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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第7章 バリスタオリンピック編
173/500

173杯目「最終決戦の日」

 ――大会7日目――


 遂にバリスタオリンピック決勝が始まる。


 今日で正真正銘、世界一のバリスタが決まるんだ。油断は微塵もない。


 昨日のくじ引きの結果、僕は最終競技者になってしまった。


 今日は5人のファイナリストが1人ずつ競技を行うため、1人に割かれる時間が長くなり、2つあったブースも1つに統合されて会場全体から見れる構造になるわけだ。奇しくも優勝最有力候補のマイケルが第1競技者だ。後に続く競技者たちにとってはプレッシャーが半端ないだろう。


 だが僕にとっては願ってもない話だ。自分の競技の前に見たくてたまらなかった。朝早く起きた理由はそれだけじゃない。僕、璃子、優子の合作にして最高傑作を出そうと思っている。僕にとってはマリアージュ部門におけるスコアの最大化を目指すことができ、璃子にとってはワールドチョコレートマスターズに向けた調整ができ、優子にとっては世界的ジャッジに評価してもらえる絶好の機会だ。


「まさかバリスタ競技会の世界最高峰であたしのケーキが採用されるなんて、ホントに夢みたい」

「優子さんの作ったケーキなら、きっとお兄ちゃんを優勝に導けるはずです。先代が作っていたヤナセスイーツの味、今でも覚えてますか?」

「あったりまえでしょ。このケーキはね、お父さんがヤナセスイーツを引退するまでの間、ずっとケーキを作り続けた証なんだから」

「神戸の味は世界にも通用するはずだ。だから選んだ」

「あず君、あたしの夢を叶えてくれて……ありがとう」


 優子が涙ぐみながら礼を言った。


 何だかんだ言っても、こういう舞台に自分の作ったケーキが出るのが夢だったのだ。決勝までいけたのだって、優子のケーキが評価された証でもある。マリアージュ部門のスコアは1位を記録していた。


 璃子も優子もベストを尽くした。後は僕がベストを尽くすだけだ。


 参加者は一度競技者として会場に入った場合、外に出られない。僕の競技者としての会場入りは午後3時。マイケルの競技を見た後は控え室でプレゼンの組み立てをする戻ることに。第1競技者と最終競技者の時間にはかなりの差がある。マイケルは午前9時からの競技だが、僕は午後5時からの競技だ。


 せっかくだから唯と伊織と一緒に見に行くか。午後3時までは、他のファイナリストたちの競技を観戦できるし、フードとスイーツの準備がある。リハーサルの時間はない。この部分は準決勝と同じだ。


「これが最後の共同作業か」

「何言ってんの。バリスタオリンピックが終わっても、また明日がやってくるんだから、人数が足りなくなったら、手伝ってもらうからね」

「へいへい、分かってるよ」


 何だか地球最後の日のような感覚だ。でも大会が終わっても、葉月珈琲は終わらない。


 またあの日常を繰り返す時に、何か1つでも自慢できる話題が欲しいな。だったらやっぱり優勝を狙うっきゃない。大会は思い出作りでもある。


「あず君、私はここで璃子さんと優子さんを手伝いますから、そろそろ行ってきたらどうですか?」

「そうだな。もうマイケルの競技時間だし。じゃあ行ってくる」


 僕、唯、伊織の3人で会場まで赴く。この日の会場は雰囲気が昨日までとは全く違っていた。緊張感に溢れるも、みんなどこかワクワクしている様子だ。


「やっぱり来たか」


 会場で穂岐山珈琲の面々とばったり出くわすと、松野が声をかけてくる。


「あっ、予選落ち」

「予選落ち言うな!」

「ふふっ、決勝前なのに、松野君をからかう余裕はあるんだね」

「これから全力を出すのに、余裕なんて持ってられねえよ」

「うちのあず君がいつもすみません」

「あんたも苦労人だな」


 松野が僕の代わりに謝った唯に同情する。所謂一般人の感覚ってやつなんだろうか。


 これが分からないあたり、僕は間違いなくこっち側の人間だ。美羽たちは休みの日に着るような私服姿で唯と伊織と話している。まるでこの大会の当事者ではないと言わんばかりだが、結城から次のバリスタオリンピックに向けた訓練を既に始めていることを聞いた時は安心を覚えた。


