表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第8章 バリスタ社長編
198/500

198杯目「変化の時代に備えて」

 季節はあっという間に10月を迎えた。


 今年のバリスタ競技会はもう全部終わったようだ。細かいものも含めれば年中あるのだが、特に大きな大会はこの頃になれば全て終わりを迎え、この年の競技会に出場していたバリスタたちは来年の競技会に向けてまた鍛錬を積み始める。まるで年の終わりを象徴するかのようだ。


 伊織は来年のJHDC(ジェイハドック)に出場するべく、注文を受ける度により質の高いドリップコーヒーを届けようと無心になって働いている。コーヒーを淹れてから片づけるまでの工程は面倒と思う人が多い。だが僕や伊織くらいになれば、面倒な作業をこなすのも趣味の領域だ。うちは特に休み時間を定めていないが、客のラッシュがある程度落ち着いたら休憩の合図だ。店の都合が許す限り勝手に休んでいいのだ。手が空いたら他の作業を手伝いに行き、スキル習得に時間を費やしてもいい。


 というかみんなそれを選ぶ。1つでも多くのスキルを持った方が、この先有利なのが分かっている。


 そんな僕らでも、のんびり話したい時だってある。


「――それにしても、お兄ちゃんが人を助けるために手を貸すなんて驚いたなー」

「僕だって人を助けたことくらいあるっつーの」

「昔のお兄ちゃんだったら、いじめっ子なんてあっさり見捨てていたのにね」

「えっ、あの人いじめっ子だったんですか?」

「まあな。でも今は違う。あいつは自分の序列を知ったからな。今はただの社会的弱者だ。それに迫害を受ける側の気持ちが分かったなら尚更だ」

「意外です。とてもそんな人には見えませんでしたけど」

「それだけあず君が大人になったってことですよ」


 唯が事の真相を告げるように述べた。


 大人になるとは2つ意味がある。1つは責任能力が生じること、もう1つは収まるところに収まるという意味だ。昔の僕よりも落ち着いていることは、僕自身もよく分かっている。


 この10年で分かったことがいくつかある。自分が承認欲求の塊であることに気づいた。誰にも認められなくても、自分はここにいると強く思うことで、どんな迫害にも耐えてきた。でも大会で優勝を繰り返す度にファンが増えていることには、確かな喜びを感じている自分がいたことに気づいた。


 結局、生きている限り、人に認められることの喜びを知らなければ、決して幸せにはなれないという結論に達した。世間には従わないが、世間から称賛された時は素直に喜ぶスタンスを取っている。


 世界一のバリスタになっても人生は続くのだ。


 バリスタオリンピック優勝以来、僕には具体的な目標がない。


 何も考えずに余生を楽しむといった感じだろうか。定年後の老人のような感覚だ。自由にのんびりと生きるためにカフェを営んできたが、無理に経営をしなくても生きていける身分になった今、僕にできることと言えば、次世代のトップバリスタを育てることくらいだ。寝ていてもお金が入ってくるようになったし、ここからが本当の自由、いや、僕は元から自由だったことに気づかされた。


「今の僕はつまらないか?」

「そんなことないです。昔の破天荒なあず君も好きですし、今の落ち着いた感じのあず君も好きです。私が好きになったのは世界一のバリスタじゃなくて、あず君ですから」


 そう言われた瞬間、思わず頬を赤く染めた。稼げる男としてではなく、あくまで僕個人を好きになったことは分かっていたが、いざ面と向かって言われると参っちゃうな。


 この中で1番大人なのは唯だった。


「その様子だと、ずっと仲良くやっていけそうだね」


 璃子が意地悪そうな顔でニヤリと歯を見せながら言った。


「あーあ、そういうの見てると嫉妬しちゃうなー」


 今度は優子がジト目で腕を組みながら言った。


「あっ、そうだ。真理愛、冬がテーマの新作はできたか?」

「もう、誤魔化さないでよー」


 優子が僕の後ろから抱きついてくる。つい最近まで甘えん坊なお姉ちゃんって感じだったのに、これが今じゃ31歳だ。来年からは美羽や真理愛を始めとした身近な女性が次々と30を迎える。年齢なんてただの数字でしかないし、子供と大人の差なんてあってないようなもんだ。それはこの国の連中を見ていれば分かる。だがいざその時を迎えるとなると、親戚たちが騒ぎ出すのも分からなくはないのだ。


