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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第5章 経営者編
105/500

105杯目「変革するカフェ」

 5月上旬、ゴールデンウィークの日曜日のことだった。


 おじいちゃんがいなくなってからというもの、しばらくは大輔が指揮を執っていたが、大輔と優太の親父である哲人のおっちゃんが親戚の中心となり、親戚の集会を主催していた。


 僕が毎回端に座っていると、手を伸ばしても届かないくらいの距離から、哲人のおっちゃんが話しかけてくる。顔はどこか深刻そうで、改まった様子だ。


「あず君、大輔を雇ってやってくれないか?」

「今はこれ以上人がいらないんだけど」

「優太はもう就職できたけど、大輔はまだ求職中なんだよ。大輔はこの前やっと就職先が見つかったんだけどな、直前になって内定取り消しだ」

「……マジで?」

「ああ、ついてねえよ」


 大輔は冷めた表情のまま返事をするのが精一杯だった。


 親戚一同から同情の視線を向けられていた。大輔から今までの経緯を聞くことに。


 大輔は就職氷河期に就活をするも正規雇用で内定を取ることはなく、2003年に大学を卒業すると同時に非正規の職に就いた。その後は職を転々とし、派遣社員だった時に正規雇用を打診され、やっと正社員になれると思った矢先、2008年のリーマンショックの影響で派遣切りにされてしまう。


 2011年にはやっと就職先が決まるも、その時に起きた東日本大震災により、就職先の本社が津波に流されてしまい、しばらくは人を雇っている場合ではないという理由から、内定取り消しになってしまったのだ。しかも他の企業からも転職が多いことを理由に、面接にすら進めなかった。


 ――うわ……大輔は一度お祓いにでも行った方がいいんじゃないか?


 僕が大輔の立場だったら、多分銀行強盗になってたかも。


 大輔は内定取り消しのショックから立ち直れず、就活にも身が入らない様子だった。ただでさえ就活でこけにこけまくってるし、もはや自己責任という言葉では形容しきれない。大輔はもう30を過ぎていたが、未だに親に養われていることに焦りを感じていた。焦れば焦るほどうまくいかない。


「もう俺、強盗でもやろっかな」

「何言ってんの! そんなことしたら余計に就職できなくなるでしょ!」


 明らかに自棄になっている大輔を恵梨香おばちゃんがしっかり咎めた。


「今の状況でこれなんだぞっ! もうどうでもいい!」


 大輔が自暴自棄になりながら廊下に出ると、庭から絶望の目で空を眺めていた。


 心配になった僕は大輔を追って隣に座り、2人きりになった。


「俺を笑いに来たのか?」

「卑屈だな~。ちょっと前までは親戚一同を仕切ってたのに。あの時の威勢はどこに行ったのかな?」

「――お前には分からないだろうな。ずっと頑張ってきたのに……報われない奴の気持ちなんて……絶対に分かるはずねえよ」

「うん、分からない。うまくいかないなんて当たり前のことなのに、いちいちそれでしょげてる人の気持ちなんて分からない」

「その正直すぎるところにイラついてたけど、今じゃ清々しく思える」

「僕はずっと周囲から迫害を受けていたし、独立してカフェを始めた時も、最初は全然うまくいかなかったけどさ、うまくいかない方法を見つける度に軌道修正してきたからこそ、ここまでやってこれた。うまくいかない時は、そっちの方向じゃ駄目だって教えられてるもんだと思えばいい」

「あず君でも失敗するんだな」

「失敗なんてしたことねえよ。この方法では駄目だという発見を繰り返してきただけ」


 僕だってうまくいかないことの方が圧倒的に多かった。故にうまくいくまでずっとやり続けたのだ。常に背水の陣で戦ってきた僕には落ち込んでいる暇さえなかったし、そもそも諦めるという発想自体なかったのだ。ただひたすらに、目の前の仕事に集中するしかなかった。


