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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第6章 成長するバリスタ編
135/500

135杯目「差がついた序列」

 僕の言い分には、小夜子もさぞうんざりしただろう。


 学生の頃は僕も彼女もほぼ変わらない生き方だった。けど今は学校に行かなくなったことで、生き方に大きな差がついている。そりゃ話が合わないわけだ。


 小夜子とカフェで色々と話した後で店を出た。岩畑の件については、自分で解決するらしい。彼女は職業柄、振られ組四天王の中でも特に人脈が広く、今でも数多くの元同級生が彼女の店を訪れる。


「私が美容師になったのはね、親の言いなりになってる自分が嫌になったからなの。だから独立するという名目で、手に職をつけようと思ったの。親から離れられるんだったら何でもよかった。本当にやりたいことは、これから見つけていくつもり」

「小夜子の店、一度行ってみようかな」

「あず君ならいつでも歓迎するよ」


 小夜子が笑顔で言うと、僕よりも先にカフェから出ていった。僕の分のお代まで払っている。美容院は女だけが入れるイメージがあったけど、どうやら男も入れるらしい。


 去っていく彼女の後姿を目に焼きつけた――。


 9月上旬、どんなに暑くても、世間はこの時期を秋と呼ぶ。


 また国から紫綬褒章を受け取るよう通達が来たが、当然のように断った。紫綬褒章の打診は何度も断っている。すぐにまた岐阜県民栄誉賞の通達が来たが、褒章なんてどうでもいいものでしかなかった。


「あず君って褒章とか全然受け取りませんよね」

「当たり前だろ。あんなもん受け取ったら、僕は一生良い人を演じて生きていくことになる。タダより高いものはないからな。ああいうのって、本来は日本人の鏡みたいな人に渡すべきだ。だからぜーったいぜーったいやだ。僕は体1つでいたい」

「あくまでも自由が第一なんですね」

「ただでさえ世界トップクラスの重税国家だってのに、これ以上業を背負わされたらたまったもんじゃねえよ。冗談は政治だけにしとけってんだ」


 この頃、店で売り出したコーヒーカクテルが人気を博していた。


 WCIGSC(ワシグス)の影響でバーと間違われることもあった。けどうちは基本的にカフェという方針だ。バーと呼ぶには閉店時間が早すぎる。コーヒーよりもコーヒーカクテルの方が売れていた。アルコールの仕入れ値も過去最高を記録した。酒はほどほどにしてほしいんだけどな……。


「えっ! アズサって下戸だったの? 意外!」

「歴代のワールドコーヒーイングッドスピリッツチャンピオンの中でも史上初めてじゃないか。味見とか苦労したんじゃないの?」

「味見は全部カッピングだからそこまで飲んでない。でもあれを超える多忙経験はないと思いたいな。やるべきことが多すぎる上に、大会そのものが短期間だったし、もっと長期間だったら、じっくり開発できたと思う。あれはまだ未完成だ」

「まだ上を目指すのか。アズサは向上心の塊だなー」


 外国人観光客と会話をしていた。この頃、ずっと喋りっぱなしということもあり、人見知りがある程度改善されていた。みんなで一緒にやるような仕事は苦手だ。


 しかし、それはただの思い込みで、本当はもっと人と話せるのではないかと思うことが増えた。


 伊織は相変わらずここに修行しに来てくれていた。定期テストの影響でずっと学校の勉強ばかりをさせられている。伊織はここにやってきて以来、学校の勉強に疑問を持つようになっていた。伊織は担任に対して、学校の勉強って将来役に立つんですかと尋ねた話をしてくれた。だが担任は、みんなが将来役に立たない勉強をしてると言いたいのと聞き返してきたらしい。そう思ったから聞いたんだろうに。伊織はあまりの威圧感に黙ってしまった。相変わらず会話が成立していない。子供ごときが世の中の仕組みに疑問を持つなと言わんばかりだ。やはりあの場所は人生の時間泥棒をする場所でしかない。


 伊織が家にいてもカッピングができるよう、コーヒーの品種別に豆を持って帰らせていた。若い内から品種の違いが分かるようになっておかなければ、大人になった時に大きな差がついてしまう。親も学校も責任を取ってくれない。逆らって正解である。施設の話は伊織に効いたようだ。学校教育では飯を食える大人にはなれないことを知った伊織は、宿題をする時、積極的に答えだけを写すようになった。社会に出た後で役に立つ知識を学ぶことが本質的に大事であると知った。


