114杯目「天才の卵」
あの騒動により、世の中が既にインターネット時代を迎えていることを自覚した。
ここまで有名になってしまった以上、軽率な行動はできない。有名人たちはいつ叩かれてもおかしくないリスクを持っている。別に叩かれてもいいが、僕が叩かれると身内や店にまで被害が及ぶ。
独立すれば世間から逃れられると思ったのに……認識がまだまだ甘かった。そんな時に海外のテレビがうちへとやってくる。営業時間終了後にインタビューを受けていた。これで何度目だろうか。次のバリスタオリンピックの優勝候補としても注目されていた。
当然、海外勢からもマークされている。バリスタ競技会ではずっと無敗だったのだから、そりゃそうなるわな。だが負ける気はない。競技の時は全力を尽くすだけだ。
4月上旬、久しぶりの岐阜コンがやってくる。
僕にとってはたまにある楽しいイベントとなっている。
柚子が僕に気づくと、段々とこっち向かって歩み寄ってくる。
「あず君、またマスコミにインタビューされたの?」
「あー、あれか。でもあれだけ叩かれたし、もうやって来ないと思う。まだ治療中だってのに、あの連中はPTSDって言葉を知らないんだろうな」
「まだ当分かかりそうだね」
「あず君、こんにちは」
後ろから声をかけてきたのは静乃だった。彼女はさっきまで璃子と楽しそうに話していたが、僕に気づいた途端、まるで餌に飛びつく獣のように近づいてきた。
唯よりも髪が伸びているし、愛くるしい笑顔が特徴的だった。
「お、おう……」
「あず君、今度いとこたちを連れて行きたいんだけど、いいかな?」
「いとこって?」
「私の親戚にもコーヒーが大好きな人がいるんだけど、どうしてもあず君のお店に行きたいと言って聞かないの。お願いっ!」
「僕はあいつらを見る度に迫害の歴史を思い出すんだ。だからちょっと――」
「あず君、何のために運営側で参加してるのか分かってるの?」
「日本人恐怖症克服のため」
「なら一度騙されたと思って店に入れてみたら? 今ここで一歩踏み出す勇気を持てなかったら、今まで克服に費やした時間が全部無駄になるよ」
――柚子の言い分ももっともだ。どうする? でももしかしたら……案外平気かもしれない。
例外を認めると、下手をすれば後から自分も入れろとうるさく言ってくる連中に捕まる。だったら身内からの紹介という扱いにしておくか。
「――分かった。その代わり、うちに来たことを誰にも言わないように約束させろ。もし横並び意識の高い連中の耳に入ったら厄介だ」
「分かった。確か寛容で大らかな人がタイプなんだよね?」
「そりゃそうだけど、タイプなんて毎日コロコロ変わる」
「じゃあ、もし私と相性が良かったら、つき合ってくれない?」
「いいけど……それってつまり、一夜を共にしろってこと?」
「ちょっとお兄ちゃん何言ってんの! 静乃も冗談はやめてよ!」
「私は本気だよ。それにあず君なら抵抗ないし」
「相性が良くなかったらどうすんの?」
「その時は諦める……私じゃ……駄目かな?」
覚悟を秘めた声を僕の耳に届けようと、目と口で伝える静乃。
僕は絶句のあまり、怯んで何も言えなかった。まさかそんなことを言われるとは思わなかった。
「駄目、お兄ちゃんは静乃には勿体ないし、お兄ちゃんとつき合うなら相当な覚悟がいるよ」
僕の代わりに璃子が断ってくれた。
「それでも構わない。だから考えておいてよ」
璃子は呆れ顔で静乃に対して釘を刺したが、静乃はあっさりと言い返した。
彼女がどこまで本気なのかが分からなかった。
性に保守的な環境で育ってきたこともあり、性の話には多少なりとも抵抗がある。でも誰かを好きになる基準として、自分との相性は絶対に譲れないと、インタビューの時に答えていた。どうしてもそこだけは妥協できない自分がいた。でもだからといって、自分と相性が良いかどうかを確かめるためだけに女と一夜を共にするのは、失礼だと思う。戸惑いはあった。
うちの親も性には保守的だし、性教育を受ける機会がなかった。性欲を満たさなくても問題ない状態が続いていた。僕はある種の麻痺状態に陥っている。でも起業してからは色んな女がアプローチをしてくるようになり、彼女たちのアプローチを受けている内に段々と自分を抑えられなくなっていたのは確かだ。自分から相手を襲う気はないけど、相手に襲われたら、もう自分を抑えきれないかもしれない。
