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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第6章 成長するバリスタ編
146/500

146杯目「長丁場の選考会」

 10月上旬、バリスタオリンピック選考会の準備をしている時だった。


 それぞれの部門で使うコーヒーは既にレシピを用意してある。


 唯は妊娠中でサポートができない。むしろサポートが必要な立場だ。誰かにサポーターを頼む必要があったが、璃子は11月からショコラティエの大会があるし、優子はコーヒースイーツで手一杯だ。


 リサたちは料理動画の投稿で忙しいし、真理愛は僕のライバルという立場だ。


 さてどうするか……この選択を誤れば本戦にすらいけない可能性もある……コーヒーに詳しくて、遠征する体力があって、僕の予定に合わせられる人といえば……あいつだっ!


 思い立った僕は、早速然るべき人物を呼び出した。


「これは伊織にしか頼めない大事な仕事だ」

「それは構いませんけど、唯さんは駄目なんですか?」

「唯は別の仕事を担当することになった。だから他に誰も手が空いてなくてな。WBrC(ワブルク)の時はコーチとして参加してもらったけど、今回はサポーターだ。僕のコーチとサポーターの両方を担当するのは、伊織が初めてじゃねえかな」

「分かりました。私は何をすればいいんですか?」


 伊織にはサポーターの仕事を一通り教えた。


 基本的には荷物持ちとして移動を共にしたり、競技前に抽出器具を出したり、テーブルを移動させたりと雑用ばかりの地味な仕事だ。だが多くの参加者を間近で見られるメリットもある。これは伊織にとっては良い経験になるだろう。コーチはリハーサルや練習で抽出したコーヒーを味見し、味に問題がないかをチェックする。本来であれば、プレゼンでの問題点の指摘なんかも担当するが、バリスタオリンピックの競技は必要最小限のプレゼンでいいため、詳しいことはパンフレットに書いておく。


 競技者はひたすら抽出や創作ドリンクの製作に取り組むことを優先する。これは他の競技会にはなかなかない要素だ。他にプレゼンのない競技と言えば、WCTC(ワックトック)くらいだろうか。


 営業時間前から優子と共にコーヒースイーツを作り上げた。


 相性の良いコーヒーをスイーツとシングルオリジンのコーヒーに分離し、それらを交互に飲食することで、ブレンドコーヒーのフレーバーに変えられると思ったのだ。コーヒーはエスプレッソとドリップコーヒーのどちらでもよく、甘さがないか弱いものがフード、甘さがやや強めか強いものがスイーツと定義されている。この定義を満たしていなければ減点対象となるから注意だ。


 10月中旬、選考会前日のことだった。


 僕は伊織と共に真由の家に泊まらせてもらい、そこで抽出や創作ドリンクを製作していたが、用意する物があまりにも多かったため、フードとスイーツは当日に完成したものを配達してもらうことに。


 真由もこの大会を楽しみにしていた。伊織もワクワクした顔で僕と話している。


「バリスタの大会なのに、コーヒーじゃないものまで作るんだね」

「バリスタは元々『バール』という喫茶店と食堂と居酒屋がごっちゃになったような飲食店で働く人って意味で、コーヒーだけじゃなく、料理の腕も要求される職業だったりする。そういう意味では、バリスタオリンピックは最もバリスタの定義を満たしている大会と言っていい」

「「へぇ~」」


 伊織も真由も意気揚々と話す僕の説明に頷く。コーヒーに関する話ならいくらでも続けられる。


 コーヒーと何かを組み合わせて食べた時の相乗効果を『コーヒーマリアージュ』と呼ぶ。


 この味わい方は、古くから多くのコーヒーファンに愛されてきた。


 選考会当日、僕は伊織と共に東京の会場へと赴いた――。


「うぅ~、結構重いです」

「あともう少しだ」


 会場には書類選考を通過したバリスタたちが集まっていた。伊織は苦しそうな顔でスーツケースを持ちながら僕の少し後ろを歩く。女子中学生だからといって僕が持ってやることはない。