 後は行動するだけだ。迷う必要はない。


 10月中旬、しばらくは立て続けに元同級生と再会する。


 葉月ローストの様子を見に行こうと外出した時だった。


 葉月商店街を歩いていると、後ろから聞き覚えのある声がした。


「――もしかして葉月か?」


 ネイティブ発音の日本語にビビって一歩後ろに下がる。


 声をかけてきたのは小1からの同級生、川地大樹(かわちだいき)


 隣にいるのは小3の時にガラス窓にぶち当てて泣かしてやった脇原亮(わきはらりょう)だった。


 外見は幼少期の面影を残しつつもすっかり変わっており、最初は全く気づけなかった。川地はおかっぱに近い丸い頭で、脇原は少し長めの髪に顎髭を生やしていた。


「……なんか用?」

「俺だよ、川地だよ。こっちが脇原な」

「……川地に脇原?」

「ああ。お前全然変わってねえな。そっけない態度、人前でビビるところ、拘りを貫くために人とぶつかるところ、女みてえな外見、あの時のまんまだ」

「別にいいだろ」

「すっかり有名になっちまってるな」

「お陰様でな」


 3人一緒に葉月ローストまで赴いた。数分後にやっと空いたカウンター席に僕ら3人が座る。2人はコーヒーの値段に驚いていた。うちの実家にコーヒー豆専門店を構えていることや、パナマとコロンビアのコーヒー農園を傘下としていることを親父から聞いて驚いていた。


 10月上旬にコロンビアのコーヒー農園の園長が代替わりする際、次の園長がコーヒー農園の知名度を上げるべく、コーヒー農園をうちの傘下とすることを申し出てきたのだ。僕は提案を快く引き受け、これによって葉月珈琲は2つのコーヒー農園を手にした。これで大会の度にいつでもコーヒー豆を送ってもらえる。ゲイシャの基盤を2ヵ所も手にできたのは、大会においても有利だ。


 契約農家の数自体も増えていた。


「――すげえよな」

「ああ。うちの学校からこんな天才が生まれるなんてな」

「何でうちの学校なんだよ?」

「だって俺たち同級生じゃん」

「元同級生という事実が残っているだけで、あの学校が僕を育てたことが理由で業績を伸ばせた根拠はどこにもないし、もしそうなら、他の生徒だって僕に匹敵するくらいの業績を上げていないとおかしいよな? それとも僕以外に何らかの分野で世界に通用する奴が1人でもいるか? 将来アスリートになりたいって自己紹介カードに書いていたいじめっ子の奴ら、スポーツ業界に現れる気配すらないけど、教育を真に受けてポンコツ化してるだろうし、高確率でサラリーマンかフリーターになってるぞ」

「「……」」


 はい論破……と言いたいところだが、これは空気を読めていないことを示す沈黙だ。


 以前、何度も経験したからよく分かる。ここがもし学校だったら、今頃僕は殴る蹴るの暴行を受けていたに違いない。僕自身、こういうところは変わっていないと自分で気づいてしまった。