明らかに他の人と違うし、少なくとも普通の人に分類されるタイプではない。世の女たちがそんな僕を好きになることに対して多少引っかかるところがあり、問い詰めてみることに。
「あのさ、僕は見ての通り、女顔で声も中性的だし、可愛いものが好きだ。こういう男らしさの欠片もない男とつき合うのってさ……抵抗とかないの?」
「抵抗はないかな。私はありのままのあず君が好きなの。だからあず君がどんな外見でも、関係なく好きだって、胸張って言えるよ」
僕は彼女の言葉で気づいてしまった。
『普通の人』と呼ばれる分類の人たちからずっと迫害を受けていた影響で、僕もまた、普通の人を馬鹿にするようになっていたことに。そうでもしなければ『自己肯定感』を保てなかった。
彼女以外にも、ありのままの僕を本気で受け止めてくれる人がいるのだとしたら、本当に勿体ないことをしていたと思う。相手が日本人というだけで無条件に警戒していたけど、それは茶髪の人を奇異の目で見ることと変わりないのかもしれない。彼女からは色々と勉強になった。
静乃との真剣交際、考えてみようかな。璃子の友人なのも安心できる要素だ。
4月中旬、休日を迎えると、静乃がいとこ2人を連れて葉月珈琲へとやってくる。
1人目は大垣莉奈。僕より7歳年下であり、軽い感じの中学生だ。でも中学生とは思えないほど色気のある子だった。お調子者でどこかギャルっぽい。
2人目は本巣伊織。僕より9歳年下であり、大人しい感じの小学生だ。清楚で可憐ながら、幼くて可愛い声の子だった。見た目はふんわりしている。
「うわぁ……凄くオシャレですね」
「ふーん、結構広いお店だね」
「いらっしゃいませ」
「璃子、今日は休日だぞ」
「あっ……そうだった」
ミスに気づいた璃子が赤面しながら空を向き、何かを誤魔化したそうな表情だ。
唯はこの滑稽な光景を見ながら笑いを堪えていた。今にも笑いそうだ。
「いつもの癖だな」
「お兄ちゃんは普段から挨拶しないから、ミスりようがないよね」
「いやぁ、それほどでもぉ」
「褒めてないから。皮肉で言ってんの」
「「「あははははっ!」」」
笑いのツボを刺激したのか、静乃たちが爆笑する。どうやら第一印象は良かった模様。
伊織たちの自己紹介が終わると、僕らはすぐに下の名前で呼び合うことに。伊織たちはそれぞれの親が三姉妹で、いずれかを親に持ついとこ同士だ。家からの距離が近いこともあり、頻繁に会うらしい。
「今日はお兄ちゃんがコーヒーを飲ませてくれるもんね」
「あのさ、今日は休日なんだけど」
「1杯だけならいいんじゃない。小さい内からスペシャルティコーヒーの味を知っておけば、後々この子たちのためになると思うよ。静乃に聞いたんだけど、伊織ちゃんが将来バリスタを目指してるって言ってたから、勉強させてあげたら?」
「バリスタ目指してるのか?」
「はい。あず君の活躍を見ている内に、私もバリスタになりたいと思うようになりました。いつか私もバリスタ競技会で活躍したいです」
伊織が目をキラキラと輝かせながら訴えるように夢を語る。
この目、かつて僕が一流のバリスタを目指していた頃とよく似ている。彼女ならもしや。
「伊織、コーヒーは淹れられるか?」
「は、はい。ペーパードリップなら、何度かやったことがあります」
「やってみろ」
「……えっ! いいんですか?」
「珍しいね。お兄ちゃんが人に興味を持つなんて」
「人に興味はない。バリスタとしての腕に興味があるんだ。本気でバリスタを目指しているかどうかはコーヒーを飲めば分かる。うちのコーヒーはどれも淹れる人を選ぶじゃじゃ馬ばかりだ」
「じゃじゃ馬?」
「うちのお兄ちゃんはコーヒーを女だと思ってるの」
「「「あぁ~」」」
静乃たち3人が何かを悟ったようにゆっくりと頷く。まあ、分からん人には分からんだろう。伊織は僕に言われるがまま、グラインダーで粉々になったゲイシャの豆を使い、丁寧に熱湯を注いでいく。
――この動き、僕の3回注ぎとよく似ている。
しかもコーヒーと相談しているかのように、一度に注ぐ熱湯の量を絶妙に変えているのも高評価だ。
「……どうぞ」
伊織がコーヒーカップを僕の前へ置いた。
全員が僕に注目し、店内に緊張が走る。この味、素材の良さを保ちながらうまく雑味を消している。このコロンビアゲイシャのフレーバーをここまで引き出すとは、本当に小学生か?
