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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第8章 バリスタ社長編
181/500

181杯目「業務提携」

 正月を迎え、2016年が到来する。


 バリスタオリンピックから3ヵ月が経つ――。


 目標らしい目標を見失っていたが、目標を持つ必要すらないのかもしれない。いつ死んでも悔いがないと胸を張って言えるかまでは分からない。やりたいことはまだまだいっぱいあるけど、人生における最低限のノルマみたいは全部やりきった感がある。ここからがチュートリアルだ。


 午前10時を迎えると、親戚が次々とうちにやってくる。


 親戚の集会には多くの親戚が参加していたが、おっちゃんもおばちゃんも妙に焦っているところがあったのだ。僕の話題もあるにはあったが、結婚の話題も絶えなかった。


 柚子が婚活ビジネスを始めたのも分かる気がする。


「あーず君っ! 着物着よっ!」


 エマが僕を誘い、バックヤードへと連れていく。


「何だよいきなり……別にいいけど、可愛い服じゃないと――」


 目の前にはピンク色を基調とした可愛らしい着物が用意されている。


 しかも隣には派手な色柄の岐阜和傘がある。


 まさかこれも持つのか? でも全然悪くないな。


 あっという間に着物に着せ替えさせられた。髪型はいつもの姫カットのままだが、可愛いピンクリボンまで添えられてしまい、見た目だけは完全に女の子のようになっていた。


「おー、可愛いねー」

「あのさ、何で僕が着替える必要があるの?」

「静乃ちゃんに言われたの。あず君をお店に連れてきてほしいって」

「静乃に?」

「うん。あず君は中津川珈琲のイメージキャラクターに選ばれたんだよ」

「イメージキャラクター?」


 きょとんとしたまま首を傾げた。リサたちが言うには、クリスマスの間に静乃がみんなに計画を伝えていたのだ。中津川珈琲は虎沢グループが壊滅した後、独立した企業から業務提携の話が殺到し、岐阜和傘を売る会社、着物を売る会社と業務提携をしているらしい。最初はうちにも業務提携の話が来ていたが、僕は人生の時間を奪われることを恐れて全部断ってたんだよなぁ~。目標がなくても幸せに生きられることが分かった今、思い切ってやったことがない仕事に飛び込んでいくのもいいかもしれない。


「となると葉月珈琲とも業務提携を結ぶってことか」

「いえ、静乃さんが言うには、あず君個人と業務提携を結びたいそうです」

「お昼ご飯ができるまで暇でしょ。ご飯はあたしたちが作るから、あず君は中津川珈琲に行ったら?」

「分かった。じゃあ行ってくる」

「なんか今日のあず君、めっちゃ聞き分けがいいね」

「業務提携なんて、今まで1回もやったことないからさ、どんなものかを経験したくなった」


 みんな僕の顔を見ながら目をパックリと開けて黙っている。まるで珍しい光景を見ているようだ。


 僕、吉樹、美羽の3人で中津川珈琲まで歩いていく。


 葉月商店街から少し遠い場所にあるのだが、ジェズヴェが中心のカフェなんだとか。


 中津川グループは虎沢グループの衰退と同時に台頭してきたグループ企業で、コーヒーや抽出器具の販売を主力としている。奇しくも僕がバリスタ競技会で結果を残し続けてきたことに伴い、売り上げが鰻登りとなっている。つまり中津川グループは葉月珈琲と競争したくないのだ。そこで僕を取り込んで共に稼ごうという魂胆だ。ビジネスの先輩として敬服するよ。ビジネスを行う上で最も注意しなければならないのは、敵を作らないことだ。岐阜県は全面的に競争率が低く、大都市に比べればマーケットが小さい。一見儲けが少ないように思えるが、裏を返せば競争相手が少ない分、独り勝ちしやすいのだ。


