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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第6章 成長するバリスタ編
124/500

124杯目「まだ知らない世界」

 予選は終わった。後は結果を待つだけだ。


 コーヒーカクテルの影響なのか、僕も拓也も段々と沼にハマるように酔っていく。


 やっと酒を飲める歳になったのだと、改めて思い知る。下戸だからあんまり飲めないが、ホッと一息吐きたい時くらいは別にいいとすら思える味わいだ。アルコールを飲んでほろ酔いになっていく内に、拓也は本音を吐き出すようになっていった。活躍したいのに活躍できないもどかしさがあるようだ。


 僕がニートになっていたら、こんな風に活躍したいとか思っていたのだろうか。


 拓也は過労で倒れるまでは普通の人だった。いや、普通の人でいることを強いられていた。普通の人になるメリットと言えば、精々変な目で見られないことくらいだが、たった1つのしょうもないメリットのためだけに、他の多くのものを犠牲にしてきたことのあほらしさに気づいた。レールに乗っている内は分からない。それが唯一正しい道だと教えられていた部分もあるだろう。


 拓也の子供の頃の将来の夢は、プロ野球選手になって富も名声も女も全て手中に収めることだった。だがその欲望に才能と努力がついてこなかった。高校の時までは野球部で過ごしていたが、自分よりも才能ある連中を目の当たりにして諦めた。体力自慢を活かせる仕事に就いた結果が過労入院だ。


 こういう物欲主義に満ちた夢を持つ人の気持ちが分からない。


 お金にも評判にも興味がないし、恋愛も良い人がいればラッキーくらいの感覚で生きてきたし、実はあんまり欲がなかったりする。競争に参加しなくてもいい社会だったら、僕はバリスタにすらならなかったかもしれない。コーヒーを淹れながらのんびり毎日を過ごしていた姿が容易に想像できる。競争社会は人の潜在能力を無理矢理引き出すためにあるのかもしれない。


 拓也が言うには、僕のように物欲が欠如した人間は珍しいようで、僕は昔からこれでもかってくらい欲しいものがなかった。誕生日プレゼントもとりあえず目に入った物を答えていただけだったし、今では必需品のエスプレッソマシンもパソコンも、全部必要に迫られて持っているだけである。


 強いて言うなら、僕が欲しいのは平穏な日常くらいだ。


 スーツケースを2つも持ち運んでいて思ったことがある。


 僕に所有物はいらない。何なら今持っている物全部が借り物でもいいくらいだ。何1つ物を持たないのは気楽でいい。物を持ってしまうと人生が重たくなる。管理するのもめんどくさいし、家を会社名義で借りたのもそのためだ。借り物だったらいつでも手放せる。僕は断然賃貸派だ。健康で文化的な最低限度の生活ができれば、それ以上は何も望まないのが正直なところである。


 後日、JCIGSC(ジェイシグス)予選通過の通達が届いた。


 これで僕は2月に東京で行われる決勝へと駒を進めた。決勝は東京予選と神戸予選の上位2人の合計4人で行われ、最もスコアの高い者が優勝である。


 2月上旬、真理愛がうちにやってくる。


 いつもはバーテンダーが着ているような超真面目そうな格好なのに、プライベートではかなり可愛い服を着てくる。このギャップがたまらなく僕の心を擽るのだ。


 彼女がうちに来るのはオーガストの休日である水曜日、うちの店が閉まった後の数時間のみ。基本的にアイデアを出してもらったり、僕が開発したコーヒーカクテルを試飲してもらう。


「次の課題はアイリッシュコーヒーとオリジナルコーヒーカクテルの2つで、オリジナルの方はホットでもコールドでもいいんですよね?」

「うん。でもこの大会の鍵を握るのはアイリッシュコーヒーだと思ってる。まずはアイリッシュコーヒーの最適化に尽力するべきだ。オリジナルの方は予選で使ったものを使う」

「どうしてアイリッシュコーヒーだけなんですか?」

「明らかに昔の国内予選よりも期間が短い。昔だったら予選と決勝の間に2ヵ月は空いてたけど、今回は大会の規模が小さいのか、アイリッシュコーヒーの開発期間をあんまり考慮していないのか、比較的早く終わる仕様になってるんだよなー」