 育成部は来年から大幅な弱体化を強いられる。


 結城はそんな危機感を持っていたからこそ、敗れた日から訓練を始めている。他の所属社員たちも躍起になっている。穂岐山珈琲は大手コーヒー会社ではあるが、まだ世界チャンピオンが現れていない。もし最初のチャンピオンが現れれば、間違いなくバリスタ史にその名を刻むだろう。


 どうやら昨日までの僕の話をみんなして聞いていたらしい。部署から上位勢がいなくなるのは寂しいものだが、それは同時に自分が部署のナンバーワンになれるチャンスでもある。育成部ナンバーワンになれば、それだけで世界大会に出るチャンスが大幅に広がるはずだ。


「あず君のお陰で、みんなやる気になってましたよ」

「そりゃ良かった」

「なんか全然嬉しそうじゃないですね」

「他の会社の話だろ」

「穂岐山珈琲は好きじゃないんですか?」

「世話になってる分、感謝はしてるけど、好きかって言われると、そうでもないかな」

「どうしてですか?」

「だってさ、育成部の人たちって上位勢にならないと大会で経験積めないんだぞ。200人以上もバリスタがいるのに、1つの大会に出場できるのが多くて5人だし、基本的に競争率が低いほど、上位の人って不動のままだから、あのままじゃ2軍にいる人たちが実戦経験を積めない恐れがある」

「つまり、実戦経験を積むチャンスに格差があるということですか?」

「ああ。大会に出ているのが、いつも松野たちばっかりだし」


 うちは極力そうならないよう、1つの大会に特化したバリスタを育てている。


 他のバリスタ競技会にも出たいなら、その都度決めればいい。


 ていうかそんなにバリスタがいるなら、自社開催の大会とか作っちゃえばいいのに。


 ――ん? 大会を作る。そうか、その手があったか!


「あず君、応援に来ましたよ」


 聞き覚えのある可愛らしい声に反応して後ろを振り返ると、紛れもなく美月の姿がある。


 しかも後ろには親父とお袋までいた。


「美月はまだ分かるとして、何で親父とお袋がここにいるんだ?」

「息子が大舞台に立つってのに、親が同席しないわけにはいかんだろ」

「そうそう、やっぱりパソコン画面と生じゃ、感動が全然違うもん」

「はぁ~、なんてこった」


 葉月ローストは閉店状態ってわけか。


「店のことなら心配するな。うちの店には6人もいるし、今日は新人たち3人に店を任せてある」

「そーゆー問題じゃねえ。親父がいないと焙煎できないんだけどな。しかも新人に店任せたのか?」

「ああ、店長代理だったら誰でもできるからな。昨日はいつもより多めに焙煎しておいたし、1日経ったくらいじゃ、簡単には売り切れねえよ」

「結果発表が終わったらすぐに帰れよ」

「分かってるって」


 不安が見事に的中した。親父とお袋は良くも悪くも行動的なところがある。でも美月が久しぶりにここまで戻ることに貢献したのは見事なファインプレーだった。


 美月のいる方向に目をやると、穂岐山珈琲の面々が美月を取り囲み、美月は美羽たちとの久しぶりの再会を果たし、彼女は美羽とハグをしながら喜び合っていた。その光景は美月の人柄を象徴しているように見えた。彼女の誠実で愛嬌のある性格は会社の枠を越えてみんなから愛されていた。


