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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第6章 成長するバリスタ編
129/500

129杯目「囚われのプリンセス」

 6月上旬を迎え、また夏がやってくる。この季節になると、相変わらず天気が不安定になる。


 23歳の誕生日を迎え、ファンたちから祝ってもらっていた。酒が欲しいと言っていたため、たくさんの種類の酒がプレゼントとして家に届いていた。


 同い年の連中はみんな大学を卒業した。


 ここまでに7年分のキャリアで差をつけているが、先に社会を経験している分こっちが断然有利だ。果たして、7年もかけて得た学歴がどこまで意味を成すのか、答え合わせが密かな楽しみである。


「いらっしゃいませ」


 唯が来客に声をかけた。入ってきたのは真理愛だった。この日は雨が降っており、あまり人が来なかったこともあり、1人スポットライトを浴びたかのように目立っている。


 真理愛とはあれからずっと連絡を取らずにいた。


 どこか気まずい気持ちがあったのか、メールすら送れない日々が続いていた。彼女から授かったレシピを元に、新たなコーヒーカクテルを開発していた。真理愛の店舗、オーガストの看板メニューの材料であるベルモットが指定アルコールになっていたのは、もしかしたら運命なのかもしれない。


「真理愛、どうしたの?」

「あの、この前は質問に答えないまま帰ってしまってすみませんでした!」


 真理愛が雨でずぶ濡れになった傘を持ったまま頭を下げてくる。


 ――ずっと気にしていたのか?


 答えられないなら無理に答える必要もない。だが彼女の顔は罪悪感に満ちていた。答えずにはいられない顔だ。ずっとそれで悩んでいるというなら、彼女の悩みを断ち切ってやりたい。


「今日の午後6時、うちに来てくれませんか?」

「別にいいけど、何で?」

「――大事な話があるんです」

「分かった。必ず行く」

「ではお待ちしています。ここでお話しするのは勇気がいるので」


 真理愛が言い残すと、風の如く去っていった。今日は水曜日、オーガストは休みだった気がするが、客が来ない日に来てほしいってことは、2人きりでしか話せないってことか。


「お兄ちゃん、夕食どうする?」

「今日は外で食べてくる」

「分かった。くれぐれも真理愛さんに失礼なことしちゃ駄目だよ」

「分かってるよ。僕がWCIGSC(ワシグス)を制覇するには真理愛の協力が必要不可欠だ。だから彼女の問題も解決してやりたい」

「最近色んな女性に手を出してますよね」

「誤解を招く言い方はやめてくれよ」


 僕が愛してるのはずっと唯だけだ。


 切実な想いを伝えようと、唯に向かってウインクを飛ばした。


 唯が顔を赤らめながら笑顔で返してくる。やっぱこの顔なんだよなー。見る度に嬉しくなる。外とは対照的に明るい店内の照明が彼女の笑顔をより一層引き立てている。


 まずい、璃子がこっちに気づいた。交際を隠し続けるのも大変だ。


 午後6時、店の営業を終えた僕はオーガストの扉を開ける。


 店内は相変わらず少し薄暗く、暖色系の証明がムードを醸し出していた。清掃も隅々まで行き届いているようで、床もテーブルも照明を受けテカテカと光っている。


 カウンター席に座ると、奥から物音に反応した真理愛がやってくる。


「真理愛、約束通り来てやったぞ。大事な話って何だ?」

「あず君、この前私に、バリスタになりたいのか、ソムリエになりたいのかを尋ねましたよね?」

「ああ、やっと答える気になったか?」


 真理愛は口を噤んだまま下を向いている。


「私は……バリスタになりたいです」

「なら続けりゃいいじゃねえか」

「それは限界があります。この店が親の資金提供で建った店である以上、私には選択権がないんです」

「なるほど、継続しようにも3年経てばお取り潰しか。そもそも真理愛の親父ってどういう人なの?」


 さりげなく尋ねると、真理愛は何かを覚悟したように俯いた。


 キッチン側にある椅子にゆっくりと腰かけ、静まり返った。ずっと気になっていた。親父のことを偉大と言ってしまうくらいだ。尊敬の念を抱くと同時に脅威とも思っているはずだ。


