134杯目「テイクアウト」
7月下旬、うちの店で『テイクアウト』を始める話が出ていた。
うちの店は年を追う毎に外国人観光客が長蛇の列を作ることになり、大きな課題になっていた。
既にイートインスペースだけでは限界だった。テイクアウトを採用し、テイクアウトで注文した人は割引きにするという方法を取ろうと思ったのだが、きっかけは葉月ローストだった。親父もお袋も店内で客に飲ませるより、テイクアウト重視の店である。コーヒー豆を買う時点で自分で淹れるって言ってるようなもんだし、当然と言えば当然だが、うちもいよいよそうせざるを得なくなってきたのだ。
ラストオーダーの時間が迫り、これ以上の注文がないことを確認してから店内にいるスタッフを全員集合させ、テイクアウトを導入するにあたってのアイデアを求めた。
「というわけなんだけど、どう思う?」
「僕は賛成かな。この前お客さんから行列が長すぎて店に入れなかったって言われて、テイクアウトを導入して、コーヒー1杯で居座る人を減らせれば、もっとお客さんの流れがスムーズになると思うよ」
ルイが客回りを良くしようと、賛成の理由を僕に説明する。
テイクアウトを導入しなかったのは、イートインスペースで癒しの空間を提供するためだが、これだけざわついているとなると、外で飲んだ方がいいと思う人もいる。
「それともう1つ提案があるんだけど、イートインを選択した場合は、ドリンクメニューのみの注文を禁止にするっていうのはどうかな?」
「やだよそんなの。それじゃがっつり食べる人じゃないと居座っちゃいけないみたいじゃん」
「じゃあ時間制限をして、1時間以上居座ったら追加料金を取るのはどう?」
今度はリサが僕に提案をしてくる。
「カラオケかよ。時計と睨めっこしながらコーヒーを飲んでたら、味わう楽しみがなくなる。うちは客にのんびりしてほしい目的で、あえて時計を客から見えない場所に置いてる」
「じゃあさ、満席の時は『客席料金』が発生するってのはどうかな? ほら、あず君言ってたでしょ。満員電車をなくしたい場合は、ラッシュの時だけ料金を倍にすればいいって」
優子が的を射たアイデアを出してくる。何だかんだ言っても、やっぱ優子が1番発想に長けている。流石はヤナセスイーツで店長を務めていただけあって企画がうまい。
「満席を理由に稼ぐんじゃなく、満席の解消を促して料金を取れば、嫌味っぽさがなくなりますね」
「そゆこと。お客さん目線で考えると、満席の時に諦めてもらう確率を上げた方が、結果的に客回りの良いお店になるでしょ」
「じゃあそれ採用。後は僕がその案を調整しておく」
「あず君の役に立てて嬉しいなー」
優子がまるで子供のように喜ぶが、その隣で璃子は何かを悩んでいる様子。
「やっぱり優子さんは凄いです。いつもお兄ちゃんを一発で納得させるアイデアを出せて、新メニューの開発もアイデアが尽きないですし、どうやったら優子さんみたいになれるんですか?」
「どうやってって言われても、私にもよく分からないんだよねー」
「璃子は優子の背中を全く見てこなかったのか?」
「背中って、どういうこと?」
「優子はバブルが崩壊してからずっと不況続きのヤナセスイーツにいたんだ、どんなに良い商品を作っても客を呼ぶための工夫をしないと、全然売れなくなった時代の葉月商店街に居座り続けて、他の店がシャッターを閉めていく砂漠ような魔境をずっと生き延びてきた。それまでに培ってきたノウハウと引き出しの多さは並大抵のものじゃない」
優子はヤナセスイーツ時代に客寄せをするためのアイデアを次々と実行し、シャッター街と呼ばれた商店街の中で長い間気を張っていた。父親が倒れ、母親が多忙になってからは、店を続けていく上で、創意工夫を思いつかなければ到底食っていけない環境だったのだ。
僕は優子の知られざる成果を知っていた。製菓だけに。
今や葉月珈琲は、舌の肥えた客が世界中から集まってくる世界最高峰のカフェとなっている。当然、求められるレベルは非常に高い。プレッシャー塗れの環境で力を発揮できない人もいるだろうが、優子は違う。彼女はモノが違うのだ。働けど稼げない魔境を生き延びた彼女であれば、葉月珈琲でも物怖じせずに力を発揮できると感じたのだ。これこそが彼女を採用した1番の理由である。