 9月の親戚の集会でも、年齢を意識させられる会話が繰り広げられていた。


 柚子も28歳だし、結婚願望があるにもかからず結婚できない状況となっている。今はコーヒーの知識を活かし、穂岐山バリスタスクールで非常勤講師として勤めながら就活をしているようだが、ここまでやりたい仕事にありつけないと、つい雇ってやりたくなる。


「優子、その気持ちだけでも凄く嬉しいぞ」


 優子の手を握った。パティシエの手なだけあり、冷房部屋のようにひんやりしている。


 ここまで冷たいと、自分の体温が高いのかと思ってしまうほどだ。


「あずく~ん」


 ずっと寂しかったのか、僕を抱きしめる手が更に強くなる。


「何だよ?」

「だってずっと大会やら元同級生の件やらでさー、全然構ってくれなかったんだもん。女に寂しい思いをさせる男は嫌われるよ」

「じゃあ嫌いになってみるか?」

「……できないの分かってるくせに」


 優子は頬を風船のように膨らませた。いつもの優子に戻ったのを確認した僕は安心を覚えた。


「あの~、そろそろ離れてもらっていいですか?」


 唯が呆れた顔で水を差すように言った。正規の恋人がいる前で、これ以上イチャイチャするのはまずいようだ。璃子が事実上のハーレムなんて言ってたけど、本当のハーレムにはなれそうにない。唯以外の同僚たちもみんな大事だけど、遊びでもなければ真剣交際でもない。


 それこそ、白黒つけないカフェオレのような関係だ。


「あず君、後で冬をテーマにした試作品のコーヒーカクテルを淹れますね」

「ああ、楽しみにしてる。あと2ヵ月もすれば、来年のJCIGSC(ジェイシグス)の時期がやってくるからな。そろそろ味のベースを固めておきたいところだ」

「はい。私としては、やっぱりマンハッタンコーヒーで優勝を目指したいです。これなら誰にも負けない気がします。何かヒントとか頂けないでしょうか?」

「ヒントって言われても、好きにしろとしか言いようがないっていうか、そういうの……苦手だな」

「あず君は哲学は教えてくれるんですけど、ヒントは全然与えてくれないんです」


 伊織が淡々としながら言った。手取り足取り全部僕が指示しちゃったら僕の手足だ。何かを達成しても僕の功績になってしまう。僕が言った通りにプレゼンをやらせて世界一を狙う話は、何度か唯たちと話したことがある。だがそれじゃ義務教育のやり方と同じく、型にはめて量産型人間を作るのと同じ行為である。そこに個人としての意思はなく、ただ僕の言いなりになるロボットがいるだけだ。


 僕のプレゼンを丸々パクることはお勧めしていない。失敗例の1つがディアナだった。


 ふと、僕はバリスタオリンピックでの彼女を思い出した。


 ディアナはホスピタリティ溢れる演出がある一方で、機械仕掛けのような動きをしようとして、どこかぎこちない動きになっていた。あれは僕の無駄のない動きを取り入れようとしたが故の悲劇だった。


 それもあって一度抽出に失敗し、大幅なタイムロスとなった。このことをみんなにも話した。ディアナの競技はおおよそ知ってはいたが、うまくいかなかった部分の詳細までは知らなかったようだ。


「あぁ~、だからあず君は自分のコピーは作りたくないわけですね~」

「そゆこと。どのバリスタにも、僕にはない個性があるんだからさ、それを活かそうともせずに誰かのマネをしたって、うまくいくはずねえよ。それじゃ自分を否定することとおんなじ。教科書の内容を書き写すだけの簡単な作業だ。バリスタたるもの、教科書を作る側にならないと」

