすることなく授業中に睡眠する。


 放課後になると、担任に引き止められた。


「何で教科書も筆記用具もないか分かる?」

「知らない。どうせ勉強しないから関係ないだろ」


 担任は置き勉をしたら盗まれることを教えるべく、机から物を全部別の場所に移したと言った。僕は相手を軽蔑するような声で返した。あの攻撃は僕には刺さらなかった。大半の人はこれをされると反省するらしいが、僕にとって教科書はただの紙でしかないのだ。


 子供騙しで応えると思ったか? てめえの方がずっと子供だよ。小1の道徳からやり直すんだな。


 バレンタインデーが近づくと、クラスの誰もがこの話題で持ちきりだ。


 うちの学校は原則バレンタインチョコ禁止であるため、僕はバレンタインデーを迎える度、同じく商店街に住む近所の女子全員から義理チョコを貰っていた。


 貧乏暮らしだった僕にとってはありがたい習慣だった。


 貰ったチョコの大半は食べきれないため、余った分は璃子が回収し、手作りチョコや新しいチョコレート菓子に変わっていた。他の男子も数人の女子から義理チョコを貰っていたが、僕が貰った義理チョコよりも数が少なく、パッケージは同じでも、チョコの質には差があった。


 何で義理チョコ1つでこんなに差をつけるんだ?


 優子の家、ヤナセスイーツまで赴くと、彼女にも聞いてみることに。


「――あず君は鈍感だねー」


 優子が机に肘をつき、その手を頬に当てながらほくそ笑むように答える。


 僕には鈍感の意味がまるで分からなかった。


「味覚と嗅覚は敏感だぞ」

「ふふっ、そういうところが鈍感なの。少しは乙女心を分かってあげてほしいなー」

「多分、乙女心は一生を費やしても分かりそうにない」


 目を逸らしながら悟りを開いたような顔で答えた。


 優子は根負けしたのか、ようやく事の真相を話してくれた。


「今時あからさまに本命チョコなんてあげたりしたら、あげた人や貰った人が嫉妬されちゃう世の中だからさ、名目上は義理チョコってことにして、中身で差をつけてるの」


 えー、そんな事情があんのかよー。


 ――これが本音と建前の文化ってやつか。やっぱ人間関係ってめんどくせえわ。


「あー、そういうことか。全然知らなかったなー」

「普通の人はここまで言わなくても分かるんだけどなー」

「悪かったな、普通じゃなくて……ありがとう。お陰で謎が解けた」


 あっさり納得すると、その足でヤナセスイーツから出ようとする。


「誰にも話しちゃ駄目だよ」


 優子はいつもより低い声で忠告する。


 後ろ向きで顔は見えなかったが、ちょっとばかり怖かった。


「わ、分かってるよ……じゃあな」


 ヤナセスイーツを後にして帰宅する。店から漂うスイーツの香りも忘れて……。


 ――バレンタインデー当日――


 今までは学校外の行事に厳しい担任ばかりで、バレンタインチョコは事実上禁止されていた。


 しかし、新井先生はバレンタインデーが好きだったのか、当日の終礼になると、高そうな義理チョコをクラスメイトに配るが、担任が僕の席の前でピタッと足を止め、袋の中からチョコを出す。


「先生を許してくれるならあげる」


 不覚にも条件を突きつけてきた。


 ――えっ? 子供を物で釣るとかマジで言ってんのか? しかも罪を許してもらおうなんて、こいつの倫理観は一体どうなってんだ?


 一瞬戸惑ったが、僕の対応は変わらない。


「教師を辞めたら許す」

「そんな悪い子にはあげません」

「自分の罪を物で揉み消そうなんて、恥ずかしくねえのか?」


 要求を突っ撥ねると、僕だけチョコが貰えなかったが、呆れ顔になりながら冷たい声で言った。


 やっぱりこいつは人間失格だ。僕の見立てに間違いはなかった。


「じゃあ友達から貰えば?」

「友達なんていない」

「でしょうね。可哀想に」

「1人の方が好きな人間もいる。余計なお世話だ」

「そういう空気読めない子は一生友達できないよ」


 自由人の神経を逆撫でする無神経な台詞に、遂に我慢の限界がやってくる。


「いい加減にしろよ! 空気を読んで周りに合わせて自分を押し殺すなんて、ハッキリ言って息が詰まるんだよ! そこまでしないと好きになってくれない奴なんて、最初から友達じゃない! 空気を読ませてくる連中に合わせて、散々振り回されてる奴の方がずっと可哀想だ!」


 捲くし立てるように言うと、担任が僕の頬をバチッとビンタする。


「先生に向かって何ですかその口の利き方は!?」


 やっぱ滅茶苦茶だこいつら。殴ったり、骨を折ったり、ビンタしたり、やりたい放題だな。僕もそれなりにやりたい放題してたけど、こいつらほどじゃない。自由とは公共の福祉に反しないという条件ありきのものだ。こいつらは自由の意味を履き違えている。自由だからって何をしてもいいってわけじゃない。犯罪や悪行まで容認したら、それは自由ではなく世紀末だ。


 そんなことも分からん奴は豚箱に行っちまえ!