 説明を終えると、真理愛は不安そうな顔で僕を見つめる。


「――あの、アイリッシュコーヒーだけじゃなくて、もう1つの課題もやりませんか?」

「……えっ!?」

「あず君の言いたいことは分かります。でもここで課題を疎かにするようでは、日本では勝てても世界相手には勝てない気がします」


 ――何この人? 割としっかりしてるな。言われてみればそうだ。やるからには徹底しないと。


 1週間後とかならともかく、まだ1ヵ月ほどあるんだし、やってみるか。


「何かアイデアはあるの?」

「今はありませんけど、私も一緒にアイデアを考えます。乗り掛かった舟ですから、最後までつき合わせてください。この大会の間は、2人1組なんですから」

「真理愛……」


 僕らが店内で話していると、客席を拭き掃除していた唯がボーッとしたような顔で度々こっちを見ているが、別に恋人同士じゃない。あくまで大会を勝ち抜くためのビジネスパートナーだ。


 今度は羨望の眼差しで僕をジッと見てくる。何か言いたそうだ。のっそりと唯のそばへ駆け寄った。真理愛はカウンター席から僕らの様子を不思議そうに眺めている。


「どうかしたの?」

「私も一緒にアイデアを考えたいんですけど」

「唯はまだ未成年だろ。酒も飲めないのに、どうやってアイデア出すんだよ?」

「お酒が飲めなくても、アイデアを出すくらいならいいじゃないですか」

「……まあいっか。唯は香りのアイデアを頼む」

「はいっ! 分かりましたっ!」


 急に張り切り出したな。そんなに手伝えることが嬉しいのか?


 2月中旬、真理愛にアイリッシュコーヒーの試飲をしてもらう。


 アイリッシュコーヒーはコーヒー、ウィスキー、シュガー、生クリームのみで構成されているドリンクであり、一見固定化されているようにも感じるが、これら4種類の食材にも種類があり、その組み合わせは無限と言っていい。見た目の芸術点も評価される。生クリームとコーヒーが明確に分かれていることが重要であり、満点を取るにはコーヒーの濃い茶色と生クリームの純白さとの間に滲みが無い明確さが必要だ。もし生クリームとコーヒーが完全に混ざり込んでいる場合は大幅に減点される。


 コーヒーにシェイクした生クリームを注ぐ場合、スプーン、ステンレスザル、竹べらなどをクッションのように使ってフロートさせるのだが、僕はより使いやすい竹べらを使うことに。他と違うのは絶妙に角度を変えやすい点だ。これで生クリームをより一層フロートさせやすくなる。


「……どう?」

「見た目もハッキリとした境界線ができてますし、味は特に問題ありません。ただ――」

「ただ……何?」

「何というか、味に決定打がないんです。なるほどなって思うような味わいで、意外性やインパクトには欠けている気がします」

「アイリッシュコーヒーって難しいんだな」

「ですね。私も習得に時間がかかりましたから」


 唯はアイリッシュコーヒーの香りを嗅ぎ、シェイカーに入っている生クリームを指に少し落として舐めている。香りと生クリームだけで分かるのだろうか。


「この生クリーム、ちょっと柔らかいですね。エチオピアのモカコーヒーを使っているなら、もう少し生クリームを濃厚にしたらいいんじゃないですか?」


 確かに生クリームにも牛の種類によって様々な質感のものがある。


 つまり乳脂肪分がもう少し高いものを使えば、このアイリッシュコーヒーの味の濃さに見合った生クリームになるかもしれない。コーヒーによって最適な生クリームの種類も変わるのだとしたら……。


「ウイスキーと砂糖は何を使ってるんですか?」

「ピュアポットスチルウイスキーとシュガーシロップだけど」

「シュガーシロップにするのでしたら、モルトウイスキーの方が良い気がしますね。中でもピート由来のスモーキーフレーバーを感じないものを使えば、コーヒーが持つフレーバーを阻害せずに済むかと」

「分かった。やってみる」


 しかし、実験は失敗に次ぐ失敗だった。


 全くうまくいかない。コーヒーはともかく、アルコールのコントロールが難しい。なかなか心に響く味を再現できない。かつてこれほど苦戦したことがあっただろうか。


 ダブリンでアイリッシュコーヒーの修行はしたものの、単に決まった食材を正確に投入できるようになったくらいで、食材を自分で決めることはしなかった。多少の組み合わせは教わったものの、ここまで極限なところまでは教わっていない。つまり、ここからは自分でひたすらやるしかない。


