166杯目「激戦の戦略」
――大会3日目――
遂に僕が競技を行う日がやってきた。
世界最高峰のバリスタ競技会だ。相手にとって不足はない。
午前8時、僕、璃子、優子は朝早くから穂岐山珈琲育成部の部室に集合する。
今日はスフレチーズケーキを作る。今までにない最高級のチーズケーキだ。
「お兄ちゃん、こんなに朝早くから作らなくても、作り置きしたケーキとかじゃ駄目なの?」
「駄目だ。基本的に食いもんは出来立てが1番美味い。出来立てのタイミングで1番のマリアージュを現出できるコーヒーがある。それを最大限に活かすためにも、競技を行うタイミングで出来立てのものを提供する必要がある」
「まあでも、こんなの他の競技者はまずやってないだろうね」
「お兄ちゃんらしい」
思わず欠伸をしてしまった。早めに寝ていたとはいえ、朝早く起きるのはマジでキツイ。
でもこんな日々も……あと1週間足らずで終わる。家に帰ったら好きなだけ寝ればいい。
こんな時間に起きるのは大会の時期だけだ。
「お兄ちゃんも眠れてないじゃん」
「気にすんな。時間がない。優子、始めてくれ」
「うん、分かった」
昼を迎えるまでずっと調理部屋にいた。交代で近くにある食堂に飯を食い、正午を過ぎる頃には作業工程が一段落していた。午後2時には会場まで行かないといけない。
まずは最も手間のかかるマリアージュ部門を最初に置く。可能な限り出来立ての状態で提供したいのもある。ブリュワーズ部門とエスプレッソ部門の順番で行い、コーヒーカクテル部門まで終わったら残りの時間をギリギリまで使い、ラテアート部門に尽力する。
部門をこなす順番は、バリスタによって千差万別だ。
だが僕はその中でも特に合理的な順番を選んだと言えるだけの自信がある――。
正午を迎えると、食堂には穂岐山珈琲の社員たちが次々と訪れる。そいつらに目をやると、もはや誰が誰だか分からない。揃いも揃って同じスーツに同じ定食だ。僕もあっち側にいたら、ベルトコンベアーで運ばれていく部品のような生き方をしている連中に一切の違和感を持たなかったのだろうか。
少し前に昼休憩に入っていた。誰もいないガラガラとした席の中から端っこの席を真っ先に確保することができた。やっぱ端っこの席が1番落ち着く。
「あっ、葉月梓がいるぞ」
「えっ! ホントにっ!?」
1人の社員が僕を見つけたことをきっかけに食堂がざわついた。
どうやら穂岐山珈琲に新卒で入った連中らしい。璃子と同い年くらいの連中でヨレヨレのスーツに新品で履き慣れていない靴。もはや自己紹介がなくても分かる。新卒採用ってマジで害悪だな。みんな面接という騙し合いに参加して通過してきたのであれば、当然惰性で来ている奴もちらほらいるはずだ。
それにしても……このうどん美味いな。常食の味だ。
そんなことを考えていると、社員の連中が僕の近くに座ってくる。
「あの、私たちここのカフェに勤めてるんですけど、どうすればトップバリスタになれますか?」
「……学校にも会社にも行かないことかな」
「えっ!」
いやいや、えっじゃねえよ。聞いてきたのはあんただろうに。
「君はこの会社で何がやりたいの?」
「うーん、何がやりたいとかはなくて、とりあえず就職して働かないといけないと思ったので、カフェでアルバイトをしていた経験を活かして、バリスタになろうかなって思ったんです」
志望動機はどうでもいいが、うちなら間違いなく不採用だ。ふわふわしすぎなんだよなぁ~。
「会社は楽しいか?」
「はい。今はまだカフェの店員ですけど、今後は育成部1軍に入るのが目標です。そこに入ってトップバリスタになれたら給料上がるかなって」
「そんなんじゃ、一生トップバリスタなんて無理だな」
「えっ、どうしてですか?」
「世のトップバリスタたちを見てみろ。みんな例外なく自力で這い上がってきた歴戦の猛者ばかりだ。そうやって君みたいに、誰かに鍛えてもらおうっていう受動的な姿勢でトップに上り詰めた奴なんて、1人もいないぞ。バリスタ舐めんな」
「「「「「……」」」」」
呆れながら吐き捨てると、何も気にすることなくうどんを啜った。
周囲は時間が止まったように凍りつき、僕だけが食べている状態だ。学校にいた時と似たような会話になっちまった。本気でトップを目指すんだったら、自力で店を構えるくらいしてみろってんだ。あまりにも受動的すぎる。まるで黙っていても給料が上がっていく時代の会社員と同じ思考回路だ。
――やはりあの近代教育は機能していない。
僕より年下なのに、思考が高度成長期で止まっている。こりゃ会社が傾いた時、真っ先にリストラされる連中だ。しかもポテンシャル採用だからスキルも特にないだろうし、この先カフェが本格的にオートメーション化されれば、こいつら多分一掃されるぞ。
でもこういう連中って、多分氷山の一角なんだろうな。
あのままじゃ全員生活保護だ。いい加減な教育制度のせいでまた社会保障費が増える。しかも飯を食えない大人を量産している連中は、税金から給料を貰っているのだからお笑いだ。
今の教育制度を続けている連中よ、この社会的責任をどう取るつもりだ?