 僕が犯罪を犯さないのには重大な訳がある。豚箱に入ると、他の受刑者との集団生活が待っている。僕にとって集団生活は耐え難い苦痛だ。学校だろうと、会社だろうと、刑務所だろうと、嫌な連中と一緒に過ごすことを余儀なくされている時点で、場所が違うだけの懲役刑だ。


 もちろん、1人の方が好きな人間もいる。その理由は人によって千差万別だ。単純にめんどくさいからという人もいるし、オンラインでいつでも繋がれるからという人もいる。


 僕が1人を望むのは、人生が軽くて済むからだ。


 友人も恋人も結婚と同様、作ってしまうと背負うものが多くなり、人生が重くなりかねない。僕は基本的に体1つでいたい。誰かがそばにいる生活はなしではないと思うが、余程好きな人限定だ。そんな日は来ないと思っていた。友達ができる性格じゃないし、最初から1人なら寂しさの概念もない。


 ビンタを受けると、涙目になりながらも、連絡帳しか入っていないランドセルを背負い、終礼中に下校した。道を歩いていると、葉月商店街の店がバレンタインデー記念にチョコを安売りしていた。


 バレンタインデーに乗っかり、たくさんのチョコを販売するというものらしい。


 ――これ余ったらどうするんだ? 薄利多売の宿命か?


 教室でのバレンタインのことを思い出す。みんながチョコを食べていた時に凄く甘い匂いがして食欲をそそられた。ふと思った。誰もプレゼントしてくれないなら商店街の女子たちから貰えばいいんだ。そんなことを考え、帰宅後に冷蔵庫の中を開けた。案の定商店街の女子から貰ったチョコがたくさん入っていた。みんな恥ずかしがり屋なのか、いつもうちの親に渡していた。


 チョコの1つを掴んで取り出した。


 2階の僕と璃子の部屋まで赴き、チョコを貰う演出をするため、かつて璃子から強奪した女の子の人形の手にチョコの入った箱を乗せ、女子からチョコを貰う内容の1人芝居を始めた。


「これ、受け取ってほしいの。梓君のために作ったの」

「えっ、チョコくれるの? ありがとう」


 その時だった。後ろから冷たい視線を感じた。


 帰ってきた璃子が氷のように冷たく、憐みの目でこっちを見ていたのだ。恥ずかしいことに、チョコを貰う演出を璃子に目撃されてしまったのだ。


 見てはいけないものを見てしまったと言わんばかりに、璃子は黙って1階まで下りていく。


「あっ、いやっ、違うっ! 違うんだっ!」


 僕が慌てて言った時にはもう手遅れだった。


 ――やべっ、やっちまった。


 正直恥ずかしい。常軌を逸していた。ずっとお預けプレイをされていたのが応えていたようだ。僕は女の子の人形の手に乗せているチョコを何も言わずに食べた。璃子は冷蔵庫へと向かい、僕宛に送られてきたチョコを取り出すと、火で溶かして牛乳と混ぜてから型にはめる。璃子が作っていたのはミルクチョコレートだ。璃子はハート型の手作りミルクチョコを作り、しばらく冷蔵庫で冷やす。