「何で美羽が一緒なのかな?」

「あたしたち、同棲してるの。実家の集会に参加するのもいいけど、あず君の親戚の集会に参加した方がずっと面白そうだと思ってね」

「興味本位で行くもんじゃねえぞ。うちの家は結婚にうるさいし、美羽まで混ざったら、おっちゃんとおばちゃんの餌食にされるぞ」

「いなし方はうちの親戚で習得済みだから大丈夫」

「そっちもかよ」


 どこの家も結婚適齢期の親戚がいれば、話題は同じなんだな。


「あっ、あず君いらっしゃい。すごーい、あず君の着物姿初めて見たー」


 静乃が窓越しに見えた僕を出迎えてくれた。


 しかも莉奈や伊織も僕を迎えてくれている。どうやらここも親戚の集会らしい。


「あず君、ゆっくりしていってください。ここにどうぞ」


 伊織に席まで案内されてカウンター席に腰かけると、僕の両隣に伊織と莉奈の2人が座り、僕にべったりとくっついてくる。店内は昔ながらの昭和風カフェを思わせる木造建築だったが、金華珈琲とはまた違った独特の雰囲気であり、周囲にはいくつかの植物が置いてある。


 しかもここにはジェズヴェで淹れたトルココーヒーもあった。


「今日のあず君、凄く可愛いです」

「うん。なんか惚れちゃいそう」

「ええっ!?」


 惚れるって何? もしかしてあれか? 女好きなのかっ? 


「こらこら、あず君が困ってるだろ」


 中津川社長が優しそうに注意する。後ろにはエレーナもいる。


 静乃にそっくりな彼女はエレーナ・コヴァリューク。キーウで生まれたジェズヴェコーヒーを愛する女性で、社長令嬢であるとのこと。2人は僕に甘えることをやめず、小動物のように擦り寄ってくる。


「君は本当に凄いよ。静乃だけじゃなく、莉奈ちゃんや伊織ちゃんまで手懐けてしまうんだから」

「この3人が誰かに懐くことって、なかなかないんだよ」

「僕にも皆目見当もつかないけどな」

「あず君と一緒にいると、何だか安心するんです」

「困った時に頼りになるもんねー」


 僕が着物姿でいることで、余計に可愛く見えているようだ。困った時に頼りになる……か。


 この国の尻拭いをさせられているだけなんだがな。


「午後を迎える頃には撮影が終わる予定だけど、予定は大丈夫かな?」

「ああ、大丈夫だよ」

「……ん? あなたは確か……」

「穂岐山美羽です。父がお世話になってます。付き添いですけど、大丈夫ですか?」

「ええ、構いませんよ。穂岐山社長の娘さんでしたか。まだ正月なので営業はしていませんが、1杯くらいならご馳走しますよ」

「ではお言葉に甘えさせていただきます」


 美羽は社交的な性格が幸いし、中津川社長と意気投合する。穂岐山珈琲の代表ともなると、あらゆるコーヒー会社の社長と知り合いなんだとか。美羽が言うには、穂岐山社長の元に多くのコーヒー会社の社長が会いに行き、一言話せただけでも光栄なんだとか。やっぱ穂岐山社長って凄いんだな。


 だが穂岐山社長の方から会いに来た相手は僕だけらしい。


 早速ジェズヴェで淹れたトルココーヒーを飲んでみる。


 ……これ、美味い。油分が多いな。僕も何度か淹れてみたけど、熟練の味なのがすぐに分かった。


 そういえば、ジェズヴェの大会があるんだったな。


 世界にはこの味を出せる連中がうじゃうじゃいる。トルココーヒーを飲んでよく分かった。僕はまだまだコーヒーを知らない。全部知り尽くしたつもりだったけど、まだ見えない世界がそこにはある。


「気に入ってくれたかな?」

「ああ、昔の人はこのコーヒーを飲んでたんだな」

「そうだね。コーヒーの歴史は長い。私は最古の抽出器具の良さを世界中に広めたいんだ。元々は日本製のエスプレッソマシンを売るために世界中を回っていたんだけどね。そんな時にキーウでエレーナと出会って、ジェズヴェを紹介された時は衝撃的だった」

