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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第7章 バリスタオリンピック編
171/500

171杯目「選ばれし者たち」

 ――大会6日目――


 バリスタオリンピック準決勝の日を迎えた。


 この時点で128人もいた参加者のほとんどが姿を消した。


 今生き残っているのは15人、次に進めるのは5人、ワイルドカードなしの実力勝負だ。この準決勝からセンサリージャッジがいなくなり、レパートリーポイントが記録される。


 つまり、創造性の豊かさや引き出しの多さが求められるわけだ。上等じゃねえか。


 午前9時、朝食を済ませ、穂岐山珈琲のオフィスビルへと向かった。


 ここからは璃子と優子の出番だ。2人共隠れた功労者だ。


「昨日の結果発表、夢じゃなかったんだね」

「ああ、現実だ。脱落するまではつき合ってもらうぞ」

「脱落する気なんて微塵もないくせに」

「そうそう。まあでも、あず君が生き残っている間はお店のお仕事やらなくても済むもんね。作るもん作った後は、東京で買い物ができるんだし」


 優子が余裕の表情でにっこりと微笑んで見せる。


「ふふっ、優子は相変わらずだな」


 あれっ、何だかさっきよりも肩が軽い。そうか、彼女のお陰で緊張が解けたんだ。


 そうだよな。こういう時こそ、余裕の気持ちを持たないと。


 それにしても、予選通過できたとはいえ、8位通過は厳しいな。過去には10位通過から優勝を決めた者もいるが、ほとんどの歴代チャンピオンは全部上位で優勝を決めている。


 予選をギリギリ通過したことなら何回もある。


 ただ、今回ばかりは今まで以上の実力を出し切らないと、ここで消えるのは間違いない。


「前回はマドレーヌだったけど、今回は一転して派手だね」

「今回使うコーヒーに合ったコーヒーだ」

「それゲイシャじゃないんでしょ?」

「ああ。予選は不安だったからゲイシャが多かったけど、今回はゲイシャ以外も使う。最高のコーヒーはゲイシャだけじゃない」

「新しい品種と新しいプロセスを何で予選で使わなかったの?」

「お楽しみは後の方まで明かさない主義だ」

「はぁ~。無事に予選を突破できたから良かったけど、予選落ちしてたら、私たちの苦労も台無しになってたこと、忘れないでよ」

「分かってるって」


 笑いながら答えた。自分なりの最適解を選んだつもりだが、次は8位じゃ駄目だ。もっと上を目指さないと。僕の競技は午後1時からだ。順番は丁度真ん中だが、予めみんな会場に集められ、そこで説明を受けながら会場内で待つことに。みんなを会場に居座らせるのはリハーサルを行わせるためだ。バリスタが早く会場に着いた場合は会場内でのリハーサルが認められている。


 僕は体が競技の順番を覚えているため、その必要はなかった。


 午前10時30分、明らかに会場中がどよめいていた。


 あのマイケルが困り果てていた。近くにいた人に話を聞いてみれば、どうもマイケルのサポーターが渋滞に巻き込まれてしまい、会場まで来れなくなったというのだ。ステージの設置には何人ものサポーターが必須だ。僕がステージの設置をする時も、うちの連中に手伝ってもらっていた。