「何で葉月が成功できたか、ちょっと分かった気がする」

「いくら分かったところで、行動に移さないと一生貧困だぞ」

「あず君、言い過ぎだよ。ごめんねー。あず君いつもこうだから」


 見るに見かねたお袋が僕を咎めた。ジト目になりながら僕を見つめ、俊足ランナーの盗塁を防ごうと牽制球を投げてくるピッチャーのような表情だ。


「いえいえ、慣れてますんで」

「そうそう。葉月は昔っから尖ってたし、テストは全然受けないのに、勉強できない奴と話してる時は立派な理屈警察だからな」

「お前、同級生といつもそんな会話してるのか?」

「ツッコミどころ満載だからな」

「でも今思うと、葉月へのいじめは本当に酷かったな」

「――あの時は葉月の方がおかしいって思ってたけど、所詮は社会経験のない教師が決めたルールだ。子供とはいえ、すっかり洗脳されてた。葉月、あの時は悪かったな」


 脇原が僕と言い争いになって突き飛ばし合ったことを今更ながら謝ってくる。


 自分から非を認められるのは強さの証だと思うぞ。


「いいんだ。悪いのはあの腐りきった教育制度だ。むしろ君らも被害者だよ。そのせいで2人共飯を食えない大人になってるみたいだし」


 店の端っこにあるカウンター席に座り、そっぽを向きながら答えた。


「あず君! いい加減にしないと怒るよ!」


 お袋が少しばかり強く低い声で僕を牽制する。何故怒っているかは僕には分からない。事実を言っただけなのに。所々ボサボサな髪、買ってから時間が経つのに履き潰れていない靴、洗濯が行き届いていないシワシワなワイシャツ。さしずめ、Fラン卒のフリーターってとこか。


「お仕事は何してるの?」

「今は就労支援施設に通ってます」

「俺もです。なかなか就職できなくて」

「あぁ~、そうなんだ~。就職頑張ってねー」


 フリーターですらなかったぁ~! ていうか清潔感なさすぎなんだよ! しかも頻繁に間違った日本語ばっか使ってるし、本当に就職する気あんのかよ?


「なあ葉月、今彼女いる?」

「……いないけど」


 嘘を吐いた。自分に正直に生きる。それが僕のポリシーなのに。


 やっぱり僕は……世間に対して臆病な人間だな。


 恐らくこれも義務教育の弊害なんだろう。マイノリティは迫害してもいいというメッセージを受け取り続けたことによって刷り込まれた恐怖が僕の心を執拗に傷つける。


「今俺の友達が相手を探してるんだけどさ、良かったらどうかな?」

「断る」

「一度会ってくれるだけでもいいんだ。あいつめっちゃ驚くだろうし、あず君くらいの人じゃないと、つき合おうとは思えないって言ってたからさ」

「やだ」


 類は友を呼ぶ。施設にぶち込まれるような連中と仲が良いというだけで、そいつが僕と馬の合う性格や価値観を持っているとは到底思えないのだ。残酷な事実ではあるが、人間界にも序列の層というものが存在する。人は図らずとも、同じ層にいる人としかつき合わなくなっていく。たとえお互いに自分の層を明かさなかったとしてもだ。違う層の人とは疎遠になっていく。似た者同士が惹かれ合っていくのは偶然ではなく必然なのだ。僕とて例外ではない。無名だった頃は無名人とのつき合いが多かったが、有名人の知り合いが急速に増えるにつれ、親戚や元同級生といった無名人との交流が激減したのだ。


 みんな仲良しなんて幻想にすぎない。人が同じ序列の人としか仲良くできない事実から目を背ければ自分の序列が分からないまま人生を右往左往する破目になる。施設やFランの連中に、自分の序列を知らない人が多いのは必然だろう。序列は誰かが勝手に作っただけで、自分たちは関係ないと思う者もいるだろうが、そう言っている人に限って底辺層にいるのが実に滑稽である。


「そうか……じゃあ俺たち、もう帰るわ」

「そうだな。そろそろ帰らないと。お勘定お願いします」

「はい。2000円です」

「うっ……今までで1番高いコーヒーを飲んだ気がする」


 彼らは俯きながら葉月ローストを去っていく。


 僕も親父とお袋の様子を確認できたところでカウンター席を立つ。


「あず君、同級生が気に入らないのは分かるけど、あんな言い方ないんじゃないの?」

「あんな言い方って何?」

「行動に移さないと一生貧困とか、飯を食えない大人って言ったでしょ」

「それがどうかした?」

「あの子たち、あず君がそういう言葉を使う度に、顔がシュンってなってたよ」

「あず君は正直すぎるんだ。まっ、そこがお前の良いところでもあるんだけどな」

「和人さん、あんまり甘やかしちゃ駄目。とにかく、あず君はもうちょっと人を思いやる気持ちを持つこと。じゃなきゃ立派なバリスタとは言えないよ」

「へいへい、分かったよ」


 思っても言わないのは、本当の意味で優しいとは言えない。


 自分のクッキーが美味いと思って不味いクッキーを作ってくる奴には、ちゃんと不味いと言ってやらなければ現状維持され、不味いと言われないが故に改善もしないまま、ずっとみんなが不味いクッキーを食わされる破目になる。傷つけてしまうから言わないのは優しさじゃない。物事の本質から目を背けているだけの愚かな自己逃避だ。この国の連中は、そうやって裸の王様を維持し続けてきた。


 ――いつまで茶番を続ける? それは魂が震えるような面白い生き方か?