「私の父は世界中にレストランチェーンを構える企業の社長です。今もスイスにある本店で会社の経営とソムリエの仕事をしています」

「えっ、じゃあ真理愛って、社長令嬢だったの?」

「はい。そういうことになりますね……」


 早速真理愛の父親をスマホで調べた。


 ヨーロッパ中に店舗があるレストランチェーンの社長兼ソムリエなのは本当のようだ。


 プロフィールにもその詳細がしっかりと書かれていた。最初は無名のソムリエ時代を過ごし、先代からたった1軒の小さなレストラン会社を譲り受けたことを皮切りに、あっという間にチェーン店を構えるほどの世界的企業を築き上げ、一方でソムリエの育成にも心血を注いできた叩き上げの社長である。


 ――そりゃ偉大とも呼べるわな。


 真理愛はそんな彼の一人娘であり、両親からはソムリエとして後を継ぐことを期待されている。


 真理愛の母親は東京でソムリエ学校の校長を務めている。


 日本語が堪能なのは、小学生時代からずっと日本にいたからだとか。両親が共に実績の持ち主であることに加え、後を継ぐことを期待されているとなると、その重圧は察するに余りあるものだ。真理愛は僕に憧れてここに来たというよりは、親から逃げてきたと言った方がいいのかもしれない。


 真理愛がマンハッタンコーヒーを一気に飲み干した。


 だが酒には強いのか、なかなか酔わない。羨ましい限りだ。


「逃げてきたんだろ?」

「――はい」

「僕と一緒だな。独立したのは親の言いなりになりたくなかったからで、もし親元にいたら、進学か就職する破目になるって思った」

「進学や就職だけならまだマシですよ。私は社会に出た後の将来まで決められてるんですから。あず君ラジオで言ってましたよね。やりたいことを言えない人が1番不幸だって。私はお金に困ったことはありませんし、欲しいものは全部買ってもらいましたし、このコーヒーカクテル専門店も両親から提供してもらいました。でも幸せかと言われると……胸を張って言える気がしません」


 真理愛もまた、親が敷いたレールの上を歩かされている。どうしてなのか、親は自分の子供を思い通りに育てようとする。意識的であれ、無意識的であれ、大半の家庭に対して言えることかもしれない。


「だったら言えるようになれよ」

「えっ!?」


 真理愛はビクッと怯えたように反応する。


 威厳のある親に逆らうのは大変なことだが、僕には勝算があった。真理愛の親父も僕と同様に成り上がりの人間だ。故に実績を重視する性格であることは間違いないはず。ならば解決自体は簡単である。


「真理愛、僕と一緒に世界一のコーヒーカクテルを作ろうぜ。ただのコーチじゃなくて、2人で1人の日本代表として世界一を取るんだ。そうすれば真理愛の親父も納得してくれるんじゃねえか?」

「父をコーヒーカクテルで説得するんですか?」

「そうだ。下積みで成り上がってきた人であっても、実績の前には何も言えないはずだ。この手の人間を納得させるには、実力を示すしかないと思うぞ」

「……ですよね」


 真理愛は落ち込み気味な顔のまま、今度はウイスキーをグラスに注ぎ、自らの喉を潤した。


 ふと、真理愛が席から立ち上がり、いつものマンハッタンコーヒーに使われているスイート・ベルモットの代わりにラムを投入する。他の食材は変わらない。


「知っていますか? マンハッタンはウイスキーの代わりにラムを使うとリトル・プリンセスに名称が変わるんです。不思議ですよね。一部の食材が変わっただけで、全く違う名称と味わいになるなんて」