 美羽たちがやってくる。彼女とライバルとして対峙するのは初めてだ。


「お前、そんな小さい女の子に重い荷物を持たせてんのか?」

「見りゃ分かるだろ」

「そういう時は男が持ってやるもんだろ」

「僕の方が力が弱くても同じこと言えるか?」

「あのなー」


 松野が半ば呆れ顔で忠告するように疑問を投げかけるが、いつものように淡々と彼をいなす。男が荷物を持つべきという考え方は、女=力が弱い根性なしという偏見に基づいた性差別だ。


 持つと決めたのは伊織自身だ。僕は彼女を1人の個人として認めている。子供扱いはしない。


「若いってだけで弱いと決めつけて、訓練の機会すら奪ったりするから、この国はへなちょこばっかりになっちまったんじゃねえの?」

「まあまあ、今日は喧嘩しに来たんじゃないんですから」


 真理愛が横から割って入ってくる。


「ホームページで君の名前を見た時は驚いたよ」

「私だってバリスタなんですから当然です」

「真理愛って実績あったっけ?」

「一応私、今年のJCIGSC(ジェイシグス)で決勝までいきましたし、JBC(ジェイビーシー)も準決勝までいきました。それに英語も得意ですから」

「ねえねえ、真理愛さんは何ヵ国語話せるの?」


 美羽が真理愛に興味を持ちながら彼女に近づいた。


 そういや美羽って女好きでもあるんだよな。この前は璃子と距離が近かったし。


「日本語と英語とフランス語です」

「やっぱりハーフの人って多言語なんだねー」

「そうでもないですよ。日本生まれのハーフの人は大体日本語だけですから、もし出会っても、見た目で判断しないであげてくださいね」

「……う、うん」


 真理愛が美羽に優しく忠告すると、長い黒髪を靡かせながら空を見上げ、何かを思い出したように暗い表情になる。あれは過去にとんでもない目に遭ったクチだな。大会が終わったら聞いてみるか。


「真理愛、一緒にワンツーフィニッシュしようか」

「ええ、1位は私が取りますけどね」

「言うようになったな」

「あず君の苦手なコーヒーカクテル部門では負ける気がしませんから」

「あの時とは……違う」

「そりゃ進化した分強くなっていてもらわないと……困ります」


 真理愛は嬉しそうに告げると、ウインクをしながらその場を去っていく。


 あの余裕の顔は何だ? どこか不自然だ。まるで何かを覆い隠そうとしているような。


 ――まっ、今はどうでもいいか。


 会場は日本でも有名な某ドームだった。パリスタオリンピック本戦もここで行われるそうだ。会場入りすると、そこには多くの観客が詰めかけていた。ジャッジがいずれもバリスタオリンピックから派遣されているため、プレゼンは全て英語で行われる。


 英語を話せない者は、書類選考で落とされてしまうのだ。


 ルールは今までと違ってかなり複雑だ。


 制限時間は1時間。この間に10種類のコーヒーを2杯ずつ合計20杯分を作製し、センサリージャッジに提供する。1つの部門につき2種類のコーヒーを提供する。


 飲むのは1人のヘッドジャッジと4人のセンサリージャッジだ。ヘッドジャッジは全ての作品を味見するが、センサリージャッジは2組に分かれる。


 1つの部門にある2種類のコーヒーの内、1種類目は1人目と2人目、2種類目は3人目と4人目のセンサリージャッジに提供する。エスプレッソ部門では、エスプレッソ、エスプレッソベースのシグネチャードリンクを提供する。最も基本的な部門と言っていい。ラテアート部門では、フリーポアラテアート、デザインカプチーノを提供する。着色禁止であり、カプチーノとしての味も審査する。マリアージュ部門では、コーヒーとフードのセット、コーヒーとスイーツのセットを提供する。フードとスイーツはその場で作り、コーヒーと組み合わせることを前提とした創意工夫が求められる。ブリュワーズ部門では、ドリップコーヒー、ドリップコーヒーベースのシグネチャードリンクを提供する。これも基本的な部門の1つである。コーヒーカクテル部門では、エスプレッソベースのコーヒーカクテル、ドリップコーヒーベースのコーヒーカクテルを提供する。アルコールの仕様が許されている唯一の部門だ。


