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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第6章 成長するバリスタ編
133/500

133杯目「恋人の証明」

 僕らは成美のミニバンに乗っている。


 運転席に成美、助手席に美咲、後部座席の右に僕、左隣には唯が陣取った。後部座席から後ろを振り返ると、スカイツリーが遠ざかっていく。もう東京を出ただろうか。早く岐阜に戻りたい。飛騨野姉妹は話題が尽きぬまま話し続けている。唯も積極的に会話に参加しているが、僕にこんな社交性はない。


 自分から話しかけようと思うだけで、何だか自ら罠に嵌りに行くような感覚に陥るのだ。


 段々と意識が遠のいていく――。


 帰国した日にトークショーは流石に多忙を極めた。成美の車で寝てしまい、しばらくして唯に起こされる頃には、見覚えのある景色が見えていた。岐阜まで帰っていたのだ。


「あず君、もう少しで家ですよ」

「ふふっ、ずっと寝てたね」

「ついさっきまでニースにいたからね」

「あず君は昔からずっと変わらない……なんか安心した」

「町興しのために婚活イベントに運営側で参加してたって聞いた時はびっくりしたなー。私も参加しておけばよかったなー」

「お姉ちゃんは和菓子喫茶の仕事があるでしょ」

「意地悪~」


 話を聞いてみると、成美は美咲と一緒に地元岐阜市で和菓子喫茶の経営をしていた。彼女たちは大学を卒業した後、大手の企業に就職する予定だったが、かつて僕が言った言葉や僕の活躍に刺激を受け、本当にやりたいことを始めた。道は自分で作るものという言葉を覚えていたらしい。


 他の同級生や同じくらいの年代の人たちも、僕の活躍に刺激を受けて活動を始めた。


 初めて世間の動きを知った。今までは自分のことばかりで精一杯だった。


 啖呵切って行動する人間の割合が増えれば、無理に就職レールに従わなくてもいい風潮になってもらいたい。僕の活動にも少しは意味があったのかもしれない。


「つまり、成美さんが先に始めた和菓子喫茶に美咲さんが就職したんですね」

「まあ、就職とは言っても役員だから、社員じゃないんだよ」

「美咲が役員か。あのまま流れでOLになって、40迎えた頃に自分の人生なんだったんだろうなって思うような路線を予想してたけど、どうやらその道は免れたみたいだな」

「お、お陰様でね……」


 僕の言葉に美咲が少しばかり引き攣った様子で返事をする。成美はクスッと笑っているが、運転中なんだから笑うのは控えてくれよ。事故ったら洒落にならねえからな。


「あず君がラジオで就労支援施設の人たちの話をしてるのを聞いたら、思考停止して流される人生が急に怖くなっちゃったもんねー」

「美咲さんもあの回見たんですね」

「うん。正直に言うと、そこらのホラー映画よりずっと怖かったかも。このままだと自分もああなるのかなと思って、お姉ちゃんのところでバイトを始めたの」


 なるほど、この2人も施設回の影響を受けたクチか。


 ――あの回はマジで反響が大きかった。


 施設回に人生を救われた人は決して少なくないと確信した。自分の頭で考えて主体的に生きないと、社会から自然淘汰されることを思い知った人がそれだけ多かったということだ。


「成美さんが和菓子喫茶を始めたきっかけって何ですか?」

「うちはおじいちゃんとおばあちゃんが和菓子喫茶やってて、できれば後を継ぎたかったけど……不況で潰れちゃったの。その後すぐにおじいちゃんもおばあちゃんも火が消えたように死んじゃって、一度は諦めて、安定した職に就こうかなって思ってたんだけど、あず君の生き様を見ている内に、何の夢も持ってない自分が恥ずかしくなってきちゃってね……それで昔店舗だった所を買い取って自分で始めたの」

「方法は見つける。なければ作る」


 美咲がドヤ顔で高らかに言った。


「あず君はまさにそんな人生を送ってる。最初はあず君に嫉妬もした。でもラジオであず君が嫉妬する時点で負けを認めているようなものだって聞いたから、私も頑張らないといけないって思えてきたの」