「でも、あず君のプレゼンを参考にしている人、結構多いですよ」

「参考にするだけなら別に問題ない。問題はそれを鵜呑みにして、知らない内に自分を押し殺してしまっていることだ。真理愛が僕のコーチをしてくれた時も、元からあったアイデアに別のアイデアを加えて独自性を見出した。その証拠に、真理愛のやり方を丸パクリはしなかっただろ」

「あず君が出ていたWCIGSC(ワシグス)決勝はあず君のアイデアが主体でしたね」


 真理愛が俯きながら言った。どうやら僕の言いたかったことが伝わったらしい。これからは独自性を見出せた者が生き残る。みんなと同じようにしていればそれで良かった時代は終わったのだ。


 10月中旬、僕は投稿部へと赴いた。


 リサ、ルイ、レオ、エマの4人は毎日交代で動画を投稿し続けた。まるで宝石箱をひっくり返したようなアイデア溢れる動画が好評を博していた。僕の代わりにずっと動画を投稿してくれた甲斐もあり、4人共すっかり有名人だ。いきなり動画投稿をし続ける環境に放り込んでみたが、結果的に4人共飯を食える大人になれた。施設内には1階の広いキッチン、2階には広めの編集室がある。リサたちにはここを好きに使える代わりに、料理動画を定期的に投稿するように頼んでいる。


 みんな着実にうちの法人チャンネルを育ててくれているようだ。


「あず君が来てくれたのって、結構久しぶりだよね?」

「ここんとこずっと観光客の相手ばかりだったからね」

「サマーシーズンを過ぎてもお客さんが来てくれるってことは、結構人気あるよね」

「今やあず君はコーヒー業界のレジェンドだからね」

「何でレオが自慢げになるのかなー」

「別に自慢げじゃねえし」


 思わずクスッと笑ってしまった。レオとエマのトークはいつも大喜利みたいで面白いな。


 根本的なところは変わっていない。みんな毎日のように料理動画を投稿していたのか、自分でレシピをパッと思いつけるくらいのアイデアマンになってる。ここまでくると料理研究家のレベルだし、独立して本を書ける。リサがアイデアを出し、ルイが料理を作り、レオが編集して投稿し、エマが食材を揃える。普段は役割分担をしているみたいだが、時々入れ替わることもある。


「でもさー、こうして動画を投稿してるだけで稼げる時代になるのって、10年前の僕らだったら全然想像できなかったよね?」

「確かにねー。昔は動画のことを遊びくらいにしか思ってなかったし、一度あず君に動画で稼げるみたいなことを言われて、ちょっと怪しいと思って断っちゃったけど、あず君が誘ってくれなかったら危うく就職難民になるところだったかも」

「あず君って先見の明あるよねー。あず君の言ってた未来予測みんな当たってたし」

「そんな大袈裟なもんじゃねえよ。天敵のいないガラパゴス諸島にライオンがやってきたら、流石にどうなるかくらい分かるだろ?」


 僕の問いにリサたちはきょとんと首を傾げた。もしかして分かってない?


 思わず冷や汗をかいた。今僕が言ったことと同じ現象が日本でも起きているのに。


 人が労働するのは楽をするためだ。車や飛行機だって、歩いて遠くまで移動する作業を少しでも楽にするために開発されたわけだし、今までみんなが歯を食いしばってやらないといけなかった農業や工業も今は機械が行っているわけだし、最終的に人は皆、遊びの世界へと放出されるものだと思っている。


 頭を使わずに済む仕事は機械化され、頭を使っている人間のみが仕事をするようになる。他は遊びで稼ぎながらベーシックインカムで生活保障された状態で暮らすのが人類の結論かもしれない。


「もしかして……習ってない?」

「いや、言いたいことは分かるんだけど、先見の明を見出すって難しいんだよ」

「これから起きることを当てるなんて簡単だ。突発的な事件とかじゃなくて、既に起きている現象から最終到達点を予測する。昔は切符の確認をいちいち駅員がやってたけど、今は機械を通すだけになってるじゃん。その気になれば誰でもできるような単純作業が機械に取って代わられているわけだし、人間がその状況で飯を食えるようにするには、機械にできない仕事をすればいいのが分かるだろ?」

