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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第7章 バリスタオリンピック編
174/500

174杯目「コーヒーの集大成」

 午後5時、僕の競技時間がやってくる。


 僕に足りなかった心構え、それが何なのかが分かった。おじいちゃんは見抜いていた。


 競技中の僕が自分を見失っていたことに。


 競技中だろうが営業中だろうが、いつだって自然体でいることが大事だ。僕はジャッジがいる席と作業を行う席を同じにしようと考えた。ステージ中央にテーブルを設置し、ジャッジテーブルとしても作業テーブルとしても扱うことにしたのだ。創造性溢れるコーヒーが目の前で作られていく様子を近くで見てもらいたい。いつも僕が客にしていたことをジャッジ相手にもやってみることに。これは当初の予定にはなかった。リハーサルは無理でも、ステージを考えるくらいならできる。


 全ての準備は整った。後は競技に臨むだけだ。


「あず君、当初の予定と違いますけど、本当にいいんですか?」

「ああ、大丈夫だ」


 唯が心配そうに僕を見ている。だが何の問題があろうか。僕は緊張感を持って競技をしている時の自分ではなく、いつもの自分として接客に挑むつもりだ。


「それでは最後の競技者です。第5競技者、日本代表、アズサーハーヅーキー!」


 バリスタオリンピック決勝の最終競技者として僕の名前が呼ばれると、超満員の会場からは惜しみのない拍手と歓声が、この小さな耳に十分すぎるほど鳴り響いた。


「タイム。今日は僕のコーヒーを存分に楽しんでいってくれ。今から淹れるのは、どれも世界最高峰のコーヒーだ。まずはデザートと一緒に出そうと思う」


 店にいるような雰囲気じゃない。店にいると錯覚するところまでいかなきゃ駄目だ。


 まずはエスプレッソの抽出から始めた。


 合計で4ショット分を抽出して冷やすと、2ショット分を早速使っていく。


 メインで使うコーヒーはパナマゲイシャ、『XO(エックスオー)プロセス』のコーヒーだ。


 XO(エックスオー)プロセスによって、乾燥させる前に摘み取り、後から48時間チェリーのまま発酵させる。発酵時間が長いため、アルコールが発生し、酸が増加しすぎるため、糖度を正確にブリックス値18度に調整する。この時欠点豆は取り除かれ、発酵の温度は25度未満を維持する。その後48時間乾燥機にかけて乾燥させる。ゲイシャ種にこの真新しいプロセスが組み合わさることで、今までにない素晴らしい風味がエスプレッソにもたらされるのだ。


「ブリランテ・フトゥロ農園の園長、ペドロ・ディアスは実験が大好きで、新しい取り組みに挑戦している。たくさんの品種を育てたり、新しいプロセス、乾燥方法、発酵のスタイルを実験して、全ての経過と結果を記録した。僕はペドロの方針を気に入り、彼が実験も兼ねた様々なプロセスによってコーヒー豆を育てることを許可した。試行錯誤の末できたのが、今回メインで使うこのコーヒーだ」


 ペドロの最新の実験は驚異的なものだった。XO(エックスオー)という前段階の発酵プロセスを改良したプロセスを考案し、実験したところ、シロップのような甘さがあり、コニャックを想起させる風味がある。オレンジフラワー、ラベンダーのアロマ、パッションフルーツ、コニャックのフレーバー、アフターにはスイートチョコレート、カカオが残るのが特徴だ。


 マリアージュ部門では、フライパンで焼いたフレンチトーストに粉砂糖をかけたもの、ペーパードリップで抽出したこのコーヒーから作ったアイスコーヒーを提供した。甘さ以外が主体でないとスイーツと見なされてしまうため、粉砂糖は甘さを抑えている。


「このフレンチトーストには、軍鶏を主体として品種改良をしたオリジナルの鶏から採れた卵をふんだんに使っていて、この卵を使うことで濃厚な旨味を感じることができ、これを食べた直後にパナマゲイシャを飲むことで、最初にナツメグのフレーバー、後からコーヒービーンズチョコレートのようなフレーバーを感じ、濃厚な旨味と濃厚な酸味と甘味のマリアージュを感じる。プリーズエンジョイ」