 別の人の受け売りなんだけどな。嫉妬なら僕もしたことがある。コーヒーに対する創造性や好奇心なら僕が勝るが、本質的には僕よりも唯の方がバリスタに向いている。それも唯を残留させた理由だ。


「あず君のラジオって、ある意味最強の教科書ですね」

「ふふっ、それ言えてる」

「ねえ、本当に彼女いないんだったらさ、私とつき合わない?」

「「「!」」」


 何を言っているんだ? でも……僕には唯がいる。


 公表してない以上、唯の前でそれを言うのは仕方ないけど、何だか残酷だな。


 隣を見ると、唯がシュンと落ち込んでいる。


「仮交際なら……別にいいぞ。普段は仕事でつき合えないけど」

「――そう。なら諦める」


 成美は残念そうに答えた。まるで僕の心境を見透かしているようだった。僕と唯は葉月珈琲の前で車から降ろしてもらった。スーツケースを取り出した後、走っていく車に手を振りドアに手をかけた。


「あっ、おかえり」

「ただいまです」


 明らかに唯の様子がおかしい。店はとっくに閉店時間を過ぎていた。僕、唯、璃子以外に人はいなかったのだが、さりげなく唯の後を追ってみる。


 唯は音もなく自分の部屋へと戻る。


「うっ……ううっ」


 扉の向こうから唯が啜り泣きをする声が聞こえた。


 泣いている原因を知ろうと、慌てて彼女の部屋に入った。


「唯、どうしたの?」


 泣いている理由を尋ねた。すると、唯が今まで思っていたことを訴え始めた。


「あず君が彼女の存在を否定した時も、私を同僚と呼んだ時も、ずっと辛かったんです。まるであず君との交際自体が嘘なんじゃないかって」

「そんなことねえよ。でも内緒にしておかないと、絶対に邪魔されるぞ」

「分かってます。でもずっと自分に嘘を吐いて生きるのはそれ以上に辛いんです。この世の誰よりも素敵な彼氏がいるのに……いないって何度も答えないといけなかったんですよ」


 唯……そうか、ずっと我慢していたのか。こんなに可愛くて素敵な彼女を泣かせてしまっている時点で彼氏失格だな。唯はかなりモテるし、育成部の連中にも声をかけられていた。


 僕は本質的に人を幸せにすることには向いていないかもしれない。自分で自分を幸せにして完結しちゃうような人間だし、コーヒーがあればそれで十分とか豪語している時点で、人の気持ちを考えることは不得手なんだろう。だが自分に嘘を吐いている点においては僕も同じだった。


「さっきもさ、彼女がいるから無理って言いたかったよ」

「じゃあ証明してくださいよ。もう我慢できないですよ」

「我慢できないって、僕にどうしろって言うの?」

「私と……一緒に寝てください。お願いします」


 僕の問いかけに唯が応える。彼女は僕に癒しを求めた。


 この時、僕にしては珍しく彼女の意図を察することができた。


「――分かった。璃子が寝てからでいいか?」

「はいっ! こんなに私を夢中にさせたんですから、責任取ってください」


 真剣な声でそう聞くと、唯は二つ返事でOKしてくれた。


 責任という重い言葉と共に。正面にいる唯が僕に近づいた。


 唯と静かに口づけを交わした。唯とは交際がばれないように別々の部屋で寝ていた。


 夜を迎えると、唯が度々僕の部屋を訪れては、傷を癒すようにキスをしていた。調子に乗ってダブルメロンをもふもふ掴んでも抵抗はしなかった。僕らはいつものように夕食と歯磨きを済ませ、璃子が風呂に入って眠りに就いたところで、初めて一緒に風呂に入った。