「マイケルさん、このままステージの設置が遅れれば失格になりますよ」


 司会者がマイケルに忠告する。だがそれは彼も熟知していることだった。


「分かってる。今急いで別の人にサポーターを頼んでいるところだ」

「あと20分ですよ」


 急いで唯、伊織、真理愛の3人を呼んだ。マイケルはその間にもたった1人でステージの組み立て作業を進めていたが、1人ではとても20分で終わりそうにない。


 すぐに3人が僕の近くへやってくる。


「あの、緊急案件だから会場中央に来てくれってメールにありましたけど、一体どうしたんですか?」

「今からここを手伝ってくれ。マイケルのサポーターたちが渋滞で会場に来れなくなった」

「「「ええっ!」」」


 3人が同時に驚くと、この声にマイケルが気づいた。


「このままだと、マイケルが失格になっちまうんだよ」

「分かりました。そういうことなら」


 唯たち3人がステージに上がろうとする。


「……ん? アズサか? 一体何をしに来た?」

「話は聞いた。今から作業を手伝わせてくれ」

「何だって。作業を手伝う? 何故?」

「サポーターが渋滞に捕まって困ってんだろ?」

「それはそうだが、私をここで見殺しにすればライバルが消える。なのに何故助けようとするんだ?」

「万全の相手に真っ向勝負で勝たないと本当の意味で勝ったとは言えねえからな。後になってマイケルが失格になってなかったら優勝してなかったなんて言われたくねえんだよ」

「ふふっ、君は面白い奴だな。感謝するよ」


 マイケルは笑いながら僕らの援助を受け入れた。


 僕は立場上彼を手伝うことはできないが、葉月珈琲の仲間であれば話は別だ。伊織たちはマイケルの指示を受けながら設置を進めていく。昨日とは違ったタイプの創造性に溢れたステージが完成する。


 まるで山小屋の中にある小さなカフェのようなステージだ。


 マイケルも間違いなく、決勝までのステージを設計しているはずだ。


「間に合ったか?」

「はい。どうにか終わりました」

「凄く心が落ち着くようなステージ設計ですね」

「ずっと家に引き籠って考えたステージだ。本当によくやってくれた。君たちには感謝してるよ」


 3人共嬉しそうな顔だった。釣られて僕まで笑みを浮かべてしまった。


 感謝されるのって……良いもんだな。


「アズサ、君には感謝しているが、後で私を助けたことを後悔すると思うぞ。君は私には勝てない」

「ああ……()()()()()()


 会場の観客席まで戻り、マイケルの競技を見届けることに。


 僕の競技はまだ少し先だったが、どうしても彼の競技を見ておきたかった。


「あず君も良いことするんですね」

「ちょっと見直しました」

「まるで僕が悪い奴みたいな口ぶりだな」

「普段のあず君なら、まずやらない行動だと思ったんですよ」

「万全の相手に勝たないと意味がないってだけだ」

「あず君が勝負事に公正なのって、運動会の影響ですよね?」

「まあな。これでどっちが負けても誰も文句は言えない。それだけだ」


 そうこうしている内に、マイケルの競技が始まった。鮮やかな茶色の木造ステージが山奥の小屋を思い起こさせる。こんな場所でのんびりとコーヒーが飲みたいと思ったこともあった。


 マイケルが使ったコーヒーはエルサルバドルの『SL28』、ウォッシュドプロセスの品種だった。


 アフリカ東部に位置する当時のタンガニーカでコーヒーの植生を観察していたスコット研究所の研究員が乾燥耐性を持っている可能性に気づき、1931年にそのコーヒーの種子を持ち帰った。これを研究所で栽培した結果、乾燥耐性に加えて優れた風味特性も持つことが確認され、研究所コードとシリアル番号を組み合わせたSL28という品種名をつけられたこの品種が広く栽培されるようになった。


 なるほど、今度はこのコーヒーで勝負するつもりか。他にも複数の品種を使うようになったが、ゲイシャのみに頼りきらないところは流石だ。流行よりも自分が信じた豆を使っている。


 彼は5つの部門の内、3つの部門でレパートリーポイントを稼いだ。


 予選と同じだった部分は余程の自信があると見える。やっぱりバリスタ競技会はこうでないと。


 マイケルの競技が無事に終わると、歓声に応えながら悠々とインタビューに答えていた。段々と僕の競技時間が迫る中、またしても僕の心を緊張が支配する。


「凄い競技でしたね」

「ああ。あれがナンバーワンバリスタの姿だ」

「そろそろ準備を始めた方がいいんじゃないですか?」

「そうだな」


 マイケルの出したドリンクは、どれも創意工夫に富んだものだった――。


 もうあの時点で決勝進出を確信してしまった。インタビューの間、ようやく到着したマイケルのサポーターがステージを片づけ、入れ替わるように次の競技者のサポーターが入ってくる。


 午後12時30分、もう片方のブースが空くと僕の出番がやってくる。


 予選と準決勝は会場に2つあるブースを使って競技を行っていたが、決勝ではその2つのブースの間にある壁を取っ払い、中央にある1つの大きなステージで競技を行うことになっている。


 つまり、会場中の注目を一身に浴びるわけだ。


 ただ競技をするだけでなく、プレッシャーへの強さも問われるというわけだ。


 僕の競技時間が近づくにつれ、多くの観客が集まってくる。いくら僕を応援しても、うちの店に入れるわけじゃないのに、何でそこまで応援してくれるんだ?