 僕、璃子、優子の最高傑作であるスフレチーズケーキと冷やしておいたエスプレッソ2ショット分を使ったエスプレッソベースの思い出のカフェオレを出した。僕が昔食べていた者とは違い、通常よりも甘味の強いクリームチーズを使い、中にレーズンが入ったものではなく、外に濾したブルーベリーソースをかけたハードタイプ。璃子と優子がこのパナマゲイシャに最も合った食材を厳選してくれたのだ。


 スフレチーズケーキを8等分したものから2つを選び、皿に乗せ、皿にフランス料理のデザートのようにブルーベリーソースをかけていく。思い出のカフェオレはかつて僕が初めて飲んだものと同じだ。何度も試行錯誤をした末にようやくピッタリとハマる味に辿り着いた。レシピの正体は、ブルーマウンテン、上白糖、アーモンドミルクだった。この味こそ、原点にして頂点とも言える、さっぱりした甘さのカフェオレだった。どうりで通常の牛乳を使った時、これじゃないと思ったわけだ。


 しかもアーモンドミルクは牛乳ではないため、僕みたいに牛乳を飲むと腹を壊す体質の人でも安心して飲むことができる。どこまでも飲む人に寄り添ったドリンクだ。牛乳でなければ邪道と思う者もいるだろうが、コーヒーは日々多様化されてこそ、次のステージへと進化するものだと思っている。


 やっぱりデザートにはカフェオレが合うんだよなぁ~。


「アーモンドミルクから作られたカフェオレこそ、僕が最初に飲んだコーヒーだった。もし上白糖もアーモンドミルクもなく、ブラックコーヒーの状態で飲んでいたら、僕は今、ここに立っていなかったかもしれない。このカフェモカは僕をバリスタの道へと導いてくれたコーヒーだ。プリーズエンジョイ」


 ここまでにちょっと時間をかけすぎたか。でもここからは流れ作業だ。油断せずにいこう。


 ブリュワーズ部門では、僕が最も得意とするペーパードリップで淹れたケニアゲイシャのドリップコーヒーを4杯分抽出し、2杯を無事に提供する。


「ケニアゲイシャは抽出器具によって様々なトロピカルフルーツのフレーバーになり、フレンチプレスならスターフルーツ、サイフォンならドラゴンフルーツ、そしてこのペーパードリップによって抽出されたものはジャックフルーツのフレーバーを感じる。プリーズエンジョイ」


 2杯分のドリップコーヒーにパッションフルーツ、ココナッツシュガー、水を加え、高温で数時間ゆっくり加熱したものを使い、自然由来のトロピカルフルーツの風味を補強する。同じコーヒーと牛乳とレモンジュースを混ぜて作ったコーヒーのホエイを投入し、クリーミーなマウスフィールをもたらす。


「シグネチャーのフレーバーは、アセロラ、パパイヤ、アフターにパイナップル、バナナを感じる」


 ここまでで最も得意なペーパードリップを残しておいた甲斐があった。


 レパートリーポイントと合わせればかなりのハイスコアになるはずだ。


 エスプレッソ部門ではXO(エックスオー)パナマゲイシャから抽出したエスプレッソ4ショット分から2ショット分を2杯分のエスプレッソとして提供する。残る2ショット分のエスプレッソにウォーターケフィアグレインと呼ばれる菌塊を砂糖水に入れて発酵させて作ったウォーターケフィアドリンクというバクテリアと酵母の塊を投入する。コニャックのようなテロワールを感じるコーヒーであることから、予め葡萄をウォーターケフィアドリンクに漬けておくことを思いつき、アルコール発酵しないように10度以下の温度で保存しておいたものだ。発酵時に生成された乳酸はシグネチャーのボディを引き上げ、巨峰のようなフレーバーをもたらす。ゲイシャ特有の明るい酸味と甘味を引き出すため、摘んだばかりの新鮮な桜の花を糖液に漬け込み、エキス分を抽出した桜シロップを投入する。


