113杯目「安らかな時間」
3月中旬、美羽と穂岐山社長がうちへとやってくる。
僕が未知なるバリスタ競技会に登録したのには訳があった。理由は主にこの2人である。特に何もなければ、ずっと大会には出なかったかもしれない。
「あず君、久しぶり」
「いらっしゃいませ。美羽さんも穂岐山社長もお久しぶりです」
たまたま接客をしていた璃子が2人に挨拶をする。
2人はのっそりとカウンター席に座るとエスプレッソを注文する。
「相変わらず早くて正確だねー」
「うん。ずっと見てても飽きない」
「あず君、今年はバリスタの大会に出ないの?」
「そうだな。バリスタオリンピックまでは、しばらく休みだけど」
「サイフォンの大会には出たことあるかな?」
「ないけど、バリスタオリンピックには関係ないだろ」
「それがありえるかも。バリスタオリンピックには毎回違う抽出器具を使うとレパートリーポイントを稼げる部門があるし、サイフォンを究めておけばスコアを稼ぎやすくなるんじゃないかって思ったの。だからその時に備えて、参加してみたらどうかなって思ったの」
「サイフォンねぇ~」
美羽たちは僕にバリスタ競技会への参加を勧めてくる。
ジャパンサイフォニストチャンピオンシップ、略してJSCである。
数年前から毎年行われているサイフォンの大会だ。予選は10分でブレンドコーヒーを4杯、決勝は15分でブレンドコーヒーとシグネチャードリンクを4杯提供し、最もスコアの高い人が優勝である。
サイフォンは日本で広く知られた抽出器具である。技術の差が露骨に出るペーパードリップと違って味にムラができにくく、扱いやすいことから重宝された。この大会は日本語以外禁止だ。ルールブックを見ていたために知っていた。そこで英語を使わせてくれるなら出ると述べた。
すると、今年からは参加者全員が言語制限なしでのプレゼンを認められるよう、ルールを変更してくれるという。僕は宗教上の理由で敬語が使えないため、日本語だとどうしてもぶっきらぼうな表現になってしまう。それにこれも世界大会の国内予選だし、世界大会に参加したら、どの道英語を使うことになるのに、国内予選の時だけ英語が使えないというダブルスタンダードに納得がいかなかった。
この大会で英語を使えない理由を聞けば、世界大会をジャパンスペシャルティコーヒー協会が主催しているという単純なものだった。後日、ルールブックからは日本語必須の項目が削除された。
今まで参加していた世界大会の多くはアメリカやヨーロッパのコーヒー協会が主催しているものだ。ワールドコーヒーイベントが主催しているものでない場合、あまり有名でないマイナー競技会として位置づけられている。キャリア初期の頃に出ていた世界大会は、どちらかと言えばマイナー競技会に位置づけられるものである。どこが主催しているかで知名度が大きく変わるなんて、随分と生々しい話だ。
この大会に出ると決めた理由は、美羽たちに誘われたからというだけじゃない。色々と試したいことがあったからだ。ゲイシャはスペシャルティコーヒーの中でも特に高いコーヒーだ。購入を諦めている人もかなり多い。そこでどうすればゲイシャの味を広く伝えられるのかを考えてみた。
1つはゲイシャ種のコーヒー豆が普及すること。だがこれは僕の力ではどうにもならない。
もう1つはゲイシャ以外のブレンド豆でゲイシャのフレーバーに再現する方法だ。
開発さえできれば誰でもマネしやすい。フローラルな香りやフルーティな味わいは、他のスペシャルティコーヒーを使わなければ味わえないが、通常のゲイシャよりは安く済むはずだ。シグネチャーで披露するつもりだが、まずは上質なブレンド豆を作らなければ。
ブレンド豆は文字通り、2種類以上のコーヒー豆を組み合わせたものである。
今まで使っていたシングル豆よりも複雑な味になる。一歩間違えばブレンドした豆の味が喧嘩してしまうこともあるため、何と何をどれくらいの配分で混ぜ合わせるかが問われる難しい豆だ。バリスタの世界大会ではリスクが高いという理由からほとんど誰も使わなかった。だがうまくいけば他のバリスタと差別化を図れるハイリスクハイリターンな豆である。サイフォンを扱う技術や、サイフォンで淹れるコーヒーの均質性はもちろんのこと、プレゼンテーション能力なども評価の対象となる。