 僕は言いたいことも言えない社会なんて――心底クソくらえだ!


 10月下旬、悪い予感が的中する。


 おばあちゃんが倒れて病院に搬送され、死んでしまったのだ。


 たまたま祖父母の家を訪れていた配達員が倒れているおばあちゃんを発見し、すぐに救急車を呼んでくれたが、その時にはもう心肺停止の状態だった。


 何も言い残さず去っていった。いや、おばあちゃんが夏場に出席した親戚の集会で言っていたのが最期の言葉だ。僕は喪服を着るのが嫌で葬式を欠席しようと思ったが、唯に説得され、自分用の可愛いデザインの喪服を作ることにしたのだ。この時をもって、僕の祖父母全員が死去した。


 おばあちゃんは新聞に載っている僕の記事を切り取り、アルバムにしていたことからも、本当に最期まで僕を心配していたことが窺える。


 アルバムだったら、実家にも親父とお袋が作ったものがあるのに……。


 気づけば涙が出ていた。可愛い喪服には涙が染みついている。


 葬儀が終わった後の食事で思わぬ再会を果たした。


「あれっ、もしかして葉月?」

「えっ、マジでっ!? ホントだ。葉月じゃん」


 声をかけてきた2人は、末守純(すえもりじゅん)細江武義(ほそえたけよし)だった。


 末守は小1の時に初めて僕に話しかけてきた男子で、よく同じ班になっては何度か話していた。


 細江は小4の時によく喧嘩した奴で、常に多数派の味方をするノンアイデンティティ。


「葉月ならそこら中にいるぞ」

「なるほどなー、お前のおばあちゃんだったかー」

「何でここにいるの?」

「何でって、俺たちは幸子さんの義理の弟の孫、つまりお前のはとこだ。葉月のおばあちゃんは末守家から嫁いできたんだよ。んで義理の弟の妻が細江家ってわけ。だから俺たちも親戚なんだよ。いやー、これで他の奴に自慢できるなー」

「他人を自慢するんじゃなくて、まず自分が自慢できる人間になったらどうだ?」

「ぐさっ! ……お前も言うようになったな」


 お袋は相変わらずの僕にため息を吐いた。


 ごめんな。やっぱ本音を言わずにはいられないんだわ。僕と本当に仲良くできる人は少ないかもしれないけどそれでいい。僕とずっとつき合える人は、自分と向き合える強さを持っている。


 社会不適合者の言葉は人の本質を映す鏡、多分それが僕の役割なんだろう。


「今じゃ世界的バリスタか。すっかり有名人だな」

「お陰で自己紹介の手間が省けた」

「どうやったら葉月みたいになれるの?」

「誰も僕にはなれない。僕も君たちには絶対になれない。明日輝いてる自分を信じて、歩き続けるしかねえんだよ。そっちは何やってんの?」

「俺たちは就活中だよ。虎沢グループに受かったと思ったら、急に内定切りされたんだよなー」

「今経営やばいらしいからって卒業直前に内定切りはないと思うなー。お陰でまた就活のやり直しだ」


 ――! おいおい、寄りによって虎沢グループを選んだのかよ。元社員の犯行で一気に株価が下がったことくらい調べればすぐに分かるはずなのに、何でそれを事前に予測できないんだ?


「他に内定はなかったの?」

「ないよ。だって俺たちFラン大生だったし。他は全部学歴フィルターで弾かれちまったよ。滑り止めでここを受けて、たまたま受かったと思ったらこれだよ」

「履歴書持ってるか?」

「一応あるけど」

「見せてみろ」


 2人の履歴書を貸してもらい、内容を確認する。


 ――なぁにこれ!? まるで小学生の文章じゃねえかっ! 誤字脱字が当たり前で、句読点があまりにも多すぎるし、自己アピールも抽象的で何が言いたいのか全然分からないし、ここまで酷い履歴書は初めてだ。このポンコツ共を内定させているってことは、相当経営が厳しいんだろうな。