 爽やかな酸味とフルーティーな香りの桜シロップがコーヒー全体の美味さを力強く底上げする。これらの食材がマグネチックスターラーによって混ぜ合わされていく。


 最後にこれらを混ぜ合わせたものを窒素充填機に投入したものを提供する。


「シグネチャーのフレーバーはピオーネ、ラベンダー、アフターにベルガモット、マンゴーを感じる」


 これで前半は終わった。ここまでで残り20分を切ったか。


 ラテアート用の牛乳はいつでも使える状態にしているし、まだ十分に間に合う。コーヒーカクテル部門では珍しく同時に作業を進めていくことになるのだが、これにはちゃんとした訳がある。冷やしておいたXO(エックスオー)パナマゲイシャ、ホワイト・キュラソー、コニャック、レモンジュースを混ぜて作ったエスプレッソサイドカーをマグネチックスターラーで混ぜっぱなしにしておく。エスプレッソサイドカーはコニャックの風味、ゲイシャ特有の酸味と甘味がレモンジュースと相性が良い。


 最後に僕が最も得意とするアイリッシュコーヒーを淹れた。


 シドラのコーヒー豆からペーパードリップで抽出したドリップコーヒーにアイリッシュウイスキー、パームシュガーシロップ、コナコーヒーとロゼワインを混ぜ合わせてフライパンで煮立たせたものを投入した。このコーヒーが持つ葡萄のフレーバーを開かせた後、脂肪分30%オーバーの生クリームをシェイカーでシェイクしたものを竹べらを使ってフロートさせていく。


 直後にエスプレッソサイドカーをカクテルグラスへと注ぎ、合計2種類4杯分のコーヒーカクテルが揃ったところでセンサリージャッジがカクテルグラスとワイングラスを持ち上げた。


「4人共、グラスを近づけて。乾杯」


 センサリージャッジが乾杯すると、彼らの表情からほっこりと笑顔が零れ出た。もはや店にいる時と全く同じである。ジャッジも観客も競技であることを忘れ、楽観的な表情だ。心からの寛ぎを提供するのがバリスタの仕事であると、改めて認識させられた。同時に2種類のコーヒーカクテルを提供したのは4人のセンサリージャッジに乾杯させるためだけでなく、残り時間短縮の目的もあった。残り時間は8分、それだけあれば十分だが、クオリティを重視するのであれば、一発クリアでなければいけない。ドリッパーをミルクピッチャーの上に置く。注がれた牛乳をすぐに温めてラテアートを描いていく。


 ラテアート部門ではフリーポアで狸、デザインカプチーノで鶴を描いて提供した。いずれも流れるように描くことができたが、日頃からの練習の成果だ。使ったコーヒーは予選と準決勝と同じく、パナマゲイシャのコーヒーを使用した。カプチーノを入れるのであればこれが最適解だ。


 ペンスティックも長く使いやすいものを選んでいる。


「最高の舞台で悔いを残さず、最後まで最高のコーヒーを提供できて本当に良かった。僕をずっと支え続けてくれた葉月珈琲のみんなと関係者には本当に感謝している。タイム」


 僕の競技が終わると、会場はスタンディングオベーションとなり、他のファイナリストたちでさえ立ち上がり、拍手を送り続けることを惜しまなかった。


 しばらくの間、歓声も拍手も鳴り止まず、僕は両手を振り続けた。


 このバリスタオリンピックは、僕をバリスタとしても、人間としても、大きく成長させてくれた。


「第5競技者、日本代表、アズサハヅキの競技でしたー!」


 インタビューから片づけまでが終わると、すぐに結果発表の時間がやってくる。


 ここまでの流れはほとんど覚えていない。ただただ、もう終わったなと思いながらボーッとしていたことだけが記憶に残った。それだけ集中していたということだ。時間は59分48秒。本当にギリギリまで競技をし続けていたんだな。何だか時間が止まったような感覚だ。