先に食べ終わり、食器が乗ったトレイを返そうと席を立つ。
「バリスタオリンピック、頑張ってね」
食堂のおばちゃんが声をかけてきた。どうやら僕を知っているらしい。
「お、おう」
「あの子たち、みんなあず君のファンなの。きっとあず君を目指してここに入ったんだろうね」
「ここに入っても僕みたいにはなれない。決まったやり方を刷り込まれるだけだ」
「確かあの子たちって、育成部2軍だったかな。新卒採用で育成部2軍って凄い方なの?」
「分からん」
僕には分からない。新卒というやり方も、1軍2軍で分けるやり方も。
トップバリスタを輩出したいなら、エスプレッソマシンを社員全員にプレゼントすればいい。シグネチャーの基礎を動画にでも載せておけば、後は勝手に自分で没頭し始めるはずだ。そうすれば出社させる必要もない。僕は伊織の入社記念にエスプレッソマシンをプレゼントした。
うちにも1階と2階に1台ずつ置いてある。両方共最新式のものだ。昔はレバーを押さないと粉になったコーヒーが出てこなかったが、驚くべきことに、今の最新式のエスプレッソマシンはポルタフィルターを置いただけで、設定した分量が出てくる優れものだ。
「お兄ちゃん、遅いよ」
「わりいな。のんびり食ってたら遅れちまった」
「どうせあず君のことだから、ここの人に絡まれて、いつものように空気が凍りつくようなこと言ってたんでしょー。食堂ざわついてるし」
「持ってあと5年ってとこだな」
「……何が?」
「あの連中がここにいられる時間だ。今後はますます便利なエスプレッソマシンやらコーヒーマシンやらが普及して上質なコーヒーを抽出するだけなら誰でもできる時代がやってくる。そうなった時、抽出以外何もできないバリスタは真っ先に淘汰される。あいつらは時代の変化に気づいちゃいない。トップになれるかどうかとか、それ以前の問題だ」
「お兄ちゃんが何を言ってみんなを白けさせたのか、何となく分かっちゃった」
璃子がため息を吐く。ここまで分かるようになったら立派な上級者だ。葉月梓検定一級ってとこか。
「おっ、良い香りだ」
「マドレーヌかぁ。久しぶりに見たかもぉ」
育成部の面々が現れた。松野はとっくに競技が終わっているため、みんな暇そうにしている。
「あれっ、松野さんの競技って昨日で終わりましたよね?」
優子が松野に尋ねた。僕が聞きたかったことを代わりに聞いてくれる格好になった。
「あー、これから準決勝用のプレゼンをやるところなんです。葉月の競技はパソコンで見るので、しばらくはここにいる予定です」
「自信あるんですね」
「誰かさんが次に進む前提のプレゼンをしてたもんで、俺も負けてられないって思ったんですよ。もちろん次に進めないと無駄になりますけど、そうやって努力が無駄になることを恐れて何もしない奴が、1番になれるわけないって気づかされたんですよ」
「刺激されちゃいましたか」
「ええ、全く嫌な奴ですよ。あいつを見ていると、何だか自分が無能に思えてくるもんで」
聞こえてんだけどなー。でも昨日の夕方から、松野の目の色が変わったのは確かだ。
目の前にある出来立てのマドレーヌを口に頬張った。
「うまぁ~いっ!」
……何だこれ!? ほっぺが落ちそうだ! 放っておいたら全部食べてしまいそうだ。いやいや、いかんいかん。これは競技用だぞ……控えめにしておこう。
「これだけの手間と時間をかけたんだから当然でしょ」
「最高の職人が最高の食材で最高のスイーツを作るとこうなるのかぁ~。食べる芸術だなぁ~」
「お兄ちゃん、燥ぎすぎ」
「ふふっ、普段はクールなあず君も、こういう時は素に戻るんだね」
そんな時だった。1人の人影が写る。姿を見せたのは唯だった。