「何がいけなかったんだろうな」

「ていうかそろそろ気づこうよ」

「……何に?」

「大輔はがむしゃらに就職しようとするところが毎回裏目ってるんだからさ、もっと別のやり方で仕事を探した方がいいと思うぞ」

「別のやり方?」

「例えば専門知識とか専門技術とかを身につければ、不況とか関係なく仕事を作ったり、専門職に就いたりできるじゃん。大輔の強みは何?」

「俺の強みか……」


 すぐ答えられないってことは、今まで自分の強みで勝負することを考えてこなかったのだ。こういう人間を量産してきた国の罪は重い。奴らはいずれ代償を払うことになるだろう。


 5月中旬、うちの店が6人体制になってから1ヵ月以上が経過する。


 唯も優子も店の作業にすっかり慣れていた。優子はヤナセスイーツにいた時と同様に、テキパキとした作業を見せ、スイーツを作り上げていた。優子の仕事は最大10種類分用意されているショーケースに作ったケーキを入れることだ。作るケーキは自由とした。


 しかし、スフレチーズケーキだけは僕のリクエストにより、昔と変わらず作ってもらっている。


「このオーブン、凄く使いやすいねー」

「最新型にして良かっただろ」

「うん。使い方を覚えるのが大変だったけど、これだったら今まで作れなかったスイーツも作れそう。あず君のお陰で、夢がまた1つ叶っちゃった」

「優子は大会に出ないの?」

「大会は……今のところは出ないかな。一応璃子のサポーターとして出ることはあるんだけど、あんまりああいうのに出たいって思わないんだよね。あたしは大会に出なくても、美味しいものをお客さんに届けられれば、それでいいと思ってるから」


 優子は客第一か。僕は自分第一だし、根本的に考え方が違うんだろう。だがこれで、璃子が大会に出る環境が整った。璃子たちが作ったケーキは、外国人観光客にも好評だった。


「ていうか本当に作るケーキ自由でいいの?」

「うん。何なら1切れ1000円のスイーツとか作ってもいいぞ。今じゃここは高級カフェっていう認識が広まってるし、客層は中流層以上の人ばっかりだ。それくらいやっても問題ない」

「ふーん、言ったなー。じゃあさ、ゲイシャの豆使わせてよ」

「……何で?」

「ゲイシャの豆を使った『コーヒースイーツ』を作ってみたいの」

「そこに目をつけてきたか」

「あたしだってそれなりに食材を見る目はあるんだから当然でしょ。あのゲイシャ特有の甘味と酸味はコーヒー以外にも使えると思うの」


 コーヒースイーツか。全く考えてなかったな。バリスタたるもの、コーヒースイーツを知らないでいるのは駄目な気がする。ここは優子からコーヒースイーツを学んだ方がいいのかもしれない。


「うん、いいぞ」

「「「「「!」」」」」


 みんなが一斉に驚いた。まさか僕が許可を出すとは思わなかったらしい。


「意外……あず君だったら、邪道だとか言って拒否すると思ってた」

「んなわけねえだろ……邪道って言葉は嫌いだ。新しい試みをいちいち邪道とか言ってたら、せっかくのチャンスを逃すことに繋がりかねない。何かアイデアがあるなら否定はしない。今後仕入れるコーヒーにはスイーツ枠を設ける。スイーツ枠の範囲内であれば、いつでも好きなように使っていいぞ」

「ホントにっ!?」

「ああ。その代わり良いもん作ってくれよ。使ってもいい分だけ置いておく。スイーツ開発は任せた」

「任されましたっ!」


 優子は歯を見せながら軽いノリでビシッと敬礼をする。


 すると、僕が用意したゲイシャを早速使いケーキのクリームへと混ぜていく。一体どんな味がするんだろうか。作り方を教わるべく、優子の作業工程をジッと見つめていた。本当は全部コーヒーにしてしまった方が利益を出せる。だが常に新しいものを開発していく土壌を整えておかなければ、会社がピンチになった時、その時の社長が僕でなければ、きっと保守に回ってしまうだろう。


