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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第8章 バリスタ社長編
184/500

184杯目「後に続く者たち」

 お袋は璃子が結婚できるかどうかを心配しているようだった。


 元々は女の子が欲しかったわけだし、性格も至ってまともだ。


 昭和生まれだったら、きっと今くらいの歳に結婚させられていたんだろう。自分のやりたいことを我慢して家庭に入るのは果たして璃子のためだろうか。璃子にはやりたいことがある。世界一のショコラティエとして、ショコラティエの卵を導いていく立場であると同時に、新しいことにも挑戦している。


「あず君、さっきの話だけど、どうして施設の人を嫌うの?」

「別に嫌ってるわけじゃねえよ。一度行ってみれば分かると思うけど、あの連中はずっと過酷な集団生活に耐え続けた反動で無気力になってるし、生きる力がまるで育ってない。どちらかと言えば、自営業の方が向いてる連中だし、僕は絶対に雇いたくないってだけ」

「でも就職するために、みんな頑張ってるって言ってたよ」

「頑張ってる時点で向いてないって言ってるようなもんだ。本当に才能がある奴は、頑張るとか全然意識しないっての。就職に向いている人は、特に頑張ったという自覚もなしに、当たり前のように就職してるような連中だからな。僕だって仕事を頑張ろうなんて思ったことないし」


 言っちゃ悪いけど、仕事が原因で過労死したり鬱になったりするのは才能がないからだ。


 あいつらは何でも真面目にやろうとするところがあるけど、それがかえって仇になっている。好きでたまらないことや才能があることは、頑張らなくても真面目にならなくても自然に続けられるものだ。


「生きる力がないから雇いたくないってこと?」

「それもあるけど、世の中には就職しちゃいけない人間もいる。あの連中はその最たる例だ。なのに適性も考えずに全員を就職させる前提の教育をするから、あんな迷惑をばら蒔くことしか能がない……魂と知性の抜け殻が大量に生まれた。何よりあいつらの性格が気に入らない。働かせるなんて以ての外だ」

「それを言うなら、あず君だって性格に難ありでしょ」

「レベルが違いすぎるんだよ。感情的で無節操で、無自覚に人の神経を逆撫でして、他者への配慮に欠けた言動を繰り返すあの傲慢さ、おまけに不勉強のせいで、簡単な日常単語の意味も理解できないような連中だぞ。明らかに感性が大人の域に到達してない。3ヵ月も経たずに退職したし、何であいつらの人生がうまくいっていないのかがよーく分かっただろ……あの一連の言動が全てを物語っていた。あいつらに集団の中でまともに仕事をするのは無理だ」


 あの連中には悪いが、無自覚に無能行動を繰り返す人は雇いたくない。


 でも大半は起業しようとは思わないだろう。起業はリスクだと教えられている。


「何かあったの?」

「初めて施設に見学に行った時、無自覚に失言を繰り返したり、すぐにぶちぎれたりするような連中がいっぱいいてさ、そのくせ自分の才能がどこにあるのかも分かってなかったし、自分がしたことに対する責任能力さえ持っていなかった。仕事とはいえ、あんな連中を施設が本気で就職させようとしているのを知った時は肝が冷えた。あの光景を映画化したら、ジャンルは間違いなくホラーだな」

「もう、すぐそういうこと言うんだから」

「僕はな、たとえ全員から嫌われたとしても、本当のことをちゃんと言える人間でいたいんだ。それで嫌うような奴は、遅かれ早かれ、どの道離れていくから心配すんな」

「はぁ~、分かった。これから人を雇う時は、あず君に一言相談する」

「そうしてくれ」


 頑張りますで仕事が務まるんなら誰も苦労しねえよ。


 家に引き籠りながら稼げるビジネスの紹介でもしてやる方が、ずっとあの連中のためだ。


「でもこのまま会社の規模が大きくなっていったら、障害者雇用促進法で一定数障害者を雇わないといけなくなるんじゃないの?」

「雇わない。罰金払った方が安い。そりゃ有能だったら雇うけど、平均より格段に仕事が遅い奴とか、何度教えても学習しない奴とかを雇いたいって思うか?」

「……」


 障害者が雇われないのは、ほとんどの場合は障害を持っているからじゃない。仕事に対する情熱も適性も技能も全く持っていないからだ。健常者だって適性がなければ雇ってもらえない。それと同じだ。