「もうすぐ参加者募集が始まるから、あず君も登録してね」
「それはいいけど、何で2人して僕を参加させようって思ったわけ?」
「――実はね、ジャパンスペシャルティコーヒー協会がピンチなの」
「ピンチって、どういうこと?」
「ずっと前、コーヒー協会があず君を選考会の書類選考で不当に落とした件で、他の有力な参加者たちが言ってたの。あず君ほどの実績の持ち主でも落ちるんだったら、自分は尚更出場資格がないと言って選考会を辞退したの。だから選考会の参加人数が少なかったってわけ」
――そうだったのか。水面下でそんないざこざが起きていたとは。
僕以外に複数の世界大会を制覇した人はいなかったし、僕を差し置いて選考会に出場することに抵抗がある人もいたかもしれない。仮に出場したところで気にも留めないが……。
「お兄ちゃんって、信頼されてるんだね」
「そりゃそうだよ。あず君は今や日本のコーヒー業界のスーパースターだからね」
「お父さん、日本のじゃなくて、世界のでしょ」
「あー、そうだったねー。みんな口に出さないだけで、あず君に憧れているバリスタは大勢いるんだ。あず君に是非協会の主催する大会に出てほしいんだ。何よりあず君の活躍を見られるからね」
「あず君にはもっとストレートに言っていいと思うよ。正直に言うとね、あたしたちは協会の信頼回復に努めているところなの。あの件で協会は世間からの信用を失っちゃって、このままだと、他の大会の運営にも影響が出ちゃうの。もしそうなったら、色んなバリスタ競技会への道が閉ざされる危険性もあるの。だからお願い。協会にもう一度チャンスを与えてほしいの」
美羽は頭を下げて大会参加を懇願する。彼女もコーヒー協会の一員となっていた。ポジショントークをしているのが見え見えだが、ここまで正直に言ってくれるのは本当に助かる。
「――分かった」
「ホントにっ!?」
「ただし、僕を贔屓するのはなしだ。ジャッジはいつも通り、参加者全員と利害関係のない人を採用すること、ミスをしたらちゃんと減点すること。もしスコアに不審な点があったら、みんなが見てる前でトロフィーを突き返すからな」
「お父さんたちがそんなことするわけないでしょ。贔屓なんかしなくったって、あず君なら優勝できるって信じてるから。ねっ」
「しょうがねーなー」
――まっ、ミスる気なんて毛頭ないけど。
美羽たちがすっかり納得した表情を見せると、しばらくは他のスタッフたちと他愛もない会話を楽しんでから帰宅していった。信頼を取り戻すというなら、それくらいは徹底してもらわないと困る。自分の力で勝たなきゃ全くの無意味だし、この国で一度失った信頼を取り戻すのは難しい。
営業時間が終わると、僕の周りに仕事を終えたみんなが集まってくる。
「さっきのお兄ちゃん、凄くカッコ良かったよ」
「……どこが?」
「贔屓するのはなしだって言ったところ。お兄ちゃんって昔っから公正さにうるさかったもんね」
「どうしてそこまで公正さに拘るんですか?」
「――僕が小6の時にさ、運動会でとんでもない茶番があった。教師たちがPTA会長の子供を勝たせるために、白組に運動が得意な生徒を集中的に加入させてな、案の定圧倒的大差で白組が勝ったんだけど、その後紅組だった生徒と白組だった生徒との間に修復不可能な溝が生まれた。紅組の連中は本気で勝つために、毎日必死になって練習を頑張ってきたのにさ……それが……たった1人のくだらない自己満足のために踏み躙られたんだ」
「……そんなことがあったんですね」
「ああいうことがあるから大勢の人と一緒にやるような仕事は絶対にしないって決めたし、あんなクソ茶番につき合わされるのは二度と御免だ。たとえ自分が贔屓される立場であってもな」
「だから釘を刺したんですね」
「お兄ちゃんらしいと言えばらしいけど、もうちょっと言い方を考えてもよかった気がする」