「ど……どうですか?」
「一言で言うなら文句なし。伊織、本気でバリスタを目指していると言ったな。うちで修業するか?」
「「「「「!」」」」」
周囲がどよめく。無理もない。自らの意志で人をバリスタの道へ誘ったのはこれが初めてだ。こんなの普段は僕の柄じゃないが、伊織がバリスタの才能を持っていると感じた。
――思わず誘いたくなるほどに……光るものがあった。
「修行って、何するんですか?」
「決まってるだろ。毎日バリスタとしての専門知識や専門技術を身につけるために、ひたすらコーヒー漬けの毎日を送る。まっ、そこまでコーヒーが好きじゃないなら、別に断ってもいいけど」
「やります。やらせてください」
「じゃあ今からペーパードリップでコーヒーを10杯淹れてみろ」
「今からですか?」
「当たり前だろ。やりたいことはやると決めた時にやるべきだ」
「あの、修行をやりたい気持ちは山々なんですけど、私1人では決められません。せめて親の許可を取ってからにしてもらえませんか?」
「えっ!?」
僕は驚きを隠せなかった。何故何かをするのに誰かの許可を求めるのか。
ずっと反骨精神から周囲に反発して生きてきた僕には到底理解の及ばないものだった。
――もし駄目だと言われたら諦めるのか?
ある危機感を持った。このままでは伊織が『瓦礫の天才』になってしまうのではないかと。
瓦礫の天才とは、天才的な才能を持ちながら、『環境的要因』によって才能を最も活かせる職業やポジションに就けなかった人たちの総称と僕は定義している。天才にも様々なタイプがあり、同調圧力に屈しなかった者たちだけがプロの道を歩むことになるのだが、天才の中にはみんなサラリーマンやってんだからお前もやれよみたいなことを言われ、屈してしまうタイプも確かにいるのだ。
もしかしたら、天才サラリーマンの才能を持ちながら、サラリーマンになれなかった人だっているかもしれない。特に同調圧力が強いこの日本では、瓦礫の天才が少なくない割合で存在する。
伊織もその1人になってしまうのではないかと思った。
「あず君、伊織はまだ小学生だよ。修行させるなら親の許可を取らないと」
「莉奈、あず君は年上なんだから、ちゃんと敬語使わないと」
「使いたくないなら使わなくていいぞ。僕だってそうしてるし」
「動画で見たから分かるけど、あず君は誰に対してもタメ口だよね。何か理由でもあるの?」
「――親父との約束」
「約束?」
子供の頃、上に弱く下に強い中間管理職のような人間性だった親父の性格が気に入らなかった。親父に話してみれば、じゃあお前は誰に対しても同じ態度を貫くんだなと言われ、相手によって態度を変えるなんてみっともないと言ってからはずっと続いてきた。
誰が相手でも同級生のように接する。この接し方に拘ったために、主に年上の連中から迫害を受けたこともあった。だが僕は屈しなかった。タメ口が不誠実と言われたこともあったが、僕に言わせれば、自分に嘘を吐いて人と接する方がずっと不誠実であると考えた。
あいつらとは根本的に価値観が違うのだ。
「ふーん、なるほどねー」
「お兄ちゃんらしい」
「そんなことはどうでもいい。伊織、自分の人生は自分で決めていいんだ。自分で意思決定ができない人間は他人に従って生きることになる。伊織は他人から指示され続けて、他人の許可を取り続ける窮屈な人生になってもいいのか?」
「……」
まるで追い詰められたかのように、伊織が目を半開きにさせて下を向く。
「お兄ちゃん、何小学生に真面目な質問してるの。伊織ちゃん困ってるでしょ」
「小学生だろうと、伊織も1人の人間だ。子供扱いはしない」
「――考えさせてください。私はまだ、自分で何かを決めるだけの自信も経験もないんです。でも必ず決断はします。それまで待ってください。お願いします」
「チャンスは人を待たない。僕は昔っから優柔不断な奴が嫌いでね。そんな奴にくれてやるチャンスはないと思ってる。今月中に親と話し合って決めろ。期限を過ぎた時点で、うちは絶対に君を雇わない」
