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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第1章 学生編
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17杯目「修学旅行」

 僕は持久戦略で岩畑との戦いに競り勝った。


 肉離れの原因が僕であることを伝えた場合、僕と喧嘩していたことも全て話さなければならないこともあり、下手に告げ口をされることはなかった。


 小6の1学期の後半を迎え、ようやく一日一善は解除された。これには大きな欠陥があった。貢献した人から必ずありがとうと言われないといけないが、僕が礼を述べられることはなかった。まず誰かが授業中とかに落とした消しゴムを拾った程度ではカウントすらされない。この時点でかなりハードルが高い。しかもお礼を言ってもらえそうなタイミングで貢献をすると必ずこう言われる。


「あっ、すみません」


 何故か謝罪の言葉が飛んでくる。ありがとうと言われなければ居残り掃除だというのに、みんな礼を言う時は必ずと言っていいほどすみませんだから困ったもんだ。


 何でみんなお礼を言う時に謝るんだ? 英語だったらセンキューと言うところが何故かアイムソーリーになる。僕は日本語の曖昧さに苦戦していた。すみませんには謝罪以外にも、謝礼や声をかける時に使う言葉としての意味があるのだが、当時の僕は知らなかった。


「今日は何回ありがとうと言われたの?」


 終礼の時に毎回担任から聞かれたから、いつも正直に0回と答える。


「じゃあ今日は居残り掃除ね」


 担任からそう言われると、当たり前のように拒否し、そこから先は岩畑とのやり取りに続く。みんなすみませんしか言わない時点で無理ゲーだった。担任はこの欠陥に気づかないままだった。お礼を言われない部分を僕の努力不足と見なしていたのだが、僕はこの担任にハメられていたのかもしれない。


 孤立状態だったが、お陰で授業中はぐっすり眠ることができた――。


 クラスは修学旅行の話で持ちきりだった。僕は飛騨野に声をかけられて同じ班になった。今回はくじ引きじゃなく、男女同数を条件に自由に班を決めることになった。てっきり岩畑の取り合いになるかと思いきや、何故か僕の取り合いになった。だが今回は最も当たり障りのなさそうな女子を選んだ。


 感情的で無節操な人は避けるようにした。ああいうのがいると神経を逆撫でされる。一緒に過ごせる相手を選べるようにしたのは英断だと思う。最高なのは学ぶ場所を選べることだが……。


 同じ部屋で一緒に泊まるのは、全員むさ苦しい男子だ。知り合い程度の関係だったのが幸いだ。この時の僕は飛騨野の希望により彼女と隣の席になった。一度振っているのに大した度胸だ。席替えをランダムに決めた後、話し合いで席を交換することもある。


「梓君と一緒の班で良かった」

「他に好きな男子とかいないの?」

「いないけど」

「飽きたりしないの?」

「しないよ。梓君面白いし」

「僕は芸人じゃないぞ」


 飛騨野はずっと僕のそばにいた。


 休み時間になると必ず僕に話しかけてくる。席替えの時にも必ず話すくらいだ。


 そこにもう1人の女子が話しかけてくる――。


「ねえ、あたしとも同じ班になってくれないかな?」


 居波紗綾(いなみさあや)。彼女は林間学舎の時、僕の一行の2列目にいた女子だ。黒髪ロングヘアーの内気で可愛らしい額には髪留めがあって、見た目通り大人しい子だ。


 居波は芸能事務所に所属しており、放課後は子役の仕事をしている。ファンもそこそこいる。


 彼女は僕と飛騨野の会話を終わらせると、今度は彼女と話すことに。


「別にいいけど」

「美咲とつき合ってるの?」

「つき合ってない」

「ふーん、じゃああたしがつき合っちゃおうかな~」

「ちょっと、何言ってるの? 梓君はみんなの共有財産だよ!」

「冗談だって」


 居波が僕との交際を仄めかすと、飛騨野がすかさず牽制する。いつからこいつらの共有財産になったんだろう。ていうか本当に財産だと思ってるなら、迫害を受けてる時にガードくらいしてほしいな。