「まあまあ、それがあず君なんだから、しょうがないよ。ふふっ」
優子がいつもの僕らしい側面を見たせいか、安心したような笑みを浮かべる。僕にはどうしても譲れないものがある。勝負事は正々堂々としたものでなければ、たとえ勝っても、その勝利に価値はない。不正で勝っても良い経験にならない。この前小夜子から岩畑のことを聞いた時、僕はそれを確信した。
岩畑は主に父親の贔屓により、自分がプロ野球選手になれると本気で思っていた。
しかし、父親の贔屓が及ばない高校に進学すると、そこで彼は自分の本当のレベルを突きつけられることになる。彼はその時になって初めて気づいた。自分がずっと勝ってこられたのは、自分が強いからじゃなく、弱い相手とばかり対戦するよう仕組まれていたからであると。
結局、彼は高校野球部に留まることはできたものの、一度も甲子園に出ることなく卒業し、今は工場労働者として働いている。皮肉にも学校教育によって培われたルーチンワークに救われる格好となったわけだが、いつか不況や最新技術よって仕事を奪われた時、彼は今まで受けた教育を恨むだろう。
3月下旬、大会用のブレンドコーヒーを作るべく、営業時間終了後に研究に没頭することに。
午後6時以降は僕と唯の2人きり。僕がブレンドと焙煎をし、サイフォンを使ってコーヒーを淹れ、唯と一緒にコーヒーをカッピングする地味な作業をひたすら繰り返す。
床には焙煎中に飛び散ったコーヒー豆の殻が飛び散っている。
「――駄目だな」
「ですねー。はぁ~、もうこれ何回目のカッピングですか?」
「知らん。次はコナコーヒーとキリマンジャロをシティの2対1でブレンドするぞ。休みたいなら休んでもいい。僕はまだカッピングを続けるから」
「前々から気になってたんですけど、もう何度も失敗しているのに、どうしてそんなにコーヒーの実験を続けられるんですか?」
「だって次はうまくいくかもしれないじゃん。それに僕は失敗なんてしてない。今のだって、この方法では駄目だという発見ができただろ。だからこの実験は成功だ」
唯は湯水のように湧いてくる研究意欲に驚いていた。
僕にとって新しいコーヒーを開拓するのは、楽しみ以外の何ものでもない。たとえうまくブレンドされていなかったとしても、新たなフレーバーに出会えることに変わりはないのだ。1つ1つのフレーバーをしっかりとデータベースに記録し、後に続くフレーバークリエイターとしての礎を築けるのだ。
失敗の経験は……決して無駄にはならない。
数日後――。
「「!」」
……凄い。アロマもボディも申し分ない。フレーバーやアフターテイストも抜群に良い。
「これ、凄く美味しいです」
「ああ、これなら大会で使ってもいいかもな」
ブレンドにはあまり手を出したことはなかったが、これならどうにかなりそうだ。
色んな組み合わせのブレンド豆を研究し、最もゲイシャのフレーバーに近い組み合わせをどうにか見つけることができた。シグネチャーはもう少し時間がかかるだろう。
予選はブレンド豆のみの勝負だし、まだ大丈夫だ。
外国人観光客の協力の元、外国でコーヒー抽出の専門家や器具を売っている人や、外国でバリスタをしている人からも話を聞くと、より美味いドリップコーヒーを習得していった。味を描く能力を活かすべく、コーヒーと相性の良いとドリンクの味を覚え、何日もかけて味の組み合わせを覚えていった。
一度味を覚えれば脳内で最適解を探しやすくなるし、サンプルを入手するだけでも非常に効果的だ。そのためオーガストにも積極的に行くようになった。
ある日のこと、店の営業を終えた僕は、たまたま葉月珈琲へ遊びに来ていた吉樹がついてきたため、吉樹と一緒にオーガストへと赴いた。営業時間は午後6時から午前0時。カフェとしては遅め、バーとしては短めだ。コーヒーカクテル専門店はカフェなのかバーなのかよく分からない。うちもアイリッシュコーヒーとオリジナルコーヒーカクテルをいくつか売っているが、ここはそれ以上の種類を誇る。
こんなにクールで雰囲気の良い店を葉月商店街で開いてくれるのは嬉しい限りだ。
「いらっしゃいませ。あっ、あず君」