「あず君、そろそろ会場に移動する時間ですよ」
「もうそんな時間か。璃子、これを会場まで運んでくれ」
「うん、分かった」
璃子がニコッと笑いながら返事をして準備を始めた。
競技に必要な物は、唯、伊織、真理愛に頼んで会場に移動させてもらっていた。
――午後3時、遂に僕の競技時間だ。
僕がいるブースには人だかりができており、いつも以上に人口が集中していた。今までで1番多い人数だった。何だかワールドシリーズの優勝パレードみたいだ。
「それでは次の競技者です。第62競技者、葉月梓バリスタです」
遂にこの時が来たか――やるしかないっ!
葉月珈琲にいる時のピンクを基調とした制服姿で小型マイクを装着し、色んなジャッジの人と握手を交わしながらブースの中央にいた。少し遠くにある別のブースでは、61番目の競技者が競技を始めている。予選の会場にあるブースは少し狭くなっているが、準決勝以降はもっと広いステージとなる。
ステージの配置は競技者とジャッジが対面する形のカウンターテーブル形式にした。椅子は背凭れのない丸くて回転する椅子だ。これがうちにいる時と変わらない雰囲気を演出している――。
「タイム。僕はずっとコーヒーと向き合い、今までに数々のコーヒーを作ってきた。その中でも今回はみんなが心からワクワクするコーヒーにフォーカスした。まずはマリアージュ部門のコーヒーから作ろうと思う。パンフレットを読みながら待っていてほしい。まずは1ページ目だ」
事前に置いているパンフレットをセンサリージャッジが呼んでいる。
今回はパンフレットを作るのが本当に大変だった。フレーバーの絵だけで説明するのはなかなか難しいが、最も分かってもらいやすい確実な方法でもある。
マリアージュ部門では、薄めに切ったパリジャンにクリームチーズを塗ったもの、コロンビアのドリップコーヒーを提供した。パンは全て東京都内の高級パン屋と業務提携を結んで発注した。フードメニューは軽食を意識した。気軽に食べられるものとコーヒーはとても相性が良く、文字通りコーヒーブレイクをしているような気分にもなれる究極の組み合わせだ。
「このコロンビアゲイシャ、ウォッシュドプロセスのコーヒーには葡萄の酸味と甘味があり、パリジャンの食感とクリームチーズの爽やさと相性が良く、ブルーベリーヨーグルトのフレーバーを楽しめる」
今回の切り札が早くも登場だ。僕、璃子、優子の3人で一緒に作ったオリジナルマドレーヌケーキはコーヒーとの相性にフォーカスしたものである。
「マドレーヌケーキは本来全卵を使うところを卵黄のみにしている。より素直で滑らかな甘さとなり、コーヒーを合わせることでコーヒー本来の味が更に引き出されることに気づいた。これに合わせるのはパナマゲイシャ、ハニープロセスのコーヒーから作ったエスプレッソベースのカフェオレだ。カフェオレから感じるオレンジのフレーバーがマドレーヌケーキと相性が良く、滑らかな甘さを感じてからカフェオレを飲むことで柑橘系の酸味と甘味が際立ち、マドレーヌケーキの甘さともうまく噛み合うんだ」
このカフェオレには脂肪分控えめの冷やした牛乳を使い、余分な味を極限まで取り除いた。ケーキの味が濃い目であるため、脂肪分は控えめでいいと感じた。
マリアージュ部門は終了だ。これは優子のアイデアが活きた。
この部門はジャッジが最も水を飲む機会が多い。ここで水を継ぎ足し、次の部門へと移った。
ブリュワーズ部門では4つの『フレンチプレス』を使い、コーヒーは僕が出資した農園から生まれたケニアゲイシャを使うことに。ケニアゲイシャはアフリカで作られているだけあっアーシーなアロマ、トロピカルフルーツのフレーバー、カカオのアフターテイストだ。しかも面白いことに、このコーヒーは抽出器具によってフレーバーが変わるのに、全部ちゃんと美味い味に仕上がるという特徴がある。
