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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第1章 学生編
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15杯目「掃除事件」

 無事に2学期が終わることを願っていた。


 だがそういうわけにはいかなかった。


 どうやら社会って奴は、僕の我慢強さを試さずにはいられないらしい。全く困った悪癖だな。


 璃子は相も変わらず学校に馴染めている様子だった。教室の中では空気で、非常に大人しく、家族の誰にでも従順だし、とても同じ親から生まれたとは思えないほど、璃子は僕と対照的だった。


 ある日のこと、璃子が学校から帰ってくる。


 いつものように僕がコーヒーを淹れていると、璃子がこっちを見つめてくる――。


「お兄ちゃん、コーヒーの淹れ方教えてよ」


 璃子が珍しくコーヒーの淹れ方に興味を持っている。いつもは試飲専門なのに、一体どういう風の吹き回しだ? まさか僕に惚れたのか? いや、それはないか。


「いいけど、何でまた僕に?」

「実は――私も何か特技を身につけたくて」


 もじもじとしながら、目を逸らして話す璃子が可愛く見えた。璃子は学校では姫カットだが、家ではポニーテールだ。学校では女子のポニーテールは禁止されていた。理由は他の男子が興奮するからというもの。他にもスカートは膝下3センチというものまであった。璃子はポニーテールが好きだが、仕方なく校則に従っていた。良くも悪くも従順なのが璃子だ。ペーパードリップを2つ用意し、僕に続いてコーヒーを淹れる。ケトルが1つしかなく、手本を見せた後で璃子に渡した。


 璃子が小さな渦巻を描くように熱湯をドリッパーに注いだ。初めてにしてはうまい方だ。璃子は目をキラキラと輝かせながら初めて自分が入れたコーヒーを飲んだ。


 その後で僕が淹れたコーヒーを飲ませてみると、璃子の目の色が変わった。


「えっ? 全然味が違う。同じコーヒー使ってたよね?」


 璃子は魔法にかかったかのようにビックリしていた。


 結論から言えば、注ぐタイミングが違っていた。


 初めにコーヒーに少量の熱湯をそっと乗せるように注ぎ、コーヒーの粉全体に均一に熱湯を含ませ、20秒ほど蒸らす。コーヒーの粉の中心に小さな渦巻を描くように段々と量を減らし、熱湯を3回に分けて優しく注ぐ。僕はこの3回注ぎを忠実に行った。この時熱湯は真上から注ぐのがコツだ。しかし璃子は蒸らしからの3回注ぎこそマネできていたが、熱湯の量を調節しきれず、中央から少し逸れた位置からコーヒーを淹れていた。コーヒーは丁寧に扱う者には至福の時を、雑に扱う者には苦みをもたらす神経質なじゃじゃ馬だ。味で差をつけられたのが堪えたのか、璃子はあっさりペーパードリップをやめてしまった。ため息を吐きながら、家事をこなしていく。


 親が共働きであるため、親がいない時は兄妹で家事を行った。


 この経験は独立する時に役立った。


 璃子には特に拘りの強い趣味がある。璃子は大のチョコレート好きである。誕生日にはチョコレートケーキ、バレンタインデーには友チョコを買ったり、自分で手作りのチョコを作ったりして、友達とのチョコの交換を楽しみにしている。平日にも手作りチョコを作ることもあるくらいだ。楽しそうにチョコを作る璃子をジッと眺めていた。僕もチョコ好きだし、とても微笑ましい光景だった。


 ある日、僕は掃除当番の場所が変わると、新しく監督となった教師から掃除を迫られることに。


 一定期間毎に掃除する場所がサイクルするようになっている。


 僕は掃除の時間が嫌いだ。自分の店を持つようになってからは自分で掃除するようになったが、それまでは自分の部屋くらいしか掃除しなかった。自分の部屋ならともかく、何故強制的に行かされているだけの学校の掃除をしないといけないのか、理解に苦しんだ。