「もう、褒めすぎだってー。それに昔よりも楽できてるかって言ったらそうでもないよ。今までにないスイーツの開発も要求されてるし、むしろ葉月商店街にいた頃より大変だよ。じゃあ私帰るから」
「ああ、お疲れ……」
優子が赤面しながらそっぽを向き、バックヤードへと入っていく。
テイクアウトの案は8月から始めることとなった。
満席の時は行列が長ければ長いほど客席料金を増やし、テイクアウト商品の料金は割り引きの数字を増やす。行列の長さに応じて注文した金額の合計を1割増し2割増しに増やしていき、逆にテイクアウト商品の料金は1割引き2割引きと値下げしていく。このルールは満席時の来客にのみ適用され、満席でない時はいつも通りの料金とすることで話が落ち着いた。
これが、葉月珈琲発祥の『満員防止法』である。
うちの店だけじゃなく、葉月ローストでもすぐに採用された。
「お兄ちゃん、ちょっといいかな?」
全員が夕食、歯磨き、風呂までを済ませ、後は寝るだけと思った時だった。
璃子が自信なさげな顔で僕の後ろから話しかけてくる。
「……何? どうかした?」
「私、このままでいいのかなって。みんな次々と実績を残していくのに、私だけ全然実績を残せてないのが申し訳なくて。私よりも優子さんの方が役員に向いてるんじゃないかなって思うんだけど」
璃子は顔を下に向け、すっかりと自信をなくしていた。璃子とはあれから仲直りしたが、それぞれ自分の仕事をこなすので精一杯な状態で、あんまり話すことがなかった。璃子には本当に苦労をかけた。あの後、璃子は色んな人に相談しに行ったらしい。あの時の苛立ちをぶつけたのが余程応えたらしい。うちは実力主義だ。たとえ身内であっても無能だった場合は仕事を辞めてもらい、家事に専念させる。昔はここまでする余裕はないと思い、璃子がいる方向を向きながら昔の自分の言動を後悔する。
誰かのコピーができるだけの人なんていらない。
これはこれで正論とは思うが、僕は大半の人を世界相手に通用しないという理由ですっかり見下す癖がついていた。何かで世界一になれなくったって、璃子は僕の大事な家族だというのに。
ずっと世界大会に出ている内に、危うく大事なことを忘れそうになっていた。唯と優子が僕と璃子の仲を取り持ってくれなかったら、仲直りさえできなかったかもしれない。
「あのこと、まだ気にしてる?」
「全く気にしてないって言えば嘘になるかな」
「人を用いることにおいては璃子が勝る。だが決断をすることにおいては僕が勝る。本来なら璃子に社長を務めてほしいと思ってるくらいだけどな」
「買い被りすぎ」
「璃子には人の長所を見抜く才能がある。蓮から聞いたけどさ、璃子が小学校の運動会の時、生徒たちを団結させて優勝に導いたんだってな」
「少し手伝っただけだよ。大袈裟なんだから」
「あいつはつまらない嘘は吐かねえぞ。璃子は僕が落ち込んでいた時にも度々やる気にさせてくれた。人をやる気にさせた上で個性を用いるのは立派な才能だ。僕はどっちかって言うと、短所を叩く方が得意だからさ、それを考えたら、璃子の方が経営者向きだ」
何より義務教育時代に一度もいじめを受けなかったという実績がある。それが璃子という人間を物語っていた。社会不適合者よりも世渡り上手な人の方が経営者向きであることは歴史が証明済みである。
僕は本来誰とも話さずにコーヒーを淹れる職人としてのバリスタが最も合っている。
接客を唯やリサに任せているのはそのためである。
「私も活躍できるかな?」
「できると思えばできるし、できないと思えばできない。これは絶対に揺るぎない法則だ。璃子は他の人が将来役に立たない勉強をしている間にショコラティエの修行をしてきたんだ。もうチョコしかないっていうくらいの気持ちでやらないとな」
「優子さんが大変な時に修行しに行ってたと思うと、何だか申し訳ないよ」
「修業の材料費を僕が負担することになった時点で、余裕がないのは分かってた。でも頼れるのは優子しかいなかった。それが全てだ」