 自分で飲むかと思いきや、今度は僕の目の前にリトル・プリンセスを軸としたコーヒーカクテルをそっと僕の前に置いた。僕はグラスを手に持ち、勧められるまま飲んだ。


 ……この前飲んだマンハッタンコーヒーと全然違う。他は同じ食材のはずなのに。甘さも酸味も辛さもあるが、それら全てのバランスが整っている。


 彼女はまさしく囚われのリトル・プリンセスだった。僕には彼女が自分を救い出してほしいと味で訴えているように感じた。真理愛の中では、もう答えが出ているようだった。


「真理愛、またうちに来てくれ。いつでも待ってる」

「分かりました……お代は結構です。時々あず君の試作品をご馳走になってますから。予選用のコーヒーカクテル、私も考えておきます」

「ああ、助かる」


 6月中旬、真理愛と共に3種類のアルコールを使ったコーヒーカクテルを開発し続けた。


 真理愛がいない時はそれぞれが自宅で開発を続けた。今までは減点を減らすことを重視したプレゼンだったが、今回は加点を狙いに行く強気のプレゼンで挑むことに。コーヒーでは勝てても、アルコールでは彼らに及ばないと感じた。加点のキーとなるのはベルモットだ。残り2種類のアルコールはどちらを当てられても問題ないよう、伊織のアイデアを採用することに。


 そして――。


「! これ美味しいです。いけますよ」

「ああ、これならいけると思う」


 1つは真理愛の看板メニューのアイデアを元に作り、もう1つは伊織のアイデアを元に作った。


 辺りはいくつものカクテルグラスがあり、それらを璃子と唯が丁寧に洗っている。僕と真理愛は開発続きでクタクタだ。真理愛は店を休んでまで僕につき合ってくれていた。


 どうしても親から独立したい意図が見て取れる。


 6月下旬、唯と真理愛と共にWCIGSC(ワシグス)の舞台、ニースまで飛んだ。飛行機にはもう慣れっこだった。唯にはサポーターとして、真理愛にはコーチとしてついてきてもらった。


 結局、僕が思いついた食材によって開発したコーヒーカクテルとなってしまったが、真理愛がアイデアを出してくれなければ、このコーヒーカクテルにはまず辿り着けなかったのだ。


 事実上の共同制作と言ってもいい。


 数時間後――。


 大会3日前、僕らを乗せた飛行機がニースに着陸する。


 ニースはフランスの東南にある地中海沿いの町である。地中海のコート・ダジュールに面しており、世界的に有名な保養地、観光都市である。今はフランス領だが、歴史的にイタリア文化圏に属した時代が長かったため、言語、文化の面ではフランスよりイタリアに近い特徴がある。


 WCIGSC(ワシグス)が迫っていることもあり、観光客も多かった。


 大会は3日前から1週間前に着くのが無難である。まずは現地の雰囲気や気候に慣れておいた方がいいと考えた。それだけの時間があれば、余裕を持って旅の疲れを癒せるのも大きい。


 日本で使っていた牛乳を穂岐山珈琲関係者から受け取った。日本の牛乳はさっぱりしていて固まりにくいため、最後までラテアートを描きやすい。ヨーロッパの牛乳は濃厚で固まりやすいため、アイリッシュコーヒーに向いている。牛乳選びは重要だ。


 アイリッシュコーヒーに使われる牛乳に拘った。国産の牛乳の中からよりクリーンで脂肪分が多く、さっぱり感もある牛乳を見つけた。僕としてはこれを譲りたくはなかった。以前牛乳を現地調達をした時はフレーバーの調整が大変だった。課題となっている食材は全て揃った。後は調整を重ねるだけだ。


 唯はこの時もサポーターとして活躍してくれた。


 僕より力持ちなこともあって荷物を持ってくれたし、リハーサルの場所まで確保してくれた。


 ――もしかしたら、僕より仕事ができるんじゃないか?