「美月、元気してたか?」

「はい。皆さんもお元気そうで良かったです」

「美月ちゃんがパソコン画面を見ながら行きたそうにしていたから3人であず君に会いに来たわけだ」

「あず君のご両親には本当に感謝しています」

「いいのいいの。私たちもあず君の競技を見たかったから」


 これは後で家族会議だな。人をまとめるのも楽じゃない。


 親父、お袋、美月が会場に来たのは僕の応援だけではない。


 親父は世界的なバリスタに詳しいばかりか、今までに数多くの競技者を見て研究してきた。それは僕にバリスタ競技会攻略に協力する意味もあった。


「そろそろマイケルの競技だな。あず君は準備しなくていいのか?」

「ああ、予選が終わるまで何度もリハーサルしてきた。それに今日で最後だからな。()()ナンバーワンバリスタの競技が」

「随分強気だな」

「ここまできたら、もう勝つしかねえよ」

「まっ、弱気になるよりマシか」


 午前9時、マイケルの競技が始まった。


 決勝に合わせてなのか、ステージはかなり広くオープンなスペースとなっている。


 決勝は予選とも準決勝とも違うパターンを踏まなければレパートリーポイントが発生しない。しかも決勝ではそれぞれの部門のスコアの内、レパートリーポイントを除いた基礎スコアの合計が最も高い者が部門賞を受賞する。マイケルが丁寧なジェスチャーと解説で紹介しているコーヒーは、ブルボン種とティピカ種を組み合わせたブレンド豆、グアテマラ産『スーパーナチュラルプロセス』のコーヒーだ。まだ新しいプロセスのコーヒーを隠し持っていたか。均一な乾燥により、カップ品質をコントロールするため、収穫したコーヒーチェリーは完熟した色の身を選択している。成熟したコーヒーチェリーは、収穫したエリアから直接パティオという乾燥場へと広げられていく。乾燥場のコーヒーを1日に最低でも8回は均しており、広げられたコーヒーは約3週間後に収集し選別を行う。


 このような流れで栽培、精製処理、選別工程までされているため、コーヒーの生豆もナチュラルプロセスとは思えないほど綺麗でありながら、圧倒的な甘さを漂わせ、赤く実ったチェリーを思わせるような香りでもあり、焙煎工程の前からポテンシャルを十分に感じるコーヒー豆だった。


 マイケルはとんでもない切り札を最後まで隠し持っていた。


 優勝は譲らないにしても、部門賞の内のいくつかは持っていかれるだろう。


 マイケルはそれぞれの部門を順当にこなしていた。最初に抽出したエスプレッソを冷やしたり、説明をしながら創造性に富んだコーヒーを淹れていった。このスーパーナチュラルプロセスのブレンド豆、ウォッシュドプロセスのSL28、ウォッシュド・カーボニック・マセレーションのエアルーム、ナチュラルプロセスのコロンビアゲイシャといった錚々たるコーヒー豆をフルに使い、未知の領域とも言えるシグネチャーを次々と作っていった。彼がレパートリーポイントを狙ったのは3つの部門だ。


 準決勝でも3つのレパートリーポイントを獲得していた。


 最も自信のある部門に限ってはレパートリーポイントを捨てていると思ったが、決勝では自信があると思われた部門でレパートリーポイントを狙っている。しかも変えていない部分は準決勝用のままだ。


 そうか、ここまで変えていなかった部分は決勝用にアイデアを取っておくためだったのか。ポイントがなくても、並外れたコーヒーであればハイスコアを記録できる。下手に工夫を凝らして減点されるリスクよりも安定性を取ったか。決勝で1位を取れればそれで良し。彼の競技はそんなバリスタ競技会の本質を語っているようだった。本気で勝ちにきていることが窺える。


「マイケルさんでも、5つの部門全てでレパートリーポイントを狙わないんですね」

「前回大会もそうだった。特に自信のあるコーヒーを決勝まで残して、アイデアの精度を上げるために数を絞ったんだ。アイデアが多ければ多いほど質は下がっていくけど、アイデアが少なければ、ずっと同じアイデアを追求しやすいために質は上がっていく。あの工夫には相当な時間をかけたはずだ」