「……」
これ以上言ってやれる言葉を思いつかなかった僕は、璃子を廊下に残したまま部屋へと戻った。
後は璃子自身が自分で気づけなきゃ意味がない。
この日の晩も僕は唯と一緒に寝た。もはやそれが普通になっていた。
唯は僕が嬉しい時は一緒に喜んでくれて、僕が困っている時は全力で助けてくれた。通常であれば、利害が一致しなければ人を助けようとは思わないものだが、唯は自分を犠牲にしても僕を支え続けてくれた。自分の利害に関係なく助けたいと思う感情を愛と呼ぶのかもしれない。
好きというだけでは、まだまだ独り善がりなのだ。
8月上旬、岐阜コンの時期がやってくる。
僕は参加を見送った。バリスタオリンピックの課題に目を向けていたし、早い内から対策をするに越したことはない。課題はいつも通りだが、それでも心配になってしまったのか、オーガストへ遊びに行くことも兼ねてサングラスをかけ、葉月商店街へと赴いたのだが、参加者は少なかった。
柚子の顔には危機感の文字が浮かんでいるようだった。
葉月ローストの影響もあり、バブル期の頃には遠く及ばないが、人通りが戻っていた。葉月ローストで大人買いをしていった人たちがついでと言わんばかりに他の店にも目を通している。皮肉にもヤナセスイーツが閉店してから狙ったように復興が始まり、葉月ローストの開店が流れに拍車を掛けている。
午後6時、オーガストがオープンすると真っ先に店に入り、しばらく真理愛と話してから帰宅する。
この日は少しばかり酔ったまま、唯と一緒に風呂に入った。
風呂の鏡に映る自分を見てうっとりする。女子中学生のような顔、細身で引き締まった体、僕はそんな自分自身の美しさに嫉妬してしまうほど夢中になっていた。
可愛くてルックスもスタイルも良いとよく言われる。虚弱体質を改善するために、体を鍛え始めたはいいが、大人になってもずっと童顔で、中性的な声のロングヘアーで、可愛い服装をしている男性ということもあり、酔っている時は鏡の向こうにいる自分を女と錯覚してしまう。
鏡を見ながらデレデレしているところを唯に見られた時は恥ずかしかった。
「何でみんな自分が嫌いなんだろうな?」
「いつもの自分を受け止めてもらえなかったからじゃないですかね」
「人間って自分勝手だな。自分のことは受け入れてほしいくせに、相手のことは受け入れようとしないんだからさ。みんな王様にでもなりたいのかな」
「それは多分、劣等感の裏返しだと思います」
「劣等感を持つ暇があるんだったら、好きなことに没頭すればいいのに。自分は世界でたった1人の存在なんだし、もっと自分に自信を持ってもいいのに。何と言われようと、自分を好きでいないと流されるのが関の山だし、自分勝手なのはお互い様だ」
動画編集を終えて寝ようとすると、唯が僕にくっつきながら甘えてくる。まるで子犬のように擦り寄ってくる彼女は、抱き枕なんかよりもずっと快適だった。
服越しに唯のダブルメロンをもふもふ掴んでいると、気持ち良くなったのか、段々眠くなってくる。
僕らはお互いの体を全身で感じながら熟睡するのだった。
8月中旬、親戚の集会に参加する。親戚中からWCIGSC優勝を祝ってもらった。
気掛かりな点があった。おばあちゃんの様子がおかしかったのだ。
意識が朦朧としているが、無理をして居座っているようにさえ思える。
明らかにしんどそうだし、休んだ方がいいんじゃないか?
「ねえあず君、まだ彼女いないんだったら、優子さんとつき合ったら?」
「優子と?」
「優子さん、岐阜コンに参加者側で参加してたんだよ。あれは相手を探してるね」
「優子さんって、今年で28だもんね」
「それが何?」
「女性は30を過ぎると、結婚しにくくなるらしいよ」
「あー、そういうことか」
「あず君もいい歳なんだから、理屈こねてないで結婚したら?」
親戚たちがまたしても結婚を勧めてくる。
僕の結婚観を一言で言うと、独身上等。至ってシンプルかつ合理的だ。みんなは僕の結婚観を知っていたけど、それでも執拗に結婚を勧めてくるのは何故だ?