 掃除は小1の時からずっとサボっていた。


 周囲から顰蹙を買う一因にもなっていた。小5の時も例に漏れずサボっていたが、遂にトイレ掃除の担当になった。時期が変わる毎に掃除をする場所が入れ替わり、それぞれの掃除の仕方を学ばせるのが目的だろう。学校の掃除には断固反対だ。明らかに児童労働だ。理由を聞けば心を磨くためとか言われたが、精神論の域を出ていないし、こういうのを当たり前のようにできないといけないというクソみたいな価値観が罷り通っているのか、3Kの仕事の時給が安い理由にもなっている。


 個人的にトイレ掃除の時給はもっと上がっていいと思う。みんなが安い時給で仕事をするから時給が上がらないんだ。ブラック経営者だけじゃなく、ブラック労働者が理不尽につき合うせいで、真っ当な労働者までもが苦労を強いられている。ブラック労働者を作る教育になっているのも、僕が学校の掃除に反対する理由だ。掃除は業者に注文してどうぞと言いたい。


 この児童労働のせいで、業者の仕事が奪われているのだ。


 児童労働には反対だが、小さい頃からお金稼ぎや、大人になったらどんな労働をするのかを経験させること自体は賛成だ。僕がバリスタを志したのは、おじいちゃんの家でコーヒーを淹れていた経験が活きている。つまり僕はみんなが社会に出る前までしか通用しないような役に立たない勉強を強いられている間に、社会に出てから役立つ訓練をしていたことになる。


 学校の勉強よりも、学校以外で学んだことの方がずっと役に立つ。


 同級生はそのことを社会に出てから身をもって思い知ることになる。


 僕は本当に運が良かった。児童労働に抵抗することを考えながら掃除の時間に1人でいると、同じ掃除当番のクラスメイトから通報を受けて監督教師がやってくる――。


 掃除が終わった後、監督している教師に掃除が終了したことを報告しなければならない。僕がトイレ掃除担当になった時の監督教師は反社会組織の人と間違われてもおかしくないような口調だった。女子プロの悪役レスラーの素顔のような外見だった。


 掃除をサボっていることを知ると、僕を呼び出して威嚇するように睨みつける。


「お前ずっとサボってんのか?」


 監督教師が類人猿の威嚇のような声で言った。


「学校の掃除は児童労働だ」


 法律を用いて反論する。児童労働という言葉には思うところがあった。


「毎日学校の世話になってんだから、掃除くらいしろ」


 監督教師が押しつけがましく威圧する。


「嫌だ!」


 一言で断った。しかし監督教師は一向に引き下がらない。このやり取りは目立ち、周囲の同級生にも見られている。次第に人が集まり、まるで決闘のように張り詰めた空気だ。


「お前次サボったら殺すぞ!」

「そんなことしたら、ここにいられなくなるぞ」

「お前の家知ってるからな!」

「それは恐喝かな?」

「サボったら親に報告する――」

「報告したら脅したことを教育委員会にばらす」


 クソ教師に怯まず反論を続けた。胸ぐらを掴まれて怒鳴られた。こいつもいつぞやの和製ヒトラーと同じレベルだと思いながら、冷静に反論してやめさせようと試みた。


「そうやって何でも暴力で解決しようとするから、この世からいつまで経っても戦争がなくならないんじゃねえのか? あんたはそういう手本をみんなに示してるんだぞ」


 いなすように言うと、監督教師は胸ぐらを掴んでいた手を離した。今に見てろよと言わんばかりの目だった。教室に帰ると、真っ先に美濃羽に心配された。美濃羽は僕の服がくしゃくしゃになっていることに気がつき、僕に事情の説明を求めたが、僕は彼女を軽くあしらう形で締めくくった。


 下校中には飛騨野と会った。家が近いこともあり、途中まで一緒に帰った。


 不満そうに眉間にしわを寄せて歩いていると、飛騨野が気づいた。


「その顔は何かあった時の顔だね」

「飛騨野には関係ないだろ」


 突き放そうとしたが、飛騨野は美濃羽と会っていたことを僕に話し始めた。


「小夜子、すっごく悲しそうにしてたんだよ。昼休みに私を屋上に呼び出して、梓君が全然相手にしてくれないとか、この前告白したんだけど振られちゃったとか、ずっとそっけないままで、私嫌われちゃったのかなって、言いながらずっと泣いてたんだよ」