「でもかけた時間なら、あず君も負けてませんよね?」

「もちろん。面白くなってきた」


 ブレンド豆はメロンがメインフレーバーとのこと。アフターにはスイカを感じるユニークなコーヒーだった。マイケルはこのブレンド豆にメロンときび砂糖を混ぜて作ったメロンシロップ、小さなフライパンで煮立たせたSL28、エアルームを投入していった。


 これにより熟したマスクメロンのようなフレーバーとなり、このコーヒーの魅力を存分に活かせる。最後にメロン果汁と水を混ぜて作ったメロンウォーターにドライアイスを投入し、メロンスモークをコップに投入してから提供した。ワイングラスに注がれたアイリッシュコーヒー、カクテルグラスに注がれたエスプレッソマルガリータを提供した。テキーラ、コアントロー、ライムジュース、コロンビアゲイシャのエスプレッソをシェイカーに入れてからよく振り、カクテルグラスに入れた。マイケルが使っているコロンビアゲイシャはライムのフレーバーが特徴だ。マルガリータとは相性が良いんだろう。


 マリアージュ部門とブリュワーズ部門は準決勝と同じだった。


 準決勝ではエスプレッソ部門とコーヒーカクテル部門でレパートリーポイントを狙わずにいた。


 ラテアート部門はいくらでもアイデアがあったんだろう。


 最後に残り時間15分程度を残し、ラテアートを描いていった。ここも予選と準決勝とは全く異なる絵を描いていた。フリーポアでドラゴン、デザインカプチーノでライオンか。どちらも架空と現実において最強クラスの生物だ。まさにディフェンディングチャンピオンの彼を象徴するラテアートだった。


「皆さんと共にこの最高の舞台に立ててとても幸せです。タイム」


 時間ギリギリでラテアートを提供し、説明をしながら掃除までを全て済ませてから競技を終えた。


 満場総立ちとなり、今まで以上の拍手と声援が会場中に鳴り響いた。


 マイケルは両手を上げて答えた。彼の顔に悔いはなかった。マイケルが言った通り、準決勝の前に彼を助けたことを後悔しそうになるくらいには。


 ――上等じゃねえか。相手にとって不足はねえな。


「マイケルすごーい。今までで最高の競技だったねー」

「ああ、マイケルの競技は、まさにバリスタオリンピックチャンピオンだ」


 ジェフと咲さんがマイケルの競技を評価する。見ていた親父とお袋が2人に近づいた。


「あのー、うちの息子が娘さんにとんでもないことをしてしまって、申し訳ありませんでした」

「いえいえ、唯が選んだ相手ですから、信用はしています」

「うちの子、結婚制度に対して反感を持っているみたいで」

「まあでも、彼の言いたいことも分からなくはないですよ。そもそも恋愛を制度で縛るのは、彼には合っていないのかもしれませんね」


 ジェフも咲さんも大人の対応と言えるものだった。


 僕が自由すぎる人間であることを知っていたのか、事実婚にも妊娠にもあまり驚いていない様子だ。早く孫の顔が見たくてたまらないらしいが、大会が終わるまでの辛抱だ。


「一応言っておくけど、手を出されたのは僕だからな」


 周囲が笑い出した。女の方が積極的なパターンが珍しいんだろう。唯に応えた僕にも責任はあるが、マイケルがいる方向に目をやると、彼は律儀にインタビューを受けていた。


 世界大会ということもあり、司会者は外国人。日本人の司会者でも普通に話せるようにはなったが、積極的に話したいとは思わない。昔の僕にはない感覚だ。分け隔てなく話していたあの頃に戻りたい。


 それにしても、何か重大なことを忘れている気がする。何だかモヤモヤする。


「アズサ、決勝も頑張ってくれよ」

「ディアナ、アリス、どうしてここに?」

「あず君の応援に決まってるだろ。他のバリスタたちはほとんど帰っちゃったけど、私たちは結果発表が終わるまで見届けさせてもらうぞ。応援してる」

「ああ、悔いのない競技をしてくるよ」


 僕の準備時間まではディアナ、アリスを始めとした各国の代表たちと話をしながら交流を深めたり、一度穂岐山珈琲のオフィスビルへと戻り、璃子と優子と一緒に課題となるスイーツ作ったりしていた。参加者全体の1割程度は結果発表まで残るようだ。