抽出器具を変えることでレパートリーポイントが発生するブリュワーズ部門と相性が良いと感じた。
このケニアゲイシャは『ホールチェリー・カーボニック・マセレーション』という特殊なプロセスで作られている。摘み取ったコーヒーチェリーをすぐにステンレス製のタンクに入れて、同じコーヒーから採れたカスカラを追加し密閉する。炭酸ガスを下部から注入し、炭酸ガスは酸素より重いため下部に貯まっていき、他の物質を押し出す。その結果、炭酸ガスによるアナエロビック環境が作られる。アナエロビック環境下に48時間置くことで、透明感と様々な酸をもたらす。その後チェリーと取り出し、アフリカンベッドで水分量が10%程度になるまでゆっくりと乾燥させる。
これによってトロピカルフルーツのフレーバーと高いアロマをもたらされる。このコーヒーをフレンチプレスで抽出する際、いくつか気を配るべきポイントを留意していた。フレンチプレスは金属フィルターがあるために他の抽出器具よりもコーヒーオイルが多く、アロマを強く感じる分、粉が残りやすく雑味を感じやすい性質を持つ。良くも悪くもコーヒーが持つ本来の味を感じやすいのだ。まずは渦巻き状に熱湯を2回注ぎしていく。1投目を勢い良く注ぎ終え、熱湯が全体に行き渡る。上からガス、粉、液体の3層に分かれ、30秒程度の経過を目安に、2投目を優しく注いでいく。終わったら蓋をして4分程度待つ。4分経つまでは抽出の説明に時間を費やし、プランジャーを下げたら出来上がりだ。
「このドリップコーヒーには今年ケニアで初めての栽培に成功したゲイシャ種であるケニアゲイシャ、ウォッシュドプロセスのコーヒーを使っている。フレンチプレスで抽出した場合はスターフルーツのフレーバー、アフターにはチョコレートシロップを感じる」
フレンチプレスはその性質上、カップに注ぐ時の最初と最後に雑味や渋味があるため、最初の部分を捨て、最後まで注ぎ切らないように注意して淹れた。途中の部分のみをカップに淹れたものを2杯分提供すると、今度は残り2つ分のフレンチプレスを同様の手段で途中の部分のみサーバーに移し替えた。
「コーヒーが持つ旨味の塊とも言えるコーヒーオイルをより感じてもらうため、同じ品種の焙煎したコーヒー豆から予め水蒸気蒸留装置を使って抽出し、保存しておいたコーヒーオイルを投入し、更にオイリーな食感にする。そこにきび砂糖と梨のジュースを同じ割合で混ぜて作った梨のシロップを投入し、サラサラした食感がまろやかなものへと変わっていく」
この一連の作業によって純度を高め、コーヒーオイルたっぷりの味わいを楽しむことができるのだ。
「このドリンクのフレーバーは、パッションフルーツ、イエローピーチが感じられ、アフターにはメープルシロップ、キャラメルを感じる」
ドリップコーヒーベースのシグネチャーを提供すると、ブリュワーズ部門が終了となる。
シグネチャーを作る時は『マグネチックスターラー』を使って自動攪拌を行うことにしている。
いちいち混ぜる必要がなくなり、味にムラがなくなるのだ。
「次のエスプレッソ部門で使うのはコスタリカ、ハニープロセスのコーヒーだ。このコーヒーにはフローラルアロマ、サクランボのようなフレーバーがあり、アフターにはレッドチェリーを感じる」
エスプレッソを4ショット分を抽出し、2ショット分を2杯のエスプレッソとして提供する。
残り2ショット分を氷で急冷し、マグネチックスターラーの上に置かれている円柱のコップに注ぎ、自動で攪拌しながら食材を投入していく。