「……いつもの」
「はい。そちらの方は?」
「楠木吉樹です。あず君がいつもお世話になってます」
「いえいえ、まだオープンしたばかりの店なのに常連になっていただいてます。私は加藤真理愛です。真理愛と呼んでください」
「じゃあ、僕のことも吉樹と呼んでください」
「はい……」
吉樹はすっかり真理愛に夢中になっていた。吉樹は清楚で礼儀正しい人に滅法弱い。真理愛のスラッとした腰回りが吉樹を惹きつけている。そして何より……でかい。スタイルも悪くないな。
僕はここのカフェ・コーディアルがお気に入りだ。
「お待たせしました。カフェ・コーディアルでございます」
はぁ~、コーヒーにラム酒とブランデーとオレンジジュースの組み合わせがたまんねえ。
最初に聞いた時は味が喧嘩すると思っていたけど、別にそうでもなかった。フレーバーのギャップがドリンクの美味さに更なる補正をかけていくのだ。
「あず君って、下戸じゃなかったっけ?」
「ここのは量が控えめだし、下戸とは言っても、全く飲めないわけじゃないから大丈夫だ」
「吉樹さんはどんな味が好みですか?」
「好みの味ですか……うーん、咄嗟に聞かれると難しいですね」
「好きなフルーツとか、スイーツとかはありますか?」
「チョコですね。あず君の妹がショコラティエで、僕もチョコがめっちゃ好きなんです」
「あず君の妹さんはショコラティエなんですね。それでしたら、ショコアテペックはどうですか?」
「ショコアテペック?」
真理愛がメニューのお勧めメニューを指差している。だが何も分かっていないのか、未知の味に恐怖しているのか、吉樹がぽかーんとした顔でメニューの文字を見つめている。
「コーヒーとブランデーとチョコレートのまろやかさが一体となったデザート風のコーヒーカクテルなんですけど、チョコレートがお好きならと思いまして」
「じゃあ、それにします」
「はい。畏まりました。少々お待ちください」
真理愛が温めたカップに、ブランデーとコーヒーを注いでから軽く混ぜた。
表面にホイップクリームを浮かべ、削ったチョコを散らす。
「うわぁ~、凄~い」
吉樹が目をキラキラと輝かせながら、夢中で作業工程を見ている。カクテルは作業工程さえもパフォーマンスのように見えるのだから凄い。真理愛はいつも通りと言わんばかりのテキパキした動きでショコアテペックを完成させ、最後にはスティックチョコを添える。
「お待たせしました。ショコアテペックでございます」
真理愛がスムーズな動きで、吉樹の前にショコアテペックの入ったグラスをコトッと置いた。
「……カッコ良い」
「えっ! か、カッコ良い……ですか?」
「はい、まるでマジックショーを見ているような感じがします」
「あ、ありがとうございます。そこまで大層なものじゃないですけど」
褒められることに慣れてないのか、真理愛は後ろを向きながらグラスの拭き掃除を始める。
多分、今頃は赤面しているに違いない。
どうにか気持ちを落ち着かせると、再びこっちを向いてグラスの拭き掃除を再開する。
「すっげえ美味い。なんかデザートを飲んでるみたい」
「好評で何よりです」
気に入ってもらえたことを確認し、ホッと胸を撫で下ろす真理愛。
リピーターになってもらえるかどうかは、最初の1杯が肝心だからな。
「普段こういうとこ来ないんだな」
「そうだね。就活が全然うまくいかなくてさー、飲みに来る余裕がないんだよねー。あのさー、良かったらあず君の会社に就職させてくれないかな?」
「えぇ~、そんなこと言われてもさー、うちはこれ以上人を雇う必要がないから、今のところはどんなに有能でも無理だな。他を当たってくれ」
「マジかぁ~。もう大学4年生なのに、就活どこも受からなくてさー。どこにも受からなかったら就労支援施設に行けって言われてるんだよねー」
「……今なんつった?」
「えっ、だから、どこにも受からなかったら就労支援施設に行って、職業を紹介してもらうんだよ」
まずいな。このままだと吉樹の人生も雑魚キャラコースだ。吉樹は生きる力が身についていない状態のまま就活を強いられている。この状況を放置するとどうなるか。答えは簡単だ。