 昼休みになると、またしても屋上に呼ばれることに。ホントこいつら屋上好きだよな。


 屋上には居波が曇った顔で待っていた。休み時間に触りだけ聞いたが、どうやら相談とのこと。


「相談って何?」

「あたし、ストーカーされてるの。だからどんな人かを特定してほしいの」

「まさか、僕にそいつを捕まえろと?」

「特定してくれるだけでいいの。後は何とかするから。お願いっ!」

「居波ってモテるの?」

「一応、他の学校の生徒に告白されたこともあるよ」

「ストーカーは毎日いるの?」

「うん、帰る時に後からついてくるの」

「……分かった。早ければ今日捕まえられるかも」

「本当に? じゃああたしはどうすればいい?」


 居波はスクールカーストの最上位に位置するグループに所属し、美濃羽が別のクラスになってからは相対的に存在感を表すようになった。基本的に大人しく、他人には滅多なことでは懐かない気難しい性格だが、子役をやっていることもあって、それなりにモテる。僕よりも立場が強い女子と言うことだ。断ったら何されるか分からない。僕は渋々応じることに。彼女は担任に事情を説明し、僕と一緒に下校する。彼女にはあることを支持しておいた。後は犯人を炙り出すだけだ。


 居波は僕と一緒にいる時はどこか安心そうな顔をしていた。僕に依頼した理由は、小4の上靴の画鋲事件の時に推理で犯人を突き止めたことを知り、僕なら解決できると思ったらしい。一応警察にも相談したらしいが、何かあったら連絡くださいと言われた。何かあってからじゃ遅いだろうに。僕と居波が一緒に帰っていると、後ろから人の気配がした。恐らく犯人だろう。


 僕と居波は作戦を実行に移す。犯人に警戒されないよう後ろを振り返らないことや、僕は交差点の角を曲がる時、彼女にダッシュするように言った。交差点の角が見えると、僕は彼女を置いて走り出し、交差点を曲がり、指示通りに交差点から急に走り出す。僕は交差点を曲がった先にいた。すると、さっきまで後ろにいた男が慌ててダッシュしてくる。


 ストーカーの正体は他の学校の生徒だった。


 短髪黒髪黒制服で黒いランドセルという、黒ずくめの男子生徒だった。


 うちが私服なのに対して、そいつは制服を着ていたからそれで分かった。僕は居波を追いかけるのに必死であるそいつの後ろから声をかけた――。


「そんなに彼女が好きなの?」

「えっ、どういうこと?」

「しらばっくれるならそれでもいい」

「ああ!? だからどういうことだよ!?」


 図星だったのか、男子生徒は威嚇するように疑問を投げかけてくる。


 言動から犯人はこの学生と確信した。


「――これだけ言っておく。今度彼女に近づいたら通報する。これ以上こんなことをしても、君が破滅の一途を辿るだけだ。悪いことは言わん。もうやめとけ!」


 男子生徒はしばらくその場で立ち尽くす。その後彼は黙って逆方向へ逃げるように走り去る。ホッと胸を撫で下ろして先へ進むと、居波が僕を待っていた。


「もうやってこないと思う」

「……ありがとう」


 居波の表情に笑顔が戻り、顔を赤くしながらと恥ずかしそうに礼を言う。恐らく人生で初めてまともにありがとうと言われた瞬間だった。こういう時って……どういう反応をすればいいんだ?