 1時間ぶっ通しで接客をすると、こんなにも疲れるのか――。


 普段の自分がいかに楽をしていたかを思い知らされたな。普段は唯や伊織が僕の代わりに接客をしているような状態だし、接客も案外悪くない。


「あず君凄いです。観客たちもみんな黙ってあず君の話を集中的に聞いていましたよ」

「私もずっと聞いていられました。もっと聞いていたいと思うくらい1時間が物凄く短く感じました」


 唯と伊織が目をキラキラと輝かせながら僕に迫ってくる。


 結果発表までは少し余裕があった。この僅かな休憩時間は最終競技者にとって丁度良い塩梅なのかもしれない。ゾーンの状態が解けた直後のインターバルは思った以上に疲れる。


「僕には3時間くらいに感じたけどな」

「お兄ちゃんは店にいる時は立派なバリスタだけど、競技中はバリスタじゃなくて、あくまでも競技者だった。でも今日のお兄ちゃんは競技者じゃなくて、バリスタだったよ」

「あず君は競技の中で成長していくタイプですからね」

「本当に立派な接客でした。競技中のはずなのに、このお店に行きたいって思っちゃいました。1つ1つのコーヒーに対する説明が丁寧でしたし、ジャッジに乾杯させた時は、本当にオシャレで楽しそうなカフェだと勘違いしそうなくらいでした」


 璃子、優子、真理愛が僕の元に集まってくる。


 これだけ具体的な感想が言えるってことは、それだけちゃんと見ていた証拠だ。


 この重りを背負っているようなずっしりとくる疲れ。今までに感じたことがないものだ。つまり今までの僕は本気を出し切れなかったってことなのか?


 いや、今までは競技時間15分以内だったし、全力を出し切っても問題はなかった。この舞台が長すぎたんだ。準決勝までは力をセーブしている自分がいた。山を登っているような気分だった。バリスタとしてよりも、人間としての力量を試されているような気がした。


「後は結果発表を待つだけですね」

「そうだな。これで無理だったら、堂々と才能ないと言っていいと思う」

「ふふっ、あず君が才能ないなら、みんな才能ないですよ」


 伊織も言うようになったな。葉月珈琲に居座り続けた者はまず口先が一丁前になる。その後から実力が身についてくるのだが、それは自己肯定感が育ちやすい環境にいるからだ。自信が身につくから行動するようになり、行動するようになるから実力が身につき、実力が身につくから飯が食える。根拠なんかなくていい。まずは自分に自信を持てるような教育をするべきなのだ。やっぱり環境って大事だな。


 午後7時、辺りはすっかりと暗くなり、結果発表の時間がやってくる。


 今度は最初から白い台にファイナリスト全員が集合し、白い台の中央には1位から5位までの階段のような表彰台が用意されていた。会場にいる観客の目線が白い台にいる僕らに集中している。


 司会者がやってくると、ヘッドジャッジ、センサリージャッジ、テクニカルジャッジが次々と紹介されていく。彼らは当分の間、コーヒーを飲みたがらないだろう。この1週間だけでかなりの量を味見していたわけだが、ジャッジにも体力が必要であることは想像に難くない。


「順位の発表です。今日でバリスタオリンピックチャンピオンが決まります。心して聞いてください」


 司会者が大会のヘッドジャッジから1枚のメモを渡される。会場は静まり返り、ここにいる誰もが順位を気にしている。ファイナリスト全員が祈りを捧げ、肩を組み合い、顔を下に向け、祈りを捧げた。


「第5位は……スイス代表、クリスティアン・ヴェステルダール!」


 歓声と拍手が会場中に鳴り響いた。クリスティアンは表彰台1番右にある5と書かれた場所に上り、黒メダルを首にかけられ、5位のトロフィーを受け取った。ワイルドカードからのファイナリストは史上初めてだった。可能性を感じさせてくれるこの制度は本当に面白い。


「第4位は……フランス代表、ナタリー・モンドンヴィル!」


 マイケルに匹敵するスコアを叩き出していたナタリーが4位か。彼女は表彰台1番左にある4と書かれた場所に上り、白メダルを首にかけられ、4位のトロフィーを受け取った。彼女はトロフィーとメダルを掲げながら喜んでいた。本当は悔しいだろうに。


「第3位は……ドイツ代表、モニカ・ヘルツォーゲンベルク!」


 モニカはこの順位になれるとは思わなかったと言わんばかりに喜んだ。こんな反応ができるあたり、人間ができていることがよく分かる。表彰台の右から2番目にある3と書かれた場所に上り、銅メダルを首にかけられ、3位のトロフィーを受け取った。