「お兄ちゃん、何をそんなに急がせる必要があるの?」
「社会に出たら、必ず締め切りというものがある。それをまだ判断できないと言って勝手に先延ばしにしたり、親とか上司とかにいちいち指示を仰ぐ奴と一緒に働きたいと思うかって話だ」
ずっと上の言うことに従うことが唯一無二の正解と刷り込まれている人ほど、自分で決められないというある種の呪いにかかっている。親も学校も子供に対して従順性を求めている。だが社会は創造性のある人を求めている。もしここで伊織が断るなら、彼女は高確率で不才になるだろう。
静乃たちとの雑談から察するに、勉強とか苦手そうだし、人生無駄にしてるよなぁ~。
「まっ、そういうことだ。最終的に伊織が判断しろ。親の許可が下りなくても伊織がやると言うなら、伊織の判断を尊重するからさ」
「……分かりました」
伊織は僕の言い分を持ち帰ることとなったが、何だか不穏な空気になってしまった。
「ねえねえ、修行をすることになった場合はさー、児童労働にならないの?」
莉奈がバリスタ修行が児童労働ではないかと指摘する。随分難しい言葉知ってんだな。
「少なくとも自分の意志でやる場合は児童労働じゃねえよ。ていうかそれを言うなら、普段学校でやらされてる授業とか掃除とかの方がずっと児童労働だ。授業と掃除がセーフで修業がアウトだというならその正当性を証明するべきだし、どうせ勉強が苦手な子は、勉強を将来に活かすことはない。それだったら好きなことに没頭して、それで得た知識や技術を武器に生きていく方が合理的だと思うけど」
「これがうちのお兄ちゃん。めんどくさいでしょ?」
「うん。伊織、この人凄く偏屈だし、やめといた方がいいと思うよ」
「……偏屈なのは同意だけど、何も間違ったことは言ってないよ。それに私、生半可な気持ちでバリスタを目指してるわけじゃないから。あず君、必ず今月中に親と話し合って、自分で決めます」
「その言葉、忘れるなよ」
目を逸らしたまま伊織に返事をする。
「はいっ!」
伊織はどこか不安げな返事だったが、同時に覇気のような気持ちを感じた。まだ迷いこそあったが、親からは無事にバリスタ修行の許可を貰えたらしい。
4月下旬、伊織がバリスタ修行をしに来るようになった。
5月を迎えると、JSCに参加するべく東京へと赴く。
予選には40人のバリスタが参加した。上位8人が7月に行われる決勝に進出する。ゲイシャの風味に限りなく近づけたブレンドコーヒーを10分で4杯淹れて提供する。僕は穂岐山社長の許可を貰っていたこともあり、英語でプレゼンをしていた。
この時も唯が僕のサポーターとして貢献してくれた。
数日後、ジャパンスペシャルティコーヒー協会のホームページを見ると、予選通過者リストに僕の名前があり、思わずパソコンの前でガッツポーズを決めてしまった。
「おめでとうございます」
「まっ、こんなもんだろ」
「あず君はサイフォンも使いこなせるんですね」
「まあな。メジャーな器具は全部使いこなせる。最近はエアロプレスとかも使ってるし、コーヒー業界の地位を上げるなら、これくらいはしないとな」
「私、エスプレッソマシンよりドリップコーヒーが好きなので、サイフォンにも興味あります。どんなコーヒーを淹れたんですか?」
伊織が興味津々な目で僕に質問を繰り返す。僕は莉奈にも伊織にもすっかり慣れていた。どうやら相手が女性の場合は、日本人恐怖症が多少緩和されるらしい。
「簡単に言うと、ゲイシャ以外の豆を使って、ゲイシャのフレーバーを再現した」
「この前私が飲んだコーヒーですか?」
「ああ。ゲイシャのフレーバーを再現するのは大変だった」
「私も飲みたかったです」
「じゃあシグネチャーの試飲をしてもらおうかな」
「いいんですかっ!?」
「う、うん……いいよ」
この食いつきよう、そんなに嬉しいのか?