「梓君ってホントにカッコ良い。林間学舎の時も、凄く難しい曲を目を瞑りながら弾いたり、コーヒーがどこの国のものかを言い当てたりしてて、そんな特技があったなんて意外だなって思ったの。普段は授業中寝てるし、テストもロクに受けないし、先生の言うこと全然聞かないし、体育も休んでるから駄目な子だと思ってたけど、想像以上に面白い」


 居波は新しい側面を発見をしたかのように語る。僕が駄目な子なのは的を射た表現だし、学校だと欠点ばかりが浮き彫りになるし、普段は悪い意味で注目されていた。


「梓君の家、行ってもいいかな?」

「えっ、うち!?」

「梓君の淹れたコーヒー飲みたいな」

「……他の人には内緒だぞ」


 居波を連れて商店街の中にあるうちの家まで帰宅するが、親は不在だった。先に璃子が帰っていた。居波は璃子と挨拶をしていたが、コーヒーを1杯淹れたらとっとと帰そう。サイフォンでコーヒーを淹れたのだが、ペーパードリップは璃子が使っていて、仕方なくサイフォンにした。


 サイフォンは少し手間がかかるが、初心者でも均質性の高いコーヒーを淹れられる抽出器具だ。


 僕が慣れた手つきでロートやフラスコなどを用意して、フラスコに沸騰した熱湯を入れて、コーヒーの粉をロートに入れる。熱湯がロートの方に上昇してきたら、竹べらでコーヒーの粉と熱湯を馴染ませるよう素早く円を描くように数回撹拌(かくはん)する。


 最後にフラスコの部分にコーヒーが抽出され、コーヒーカップに移し替え、居波がいる席まで行って提供すると、彼女はコーヒーを一口飲む。


「凄い、全然苦くない。これ美味しいね」

「ちゃんと丁寧に扱えば、コーヒーは甘い一時を提供してくれるんだよ」


 コーヒーの声を聞きながら作業をする。品種やプロセスや焙煎方法や抽出器具によって、コーヒーの味は簡単に変わる。バリスタはコーヒーが持つ味の変化に敏感でなければならない。だからこそ、コーヒーの味を最大限に引き出せるタイミングを肌感覚で知っておく必要があるのだ。


 毎日コーヒーを飲んでいる僕に死角はなかった。


 居波がコーヒーを飲み終えて落ち着いた表情になる。


「梓君、コーヒー美味しかったよ。また学校で会おうね」


 彼女が笑顔でそう言うと、家へと帰って行った。それからは彼女がストーカーされたという話は聞いていない。どうやらあの最終警告が効いたらしい。僕はまだ携帯を持ってないから通報なんてできないんだけどね。人通りのある場所じゃなければ危なかったかもしれない。


 次の登校日を迎えると、居波はお礼は何がいいかを求めた。みんなには黙っておくよう釘を刺した。これ以上目立ったら何をされるか分からない。目立つことを警戒して彼女に噂をさせなかった。ストーカーがいなくなって以来、居波は休み時間になる度に僕の席までやってくる。


 明らかに先週までとは様子が違う。赤面でもじもじしながら、満面の笑顔で僕に近づいてくる。


 子役の仕事がうまくいったのかな?


 飛騨野も居波の様子に気づいているようだった。居波は嬉しそうに僕に擦り寄ってくる。


 えっ? 何でこんなに体くっつけてくんの? 近い、近いから、興奮するから寄らないでくれよ。


 しかし、これが他の女子たちの反感を買ってしまう。


 彼女は他の女子たちから咎められることになってしまった。


「ねえ、ちょっと前から梓君に近づきすぎじゃない!?」

「そうそう。あんたちょっと調子乗りすぎ!」

「ご、ごめんね。梓君凄く優しいから、つい」


 女子が僕に擦り寄るのはタブーだった。飛騨野が言うには、女子が僕に触るのは共有財産を無断で使うことと同じらしい。2泊3日の修学旅行の日がやってきた。行きたくなかったが、親がどうしても行けと言うため、一緒に登校して担任に引き渡された。


 ――この展開どっかで見たような。


 修学旅行の行き先は広島。僕の知り合いは修学旅行で某夢の国とか某ユニバとかに行ってたらしい。僕もテーマパークが良かったけど、残念ながらガチガチの内容だ。恐らく戦争経験を子供に知ってもらうためなんだろうが、それなら尚更任意参加にしてほしかった。宿泊先は広島県内のホテルだったが、自由時間は僅かしかなく、事実上の拘置所だった。僕は旅行先でも校則に拘束されていた。


 学年で唯一の茶髪であり、唯一のロングヘアー男子だった僕は何もしなくても外見だけで目立った。


「あいつ男子? それとも女子?」

「さあ。聞いてみたら?」

「聞けるわけねえだろ」


 道行く人からは性別を疑われた。


 男子っぽい服装に女子っぽい顔だから迷ったんだろう。別にどうでもいいことじゃねえか。


 僕の性別を知ったら給料でも上がるのか?


