病院サイクル
あぁ、これは夢なんだ。
不意にそう確信した。薄暗い廊下は果てしなく続き、非常灯が点々と光を滲ませている。
「早く目、覚めてくれないかな」
どこか他人事のように呟いた声は静寂の建物内に響き、不気味な余韻を残して消えた。
ここは、病院だ。それを知っていた。だってこれは夢だから。前にも見たことがある、そんな気がした。
つんとした消毒液の匂いが鼻をさす。ゆっくりと歩き出した。目的の場所も分かっている、前回と同じ突き当たりの病室、302号室。
行かなければならない。
背後で静かな物音がした。波紋が広がるように、ぞわりと震えが走る。
すっ――――すぅっ――――。
近づいてくるのか? いや、違う。ぴったり同じ速度で、私に付いて来ている。
もう少し、もう少し……。すぐそこに、ドアが見えている。右上には掠れた文字で、302。
すっ――――。
不気味な音に急かされるように伸ばした指が、取っ手を掴んで、そして……。
力一杯引き開けた瞬間、激しい恐怖と後悔に襲われる。
またやってしまった。このドアは、絶対に開けてはいけなかった……!!
ドアの向こう、のっぺりとした闇の中、それでも私には分かる。そこには――。
ピピピピ、ピピピピ、ピピ――。
遠くで何かが鳴っている。
ピピピピ、ピピピ――。
あぁもう、うるさいな!
ようやくそれが目覚まし時計の音だと理解した。腕を伸ばし、バチンと時計を叩く。ふと既視感を覚えたが気のせいだろう。
いつも通りの支度を終え、定刻に家を出て学校へ。何の変哲もない日常だ。
ただ、今日は1つだけ違うことがある。学校で行った健康診断で再検査を要求されたのだ。学校帰りに病院に行かねばならない。病院のあの匂いは結構好きだったりするのだが、それでも面倒なことに変わりはなかった。
待合室で名前が呼ばれるのを待つ。そういえば、何の検査をするのか聞いていなかった。血液検査だったら嫌だなぁ。
「東城さーん」
名前を呼ばれ、人気のない廊下を進んだ。看護師が1つのドアを開け、招き入れてくれる。
すっ――。
そんな音が微かに聞こえたような気がしたが、振り返る前にドアは閉められてしまった。にっこりと微笑みを貼りつけた看護師に促され、部屋の中央にある椅子に座る。目の前の白衣を着た男性が口を開く。
「 」
気がつくと、辺りは暗くなっていた。見回すと前にも後ろにも長い廊下が続いている。
あぁ、これは夢なんだ。
不意にそう確信した。薄暗い廊下に非常灯が点々と光を滲ませている。
「またこれか……」
どこか他人事のように呟いた声は静寂の建物内に響き、不気味な余韻を残して消えた。
ここは、病院だ。私は検査を受けに来たはずだと思うのだが、いつの間に夜になったのだろう?
夢なのだ、細かいところは考えない方がいい。この夢は前にも見たことがある、そんな気がした。
つんとした消毒液の匂いが鼻をさす。ゆっくりと歩き出した。目的の場所も分かっている、前回と同じ突き当たりの病室、302号室。
行かなければならない。
背後で静かな物音がした。波紋が広がるように、ぞわりと震えが走る。
すっ――――すぅっ――――。
近づいてくるのか? いや、違う。ぴったり同じ速度で、私に付いて来ている。
もう少し、もう少し……。すぐそこに、ドアが見えている。右上には掠れた文字で、302。
すっ――――。
不気味な音に急かされるように伸ばした指が、取っ手を掴んで、そして……。
開けていいの?
そんな疑問がふと浮かんだ。しかし、開けるしかない。だってほら、あの音がもうすぐそこまで……。
すぅぅっ――――!!
これ以上は耐えられず、力一杯ドアを引き開けた瞬間、激しい恐怖と後悔に襲われる。
またやってしまった。このドアは、絶対に開けてはいけなかった……!!
ドアの向こう、のっぺりとした闇の中、それでも私には分かる。そこには――。
ピピピピ、ピピピピ、ピピ――。
遠くで何かが鳴っている。
ピピピピ、ピピピ――。
あぁもう、うるさいな!
ようやくそれが目覚まし時計の音だと理解した。腕を伸ばし、バチンと時計を叩く。前にもこんなことがあったような気がするが、気のせいだろう。
いつも通りの支度を終え、定刻に家を出て学校へ。何の変哲もない日常だ。
ただ、今日は1つだけ違うことがある。学校で行った健康診断で再検査を要求されたのだ。学校帰りに病院に行かねばならない。病院のあの匂いは結構好きだったりするのだが、それでも面倒なことに変わりはなかった。
最近よく病院に行っている気がする。そういえば今日の夢……あれ、思い出せない。
しばらく考えてみたが、どんな夢だったのかすら全く思い出すことができなかった。
待合室で名前が呼ばれるのを待つ。今日は医師による診断だけらしいが、一体何が悪かったのだろう。今まで病気らしい病気はしたことがないのだが。
「東城さーん」
名前を呼ばれ、人気のない廊下を進んだ。看護師が1つのドアを開け、招き入れてくれる。
ドアが閉まる直前、ふと振り返ったがそこにはもう誰の姿もなかった。
部屋の中央にある椅子に座る。目の前の白衣を着た男性が徐に口を開いた。
「…………まだ続けるんですか?」
何のことだ? 一体何を続けると――。
鋭い頭痛がした。
きつく目を瞑り、もう一度開いたとき辺りは暗くなっていた。いつの間にか一人廊下に立っている。
これは夢、なんだ。言い聞かせるように何度もその言葉を繰り返す。
また暗い廊下を歩いた。突き当たりのドア、右上には掠れた文字で302。
開けてはいけない、でも開けなきゃいけない。ここは……。
夜の病院をふらふらと徘徊する人影がある。彼女は心を病んでしまい、1ヶ月前から入院している302号室の患者だ。
学校生活を送れなくなり入院したはずだったが、今でも毎日「自分は学校に行っている」と思い込んでいるようだ。
入院しているという事実を伝えると彼女はそれを頑なに否定し、ベッドに潜ってしまう。そして、夜中になると目的もなく病棟内を歩き回るのだ。腕に点滴を刺したまま。