 そんな会社はいずれ滅びる。親父の勤めていた会社もそうだった。高度成長期の頃からバブルの頃にかけて得た既得権益を守ろうとして、バブル崩壊後のケアを全くしなかった。どんな時代を迎えても生き延びられるようにするなら、既得権益なんてものは、とっとと投げ捨てるべきなのだ。


 ――はぁ~、考えるべきことが多すぎて困る。


 うちが法人成りしてからは、昔よりも忙しくなったことを自覚する。


 営業時間は以前と変わらず、客席が大幅に増えているが、それでも連日満員御礼を記録する。雨の日になると客足が丁度良いくらいの数になる。他の店は壊滅的だろうけど。


 家の近くには何店舗かのカフェがあったが、それらの店が潰れることはなかった。僕はその理由がすぐに分かった。引っ越してきた時も、今のこの場所に引っ越してくる前も、近所にはそれなりにカフェがあった。それらのカフェの客はいずれも日本人だった。日本人規制法がなくなって、日本人客もうちに来るようになったら、近所のカフェはどうなってしまうのだろうか。嫌な予感が当たっていたなら、近所のカフェは全て日本人規制法で持っていることになる。これじゃどの道悲劇は避けられない。


 なら僕はどうすればいいのだろうか。意図しない住み分けができていたのに、病気が治って日本人客まで吸着してしまったら、近所のカフェの何割かは廃業の恐れがある。


 これは僕のせいなのか……それとも自然淘汰なのか。ずっとこのままでもいいのかもしれない。


 ふと、このことをラジオで拓也に話してみることに。


「だからさー、このままでいい気もしなくはないんだよなー」

「店が潰れるかどうかは客が決めることやで。あず君がどう立ち回ったところで、潰れた時点でそれがその店の寿命やねんから、誰のせいでもないで」

「そうか?」

「仮にそれであず君を恨む奴が出てきたら、俺がとっちめたるわ」

「ほんとぉ~?」

「かっ、可愛いな……任しとけって。これもあず君のためや。安心して治療しいや」


 背中を押された僕は、日本人恐怖症の本格的な治療を続行することに。


 この国で競争に負けた者は、健康で文化的な最低限度の生活すら保障されない。障害者の人権は保護するくせに、無職へと追いやられた人の人権は当たり前のように無視する。かつて親父の会社が倒産して無職に追いやられた時も、会社が潰れてライバルがいなくなったことで儲かった企業の人もいれば、親父のように生活保護すら受けられずに貧困生活を強いられた者もいる。


 僕はその影響で一般的な子供であれば受けていたはずの恩恵を受けられなかった。外食も、旅行も、娯楽も……ほとんど行けなかった。毎日の飯も質素なものだったし、コーヒーを淹れて飲む以外の楽しみがなかった。僕はそれらの恩恵を自力で取り戻そうとしていた。外に遊びに行く機会が増えた。大人でありながら無意識の内に少年時代をやり直そうとしていた。これは競争社会がもたらした弊害である。競争に勝つことは誰かの生活を奪うことだ。マジでこんな社会はうんざりだと心底思った。


 この国の連中は、今の社会に度々出てくる『無敵の人』に対して文句を言う資格はない。


 僕が意図せず競争に勝ち続けたら、昔の僕や親父みたいな人がたくさん出てくるんじゃないかという懸念があった。競争に負けた人にも最低限の生活くらいは保障してほしい。敗者の痛みが分かるのか、ついついこんなことを考えてしまうのだ。拓也が背中を押してくれなかったら、日本人規制法を改正しようとは思わなかっただろう。このラジオ自体にも多少の治療効果があった。


 自分の思っていることを吐き出している内に、日本人恐怖症の症状が幾分か緩和されていた。それもあって1人での外出は昔と変わらないくらいにできるようになった。


 この年からは拓也と話す目的で、単独での生放送を始めたが、初回から拓也以外にもたくさん人が視聴しており、同時視聴者数が毎回1万人以上いたからびっくりだ。会話はいつも相手のコメントに僕と拓也が言葉で返す内容だ。拓也としか話さないように意識していたが、いつの間にか数で押され、他の日本人との会話になってしまう。時々生放送にチャットでやってくる真由とも話していた。