昔ならともかく、今は同居でいい。ただでさえ普通のお別れと離婚とでは重みが違う。いくら税制面で優遇されるとはいえ、重荷を背負うリスクを考えれば、独り身か同居の方が圧倒的に有利だ。パートナーと仲が悪くなったら別居して、仲直りしたら戻ってきてもいい。もっと流動的な関係でいたい。
離婚したらその事実がずっと残るし、また会った時に気まずくなりやすい。しかも結婚していたら他の異性とつき合えなくなる。人間ってのはみんな気分屋だ。1年後には好みが変わってるなんてこともあるし、同時に複数人を好きになることだってあるし、恋愛が自由化されているのに、それが想定されていない時点で時代遅れと認めざるを得ないのだ。僕は農耕社会を生きた覚えはない。
「今の親はさー、子供が転んでへし折れないように先回りして小石をどかすような育て方をするけど、それじゃ人間は育たねえよ。しかもそれが子供のためだって本気で思ってる。無菌状態で温室栽培のような育て方をするからデリケートになってすぐへし折れるんだ。自分が子供を弱体化させてるくせに、子供が弱くなったとほざきながら施設にぶち込んで、自分がしてきた教育を正当化しようとするんだ。僕に言わせるとな、そもそも転んだくらいでへし折れない人間にしろよって思うよ」
「あず君は逞しいねぇ~」
僕が今の親のトンチンカンな教育に対し、ラジオと同じノリで物申していると、たまたま隣に座っていたおばあちゃんが話しかけてくる。以前よりも覇気がなく、まるで空気が抜けた風船のような声だ。
「おばあちゃんはどうなの?」
「私はもうすっかりヨボヨボだよ。今まではおじいさんの代わりにあず君の活躍を見届けてきたけど、そろそろ限界かもしれないねぇ」
「お母さん、そんな弱気なこと言わないでよ」
「私くらいになるとねー、分かるんだよ。もうすぐおじいさんの所に行けるってね」
――おばあちゃんが言うと洒落にならねえな。
普段は穏やかな性格で、コーヒー好きではあるが、淹れることにはあまり興味を示さない。おじいちゃんがコーヒーを淹れるためだけに使っていたコーヒー部屋はすっかりと空き家になっており、隅から隅まで埃塗れだ。誰も使ってないんだ。コーヒー部屋を片づけたあの日から……。
「あず君、生きていくためにはねぇ、逞しさも大事だけど、まずは人を思いやれるようにならないと駄目だよ。あず君は若い頃のおじいさんによく似てるから心配だねぇ」
「おじいちゃんって何やらかしたの?」
「昔のおじいさんは短気で反抗的で、理不尽を許せない熱血漢だったの。それで度々お客さんや近所の人とぶつかって、そりゃあもう大変だったよ。そのたんびに私があの人の代わりに何度頭を下げたか、全く分かったもんじゃないねぇ」
「私もお兄ちゃんの代わりに何度頭を下げたか」
璃子がジト目でこっちを見ながらスモークサーモンを口に入れた。
「……あはははは」
笑って誤魔化すしかなかった。璃子はたまに訪問してくる身内以外の日本人に事情を説明して帰ってもらっていた。今は葉月ローストを勧めているようだが、昔は金華珈琲への案内役を務めた。
8月下旬、買い出しに出かけていると小夜子とばったり会う。
「あっ、あず君。久しぶり」
「小夜子か、偶然だな」
「相変わらず活躍してるみたいで何より」
「大会見てたの?」
「うん。あず君の影響でね、今コーヒーカクテルがブームになってるの。ちょっとさー、そこのカフェで飲まない? 積もる話もあるし」
「別にいいけど」
小夜子と近くのカフェでアイスコーヒーを飲みながら話すことに。
小夜子は歳よりも大人びた外見で黒のロングヘアーなのは相変わらずだった。彼女は今でも岩畑から交際を迫られていることが悩みの種だった。
――あいつ今でも小夜子を狙ってるのかよ。もう諦めたと思ってたけど。
「つまり話をまとめると、岩畑は親父の会社がリーマンショックで倒産した影響で、進学を諦める破目になって、やむを得ず高卒と共に工場で働くようになってしばらくしてから度々小夜子の店に行くようになって、ずっと話を聞いている内に、交際を迫られるようになったと」
「うん。私としては、岩畑君とは友達でいたいの」
「ぶっちゃけタイプじゃないと?」
「うん。昔は結構タイプだったけど、あず君をいじめてたし、今は外見もすっかり変わってしまったからねー。髪はボサボサで肌はカサカサだし、明らかに太ってるし……何というか、全然清潔感がないの」
――それ、工場労働者っていうより、ニートだよな?