 夕食を済ませた後、親の目を盗んだ璃子が僕に袋詰めのミルクチョコを持ってくる。


「はいこれ……義理だけど」


 璃子が目線を逸らしながら袋詰めのチョコを僕に渡す。


「どしたの?」

「いや、なんか見てられなかったから作ったの」

「璃子……ありがとう」

「何があったかは知らないけど、これで元気出してね」

「……うん、美味い、美味いよこれ」


 ハート型のミルクチョコをポリポリ噛み砕くと思わず涙が出てくる。


 今まで食べたチョコの中で1番美味かった――僕はこんな妹を持てて幸せだぁ~。


「お、お兄ちゃん、涙出てるよ。大丈夫?」

「うん、璃子のお陰で元気出た」

「私は元気なくなっちゃったけどね。それよりさっきのお兄ちゃん、めっちゃやばいことしてたけど、あんなこと絶対外でしないでね」


 璃子が汚物を見るような目でこっちを見ながら僕に忠告する。


 だが僕は気にも留めなかった。いや、気に留める余裕がなかったのだ。


「うん、いいよ。璃子、大好きっ!」


 嬉しさのあまり、正面から璃子に抱きついた。


「えっ、ちょっ、いきなり何!?」


 璃子は顔が赤くなっていた。後に璃子から聞いた話によれば、これがきっかけでショコラティエを目指すようになったらしい。僕が泣いて喜んだのが余程嬉しかったとのこと。


 璃子の将来の夢はOLだったが、学校にある自己紹介カードにはケーキ屋さんと書かれている。普段着の選択もセンスあるし、璃子は趣味で裁縫をしていたし、僕も刺激されて裁縫をするようになった。


 コスプレ衣装や制服作りのきっかけにもなった。本当によくできた妹だ。親からはもうお兄ちゃんなんだからとか、まるで僕の方が一人前じゃないといけないみたいなことを言われていたが、璃子の方が一人前というか……大人というか……情けない兄貴だな。


 璃子にまで気を使わせてしまったし、学校でもうまくいってないし、何度か自分を駄目人間だと思ったこともあった。社会性が壊滅的なところが、ここまで足を引っ張ることになろうとは。


 次の週の休み時間、僕は飛騨野に声をかけられた。


「先週はよく言ってくれたね」


 飛騨野はまるでスッキリしたように言った。彼女が言うには、自分も友達作りのために周りに合わせるのに苦労したらしい。僕の台詞を聞いて無理に友達作りはしなくなった。


「あの台詞を聞いて気が楽になったなー」


 飛騨野は惜しみない笑顔で言った。僕は言いたいことを言っただけなんだが……いや、人に気を使えないからこそ、できることがあるのかもしれない。


 今度は粥川に声をかけられた。


 一体何の用だ? インタビューならもうお断りだぞ。こいつの噂癖に悩まされるのは御免だ。


 何故こんなのばかり寄せつけてしまうのか。人と関われば関わるほど、苦労人の定義に近づいている気がする。粥川は誰にでも気さくに声をかける。良く言えば社交的、悪く言えば八方美人。


 ここまでは他の女子と大差ないが、こいつの噂を拡散させる能力には毎回驚かされる。周りの女子に合わせているようで、実は裏から操っている。一筋縄ではいかない女子だ。


「あれー、梓君じゃん。おひさー」

「なんか用? 僕疲れてるんだけど」

「冷たいなー。昨日先生にカッコ良い台詞言ったんだってー?」

「カッコ良い台詞じゃない。生意気な台詞だ」

「相変わらず正確な言い方に拘るねー」

「僕はそういう人間だ。誰にだって譲れないものがある」


 粥川に誘われ、昼休みに一緒に話しながら運動場や廊下を回る。事実上の学校デートだ。女子に誘われてデートしたことは何度かあったが、学校デートは初めてだった。見た目通り大胆な奴だ。


「ねえ、屋上行こっか」


 粥川が屋上に誘ってくる。何でみんな屋上好きなの? 定番なの? それとも他に場所ないの?


「……別にいいけど」


 渋々彼女の要望に応じる。屋上まで赴くと、彼女は屋上の網を手で掴んだ。


「もうすぐ、小学校卒業だね」

「今度は中学にぶち込まれるけどな」

「卒業前に言っておくね」


 粥川の目の色が変わる。今まで見せたことのない真面目な顔だ。


「あたしたち、つき合わない?」


 突然粥川が交際を申し込んでくる。


 おいおいおい、まだ好きかどうかも分からんのに何故いきなり告白なんだ?


 色々と手順をすっ飛ばしすぎじゃねえか?