 飛騨野は僕が美濃羽を振ったことを知っていた。美濃羽は飛騨野に泣きながら僕との一件を相談していたのだ。飛騨野は美濃羽の悲しみに同情している様子だ。


「美濃羽がそんなこと言ってたんだ。でもさ、別に嫌いになったわけじゃないし、それは大きな誤解だと思うぞ。だから……その……彼女は悪くない」


 落ち込みながら言うと、飛騨野は僕にちゃんと美濃羽と話すように言った。彼女には申し訳ないことをしたと思った。どの道カップリングすることはなかったことを告げた。


「梓君はどんな人とならつき合うの?」

「僕はコーヒーが恋人だし、今は誰ともつき合えない」


 飛騨野には僕がバリスタを目指していることを伝えた。


「ふーん、それでバリスタを目指してるんだー」

「うん。いつかは自分の店を持って、一流のバリスタになる」

「私はまだ将来の夢なんてないなー」

「夢なんて無理に持つもんじゃねえだろ」

「そうはいってもさー、何もやりたいことがないのが虚しいから」


 夢を持たないと虚しい? 何言ってんの? そんなものに振り回されるなんて実にアホらしい。


「夢はあくまでもきっかけにすぎない。できることなら、働かずにのんびり暮らしたいけど、それじゃ生きていけないから、仕方なく夢という形で、働くための動機を持たされてるってだけだ」


 目を覚まさせてやろうと、思っていることを言った。飛騨野は悲しそうな表情で口を開いた。


「じゃあ、私たちがしている勉強って何のためなの?」


 葉月商店街に入ったところで、飛騨野はようやく感づいたようだ。


 夢を持たせることもまた、労働者を作る教育の一環なのだと。


「僕らは国にとって都合の良い労働者になるために学校に行かされてるんだ。そのために僕らは将来役に立たないことをコツコツ勉強させられてる。今僕らがやらされている勉強は、恐らく社会に出てから1%くらいしか使わないと思うぞ。今と昔は違うからな」


 彼女は何故そう思うのか理由を求めた。


 一応説明はしたが、飲み込みが早いのか、あっさり納得した。


「確かに大人は暗算じゃなくて、電卓で仕事してるもんね」


 電卓が普及している時代に、いくら暗算を勉強しても使われないことを例にしたが、まさかここまで理解を示すとは思ってなかった。彼女はようやく自分の毎日が何のためであるかを知ると、心のつっかえが取れたかのように、僕が家に着いたところで別れた。しかし、その後の彼女も全く変わらないまま勉強を続けていた。惰性でやっていることはそう簡単に変わらない。


 次の日、まだ眠いまま昼休みが終わる。


 掃除の時間になると、クラスメイトの1人が駄々をこねてくる。


「頼むから掃除してくれよ」


 もう諦めたものだと思ってたけど、まだ諦めてない奴がいたのかと思った。僕は何故今更それを言うのかを聞いた。クラスメイトが言うには、監督教師が僕に喝を入れる目的で、連帯責任を採用したからであった。誰か1人でも掃除をサボった場合、その班は掃除のやり直しをさせるという案が、あの担当教師からの希望で採用されることになった。


 つまり僕がサボった場合、僕がいる班は掃除のやり直しになる。


 連帯責任とかいつまでやってんだよ? 今はもう21世紀だぞ。


 連帯責任の始まりは諸説あるが、一説によれば、江戸時代以前に始まったもので、自分が何か問題を起こせば他の人に迷惑がかかるという縛りを設けることで、謀反や反乱を起こしにくくする制度を作ったのが始まりとされている。無論、どんな説であれ、そんな時代は終わっている。こいつもこいつだ。連帯責任が理不尽だと思うなら何で教師に反論しないんだよ? 誰も教師に反論しないから、それをいいことに生徒が舐められてるってのに、マジで鈍い奴だ。