 生放送も顔出しでやるため、よく女と間違われた。視聴者たちが言うには、そこらの女よりずっと可愛いらしい。初見で僕を男と見抜けた人は1人もいなかった。男として複雑である。


 一応自認の性も体の性も男で、性的対象は女であると伝えておいた。


 外から岐阜市へとやってきた外国人観光客は、ほぼ例外なくうちの店に吸着される。彼らがうちに来るのは僕目当てだ。特にバリスタを目指す人や既にバリスタとして働いている人が多かった。僕にアドバイスを求めるためだけに、わざわざ北欧や南米から来る者もいた。だがうちに来た後はあっさり東京や大阪へと行ってしまう。それくらい岐阜市には何もないと思われているということだ。


 5月下旬、僕はWSBC(ワスボック)に出場するべく、店を営業する一方で、シグネチャーの研究を始めることに。そこに興味津々な目をしている唯が話しかけてくる。


WSBC(ワスボック)って、どんなコーヒーを作るんですか?」

「インスタントコーヒーを使ったシグネチャーを作る大会だ。会場にある食材を使うことになるから、今回はみんなと同じ条件で戦うことになる。言い訳なんて通用しない。もしここでファイナリストになれないなら、バリスタオリンピックで勝つのは難しいだろうな」

「バリスタオリンピックの本戦は見に行くんですか?」

「一応な。あれを間近で見るのはトップバリスタの義務だ。あの大会は僕ですら予選落ちしかねないくらいの猛者が山のようにいる。他の大会の歴代チャンピオンが挙って参加する大舞台だし、テレビで何度も見たから覚えてる」

「まさにバリスタ競技会の集大成なんですね」

「そゆこと。次は4年後だし、それまでにコーヒーを究めてみせる」


 いつものように、エスプレッソ、カプチーノ、ドリップコーヒーを客に提供するのだった――。


 季節は変わり、6月がやってくる。


 これから天変地異がやってくるのかと思わせるように、快晴と梅雨を繰り返しながら段々と暑くなっていく。僕は21歳になっていた。20歳をピークに、以降の誕生日はあまり楽しくなくなった。何故か配達でプレゼントがいっぱい届いていた。璃子が言うには、ファンからのプレゼントらしい。この年からはバレンタインデーの時も家に大量のチョコレートが届くようになった。


 誕生日プレゼントも今までの量を遥かに超えていた。


 去年のWCTC(ワックトック)が終わってから僕の名声が臨界点を超えたと拓也が言ったが、この意味がようやく分かった。チョコはちょこっとだけ貰って、残りは璃子と優子にあげると、璃子も優子もプライベート用チョコの材料として使っている。ほとんどは再利用可能な板チョコだ。誕生日プレゼントも某呟きサイトで欲しいと呟いていたものが全部揃っていたが、いくつかはダブっている。


 この時、僕は初めて熱狂的なファンがいることを自覚した。


「何を作ってるんですか?」

「パイナップルとマンゴーを使ったドリンクだ。分量は少しだけど、これだけでも十分に甘味と酸味を出すことができる」

「ハワイ名物ですね」

「コーヒーは全部市販のインスタントコーヒーを使う決まりになってるし、片っ端からコナブレンドを買ってきた。集めるのが大変だったなー」

「……これ全部試すんですか?」

「もちろん」

「バリスタって……大変なんですね」


 唯が青褪めた表情で数種類あるコナブレンドのコーヒーを見つめている。


 WBC(ダブリュービーシー)の時に比べれば、そこまで難しくはない。


「あの、私をサポーターとしてハワイに連れて行ってくれませんか?」

「いいぞ。去年もサポーターしてくれたし」

「はい。あず君の優勝に貢献できるよう頑張りますっ!」

「お兄ちゃん、これからは唯ちゃんを専属サポーターにしたら?」

「そうだな。璃子には優子という専属サポーターがいるし。よろしく頼むぞ」

「はいっ! 私、どこまでもあず君についていきます」


 唯がプロポーズとも受け取れる言葉を放つと、店の営業中であることも忘れて僕に抱きついてくる。


 一通り注文の品を提供した後はしばらく余裕ができる。彼女が一緒に住むようになってからは抱きつかれる機会が増えた。イギリスで幼少期を過ごしていた影響だろうか。


「璃子、僕がハワイから戻ってくるまでマスター代理だけど、できるか?」

「うん、できるよ」


 璃子がいつになく自信満々の笑顔で答える。マスターやってみたかったのかな?