 それを障害のせいにして、法律にまで訴えて雇った結果、健常者で仕事ができる人が不当に雇われなかったり、生産性が下がって倒産したんじゃ、笑い話にもならない。


 それとも障害者たちが、こんな結果を望んでいるとでも言うのか?


 適性の有無で雇うかどうかを決めるのが雇用の本質のはずだ。なのに障害の有無で雇用を規定している時点でピントがズレてんだよなー。間違いなく悪法だ。さっさと撤廃しろ。


 障害を言い訳にして給料泥棒してくる連中なんて雇いたくねえよ!


 足引っ張ることしか能がねえ無能共がっ! 生活保護でも受けて一生引き籠ってろっ!


 この悪法のせいで、危うく潰れかけた企業があるってのに、どこまで傲慢になれば気が済むんだ?


 適性がない限り、うちが障害者を雇うことは絶対にない。競争のない社会があれば、住み分けすることもできたんだろうが、それはこれから築いていくしかないのだ。


「だから怒鳴ったわけですか」


 いつものように唯と湯船に浸かりながら心の内を明かした。


 唯はいつも的確な回答と癒しをくれるオアシスだ。


「適性がないどころか、就職にも向かない奴を雇った結果、人件費を溝に捨てる破目になった。結局得をしたのは施設だけだ。さっき親父とお袋に減給処分を言い渡してきた。二度とこんなことが起こらないようにな。これで施設がどういうところかよく分かっただろう」

「人事権がないお義父さんが悪いのは分かりますけど、どうしてお義母さんも減給処分なんですか?」

「親父を監視する立場にいながら役割を放棄した。バリスタオリンピックの前だからって、何も報告しなかった結果だからな。施設は内定さえ取らせれば国から補助金が下りる。その後で訓練生がどうなろうと知ったことじゃない。親父は社会の闇の片棒を担ぐことになった」


 優しいだけじゃ社長は務まらない。リーダーの嫌なところだな。


 行く行くは適性のある人にうちの会社を任せて、僕はのんびり暮らしたい。


「私にはあず君が生きる力のない人を嫌っているように見えますよ」

「僕が嫌いなのは生きる力のない奴じゃない。適性も考えずに全員を働かせようとする傲慢な社会の構造だ。適性のない人を雇えば組織が腐る。僕は株式会社葉月珈琲に所属する全社員の生活を預かってるんだ。無能を雇ったせいで会社が潰れて、みんなが路頭に迷ったら、障害者雇用促進法を作った連中は責任を取ってくれるのか?」

「責任は取らないでしょうね」

「だろ。責任も取れないくせに理不尽な法律を押し付けんなって話だ。この悪法による罰金だってさ、もしこれが国会議員の私腹を肥やすためだったとしたら、それこそ障害者を利用した搾取をするための施設や法律と言われても仕方ねえよ」


 綺麗事ばっか抜かす奴に限って、肝心な時に責任を取らない。


 僕には親父とお袋がそんな連中の一味に見えたのだ。


 翌日の早朝、まだ開店前だというのに、1階では伊織がJHDC(ジェイハドック)に向けた練習をしている。伊織が淹れたドリップコーヒーからか香しいアロマが僕の鼻を通り抜けていく。


 予選はサイズの違うドリップコーヒーを淹れてジャッジに提供し、一言も発しないルールだ。プレゼンがない分、初めて大会に出る伊織には精神的な負担が軽い。決勝はこれに加えて10分間のプレゼンを行い、総合スコアでチャンピオンが決まる。ていうか何で僕の方がルールに詳しいんだ?