 掃除だけは断固拒否した。


「やり直しが嫌なら全員でサボればいい」


 いつも通りサボろうとした――。


「やれっ!」


 すると、やり直しを嫌ったクラスメイトが、物凄い剣幕で命令してきた。


「嫌だっ!」


 僕は負けじと言い返す。ここで屈したら、あのクソ教師に負けたことになる。僕はクラスメイトと殴り合いの喧嘩になる。もちろん、先に手を出してきたのはクラスメイトだった。教室は掃除どころではなくなり、僕もクラスメイトも他の生徒たちに引き離された。担任は僕に対して怒鳴っていた。僕は掃除に反対する理由を説明し、絶対にやらないことを宣言した上でこう言った。


「お前はいつになったら奴隷解放宣言をするんだ!?」


 担任は自分たちの行いが間違っていることを指摘されて憤慨した。しかし、このままでは収拾がつかないために、僕以外は掃除を続けることになった。


 そこに監督教師がやってくる――。


「もういい。そこまで言うなら掃除はしなくていい」


 ようやく観念した様子だった。僕の言葉を聞いていたらしいが、僕がいる班はやり直しになった。


 それもあってか、クラスメイトたちからは白い目で見られることになる。あいつはとんでもない置き土産を残していきやがった。それからは美濃羽も僕に話しかけてこなくなった。いや、話しかけ辛いのかもしれない。今僕に話しかけたら、クラスメイトたちを敵に回すことになる。


 美濃羽は僕と違って社会性の概念がある。


 だからこそみんなの方に同調せざるを得なかった。僕ならそんなことは気にも留めないが、僕が美濃羽と話そうと思っていた矢先の出来事だった。奇しくもこのお陰で美濃羽と話さずに済む。結局は今の状況を盾に、僕の言葉を飛騨野の口から伝えてもらうことに。


 ここまでが掃除事件の全貌である。またしても担任及びクラスメイトとの対立が決定的になる。奴隷解放宣言という発言は世界史の影響だ。近代史を見て僕は思った。


 この奴隷制度って……今の日本とほとんど一緒じゃないか……。


 思ったのには訳がある。親父はコーヒー自体は好きだったけど、好きでカフェのアルバイトをしているわけじゃなかった。あくまでも生活のためであって、好きで今の仕事がしたいわけじゃない。


 親父は給料を気にしなくていいならロースターになりたいと言っていた。そうじゃなかったら、仕事の愚痴を家で話すはずがない。経営者に足を見られながら安い時給で働く様は、まさに現代版奴隷制度と言っても過言ではないのだ。職業選択の自由とは何だったのだろうか。職業選択の自由とは、好きな職業を選べるというだけの意味じゃない。その中には当然無職も含まれている。


 自由だというなら、働かないのも自由なはずだ。しかし、この国の連中は働かない人を人間扱いはしてくれない。普段は差別は駄目とか綺麗事を抜かしやがるくせに、働かない人は平気で差別する。だからこそ僕は日本人を好きになれなかった。学校の掃除を徹底してサボっていたため、この日からは本格的に人間扱いされなくなった。皮肉なことに、茶髪=不良という偏見を僕が植えつける格好になってしまった。学校視点で見れば僕は不良かもしれないが、それはあくまでも学校にとっての不良だ。教師の命令に従わない人は不良扱いされる。たとえそれが、どんなに理不尽な命令だったとしてもだ。


 学校は教師こそが正義で、それ以外は悪なのだ。


 日本人が自分の意見を言えないのは、まともに意見できる人ほど悪人扱いされてきたからだ。故に問題が起きても誰も口を挟もうとしない。その結果生まれたのが隠蔽体質。教師=正義なら、教師にとって厄介ないじめ問題は悪であるため、悪いことはなかったことにするべきだという思考になる。