 みんなと一緒に昼食の後で広島記念館とか原爆ドームに行った。テレビで放送できないような写真がいっぱいある。この後はみんなで折り鶴を折らされることになる。手先の細かい仕事は得意だ。それもあってどこの班よりも早く折り鶴のノルマを達成した。1番早く決まった数を折れた班には褒美があるため、僕以外の班の人はみんな喜んでいた。褒美の内容は雑貨店で売っているような物だった。


「この上手さだったら大会に出られるよ」


 折り鶴の早さと正確さに驚いた広島の人が口を滑らせた。どうやら折り紙を作る大会があるらしい。だが僕は当然の如く拒否した。僕は競争が大嫌いだ。大会に出るのは自分の腕をひけらかすためでもなければ、競争に勝つためでもない。あくまでも宣伝のためだ。もちろん結果を残した時の達成感はないと言えば嘘になる。どちらかと言えば、宣伝ができたことの方がずっと嬉しい。


 人は商品よりも情報にお金を出す生き物だ。最高級の商品を作るよりも、自分の店からワールドチャンピオンを輩出した方が宣伝効果が大きい。金の亡者ではない。拝金主義者なんて大嫌いだ。稼ぐのはあくまでも生活のため。そうしなければ店が持たない。お金がなくても生きていけるなら、宣伝なんてしなかっただろう。僕はたまたま武器を見つけるのが早かった。競争社会でも何とかやっていけたが、大人になっても自分の武器を持っていない人は、競争社会の厳しさを味わうことになる。


 障害がある人は保護されるのに、競争に向かない人は甘えだと言われて淘汰される。


 最も生き辛いのは、競争に向かない健常者かもしれない。


 競争そのものを否定したいわけじゃない。競争が人類を進歩させてきた側面もある。


 ただ、競争社会の隣に競争しない社会があってもいいと思った。競争なんかせず、のんびり生きたい人も大勢いるだろうに。今はそういった人まで競争に参加することを余儀なくされている。そして競争に敗れた者は屈辱的な貧困を強制される。まるで競争に向かないってだけで罰を受けているみたいだ。


 この人たちが一体何をしたって言うんだ? ……やっぱり競争なんて嫌いだ。


 ナチスは障害者をいらないという理由で迫害した。日本は競争に向かない者をいらないという理由で迫害している。多少の違いはあれど、本質的には同じことをしている。ハンバーグ定食というご馳走とも呼べる夕食を食べていた。他の人はみんなと話しながら夕食を食べていたが、僕は誰とも話さず1人飯を楽しんでいた。1つ1つの料理に心の中で感想を言いながら食べるのが楽しいのだ。


 そんな時に男子が話しかけてきた。


「お前ホントに美味そうに食べるよなー」

「そりゃいつもの給食がクソまずいからな」


 僕が美食を追い求めるようになったのは、普段食べているものが不味すぎた反動だ。家では小1になる前から料理を手伝うようになり、小4の頃からは僕が料理を作っている。親の料理は普通の味だが、隠し味に野菜を入れるのが解せなかった。風呂は僕も他の男子と入ることになったが、顔が女子っぽいのか、他の客から女風呂はあっちだぞと何度も言われた。