 1杯あたりのテイスティングの量こそ少ないが、この時の僕は二日酔いを覚悟していた。倒れたら元も子もないが、このまま何も進歩しないことの方がずっと嫌だった。もう何杯分テイスティングしたか分からない。小匙1杯ずつであっても、何杯も試飲すればただの呑兵衛だ。


 凡人と呼ばれている連中はここで諦めてきた。


 あともう少しで、大きな成功を掴めることに気づきもしないで。


 僕は諦めない。世界に通用するレベルの味を出せないのは、そっちの方向じゃ駄目というサインだ。研ぎ澄ませた五感を頼りに、1つ1つ駄目だった組み合わせを取り除いていく。


 そして――。


「――! これ美味しいです。これならいけますよ」

「だろ。僕がアイリッシュコーヒーで美味い味を出せなかった原因は、ウイスキーでもシュガーシロップでもクリームでもなく、コーヒーだった」

「コーヒーの方でしたか」

「カクテルにばっかり囚われて、コーヒーのフレーバーを中心とすることが頭から抜け落ちてた」

「あず君はアルコールの知識を得るために、ずっとパソコンと睨めっこしてましたもんね」

「バリスタたるもの、コーヒーの声には常に耳を傾けないといけないのにそれができてなかった。彼女はこれが自分には合わないって味で教えてくれた。味がいまいちな時点で気づくべきだった」

「でもちゃんと気づけたじゃないですか。だからこうして……私よりもずっと美味しいアイリッシュコーヒーを淹れることができたんですよ。悔しいですけど」


 決勝用のコーヒーカクテルを作り続けてから何日も過ぎていたが、僕はようやくその味を真理愛に認められた。彼女は良くも悪くも正直だ。不味い味は不味いと言ってくれる。


 どんなに取り繕ったって、味は絶対嘘を吐かない。


 単にコーヒーに合った酒を選ぶというのではなく、コーヒーにフォーカスしたカクテルを作るべきだったのだ。そうでなければ、わざわざコーヒーを食材にする意味がない。カクテルを作るだけであればコーヒーなしでもできる。何故コーヒーを使うのか……それが問われている気がした。


 問題の解き方を知った僕に怖いものはなかった。


 2月下旬、JCIGSC(ジェイシグス)決勝が始まった。


 アイリッシュコーヒーもオリジナルコーヒーカクテルも真理愛と一緒に試飲したものを使うことに。大会の時期が思ったより早かったこと、開発の遅れによって、あまり多くのアイデアを試すことができなかった。最善は尽くしたが、この時ばかりは流石に負けを覚悟した。


 この大会はあまり知られていなかったのか、会場にあまり人が来なかった。やはりコーヒーカクテルともなると、好きな人が限られてしまうのだろうか。


 真由、美羽、美月が応援に来てくれていた。


「それでは本日最後の競技者です。第4競技者、株式会社葉月珈琲、葉月珈琲岐阜市本店、葉月梓バリスタです。それでは本人のタイミングで始めてください」


 深呼吸を済ませ、その場に静止する。


「タイム。僕はコーヒーカクテルの世界に触れて分かったことがたくさんある。コーヒーのことは何でも知っているつもりだった。でもまだ知らない世界がそこにはあった。コーヒーカクテルは僕が井の中の蛙であることを教えてくれた。まずはアイリッシュコーヒーから作ろうと思う」


 最初にエスプレッソを抽出してそれを冷やしておく。アイリッシュコーヒーはホットドリンクだ。


 もう1つの課題はコールドドリンクが良いと感じた。


「アイリッシュコーヒーはコナコーヒーとモカコーヒーを混ぜ、シティローストで焙煎したブレンドコーヒーを採用した。アイリッシュコーヒーはウイスキーとシロップと生クリームの3つを加えるにあたって、これら3つの食材とシナジーのある組み合わせを探し続けた結果、このブレンドコーヒーに辿り着いた。苦味主体のブレンドコーヒーを使うことで、他の食材を使っても甘味が強くなりすぎず、ダークチョコレートのような深みのある味を出すことができる」