「あぁ~、そっかそっか~。アイデアを思いついたり、人を楽しませるって機械にはできないもんね」

「そういうことだ。僕が10年前、最初にラテアート動画を投稿した時、大勢の人がテレビの特集を見たかのような反応でさ、物凄い反響が大きかったから、この動画投稿システムは伸びると思った。何なら誘った人が本当に来てくれたくらいだし」

「普通の人はそこまで分からないよ」


 僕は生きるのに必死だった。感覚を研ぎ澄ませ、次に流行るものを読み、できることを1つずつ確実にこなした結果だ。というかそうするしかなかった。雇われて人と一緒に仕事をするのは嫌だったし。


 サラリーマンは現代版奴隷制度だ。生きていくために自分の意思に反し、やりたくもない仕事を一緒にいたくもない連中とやらされるのは、本質的には奴隷と変わりない。


「身近なところから疑ってみろ。それで分からないなら、世間における普通の人だ」

「あず君にとっての普通の人って何?」

「僕には普通っていう概念はない。みんな普通の人という役を演じている変人だと思ってる」

「じゃあ誰も普通の人になれなんて言えないわけだ」

「あっ、そうそう。最新式エスプレッソマシンとオートタンパーはどう?」

「うん、使ってるよ。ほとんど機械任せだから、すっごく楽だよ。ほぼオートメーションだし、誰でもできる作業になっちゃったね」

「僕はこれが出てきてからバリスタの定義が変わったと思ってる。ただコーヒーを淹れる人から新しいコーヒーを考える人に変わったわけだ」


 最新式エスプレッソマシンを見ながら言った。


 変化の時代についていけてない人は思いの外多かった。


 これも教育の責任か? ……いや、目の前の現実を常識と捉えさせ、何も考えないよう、ありとあらゆる方向から刷り込まれているだけなのかもしれない。クソくらえな刷り込みが罷り通っている社会で、うまくいかない人に対して社会のせいにするなと言うのは暴言に等しい。せめて人生を壊しかねないくらいに誘導尋問のような教育を社会全体がやめてから言え。自分で考えるのが当たり前になって、それでうまくいかないなら自己責任と言ってもいいと思うが、きっとそうはなってくれないんだろう。


「何であず君が出世できたのか、ちょっと分かった気がする」

「出世したとは思ってない。到達点なんてない。道のりが全てだ。難しく考えるな、欲しいものを真っ直ぐ取りに行け。そうすれば手に入る……僕が……世界一のバリスタに向けて真っ直ぐ進んだようにな」


 僕の人生哲学は至ってシンプルだ。やりたいことをやれ。それ以上の意味はない。


 前々から話したいことがあったし、話してみるか。


 うちの面々が先のことをどう考えているのかも聞きたいし。


「あず君が言うと説得力あるなぁ~。でもそういうのって、結局は誰が言うかだと思うよ」

「何を言っているかの方がずっと大事だぞ。でも耳を傾けてもらえるのは良いもんだな。それと肝心なことを聞こうと思ってたんだけどさ、今後の進路とかは考えてるの?」

「進路? うーん、今のところは考えてないかなー」

「独立すれば、うちにいる時より稼げるようになるぞ」

「それはそうかもしれないけど、あたしはやっぱここにいたいかなー」

「僕だってそうだよ。葉月珈琲に貢献したい」

「僕も同感。1人でやるよりも、身内で仕事してるほうが落ち着くし」

「あたしもずっとここにいたい。役員にしてほしいなー」

「考えとく」


 投稿部はみんな葉月珈琲がすっかり気に入ったようだ。独立して自分で事業を立ち上げた方が稼げるのに、それでもうちを優先するってことは、相当良い会社ってことなんだろうか。飯を食える大人になったら、すぐ独立するのがセオリーと思っていたけど、それは人によりけりなのかもしれない。


「あず君、葉月珈琲が起業家を作ることも目的の1つなのは知ってるけど、みんながみんな起業とか独立とかに向いてるわけじゃないし、起業家を育てる人が独立しちゃったら、また人材を探さないといけなくなるんだよ。そりゃ一緒に働く相手に不満があったらそうするけど、僕らはこうして、あず君の元で働くのが凄く楽しいんだよ。これが僕らのやりたいことなんだよ」