 いくつかの部門は形を変え、別のバリスタ競技会として独立していった。


 松野が様々なバリスタ競技会に挑んでいたのはこのためでもある。


「このマリアージュ部門ですけど、フードはともかく、スイーツは作るのに時間がかかりますよね?」

「作るのに時間がかかる場合、事前に用意した完成品を保存して持ち込むことが認められてるし、特に問題ない。でも最終的には、バリスタ自身が盛りつけとトッピングをしないといけない」

「なるほど。あず君は優子さんとコーヒースイーツを作ると言ってましたけど、もしかしてそれをコーヒーと組み合わせるんですか?」

「その通り」

「……」


 伊織が少しばかり不安そうな顔になり、口を閉じたまま心配そうにこっちを見ている。


 コーヒースイーツとコーヒーの組み合わせはくどいとでも思ったのだろうか。僕も最初はそう思っていたが、食材や作り方を工夫すれば、意外とうまく噛み合うものだ。


 そんな時だった。璃子から1本の電話がかかってくる。


「それ……マジなのか? ……うん、分かった」


 青褪めた顔のままスマホの通話停止ボタンを押す。


 璃子によると、当日出来上がったばかりの食材を乗せたトラックが交通事故でバラバラになってしまったらしい。当然中身はおじゃんだ。問題なかったとしても、まず間に合わないだろう。


「伊織、今から買い物に行くぞっ!」

「今からですか?」

「マリアージュ部門で使う予定の食材が駄目になった」

「ええっ! そんな……」


 伊織が悲しそうな顔で涙目で嘆いた。以前の僕なら諦めていただろう。だが今回は違う。


 ――進化した僕の実力を見せてやるっ!


 伊織と共に近くのスーパーに向かって走り出す。迷いはなかったが、伊織は目から涙が零れていた。僕がどれほどこの大会を楽しみにしていたかを知っている。だが僕が弱気になることはなかった。


 前回に引き続いてまたアクシデントが起こるとは……お祓いに行った方がいいのかもしれない。


 いや、今はそんなことを考えている場合じゃねえ。


 今できることもしないで神頼みなんて、情けないにもほどがある。


「あず君がこの日のために一生懸命考えたメニューなのに」

「済んだことは悔やんでも仕方ねえよ。マリアージュ部門以外の食材は揃ってるし、まだ挽回できる」

「でもマリアージュ部門を制する食材もなしに、どうやって勝つんですか?」

「方法は見つける。なければ作る」


 この時、伊織の目に闘志が戻ったのが僕には分かった。


 スーパーに赴き、今持っているコーヒーに合いそうな食材を探した。


「伊織、コーヒーと一緒に何か食べたことあるか?」

「サンドウィッチならありますけど」

「片っ端から集めるか――」

「はい」


 急ぎながらコーヒーに合う食材を集めた。値段を見ている暇はなかった。


 スーパーの籠の中がすぐに埋まっていく。


 午前9時、開会式が僕を置き去りにして始まっていた。午前10時には競技が始まり、第1競技者から順番に競技が始まる。開会式に僕はいなかった。これに出席しなくても失格にはならないが、自分の準備時間の15分前に出席を取れる場所にいなければ失格になる。僕の準備時間は午前12時からだ。午前11時45分までにマリアージュ部門に必要な食材を考える必要があるのだ。


 午前11時、スーパーから戻ってきた僕は控え室に行った。


 1時間程度リハーサルの時間が与えられるが、僕はその時間の全てをコーヒーと食材のマリアージュを確かめるための時間として費やした。僕も伊織もピリピリしていたのか、周囲の人は僕らに話しかけようとしない。僕らは早めの昼食も兼ねてコーヒーとスーパーで買ってきた食材を交互に食べていた。