 ――駄目だ。唯をまともに直視できない。何だか悪いことをしている気分だ。


 湯船に浸かった僕の前に唯が座ってくる。


 とても色白で綺麗な体だ。他の人に譲るのが勿体ないと思える妖艶な肌質である。


「今日の私、何だか変ですね」

「僕を好きになる時点で相当変だけどな」

「もう知っていると思いますけど、他人がいる時の私は『人格者』を演じてます。でもあず君と一緒にいる時だけは、不思議といつもの自分でいられるんです。人格者としての私はコインの表側で、あれは本当の私じゃないんです。他の人が知ったらがっかりでしょうけど」

「唯はいつもの自分を晒しても問題ないと思うけど」

「私はあず君以上の臆病者ですから」

「……唯はいつもの自分を晒すのが怖くて、自分に嘘を吐いて当たり障りのない表面上の自分を演じながら生きるのも怖いんだろ。でもそう思ってるのは唯だけじゃねえよ。人の気持ちなんて全然分からないけどさ、1つ確かなのは、どっちの自分も『本当の自分』ってことだ。いつもの唯を知ったところで、騙されたとは思わなかった。だって表面上の自分を演じてる時だってさ、本音を知られることによって相手と無益な争いをしたくないっていう別の本音を押し通してるんだからさ」


 人間の本音は1つだけじゃなく複数ある。誰と接している時であれ、数ある本音の内の1つを必ず押し通している状態だ。唯も集団生活に馴染めなかったクチだ。社交性はあるし、人から好かれやすい性格である。だがそれは世を忍ぶための仮の姿。いつもの唯は自分勝手で、欲しいものを手に入れるためにあらゆる手を尽くす策略家である。恩義を感じさせてから要望を通すところには脱帽するしかない。


 全てを知った上で唯を受け入れている。


 唯は僕と一緒にいる時間を長くするために、うちの常連となっていた。いつの頃からか、それが僕とつき合うためであることには感づいていた。たとえぶら下がることが目的だったとしても、僕はそれを甘んじて受け入れよう。彼女は僕と正面から向き合ってくれた数少ない人だ。


 交際希望と言いつつも、他の女みたいにあからさまにがっついてくることはなかった。最悪恋人になれなかったとしても、僕と同じ職場に居座ることで、満足していたのかもしれない。


 いつもの自分で語り合えて、一緒にいて落ち着く。


 その心地良さは……まるでコーヒーを飲んでいるような感覚だ。


 常にそばにいてくれて、人生を教えてくれて、僕に足りないものを補ってくれる。彼女の性格や言動はジグソーパズルの隣り合ったピース同士のようにピッタリとハマっていた。ホスピタリティに溢れている良い人を演じている時の唯は僕の欠点を完全に補完できているが、その本性は僕みたいな社会不適合者と何ら変わらないのが彼女の面白いところだ。まともな人とまともでない人の両面を兼ね備えている。故に相手の気持ちには物凄く敏感だ。故に彼女は誰とでもすぐに仲良くできるのだ。


 ただの八方美人じゃない。彼女は人を心地良くしながら自分を押し通す天才なのだ。数々の迫害に対して文句1つ言わないのも人格者と思わせるための術。たとえ猫を被っているだけであったとしても、自分より相手の気持ちを優先できる人は間違いなく良い人だ。


 そんな唯が恋人で本当に良かった。相手が何を考えているのかを全部知った上で、それでもなお好きだと言い切れるだけの自信がある相手のことを……恋人と呼ぶのではなかろうか。


 結局のところ、人間は常に本音で生きているのだ。


「どっちも本当の自分ですか」

「僕はいつもの唯も好きだけど、接客してる時の唯も好きだ。唯は他人がいる時の自分をコインの表側って言ったけど、僕に言わせりゃどっちもどっちだ。人間の性格を裏表だけで判断する指標自体が間違いだと思う。それだったらまだサイコロの方がしっくりくる。人間には色んな側面があるんだからさ」