 ブレンドコーヒーにモルトウイスキーとシュガーシロップと熱湯を加えたものをワイングラスに注いでいく。そして国産牛から採れた牛乳から作った脂肪分多めの生クリームを冷やしておき、それをシェイカーの中に入れて数秒間シェイクし、竹べらをクッションとして使いフロートさせていく。


 脂肪分多めの生クリームは風味と粘性のバランスが良く、このアイリッシュコーヒーにとても適していると感じた。見る見る内に生クリームとコーヒーカクテルとの間に立派な境界線ができていった。


 もし混ざってしまえば、プロフェッショナルに淹れられたかの項目で減点される。そこだけは気をつける必要があったが、無事に2杯のアイリッシュコーヒーをセンサリージャッジに提供する。


「最初はコーヒーに合う酒を選べばそれでいいと思っていた……けどそれじゃ駄目だった。コーヒーが持つ潜在能力を引き出せるカクテルを作る必要があったことに気づかされた。そうでなければコーヒーが持つフレーバーを活かすことができない。課題を解決したことで、このアイリッシュコーヒーに辿り着くことができた。フレーバーはビターチョコレート、アフターにはスイートチョコレートの甘味を感じることができる。最初は上質な苦味があり、そこから徐々に甘味が効いてくるため、後味の良さを重視した味わいになっている。プリーズエンジョイ」


 今回は国産の牛乳を使えるし、これを試したいのもあった。


 僕が最も得意とするコーヒーカクテルはアイリッシュコーヒーだ。


「このゲイシャブレンドが持つ柑橘類とプラムのフレーバーを最大限に活かすべく、オリジナルのカクテルを作製した。プラムブランデーに温州蜜柑の皮を長時間漬け込み、柑橘系の香りや糖分をブランデーに馴染ませた自家製のオレンジキュラソーだ。これにゲイシャブレンドからフレンチプレスで抽出したコーヒーオイルを少し加え、そこにさっきの冷やしておいたエスプレッソを加えてよく混ぜる。これによってオレンジキュラソーに使った温州蜜柑が持つ柑橘系の風味、プラムブランデーが持つプラムの風味がゲイシャブレンドのボディと質感を引き上げてくれる」


 コーヒーとカクテルのシナジーを追求するのであれば、自分で焙煎したコーヒーを使うのが1番だと思った。シングルだと酒の味の複雑さについていけないと思い、カクテルと合わせる前提のブレンドコーヒーを採用した。このゲイシャブレンドは以前使ったものとは別のものだ。こっちはパナマゲイシャとエチオピアゲイシャのブレンドで、以前のものより味の複雑さやマウスフィールが増している。僕はこのエスプレッソキュラソー2杯をセンサリージャッジに提供する。


 エチオピアゲイシャはナチュラルプロセスで作られたコーヒーであり、ジャスミンのアロマ、プラムのフレーバーがあり、アフターには蜂蜜を感じる。


「エスプレッソキュラソーのフレーバーは、ベルガモット、プラム、アフターにはオレンジシロップとピーチキャラメルが楽しめる。プリーズエンジョイ。タイム」


 ふぅ、やっと終わった。今回も時間ギリギリだし、タイムは7分59秒だった。


 説明と清掃だけで時間を取られてしまう。やっぱりこの時間設定は問題だ。まだまだ言いたいことはたくさんあったが、いつか修正してくれることを祈るばかりだ。もし日本語でプレゼンをしていたら、説明不足による減点をされていただろう。たった1日のために多くの日々を費やす。それが大会というものである。大会はもはや僕の人生の一部になっていた。片づけは相変わらず大変だった。唯やボランティアスタッフの人がいなかったら、ここで力尽きていただろう。


 やはり大会は1人ではできないし、サポーターがいないと成り立たない。


 全員の競技が終わると、すぐに結果発表が行われた。


 どのバリスタも時間を気にした競技をしていたのか、動きがとてもキビキビとしていた。あれをいつもの店でやったら客が落ち着けない。あれはホスピタリティの項目で減点されるだろうな。