 ひたすらリハーサルを行い、予選用の3通りもある指定アルコールを使ったコーヒーカクテルともう1つのコーヒーカクテル、決勝用の2種類のコーヒーカクテルの試作してから試飲する。


 唯はいつの間にか真理愛とも仲良くなっていた。ホテルには2部屋用意され、僕は1人部屋であり、唯と真理愛は一緒の部屋だが、調整の時は僕の部屋へと集まってくる。


 両手を頭の後ろに回し、ボーッと天井を見上げながらベッドに横たわった。唯と真理愛は今までどうやってコーヒーと向き合ってきたかを語り合っていた――。


「コーヒーにもお酒にも牛乳にも色んな種類があって、組み合わせによって、唯一無二の味になるんですよね。まるで人間みたいです」

「そうですね。人間も生まれ持った才能、育った環境、努力のやり方、全てに違いがあるので、どんな人間になるかなんて自分でも分かりませんけど、長年熟成させたワインが美味しくなるように、社会の荒波にたくさん揉まれた人は、素晴らしい人になると思うんです」

「真理愛さんならきっとなれますよ。ワインが好きなんですね」

「はい。私のワイン好きは父の影響なんですけどね」


 ということは、親のことを満更嫌っているわけでもなさそうだ。


 尊敬はしている。だが自分の考えを押しつけないでほしい。真理愛は面と向かってそう言いたいのかもしれない。僕は真理愛の親父の気持ちが容易に想像できる。


 成り上がってきた人って、自分は不安定な生活に強いからそれでもいいけど、他の人には安定した生活をしてほしいという無意識な願望があったりする。


 つまるところ、彼らは自分以外の人を本質的な意味で『信任』できないのだ……たとえそれが、家族であったとしても。信任できないからこそ、自分が敷いたレールの上を歩かせようとするし、それが正解であると強く考えてしまう。しかも彼ら自身が辛酸を舐めてきたために、尚更身内には苦労させたくないと思ってしまう。かつての僕もそうだった。今でこそ璃子に店を任せることができるが、昔は店を任せるという発想すらなかった。信用はできても、信任はできなかった。


 だからこそ、不本意ではあるが真理愛の親父の気持ちが痛いほど分かる。


 真理愛は僕の活躍に『影響』されて今の仕事をしていると言ったが、僕を知らないままであれば自分を押し殺してソムリエになっていたのだろうか。僕でも誰かを突き動かせるのかもしれない。


 本気で変わりたいと思っている誰かを――。


 大会2日前、プレゼンのリハーサルをするものの、8分で終わらせられないことに気づく。


 競技時間の設計ミスがここにも響いた。


 条件が同じとはいえ、あまりアルコールの知識がない僕には大きなハンデだ。


「このままじゃ減点だな」

「10秒くらいだったらいいんじゃないですか?」

「駄目だ。どのバリスタ競技会でも、歴代チャンピオンはちゃんと時間を守ってるぞ。些細な減点も許さないっていう意識を持てるかどうかはかなり大きい。プレゼンで言いたいことは山ほどあるけど、もう少し伝わる言葉を厳選しないとな」

「ふふっ、妥協しないところはあず君らしいですね」

「昔はファイナリストになれたらそれでいいと思ってたけど、1番以外は名前すら覚えてもらえないことに気づいた。僕が出ていた時のWBC(ダブリュービーシー)ファイナリストの名前言えるか?」

「……分かりません」

「それ全部言えるのって、コーヒーファンの中でも一部の人だけじゃないですか?」

「その通り。大会に興味のないコーヒーファンとかコーヒーファンでもない人は1位しか分からない」


 実際、順位と知名度には相関関係がある。大半の人は1番にしか興味がない。それ以外が無価値とは言わない。しかし、1番でなければ雑誌にすら載れないこともザラである。


 そのことを知った僕は、出るからには1番を目指すようになった。敗北なんて知りたくもない。飯を食えない大人たちの成れの果てを見てしまってからは、負けるのが怖くなった。