 自分こそが正義と思い込んでいる人ほど、悪とみなした他人や属性を平気で迫害する。だから僕の頭には正義とか悪とか、そんな抽象的な概念はない。傍から見ればどっちもどっちだ。僕が生真面目な人や正義感の強い人を敬遠するのはそのためである。あんな連中に巻き込まれたら最後、ずっと他人の人生を生きることになる。つまるところ、正義とは主人公になったと思っている自分自身のことだ。人生の主人公は自分だが、人類の主人公はどこの誰でもない。ただ生きている奴がいるってだけだ。そんなことも分からん奴が、正義がどうのこうの言っているのが滑稽だ。


 季節は変わり、小5の冬休みがやってくる。


 寒さが本格化し、みんな家に引きこもりがちになる。うちの親のバイト先が遠い場所だったら体力的にもきつかったかもしれない。うちの親は僕が全く掃除しないせいか、クラスの輪が乱れたことを親戚中に言っていた。監督教師の案に唯一従わなかったことが知られていたらしい。


 2002年がやってくる。元日には毎年恒例の『親戚の集会』が行われた。


 おじいちゃんの家まで赴くと、端っこの席に陣取った。ここが最も目立ちにくい僕の特等席だ。親戚たちが話し始めるも、いつも誰かに話しかけられるまでは黙っている。


 必要に迫られた時以外、自分からは話しかけない。


「えーっ! あず君ってそんなに掃除嫌いだっけ?」


 早速噂を聞きつけたリサが意気揚々と僕に話しかける。


 僕は端っこの席で三角座りのまま、リサの方を見て答えた。


「自主的にやる掃除と、やらされる掃除は別だぞ」


 従わなかった理由を説明したが、あまり納得はしていない様子だった。しかし、おじいちゃんを含む一部の人からは賛成票を得た。そんなに難しいことは言ってないと思うが。


 おじいちゃんの家ということもあり、エスプレッソマシンやペーパードリップなどでコーヒーを淹れては飲んでいた。特にいっぱい筋トレした後のコーヒーは格別だった。親戚の集会の時はやらないが、体を動かさずに飲むコーヒーも美味い。リサたちから林間学舎のことを聞かれていたが、うちの学校にリサの友人がいるらしく、ここにきて時間差で伝わったらしい。


 女子たちを引き連れてカフェに行った話は、リサたちも知っていたようだ。


「あず君って、もしかしなくてもモテるよね?」


 あー、そっか、みんな僕と美濃羽の間に起きた出来事を知らないよな。心の溝は残したままだけど。


「僕の本性を知ったら呆れると思うけどな」


 そう言ってそっぽを向くと、今度は璃子が話し始める。


 どうやら璃子が話を逸らしてくれているみたいだ。璃子グッジョブ。


「お兄ちゃんね、ピアノでトルコ行進曲弾いたんだって」

「ええー、すごーい。いっぱい練習したんだね」

「それがね、飛騨のカフェで1回聞いただけなんだって」

「……え? どういうこと?」


 リサたちはしばらくきょとんとしていた。


「もしかして天才じゃないの?」


 リサが顔をニヤニヤさせながら呟いた。


「ピアノはあくまで趣味だからな」


 咎めるように言った。このまま放っておいたら、本当に音楽家の人に紹介されかねない。今は1つの道に向かって突っ走るだけだ。誰かの期待に応えたり、好かれるために何かをすることはない。


 実際、他人の僕に対する反応は2通りしかない。いきなり嫌うか、期待してから嫌うかだ。いきなり嫌うパターンは茶髪と女子っぽい顔、期待してから嫌うパターンは拘りのある言動と決まっている。


 すると決めたことだけを実行し、しないと決めたことは徹底的にやらない。しないと決めたことでする破目になった唯一の例外は学校である。


 毎日家から無理矢理出され、帰ろうにも帰れない日々は拷問でしかなかった。

監督教師に脅された経験を元にしています。

僕は逆らえずにあれが原因で掃除嫌いになりました。

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