「これ結構合うな」

「はい。でもスーパーで買ってきた食材で勝てますかね?」

「マリアージュ部門のハイスコアは望めないだろう。マリアージュ部門以外でスコアを稼いで、なるべく減点を減らせるようにするしかない」


 璃子からメールが来る――僕らを心配しているようだ。


『お兄ちゃん、大丈夫? まさかこんなことになるなんて』


 何とかする旨を伝え、リハーサルに戻った。


 会場には複数のブースが用意されていた。僕はその内の1つを使ってリハーサルをしている。


「あの、穂岐山社長に言った方がいいんじゃないですか?」

「言っても変わらねえよ。事故るようなトラックで発注したこっちの責任だ」

「他の参加者はかなり高級な食材を使っていました。こっちはスーパーで買った食材ですから、どう考えてもあず君に不利な条件ですよ」

「伊織、自分と他人を比較するのは、自尊心を傷つける行為だ。今僕らが戦うべき相手は他のバリスタじゃない。自分自身の弱さだ」

「……はい」


 他の部門における味の確認なら真由の家で散々やった。使う食材は決まった。後は運に任せるのみ。そんなことを考えながらコーヒーを飲み、準備時間を待った。伊織は思ったより落ち着いていた。


 午前11時45分、準備時間がやってくる。


 僕も伊織も大忙しだった。テーブルの位置からジャッジが座る場所まで自由なセッティングを行うことができ、立ち飲みをさせるためにジャッジを立たせて競技を行うこともできる。いつもの店のような雰囲気を出すため、カフェと同じ形式になるようカウンター席を採用した。


 ジャッジを座らせたところで、準備時間が終わりを告げる。


 時間の計測は最初に手を挙げてタイムと言った後、最後に手を挙げてタイムと言ったところまでだ。1時間が経過すると強制終了となり、この時点で全ての部門のコーヒーを提出していなければ失格だ。


「次の競技者です。第3競技者、株式会社葉月珈琲、葉月珈琲岐阜市本店、葉月梓バリスタです。それではご自身のタイミングで始めてください」


 黙って頷き、深呼吸を済ませた。


 制服姿に後ろにまとめてある髪、これがいつもの営業中の僕の姿である。


「タイム。まずはエスプレッソ部門、ラテアート部門、マリアージュ部門、ブリュワーズ部門、コーヒーカクテル部門の順番で提供しようと思う」


 提供順を告げてから食材の準備を始める。プレゼンは必要最低限で充分であるため、練習の必要すらなかった。コーヒーの品種やプロセスを説明しながら次々と部門をこなしていく。


 エスプレッソ部門では、エスプレッソ、ベルガコーヒーを更に改良したベルガコーヒーV2を2杯ずつ提供する。パナマゲイシャのエスプレッソを用意すると、この日のために熟成させたオレンジシロップとホエイを使い、マウスフィールを更に追及したスムースでマイルドなテクスチャーとなっている。


 ラテアート部門では、フリーポアで兎、ペンスティックのみを使用したデザインカプチーノで狐を描いたものを2杯ずつ提供する。真上からラテアートの写真が撮られると、センサリージャッジがカプチーノを飲み、続いてヘッドジャッジが片方を選び、黙ったまま飲んでいる。


 マリアージュ部門では、さっきスーパーで買ってきたクラッカーにクリームチーズをパレットナイフで乗せたものと、浅炒りコロンビアゲイシャに牛乳を混ぜたカフェオレのセット、スーパーで売っていたフルーツの盛り合わせにヨーグルトと蜂蜜をかけたものと、ドリップした深炒りのエチオピアコーヒーのセットを2セットずつ提供する。この部門で使うコーヒーはエスプレッソかドリップコーヒーのどちらかを使っていればそれで良く、そのまま出してもいいし、アルコール以外の食材を混ぜてもいい。


 ブリュワーズ部門では、WBrC(ワブルク)で使用した抽出メソッドを改良したものを使い、ペーパードリップで抽出したドリップコーヒー、そのドリップコーヒーの酸味を引き立たせるために紅玉のシロップを投入したドリンクを2杯ずつ提供する。紅玉は林檎の中でも酸味が強く、今回使っているこのドリップコーヒーのメインフレーバーが林檎であるため、これが最も適していると感じた。