「あの、実はこの大会に私の父を招待しているんです。私があず君とアイデアを出し合ったコーヒーカクテルが世界大会の舞台で使われるって思うと、つい興奮しちゃって、それで両親を招待することになったんですけど、大会が終わってからでいいので、会っていただけないでしょうか?」

「別にいいけど」

「あのー、今のあず君にプライベートな話は控えていただきたいんですけど――」

「問題ない。プライベート上等。それくらいでビビるようなら、大会に出ようとは思わない。僕も一度会ってみたいって思ってたし、運が良かった」

「では大会後のスケジュールを組んでおきますね」

「ふふっ、唯ちゃんってあず君のマネージャーみたいですね」

「マネージャーみたいなものですよ。参加者の健康管理もサポーターの仕事ですから」


 健康管理……そうか、唯がいつも健康に優しい料理ばかり作っていたのは、僕の健康を気遣ってのことだったのか。彼女をサポーターに選んだ僕の人を見る目は卓越したものだったらしい。


 段々とサポートの質が上がってきている。競技者のように目立つことはない。だがいないと競技者は準備すらできない。それがサポーターというものと改めて思い知る。唯は縁の下の力持ちだ。


「唯さんはどうして、サポーターを目指そうと思ったんですか?」

「最初はあず君と一緒にいたいと思って、あず君がWCTC(ワックトック)でロンドンまで一緒に行ったんですけど、親の実家が近くにあって、カッピングの練習をさせるために、うちに泊めたんです。お陰であず君は練習不足にならずに済んだと言ってくれました。しかもあず君が優勝した時は、私も人の役に立てるんだと思って、凄く嬉しい気持ちになったんです。私はあず君のサポーターになるために葉月珈琲に就職したんです。普段はバリスタですけど」

「そんなに早い内から、やりたいことを見つけたんですね」

「はい。邪魔する人もいなかったので」

「……」


 唯が最後に言った言葉が地味に刺さったのか、真理愛は少しばかり落ち込み気味の顔になる。唯は真理愛の事情を知らない。その目に見えない刃物に、真理愛は人知れず傷つくのだ。


 大会前日、予選用のメニューの最終調整を終える。大会は1日目と2日目に予選が行われ、3日目に決勝が行われる。幸いなことに、僕は1日目の競技者だ。1日目の競技者であれば2日目に余裕を持って決勝用の調整ができる。2日目に競技者になっていた場合は、結果を見てから調整すればいい。


「じゃあ、2日目は決勝用のコーヒーカクテルの調整をするんですか?」

「うん。今考えてるところでさ、決勝までいけば、調整の差で有利になると思ったから、2日目は朝から調整しようかなって」

「私は反対です」


 唯が少し怒り気味の顔で真っ向から反論する。


「どうして反対なんですか?」

「あず君は他の人の競技から学ぼうとは思わないんですか?」

「そうは言っても、この競技は自分との戦いだぞ」

「あず君言ってましたよね。常に学ぶ姿勢と度胸を持つべきだと。今のあず君にはそれがまるで感じられません。調整時間を増やそうと思っているのも、自信のなさからじゃないんですか?」

「それは――」


 答えられなかった。完全に図星だ。どうしようもないくらいに焦りが出る。


 アルコールという未知の分野を知れば知るほど、自分の無知を思い知らされる。


「あず君は去年までは他の競技者のアイデアを取り入れたり、出場したバリスタから多くを学ぼうと交流したり、ビデオで他の競技者の競技を見たりしていたじゃないですか。アルコールが入っただけで、そこまで弱気になる人とは思いませんでした」

「唯ちゃん、言い過ぎですよ。あず君だって頑張ってるのに、そんな言い方ないと思います」

「私は……そんな弱気なあず君なんて見たくないです」


 唯が言い残すと、自分の部屋へと戻っていった。何やらずっとイライラしている様子である。でも言っていることは至って正論だ。僕は競技に夢中で、他のバリスタから学ぶことを忘れていた。


 勢い良く閉まった扉を、ただ眺めていることしかできなかった。

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