 噂には聞いていたが、Fラン大生ってマジでこういう奴ばっかなんだな。


 この前の2人もFラン卒だったけど、フィルターをかけるまでもなく落ちるだろう。このやばさが分からないのがやばい。本物の愚者は自らの愚行すら知らない。雇う側の立場で見てみろってんだ。


 ――今、こんな若者が増えている。恐らくこいつらは氷山の一角だ。


「どう?」

「やる気ねえだろ」

「えっ……」

「君らが面接官だったら、雇いたいって思うか?」

「「……」」

「ずっとモラトリアムに漬かりすぎた弊害が諸に出てるな」

「モラトリアム?」

「ググれ」


 ――はぁ~、調べる習慣すらないのかこいつらは。


 圧倒的な情報差で落ちるための就活をしていたのが容易に想像できる。


 真面目で優しいのはいいけど、逞しさや生きる力ってのがない。


 僕はそんなことを考えながら、葬式場を去るのだった。


 11月下旬、おばあちゃんの死から1ヵ月が過ぎた――。


 遠戚の人はもう忘れた頃だと思うが、僕は忘れられなかった。祖父母が住んでいた家は売却することとなり、このまま何もしなければ、親戚の集会はなくなってしまう。


 そんな時だった。親父が葉月珈琲へとやってくる。


 親父はエスプレッソを注文すると、カウンター席にのっそりと座る。テイクアウトシステムのお陰で長蛇の列ができてもすぐに解消されるようになっていた。これで身内も比較的来やすくなった。


「あず君、次から親戚の集会をどうするかでみんなと話してたんだけどさ、来年からはあず君の店で親戚の集会をやろうかと思ってる」

「……」

「元々親戚の集会は、先代が寂しがりなおばあちゃんのために始めた風習だ。やめようと思えばやめられるし、厄介な人間関係からも解放される」

「……」

「あの、親戚の集会がなくなったらどうなるんですか?」

「そうだな。正月とかに集まる場所を決めて会うくらいになるだろうな」

「……」


 なかなか言葉が出てこない。僕としては煩わしい人間関係とはおさらばしたい。だが身内の近況報告を聞くことがなくなれば、身内が飯を食えなくなった時、助けてやれなくなる。身内から犯罪者が出てしまったら、何故か他の身内まで責められる幼児性の強い国だ。それだけは何としてでも防ぎたい。


「親父、親戚の集会だけどさ、1月と5月と9月なら、うちでもできるぞ」

「お盆は駄目か?」

「うちだけ9月にお盆をやる。8月はサマーシーズンで、主にヨーロッパ系の外国人観光客が増える繁盛期だ。9月になったら少しは収まるし、丁度4ヵ月の間隔が空くだろ?」

「分かった。みんなに相談してみる」


 親父が言うと、璃子や唯としばらく話してから帰っていった。他にも親戚の集会に反対する者がいるとしたら、余計なお世話をしたかもな。でもうちの店なら問題ないだろう。


「あず君が親戚の集会を維持するために協力するとは思いませんでした」

「うん。お兄ちゃんがそこまで協力するなんて意外かも」

「何の考えもなしに引き受けたわけじゃねえよ。繁盛期だと出席できない時があったから、それを避けたいってだけだ。それに――」

「それに……何ですか?」

「将来飯を食えなさそうな連中がいる。早く何とかしないと」

「吉樹さんのことですか?」

「吉樹も候補だけど、もっと深刻な連中がいる。事業に余裕が出てきたから、来年は部署を増やそうと思ってる。良い人がいたら紹介してくれ」

「なるほど、そういうことですか」


 唯は何かを察したようだ。いつも僕が何かを言う前に言いたいことを理解する。僕の行動パターンを知り尽くしている。絶対敵に回してはならないタイプであることが見て取れる。


 出会った連中は思った以上に強い印象を僕に与えた。


 僕はため息を吐きながら、この年を振り返るのだった――。

気に入っていただければブクマや評価をお願いします。

読んでいただきありがとうございます。

川地大樹(CV:佐藤拓也)

脇原亮(CV:保志総一朗)

末守純(CV:福原かつみ)

細江武義(CV:杉山紀影)

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