 まるで僕が伊織をこの道に誘導したように見えると中津川社長に言われたけど、これほど没頭している伊織の姿を見た僕は、伊織に真意を聞いてみることに。


「そんなことを言われたんですか?」


 いつもより小さな声で伊織が言った。


 頭を下に向け、コーヒーに映る自分を見つめながら、思い詰めている様子だ。


「中津川社長には内緒だぞ。あのさ、もし僕が無理やり誘導したと思っているなら――」

「誘導されたなんて思ってません!」


 台詞を全部言い終える前に伊織が力強い声で答えた。


 何だか怒っているようにさえ思えるような威圧感だ。


 伊織は僕に近づき、僕の顔をジッと見つめながら口を開いた。


「私は信じてました。良い学校に行って、良い企業に就職すれば、良い生活を保障してもらえるって。でもそんな社会はとっくに終わりを迎えた。あず君がそれを教えてくれなかったら、私は今もずっと貧困に苦しんでいたと思います。バリスタは昔から私の夢でしたし、あず君は私に生きる力を授けてくれた恩人なんですから、そんな風に思わないでください」

「! ――成長したな、伊織」

「そりゃ成長もしますよ。ここは精鋭揃いですから」

「そうだな」


 伊織もその精鋭の1人なんだけどな。何だか気が抜けたように安心した。どうやら僕の思い過ごしだったらしい。いや、正確に言えば、中津川社長の思い過ごしだ。


 やりたいことも言えず、嫌なことを強制される人生ほど不幸なものはない。それはこの国の連中を見ていれば分かる。だからこそ強制はしたくなかった。


 伊織が今の生活に幸せを感じているのであれば何よりだ。


「私、あず君から貰った大きな恩を返したいんです。そのためにも色んなバリスタ競技会に出場して、葉月珈琲のために貢献したいです」

「言うねぇ~、伊織ちゃんもあず君に惚れちゃった?」

「そ、そんなわけないです!」


 優子が伊織をからかいながら楽しんでいる。何だかんだ言っても、この店には仲が悪い者同士がいないのが強みだ。苦手なことは人に任せるのが当たり前だから、苦手を責められることもない。


 適性のある人を雇っているため、何でこんなこともできないんだと言われることがない。もし誰かがそんなことを言うようであれば、苦手な仕事をやらせる構造や人事の人を見る目を見直すべきなのだ。うちの会社は日本の会社が持つ欠点を全て克服している。会議なし、残業なし、抑圧なし。だからこそ結果的に働きやすい会社になっているのだが、できればリモートワークもできるようにしたい。


 2月中旬、JLAC(ジェイラック)JCIGSC(ジェイシグス)の決勝が始まった。


 スケジュールを効率化したいのか、会場も日程も場所も同じだ。結果から言えば、璃子は5位で美月が優勝、真理愛は優勝で島塚は4位、みんなよくやってくれた。葉月珈琲から出場したバリスタ全員がファイナリストになり、真理愛と美月に至っては世界大会への出場を決めている。僕は誇らしいぞ。


 ――社長としてではなく、1人のバリスタとしてな。


 去年までのみんなは、何かに抑圧されていたかように成績が振るわなかった。動画でみんなの競技を見ていたが、去年までとは何かが違う。結果的に美月と真理愛の2人がプロ契約制度におけるファイトマネーの恩恵を最大限に受けた最初の例となった。


 ファイトマネーは2011年に始まった。だがその後は誰も続かず予選落ちを繰り返していた。僕がラテアートやコーヒーカクテルのネタをみんなに提供したのも大きかった。


 何も気にせず競技に没頭している様子だ。島塚は葉月珈琲からは初参加で比較はできないが。


「真理愛さん、美月さん、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます。あず君がアイデアを提供してくれたお陰です」

「真理愛さんは3度目の挑戦でしたもんね」

「はい。3度目の正直でしたけど、一安心です」

「まさか私が優勝できるなんて、夢みたいです」


 大会後、店の営業が終わった後で真理愛と美月の祝勝会が行われた。葉月ローストの面々も集まっている。穂岐山珈琲が何度も祝勝会をやってたせいか、うちにも祝勝会の習慣が根付いていた。