「あず君は哲学者ですね」

「周りが思考停止してるだけだ」

「そう考えると、世の哲学者たちは、悪魔の洗脳を免れた人たちなんでしょうね」

「ふふっ、そうかもな」


 唯と風呂で語り合った後、同じ部屋で寝ることに。まだ17歳の女子と一緒に寝ることには抵抗があったけど、彼女がここまで真剣なのに、こっちがその真剣さに応じないのは申し訳ない。


 唯のプロポーションは完璧だ。女のお手本と言ってもいい。色白で可愛さと美しさが見事なまでに調和されている顔、形も綺麗で大きさも張りも艶もある胸、細く力強いカーブを描いたくびれのある腰、丸く柔らかく引き締まった尻、細長くしなやかな脚。体型を維持するのに相当苦労したはずだ。僕の部屋には動画制作に必要な環境が全て揃っている。カメラの死角にベッドもある。僕がいつも仕事をしている場所で恋人と寝るなんて、まるで社内恋愛みたいだけど、一応社宅なんだよな。


 唯はパジャマに着替え、同じベッドに入った。ダブルベッドじゃないから距離が近い。ゆるふわで少し薄い色の茶髪からは、仄かに花のような良い香りがする。彼女の髪は腰まで伸びていた。


 翌日――。


「お兄ちゃん、何で唯ちゃんと一緒に寝てるの?」


 いきなり璃子の声が聞こえた。僕が目を開けると、そこには既に着替えまで済ませた璃子が汚物を見るような目でこっちを見ながら立っている。


「――い、いやっ、違うんだ! これは訳があって!」

「あず君……どうしたんですか? ……璃子さんっ!」


 僕の声で唯が目を覚ますが、璃子の姿を見た瞬間一気に目が覚める。僕も唯も気まずい。


 璃子が僕の部屋に入ってくるのは想定外だ。


「どういうことか説明してもらおうかな」

「他の人には内緒だぞ」


 唯と真剣交際をしていること、バリスタ甲子園が終わってから交際を始めたこと、彼女を一夜にして大人の女性にしてあげたことなどを全て白状した。


 僕はぐったりしていたが、唯の肌はつやつやしていた。


「まっ、おおよそ察しはついてたけど、お兄ちゃんと唯ちゃんが恋人同士だったとはねー。誰ともつき合いそうにないのに、先越されちゃったかー」

「璃子さん、ずっと黙っててすみませんでした」

「別にいいけど、もしかして邪魔されると思ったから伏せてたの?」

「はい……あず君を狙う女性がとても多いので」

「お兄ちゃんって結構モテるからねー。清潔感あるし、顔も可愛いし、スタイルも良いし、こう見えてお店に来るお客さんのことをちゃんと考えてるし、創業してもう8年経つけど、未だにモンスタークレーマーと出会ったことがないくらい強運だし、WBC(ダブリュービーシー)で優勝してからは周りの目も変わったし、お兄ちゃんが稼いでいることもみんな知ってるし、確実にマークされていたかもね」

「私はお金には興味ないですよ。あず君が貧しかった頃からずっと好きなので」

「知ってる。今更疑う余地なんてないでしょ」


 何だかんだ言っても、結構唯のこと見てるんだな。


 璃子はうちの役員に就任してから仕事尽くしだ。人を用いることにおいては璃子が勝る。だが決断することにおいては僕が勝る。故に璃子は雇われる側よりも雇う側の方が向いていると感じた。