 結果発表は午後7時、午後8時には閉会式が始まる。通常のオリンピックとは異なり、閉会式にはファイナリストのみが参加するため、予選や準決勝で落ちた各国の代表は、その時点で大会から解放されるわけだ。ここは他のバリスタ競技会との共通点である。


 午後4時30分、競技前になると葉月珈琲の同僚たちが全員集結した。僕、唯、伊織がステージの組み立てを始め、璃子、優子、真理愛、がフードやスイーツを届けに来る。決勝ということもあり、僕もかなりオープンなステージにしている。全方向から見れるようなステージを考えていた。


 僕の元にマイケルが歩み寄ってくる。


「アズサ、ちょっといいか?」

「どうしたの?」

「あのお嬢ちゃんを呼んできてくれないか?」

「伊織のこと?」

「ああ、あの子だ」


 伊織を呼ぶと、彼女はきょとんとした顔で僕とマイケルのそばにやってきた。


 何で呼ばれたのかが分からない様子だった。


「やあ、イオリだったかな。今の内に詫びておかないとね。彼が実力不足で書類選考に受からなかったという発言を正式に撤回するよ」

「あー、そういえば、そんな話してましたね。忘れてました」

「正直アズサには驚かされた。昔の話とはいえ、アジア人初のファイナリストになるような者を書類選考で落とすなんて、ジャパンスペシャルティコーヒー協会は人を見る目がない」


 マイケルには本当のことを話した。今更言い訳をするつもりはないが、僕があの騒動によってバリスタオリンピック書類選考に犯人の実名公表の報復を受ける形で落選したのは紛れもない事実だ。


 神聖なるバリスタ競技会に、権力が介入することなどあってはならない。


「そんなことが……なるほど、だから権力者に嫌われたと言っていたのか。ようやく分かったよ。酷い話だな。君がそこでこの大会への出場を諦めなくて良かった」

「彼はかつての選考会の時点で、バリスタ競技会を5大会も制覇していたんです。内部告発をしてくれた人がいたお陰で、不当な落選と分かったんです」

「5大会制覇はアメリカの書類選考で顔パスできる実績だぞ。確かにそれで落ちるのは不自然すぎる。ジャパンスペシャルティコーヒー協会が不祥事で信用をなくしたと聞いたが、そのことだったか」

「ああ。分かってもらえて何より」


 ようやく誤解が解けた。伊織のお陰だ。実績さえ残せば、ちゃんと話を聞いてくれるんだな。


 だとすれば……やはり優勝を狙う他はない。


「君が数多くのバリスタ競技会を制覇してきたのは、紛れもなく君の実力ということは競技を見ていて分かった。どうやら君にも聞こえているようだ……コーヒーの声が」

「じゃあ……あんたもか?」

「ああ、君の競技を楽しみにしているよ」


 マイケルが言い残すと、後ろを向きながら手を振って笑顔で立ち去っていく。敵ながら応援されているような気がした。僕が公正さに拘る理由も伝わっただろう。これでさっきまでのモヤモヤが取れた。


「あず君、もう5時ですよ」

「そうだな。とっとと仕上げるか」


 設置したステージは田舎風の落ち着いた感じのカフェだった。4人いるセンサリージャッジを2人ずつに分け、4人用のテーブルの左右に2人ずつ座らせた。テーブルはステージの端に設置している。


 昨日からずっと決勝用のステージを考えていた。昨日まではジャッジと距離を置いて競技をしていたのだが、今回はとことんジャッジや観客に寄り添った競技にしようと考えた。


 予定していたステージとは少し変わっているが、僕ならうまくいく自信があった。


 僕に欠けていた心構えが、今問われようとしていた。

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読んでいただきありがとうございます。

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