「あはははは! もう何回言われたっけ? あはははは!」


 女風呂に案内される度、クラスメイトは大爆笑だ。


 林間学舎の人がいかに神対応であったかがよく分かる。


「お前首から上は女で首から下は男だな」


 僕自身はストレートの男子だが、感覚的には性的少数者そのものだった。趣味まで女子寄りで、持ってきたピンク色のパジャマを着た時も女子にしか見えないと言われた。


 2日目は広島の戦争経験者たちによる講演会があった。話が長すぎてずっと寝ていた。内容はほとんど覚えていない。国家ごときのために命を捨てるのはアホらしい。国家の概念自体が古いというのもある。夕食以降の時間は1日目と大差ない。僕は連日トランプにつき合わされていた。ババ抜きなどの運ゲーの勝率はそこそこだったが、大富豪などの戦略要素が強いゲームはほとんど僕が勝っていた。この才能は、後に日本が世界に誇るゲームで発揮されることになる。


 3日目は朝食と昼食の間は自由に近所を探検する。


 昼食後に広島のホテルから岐阜までバスで帰った。


 こうして、地獄のような修学旅行がやっと終わりを告げたのだった。


 ――やっぱり他人と一緒に風呂に入るのは抵抗ある。


 学校で解散した後、居波に声をかけられた。


「梓君、ちょっといいかな?」

「またストーカーされたか?」

「そんなんじゃないよ。うちに来てほしいの」

「帰って寝たいんだけど」

「紗綾、迎えに来たぞ!」

「お、お父さん!? 何でここに?」


 居波の親父と思われる中年男性が迎えにやってくる。久しぶりに出張先から帰ってきたらしい。居波から話を聞いていたこともあり、僕のことを知っていた。居波の親父の誘いで車に乗せられると、彼女の家へと向かうことに。言うほど遠くない距離の家に着くと、割と大きな家が建っており、中でお菓子をご馳走になった。大手社長の父親と専業主婦の母親、とても幸せそうだ。


 僕が生まれた頃までは、うちもこうだったのかと思った。


「葉月君と言ったかな。コーヒーが好きなんだって?」

「……そうだけど」

「俺もねー、コーヒー好きなんだよー」

「梓君ね、家でずっとコーヒーミルを回してたんだよ」

「そうなのか。それは興味深い。面倒じゃないの?」

「うん、全然」


 僕は居波と居波の親父とコーヒーのことを話していた。


 居波がサイフォンで淹れたコーヒーのことや、林間学舎のことも話した。


「それは凄い、知り合いに音楽プロデューサーがいるんだけど、よかったら今度会ってみないか?」

「遠慮しとく。ピアノはあくまでも趣味だ。僕はバリスタになりたい」

「そうか、それは残念だ。でも、応援してるよ」


 いやいや、勝手に残念がられても困るって……。


 ただ、応援してくれるあたり良心的だ。居波の親父はストーカーを追い払ったお礼を聞いたが、僕は依頼を受けただけだと言って断り、一応学校の連中には黙っておいてほしいことだけ伝えた。


 すると、今度は何故見返りもなしに助けたのかを聞かれた。僕が迫害を受けている時は誰も助けようともしなかったこと、僕が第三者なら通報くらいはしようと思うようになったこと、居波は僕よりも強い立場で、断ったら何をされるか分からないと思ったことを理由に挙げた。こういった事情を伝えると何故か同情された。他の人が迫害を受けている時、何度か通報したことがある。いじめっ子がうるさくて眠れないためである。だが担任は何の対処もしなかった。


「勇気のある女の子だね~」

「僕、男なんだけど」

「あっ、ごめんごめん。いつもうちの紗綾が世話になってるみたいだし、何かあった時はいつでもうちを頼ってくれて構わないからね」


 言わずと知れた勘違いから訂正までのテンプレだ。


 一瞬気まずくなるが、居波の親父は後ろ盾になると遠回しに言った。居波は笑顔で頷いたが、ほとんどの場合、これは言葉だけで終わることが多い。


 僕にとってはすっかり慣れた光景だった。

広島への修学旅行に行かされた経験を元にしています。

実際は行く前に折り鶴を折らされましたが。

居波紗綾(CV:伊藤未来)

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