「まずはヨーグルトのホエイを投入することで、ゲイシャの弱点であるボディの弱さを補い、スムースでマイルドなテクスチャーをもたらしてくれる。煮込んだブラックベリーを煮込んだものをきび砂糖と合わせて作ったブラックベリーシロップを少し投入し、このコーヒーが持つ質感を更に高めてくれる」
十分に混ざったこのドリンクをシャンパングラスに注ぐ。
最後にグレープジュースとドライアイスを入れて作った煙を投入して2杯提供する。
「煙が消えたらすぐに飲むこと。このシグネチャーのフレーバーは、ダークチェリー、キルシュヴァッサー、アフターには巨峰、レーズンを感じる」
コーヒーカクテル部門では真理愛の真理愛の母親との約束である、ワインをベースとしたコーヒーカクテルを作ることに。まずはボリビアゲイシャのエスプレッソを2ショット分抽出して冷やしておき、コロンビアゲイシャを使ったドリップコーヒーを抽出しておく。
「コロンビアが持つ葡萄のフレーバーが赤ワインと相性が良く、赤ワイン、ウォッカ、コーヒーのホエイを少しずつ投入してよく混ぜ、そこに冷やしておいたドリップコーヒーを投入し、ブレンダーで混ぜて空気を含ませることで、赤ワインのフレーバーを残しながらスイートな口当たりにすることができ、初めての人も飲みやすい優しい味のワインコーヒーになる。これをカクテルグラスに投入して完成だ」
次はドリップコーヒーベースのキール・ロワイヤル・コーヒーだ。
「次に作るのはボリビアゲイシャが持つカシスのフレーバーを活かすためのコーヒーカクテルだ。同様にカシスから作られる酒、キールと組み合わせることで相乗効果が発揮されることを発見をした。まずはシュガーシロップ、キール、シャンパンそしてこの冷やしておいたエスプレッソを加えて、ステアの技法で急冷することで爽やかな食感とスッキリした甘さを開かせる」
最後にこれをシャンパングラスに注いで完成だ。
「このキール・ロワイヤル・コーヒーのフレーバーは、カシスオレンジ、ラズベリー、アフターにはロゼワイン、クランベリーの深い甘味を感じる」
48分が経過した。ジャッジに水を注いだり、食材を片づけたりで時間がかかってしまった。
最後にフリーポアで兎、デザインカプチーノで狐を描く。予め牛乳の入ったドリッパーとミルクピッチャーを4つ用意しておき、牛乳を紙パックから淹れる時間を短縮できる。ドリッパーをミルクピッチャーの上に置いた途端、牛乳がミルクピッチャーに注がれていく。1つ1つをスチーマーで充分に温めて兎と狐を描いていき、背景は森とイメージしたリーフと満月をイメージした丸を描いた。日本を代表する動物ということもあり、日本人ばかりの観客席から歓声が沸いていた。
「プリーズエンジョイ。タイム」
こうして、全ての部門を完了させ、僕の予選は終わった。タイムは59分32秒。
時間をいっぱいに使い、ラテアートに費やせる時間を増やせたこともあり、鮮明なコントラストのある絵になった。これに使ったのは、コナコーヒー、ウォッシュドプロセスのコーヒーだ。
絵だけではなく、味も楽しむことができる。このコーヒーはミルクとの相性で選んだ。いくつかのゲイシャは使い回しではあるが、抜群の美味さを引き出せるため、全く気にならなかった。コーヒー豆を変える必要があるのはエスプレッソ部門のみだし、予選で使ったコーヒー豆は準決勝でも使い回せる。ラテアート部門に限って言えば全部同じカプチーノで通すつもりだ。既にインタビューが始まっているというのに歓声が鳴り止まない。それだけ楽しみにしていたのだろうか。
全力を実感できるだけでも十分すぎるほど嬉しかった。
気に入っていただければブクマや評価をお願いします。
読んでいただきありがとうございます。