「パートナーの手伝いがしたくなったわけか」

「まあ、そんなところだ。バリスタになったのにジェズヴェを知らないまま死んでいくのは勿体ない」


 どうやらジェズヴェで淹れたトルココーヒーに心底惚れたらしい。


 ジェズヴェの大会を開催するのに熱心になるわけだ。


「撮影はどこでやるの?」

「近くの公園だよ」

「それはいいけどさ、僕とじゃなくて、葉月珈琲との業務提携ってことでいいかな?」

「ああ、それは願ってもないことだ」


 こうして、葉月珈琲は中津川珈琲と一緒に仕事を行うことに。


 コーヒーを飲んで一休みすると、僕らは外に出て撮影場所へと移動する。撮影スタッフがぞろぞろと集まっており、正月だというのに、大勢のギャラリーまでいる。


「あっ、あず君だ」

「えっ、マジで。うわぁ、めっちゃ美人」

「ホントに男なのか?」

「アジア人初のバリスタオリンピックチャンピオンなだけあって貫禄あるなー」


 なるほど、予めファンの連中には伝わっていたわけか。


 宣伝用の写真撮影が始まると、僕は色んなポーズを取らされ、ポーズが変わる度にパシャパシャとシャッターが下ろされていく。着物姿に岐阜和傘を差しながらポーズを取る姿は、まさに大和撫子そのものだった。ここまで大和撫子っぽく見える男も少ないだろうな。


 ていうか他の連中もスマホで撮影したり写真撮ったりしてるけど、これはいいのか?


「撮影終了でーす!」


 終了を知らせる合図と共に静乃たちが集まってくる。鏡で自分の姿を確認する。いつもとは違う自分の美しさにすっかり惚れ惚れしていた。僕ってこんなに綺麗だったんだなー。


「岐阜和傘を差しているあず君の着物姿、とっても魅力的でした」

「さっき蜂谷さんに聞いたんだけど、あず君の着物姿が来週のバリスタマガジンの表紙を飾るって言ってたよ。あたしも表紙飾りたいなー」

「蜂谷さんも関わってたんですね」

「あの人も地元を盛り立てようと必死だからねー」

「あれっ、吉樹も知ってたの?」

「金華珈琲に行った時に何度か話してたんだよね」


 バリスタマガジンの表紙を何度か飾ったことがある。バリスタオリンピックが終わった後も特集の依頼が常に殺到していたため、この手の撮影にはすっかり慣れていたのだ。


 近所の公園には、子供の時優子に連れ出されて、一緒に遊びに行ったっけなー。何だか懐かしくなってくる。それにしても、随分と遊具がなくなってるな。昔はもっとたくさんあったはずなのに。


「どうしたの?」


 莉奈が僕に話しかけてくる。


「遊具が少なくなったと思ってさ」

「あー、確か遊具で遊んでた子供が怪我しちゃって、それが元でPTAから苦情が殺到して、今後は危険な遊具とかは全部取り除くことにしたんだって」


 おいおい、怪我したくらいで撤去すんなっての。


 僕もここで何度か怪我をしたことがある。でもその度に次は怪我をしない遊び方を体で覚えていったのだ。そもそも怪我くらいでへこたれない人間にしろよとPTAの連中に言ってやりたい。


 しかもちょっとした子供同士の殴り合いの喧嘩があったくらいで子供を遊ばせない親まで増えてきたらしい。そうやって目の前の石ころを取り除くような立ち回りをするから、逞しい人間が育たなくなってきてるわけだし、これが回り回って飯を食えない大人を量産することに繋がっている。怪我や困難を知らずに生きてきた人間ほど恐ろしいものはない。そのことは既に岩畑が証明済みだ。


 同窓会の時には現れなかったが、小夜子が言うには、家に引きこもるようになり、親からは働くようにしつこく言われる毎日を送っているのだとか。特に大した困難を背負うこともなく生きてきた結果、彼らは子供の感覚のまま大人になってしまった。子供の内なら許されることも大人になった途端許されなくなる。社会に出た時のギャップに耐えきれず、人知れず引き籠ってしまう大人も少なくない。