「それ、好きでもない相手に言っていい台詞じゃないぞ」


 僕はドッキリ対策も兼ねて牽制の言葉を贈る。


「あたしは本気だよ。あたし、梓君が好き。ねえ、つき合おうよ」

「嫌だ……そういうのは他でやってくれ」


 僕は淡々と要望を突っぱねた。


 迷惑極まりない人をパートナーに持つとロクなことにならない。他の人にも告白されたけど、つき合おうとは思えなかった。少なくとも、この時は誰ともつき合おうと思えなかった。人間関係のめんどくささを知ってしまった以上、素直に誰かと深い仲になろうとは思えなかった。


 僕はどうしようもない臆病者だ。僕とつき合えば最終的に両方共傷つくことが分かっていた。人間関係とはそういうものだ。つき合えば必ず相手と傷つけ合うことになる。だから相手とつき合う場合は、その相手と傷つけ合う覚悟をする必要があるのだが、当時の僕にはそんな覚悟も責任感もなかった。


 一歩前へと踏み出す勇気がなかった。その結果、色んな人を傷つけてしまった。こんなことになるくらいなら、誰も好きにならず、当たり障りのない知り合い関係を保つことが最善であると考えた。


 誰かを好きになるのも辛いし、誰かに好かれるのも辛い。とても面倒な人間だ。


 好きになればなるほど、傷つくだけなのに……。


 何で女子たちはこうも薬物中毒患者みたいに僕を好きで居続けるんだ? 辛くないのか?


「……そ、そう。あたしはいつでも空いてるからね」


 粥川が作り笑顔で僕にフリーであることを告げる。


「僕はもうたくさんだ」


 皮肉の利いた言葉を返すと、彼女は大爆笑だった。どこが面白いんだか。こいつの笑いのツボがよく分からない。幸いにも噂にされることはなかった。


「梓君は美咲と仲良いよね? つき合ってるの?」


 今度は飛騨野との関係を探ってくる。


「……ただの知り合いだよ」

「ふーん、梓君は誰とつき合っていても不思議じゃないのに」

「誰でもいいわけじゃねえよ。それに興味ないし」


 迂闊に喋ると噂されるから、当たり障りのないことを言ってお茶を濁す。


 嘘は言ってないし、何の問題もない。僕は恋愛なんてしたくない。


 愛は海によく似ている。広く、深く、暖かく、キラキラと輝いている。だが深い所まで潜ると光が届かなくなり、周りが何も見えなくなる。だからこそ、僕は愛に溺れたくはなかった。彼女が言うには、どうやら卒業前の最後の思い出が欲しかったらしい。男遊びはほどほどにしておけ。誰にでも愛嬌の良い子は、いつか自分を好きだと勘違いした奴に迫られることになる。ルックスも悪くないから尚更だ。


 こうして、小6の3学期は終わった。


 小学校最後の思い出にしては味気なかった。幸いにもバレンタインデー以降は特に迫害を受けることがなかった。担任からは疎まれていたが、あいつはマジで教師辞めた方がいい。


 この件で璃子と更に仲良しになり、一緒に寝ながら人生相談をし合ったり、どこかに遊びに行ったりするようになった。まさかあの馬鹿担任の意地悪が、璃子の夢のきっかけになるとは。


 僕は2003年3月、小学校を卒業した。


 結局、テストは全部放棄してやった。卒業式には出席せず、家で学校の卒業を迎え、その日はずっとのんびりしていた。僕は近くの中学に強制入学させられることになる。相変わらず公立だが、私立は学費が高くて入学できない。知り合いの連中はどうなったかと言えば、飛騨野と粥川は僕と同じ中学に、美濃羽と居波は私立の中学に進学することに。同じ中学に進学した連中の中で、比較的仲の良い知り合いは飛騨野と粥川だけだったが、やはり不安は募るばかりだ。


 親の所得格差がそのまま進学先に反映された格好だ。特に厄介だったいじめっ子の大半が違う所に行ったのは嬉しい。だがこの時の僕は知らなかった。他の小学校から進学してきた歴代最強クラスのいじめっ子と、全く同じ中学になってしまったことを。


 小学校時代は波乱の連続だった。誇れるようなところは全くないが、僕の人生に重大な影響を与えた場所だ。ここで出会った人は、ほとんどみんな反面教師だった。長期休暇以外はロクな思い出がない。担任ガチャも全部ハズレだった。一区切りしたと思うと同時に、中学への警戒心を持っていた。僕の戦いはまだまだこれからだ。小学生よりも頭の良い連中が多い分、更に厄介な戦いを強いられそうだし、小学校を卒業した奴らがそのまま入学するわけだから、基本的には小学校の延長の考えるべきだろう。人間の本質はそう簡単に変わらない。


 小学校でいじめっ子だった奴は、恐らく中学でも同じことをする。


 ――絶対に警戒を怠ってはいけない。


 小学校最後の春休みを迎える。この時宿題はなかったが、僕には関係なかった。毎日暇を見つけてはおじいちゃんの家まで赴き、コーヒーに没頭する。


 安心の日々を送る中、早くもコーヒーの焙煎を教わることになるのだった。

小学校編終了です。

次からは中学生編が始まります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