「……唯」

「どうしました?」

「何であいつら、僕を応援してくれるの?」

「日本代表だからっていうのもあると思いますけど、何だかんだ言っても、結局はあず君が好きだからですよ。たとえうちの店に来れなくても、あず君が好きだっていうのが、私には分かります」

「僕にファンができる理由が皆目見当もつかないんだけどな」

「理屈じゃないんですよ。あず君を見ているだけで心が落ち着くんです。今までの動画を通して、あず君がどれほど頑張ってるのかが伝わってるんですよ。もっとも、あず君が血の滲むような研究を重ねてきたことは……全く知られていないでしょうけど」

「一般大衆が興味を示すのは結果だけか」


 まあ、それが世間というものなんだろう。


 あいつらのほとんどは物事の表面しか見ない。そうとでも思わないとイライラしてくる。本当に自分を理解してくれる人とだけつき合って、他はテキトーに流しときゃいいんだ。


 拓也から教わった世間への対処法だ。


 そんな中、競技に必要な物資を次々と受け取っていき、ステージの組み立てが終わってから競技時間までの間、試しにコーヒーの抽出を行っていた。抽出は特に問題ない。念入りに確認を済ませて、競技時間を迎えた。小型マイクが装着されると、いよいよ司会者から紹介が入る。


「それでは次の競技者の発表です。第9競技者、日本代表、葉月梓バリスタです」


 拍手が喝采し、司会者から準備ができたかを聞かれて頷くと、深呼吸を済ませて緊張を解す。


「タイム。僕は世界中にあるコーヒーから様々な品種を試飲し、どうやったらこのコーヒーたちの個性を引き出すことができるのか、ずっとそのことばかりを考えてきた」


 自分のコーヒーに対する哲学や理念を伝えながらジャッジのコップに水を注ぎ、配っていく。部門をこなす順番は予選と同じだ。まずはエスプレッソを6ショット分抽出して氷水で冷やしておく。序盤にクールダウンさせるのは、酸とフレーバーを明確にするためだ。


 マリアージュ部門では、あえて甘さを強くしたキャラメルケーキ、シティローストで焙煎したボリビアゲイシャのドリップコーヒーを提供する。通常より深入りにすることで嫌味のない苦味になり、少し甘さを強くした、このキャラメルケーキの味がより一層引き立つのだ。


 これも僕と璃子と優子の3人で作り上げたケーキの1つだ。甘さを強くすることで、苦いコーヒーも飲みやすくなり、苦さの先にある風味を感じやすくなるという璃子のアイデアが反映されている。