「ジャパンコーヒーイングッドスピリッツチャンピオンシップ優勝は……葉月梓バリスタです」


 ――良しっ、真理愛の言う通りにしてて良かった。


 決勝に残っていたバリスタは、いずれもどちらの課題に対してそれなりの工夫を施していた。


 もしアイリッシュコーヒーしか開発しなかったら負けていたかもしれない。彼女の目論見がうまくいったのか、僕は無事にJCIGSC(ジェイシグス)優勝を飾れた。試作品とは言っても、世界相手に用意したコーヒーカクテルだ。これを上回る人が現れなかったのは幸いだったと言っていい。


 WCIGSC(ワシグス)は6月にニースで行われる。


 それまでたっぷり時間がある。じっくりと新作のコーヒーカクテルの開発に専念しよう。


 会場まで来ていた美羽たちと穂岐山珈琲の本社で祝勝会を行った。


 真由も一緒にいたため、連れていくことに。


「あず君、優勝おめでとう」

「ありがとう。何とかやってのけた」

「僕、あず君が羨ましいよ」

「……何で?」

「だってさー、早い内から自分の得意が分かってるって凄いんだよ」

「好きなことに夢中になってるだけだ」

「楽しそうにコーヒー淹れてるよね」

「豆を砕いてからコーヒーを淹れるまでの工程がめっちゃ楽しいってだけ」


 コーヒーを淹れる作業をひたすら繰り返すのが凄く楽しくて、いくらやっても全然飽きない。でも大半の人にとっては苦痛らしい。他の人が苦痛だと思えるようなことを当たり前のように楽しめるのが才能なんじゃないかと思う。みんな取り柄とか得意とかを意識しすぎて、何も見えなくなっている。


 ――もっとシンプルに考えればいいのに。


 僕の場合は後がなかった。もうコーヒーしかないって気持ちでやっていた。


 中卒のポンコツで終わりたくない気持ちもあった。必要に迫られないと動けないのが人間の弱さだ。動いてないってことは、まだ追い詰められてないってことだ。


 真由はインターネットでテーマパークの魅力を広める仕事をしていた。ブログでテーマパークの最新情報を発信したり、テーマパークに遊びに行く動画を投稿するというものだった。大学は卒業する気でいるみたいだが、僕ならやりたいことが見つかった時点でとっとと退学していただろう。


 大学なんて、潰しが利く保険みたいなもんだろ。


 選択肢が広がるから大学までは行った方がいいなんて言葉を耳に胼胝ができるほど言われたが、僕としては選択肢なんてとっとと狭めてしまった方がいいと思っている。どうせできることしかできないわけだし、そもそも社会不適合者には、最初から選択肢なんてあってないようなもんだ。


 自分の信じた道を進む。どう考えてもこれ一択だろ。彼らが言う選択肢が広がるというのは、あくまでも就職の選択肢が広がるというだけで、どれも集団生活ありきのものでしかない。


 どこに行ってもつまらない連中にマウントを取られ、迫害されるのが目に見えている。これのどこが選択肢なんだろうか。ていうか遅くてもリーマンショックの時点で就職が時代遅れって気づけよ。特別入りたい企業がないのであれば、自分自身に投資するべきだ。


 みんなに合わせて働く人間よりも、時代の変化に対応できる人間の方が強いに決まっている。


 だから就職が不安定になっていく時代に就職する前提の教育はやめろと言っている。彼らは崖でレールが途切れている地獄行き列車に乗っている。気づいた者から途中下車していき、自らの足で歩み出すのだ。たとえどこかの企業に入社できたとして、倒産はもちろんのこと、不況になれば僕みたいなのは真っ先にリストラの対象にされ、この時点で就職以外の生き方を知らなければ貧困まっしぐらである。


 吹けば飛ぶような人間に育てられている彼らはうちの親父と同様、崖から落ちるまでは気づかないのだろう……可哀想に……学歴は自分を守ってくれない。自分を守れるのは自分だけだが、気づいている者は少ない。リハビリが大変だろうが、乗り越えれば一生飯を食える大人になれる。


 人生って思ったより簡単だと気づくと、案外楽かもしれない。

気に入っていただければブクマや評価をお願いします。

読んでいただきありがとうございます。

JCIGSCは実在する競技会です。

ドリンクは実際に作られたものを元にしています。

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