やはり彼女のコーヒーに対する興味は本物のようだ。
小学生じゃなかったら東京予選にもついてきてもらって、バリスタ競技の学習をさせたかったけど、流石にそれは親の許可が必要になるし、面倒と思って諦めた。
5月下旬、伊織が修行を初めて1ヵ月が経過する。彼女もようやく慣れ始めたようだ。
まだ小学生ということもあり、体力面での心配があったために修行の時間は短めである。暇な時間は全て修行の時間に費やすことになっている。無論、うちで修業していることは内緒である。もし伊織の通う学校の生徒に知れたら、彼女が迫害を受けることは目に見えている。
季節は流れ、6月がやってくる。
僕は22歳の誕生日を迎えた。誕生日には相変わらず色んな人たちから祝ってもらい、全国のファンから家にプレゼントが届いていた。そんな中、伊織が心配になっているのか、静乃も莉奈も頻繁にやってくるように。莉奈は僕が勝ち取ったバリスタ競技会優勝トロフィーを眺めながら優子と話している。
優子はすぐに静乃たちと仲良くなり、彼女たちはすっかり優子を気に入っていた。流石は何度も倒産の危機を乗り越え、小さい頃から色んな年代の人と話してきたことで鍛え抜かれたカリスマ性が見事に活きている。僕には到底マネできないコミュ力お化けだ。
「莉奈ちゃんは将来何を目指してるの?」
「私もバリスタかな……でもバリスタになって何をしようとか、そこまでは全然考えてなくて……まだふんわりしてるって感じ」
「それはあず君の影響?」
「いやー、そうじゃなくてね、静乃も伊織もバリスタを目指すって言ってて、その影響で自分もやってみようかなって思ったの。静乃は実家のコーヒー卸売り店を継ぐのが目標で、伊織は葉月珈琲に就職することが目標になってる。でも私は特に何も決まってないというか、正直に言うと、自分が何をしたいのか全然分からないの。だから、やりたいことが決まるまでの間はバリスタをやってみようかなって思ったの。他に何もなかったら、バリスタをやるだけだし」
「ふーん、じゃあやってみろ。でもやるからには全力を尽くすこと。じゃないとあの偏屈お兄さんに怒られちゃうからねぇ~」
「うん、そうする」
いるんだよなぁ~、子供ながらにやる気を奪われてしまう子が。特に一人っ子で、優しくて、言われたことはやるけど、やりたいことは言えない子供が。
全ての人間は主体性の塊として生まれてくる。本質的にやる気のない子供は存在しない。やる気を奪う指導者がいるだけだ。このままいけば彼女も吉樹のようになってしまうだろう。やりたいことを見つけるまでの繋ぎを見つけているだけまだ軽症か。
しばらくの間、僕は静乃たちと密接に話し込むのだった。
気に入っていただければブクマや評価をお願いします。
読んでいただきありがとうございます。
大垣莉奈(CV:伊瀬茉莉也)
本巣伊織(CV:水瀬いのり)