 この組み合わせは最後まで悩んだ。でも僕は璃子の感覚を信じることにした。


「少しばかり深入りに焙煎したことで、チョコレートクリームのようなフレーバーになり、これがキャラメルケーキの風味にピッタリとハマるはずだ」


 今度は耳を落とした食パンにハムとモッツァレラチーズを挟んだホットサンド、さっき冷やしておいたエスプレッソベースで作ったカフェオレを作り提供する。


 食べる順番はフードとスイーツを食べてからコーヒーを飲むよう指示した。


 飲む順番は競技者が指示することができ、特に指示がない場合は食べ物が先となる。僕の場合は食べてからコーヒーの順番は予選から変わっていない。


「このカフェオレとモッツァレラチーズの相性は最高と言っていい。この水牛から採れたモッツァレラチーズの塩味がこのコーヒーの持つ酸味や甘味を引き立ててくれる」


 甘さ以外が主体のものでコーヒーに最も合う食べ物となると、やはり軽食に辿り着いてしまうのだ。パンとチーズに変わりはないが、パンの種類もチーズの種類も変えてある。


 これもレパートリーポイントの範疇になるはずだ。


 さっき抽出したエスプレッソは『シドラ』という品種である。


 元々はエクアドルで発見された新しい品種である。


 シドラの歴史は新しく、ティピカとレッドブルボンのクラシックな品種同士の交配により、エクアドルで数年前に生まれた品種だ。ブルボンが持つ甘さとティピカが持つ上質な酸という、親である2つの品種の長所が顕著に表れる結果となった。取り分けシナモンなどのスパイスを感じさせる複雑なフレーバー、強い甘みにリンゴ酸を思わせる爽やかな酸が特徴のシドラは今までのコーヒーの風味特性に対する概念を覆す品種となるだろう。まだ生産と流通が限られているものの、今後数年間で世界のスペシャルティコーヒー市場を大きく変えていく可能性が高いと目されている。


「葉月珈琲傘下のコーヒー農園、アルマ・ヘメラ・ヘメロ農園から生まれた品種で、コロンビアに住むカルロス・ガルシア園長がエクアドルに友人を通じて手に入れたシドラの苗を貰い育てたものだ」


 このコーヒーのプロセスは『ナチュラル・アナエロビック・ファーメンテーション』である。


 高い標高には冷たい空気があり、低い標高からは温暖な空気が流れてくる。温度の寒暖差がプランテーション内のコーヒーにストレスを与え、結果としてポジティブな影響をもたらす。より多くの糖質を生み出し、ミューシレージが増加することでコーヒーをより甘くし、より複雑なカッププロファイルをもたらす。密閉されたタンクで酸素がとても少ない状態で48時間発酵させる。アナエロビック・ファーメンテーションによってコーヒーチェリーに含まれている糖質が分解され、乳酸の濃度を高くする。これによってコーヒーにボディ、フルーツフレーバー、タータリックな酸質をもたらす。


 アナエロビック・ファーメンテーションは、湿度がとても高い環境で行われているため、乾燥工程ではグリーンハウスに移動させてレイズドベッドで乾燥させる。


 グリーンハウスは温度管理が徹底され、約2週間後にメカニカルなサイロにて最終乾燥させる。これらの乾燥工程のシステムがコーヒーの透明感に繋がっている。


 ブリュワーズ部門では予選と同様にケニアゲイシャを使った。抽出器具によって様々なトロピカルフルーツの味に変わるのだが、これが僕らの度肝を抜いた。全く新しいプロセスを用いることで、同じゲイシャでも全く違う味わいになっていることを発見したのだ。


 準決勝はサイフォンを使った。サイフォンは以前の大会で集中的に使っていたこともあり、ペーパードリップに次いで得意になっていた。ブリュワーズ部門以外で使っているドリップコーヒーは、全部ペーパードリップで抽出したコーヒーだ。サイフォンを4つ使ってコーヒーを抽出し、2杯を提供した。


「抽出器具でコーヒーのフレーバーは変わるが、ケニアゲイシャは特に傾向が強く、予選で使ったフレンチプレスはスターフルーツ、サイフォンで抽出した場合はドラゴンフルーツのフレーバーに変わる」


 今度は残り2杯分にレモンピールと牛乳から作った牛乳のホエイ、時間をかけて抽出した玉露の液を少しずつ加え、最後にピオーネときび砂糖を混ぜて作ったピオーネシロップを投入したものをマグネチックスターラーによって混ざると、シャンパングラスに注いで提供する。シグネチャーを提供する時はシャンパングラスやカクテルグラスなどを使うパターンが多いが、これは高級感を出すためである。


「牛乳のホエイはマウスフィールを高めるため、抽出した玉露は渋味や苦味を伴うことなく、アミノ酸などの旨味成分が凝縮されていて、ボディや質感を総合的に高めてくれる。ピオーネシロップはこのコーヒーが持つフレーバーを力強く補強してくれる。シグネチャーのフレーバーは、レッドピタヤ、シナモン、アフターにはカカオ、ココナッツが感じられる」