 まっ、誰かが優勝することなんてあんまりないし、別にいいか。みんなが大会に出場するようになった以上、誰か1人でも優勝する確率はかなり高くなる。それはそれで嬉しいことだ。


 ふと、璃子がいる方へ目をやると、璃子は少しばかり気分が沈んでいるように見えた。真理愛が優勝を決めたアイリッシュコーヒーが入ったグラスを持ち、全く同じグラスを持っている璃子に近づいた。


「どうしたの?」

「……いや、別に」

「なんか悔しそうな顔だったけど、負けるのは嫌か?」

「……うん。お兄ちゃんは味わったことないでしょ?」

「大会ではな。僕は世間から何度もボコボコにされてきた。どうせ認めてもらえないんだと諦めてた。だから世間に勝った時は本当に嬉しかった。今まで僕みたいな社会不適合者を一方的に見下してたような連中が、急に僕に対して頭をペコペコ下げるようになった時は痛快の極みだったなー」

「バリスタオリンピックで優勝してから、みんなお兄ちゃんに遜ってたもんね」

「あの反応を見て確信した。やっと世間から認められたんだなって」

「お兄ちゃんは世間に認められたかったの?」

「別に認められなくてもいいけど、認められた方が生きやすくはなる。抑圧されるのはもうたくさんだと思ってたし、どうしても世間と決着をつける必要があった。それだけ」


 負けず嫌いは僕も同じだ。だから僕は極限までコーヒーを究めた。


 とはいえコーヒー業界はまだまだ奥が深い。僕とて毎日学習しないと、あっという間に追い越されるのが目に見えているし、何より学ぶほどに学習意欲が増していく。この感覚が大事なのだ。


「今度はラテアートを究めてみたい」

「いいんじゃねえの。璃子だったらできる」


 璃子は以前から顔出し実況動画を投稿するようになっていた。


 果たして、どこまで僕に似てくるのか、将又どこまで僕と違ってくるのかが楽しみである。身内とはいえ、他人の人生を気にかける余裕が出てきたってことは、何か新しいことをしろという合図だ。


「お兄ちゃんはいつ大会に出るの?」

「確か6月だ。JCI(ジェイシーアイ)は日本で初めてのジェズヴェの大会だからな」


 JCI(ジェイシーアイ)に優勝すると、来年行われるワールドジェズヴェイブリックチャンピオンシップ、略してWCI(ダブリューシーアイ)の出場権を得る。ミッドイーストスペシャルティコーヒー協会が主催するマイナー競技会だが、個人的には凄く楽しみな大会である。アジア勢初のワールドチャンピオンは出ちゃってるけど、僕にとってはむしろ励みだ。まずルールブックの暗記から始めるか。


 来月には伊織の大会デビューだし、忙しいメンツになったな。


「真理愛、世界大会はいつなの?」

「4月に上海で行われるそうです。今年は結構早いですよね」

「そうだな。いつもは3月に国内予選の決勝が終わって、その後6月に行われるのが普通だしな。でも今年やるべきことが早く終わっていいんじゃねえか」

「ですね。あと2ヵ月しかないので、料理番を変わってもらってもいいですか?」

「分かった……誰かが欠けると、どこかが途絶えるな」

「うちはコーヒーに特化して、フードやスイーツは最低限の軽食メニューにして正解でしたね」


 僕には1つの考えがあった。コーヒー、フード、スイーツの全てを充実させようとすると、担当がいなくなった時に穴ができてしまう。この年から葉月珈琲はコーヒーに特化し、全員コーヒーメインで作り、料理やスイーツは軽食メニューのみとすることで落ち着いた。本格的な料理やスイーツも作るが、それは投稿部メインの仕事となった。新しいメニューも全て投稿部が考案し、特に人気のあるアイデアが商品化され、各店舗で作られるか届けられるかで売りに出される仕組みだ。璃子と優子は時間が空いた時に投稿部を手伝うこととなり、仕事の範囲が広がっていった。