「で? 今度はどれくらい伏せるつもりなの?」

「みんなが僕を忘れた頃かな」

「早く公開しちゃった方が気が楽だし、周りの人も唯ちゃんならあっさり諦めると思うけど、ずっと伏せたままになりそうだね」

「そうでもねえよ。世の中の流行ってのは必ず変わるものだからさ。それまでずっと辛抱強く待つことにする。それに僕、結婚はしないから」

「はいはい。あくまでも世間には屈しないと」

「何の信念もないのに結婚や就職をする人は、同調圧力に負けた人だ」

「憎まれ口を叩くところさえなければ完璧なのに」

「完璧なんて退屈なだけだ」


 僕と唯は共に同じヘッドに入ったまま璃子と話している。出たくても出られない状態だ。


 璃子が部屋から出ていき、店の準備を始めると、僕らは再び口づけを交わすのだった――。


 7月上旬、WCIGSC(ワシグス)優勝の影響からか、アイリッシュコーヒーが爆売れする。


 真理愛の店を宣伝していたこともあり、優勝を決めたアイリッシュコーヒーとマンハッタンコーヒーを共有し、それぞれの店舗で売ることに。元々は真理愛のアイデアから生まれたコーヒーカクテルだ。コーチとしてこの上なく貢献できた。ジャコブとは和解したらしい。問題は真理愛の母親だ。彼女は真理愛の独立に反対している。何だかんだ言っても、結局は子離れができていないだけだ。


 7月中旬、久しぶりに真理愛の店、オーガストへと赴いた。


 店が終わった直後ということもあり、僕はすっかりヘトヘトになっていた。うちに来れない連中はここで世界一のアイリッシュコーヒーを味わっているわけだ。


「いらっしゃいませ」

「繁盛してるみたいだな」

「ええ、お陰様で。この前大会で休んでいた分をあっという間に取り返せました。アイリッシュコーヒーとマンハッタンコーヒーを淹れましょうか?」

「ああ、頼むよ」


 真理愛は僕がWCIGSC(ワシグス)でやってみせたのと全く同じ手順で、2種類のコーヒーカクテルを完成させていく。本当にコーヒーカクテルが好きなんだな。


「お待たせしました。あず君ほどうまくできてるか分かりませんけど」

「どうかな。真理愛が出ていたら、一体どうなっていたんだろうな」

「確かめてみたいですね」


 音がするくらいに冷え切ったこのマンハッタンコーヒー、僕が淹れたのとは少し違う味わいになってるけど、これはこれで凄く美味い。彼女らしさが出ている。僕が初めて璃子に店を任せた時も、彼女たちにしか出せない味で客の舌を満足させていたのだろうか。それなら任せて正解だ。


 コーヒーを淹れる作業は、もっとみんなに任せてもいいのかもしれない。


 味わいが違うとは言っても、舌が肥えている人が僅かに感じるくらいの違いだけど。


 アイリッシュコーヒーに至っては真理愛の方がより洗練されている。アルコールの知識とバーの技法で差がついている。僕にはそれがすぐに分かった。この差はそう簡単には埋まらないのだろう。


「真理愛、次のJCIGSC(ジェイシグス)に出る時、コーチやろうか?」

「いえ、大丈夫です。コーチは別の誰かに頼もうかと思います。あず君はバリスタオリンピックに向けたコーヒーの開発と研究に没頭するべきかと」

「分かった。真理愛はアルコールに詳しいからさ、コーヒーに詳しいバリスタをコーチにするのがベストだと思う。でも何で没頭するべきって思うわけ?」

「来年にはバリスタオリンピックの選考会が始まります。あず君はずっと他の大会で準備不足だったと聞いていたんです。特にコーヒーカクテル部門が課題だったとか」

「あー、でもコーヒーカクテルはもう習得できたから、少なくとも昔よりは自信がついた。残りの課題も徹底して究めないとな……大舞台のために」


 真理愛がそこまで考えてコーチを遠慮するとはな。それが理由なら悪い気はしない。


 真理愛の店、オーガストは狭いのだ。10人が座れるくらいの店で、たった1人のバリスタが次々とコーヒーカクテルを淹れていく。この時はあまり話せなかった。珍しく繁盛しているのか、他の客からは何度も話しかけられていた。性格良し、ルックス良し、スタイル良しの3拍子だ。


 何度かナンパする客もいたが、真理愛は頭を下げながら丁寧に断っていた。


 真理愛も真理愛でかなりモテることの証明だ。これを機に常連が増えてくれるだろうか。


 僕は親のように真理愛の心配をしながらも、オーガストを後にするのだった。

気に入っていただければブクマや評価をお願いします。

読んでいただきありがとうございます。

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