 怪我した時のケアも大事だけど、そもそもめげない人間にしないと。


 今の大人たちは子供の生命力や適応力を信用しなさすぎな気がする。皮肉にも子供の生命力や適応力が育つことを阻害し、ニートを量産してきたわけだ。


「今の子供って弱いんだねー」

「そうじゃない。大人が弱くなったんだ。だから自分の子供さえ信じられなくなった。子供たちが自ら考え行動して、困難を乗り越えていく姿を想像できない。そのメッセージが子供たちにも伝わってる。道路整備で公園も少なくなってきた。大人が子供の成長する場所を奪ってんだよ」

「子供は大人以上の器にはならないか」

「難しい言葉知ってんだな」

「今はインターネットの時代だよー。子供でも知ってる単語とかめっちゃ増えたし」

「知っていても使わなきゃ意味ないぞ」


 溜め込むだけの知識なんて、マウントを取るくらいしか使い道がない。自分はこんなにも難しいことを知っているんだぞと自慢するためだけに勉強をする人が多すぎる。僕が勉強してきたのは、征服欲を満たすためじゃない。社会から騙されないようにするためだ。


 知は力なり。何も知らない人は一生騙され搾取される。理不尽な世の理を社会に出てから知るのでは遅すぎる。今の大人たちは、もっと社会に出た後の立ち回りを子供たちにみっちり教えるべきだ。


「私、3月で高校卒業なんだけど、まだ全然やりたいことが見つからないの」

「子供の頃の将来の夢は?」

「アイドル……だけど」

「何で諦めたの?」


 莉奈は突然落ち込んだ顔を下に向け、水溜まりに映っている自分の姿を眺めている。


「お母さんがそんなくだらないことを夢見てる暇があったら勉強しろって」


 莉奈が力ない声で答えた。やりたいことを言えないようにしているのは親と学校だ。母子家庭ともなると、子供は良い大学に行って、良い企業に就職してほしいと願う人も少なくない。


 そのために子供の意思を無視して……いや、気に掛ける余裕がないんだ。


「君はお袋のために生きてるのか?」

「そういうわけじゃないけど……」

「だったら自分で決めろ。あそこに就労支援施設があるだろ。あの連中は君と同じだ。やりたいことが分からず、人生の迷子になったまま成人して、大人になりきれていない人たちが山のようにいる。このままだと、君もあそこにぶち込まれて、現状に甘えたまま年を重ねて、親が死んでも生活保護を受けられないまま、あの時もっと自分勝手に生きてりゃ良かったと後悔しながら孤独死する未来が待ってる。あいつら、ロクな死に方しないだろうな。学習意欲さえ抜けきってるし、一生負け続けるかも」

「……」


 莉奈が黙ったまま下を向いている。ちょっと言い過ぎたかな?


 でもこれくらい言わないと、こいつは動きそうにない。


 このまま動かなければ、莉奈も間違いなく、あいつらと同じ道を歩むのが目に見えている。自分の人生くらい自分でどうするか言えない内は僕が何を言っても意味はないだろう。行動しなければ何も得られない。でもみんなは失敗をしないようなるべく行動を避け、無難に生きることだけを教わってきた。教育制度の作ってきた産物によって、国力が弱まるとは皮肉なもんだな。本来であれば、もっと上層部の連中に皺寄せがいってもいいはずだが、実際に皺寄せがいっているのは国民だ。


「あず君、ちょっといいかな?」

「どうかしたの?」


 撮影が終わり、帰宅しようと荷物をまとめていると、中津川社長が話しかけてくる。


 静乃たちは僕と中津川社長の後ろで仲良しそうに話している。


「君には感謝しているよ。伊織ちゃんがあず君の店で働くようになってから、伊織ちゃんの家が毎日ちゃんと食事ができるようになったんだ」

「それは良かった」

「以前のあの子は誰に対しても無表情で、欲しいものはあるかと言われても答えられなかった。でもあず君と出会ってから、あの子は変わった。欲しいものをちゃんと言えるようになった」