 エスプレッソ部門は途中まで予選と同じである。エスプレッソ2ショット分を抽出し、2杯分のエスプレッソとしてそのまま熱い内に提供する。このコーヒーは林檎や苺を思わせるアロマ、ブラックベリーやグレープのようなフレーバー、プラムやブルーベリージャムのアフターテイストが特徴だ。


 4ショット分の冷やしたエスプレッソの内、2ショット分に澱粉を加え、オリゴ糖を生成する。グルコースとスクロースの含有量を5倍にし、テクスチャーの向上をもたらす。ストロベリージャムを濾したものを小さなフライパンで煮立たせ、コーヒーのボディとバランス、ブライトネスな味わいを高め、最後に同じコーヒーから抽出しておいたコーヒーオイルを投入し、クープグラスに入れて提供する。


「シドラのコーヒー豆は通常のコーヒー豆よりもサイズが大きく、コーヒーオイルも多く含まれ、飲んだ時に旨味の塊を感じやすく、それがより重厚なアロマ、ロングスイートフィニッシュをもたらす」


 イラストつきのパンフレットを読み上げながら半分が終了した。


 コーヒーカクテル部門に移ると、ドライ・ジンを投入し、レモンピール、抹茶、焙煎したシドラのコーヒー豆の粉、シュガーシロップ、ベルモットを混ぜ合わせ液体のみを抽出して作ったオリジナルベルモットを投入し、エスプレッソマティーニの味に更なる深みが出る。残りの冷やしたエスプレッソ2ショット分を投入し、カクテルグラスに注ぎ、オリーブをガーニッシュとして添えたものを提供する。


「このエスプレッソマティーニのフレーバーは、レッドチェリー、アーモンド、アフターにはハニーキャラメル、白ワインが深い風味が感じられる」


 まさか松野もエスプレッソマティーニを作るとは思わなかったが、松野はほとんど何の工夫もせずに通常通りの材料にコーヒーを混ぜただけだった。ただ組み合わせるだけじゃ、人の心は掴めないぜ。


 今度はコスタリカゲイシャをペーパードリップで抽出し、ドリップコーヒーをステアの技法で急冷することで、他の食材が温くなるのを防ぐ。シェイカーに入ったまま冷えているドリップコーヒー、脂肪分多めの生クリーム、グレープブランデー、カカオリキュール、キューブドアイスを投入してシェイクする。グレープブランデーにしたのは、シドラのフレーバーと相性が良いためだ。


 生クリームは通常より少なめにし、コーヒーやアルコールの味が支配的にする。最後にカクテルグラスに注ぎ、ナツメグの粉を上から振りかければ、カフェ・アレキサンダー・フラッペの完成だ。


「カフェ・アレキサンダー・フラッペのフレーバーはホワイトチョコレート、ドライベリー、アフターにダークチョコレートアイスクリーム、サングリアを感じ、スムースでクリーミーなテクスチャーだ」


 ふぅ、やっと最後まで来たか。


 ふと、時間を見てみると、もう残り時間が10分を切っていた。


 しまったぁ~! のんびり説明しすぎた。駆け足でやるしかない。


 ラテアート部門では予選と同じパナマゲイシャのコーヒーを使うが、絵は全く異なるものだ。予め牛乳で満たして蓋をしたドリッパーをミルクピッチャーの上に置くと、牛乳が一気にミルクピッチャーに注がれ、その間にエスプレッソを抽出する。フリーポアで鹿、デザインカプチーノで猿を描いた。どちらも日本を代表する動物だが、植物と一緒に書くのがコントラストを際立たせるコツだ。


 鹿と猿を2杯ずつ描いてから提供した。


「これは全く新しいコーヒー豆を使った未来のコーヒーだ。いずれはこのコーヒーが普及し、多くの人の手の届く日を心から楽しみにしている。タイム」


 やっと終わった……僕の準決勝が。


 レパートリーポイントを取りにいく縛りの中、全力を出し切った感はある。拍手喝采の後でインタビューを受け、ステージの片づけが終わると、今度はディアナやヴォルフの競技が行われていった。


 疲れが溜まり、今にも倒れそうだが、それでも僕は耐えた。

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読んでいただきありがとうございます。

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