 コーヒーカクテル部門では、ペーパードリップで抽出したドリップコーヒーベースのコーヒーにアイリッシュウイスキーとブランデーを投入し、生クリームをフロートさせたアイリッシュコーヒーとエスプレッソベースのコーヒーを使ったベルガスピリッツコーヒーを更に改良したベルガスピリッツコーヒーV2を2杯ずつ提供する。アイリッシュウイスキーは以前のWCIGSC(ワシグス)で使ったものを改良したものであり、クリーンさに更なる磨きが掛かっている。メインフレーバーである葡萄を活かすため、シュガーシロップの代わりにピオーネ果汁のシロップを投入した。ベルガスピリッツコーヒーV2にはパナマゲイシャのエスプレッソ、濾したオレンジジュースと牛乳を投入して生乳を分離させて濃縮したオレンジのホエイ、オレンジフラワーの成分をキュラソーに移したリキュールを投入した。


 正直に言おう。マリアージュ部門以外は完璧と言える自信がある。最悪2位通過でもいい。次は事故らなければいいだけの話だし、これで無理ならそれまでの運命(さだめ)だったと思うしかない。


 総力戦になればまず負けるが、ここは自分を信じるしかないのだ。


「僕はそれぞれのコーヒーの味わいを最大限に引き出すためだけに時間と汗を費やしてきたつもりだ。今回の選考会は非常に良い経験になった。タイム」


 時間は59分40秒、マリアージュ部門に時間を取られすぎた。やはり課題となるのはこの部門と言っていいが、僕に鬼門はないと、胸を張って言えるくらいにはなってやる。


 インタビューと片づけの時間が終わり、後は結果発表を待つのみである。しばらくは美羽、真理愛といった他のバリスタの競技を見ていた。どのバリスタも50分を過ぎたあたりで競技を終了していた。


 あと10分もあるのに、それを活かそうとは思わないのだろうか。


 僕はただコーヒーを提供するだけでなく、同時に4杯のコーヒーを提供した後で4人のセンサリージャッジに乾杯させたり、ベルガモットスモークの演出をマジックのように披露した。


 ジャッジは顧客であるという認識を持たなければならない。


 自分がジャッジの立場であった場合に、自分自身の競技をアトラクションを見ているかのように楽しむことができるか、それが重要であると感じた。ただでさえ大きなハンデを抱えていたのだから、コーヒーの味以外の部分でもスコアを稼ぐべきではないかと考えたのだ。そんなことを考えながら寛ぐように観客席に座り、伊織と共に全てのバリスタの競技を見届けていた。


 僕がやったことのない工夫をする者もいて、非常に勉強になった。ソーダマシンでコーヒーを炭酸化したり、エスプーマでコーヒーのクリーミーな質感を更に強くしたりと、僕が知らない未知のコーヒーにうっとりしていた。帰ったら試してみよう。事故による食材紛失のハンデなんてもう忘れていた。


「ふぅ、大変だったぁ~。今までの競技と違ってかなりの長丁場だったよぉ~」


 美羽が僕に抱きつき、甘えながら競技についての感想を述べる。


「あのさ、重いんだけど」

「あず君、女性に向かって重いって言っちゃいけないんだよ」

「男ならいいのかよ」

「ふふっ、やっぱあず君って柔らかくて良いにお~い」


 ――僕は匂いつきの抱き枕じゃねえぞ。


 肝心の美羽の実績だが、JBC(ジェイビーシー)決勝進出1回、準決勝進出3回、JBrC(ジェイブルク)決勝進出1回である。JBrC(ジェイブルク)はこの年2回行われている。これも制覇した年の次の年に開催される世界大会に参加する方針だ。美羽は本当に頑張った。今はゆっくり休め。


 波乱の選考会は、終始盛り上がり続けるのだった。

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読んでいただきありがとうございます。

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