 ルイがぬるま湯に浸かっているような顔で言った。なるほど、そういう考え方もあるのか。起業家は育てるものじゃなく、育つものなんだけどな。僕らは精々背中を押してやるくらいしかできないのだ。


「そうそう、お金が全てじゃないっていうか、あたしたちに限って言えば、収まるところに収まったって感じ。それに会社が潰れた後も生きていける自信あるし」


 うっ……そこまでケアができているというなら反論はできないな。


 つまりリサたちが言いたいのは、ここが起業家を育てる会社だというなら、自分たちは起業するのではなく、あくまで起業家が育つのを支援する側でいたいということだ。


 まっ、そういうことなら別にいいか。


 この後は広告部がある施設まで赴き、大輔、優太、蓮、隼人の4人を訪ねた。


 広告部の施設は1階が休憩室、2階が広告部の仕事部屋。休憩室にはコンビニで買えるような製品が自販機で売っていて、好きな飯を自分で作れる。仕事部屋はパソコンでの編集作業が主であり、机と椅子とパソコンしかないシンプルな部屋だ。余計なものがなく集中しやすい。


「おっ、大将のお出ましだな」

「ただの代表取締役な」


 隼人は僕の元同級生なだけあって、気さくに言葉をかけてくれる。


 僕の敬語嫌いなのも蓮から聞いて知っていたらしい。うちの会社はどこの部署も上下関係のないフラットな関係だ。伊織や美月のように好きで敬語を使う人もいる。上司が相手だろうと変に気を使う必要がなく、仕事さえできていればそれでいい風潮だが、有能でなければ務まらない側面もある。


 結果、うちは実力主義の下に成り立つ気楽な関係となっている。


「もしかして、サボってないか見に来たのか?」

「別に仕事ができてるんだったら、残りの時間はサボっても早退しても構わん。いくつか確認したいことがあるんだけどさ、在宅勤務はやってるか?」

「今はこうして集まって、確認し合いながらやってるけど」


 大輔がパソコンのキーボードを指でカタカタと叩きながら答えた。


 パソコンだけで済む作業は極力在宅勤務にしていくべきだ。何らかの事情でバラバラになったりした時にも仕事をすることができる。今だったらチャットもできるわけだし。


 ただでさえ日本は災害大国だ。台風に地震まで来たら外出がしにくくなるし、そうなった時にもある程度仕事ができるようにしたい。新メニューの開発もやろうと思えば自宅でできるし、既に在宅勤務での新メニュー開発を真理愛や俊樹に頼んでいるくらいだ。


「いつか災害が来た時のために、いつでも在宅勤務ができる状態にしておいてくれよ。無理に会う必要がない時は在宅勤務でいいからな」

「おいおい、俺が勤めていた会社は、人と人が直接顔を合わせて仕事してたんだ。相手の気持ちはチャットだけじゃ分からないんだぞ」

「仕事上で必要なことを伝えるだけなら文字でいいんだ。他所は他所、うちはうちだ。今は営業の仕事もオンラインでやる時代だぞ。時代に乗り遅れたらどうなるかくらい分かるよな?」

「お兄ちゃん、ここはあず君の言う通りにしてみようよ」

「別にいいけど、何で優太までオンラインに拘るんだよ? 俺はこっちの方が合ってるってのに、取引先だって、直接会わないと不安になるだろ」

「時代の変化についてこれないような会社は切り捨てろ。就職が不安定化していく時代に就職レールに乗せられて、崖から落ちたのはどこのどいつだ?」

「あーもう、分かったよ。やればいいんだろ、やれば」


 大輔がめんどくさそうな顔で答えた。


 葉月珈琲では親父とお袋を除けば、うちでは最年長だ。


 思考が昭和の域を出ていないが、この頭の固さのせいで何度人生こけたら気が済むんだか。氷河期世代は仕事のオンライン化ところか、ペーパーレスにすら反対する者が多い。そこに彼らの敗因がある。


 面倒だけど、時代を創るか、時代に追従することが、生き延びる道なのだ。

気に入っていただければブクマや評価をお願いします。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