 この時点で僕とマイケルの準優勝以上が確定した。


 ここまで来たなら、もう目指すところは1つしかないだろ。マイケルも同じことを考えているはず。会場内にはいつも以上に緊張が走る。マイケルに至っては連覇が懸かっている。


「この発表で全ての順位が決定いたします。私も心臓がバクバクしております。皆さん、聞き逃さないようしっかりと耳を澄ませて下さい。第2位は……アメリカ代表、マイケル・フェリックス!」


 会場中が飛び上がるように大絶叫となった。


「よっしゃあああああぁぁぁぁぁ!」


 喉の奥から叫んだ。だが僕の声は会場中の大絶叫に飲み込まれ、誰にも聞こえていない。


 マイケルは悟った顔でスタスタと表彰台の左から2番目にある2と書かれた場所に上り、銀メダルを首にかけられ、2位のトロフィーを受け取った。


 そして――。


「第7回バリスタオリンピック2015東京大会優勝は、日本代表、アズサーハーヅーキー!」


 会場中が熱狂の渦に飲まれ、あらゆる場所からクラッカーの音が鳴り響いた。会場の盛り上がりはピークに達した。床には数多くのカラフルな紙吹雪なひらひらと舞いながら落ちてくる。笑顔で泣きながら表彰台の真ん中にある1と書かれた最も高い場所に上り、金メダルを首にかけられ、1位のトロフィーを受け取った。トロフィーは階段状になっており、順位が高いほど段数が多く積まれている。トロフィーの頂上にはタンパーがついている。タンパーの色はメダルの色と同じであり、僕のトロフィーに接着されているタンパーはメダルと同様、黄金の輝きを放っている。


 史上最年少にして、アジア人初のバリスタオリンピックチャンピオンが、ここに誕生した。


 僕らファイナリストはトロフィーを掲げたまま、メディアに写真を撮られていた。


「それでは最後に、アズサハヅキに優勝した感想を述べてもらいたいと思います。アズサは前へ出て来てください。他の方も表彰台から降りてください」


 司会者に誘導されて白いステージに戻ると、僕の目の前にマイクが固定された。


「……この日をどれだけ待ち望んだか分からない。夢にまで見たこの舞台で優勝できたのが本当に信じられない。僕はこの大会から色んなことを学んだ。1人の人間にできることなんてたかが知れてる。葉月珈琲のみんなや、ここまで協力してくれた人たちがいなければ、僕はここに立っていなかった。僕はずっと1人で戦っているものだと思っていた。けどそうじゃなかった。ずっと誰かが一緒に戦ってくれていたことに気づかされた。本当に感謝している。僕は訳あって人を恐れていた。でも、そんな僕をずっと支え続けてくれたのも人だった。もうどんな逆境にも負けない。ありがとう」


 拍手と歓声が鳴り響いた。これでもう何回目だろうか。


 ふと、僕はスクリーンに映っているスコアボードを見る――。


 1位 葉月梓 日本 972.8

 2位 マイケル・フェリックス アメリカ 951.6

 3位 モニカ・ヘルツォーゲンベルク ドイツ 944.9

 4位 ナタリー・モンドンヴィル フランス 941.3

 5位 クリスティアン・ヴェステルダール スイス 935.5


 やっと頭1つ抜けたな。いつも通りの僕だ。ようやく僕の用事が全て終わった。閉会式が終わると、美羽たちに誘われ、穂岐山珈琲のオフィスビルへと赴き、祝勝会を行うことに。


 静乃、莉奈、愛梨、美月、うちの両親に唯の両親も参加している。


「それじゃー、あず君のバリスタオリンピック優勝を祝って、カンパーイ!」

「「「「「カンパーイ!」」」」」


 オフィスビルの高い所から夜の東京を見ていた。


 周囲には葉月珈琲の仲間たち、穂岐山珈琲の連中が次々と集まってくる。


「あず君、優勝おめでとう! アジア人初の優勝なんて本当に凄いっ!」

「ったくホントに大した奴だ」

「これで世間に対する影響力を手に入れられましたね」

「ああ、ここからが正念場だ」


 バリスタオリンピックは終わったが、僕の戦いはまだ終わってはいない。


 もう何も恐れない。今こそ、世間と決着をつける時だ。

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読んでいただきありがとうございます。

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