「当たり前のことだけどな。でもこの国の人間は、その当たり前のことさえできなくなってる。ある意味その報復を受けてるんだろうけど」

「穂岐山社長から聞いてはいたけど、結構耳の痛いことを言うね」


 おかしいことをおかしいと言ってきた結果、僕は知名度とは対照的に、あまり人を寄せつけない人間になった。でもお陰で怪しい奴も近寄らなくなったのは収穫だ。


「本当のことを言われてイラついたりするのは、馬鹿にされるような生き方をしてるってことだから、別にいいんだ。僕は評判のために生きてるわけじゃない」

「君はきっと、今の社会を映す鏡なんだろうね」

「何でだよ?」


 ツッコミを入れるように言った。答えを聞くまでは、言葉の意図がさっぱり分からなかった。


「君の言葉を聞いていると、今の社会の問題点が分かってくる。欲しいものどころか、おかしいことをおかしいとすら言えないからこそ、君の言葉は良くも悪くも刺さるんだろう。ただ、世の中には君の言葉が重すぎて潰れてしまう人もいる。今の莉奈ちゃんのように」

「……なーに、心配はいらないって。莉奈だったら大丈夫だ」

「私の妹たち、つまり莉奈ちゃんと伊織ちゃんの母親は、いずれもリーマンショックがきっかけで離婚している。みんなは親の姿を見てきたから、人一倍将来に対して不安を感じやすくなってる。伊織ちゃんが誰かの言いなりになっているのも、安定が欲しいからだよ」

「つまり、伊織はまだ自分の人生を手に入れてないと?」

「私にはそう見えるよ」

「……」


 伊織は確かにバリスタになりたいって言ってたし、本当になりたくないなら、うちに入りたがらないはずだけど、それが彼女自身の意思じゃなく、僕が誘導したものだったとしたら――。


 結局は伊織の人生も、僕がコントロールしているってことなのか?


 そんなこと……考えもしなかったな。それが本当なら、一度話し合ってみる必要がある。たとえ静乃たちに迷いがあろうとも、いつだって静乃たちを信じている。本気かどうかは様子を見ていれば分かる。


 中津川社長と別れた後、吉樹と共に葉月珈琲へと戻る。美羽は中津川社長と仕事の話があるようだ。ということは中津川社長も講師とかやるのかな。


 正月から仕事のことを考えるなんて、美羽はやっぱり真面目だな。


「あず君、美羽とつき合ってたって本当なの?」

「仮交際だけどな」

「あんなに良い人を振るなんて勿体ないなー」

「その勿体ない行動の恩恵を受けているのは誰だ?」

「ふふっ、そうだったね」


 吉樹がクスッと笑った。まるでツッコまれるのが分かっていたかのようだ。


「美羽が好きか?」

「うん。雑用係で腐ってた僕を外の世界に連れ出してくれたし、ずっと穂岐山珈琲を引っ張り続けていたし、最初はお姉ちゃんの影響もあって、年上の女は苦手だって思ってたけど、あの人は格が違うよ。あず君には合わなかったかもしれないけど、凄く良い人だよ」

「……良い人は苦手だ」


 良い人ほど、良かれと思って誰かの才能を潰してしまう人だ。いつも放っておいてほしい時に背中を押してきて、背中を押してほしい時に限ってそばにいないのだ。僕にとっての美羽は、決して噛み合うことのない、普通の良い人止まりでしかなかった。自分でも不思議に思うくらいには、美羽の積極的なアプローチが怖かった。出会う時期が違っていれば、恋人になれていたかもしれない。


 吉樹とならお似合いな気がする。両方共依存体質だし、美羽はどちらかと言えば、男を引っ張っていくタイプだ。草食系男子の典型である吉樹とは、相性が良いのかもしれない。


 ずっと応援しているからな。今の内に捕まえとけよ。

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読んでいただきありがとうございます。

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