岩畑が工場に就職した話は以前も聞いたけど、それまでは大卒で親父の会社を継いでいるものだとばかり思ってた。それならPTA会長のボンボンでありながら、工場労働者であることにも説明がつく。
「外見は中身の1番外側の部分って言うからなー」
「あず君は髪が先端まで整ってるし、肌も凄く綺麗だし、もしつき合うならあず君かなって思ってる。今は雲の上の存在になっちゃったけど」
この時、僕が何故女子からモテていたのかが分かった。
どうやら女という生き物は清潔感で相手を選んでいるらしい。
昔の僕は茶髪を理由に迫害されていたこともあり、外見にはこれでもかというほど気を使っていた。
髪を切れって言われにくくするために、綺麗で清潔な髪を保つためのケアを心掛けたり、肌荒れを防ぐために日光を避けたり、力持ちだと思われないようにするために、食生活を通して細身で引き締まったスタイルを心掛けたりしていた。この生活習慣はずっと続けている。学校に行かなくなってから一切病気にならなくなったのは、余分なストレスが減ったこと、自分に合った生活習慣を選べるようになったことが要因だ。やっぱ自分の魂が喜ぶような生き方をしないと駄目だ。
「そんな引け目になる必要もないと思うぞ。本質的なところは何にも変わってないし、店に飾ってるトロフィーの数が増えただけ」
「それ自慢?」
「自慢だな。美容師って大会とかないの?」
「探したらあるかもしれないけど、私は好きな仕事ができれば十分だから、参加はまずしないかもね。あず君はコーヒー業界の地位を上げるためだもんね。でも大半の人は好きなことができれば満足だし、世界一まで究めようとする人の方が珍しいよ。仕事もできれば週3くらい休みたいと思ってるし」
「老いたな」
「酷っ! 私今23だよ!」
「若さの定義は年齢が低い人じゃない。好奇心を保ってる人だ。ほら、あそこにいる子供たちは積極的に1番を目指しながら本気で遊んでる。たとえ遊びであっても、全力で究めようとするのが若さだ」
カフェから窓越しに見える公園で、元気いっぱいに遊ぶ子供たちを指差した。
楽しいと思えること、本気を出すこと。好奇心に満ち溢れている人は、この2つが見事なまでに一体化している。だが多くの人は遊んでいる暇があるなら勉強しろと親と学校に言われ続けている。楽しんで遊ぶこと、本気を出して1番を目指すことが二分化され、嫌なことにばかり本気を出すようになる。
嫌なことに本気を出していれば、やがて本気を出すことが苦痛になり、休み時間が最も尊い時間であると思い込むようになる。するとあら不思議、今度は休み時間を増やすために、サボることを考えるようになるのだ。勉強や仕事に対して熱意をなくしている状態である。熱意のない人は洗脳されやすい。だから教育機関は子供たちに嫌なことばかりをさせるのだ。
楽しいこと+本気を出すこと=やりたいことなのだから。
この2つが二分されている内は、やりたいことなんてまず見つかるわけがない。
やりたいことを言えないようにしているのは親と学校だ。
「そりゃ子供は元気だからねー」
「小夜子だって元気だろ。サボりたいって思ってる時点で、本当にやりたいことじゃねえぞ」
「……」
――またやっちまった。僕がずっとぼっちだったことも頷ける。
小夜子にとって美容師の仕事は本気を出せるような仕事ではあっても、夢中になれるほど楽しい仕事ではなかった。ライスワークだ。気づきたくなかった。気づいてしまえば、今までの努力を否定することになる。とりあえずの仕事に就いている自分を認めたくなかった。
本質を突かれると、相手が黙ったり怒ったりする理由が分かった。
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