 役割範囲なんてあってないようなものになっていた。それもそのはず、今の時代は1つのスキルを持っているだけでは生きていけない。特技を複数個持つことで、替えの利かない人間になっていくことが求められているように感じた。これならどれかが駄目になっても別の特技で生きていけるし、経営者に足を見られ、給料を下げられることもなくなるわけだ。みんなそれに気づいていたのか、僕の無茶な方針を快諾してくれた。周囲の人は僕のことをフラフラしている奴と思うだろうが、むしろ1年前の自分と比べて思想が全く変わっていないのは愚の骨頂だ。


 思想が昔と全く変わっていないってことは、思考停止して生きている奴である証拠なのだから。


 そんなこんなで、うちは今年から株式会社葉月珈琲の全店舗で特技の多角化を図っている。


 うちは中部地方と近畿地方を中心に店舗を拡大する計画だ。チェーン店は作らず、1つ1つが個性溢れる店にしていく。コピー人間を作る教育には限界があることが分かったし、それだったら担当しているスタッフによって色が変わる店にすることで、結果的に生き延びることを考えた。


 行く行くは海外進出を決め、コーヒーに限らず、うち特有の強みを売り込んでいきたいし、バリスタの仕事を通して人々の生きる力を育てる企業にしていく。それが葉月珈琲の理念だ。


 将来の夢なんていらない。今夢中になれることに没頭すればいいんだ。


 今やるべきことを大人が決めるなんて馬鹿げてる。


「真理愛、美月、後に続く社員たちのためにも優勝してくれよ」

「はい。頑張ってきます」

「任せてください。トロフィーここに置いておきましょうか?」


 真理愛が手に持っている黄金に輝くカクテルグラスのトロフィーをうちに置くことを提案する。


 美月も黄金に輝くミルクピッチャーのトロフィーを持っている。


「自分の家に飾れよ。いつかオーガストを復活させる時にトロフィーが役に立つ」

「……はい。ではそうさせてもらいますね」

「じゃあ、私のトロフィーはしばらくの間、葉月ローストに置いておきますね」

「葉月ロースト初の国内予選チャンピオンが美月ちゃんか。まだ真理愛ちゃんに勝つのは早かったな」

「島塚はもう少し修業が必要だ。今度の世界大会には、真理愛のサポーターとして一緒に行ってこい」

「えっ、俺が?」


 島塚が自分の鼻を指差して事実確認をする。


「世界の広さを知るには良い機会だ。そこで色んなバリスタから知識や技術を盗んでこい。そうすればどっちもレベルアップできるだろ」

「それはいいけど、その間店はどうすんだよ?」

「あっ!」


 しまった。このまま美月と島塚が遠征したら、葉月ローストは親父とお袋の2人だけになっちまう。


 そこまで考えてなかった。どうにか対策を考えないとなー。今から採用活動をするにしても、即戦力が簡単に集まるとは限らないし……どうする。


「海外から募集してみるのはどうですか?」

「海外から?」

「はい。葉月珈琲は海外でも有名企業ですから、募集すれば2人くらい人が集まると思いますよ。日本語が話せない場合は作る側に徹してもらえばいいんです」

「その手があったか……あっ、でもそれだと、色々大変そうだから最終手段だな」

「美羽さんに頼ってもいいかもしれませんね」

「それにしても、あず君の彼女って、めっちゃ美人だな」

「ですね。羨ましいです。私も唯さんくらい痩せたいですよ」


 いやいや、美月のグラマラスボディにだって需要はあるんだぞ。文字通り胸張っていいんだぜ。世の中どこにどんな需要があるか分からないんだし、流行り廃りもあるから何の問題もない。


 咄嗟に愛梨の姿を思い浮かべてしまった。


 あいつ、引き籠りたいって言ってたけど、本当にそうなのかな。


 本当は外に出たがっていたかもしれない。元から引き籠り体質だったというよりは、何かが彼女を引き籠る方向へ仕向けたように思えてならない。


 こうして、葉月珈琲から2人の日本代表が生まれたのだった――。

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読んでいただきありがとうございます。

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