「ホントかなぁ~?」

「お兄ちゃんに心配されるなんて、私も落ちたもんだね」

「ふふふふっ、だーいじょーぶだって。璃子はあたしがサポートするから。それにリサやルイだっているんだから、何とかなるって」


 誰かに店を任せるのは、葉月珈琲創業以来初めての出来事だ。


 客足は減るだろうが、作業はしやすくなるだろう。リサもルイも店の作業には慣れていたが、コーヒーの提供は璃子の担当だ。戻ってくるまで修業はできそうにない。エスプレッソやドリップコーヒーの淹れ方は全員に教えた。ここで経験させてやらねば、僕の代わりが務まる人は当分出てこないだろう。


 経験が浅いは先送りにしていい理由にはならない。


「分かった。璃子、店は任せたぞ」

「うん。安心して大会に臨んでね」

「去年までは大会の時はお店休んでたんだっけ?」

「そうだな。璃子1人じゃ不安だったけど、大会中でも店が回せるようになれば進歩だ」

「マスターって何すればいいの?」

「役割分担の指揮とか、最後の戸締まりとか、何かあった時に責任を取るとか。まあ璃子にはちょっと荷が重いかもしれねえけどな」

「それくらいできるもん。私がマスターしてるところを見られないなんて、不憫だなって言われるくらいのマスター代理にはなってみせるから」


 璃子が意地を張るように実行宣言をする。


 心配が拭いきれなかった僕は、渡航直前の数日間、璃子と立場を入れ替えて様子を見ることに。璃子は見事にマスター代理の仕事をこなしている。ずっと心配していたが、これは杞憂だったようだ。


 6月中旬、安心した僕と唯は璃子たちに店を任せ、ハワイへと渡航する。


 唯は僕の隣に座り、楽しそうに話しながら到着を待った。自営業時代は大会の度に店も休む必要があったが、もう安心だな。僕じゃなくてもメニューを一通り作れるようにはしているが、きっと何とかなるだろうと思っていた。しばらく寝ていると、渡航便の中でハワイ到着のアナウンスに起こされた。


 大会3日前、ホノルルに降り立った。


 ハワイの中心地であり、海に囲まれた東京のような場所だ。空港から降りてチェックインを済ませると地元の人から訛りのある英語で声をかけられた。


「大会頑張ってね」


 ハワイの住民から気さくに声をかけられるとは思わなかった。


「……うん、ありがとう」


 遠慮がちに返事をする。しばらくはスーツケースを引っ張りながらホノルル市内を満喫する。会場の下見に行くと、大会で使われる予定のものばかりが置かれていた。この日は大会のリハーサルの日だ。僕は大会で使える材料を入念に確認していた。僕が渡航する情報は既に広まっていた。僕らは地元のファンにお勧めのカフェに案内され、ハワイ産のコナコーヒーを飲んでいた。コナコーヒーはシングルでもブレンドでも何度か飲んだことがあるけど、地元の味もまた格別だ。


 コナコーヒーはシングルだと高価であるため、基本的にはブレンドが主流である。


 次のバリスタオリンピックまであと4年。この4年で並みいる強豪に勝利するべく、色んなバリスタの大会に出場し続けることを決意する。ここからが正念場だ。負ける気なんて毛頭ない。


 後悔している暇があるなら行動しろと……自分自身に言い聞かせた。

気に入っていただければブクマや評価をお願いします。

ワールドシグネチャービバレッジカップは架空の大会です。

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