20代から30代にかけて就職難、もしくは無気力な状態が続き、40代か50代の時に親が死んだ後も生きる力がないために、そこから一生生活保護までの流れが読めた。施設の世話になるような連中のほとんどは、ロクに何も考えないままこのコースを辿り、気づいた時には人生が詰んでいたという状況に陥るだろう。吉樹には申し訳程度の施しをすると決めた。せめて身内くらいは助けたい。
何故僕がこの国の教育失敗の尻拭いをしなきゃならんのだ。めんどくせぇ……。
「あず君、どうしたの?」
「吉樹、もし就職できなかったら、うちの実家の見習いとして雇うくらいなら別にいいぞ」
「ホントにっ!?」
「ただし、そこで知識と技術を身につけて、最終的に自分1人で稼げるようになると約束しろ。柚子の足枷にだけはなってやるな」
「う……うん……分かった。あっ、そろそろ僕帰るね。用事を思い出したから」
何かを悟ったのか、僕の静かな剣幕に屈したのか、吉樹が言い残すと、お代だけを置いてそそくさに帰ってしまった。ちょっとばかり言い過ぎただろうか。
「ありがとうございましたー。あず君は優しいですね」
「そんなんじゃねえよ。学生時代を無為に過ごすことを余儀なくされて、生きる力を身につけられなかった人間の末路が容易に想像できるからさ。身内にまであんな思いはさせたくない」
「――私も大学時代までは吉樹さんのように、自分は何がしたいんだろうと思いながら生きてました。でもあず君のお陰で、私は自分で自分の人生を決めることができました」
「意思決定ができない人間は他人に従うしかない。だから学校は上司に従順な人間を作るためにあらゆる方法で意思決定ができない人間を作ろうとしてる。その結果があのザマだ」
「まあまあ……でもあず君が身内にいたのが幸いでしたね」
「おっ、やっぱりいた。あの、インタビューよろしいでしょうか?」
いきなり何事かと思って横を見ると、日本人の記者が僕に話しかけてくる。僕から色々聞き出そうとしてきた。ずっと無視し続けたが、僕に構わず話を続けてきた。しかもプライベートに踏み込んだ質問までしてくるから厄介だ。僕がここの常連であることも知っているようだった。
「あの、他のお客様のご迷惑になるので、インタビューは控えていただけますか?」
「何? 俺に逆らうの? 言っとくけどねー、俺がその気になればこんな小さい店の1つや2つ簡単に潰せるんだよー。それを分かって――」
「いい加減にしてください! ここはお客さんが楽しく静かに過ごすための場所です! それが守れないのでしたら、お引き取りください!」
真理愛が静かに怒りのオーラを放ちながら記者を叱った。
威圧感に押された記者は思わず後退りする。
「てめえ、覚えてろよっ!」
普段はおっとりしているように見えるけど、意外と肝が据わってるんだな。この時は真理愛が記者を咎めてくれたが、マスゴミ記者の身勝手なインタビューによって、日本人恐怖症が再発してしまった。
数日後、この件をさりげなくラジオで話してみると、誰かによって特定されたのか、しばらくすると週刊誌に毎日殺害予告が届くようになった。僕を妄信する信者ファンが全国各地におり、これもファンが仕掛けたらしい。結局、殺害予告をした人たちは逮捕された後で不起訴となった。
それからは外出中の僕に対して、日本のマスコミが近づくことはなくなった。自分の行動が元で複数の人間を危うく前科者にするところであったことを自覚した。
ファンにも軽率な行動はしないよう言っておいたが、この件で自分の影響力を知った。
試しにスーパーで六角形のお菓子の箱を購入し、貯金箱に改造する作業をラジオでしてみると、次の日以降、全国中のスーパーから該当するお菓子が売り切れてしまう現象が起こったのだ。名づけて肖り現象である。僕が使った商品が全国のファンの間で流行り物になっていたのだ。
それだけ何も考えず、流行に従う人が多いのだと感じた。
気に入っていただければブクマや評価をお願いします。
読んでいただきありがとうございます。




